菅首相一月
官邸ホームページより

菅義偉首相は1月7日、緊急事態宣言を発出することを表明しましたが、例によって後出し、小出しの対策です。

すでにいろいろ批判されていますが、根本的な問題として、菅首相は平気で会食を続けていたように、新型コロナウイルスに対する危機感がないのでしょう。

それから、首相就任時に「感染症対策と経済の両立」と言ったのも問題でした。
感染症対策は入院や隔離生活みたいなもので、元気に働くこととは両立しません。
最初に入院して十分な治療を受けて、健康体になってから働く――つまり徹底した感染症対策で台湾やニュージーランドみたいに完全に抑え込むのが、経済を回すための正しいやり方でした。
あるいは、アメリカやブラジルやスウェーデンみたいに経済を止めないというやり方もあるかもしれません。その場合は感染者が増えるので、医療崩壊しないように医療体制を徹底的に強化することが必要です。
日本は感染症の抑え込みが中途半端だったために感染の拡大を招き、医療体制の強化も中途半端だったために、医療崩壊の危機に瀕しています。
菅首相が「感染症対策と経済の両立」という間違った目標を立てたのが最大の失敗です。


私は菅首相のキャラクターや発想法に興味があって、菅首相の記者会見を改めて見てみました。

菅首相の記者会見の動画と書き起こし文は、官邸ホームページで見ることができます。

令和3年1月7日 新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見

菅首相はいつものように原稿棒読みですし、記者との質疑応答もあらかじめ決められていたのが明らかです。

緊急事態宣言とまったく関係ない質問をする記者がいました。2月にバイデン次期米大統領に会うときに核兵器禁止条約にどのような方針で臨むかという質問です。
これに対して菅首相はほとんど下を向いて紙を読みながら答えていました。
つまりこの記者が指名されて、この質問をすることは決まっていたのです。
ほかに「感染症対策をする上で“憲法の壁”みたいなものを感じることはないか」という質問をする記者もいて、菅首相はやはり紙を読みながら答えていました。

国民は緊急事態宣言について知りたいと思っているのに、官邸と記者がなれ合って、時間つぶしの応答をしているのです。

細かいことですが、菅首相は冒頭発言の最後に「今一度ご協力を賜りますことをお願いして私からの挨拶とさせていただきます」と言ったので、「記者会見は挨拶だったのか」とか「パーティと勘違いしている」などのつっこみが入っています。
ここだけ原稿から目を離して自分の言葉でしゃべったようです。

細かいことついでにもうひとつ言うと、会見の最後で秘書官が「次の日程がございますので」と言って会見を終了させたのですが、「日程」というのは「一日の予定」のことですから、ここは「次の予定」というのが正しい日本語です。
安倍首相のときに、むりやり会見を打ち切るのに秘書官が「外交日程があるので」とデタラメを言って、それが慣習となって「日程」という言葉が使われるようになったのですが、官邸のスタッフが日本語を乱してはいけません。


緊急事態宣言についてわからないことがいっぱいあります。
これは、菅首相自身が感染症対策のことをよくわかっていないということもありますが、菅首相がわざとわかりにくくしているということもあります。

菅首相は1月4日の年頭記者会見で、「国として緊急事態宣言の検討に入ります」と表明しました。
「検討に入る」であって、「宣言する」とは言っていないのです。
ただ、このときの報道は宣言することを前提としたものばかりでしたし、実際に宣言はなされました。
つまり菅首相は、ほんとうは宣言することを決めているのに、「検討に入ります」という言い方をしたのです。

「宣言することを決めました。7日に具体策を発表し、8日から実施します」と言えばわかりやすく、国民も心構えができますし、企業もリモートワークの段取りなどができます。
「検討に入ります」という言い方では、国民は宣言しないかもしれないと思って不安になりますし、準備もできません。

