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                Keith JohnstonによるPixabayからの画像 

このままだと「お前」という言葉が使えなくなるかもしれません。
完全に議論が間違った方向にいっています。

発端は中日ドラゴンズの与田剛監督の発言でした。

中日応援歌自粛騒動 与田監督は言葉狩り非難に困惑隠せず
 中日が2日の巨人戦(東京ドーム)で0―6と今季4度目の零封負けを喫し、連勝が5でストップ。勢いに水を差す格好となったのが与田剛監督(53)の巻き起こした“応援歌騒動”だ。

 1日に中日の公式応援団がSNS上で応援歌「サウスポー」使用を自粛すると発表。指揮官が歌詞の「お前が打たなきゃ誰が打つ」の「お前」の部分を疑問視し、球団を通じて歌詞の変更を要請していた。この件がネット上で大炎上し、ワイドショーにも取り上げられるなど大騒動となった。

 今回の事態に与田監督は「意外と不本意な方向にいっているみたいで。僕は単純に『お前』という表現よりは名前の方にしてもらえませんかというのが事の発端なので。応援を自粛してくれとか、応援団を否定しているわけではない。リスペクトもしているのに、いろんな方が言葉尻を逆の方に持っていかれるのはさみしい」と語った。

 しかし、チーム関係者は「紳士たれの巨人軍でも坂本(勇)やゲレーロらの選手応援歌には『お前』のフレーズがあるのに公認されている。こんなことシーズン中に言いだすことではなかった。監督にはもっと試合だけに専念してほしいのに」と指摘する声もある。
(後略)
https://www.tokyo-sports.co.jp/baseball/npb/1456512/


与田監督は「お前という言葉を子どもたちが歌うのは、教育上よくないのではないか」とも発言していますが、これに対して巨人ファンからは、巨人の球団歌の「ゆけゆけ、それゆけ、巨人軍~」というサビの部分を歌うと、中日ファンが「死ね死ね、くたばれ、巨人軍~」という替え歌をかぶせるのが常態化していて、こちらのほうがよほど教育上よくないのではないかという声も上がっています。

この騒動の原因は、ひとえに与田監督の考え違いにあります。
与田監督は、「お前が打たなきゃ誰が打つ」というフレーズを不快に思って、不快の原因は「お前」という言葉にあると思ったわけです。
しかし、「お前」という言葉に悪い意味はありません。目上の人に使えば失礼になりますが、ファンにとって選手は目上ではないはずです。

与田監督が「お前が打たなきゃ誰が打つ」というフレーズを不快に思ったのは理解できます。このフレーズは、「お前」以外のチーム全員を打てないと決めつけているからです。
  「誰が打つ」は反語表現です。受験コトバでいうと「誰が打つ(いや、誰も打たない)」となります。
1人の選手を奮起させるためにほかの選手を否定するというやり方は、ほかの選手が不愉快ですし、監督も不愉快です。
これまでこんな歌を歌っていた公式応援団が間違っています。
ですから与田監督は、「ほかの選手だって打つんだから、『お前が打たなきゃ誰が打つ』というフレーズはおかしい。やめてくれ」と言うべきでした。
そうすれば混乱は起きなかったでしょう。

それから、「お前が打たなきゃ誰が打つ」というフレーズは、選手にプレッシャーを与えるものです。
おそらくこの歌が歌われるときは、得点圏にランナーがいて、その選手が打つかどうかで試合が決まるような重要な場面でしょう。選手はすでにプレッシャーを感じているはずです。その上にさらにプレッシャーをかけるのはマイナスでしょう。

重量挙げとか百メートル走とかは、大きな大会で新記録が出るので、選手にプレッシャーをかけるのは意味があるかもしれませんが、野球のバッターの場合は、リラックスさせたほうがいいはずです。肩に力が入るとろくなことはありません。

与田監督はそういうことも感じて、「お前が打たなきゃ誰が打つ」というフレーズを不快に思っていたのかもしれません。


ところで、与田監督はなぜこの時期にこの発言をしたのでしょうか。
私がこれを書いている時点で、中日はセ・リーグの5位で、首位の巨人から12.5ゲーム離されています。
あまりのふがいない成績に、日ごろから感じていた「お前が打たなきゃ誰が打つ」に対する不快感を口にしたのでしょう。
いわば八つ当たりです。
ほんとうなら口にする以上、なぜ「お前が打たなきゃ誰が打つ」がだめなのかを正しく説明するべきですが、要するに八つ当たりなので、深く考えずに「お前」という言葉のせいにしたのです。
言葉のせいにするのがいちばん簡単なやり方です。

このように考えると、「言葉狩り」がどうして発生するのかも理解できます。
なにか不快な表現に出会ったとき、なぜそれが不快なのかを論理的に説明するのがめんどうなので、なにかの言葉のせいにするのです。

現在、中日の公式応援団は「サウスポー」を歌うのを自粛していますが、「お前」という言葉が悪いからだと説明すると、世の中が混乱します。
「お前が打たなきゃ誰が打つ」というフレーズが中日の選手に失礼だからだと説明するべきです。