村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

カテゴリ: 岸田文雄政権

26160502_m

5月19日、G7首脳は広島平和記念資料館を訪問しました。
平和記念資料館の原爆の悲惨さを伝える展示は、見た人に強烈な印象を与えるので、世界の首脳たちに広島訪問を義務化すれば世界は平和になるのではないかという意見もあるぐらいです。
G7首脳は展示を見てどう思ったのでしょうか。
ぜひとも知りたいところですが、そうした発表はまったくありません。
日本政府が“言論統制”を敷いているのでしょうか。

ただ、各首脳は平和記念資料館で記帳をして、それは外務省が公開していますが、読んでみると、官僚の作文としか思えない抽象的な内容です。

「G7首脳による平和記念資料館訪問(記帳内容)」

平和記念資料館で展示を見たのにその感想がまったく発信されないのは、平和記念資料館に対する侮辱です(その後、バイデン大統領とマクロン大統領の感想は少し伝えられました)。
実際のところは、バイデン大統領への忖度なのでしょう。

アメリカは広島への原爆投下で約14万人を殺戮し、無差別都市爆撃という国際法違反の上に、非人道的大量破壊兵器の使用という二重の罪を犯しました。
広島の原爆の悲惨さについて語れば、おのずと「アメリカの罪」が浮き彫りになり、バイデン大統領の立場がなくなります。


G7の国はすべてウクライナへの軍事支援を行っています(日本は殺傷兵器除く)。
ウクライナのゼレンスキー大統領が途中からG7に合流したので、G7はまるで「ウクライナ軍事支援会議」になりました。
実際、共同声明ではウクライナのために「ゆるぎない支援を必要な限り行う」と表明されました。
バイデン大統領は21日、約500億円相当の弾薬や装備品の支援とともにF16戦闘機の供与を容認すると発表しました。
休戦の提案などはありません。
戦争の火に油を注ぐだけです。
これもまた平和都市広島への侮辱です。

今回のG7を広島で開催すると決めたのは岸田首相ですが、広島で開催した意味がまったくなく、逆に平和都市広島のイメージダウンでした。



どうしてG7でウクライナ戦争を終わらせるという議論がなかったのでしょうか。

ウクライナ戦争が始まったとき、人々はこの戦争をどうとらえるか悩みましたが、次第に方向性が固まってきました。
実は、その方向性が間違っていたのです。
その間違いをリードしたのはバイデン大統領です。

意外なことにトランプ元大統領が正しいことを言っています。
トランプ氏は5月11日の対話集会において、ウクライナ戦争について問われ「私が大統領なら1日で戦争を終わらせるだろう」と述べました。
「1日」というのは大げさですが、アメリカの大統領が本気になればすぐに戦争を終わらせられるのは確かです。
たとえばアメリカやNATO諸国が武器弾薬の供給を止めれば、ウクライナ軍はたちまち砲弾を撃ち尽くして戦争継続ができなくなります。

トランプ元大統領はまた、プーチン大統領を戦争犯罪人と考えるかどうかと問われて、「彼を戦争犯罪人ということにすれば、現状を止めるための取引が非常に難しくなるだろう」「彼が戦争犯罪人となれば、人々は彼を捕まえ、処刑しようとする。その場合、彼は格段に激しく戦うだろう。そうしたことは後日話し合う問題だ」と答えました。

私はトランプ氏をまったく支持しませんが、この点についてはトランプ氏は正しいことを言っていると思います。

バイデン大統領はトランプ氏とはまったく違います。
バイデン大統領は昨年3月16日、記者から「プーチンを戦争犯罪人と呼ぶ用意はありますか」と聞かれ、一度は「いいや」と答えたものの、「私が言うかどうかの質問ですか?」と聞き返し、その上で「ああ、彼は戦争犯罪人だと思う」と述べました。
さらに昨年4月4日、バイデン大統領はロシア軍が撤退したあとのブチャで民間人の遺体が多数見つかったのを受け、プーチン大統領を「彼は戦争犯罪人だ」とはっきりと述べました。
昨年10月10日には、ロシアによるウクライナ全土へのミサイル攻撃を受けて声明を出し、その中で「プーチンとロシアの残虐行為と戦争犯罪の責任を追及し、侵略の代償を払わせる」と述べました。
そして今年の3月17日、国際刑事裁判所はプーチン大統領に対して戦争犯罪の疑いで逮捕状を発行しました。

今ではプーチン大統領は戦争犯罪人であるという認識が(少なくとも西側では)広まっています。


ロシアがウクライナに侵攻したときは、「ウクライナも悪い」とか「NATOも悪い」という議論がありましたが、やがてこれはロシアの「侵略」だということが共通認識となりました。
もちろん「侵略は悪い」ということになります。
そして、ロシアは「悪」で、プーチン大統領は「悪人」ということになりました。

ロシアが「悪」だとなると、ハリウッド映画的な「勧善懲悪」の原理が発動します。
G7などは「正義」のウクライナを支援して「悪」のロシアをこらしめようとしているわけです。

犯罪者や悪人と交渉や取引をするべきでないというのが世の中の常識です。
アメリカは9.11テロのあと、「テロリストとは交渉しない」という姿勢で対テロ戦争に突き進みました。
したがって今、アメリカなどはロシアと交渉する気がまったくありません。

岸田首相は5月21日の記者会見で「1日も早くロシアによるウクライナ侵略を終わらせる。そのために、厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を継続する。今回のサミットでは、G7はこの点について固い結束を確認いたしました」と語りました。
ロシアを屈服させるまで戦い続けるということです。


昔は戦争の帰結がある程度見えてくると、講和をして早めに戦争を終わらせたものです。
しかし、アメリカは違います。第二次大戦のとき、日本ともドイツとも講和しようとせず、徹底的に無力化するまで戦い続けました。
アメリカは今でも「正義の戦争」を信じているようですが、世界が従う必要はありません。

25859584_m

岸田政権は「異次元の少子化対策」を打ち出し、統一地方選でもほとんどの候補が少子化対策、子育て支援を訴えていました。
少子化対策は今や最大の政治課題であるようです。

しかし、地球の人口は増え続けていて、そのために食糧不足、資源不足、環境問題が懸念されています。
それに、日本は人口密度世界ランキング27位で、山が多い地形を考慮するとかなりの人口過密国です。
先進国ほど少子化が進むという傾向もあります。
少人数でパイを分け合えば、一人当たりの取り分が増えます(たとえば一人っ子同士が結婚すると、ふたつの家の財産を受け継げます)。
そういうことを考えると、むりして少子化対策をしなくてもいいように思えます。

ただ、少子化が進むと国家の財政と年金制度が危機に瀕します。
日本政府が少子化対策に力を入れているのは、ひとえに財政と年金のためです。

つまり「カネ」の問題を解決するために「命」を利用しようとしているのです。
このことは国民誰もが感じていて、そのため少子化対策はあまり盛り上がらず、政府だけがカラ回りしている印象です。


「女性を人口目標の道具にしない 国連人口基金、出生率の考え方を提言」という記事によると、国連人口基金(UNFPA)は4月19日、「世界人口白書」を発表し、そこにおいて各国政府が実施している出生率の上昇や低下を目的とした政策は効果が出ないことが多く、女性の権利を損なう可能性があると指摘しました。
「女性の体を人口目標の道具にすべきではない」「出産時期や子どもの数は女性が自由に選ぶべきだ」という言葉は日本政府の耳に痛いでしょう。

安倍政権は「女性活躍」や「女性が輝く社会」を掲げて女性の労働力を活用してきましたが、岸田政権は女性の“出産力”まで活用しようとしているわけです。

ちなみに自民党では、第一次安倍政権のときに柳沢伯夫厚生労働相が「女性は産む機械」という発言をし、2018年には杉田水脈議員が月刊誌への寄稿で「(同性カップルは)子供をつくらない、つまり『生産性』がない」と述べたこともありました。


子どものいる人生と子どものいない人生ではまったく違うので、子どもをつくるかつくらないかは重大な決断です。
「異次元の少子化対策」には子ども1人月額1万円支給といった政策がありますが、こうしたことで子どもをつくることを決断する夫婦はあまりいないのではないでしょうか。
それに、少子化の原因は婚姻率が低下したことだという説があります。
内閣府ホームページの「第2章 なぜ少子化が進行しているのか」にも、少子化の原因として「未婚化の進展」「晩婚化の進展」「夫婦の出生力の低下」が挙げられています(「夫婦の出生力の低下」は「晩婚化の進展」ともつながっています)。
そうすると、少子化対策よりも未婚化・晩婚化対策をしたほうが有効だということになります。

いずれにしても、結婚、出産という人生の重大事を国家の財政危機解決に利用しようという発想が根本的に間違っています。



子どもを生まない夫婦が増えるのは、生んでも、その子が将来幸せになるかわからないということもあります。
去年1年間に自殺した小中高校生の数は512人で、過去最高を記録しました。若者の死因のトップが自殺であるという国はG7で日本だけです。
ユニセフが2020年に発表した「子どもの幸福度」調査によると、日本の子どもの「身体的健康」は38か国中で1位でしたが、「精神的幸福度」は37位と下から2番目でした。
つまり日本の若者は世界的に見てきわめて不幸です。
そして、その対策はなにも行われていません。
もし「異次元の少子化対策」が成功したら、不幸な若者が増えることになります。

4月1日、「こども家庭庁」が発足しました。
「こども」がひらがな表記であることに気づかない人も多いのではないでしょうか。普通は「子ども」と書くものだからです。
子どもが読みやすいようにひらがなにしたのなら、「こどもかてい庁」と全部ひらがなにするはずです。
「こども」だけひらがなにしたのは、「こども」と「家庭」に格差をつけようとしたからではないかと疑ってしまいます。

