岐阜県銃乱射の18歳自衛官候補生、長野県立てこもり4人殺害の青木政憲容疑者、安倍元首相暗殺の山上徹也被告、この3人をつなぐ一本の糸は「自衛隊入隊経験」です。
現役の自衛隊員が射撃訓練中に小銃を乱射するというのはショッキングな出来事ですが、それにしても、テレビのコメンテーターが「自衛隊は人の命を救う仕事なのにこんなことが起こって残念」と言っていたのにはあきれました。
自衛隊は災害時などに人命救助活動をしますが、これは“副業”です。“本業”はあくまで戦争で人を殺すことです。
まともな人間はなんの恨みもない人間を殺すことはできません。ですから、軍隊の訓練は兵隊をまともでない人間にすることです。
そのためどこの国の軍隊も、新兵訓練にはパワハラ、暴力が横行するものです。自衛隊が例外であるはずはありません。
自衛隊の非人間的な訓練が18歳自衛官候補生に銃乱射事件を起こさせた――というのはわかりやすい説明ですが、実際には今年の4月に入隊してわずか2か月ほどしか訓練を受けていないので、この説明にはむりがあります。
長野県立てこもり4人射殺事件の青木政憲容疑者は、大学中退後、父親に半ばむりやり自衛隊に入隊させられたようです。しかし、2、3か月後に除隊しているので、これも自衛隊の訓練の影響はほとんどなさそうです。
安倍元首相暗殺の山上徹也被告は1999年に高校卒業後、専門学校に入学するも中退、2002年に海上自衛隊に入隊し、3年間勤務します。
二十歳そこそこの若者にとって3年間勤務の影響は小さくないと思われますが、事件を起こすのは20年近くたってからですから、やはり自衛隊勤務と事件を結びつけるのはむりがあります。
ただ、自衛隊で銃器を扱った経験が手製銃づくりを思いつかせたということはあるでしょう。
これらの事件と自衛隊入隊は直接結びつきません。
しかし、自衛隊に入隊しようとした動機と事件は関係あるかもしれません。
長野県の青木政憲容疑者は父親から半ばむりやり自衛隊に入隊させられたというので、本人に入隊の動機はないことになりますが、安倍元首相暗殺の山上徹也被告の動機はかなり明白です。
山上被告の母親は統一教会に入信して多額の寄付を行ったことで家庭崩壊し、父親と兄は自殺しています。
山上被告は崩壊家庭から逃げ出すために自衛隊に入ったのです。
近所の会社に就職したのでは家庭から逃げ出したことになりませんが、自衛隊員になれば一般社会から切り離されます。
それに、自衛隊員の生活は駐屯地の隊舎や艦内などでの共同生活なので、山上被告はそこに家庭の代わりを求めたのかもしれません。
銃乱射の18歳自衛官は、幼くして児童養護施設に預けられ、幼稚園と小学校は施設から通いました。その後、親元で生活するようになりますが、中学の後半は児童心理養育施設に入ります。高校に進学してからは、複数の里親のもとを転々としたということです。
つまり彼は親からネグレクトされて、まともな家庭生活というものをほとんど知らないのです。
高校卒業後、すぐに自衛隊に入ったのも、そこに家庭の代わりを求めたのではないでしょうか。
私がこうしたことを考えるようになったきっかけは、池田小事件の宅間守元死刑囚(死刑執行ずみ)の生い立ちを知ったことです。
宅間守は父親からひどい虐待を受け、母親は家事、育児が苦手で、ほとんどネグレクトされ、母親は結果的に精神を病んで長く精神病院で暮らし、兄は40代後半のころに自殺しています。
宅間守は小学生のころから自衛隊に強い関心を持っていて、「将来は自衛隊入るぞ~」と大声で叫んだり、一人で軍歌を大声で歌っていたこともあり、高校生になると同級生に「俺は自衛隊に入るからお前らとはあと少しの付き合いや」と発言していたこともあったそうです。
そして高校退学後、18歳で航空自衛隊に入隊しますが、1年余りで除隊させられます。「家出した少女を下宿させ、性交渉した」ために懲罰を受けたということです。
宅間守の場合、自衛隊は明らかに崩壊家庭からの脱出先です。
自衛隊で自分を鍛えて強くなりたいという思いもあったでしょう。
池田小事件を起こしたのは47歳のときなので、30年近くも前の自衛隊入隊の経歴は誰も問題にしませんでしたが、私は崩壊家庭からの脱出先に自衛隊が選ばれるケースがあるということで印象に残りました。
山上徹也被告の経歴を見たとき、宅間守と同じだと思いました。
銃乱射の18歳自衛官候補生もまったく同じです。
自衛隊入隊と凶悪犯罪が結びつくわけではありません。
家庭崩壊と凶悪犯罪が結びつき、その間に自衛隊入隊がはさまる場合があるということです。
崩壊家庭で育ったからといって凶悪犯罪をするわけではありませんが、凶悪犯罪をする人間はほとんどの場合、崩壊家庭で育って、親から虐待されています。
とりわけ動機不明の犯罪、不可解な動機の犯罪はすべて崩壊家庭とつながっているといっても過言ではありません。
崩壊家庭の子どもは家庭から逃げ出して、不良になったり、援助交際をしたりします。
最近話題の「トー横キッズ」もそうした子どもたちです(名古屋には「ドン横キッズ」、大阪には「グリ下キッズ」がいます)。
こうした子どもたちについては、犯罪をしたり犯罪に巻き込まれたりということばかりが話題になりますが、そのもとに崩壊家庭があるということはまったく無視されています。
凶悪犯罪についても同じです。
根本的な原因は崩壊家庭、幼児虐待にあります。
崩壊家庭の問題が認識されるのは、子どもが虐待されて死ぬか大けがをした場合だけです。
その前に子どもを助けなければならないのですが、誰もが見て見ぬふりをするので、なかなか助けられません。
崩壊家庭を本来の健全な家庭にすることは最大の社会改革です。