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どう動くかわからないトランプ大統領の外交ですが、よく観察すると一貫性があります。
好きな国と嫌いな国、好きな指導者と嫌いな指導者がはっきりしているのです。

大阪でのG20が終わるとトランプ大統領は韓国に飛び、非武装地帯で北朝鮮の金正恩委員長と首脳会談を行いました。
6月29日にトランプ大統領がツイッターで金委員長に提案し、それで急遽会談が実現したということです。まさに電撃的な会談です。

米朝関係は、昨年6月のシンガポールでの首脳会談はうまくいき、今年2月のハノイでの会談は決裂し、そして今回の会談はうまくいったということで、まったく一貫しないようですが、そうではありません。ハノイでの決裂がイレギュラーだったのです。

トランプ大統領は一貫して金委員長に好意的で、米朝関係を改善しようと思っています。
しかし、アメリカ政府内でそんなことを考えているのはトランプ大統領だけです。側近は全員が反対です。北朝鮮が非核化を実行するとは信じがたいことですし、かりにすべてうまくいって朝鮮半島が平和になるのもアメリカにとって好ましくないからです。
ですから、トランプ大統領の強引さだけで米朝関係は牽引されていました。

ハノイでの会談は2月27日、28日に行われましたが、27日は会談、夕食会が順調に進行し、トランプ大統領は「あすは忙しくなる。多くのことが解決されると期待している」と語りました。しかし、28日は、首脳会談は30分で終わり、そのあと予定になかったポンペオ国務長官らを含めた拡大会合になり、そして、昼食会と署名式は中止となりました。
つまり27日と28日の間になにかがあったのです。なにがあったかというと、米下院の公聴会でトランプ氏の元顧問弁護士だったマイケル・コーエン氏が証言したこと以外にありません。

コーエン氏は10年間もトランプ大統領の顧問弁護士を務めた腹心で、トランプ大統領の裏側を知り尽くしています。そのコーエン氏が議会証言でトランプ氏のことを「人種差別主義者、詐欺師、ペテン師」とののしり、ポルノ女優への口止め料支払いを依頼されたこと、選挙期間中もモスクワにトランプ・タワーを建設しようとしていたこと、納税額を少なくするために資産を過少報告したことなどを証言しました。これはテレビ中継され、トランプ大統領もハノイのホテルで夜中に中継を見ていたようです。28日の朝の会談冒頭には「終始、疲れた表情を浮かべ」と朝日新聞に書かれています。
トランプ大統領が精神的に落ち込んだ瞬間を狙って、側近が一気に巻き返しをはかり、会談を決裂に持ち込んだのです。

多くの人はなぜ急に会談が決裂したのか理解できていませんが、あのときのコーエン証言がアメリカ国内でビッグイベントで、トランプ大統領の弾劾の可能性まで言われたことからすれば、十分にありうることです。

トランプ大統領は一時的に落ち込みましたが、すぐに回復し、そうすると米朝会談を決裂させたことを後悔し、修復をはかろうとしました。しかし、親書の交換はできても、側近は次の米朝会談のおぜん立てをなかなかしてくれません。そこで、大阪のG20のあと韓国へ飛び、自分でツイッターで金委員長に呼びかけて、今回の非武装地帯での会談を実現させたというわけです。

トランプ大統領がいかに金委員長を気に入って、米朝関係の改善を重視しているかが、今回の電撃会談実現でよくわかります。


トランプ大統領は好き嫌いがひじょうにはっきりした人間です。
そして、この好き嫌いは一貫して、ほとんど変わることがありません。
外交というとなにか戦略があるようですが、トランプ大統領の外交はすべて好き嫌いで動きます。
たとえばイラン核合意からの離脱は、イラン嫌いと、核合意を主導したオバマ大統領嫌いから決定され、それ以外の理由はありません。

トランプ大統領は金委員長のほかにプーチン大統領も好きです。ただ、ロシアがアメリカ大統領選挙に介入したという疑惑があるために、それほど仲良くすることはできませんが、好意を持っていることはトランプ大統領の言動のはしばしにうかがえます。
米中は現在、貿易戦争を演じていますが、トランプ大統領はもともと習近平主席に好意的でした。ですから、米中貿易戦争はいつ終結しても不思議ではありません。

北朝鮮、ロシア、中国と、本来はイデオロギー的にアメリカと対立するはずの国ですが、トランプ大統領はむしろ好意的です。よほど天邪鬼な性格なのでしょう。

もっとも好きな国は、イギリスとイスラエルです。これはアメリカの歴史からして当然です。

では、トランプ大統領が嫌いな国はというと、いっぱいあります。たとえば隣のメキシコです。カナダもあまり好きではありません。近隣国ではキューバはとくに嫌いです。

NATOの国も、イギリス以外のドイツ、フランス、トルコは嫌いです。
好き嫌いに同盟関係は関係ないようです。

イスラム圏の国はどこも嫌いです。中でもイランが嫌いなのは、過去のアメリカとの対立関係を考えると不思議ではありません。サウジアラビアは、利用価値があるので、嫌いの感情を出さないようにしているのでしょう。


では、日本はどうかというと、もちろん嫌いです。
トランプ大統領は大統領になる前から日本を繰り返し槍玉にあげていました。

「日本の科学者は車やVTRを作り、アメリカの科学者は日本を守るためのミサイルを作っている」 
「日本人はウォール街でアメリカの会社を買い、ニューヨークで不動産を買っている。(中略)どうみても彼らはこちらをコケにするためだけに法外な金額を払っているとしか思えない」(米プレイボーイ誌1990年5月号)

「日本は我々に親切ではありません。何十万台、何百万台ものコンピューターや車などを売りに来ますが、日本人は我々に食料を売らせません」(2014年の英デイリーメール紙のインタビュー)

「日本は米国に何百万台もの車を送ってくるが、東京でシボレーを見たことがありますか? 我々は日本人には叩かれっぱなしだ」
「中国、日本、メキシコから米国に雇用を取り戻す」(今年6月16日にニューヨークのトランプタワーで開かれた出馬表明演説)
http://1000nichi.blog73.fc2.com/blog-entry-7367.html

しかし、安倍首相と会って、利用価値のある存在と気づいたようです。安倍首相は大量の防衛装備品を買ってくれますし、ノーベル平和賞の推薦もしてくれます。
しかし、日本嫌いが日本好きに変わるということはありません。安倍首相を利用しているだけです。

ちなみに、トランプ大統領は数日前に「アメリカが攻撃されても日本人はソニーのテレビでそれを見ているだけだ」と安保条約の不公平性を指摘する発言をしましたが、今回検索していると、大統領選のときにもまったく同じ発言をしていたことがわかりました。トランプ大統領の頭の中は今も昔も変わりません。

安倍首相も日本国民も、トランプ大統領から好かれようという気持ちを捨てなければなりません。
安倍首相はむしろトランプ大統領にきびしい態度で臨んだほうがうまくいくのではないでしょうか。