こども家庭庁は「こどもまんなか社会の実現」をキャッチフレーズにしています。
「こどもまんなか」というのもよくわからない言葉です。

自民党の政治家はよく「子どもは国の宝」と言います。
菅義偉首相が2021年4月に「子ども庁」(このときはこういう名称だった)の創設を表明したときに、「子どもは国の宝で、ここにもっと力を入れるべきだ」と語りました。
岸田首相も今年の3月17日の記者会見で「子供は国の宝です」(表記は官邸ホームページによる)と語っています。

こども家庭庁は「子どもは国の宝」をキャッチフレーズにしてもよさそうですが、もしそうすると、「子どもは国のものではない」とか「子どもは物ではない」といった反発があるでしょう。

岸田首相は3月17日の記者会見では「こどもファースト社会の実現」という言葉を二度も使っていました。
「子どもファースト」はわかりやすい表現です。
しかし、「子どもファースト」といえば誰でも「レディファースト」を連想します。
昔は「レディファースト」という言葉がよく使われました。「欧米の男性はエレベーターに乗るときは必ずレディファーストで女性を先に乗せるが、日本の男性は……」というぐあいです。
しかし、欧米でも性差別は深刻です。エレベーターに女性を先に乗せるなどというのはまやかしです。そのことがわかってきて、最近は「レディファースト」という言葉は使われなくなりました。

「子どもファースト」という言葉も同じことです。
「おとなが子どもをたいせつにする」というのは、おとなが主体で、子どもは客体です。
これではおとなが好き勝手にできます。

「こどもまんなか」も同じことです。あくまでおとなが主体です。

では、どんなキャッチフレーズがいいのかというと、これしかないというものがあります。
それは、
「おとな子ども平等社会の実現」
です。

今の世の中、「おとな子ども平等」をいう人はまずいないと思いますが、戦前には「男女平等」ということもまずいわれませんでした。

アメリカ独立宣言には「すべての人間は神によって平等に造られ、一定の譲り渡すことのできない権利をあたえられており、その権利のなかには生命、自由、幸福の追求が含まれている」とあり、これをもって「天賦人権」とか「普遍的人権」といいます。
しかし、実際には先住民にも黒人奴隷にも人権はありませんでした。
さらに、選挙権がないという点では女性と子どもにも人権はありませんでした。
つまりアメリカ独立宣言は、実質的に「白人成人男性の支配宣言」であったわけです。
それから長い年月がたって、女性や先住民や黒人に選挙権が与えられてきました。
しかし、子どもにはまだ選挙権が与えられていません。

話は飛ぶようですが、岸田首相に爆弾を投げた木村隆二容疑者は、参議院の被選挙権が30歳以上と決められているのは憲法違反だとして裁判所に訴えていました。同様の訴訟は全国規模で行われています。
問題になっているのは被選挙権の年齢制限ですが、では、選挙権が18歳以上というのは正当かというと、なんの根拠もありません。おとなが適当に決めています。
最終的には選挙に関するすべての年齢制限は撤廃されるべきです。
そうなってこそ普遍的人権が実現したことになります。

ですから、「男女平等」と同様に「おとな子ども平等」もいずれ当たり前になるはずです。

もっとも、自民党にそのことを理解しろといってもむりです。
自民党は家父長制の家族を理想とする政党なので、家父長である男性が女子どもを支配するものと考えているからです。


国家の財政赤字は、経済成長によって税収を増やすことで解消できれば理想です。
しかし、日本はせいぜいGDP年1%程度しか成長しない国になりました。
となると、増税と歳出削減によって赤字をへらすか赤字を増やさないようにするしかありません。
しかし、増税と歳出削減は苦しいことです。
そこで、出生率を上げて、労働力人口を増やすことで税収を増やそうと考えたわけです。
しかし、この少子化対策は前からやっていて、少しも効果がないばかりか、さらに少子化が進行しています。

普通ならここで「少子化対策で税収増」という青い鳥を追うのは諦めて、増税と歳出削減に取り組むところです。
しかし、増税と歳出削減は苦しいので、さらに「異次元の少子化対策」へ突き進んでいるわけです。
おそらく自民党は戦時中の「産めよ増やせよ」という感覚のままで、女性の体と子どもの命を利用することになんの抵抗もないのでしょう。

女子どもを蔑視する自民党の少子化対策に効果がないのは当然です。
では、まともな少子化対策なら効果があるかというと、そうともいえません。せいぜい少子化の速度を少し遅らせる程度でしょう。
つまり今は少子化を前提として対策を考えるべきときです。


なお、「子どもを持ちたいのに持てない夫婦」や「結婚したいのにできない独身者」を救済する政策は必要です。
これは財政や年金とは関係なく、国民の福祉のために行うことです。

united-states-army-soldier-2528050_1920

3月29日、30日に120カ国・地域が参加したオンライン形式の第2回「民主主義サミット」が行われました。
これはバイデン大統領の「価値観外交」に基づいて行われるもので、中国、ロシア、イランなどは招待されていません。
アメリカは価値観によって世界を分断しようとしています。

岸田文雄首相は昨年5月、バイデン大統領が来日したときの共同記者会見で「米国は日本にとって自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的な価値を共有する、我が国にとって唯一の同盟国です」と語りました。
同様のことは繰り返し言っています。

一国のリーダーは「他国と価値観を共有する」などと安易に言ってはいけません。
国の価値観は変化するからです。
アメリカは分断が深まって、保守派とリベラル、トランプ前大統領とバイデン大統領では価値観がぜんぜん違います。
岸田首相はどちらの価値観を共有しているつもりなのでしょうか。


そもそも岸田首相はアメリカの価値観を誤解しています。
たとえば「法の支配」です。
アメリカ国内で法の支配が行われているのは事実ですが、国際政治の世界では法の支配はほとんど行われていません。
たとえば国際刑事裁判所(ICC)は今年3月17日にプーチン大統領に対して逮捕状を発行しましたが、あまり意味のない行為だとされます。
というのは、アメリカもロシアも中国もICCに加盟していなくて、ICCにあまり力はないからです。
アメリカが法の支配を重視するなら、率先してICCに加盟し、他国に対して加盟するよう要請するはずです。

アメリカがICCに加盟しないのは、アメリカ兵の戦闘中の行為がICCによって戦争犯罪として裁かれるのを避けるためだといわれます。
さらにアメリカは自国民をICCに引き渡さないようにする二国間免責協定の締結をICC加盟国に要請しています。この協定は双務的なものではなく、米軍兵士、政府関係者ならびにすべての米国籍保有者を保護する目的で同協定の締約国にICCへの引渡しを拒否するよう求める片務的なものです(「解説(上) 二国間免責協定(BIA)に関する公式Q&A」による)
つまりアメリカは自国だけ法の裁きを受けないようにしようとしているのです。
具体的な事例としては、ICCがアフガニスタン戦争に従事した米兵らへの戦争犯罪捜査を承認したとき、その対抗措置として、ICC当局者への査証発給禁止などの措置がとられたことがあります。

つまりアメリカは自国だけ例外にしろと主張しているわけで、これは法の支配の破壊です。
このようなアメリカの利己的なふるまいが各国の利己的なふるまいを呼び、戦争やテロにつながっていきます。

日本はもちろん加盟国です。
岸田首相は「アメリカと価値観を共有する」と言うのではなく、「アメリカにICC加盟を強く求める」と言わねばなりません。


アメリカが尊重するのは、法の支配ではなく力の支配です。

アメリカは、その軍事費が世界の軍事費の約4割を占める圧倒的な軍事大国です。
世界が平和になってしまえば、せっかくの軍事力の優位が生かせません。
そのためアメリカは世界につねに戦争ないしは戦争の危機が絶えないようにしています。

かつては自由主義陣営対共産主義陣営の対立が戦争の危機を生んでいました。
共産主義陣営が崩壊すると、イスラム原理主義が新たな敵となり、湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争が行われました。
そして、最近は民主主義陣営対権威主義陣営の対立が演出されています。
「民主主義サミット」はその一手段です。

ウクライナ戦争はアメリカが引き起こしたものだとはいえませんが、ウクライナ戦争によりアメリカの同盟国はアメリカへの依存を強め、日本もドイツも防衛費をGDP比2%にすると決めたので、結果的にアメリカの利益になっています。


力の信奉はアメリカの国是みたいなものです。
独立戦争、先住民との戦い、黒人奴隷の使役の中で形成されたものと思われます。

アメリカの歴史は銃でつくられたようなものですから、銃犯罪が深刻化しても銃規制がなかなかできないのも当然です。
2021年にはアメリカ国内での銃による死亡者数は約4万8000人でした。
ちなみに日本では殺人事件の死亡者数が年間300人程度です。
日本とアメリカの価値観はぜんぜん違います。

ハリウッド映画の定番は、正義のヒーローが悪人をやっつける物語です。
これもアメリカの力の信奉の表れです。
こうした物語は「勧善懲悪」といわれます。「懲悪」は「悪をこらしめる」ということです。
昔の映画では、悪人をこらしめて、最後に悪人が改心するという物語もありましたが、最近はすっかり見かけません。
今は正義のヒーローが悪人を全部殺してしまいます。そのための派手な銃撃と爆発シーンが盛り沢山です。
アメリカ国民の意識も変わってきているようです。
アメリカはウクライナ戦争をどう終わらせるつもりでしょうか。


ともかく、アメリカは「法の支配」を無視しています。
さらにいうと、「民主主義」も無視しています。

バイデン大統領は「民主主義陣営対権威主義陣営」ということをいいますが、民主主義国は非民主主義国を敵視しません。敵視する理由がありません。
アメリカは世界を分断する理由に「民主主義」を利用しているだけです。

