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大相撲観戦、ゴルフ、炉端焼きと必死で「おもてなし」をしたのに、なんの効果もありませんでした。
いや、効果がないどころか逆効果でした。

トランプ大統領は6月26日に放映されたテレビのインタビューで「もし日本が攻撃されれば、われわれは第3次世界大戦を戦うことになり、命を懸けて日本を守る。しかし、もしわれわれが攻撃されても日本はわれわれを助ける必要は 全くない。彼らはソニー製のテレビでそれを見るだけだ」と、安保体制はアメリカに不利だと主張しました。

24日にはツイッターで「中国は原油の91%、日本は62%、他の多くの国も同様に(ホルムズ)海峡から輸入している。なぜ、われわれが他国のために無償で航路を守っているのか。これらの国は、危険な旅をしている自国の船を自らで守るべきだ」と言いました。

ブルームバーグの25日の報道では「トランプ米大統領が最近、日本との安全保障条約を破棄する可能性についての考えを側近に漏らしていたことが分かった」「トランプ大統領は沖縄の米軍基地を移転させる日本の取り組みについて、土地の収奪だと考えており、米軍移転について金銭的補償を求める考えにも言及した」ということです。

安倍首相はせっせとトランプ大統領と個人的な関係を築いてきたのに、トランプ大統領はますます日本に冷たくなるとは、なんとも皮肉なことです。

人間は人になにかしてもらうと、「贈与の一撃」という言葉があるように心理的負債が生じ、お返しをしなければという気持ちになるものです。したがって、接待攻勢をかけるのは、一般的に有効なやり方です。
しかし、トランプ大統領にそういう通常の神経回路はありません。人間関係はすべて「取引」です。
来日して国賓としてもてなされたことも、トランプ大統領にすれば、「アベがぜひ来てくれというから、来てやった」と、むしろ恩を売ったぐらいに思っているはずです。

徹底的な自分ファースト、アメリカファーストの人間に「お返し」や「温情」を期待した安倍首相の戦略が間違いでした。

トランプ大統領は通商交渉でも要求を強めていますが、こちらは数字で表現されるのでそれほど一方的な要求はできませんし、交渉がまとまるまでに時間もかかります。
しかし、安全保障分野については、トランプ大統領が頼みさえすれば安倍首相はすぐにF35戦闘機もイージスアショアも買ってくれます。
安倍首相は安全保障については完全にアメリカに依存しているからです。
トランプ大統領はそこを見抜いて、安保条約を破棄するとか、ホルムズ海峡を自分で守れとかと、攻勢をかけてきているのでしょう。


それに対して安倍政権はなんの反論もしないので、言われっぱなしです。
菅官房長官は日米安保体制について「全体として見れば、日米双方の義務のバランスは取れていると思っている」と言いましたが、ただの一般論です。トランプ大統領は具体的に主張したのですから、反論も具体的でないといけません。
たとえばトランプ大統領が「ホルムズ海峡は自分で守れ」と言ったことに対しては「アメリカ軍が中東からいなくなれば、自分で守ることを考えるかもしれない」とか、「日本が攻撃されればわれわれは日本を守るのに、アメリカが攻撃されても日本は見ているだけだ」と言ったことに対しては「強い者が弱い者を守るのは当然だ」とか言えばいいわけです。

いや、トランプ大統領が「アメリカが攻撃されても彼らはソニー製のテレビでそれを見るだけだ」と言ったのは、日本への侮辱です。トランプ大統領は日本を侮辱することで強い大統領を演出して人気を得ようとしているのですから、ここは安倍首相が登場して「ソニー製のテレビがいかに優秀でも、アメリカが他国から攻撃されて日本に助けを求めるみじめな姿を映すことはできない」とでも言うべきです。
もっとも、安倍首相にそんなことは言えません。トランプ大統領に完全にマウントポジションを取られているからです。

そもそも安保条約は、アメリカが日本に軍事基地を置く必要性から結ばれたものです。アメリカと日本は圧倒的強者と弱者の関係ですから、アメリカが日本を守るのは当たり前のことで、逆のことは考えもできません。
ところが、日本国内に安保反対の声が強いので、自民党は「安保のおかげで日本は軽武装ですんで、経済発展できた」と国民に言い続けてきました。国民に言っている限りは問題ありませんが、愚かにもリップサービスのつもりでアメリカにも言うようになり、そのためアメリカで「安保ただ乗り論」が生まれて、日本が「見返り」を要求されるようになってきたのです。
今でもアメリカは圧倒的強者ですから、日本は「強い者が弱い者を守るのは当然」と言っていればいいのです。

新安保法制のときは集団的自衛権について議論されましたが、集団的自衛権においても強い者が弱い者を守るのが基本ですから、日本がアメリカを守ることを議論するのは時間のむだでした。


ともかく、トランプ大統領に「お返し」や「温情」を期待するのは間違いで、これからは「取引」や「交渉」をしなければなりません。
トランプ大統領は「安保破棄」という交渉カードをちらつかせてきました。
それに対して菅官房長官は「日米同盟は我が国の外交安全保障の基軸だ」といういつもの言葉を繰り返しました。
これでは「安保破棄」という相手のカードがオールマイティになってしまいます。

日本は当然「安保破棄やむなし」というカードを用意して交渉に臨まなければなりません。
これはもちろん言葉だけではなく、実際に腹をくくるということです。

トランプ大統領のおかげて日本政府も日本国民もようやく独立国としての気概が持てるかもしれません。