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官房長官時代は有能だと言われ、首相になると無能だと言われ、ピーターの法則を地でいっている菅義偉首相です。

ちなみにピーターの法則というのは、課長のときは有能だった人間も、部長に昇進すると普通になり、役員に昇進すると無能になるというように、人間の器の大きさとポストの大きさの関係から、小さなポストで有能な人間は必然的に出世するので、世の中のあらゆるポストは次第に無能な人間によって埋め尽くされていくという法則です。
この法則は、人間の成長も世代交代も無視しているので、冗談と受け止めるべきですが、いくらかの真実は含んでいます。

昨年9月、首相就任の記者会見を見ていると、菅首相があまりにも弱々しく、不安そうな表情を浮かべているので、私はこの人に首相が務まるのかと心配になりました。
しかし、官房長官時代の実績から、そんな弱々しい人間のはずはなく、私の感覚がおかしいのかもしれないと思いました。
それに、首相就任直後ということもあります。経験を積めば首相らしくなるかもしれません。


ところが、そのあと日本学術会議任命拒否問題や新型コロナウイルス感染対策問題、それに「ガースーです」とあいさつしたのが批判されたことなどもあって、菅首相はますます弱々しくなりました。
体調にも問題があったのでしょう、せきが止まらず、声がかすれるということがあり、1月25日には野党議員から「体調はいかがですか」と聞かれ、「のどが痛くて声が出ないだけで、いたって大丈夫です」と答える場面もありました。

もともと菅首相は国民に向けて発信するのは得意ではないのですが、元気がなくなるとますます発信力が低下します。

そして、27日の参院予算委員会で立憲民主党の蓮舫議員の質問に対して菅首相が「少々失礼じゃないでしょうか」と反論する場面があり、このところ低姿勢で謝罪することの多かった菅首相だけに、この場面がマスコミにずいぶんと取り上げられました。

『「人間として未熟」「SNS気にしすぎ」 蓮舫氏の「糾弾型」質問、「サンジャポ」でも論議』という記事から、その場面を引用します。

 参院予算委では自宅や宿泊先で療養中に死亡した人が20年12月1日から21年1月25日にかけて29人いたことを受ける形で、蓮舫氏が

「総理、その重み分かりますか?」

と菅氏に発言を求めた。菅氏が「そこはあの、大変申し訳ない思いであります」と答弁すると、蓮舫氏は「もう少し言葉はありませんか?」と矢継ぎ早に質問。菅氏は「心から申し上げましたように、大変申し訳ない思いであります」と繰り返した。この答弁姿勢を、蓮舫氏は

「そんな答弁だから、言葉が伝わらないんですよ!そんなメッセージだから、国民に危機感が伝わらないんですよ!あなたには総理としての、自覚や責任感、それを言葉で伝えようとする、そういう思いはあるんですか?」

と語気を強めて非難した。蓮舫氏の追及に、菅氏は「少々失礼じゃないでしょうか」とし、続けて

「私は少なくとも総理大臣に昨年の9月16日に就任してから、何とかこのコロナ対策、1日も早い安心を取り戻したい。そういう思いで全力で取り組んできたんです」

などと取り組みの姿勢を強調した。
蓮舫議員の質問はそれほど失礼だったのかは、実際の映像を見ればわかります。




「総理としての自覚や責任感はあるのか」というのは確かに失礼かもしれません。菅首相も少々キレ気味に反論しています。
ところが、キレ気味なのに、言葉に全然力がなく、滑舌も悪いので、その気持ちが伝わりません。
蓮舫議員の言葉には迫力があるので、結局、蓮舫議員に菅首相が説教されている格好になりました。
しかも「そんな答弁だから、言葉が伝わらないんですよ!」という叱責には、蓮舫議員の“親心”すら感じられます。

政治は権力を巡る戦いなので、どちらが強いかは決定的に重要です。
安倍前首相は国会で「嘘」や「嘘つき」という言葉を言われるたびに猛烈にキレるので、野党議員も「嘘」という言葉を言いにくくなりました(実際は安倍前首相は嘘をつきまくっていたわけです)。
トランプ前大統領は力強さという点では無敵でした。

首相が野党議員から上から目線で説教されていては、首相としての示しがつきません。そのまま政権崩壊につながってもおかしくない事態です。
政権側はなんとしてもこの事実を隠ぺいするか、それがむりなら事実を改変しなければなりません。
そこで、「失礼な蓮舫議員を菅首相が説教した」という“オルタナティブファクト”
がつくられました。
どこまで計算されたものかわかりませんが、テレビのコメンテーターはこぞって蓮舫議員の非礼を非難しました。
ネット上の記事でも、ざっと見ただけでもこれだけ目につきました。

【日本の選択】年長者に向かって罵声を浴びせ続ける蓮舫氏 これが野党の支持率上がらない原因
田村淳、蓮舫氏は「成人式で暴れている人と一緒」と苦言 報道方法に持論も

菅政権はまだこれだけメディアを支配しているのかと思いましたが、それだけではなさそうです。
今回のことは、女性議員が男性首相を説教するという、まさに“女性活躍”を絵に描いた出来事ですが、政権を支持するか否かに関係なく、女性が男性の上に立つのがいやという男が数多くいます。
つまりこれも“ガラスの天井”の一例です。


ともかく、菅首相は蓮舫議員から説教されても、弱々しい反論しかできなかったのが現実です。
官房長官のときは有能でも、首相になると無能レベルに達したのでしょうか。