アメリカが民主主義を尊重するなら、国連の運営を民主化しなければなりません。
五大国の拒否権などというおかしなものは廃止して、国連総会の多数決による議決を絶対化し、強力な国連軍が議決を執行するようにします。
こうすれば「法の支配」と「民主主義」が同時に実現し、世界は平和になります。

世界を平和にするのは簡単です。
アメリカの価値観がそれに合わないだけです。

road-7633437_1920

岸田文雄首相はウクライナを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した際に「必勝しゃもじ」をプレゼントしました。
必勝しゃもじというのは広島の特産品で、大きな木製のしゃもじに「必勝」の文字が書かれていて、日清戦争、日露戦争当時に軍人が必勝祈願のために厳島神社に奉納したのが始まりだそうです。
これには「スポーツの試合や選挙のときならともかく、戦争のときに贈るべきではない」という批判がありました。
確かに岸田首相の戦争観が気になる出来事ではあります。


日本の首相としてウクライナに行くなら、停戦や休戦の提案を持っていくべきだと思うのですが、岸田首相にそうした外交力があるはずありません。
それにしても、「必勝」を訴えたのでは逆に戦争をあおることになります。
しかも、武器弾薬を提供しない日本の立場にも反します。

それに、必勝しゃもじは神道という宗教とつながっているので、キリスト教国のリーダーに贈るのはどうなのかなと思えます。
そうしたところ、ゼレンスキー大統領がテレグラムに岸田首相との会談について投稿して、その中に「岸田総理から、一枚の木の板を託された。日本古来の呪術の板のようなもので、そこには必ず勝つと書かれている。(中略)会談とウクライナへの強い支援に感謝します」という文章がありました。

「呪術の板」といわれれば、確かにその通りです。
極東の島国では今でも呪術を使っていると思われたかもしれません(「呪術の板」についての文章は捏造されたものでした。根拠はこちら。あえて消さずにそのままにしておきます)。

自民党は政教分離をまじめに考えてこなかったので、靖国神社や日本会議や統一教会が政治の世界に入り込んでいました。
岸田首相がゼレンスキー大統領に神道色のある物を贈ったのも、自民党の宗教に対するルーズさの表れでしょう。

なお、松野博一官房長官によると、岸田首相は必勝しゃもじとともに「折り鶴をモチーフにしたランプ」もゼレンスキー大統領に贈ったそうです。このランプは広島の焼き物「宮島御砂焼(おすなやき)」でできたものです。
折り鶴はもちろん平和の象徴ということですが、これも「呪物」と思われたかもしれません。焼き物のランプはいかにも魔法のランプみたいです。
それにしても、平和の象徴と「必勝」の文字を同時に贈るのは矛盾しています。


そもそもいったいなんのために岸田首相はウクライナに行ったのかというと、よくいわれるのは「G7の国の首脳でウクライナに行っていないのは岸田首相だけだから」というものです。
同調圧力に弱い日本人らしい発想です。
しかし、G7は日本以外は北米と西欧の国ばかりです。ウクライナともっとも縁の薄いアジアの国が行かなくても不思議ではありません。というか、ウクライナ市民も日本の首相が来たというので驚いていたようです。
行ってなにもしないわけにいかないので、岸田首相は600億円超の援助を申し出ました。
行かなければよかったのにというしかありません。


岸田首相は日本がG7の一員であることと、とくに今年5月の広島サミットで議長国を務めることを重く見ているようです。
しかし、G7というのは、米国、英国、フランス、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7か国にEUが加わったものです。
中国、インド、ブラジルなどが加わっていないので、決して世界の大国の集まりというわけではありません。
要するにアメリカと価値観を共有する国の集まりということです。
国連の外にこのような組織をつくることは世界を分断することになります。

ロシアは一時期G7に加わって、G8といわれていた時代がありました。
しかし、2014年にロシアがクリミア併合をしたことでロシアは排除されました。
もしこのときにロシアを排除していなければ、今回のウクライナ戦争はなかったかもしれません。


岸田首相は核兵器廃絶が信念だそうです。
今年5月のG7サミットの開催地を広島にしたのも、世界に非核の訴えをするためだとされます。
岸田首相は3月19日、地元後援会の会合で「ロシアによる核兵器による威嚇や使用の懸念など、危機的な状況にある中、核軍縮・不拡散の議論においても、被爆地 広島でサミットを開く意味を世界の皆さんとともにかみしめなければならない」と語りました。

確かに非核の訴えをするのに広島は最適の場所です。
なぜ非核の訴えをするかというと、核兵器があまりにも非人道的だからです。
つまり5月のサミットでは、岸田首相はロシアの核による威嚇を牽制しつつ、核兵器の非人道性を訴えるはずです。
となると、広島、長崎に原爆を落としたアメリカを非難することにならざるをえません。
岸田首相がどんなに言葉を選んでも、広島の地で非核の訴えをすれば、誰もがアメリカの原爆投下を思います(サミット参加の首脳は平和祈念館を見学するという話もあります)。

日米の信頼関係を重視する岸田首相が広島で非核の訴えをするのは、明らかに矛盾しています。


必勝しゃもじに続いて「サミットまんじゅう」も話題となりました。
『岸田首相の後援会が配った「サミットまんじゅう」 ロゴ使用ルールを逸脱? 外務省は「基準に合致」強弁』という記事を要約して紹介します。

3月23日の参院予算委員会で立憲民主党の田名部匡代議員が、3月19日に広島市内で行われた岸田首相の政治資金パーティでサミットのロゴ入りのまんじゅうとロゴ入りのペンが参加者に配られたことを取り上げました。
サミットのロゴを使うには著作権を持つ外務省に使用承認申請書を提出する必要があり、承認条件のひとつに「特定の政治、思想、宗教等の活動を目的とした使用はしない」というのがあります。ペンには「岸田文雄後援会」の文字とサミットのロゴが並んで入っていますし、政治資金パーティで配るのは明らかに政治利用です。
しかし、サミット事務局長の北川克郎大臣官房審議官は「開催地広島でサミットの機運を高めることは不可欠」「機運醸成に認められるロゴの使用申請は基準に合致する」と首相をかばい、岸田首相は「さまざまな指摘を受けないように、今後とも慎重に取り扱いを行うことは大事かと思います」と答弁しました。


ウクライナ戦争やサミットという世界的な問題に、必ず岸田首相の地元広島が出てきます。
ゼレンスキー大統領に必勝しゃもじを贈ったのは、ゼレンスキー大統領のためというより、地元広島の特産品を国内にアピールするためでしょう。
つまり岸田首相においては「世界より地元」なのです。

なぜそんなことになるかというと、岸田首相は外交安保の問題を自分の頭で考えていないからです。
考えているのはアメリカです。岸田首相はそれに従っているだけです。
岸田首相は、安倍首相もできなかった防衛費GDP比2%と敵基地攻撃能力保有を簡単に決めました。アメリカに要求されたから従ったのです。
岸田首相は安倍政権時代に長く外相を務めていましたから、そのときにアメリカに従うのが無難だということを学んだのでしょう。

3月20日はイラク戦争開始から20年です。
れいわ新選組の山本太郎参議院議員は3月2日の参議院予算委員会で、岸田文雄首相にイラク戦争の是非について質問しました。「イラク戦争から20年、いまだに開戦支持の過ちを認めない日本政府」という記事から引用します。
山本議員は、米国の世界戦略や自衛隊の米軍との一体化を問う質疑の流れの中で、「アメリカが間違った方向に行った場合は、(日本は)行動を別にすることできますよね?」と岸田首相に質問した。

 岸田首相が「当然のことながら、日本は日本の国益を考え、憲法や、国内法、国際法、こうした法の支配にもとづいて外交安全保障を考えていく、これが当然の方策であると考えます」と答弁したのに対し、山本議員は「イラク戦争はどうだったと思われます? イラク戦争は間違いでしたか? 正しい戦争でしたか? 教えてください、総理」とたたみかけた。

 とたんに岸田首相は歯切れが悪くなり、こう答弁した。

「あのー、我が国としてイラク戦争の、えー、評価をする立場にはないと考えています。わが国として、自らの国益を守る。もちろん大事でありますが、それとあわせて 先ほど申し上げました、法の支配、国際法や国内法、こうしたものをしっかりと守る中で、国民の命や暮らしを守っていく。これが日本政府の基本的な考え方であります」

日本政府はアメリカのイラク戦争の是非を評価する立場にはないそうです。
そうだとすれば、今後アメリカが中国と戦争するときにもその是非を評価する立場になく、アメリカの要求のままに行動するのでしょう。

岸田首相は安保政策については自分で判断しないので、お気楽なものです。
ウクライナ訪問のときもサミットのときも、国内政治と地元のことだけ考えていればいいので、そのため必勝しゃもじやサミットまんじゅうが出てきます。

これは岸田首相だけの問題ではありません。
日本はアメリカ依存をどんどん深めているので、今や日本の安全保障政策はアメリカが決めているようなものです。
それを「緊密な同盟関係」などといって正当化しています。

しかし、こうした関係では、日本国民の税金がアメリカのために使われることが否定できません。
防衛費GDP比2%と敵基地攻撃能力も、日本のためというよりほとんどアメリカのためです。

自衛隊員の命もアメリカのために使っていいか考えないといけません。

america-2775323_1920


3月16日、岸田文雄首相と韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は都内で日韓首脳会談を行い、友好関係をさら発展させていくことで合意しました。
徴用工問題もどうやら決着しました。
どういう形で決着したのでしょうか。

韓国の最高裁は日本企業にかつての徴用工に対して賠償金を支払うように命じましたが、日本としては払いたくないので、こじれました。
また、韓国政府や韓国世論は徴用工問題で日本に対して謝罪を求めていました。

