
5月19日、G7首脳は広島平和記念資料館を訪問しました。
平和記念資料館の原爆の悲惨さを伝える展示は、見た人に強烈な印象を与えるので、世界の首脳たちに広島訪問を義務化すれば世界は平和になるのではないかという意見もあるぐらいです。
G7首脳は展示を見てどう思ったのでしょうか。
ぜひとも知りたいところですが、そうした発表はまったくありません。
日本政府が“言論統制”を敷いているのでしょうか。
ただ、各首脳は平和記念資料館で記帳をして、それは外務省が公開していますが、読んでみると、官僚の作文としか思えない抽象的な内容です。
「G7首脳による平和記念資料館訪問(記帳内容)」
平和記念資料館で展示を見たのにその感想がまったく発信されないのは、平和記念資料館に対する侮辱です(その後、バイデン大統領とマクロン大統領の感想は少し伝えられました)。
実際のところは、バイデン大統領への忖度なのでしょう。
アメリカは広島への原爆投下で約14万人を殺戮し、無差別都市爆撃という国際法違反の上に、非人道的大量破壊兵器の使用という二重の罪を犯しました。
広島の原爆の悲惨さについて語れば、おのずと「アメリカの罪」が浮き彫りになり、バイデン大統領の立場がなくなります。
G7の国はすべてウクライナへの軍事支援を行っています(日本は殺傷兵器除く)。
ウクライナのゼレンスキー大統領が途中からG7に合流したので、G7はまるで「ウクライナ軍事支援会議」になりました。
実際、共同声明ではウクライナのために「ゆるぎない支援を必要な限り行う」と表明されました。
バイデン大統領は21日、約500億円相当の弾薬や装備品の支援とともにF16戦闘機の供与を容認すると発表しました。
休戦の提案などはありません。
戦争の火に油を注ぐだけです。
これもまた平和都市広島への侮辱です。
今回のG7を広島で開催すると決めたのは岸田首相ですが、広島で開催した意味がまったくなく、逆に平和都市広島のイメージダウンでした。
どうしてG7でウクライナ戦争を終わらせるという議論がなかったのでしょうか。
ウクライナ戦争が始まったとき、人々はこの戦争をどうとらえるか悩みましたが、次第に方向性が固まってきました。
実は、その方向性が間違っていたのです。
その間違いをリードしたのはバイデン大統領です。
意外なことにトランプ元大統領が正しいことを言っています。
トランプ氏は5月11日の対話集会において、ウクライナ戦争について問われ「私が大統領なら1日で戦争を終わらせるだろう」と述べました。
「1日」というのは大げさですが、アメリカの大統領が本気になればすぐに戦争を終わらせられるのは確かです。
たとえばアメリカやNATO諸国が武器弾薬の供給を止めれば、ウクライナ軍はたちまち砲弾を撃ち尽くして戦争継続ができなくなります。
トランプ元大統領はまた、プーチン大統領を戦争犯罪人と考えるかどうかと問われて、「彼を戦争犯罪人ということにすれば、現状を止めるための取引が非常に難しくなるだろう」「彼が戦争犯罪人となれば、人々は彼を捕まえ、処刑しようとする。その場合、彼は格段に激しく戦うだろう。そうしたことは後日話し合う問題だ」と答えました。
私はトランプ氏をまったく支持しませんが、この点についてはトランプ氏は正しいことを言っていると思います。
バイデン大統領はトランプ氏とはまったく違います。
バイデン大統領は昨年3月16日、記者から「プーチンを戦争犯罪人と呼ぶ用意はありますか」と聞かれ、一度は「いいや」と答えたものの、「私が言うかどうかの質問ですか?」と聞き返し、その上で「ああ、彼は戦争犯罪人だと思う」と述べました。
さらに昨年4月4日、バイデン大統領はロシア軍が撤退したあとのブチャで民間人の遺体が多数見つかったのを受け、プーチン大統領を「彼は戦争犯罪人だ」とはっきりと述べました。
昨年10月10日には、ロシアによるウクライナ全土へのミサイル攻撃を受けて声明を出し、その中で「プーチンとロシアの残虐行為と戦争犯罪の責任を追及し、侵略の代償を払わせる」と述べました。
そして今年の3月17日、国際刑事裁判所はプーチン大統領に対して戦争犯罪の疑いで逮捕状を発行しました。
今ではプーチン大統領は戦争犯罪人であるという認識が(少なくとも西側では)広まっています。
ロシアがウクライナに侵攻したときは、「ウクライナも悪い」とか「NATOも悪い」という議論がありましたが、やがてこれはロシアの「侵略」だということが共通認識となりました。
もちろん「侵略は悪い」ということになります。
そして、ロシアは「悪」で、プーチン大統領は「悪人」ということになりました。
ロシアが「悪」だとなると、ハリウッド映画的な「勧善懲悪」の原理が発動します。
G7などは「正義」のウクライナを支援して「悪」のロシアをこらしめようとしているわけです。
犯罪者や悪人と交渉や取引をするべきでないというのが世の中の常識です。
アメリカは9.11テロのあと、「テロリストとは交渉しない」という姿勢で対テロ戦争に突き進みました。
したがって今、アメリカなどはロシアと交渉する気がまったくありません。
岸田首相は5月21日の記者会見で「1日も早くロシアによるウクライナ侵略を終わらせる。そのために、厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を継続する。今回のサミットでは、G7はこの点について固い結束を確認いたしました」と語りました。
ロシアを屈服させるまで戦い続けるということです。
昔は戦争の帰結がある程度見えてくると、講和をして早めに戦争を終わらせたものです。
しかし、アメリカは違います。第二次大戦のとき、日本ともドイツとも講和しようとせず、徹底的に無力化するまで戦い続けました。
アメリカは今でも「正義の戦争」を信じているようですが、世界が従う必要はありません。