しかし、これこそが菅首相のねらいです。
ぎりぎりまで決定を延ばすことで周囲を振り回し、自分に決定権があることを思い知らせるのです。


緊急事態宣言の期間は1か月後の2月7日までとされましたが、誰も1か月で終わるとは思わず、どこまで感染が減少すれば解除になるのかが気になるところです。
ある記者も「取り組む国民の一体感のためにも、科学的な数値目標を示すことが必要ではないか」と質問しました。
しかし、菅首相も尾身茂会長も具体的な数値は言いませんでした。
西村担当相は、緊急事態宣言解除の基準として東京都で新規感染者数が500人以下という数字を示しましたが、首相が同調しないのではあまり意味がありません。

つまり全国民が緊急事態宣言はいつどうなれば解除されるのかわからないという状態に置かれているのです。
これも菅首相の意図したものです。
宣言の解除を決めるのは菅首相なので、全国民が菅首相の意向に振り回されるのです。


緊急事態宣言は一都三県が対象で、大阪や愛知は対象外です。
一都三県の感染者数が多いといっても、それほど違うわけではなく、これもわかりにくいところです。

菅首相は4日の年頭記者会見のときから一都三県、とくに東京都が飲食店の営業時短をしなかったことが問題だと、しつこいくらいに述べています。

12月の人出は多くの場所で減少しましたが、特に東京と近県の繁華街の夜の人出はあまり減っておりませんでした。
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1都3県について、改めて先般、時間短縮の20時までの前倒しを要請いたしました。
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北海道、大阪など、時間短縮を行った県は結果が出ています。東京といわゆる首都3県においては、三が日も感染者数は減少せずに、極めて高い水準であります。1都3県で全国の新規感染者数の半分という結果が出ております。
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北海道、大阪など、これは時間短縮、こうしたことを行った県では効果が出て、陽性者が下降してきております。ただ、東京とその近県3県が感染者が減少せずに高い水準になっているということもこれは事実であります。
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まず、東京都とその近県で12月の人出があまり減らなかったということです。また、三が日も感染者数は減少しないで、極めて高い水準になっている。
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全国でこの2週間、1都3県だけで約半分になっています。こうした状況を見て、政府として、4人の知事の要望も判断の一つの要素でありますけれども、全体として見れば、やはり首都圏だけが抜きん出て感染者が多くなってきている。ここについて危惧する中で行っていきたい。それで判断をしたということであります。
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2021/0104kaiken.html
菅首相の狙いは“分断支配”です。
支配下を「よいグループ」と「悪いグループ」に分けて、競わせようというわけです。

実際のところは一都三県だけに問題があるわけではなく、大阪や愛知も感染者が増加しています。
菅首相がむりやり分断しているだけです。

菅首相はGoToトラベルを開始するときも東京都発着だけ除外するということをして、「わかりにくい」と批判され、混乱を招きましたが、これも得意の“分断”でした。


また、決定がつねに“唐突”です。
GoToトラベルの開始は、当初は8月中旬が予定されていましたが、7月10日に突然7月22日から実施すると発表され、準備不足から混乱が起きました。
そして、GoToトラベルを一時停止するときも、菅首相は12月11日にニコニコ動画において「まだそこは考えていません」と言ったのに、政府は14日夜に28日から全国一斉に停止すると発表しました。このときも準備不足から混乱が起きました。


菅首相の権力行使のやり方は「説明せず、分断し、唐突に」決定するというものです。
なぜそんなやり方をするかというと、自分の権力を最大化するためです。
菅首相の周りはつねに振り回されます。そうならないようにするには菅首相の意向を忖度して先回りしなければなりません。


新聞読み芸人のプチ鹿島氏は菅首相の『政治家の覚悟』という本を読んで、「話題の菅総理本『政治家の覚悟』をプチ鹿島が読んでみた…収録されている“実はヤバい部分“とは?」という記事を書いていますが、その中で菅首相のことを「権力快感おじさん」と名づけています。
菅首相は気に入らない部下や自分に逆らった部下を更迭した体験を自慢げに書いていて、そうした権力行使に快感を感じているというのです。

日本学術会議の6人の任命拒否問題も、菅首相にとっては快感なのでしょう。


宣言解除の具体的な目安が示されれば、国民もやる気が出ますが、そうすると首相の裁量の余地が狭くなります。
菅首相が権力の快感を味わうために、国民は分断され、五里霧中の歩みを強いられているというわけです。