尹錫悦大統領は3月6日にこの問題の解決策を提案しました。
岸田首相は同じ日に記者会見し、「今回の韓国政府の措置は、日韓関係を健全な関係に戻すためのものとして評価しております」「歴史認識につきましては、1998年10月に発表された日韓共同宣言を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場、これを全体として引き継いでいる。これが政府の立場であります」と語りました。
バイデン大統領も同じ日に声明を発表し、「米国の最も緊密な同盟国である日韓両国の協力とパートナーシップの画期的な新章を示した」と歓迎し、ブリンケン国務長官も「記念すべき成果を称賛するよう国際社会に呼び掛ける」と歓迎する声明を発表しました。
ということは、この解決策は日本、韓国、アメリカで話し合われていたわけで、この発表の時点で合意が成立していたものと思われます。

この解決策は、日本企業が払う賠償金を韓国政府傘下の財団が肩代わりするというものです。
発表の時点では、その財団に日本企業も拠出するのではないかという話がありました。これでは日本企業が賠償金を支払ったのとたいして変わりません。
結局、日韓首脳会談後の発表によると、両国の経済団体が未来志向の日韓協力・交流のための「日韓未来パートナーシップ基金」を創立することになりました。
つまり日本企業はカネを出すのですが、別のところに出す形となったわけです。

日本の謝罪の問題は複雑です。
1998年、小渕恵三首相と金大中大統領は日韓共同宣言を発表し、その中に「小渕総理大臣は、今世紀の日韓両国関係を回顧し、我が国が過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受けとめ、これに対し、痛切な反省と心からのお詫びを述べた」というくだりがありました。
尹大統領は共同宣言にある「反省とお詫び」を日本政府が継承することを求めました。
そして、岸田首相もその日に「日韓共同宣言を含め(中略)、これを全体として引き継いでいる。これが政府の立場であります」と言って、それを受け入れたわけです。

ところが、日韓首脳会談後の発表文には「反省とおわび」の言葉はありませんでした。
その代わり「旧朝鮮半島出身労働者問題に関し、率直な意見交換を行い、岸田総理大臣から、6日に日本政府が発表した立場に沿って発言しました」という文言がありました。
「6日に日本政府が発表した立場」というのは「日韓共同宣言を引き継いでいるのが日本政府の立場」のことです。日韓共同宣言には「反省とお詫び」という言葉が入っているので、日本政府は理屈の上では「反省とお詫び」を表明したことになります。
まるで“一人伝言ゲーム”みたいです。


韓国では、首脳会談後の発表に「反省とお詫び」の言葉がなかったのはけしからんという声があり、賠償金を求めた原告には韓国の財団のカネは受け取らないと表明する人がいるなど、否定的な声が多いようですが、その声はそれほど強くないという印象です。
日本国内では、これまで嫌韓を唱えてきたネトウヨの戸惑いが目立ちます。日本企業がカネを出すのか出さないのかよくわからず、「反省とお詫び」を表明したのかしてないのかよくわからないという仕組みが効いているようです。

ただ、日本企業がカネを出すのは間違いないので、韓国は「名を捨てて実を取った」といえるかもしれません。
日本は「反省とお詫び」の表明を巧みにごまかしたので、「名を取って実を捨てた」ということになります。

それにしても、徴用工問題がここまでこじれたのはどうしてでしょうか。
それは、日韓ともにあまりにも視野が狭く、二国間関係しか見ていなかったからです。


東アジアにおいて、日本と韓国はともにアメリカの同盟国として、対北朝鮮、対中国で連携しなければならない立場です。
それなのに70年以上も昔の徴用工問題で日韓が喧嘩しているのですから、東アジア情勢が見えてないというしかありません。
とくにアメリカにとっては困ったことです。
ですから今回の解決策は、アメリカが主導したものと考えられます。アメリカに強く言われると、日韓ともに断れません。
兄弟喧嘩をしている子どもを母親がむりやり仲直りさせたみたいなものです。

同じことは慰安婦問題のときもありました。
慰安婦問題で日韓関係がこじれきっていたため、2015年にオバマ政権がむりやり日韓合意にもっていきました。
日韓合意には「おわびと反省」という言葉が入っていましたが、当時の安倍首相はどうしてもその言葉を言いたくなかったため、岸田外相に朗読させて、自分は表に出てきませんでした。
母親がむりやり子どもに謝らせようとしたため、子どもはふてくされてしまったという格好です。

徴用工問題でまったく同じことを繰り返すとは、日韓ともに成長がありません。


東アジア情勢だけでなく、グローバルな視点も欠けています。
日韓関係がこじれている根本原因は、日本が朝鮮半島を植民地支配したことを清算できていないことです。
しかし、植民地支配の清算ができていないのは日韓関係だけではありません。

欧米列強は世界に植民地を広げましたが、今に至るもお詫びも反省もしていません。
植民地支配における非人道的行為について謝罪した国はありますが、植民地支配そのものについて謝罪した国はひとつもありません。

日本も戦後しばらくは、中国やアジアの国に対して戦争により苦痛や迷惑を与えたことについては謝罪してきましたが、植民地支配については謝罪しませんでした。
しかし、1993年、細川護熙首相は所信表明演説において「過去の我が国の侵略行為や植民地支配などが多くの人々に耐えがたい苦しみと悲しみをもたらしたことに改めて深い反省とおわびの気持ちを申し述べる」と言い、「植民地支配」について初めて謝罪しました。
村山富市首相も「植民地支配」について謝罪しました。
1995年のいわゆる「戦後50年衆院決議」においても「世界の近代史における数々の植民地支配や侵略行為に想いをいたし、我が国が過去に行ったこうした行為や他国民とくにアジア諸国民に与えた苦痛を認識し、深い反省の念を表明する」との言葉があります。
そうした流れを引き継いで1998年の日韓共同宣言の「反省とお詫び」があるわけです。

他国を植民地支配した国は多くありますが、日本は唯一それを謝罪した国です。
そこには日本の特殊な立場もあります。
欧米の植民地主義は、根底に人種差別があります。それに、欧米の文化は当時、ほかの地域よりも格段に進んでいたのも事実です。
日本の場合、日本人、中国人、朝鮮人に人種的な違いはありませんし(そもそも人種という概念に意味はないという説もあります)、文化水準もそれほど変わりません。日本がいち早く近代化しただけです。
つまり日本は自分とほとんど変わらない国を植民地支配したわけで、その罪が見えやすかったといえます。


ともかく、日本は植民地支配を謝罪した唯一の国で、これは世界においてきわめて有利なポジションです。
というのは、かつて植民地支配された国は謝罪しない欧米に対して不満を持っているからです。

「グローバルサウス」という言葉があります。
広い意味ではアフリカ、中東、アジア、ラテンアメリカにおける途上国、新興国の総称ですが、狭い意味では、「北」の先進国によって「南」は不当に苦しめられてきたという認識を持った国の集合のことです。
ロシアによるウクライナ侵攻は明らかな侵略行為ですから、グローバルサウスの国もロシアを批判していますが、一方で、NATOなどが主導するロシア批判やロシア制裁を冷ややかな目で見ているのも事実です。


ついでにいえば、欧米は近代奴隷制についても謝罪していません。
アメリカなどはリンカーンの奴隷解放を偉業のように見なしていますが、奴隷解放は当たり前のことで、それまでの奴隷制がひどかっただけのことです。白人は奴隷労働で富を築いたのに、黒人奴隷はなんの補償もなく放り出され、選挙権も与えられませんでした(一部の地域では与えられたが、すぐに剥奪された)。黒人は無教育な貧困層となり、白人は黒人を愚かで犯罪的だとして自分の差別意識を正当化しました。過去を正しく清算しないといつまでも引きずるという例です。


植民地支配や奴隷制に対する欧米の謝罪も反省もしない態度が今の世界の混乱の原因となっています。
今後、グローバルサウスの力が強くなっていけば、欧米に対する倫理的、道義的な責任を問う声が強まるでしょう。
そのとき、朝鮮に対する植民地支配について「反省とお詫び」をした日本は世界をリードする立場になれます。

もっとも、安倍首相は慰安婦問題の日韓合意のときに自分の口から「反省とお詫び」を言いませんでしたし、その後も口に出すことはありませんでした。
岸田首相も今回、巧妙な手口で「反省とお詫び」を口にしませんでした。
こういう中途半端なことをすると、日本は「日本は植民地支配を謝罪した」と世界に向かって胸を張って言うことができません。
また、どうせカネを出すなら、徴用工に対する賠償金として支払ったほうが効果的でした。

岸田首相は世界に向かって日本をアピールする絶好の機会を逸してしまいました。

韓国に謝罪したくない人はグローバルな視点を欠いています。

globe-3984876_1920

人間は誰でも自分中心にものごとを考え、自国中心に国際情勢を考えます。
自分中心の考えは周りから利己的だとして戒められますが、自国中心の考えは周りから愛国的だとして称賛されます。
こうして普通に市民生活をしている人がどんどん戦争に突き進んでいきます。


北朝鮮は2月18日夕方、ICBM級と見られる弾道ミサイルを発射し、北海道渡島大島の西方およそ200キロの日本のEEZ(排他的経済水域)内の日本海に落下しました。
マスコミは大きく取り上げ、岸田首相は「今回の発射は、国際社会全体に対する挑発をエスカレートさせる暴挙だ」と語り、浜田防衛相は「飛翔軌道に基づいて計算すると、弾頭重量等によっては1万4000キロを超える射程になり、米国全土が射程に含まれる」と語りました。また、日本のEEZ内に落下させたのは挑発だという声もありました。

その少し前の2月9日、アメリカは核弾頭の搭載が可能なICBM「ミニットマン3」の発射実験を行いました。カリフォルニア州で発射され、太平洋のマーシャル諸島クェゼリン環礁までおよそ6760キロを飛行したということです。アメリカ空軍は「定期的な実験であり、現在の世界情勢に起因するものではない」と発表しました。
日本政府はなにも反応せず、日本のマスコミも冷静な扱いでした。そのため、このニュースに気づかなかった人も多いかもしれません。

同じICBMでも、北朝鮮が発射したのとアメリカが発射したのとでは、日本の反応がまったく違います。
「日本はアメリカの同盟国だから当然だ」と思うかもしれませんが、偏った見方をしているのは事実です。
「よいICBM」も「悪いICBM」もありません。


北朝鮮の保有する核弾頭は20個から30個程度と見られ、ICBMの性能もアメリカ西海岸に届く程度でした。今回の発射実験でアメリカ全土が射程に入ったかもしれないというところです。
アメリカの保有する核弾頭は5000個以上で、ICBMの数は450基から500基程度ですが、ほかに長距離爆撃機と潜水艦発射ミサイルでも核攻撃ができます。
北朝鮮とアメリカの核戦力を比較したら、アメリカが北朝鮮の数百倍です。

日本のマスコミは「北朝鮮の脅威」をいいますが、北朝鮮にすれば圧倒的な「アメリカの脅威」を感じているわけです。


「中国の軍拡の脅威」もいわれますが、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の2022年版によると、『中国は軍事力を急速に強化しているイメージがあるものの、軍事費はGDP比1.7-1.8%前後で安定的に推移しており、公表値ベースでは「経済成長並みの増加」を継続していると言える』ということです。
スクリーンショット 2023-02-19 025943


つまり中国は経済成長に合わせて軍拡しているだけです。
一方、日本はほとんど経済成長しない国なのに、防衛費をGDP比1%から2%にすることにしました。
軍拡のために経済成長を犠牲にせざるをえず、自滅的な戦略です。

そもそもアメリカの軍事費は中国の軍事費の3倍ぐらいあり、しかもアメリカ軍はハイテク化していますが、中国軍は人件費の割合が多いので、数字以上の実力差があります。
いや、アメリカ一国の軍事費を取り出すのもおかしなものです。アメリカにはNATOや日本や韓国などの同盟国があるからです。

SIPRIは世界の国を「自由主義国」「部分的自由主義国」「非自由主義国(専制主義国)」の三つに分類して、それぞれの軍事費の割合を算出しています。「自由主義国」はほぼアメリカとその同盟国と見て間違いありません。
それによると「自由主義国」の軍事費は世界の軍事費の66.4%を占めています。
それに対して中国は14.1%、ロシアは3.2%です。

スクリーンショット 2023-02-20 010732

つまりアメリカ陣営は圧倒的な軍事力を持っていて、中国、ロシアは束になってもかないません。

アメリカはアジアでは韓国、日本、フィリピンに基地を持って、中国を圧迫しており、ヨーロッパではドイツ、イタリア、スペイン、ベルギーなどに基地を持ち、さらにかつてのワルシャワ条約機構の国をNATOに引き込んで、ロシアを圧迫しています。

アメリカは「安全保障」という言葉を使いますが、アメリカの国土の安全が脅かされる心配はないので、不適切な言葉づかいです。中国の空母がアメリカ西海岸沖を航行するようになったら、その言葉を使ってもいいかもしれませんが。
「安全保障」を真剣に考えなければならないのはロシア、中国のほうです。北朝鮮などは「安全保障」のことで頭がいっぱいです。
日本はもっぱらアメリカ陣営の側から世界を見ているので、全体像が見えていません。

以上のことは、誰もが知るべき基本的な情報ですが、日本では「中国の軍拡の脅威」や「北朝鮮のミサイルの脅威」ばかりがいわれます。アメリカ陣営の側に立って世界を見ているからです。安全保障の専門家もみずからの利益のために危機感をあおるので、こうした戦力比較という基本的な情報がおろそかになっています。


このところ「台湾有事」ということがよくいわれます。
もし中国軍が台湾に侵攻して台湾有事が起こり、アメリカが介入すれば、米軍は日本の基地から出撃するので、日本が中国から攻撃される可能性があります。そのとき日本政府は「存立危機事態」と認定して、自衛隊を出動させ、中国軍を攻撃します。その際必要になる攻撃能力を今準備しているところです。
日本には台湾を守る義務もなければ、米軍を守る義務もないので、中国軍の攻撃で米軍基地周辺の市街地に被害が出ても、断固として傍観するという選択肢もあります。「台湾のために自衛隊員を死なせるわけにいかない」というのは立派な理由です。
しかし、日本政府はアメリカ従属一筋なので、参戦しないということはまったく考えられません。

バイデン政権は2022年10月に「国家安全保障戦略」を発表し、中国を「国際秩序を変える意思と能力を兼ね備えた唯一の競合国」と認定し、中国と対抗するために「同盟国や友好国との連携を一段と深める」としました。
アメリカが中国と戦うとき、自衛隊の戦力も利用しようとするのは当然です。
自衛隊が米軍と共同行動をするには、専守防衛を捨てて敵基地攻撃能力を持たなければなりません。
岸田首相はアメリカの戦略に忠実に従っています。

自民党の細野豪志元環境相は1月2日に「中国や北朝鮮の脅威増大で亀のような国では国民を守れない。これは日本の外部要因だ。ヤマアラシのように外敵が攻撃を躊躇する国になることで国民を守る以外にない」とツイートしましたが、各国の軍事力についての基本知識もなく、アメリカにあやつられているだけの政治家だということがよくわかります。


自国中心の発想を抜け出て、すべての国に対して中立の立場から世界を見れば、正しい世界が見えてきます。
ところが、人間は最初から国を色分けして見ています。
たとえば北朝鮮は「極悪非道な独裁国」と多くの人は見ています。
ウクライナ侵攻をしたロシアも「悪いプーチンの国」です。
アメリカは日本を守ってくれる「よい国」ないし「正義の国」です。
バイデン大統領は世界を「民主主義国対権威主義国」と色分けしました。日本は民主主義国で、中国は一党独裁、習近平独裁の国なので、相容れません。
あるいは、多くの日本人は欧米を崇拝し、アジアを見下すという傾向がありますし、イスラム教の国はつきあいにくいと思っています。

今挙げたことはすべて事実ではなく価値観の問題です。
民主主義国と独裁国は事実ですが、「民主主義国はよい、独裁国は悪い」というのは価値観です。
「やつらは悪い国だ。我々は悪と戦う正義の国だ」と思うと戦争になってしまうので、こうした価値観はすべて頭の中から消去しなければなりません。

すべての価値観を頭の中から消去することはそんなにむずかしくありません。
「すべての思想を解体する究極の思想」に入口があります。

4189187_m

連続強盗事件の指示役である「ルフィ」がフィリピンの入国管理局の収容施設に拘束されていたことがわかりました。施設内から携帯電話を使って犯罪の指示を出していたそうです。
収容所内で酒や覚醒剤、バカラなどのギャンブルをしていたという報道もあります。
メキシコやコロンビアなどでは犯罪組織のボスが刑務所内で優雅な生活をして、外に犯罪の指令を出しているという話を聞きますが、フィリピンでもそれに近いことが行われていたわけです。

アジアの国は概して犯罪が少ないものですが、フィリピンは別です。麻薬犯罪が横行して、ドゥテルテ前大統領は容疑者をその場で射殺していいという荒っぽいやり方を指示しました。今はいくらか犯罪がへったようですが、入管施設の実情を見てもわかるように、警察や司法組織が腐敗しているのでたいへんです。
ちなみにドゥテルテ前大統領は“フィリピンのトランプ”と呼ばれていました。
フィリピンはかつてアメリカの植民地でしたから、アメリカの影響を色濃く受けています。


世界で犯罪の多い国はどこでしょうか。
犯罪といっても、なにが犯罪であるかは国によって違い、警察の取り締まりも違いますが、殺人に関してはあまりごまかしができません。
「世界・人口10万人あたりの殺人件数ランキング(WHO版)」というサイトから上位17か国を切り取ってみました。

スクリーンショット 2023-01-28 224937

17か国中、南アフリカとレソトはアフリカですが、それ以外はすべて中南米の国です(ちなみにフィリピンは32位で、アジアでは最上位)。


中南米は「アメリカの裏庭」と言われるぐらい圧倒的なアメリカの影響下にあります。

アメリカ式犯罪対策は、ハリウッド映画と同じで、犯罪者を荒っぽくやっつけるというものです。こういうやり方は一時的に効果があるようでも、犯罪者や一般人も荒っぽいやり方を真似するので、かえって治安が悪化するものです。
アメリカ文化の影響が中南米の犯罪に及んでいるかもしれません。

犯罪のいちばんの原因は貧困です。
中南米の国はどこも経済的にうまくいっていません。アジアでは多くの国が経済的離陸を達成しているのと対照的です。
ブラジルだけは一時BRICsと呼ばれて、その成長力が期待されましたが、最近は停滞気味です。

なぜ中南米の国は経済がうまくいかないのかというと、政治が安定しないことが大きいでしょう。
多くの国では政府派と反政府派が年中衝突し、しばしばクーデターが起こり、反政府ゲリラが地方を支配しています。行政も腐敗して賄賂が横行しています。
そのため主な産業は第一次産業です。
第一次産業でもバナナ栽培の比重が大きいので、中南米の国を「バナナ共和国」と揶揄することがあります。

2021年1月、アメリカで議事堂襲撃事件が起きたとき、息子ブッシュ元大統領は「これはバナナ共和国で起こるような事件で、民主主義国家の姿ではない」と言いました。
アメリカ人が中南米の国を見下していることがよくわかります。


では、中南米の国がなぜバナナ共和国になったのかというと、これはもっぱらアメリカのせいです。
ウィキペディアの「バナナ共和国」の項目から引用します。
もともとこの言葉が生まれたのは、20世紀初頭の中米で、ユナイテッド・フルーツやドール、デルモンテなどアメリカ合衆国の農業資本企業が、広大なプランテーションを各国に建設し、その資金力で各国の政治を牛耳ったことに由来する。バナナの生産及び輸出には厳密な管理が必要だったため、各社は鉄道や港湾施設など、必要なインフラストラクチャーを自己資金で建設し、さらにバナナビジネスがうまく行くよう、各国の支配者層と結託して自らに有利な状況を維持させ続けた。 また、これらの国々の多くには他にめぼしい産業が育たなかったこともあり、外国の巨大企業に対抗できる勢力はほぼ存在せず、巨大企業、ひいてはそのバックにいるアメリカ合衆国の言いなりになる従属国化の道を歩むこととなった。

一例としてグアテマラを取り上げてみます。伊藤千尋著『反米大陸』という本を参考にしました。

十九世紀末、ユナイテッド・フルーツ社の前身は、腐敗したグアテマラ政府に食い込み、グアテマラのバナナをアメリカに輸出する権利を一手に握ります。さらに鉄道会社を設立し、鉄道沿いにバナナ園を開く権利を獲得します。そこには先住民がトウモロコシなどの畑を持っていましたが、同社は政府の力を後ろ盾に土地を安く買い、先住民を安い労働力にしてバナナを生産しました。買収に応じない先住民は軍が追い出しました。
1931年の大統領選ではユナイテッド・フルーツ社はウビコ将軍に肩入れして当選させます。ウビコ大統領は投資を誘うためにアメリカ企業に大幅な免税特権を与える一方、軍の力で先住民を動員して公共事業の強制労働をさせ、賃金を払わないという暴政をします。そして、「グアテマラ・ゲシュタポ」と呼ばれた秘密警察を組織して、反対者を逮捕、処刑しました。
暴政に怒った民衆は反政府デモを起こし、1944年、「グアテマラ革命」と呼ばれる政変が起きます。ウビコ大統領は辞任し、アメリカに亡命します。翌年の大統領選で大学教授のアレバロが当選し、民主的な政権ができ、労働者の待遇改善を進めますが、不利益を受けるユナイテッド・フルーツ社はアメリカ政府に介入を要請します。アメリカ国務省は同社に有利になるように労働法の改定を求めましたが、アレバロ大統領は拒否します。
次のアルベンス大統領はさらに民主的な政策を進め、ユナイテッド・フルーツ社に対して大企業として相応の税金を払うように求めました。それまで同社は独裁政権の高官を買収して税金をほとんど払っていなかったのです。さらにアルベンス大統領は農地改革を進めました。そのときユナイテッド・フルーツ社はグアテマラの国土の42%の土地を支配していました。政府は同社の土地を接収し、補償金を払いましたが、同社は補償金が異常に安いと怒ります。もっとも、政府としては同社がこれまで支払ってきた税金を基準に決めたというのが言い分です。
アメリカ政府はグアテマラ政府にユナイテッド・フルーツ社に対して巨額の補償金を払うように要求しますが、グアテマラ政府は拒否したため、アメリカ政府はグアテマラ政府の転覆を決意します。
このときのアメリカ国務長官はジョン・フォスター・ダレスで、その弟はCIA長官のアレン・ダレスでした。この兄弟はともにユナイテッド・フルーツ社の大株主で、兄は同社の顧問弁護士でもありました。
アメリカ政府はグアテマラ政府に対して共産主義政権だというレッテル張りをして国交断絶をし、CIAはグアテマラ人の傭兵を集め、元グアテマラ国軍のアルマス大佐の指揮下、グアテマラに侵攻させ、米軍は爆撃の支援をして、政権を転覆します。そして、アルマスは大統領になり、農地改革を中止して、農民に配られた土地を元の地主に戻したので、ユナイテッド・フルーツ社は土地を取り戻しました。
その後のグアテマラは悲惨でした。アルマス大統領は3年後に自分の護衛兵に暗殺され、以後はクーデターが続き、軍部の左派は農村部で活動するゲリラとなり、軍部の右派は政権を握り、反対派を暗殺する恐怖政治を行いました。政府と左派ゲリラの和平協定が調印された1996年までに約20万人の犠牲者が出たといわれます。


グアテマラは一例で、多くの国で似たようなことが行われてきました。
アメリカはその国の政治家や官僚を動かしてアメリカ政府やアメリカ企業に有利な政策を行わせます。当然、その反対の動きが出て、親米右派対反米左派が激しく対立するというのが中南米の政治です。
そして、アメリカはアメリカの利益になるなら、その国の民主主義を踏みにじって独裁政権を支援することも平気です。

今、バイデン政権は「民主主義国対権威主義国」ということを唱えて、民主主義国の旗頭のような顔をしていますが、これまでアメリカは多くの独裁国を支援してきたので、アメリカの言い分を真に受けるのは愚かです。

アメリカは、武力で政権を転覆させる試みはキューバでも行いましたし(失敗)、グレナダでは直接の武力侵攻も行いました。「アメリカの裏庭」ではなにをしてもいいという感覚です。
ロシアのウクライナ侵攻も「ロシアの裏庭」という感覚かもしれません。


中国は安い労働力を利用して安価な工業製品をアメリカに輸出することを主な原動力として経済発展してきました。
メキシコも安い労働力があり、地理的には中国よりも圧倒的に有利ですが、中国のように経済発展することはできませんでした。今でも貧困のために多くの不法移民がアメリカに脱出するので“トランプの壁”をつくられる始末です。
これは中国人とメキシコ人の国民性の違いでしょうか。
国民性もあるかもしれませんが、それよりもアメリカ人の人種差別意識のほうが大きいのではないかと思います。

たとえばプエルトリコは、アメリカの自治連邦区という位置づけになり、住民はアメリカ国籍を持ち、アメリカのパスポートを持てますが、アメリカ本土との経済格差はひじょうに大きく、本土に出稼ぎに出る人が多く、その仕送りが大きな収入源になっています。なぜプエルトリコはいつまでも貧しいのかと考えると、やはりアメリカ人(とくに白人)の差別意識のためではないでしょうか。

貧しい人が成功しようと思ったら自分で商売を始めることです。奴隷から解放された黒人にも商売を始める人がいました。しかし、黒人の商店は必ず白人のいやがらせ、破壊、放火にあい、つぶされました。今でも黒人経営の商店というのはごくわずかしかありません。
中国人や韓国人の商店はそのようないやがらせにはあわず、アメリカには中国人や韓国人経営の商店が多くあります(こうした店は暴動のとき黒人の略奪の対象になります)。

つまりアメリカ人の差別意識も微妙です。
日本や中国がアメリカに輸出することで経済成長できたのもその差別意識のおかげともいえます。


アメリカの外交は人種差別に大きく影響されているので、「人種差別外交」と見るべきです(国際ジャーナリストの田中宇氏は、アメリカは世界を多極化させるためにわざと自滅的な外交をやっているのだという説を唱えていますが、そうではなくて、単に人種差別外交をやっているために自滅的になるのです)。
中南米とアフリカは完全に見下されています。
カナダ、オーストラリア、ヨーロッパは対等に近い感じですが、同じヨーロッパでも東ヨーロッパは見下されています。
イスラム教の国も見下されています。というより敵意を持たれているといったほうがいいでしょう。湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争を見れば明らかです。


アメリカのアジアに対する態度は微妙です。
アメリカはずっと中国を経済的に利用してきましたが、最近はライバルと認定して、つぶしにかかっています。

そうすると、日本への態度はどうなのかということになります。
おそらく日本がバブル経済で「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などと浮かれていたころ、アメリカは態度を変えたと思われます。
以来、日本がずっと貧困化の道をたどってきたのは、“アメリカの見えざる手”にあやつられていたのではないでしょうか。
日本はずっと親米右派政権で、日本よりもアメリカの利益を優先する政策を行ってきましたが、日本人はそれがおかしいと気づきません。
今は経済再生のために投資しなければならないのに、アメリカに防衛費倍増を約束させられ、さらに転落することは確実です。

日本は犯罪がきわめて少ない国ですが、貧困化が進めば犯罪も増えます。
「ルフィ」が指示役だった連続強盗事件はまるで南米の犯罪みたいです。
これから日本はどんどん南米化の道を歩むことになるかもしれません。

3263824_m

岸田政権は12月16日、安保関連三文書を閣議決定し、新聞各紙は「安保政策の歴史的転換」などと大々的に報じました。

この大転換を決めたのは岸田首相でしょうか、安倍元首相でしょうか。それとも防衛省と外務省の官僚でしょうか。
いずれにせよほとんど議論もなしに決まりました。敵基地攻撃能力に関しては多少議論がありましたが、今後5年間の防衛費を総額43兆円にすることについてはまったく反対の声がありません。
一方、防衛費増額の財源をどうするかについては、増税か国債か建設国債か、外為特別会計の資金活用か復興特別所得税の転用かなど議論百出でした。

どうしてこうなるのでしょうか。
それは、防衛費増額はアメリカと日本が合意してすでに決まっているので、今さら議論しても意味がないからです。
財源についてはこれから日本が決めることなので議論百出になります。

防衛費増額の経緯についてはこれまでも書いてきましたが、改めて整理しておきたいと思います。


そもそもの発端は、昨年10月の衆院選向けの自民党選挙公約に、防衛費について「GDP比2%以上も念頭に増額を目指す」という文言が入ったことです。
これまでずっと日本は防衛費GDP比1%でやってきたのですから、GDP比2%は倍増になります。1割増とか2割増ならともかく倍増というのは冗談としか思えない数字です。
私はタカ派の高市早苗政調会長が自分の趣味を全開にして数字をもてあそんだのかと思いました。
発表当時はマスコミもほとんど注目しませんでした。

しかし、高市政調会長が選挙公約を発表したのが10月12日で、10月20日には米上院外交委員会の公聴会に次期駐日大使のラーム・エマニュエル氏が出席し、「日本が防衛費を(GDP比)1%から2%に向けて増やそうとしているのは、日本がより大きな役割を果たす必要性を認識している表れで、日米の安全保障協力にとっても非常に重要だ」と述べました。
政党の選挙公約というのはあまり当てにならないとしたものですが、自民党の「防衛費GDP比2%」はすぐに米議会で取り上げられ、対米公約みたいなことになったのです。

さらに11月22日には朝日新聞に掲載されたインタビュー記事で、前駐日米大使のウィリアム・ハガティ上院議員は「米国はGDP比で3・5%以上を国防費にあて、日本や欧州に米軍を駐留させている。同盟国が防衛予算のGDP比2%増額さえ困難だとすれば、子どもたちの世代に説明がつかない」と言って、日本の防衛予算のGDP比2%への引き上げを早期に実現するように求めました。

次期駐日大使と前駐日大使がともに自民党の選挙公約の「防衛費GDP比2%」を高く評価しているところを見ると、自民党はアメリカと話し合った上で選挙公約を決めたのでしょう。

ちなみに「防衛費GDP比2%」はアメリカがNATO諸国に要求している数字です。
アメリカは同じ数字を日本にも要求したのでしょう。
岸田政権はその要求を受け入れて、自民党の選挙公約に「防衛費GDP比2%」と書いたことになります。

5月23日、岸田首相はバイデン大統領と都内で会談し、その後の共同記者会見で「防衛費の相当な増額を確保する決意を表明し、これに対する強い支持をいただいた」と述べました。
その後、参院予算委員会で「防衛費増額は対米公約か」と質問された岸田首相は「約束というと、米国から嫌々求められた感じがする」「防衛費はわが国として主体的に決めるもの」などと答弁しました。

そして今回、安保関連三文書が閣議決定されると、バイデン大統領はツイッターに「日本の貢献を歓迎する」と投稿し、サリバン大統領補佐官は「日本は歴史的な第一歩を踏み出した」との声明を出し、オースティン国防長官は声明で「防衛費が2027年度にはGDPの2%に達する決定をしたことを支持する」と表明しました。

こうした流れを見ても、今回の防衛費増額はアメリカの要求によるものだということがわかります。
予算の総額が先に決まり、なにに使うかが決まっていないという、通常と逆の展開になっているのもそのためです。


バイデン政権は「中国を唯一の競争相手」とした国家安全保障戦略を発表しています。
中国は経済成長とともに軍事力をつけてきているので、アメリカの優位が揺るぎかねません。
そこで、日本の自衛隊を利用する戦略です。

もし自衛隊が国土防衛のための兵器だけを保有しているなら、アメリカ軍は自衛隊を利用できませんが、すでに自衛隊は空母やイージス艦や早期警戒管制機(AWACS)を保有しています。これらバカ高い兵器を購入したりつくったりしてきたのは、アメリカ軍が利用可能だからです。
さらに自衛隊が「敵基地攻撃能力」のための長距離ミサイルなどを保有すれば、それもアメリカ軍の戦力にカウントすることができます。
安保三文書にも「日米が協力して反撃能力を使用する」と明記されています。
それに、日本がアメリカから兵器を購入することでもアメリカは利益を得られます(すでにトマホーク購入が計画されています)。


アメリカが日本に「防衛費GDP比2%」を要求するのはアメリカの国益ですが、日本にとってはどうでしょうか。
NATO基準を島国の日本に当てはめるのはおかしなことですし、NATO未加入のウクライナと違って日本には日米安保条約があり、駐留アメリカ軍もいます。
アメリカが長距離ミサイルを必要とするなら、自前で用意してもらいたいものです。

「防衛費GDP比2%」の選挙公約を発表したのは高市政調会長ですが、高市氏が一人で決めるはずもなく、岸田首相も了承していたはずです。
高市氏の背後には安倍元首相がいました。おそらく安倍元首相が中心になって決めたのではないでしょうか。
安倍元首相は2015年に新安保法制を成立させ、自衛隊とアメリカ軍の一体化を進めました。安保三文書はその延長線上にあります。
岸田首相はハト派のイメージがありますが、安倍政権時代に長く外務大臣を務めていたので、外交防衛政策で安倍元首相に合わせるのは得意です。

もっとも、日米でどのような交渉が行われたのかについてはまったく報道がありません。
高市氏に「どうして選挙公約に防衛費GDP比2%という数字を入れたのですか」と問いただしているのでしょうか。

次期駐日大使のエマニュエル氏が昨年10月20日に米上院外交委員会の公聴会に出席したときの毎日新聞の記事の見出しは「日本の防衛費大幅増に期待感 米駐日大使候補、上院公聴会で証言」でしたし、朝日新聞が昨年11月22日に掲載した前駐日大使のハガティ上院議員のインタビュー記事の見出しは「日本の防衛予算のGDP比、早期倍増を ハガティ前駐日米大使が主張」でした。
つまりマスコミはアメリカが強く防衛費倍増を求めていることを知りながら、日米交渉の内実はまったく報道しなかったのです。
アメリカの要求には逆らわないというのがマスコミの習性であるようです。

その結果、岸田政権は自主的に防衛費倍増を決定したようにふるまっています。
これを“自発的隷従”といいます。
「防衛費増額は対米公約か」と国会で質問されたとき、岸田首相が「約束というと、米国から嫌々求められた感じがする」「防衛費はわが国として主体的に決めるもの」と答弁したところに“自発的隷従”の心理が表れています。

日米交渉の内幕が報道されると、アメリカに「要求を飲まないと日米安保条約を廃棄する」という脅しを受けていたといったことが出てくるかもしれません。
こうした報道があれば、日本人も対米自立を考えるようになるでしょう。


自民党は統一教会という韓国系の教団に“売国”行為をしていたことが明らかになりましたが、もともと自民党の売国先の本命はアメリカです。「反共」を名目にアメリカと手を組み、統一教会とも手を組んだわけです。
自民党が“売国政党”であるために、日本国民は重税にあえぐことになります。

north-korea-g643a9a8bb_1920

外交や戦争が同盟関係に大きく左右されるのは当然ですが、日本人はそのことを忘れてしまう傾向があるようです。

明治時代の日本人は、極東の三流国だった日本が当時の覇権国だったイギリスと日英同盟を結んだことに舞い上がってしまって、イギリスの期待に応えようと日露戦争に突き進みました。結果はよかったものの、大国ロシアとの戦争は危険な賭けでした。
日本人は日本が自発的に日露戦争をやったように思っていますが、実際のところは老獪なイギリスに未熟な日本があやつられていたのです。

第一次世界大戦に日本は参戦しましたが、これも日英同盟が背景にあったからです。

日本がアメリカと戦争したことについても、日米の国力を比較して無謀な戦争だったなどといいますが、日本には日独伊三国同盟があったわけです。真珠湾攻撃の当時は、ドイツ軍がモスクワを包囲していて、日本政府は独ソ戦はドイツが勝利すると予想しました。そうなると、アメリカとイギリスが孤立する格好となり、アメリカは講和に応じるだろうというもくろみでした。
英米が孤立したからといって講和ができるとも思えませんが、独ソ戦がソ連優勢になってはなんの展望もなくなってしまいました。
つまり日本は単独でアメリカと戦争しているつもりはなくて、ドイツとイタリアの勝利に便乗するつもりだったのです。
ところが、現在の真珠湾攻撃を巡る議論がほとんど欧州情勢を抜きにして行われているのを見ると、視野が狭小なことに驚かされます。


同盟関係がその国の行動を強く規定するのは当然です。
韓国はベトナム戦争に派兵して、今もそのことがトラウマになっていますが、同盟関係にあるアメリカの要請があったから、しかたなく派兵したのです。
オーストラリアはベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争に派兵して、どれもがトラウマになっています。
NATO諸国もイラクとアフガンに派兵しました。

ちなみに独ソ戦には、枢軸側にイタリアのほかにルーマニア、ハンガリー、フィンランドなども派兵していました。

同盟関係といっても対等なものではありませんし、力のあるほうから「わが国の若者が命をかけて戦っているのに、お前たちはなにもしないのか」と言って強い圧力を加えられると、断り切れないのでしょう。

わが国は平和憲法を盾にアメリカの要請を断り続けてきましたが、とうとう断り切れなくなり、アフガン戦争では洋上給油活動をし、イラク戦争ではサマワに自衛隊を派遣しました。
今となってはアフガン戦争もイラク戦争も無意味な戦争であることが明らかとなり、日本人が命を落とさなかったのは幸いでした。


さて、岸田政権は防衛費GDP比2%と敵基地攻撃能力保持を打ち出していますが、日本とアメリカの力関係を思えば、これがアメリカの要請によるものであることは明らかでしょう。
防衛費GDP比2%というのはNATO基準なのですが、日本がみずからNATO基準を採用するわけがありません。日本は島国なのですから、違って当然です。

防衛費GDP比2%は、昨年10月の衆院選で自民党が選挙公約として打ち出したものです。これまで1%だったものを倍増するとは冗談かと思いましたが、次期駐日大使に指名されたラーム・エマニュエル氏がすかさず米上院外交委員会の公聴会において自民党の選挙公約を評価する発言をしたので、自民党とアメリカが交渉の末合意したものと思われました。

中国の軍拡に対抗するためという名分になっていますが、中国は経済成長に合わせて軍拡をしています。ほとんど経済成長しない日本が軍拡だけするのは財政破綻への道です。

防衛費を増加させてなにに使うかというと、とりあえず「敵基地攻撃能力」のためです。

敵基地攻撃能力というのは、最初のころは、「敵国がミサイルなどを発射する準備をしているのを察知した場合、発射する前にこちらから攻撃する」というような説明をしていました。
しかし、「敵国の発射の準備が正確に察知できるのか。実質はこちらの先制攻撃ではないか」という反論があったためか、最近は「反撃能力」と言い換えて、「敵の第一撃があった場合、敵の攻撃基地をたたいて第二撃を阻止する」という説明に変わっています。

説明の変わるのがあやしいところですが、どちらの説明でも敵国と日本との関係しかいっていません。
超大国である同盟国アメリカ抜きの議論など無意味です。

敵国というのはたぶん中国のことですが、自衛隊の力だけで中国の攻撃力を無力化できるはずがありませんし、自衛隊の情報収集能力で敵国の攻撃準備を察知できるとも思えません。
つまり敵国の情報収集をするのはアメリカで、攻撃の決定をするのもアメリカです。自衛隊の攻撃能力はアメリカの攻撃能力を補うだけです。

そもそも中国や北朝鮮が日本を先制攻撃するとは考えられません。
それよりも考えられるのは、台湾や朝鮮でアメリカが戦争をすることです。そのとき、自衛隊の攻撃能力を利用しようというのがアメリカの狙いです。

日本が攻撃されていないのに自衛隊が他国を攻撃することは法的に可能かというと、日本政府は可能と考えています。
国際法学会のサイトに田中佐代子法政大学法学部准教授がエキスパートコメントとして「敵基地攻撃能力と国際法上の自衛権」という文章を書いていて、そこにはこうあります。
本コメントでは基本的に、他国によるミサイルを手段とした武力攻撃が日本に対して発生し、日本が個別的自衛権の行使として敵基地攻撃を行うという状況を仮定して検討してきました。日本政府の説明によれば、敵基地攻撃能力についての考え方は、集団的自衛権が根拠となる場合にも変わりません。例えば米国に対するミサイル攻撃が(例えばグアムを標的として)発生した場合、それが日本の存立危機事態に該当することも含め諸条件を満たせば、集団的自衛権の行使として敵基地攻撃を行うことが法理的には可能(ただし現状では実行は想定していない)という立場と理解できます。

安倍政権が新安保法制をごり押しで通したのも、こうした場合に備えるためだったわけです。

もともと日米安保体制では、日本はあくまで専守防衛で、敵基地攻撃はアメリカの役割でした。
日本が攻撃能力を持つということは、アメリカの負担の一部を肩代わりするか、アメリカの能力を補強するということです。
日本が一国で攻撃能力を行使することなどありえません。


野党やマスコミは「専守防衛に反する」と言って批判していますが、それよりもこれはカネの問題であり、アメリカが負担するか日本が負担するかという問題です。
アメリカは経済が好調で、財政赤字もGDP比で日本の半分ぐらいしかありません。
いくら同盟国のアメリカから求められたとはいえ、毎年1%ぐらいしか経済成長せず、財政赤字がふくらみ続ける国が防衛費をふやすのはあまりにも愚かです。

banner-234610_1920

米中間選挙の開票結果は、上院で民主党が過半数確保となりました。
しかし、トランプ氏は共和党候補が僅差で敗れたアリゾナ州について「不正があり、選挙をやり直すべきだ」とSNSに投稿し、共和党全国委員会もアリゾナ州でもっとも有権者が多いマリコパ郡で「選挙に深刻な欠陥が露呈した」とする声明を発表しました。
今後、このような不正選挙の訴えがどうなっていくのかよくわかりませんが、2年前の大統領選挙でもトランプ氏は「選挙は盗まれた」として、ほんとうの大統領は自分だと主張していますし、共和党支持者の3分の2が真の当選者はトランプ氏だと信じているそうです。

民主主義の危機は意外なところからやってきます。
選挙制度が機能しないと民主主義は成り立ちません。

独裁国や民主主義の未熟な国ではよく不正選挙が行われますが、こういう場合は、たとえば国連の選挙監視団を派遣するというような対策があります。
ところが、今アメリカで不正選挙が行われているわけではありません。小さな不正はあるかもしれませんが、大統領選の結果をくつがえすような大規模な不正はありえません。
つまり不正選挙があるのではなく、「不正選挙がある」と信じる妄想集団がいるのです。
こうした妄想に確実な対策はありません。ファクトチェックもほとんど無意味です。

「陰謀論」というのも、実態は集団的妄想です。
Qアノンが広めたとされる「ディープステート」という陰謀論は、悪魔崇拝主義者と幼児性欲者の秘密組織が陰で国家を支配しているというもので、トランプ氏はディープステートと戦う英雄だとされます。
アメリカでは悪魔崇拝主義者が秘密の儀式などをしているという事実はありますし、幼児性欲者の秘密組織が過去に摘発されたこともありますが、そうした連中が国家を支配しているというのは妄想というしかありません。

文明が進めば人間は理性的になるものと信じられていましたが、実際はまったく違って、もっとも文明の発達したアメリカにおいて妄想集団が大量発生しているわけです。

なぜこうなったかというと、インターネットの普及がひとつの原因です。
集団で討議して意思決定をする場合、もともとあった偏りがさらに強くなる傾向があるとされ、これを「集団極性化(集団分極化)」といいます。
たとえば軍拡賛成派の人が集まって議論すると、それまで平均10%の軍拡を求めていた人たちが議論のあとは平均20%の軍拡を求めるようになるといったことです。
インターネット空間では、保守とリベラルが分離し、それぞれが集まって議論しているので、保守はますます保守的になり、リベラルはますますリベラルになるわけです。
そうしてネットの議論がどんどん過激化し、その中で陰謀論が広まったと考えられます。

それから、なんといってもトランプ氏のキャラクターの特異性があります。
トランプ氏は体が大きく、パワフルで、つねに自信満々で、いかにも「強いリーダー」という雰囲気を持っています。
大統領に就任して権限を手にすると実際に「強いリーダー」になりました。
強い人間に従いたくなるのは人間の本能です。
トランプ氏が「選挙は盗まれた」と言えば、信じる人間が出てきても不思議ではありません。


強いリーダーは、最初は民主的に選ばれたとしても、長期政権になると次第に独裁化します。プーチン大統領や習近平国家主席を見てもわかりますし、ヒトラーもそうでした。

もしトランプ氏が大統領に再選されていたら、独裁化していたかもしれません。
アメリカ大統領はたいてい再選されるとしたものですが、トランプ氏が再選されなかったのは、ひとえにコロナ対策を失敗したせいです。
「強いリーダー」というのは、人間の目にそう映るだけで、ウイルスのような自然界には無力でした。


トランプ氏の命運が今後どうなるかはわかりませんが、集団極性化(分断)が進んだアメリカでは、第二、第三のトランプ氏が出てきて、独裁国家になっても不思議ではありません。
日本はそういう事態を警戒しなければなりませんが、岸田文雄首相はプノンペンにおける11月13日の日米首脳会談でも「日米同盟のいっそうの強化をはかる」と言うばかりです。



安倍晋三元首相はミニ・トランプみたいなものでした。第二次政権を9年近くやって、かなり独裁化しました。
安倍氏が首相を辞任したのも、表向きは健康理由でしたが、実態はコロナ対策の失敗でした(後継の菅義偉首相の辞任理由も同じです)。
考えてみれば、コロナウイルスは偉大です。日米で独裁政権の芽をつんだのですから。

安倍氏は辞任後も存在感を示していました。これもトランプ氏と同じです。
しかし、山上徹也容疑者の銃弾がすべてを断ちました。
その後の政治の動きを見ていると、安倍氏の存在がいかに大きかったかがわかります。

菅首相も「強いリーダー」でした。日本学術会議任命拒否問題でかたくなに説明を拒否したところにそれが表れています。


岸田首相は「聞く力」をモットーにしているだけあって、安倍首相や菅首相とはまったく違います。
岸田内閣の支持率が高く始まったのも、多くの国民が安倍首相や菅首相の強権的な政治手法にうんざりしていたからでしょう。

ところが、内閣支持率はどんどん低下しています。
その理由は明白で、方針がころころ変わるからです。

山際大志郎経済再生担当大臣は、統一教会とのずぶずぶの関係が次々と明るみになり、「記憶にない」などとあやしい弁明を続けて、国民の批判が高まっていました。岸田首相はずっと「山際氏は説明責任を果たすべき」と擁護していましたが、突然更迭を決定しました。
「法務大臣は死刑のハンコを押す地味な仕事」などの発言で批判された葉梨康弘法務大臣についても、岸田首相は最初は擁護していましたが、突然更迭しました。
宗教法人法に基づく解散命令請求の要件についても、岸田首相は最初は刑法違反などが該当すると答弁していましたが、野党などから批判されると一転して、民法の不法行為も含まれると答弁を変更しました。
統一教会問題についても、最初は自民党は組織的な関係はないとして調査すらしない方針でした。それが不十分ながらも調査することになり、宗教法人法に基づく質問権を行使することになり、被害者救済法案の成立を目指すことになりました。

絵に描いたような朝令暮改ぶりです。
岸田首相がかたくなな姿勢を貫いたのは、国葬問題ぐらいです。

途中で方針が変わるのはよいことではありません。
しかし、間違った方針をかたくなに変えないよりははるかにましです。
もちろん最初から正しい方針を決定していればいいわけですが、いつもそうとはいきません。
今のところ、岸田首相の「修正する力」はたいしたものです。

しかし、かたくなに方針を変えないと「強いリーダー」と見なされ、世論に合わせて方針を変えると「弱いリーダー」と見なされます。
「弱いリーダー」は、野党はもちろん国民からも攻撃されます。
しかし、弱くても最終的に正しい方針にたどりつくなら、かたくなに間違った方針を貫くよりもよいのは明らかです。


国民は「強いリーダー」が正しく国を導いてくれることを期待しますが、そういうことはめったにありません。
「強いリーダー」は利己的にふるまい、最終的に独裁者になり、国民を不幸にします。それは歴史を見れば明らかです。

このページのトップヘ