イギリスへ旅行していたので、しばらくブログの更新を休んでいました。
エジンバラ4泊、ロンドン2泊の旅です。ロンドンは2度目なので、エジンバラがメインになっています。
私が旅行している間に、予想通り安倍内閣は集団的自衛権行使容認を閣議決定しましたが、日本を離れていると客観的に見られるような気がしました。
ヒースロー空港とエジンバラ空港では、ゲートを通るときに、「一歩下がって(実はそこに立ち位置を示す足型が描いてある)、この明かりを見ろ」と言われます。いわゆる虹彩認証というやつです。
日本人は比較的スムーズにゲートを通れますが、靴を脱がされている人もけっこういます。
たぶんアメリカ、イスラエル、イギリスは空港のテロ対策が世界でもっともきびしいでしょう。
ホテルのテレビで主にBBCを見ていたら、爆弾テロリストのニュースをずいぶんやっていました。アルカイダのテロリストが空港の検査で発見しにくい爆弾を開発したということでした。帰国してからニュースサイトで確かめると、爆弾は外科的な手術で体に埋め込まれて、金属探知機や化学物質探知機でも発見しにくいということです。
「人体内に爆弾」の恐怖、アルカイダの爆弾専門家に各国が警戒
今、世界で行われているのは「テロとの戦い」です。
ところが、安倍首相の頭の中にはそのことがまったくなさそうです。日本が輸入する石油の8割は中東からだから機雷の掃海をしないわけにはいかない、という話をしていましたが、今後、アメリカと戦争する国が機雷を敷設するという状況があるとは思えません。アフガン戦争とイラク戦争を見て、正規軍でアメリカと戦うことの無意味さは誰の目にも明らかになり、反米勢力の戦い方はゲリラとテロにシフトしているからです。
日本が「テロとの戦い」に巻き込まれると、テロ攻撃の対象になります。そのため、空港の検査をきびしくするなどの不利益が生じます(ヒースロー空港の入国審査の前は大行列で、30分以上待たされました)。
いや、空港だけの問題ではありません。日本でいちばんテロ攻撃に対して脆弱なのは新幹線です。大きなスーツケースに爆弾を詰めて新幹線に乗り、自分だけ降りて最高速度に達したときに爆発させれば自爆することもなく大きな被害を与えられます。これを防ぐにはすべての乗客に対して空港並みの持ち物検査をしなければなりませんが、そんな面倒なことは考えたくもありません。
日本でのテロというと原発テロが警戒されますが、簡単にできて大きな効果があるという点で新幹線テロのほうがより可能性があります。
また、タンカー輸送を軍事力で守るという安倍首相の発想は、第二次大戦においてイギリスの輸送船団をドイツ軍の攻撃から守った戦いを連想しているのかもしれませんが、あのときは輸送船も命懸けで航海していたわけで、今果たして命懸けでタンカーを運行する船会社や乗組員がいるのか疑問ですし、そもそも日本は5カ月余り分の石油備蓄量を持っているのですから、そんな長期にわたってタンカー運行ができなくなる状況も考えにくいことです。
要するに安倍首相の頭の中は、湾岸戦争当時と第二次大戦当時のことばかり詰まっていて、今の状況にはまったく適応できていないのです。
なぜそうなるかというと、ひとつには湾岸戦争のときの外務省のトラウマがあるからでしょう。今回の解釈改憲を主導したのは外務省だとされています。
そして、もうひとつは、日本の右翼の戦前回帰志向があるからだと思います。
明治以降の日本は、日清、日露戦争の勝利、満州国の建設など、日本軍の働きによって発展してきた面が多々あったわけで、軍は圧倒的に国民の支持を得ていました。五・一五事件や二・二六事件のときも、国民は犯人の軍人に対してきわめて同情的でした。しかし、その軍に引きずられて日本は悲惨な敗戦を味わったわけです。
しかし、敗戦は一度だけです。それなのに憲法を変えられ、「国の形」を根本から変えられてしまったわけで、これを屈辱と感じて、「国の形」を元に戻したいと考える人もいます。
一方、敗戦の悲惨さが身にしみて、元には戻りたくないという人もいます。
敗戦後の日本は、戦前に回帰したい右翼勢力と、戦前に回帰したくない左翼勢力がずっと角を突き合わせてきたわけです。
雄のシカは互いに角を突き合わせて戦いますが、ときに角がからまって抜けなくなることがあり、場合によっては抜けないために死んでしまうこともあるそうです。
今の日本は、そんなシカを連想させるような状況です。
ということは、安倍首相ら右翼勢力も時代錯誤なら、それに反対する左翼勢力も時代錯誤です。
たとえば、7月2日の朝日新聞朝刊に『「強兵」への道許されない』という解説記事が載っています。
「強兵」への道 許されない 編集委員・三浦俊章
この主張もなんかへんです。安倍内閣は防衛費を増額しましたが、ごくわずかな額ですし、そもそも1000兆円の借金のある国が「強兵」への道を歩めるわけがありません。せいぜい安倍内閣のやっていることは「強兵ごっこ」というところです。
しかし、「強兵ごっこ」を「強兵」と高く評価するので(安倍首相にとっては高く評価されたことになります)、安倍首相はますますやる気になるかもしれません。
安倍首相を支持する人たちも、「強兵」をよいことだと思っているわけですから、この記事はそういう人たちにはなんの説得力もありません。
つまり戦前回帰に反対する人たちはこれまで、「教え子を戦場に送るな」「逆コース」「きなくさい」「軍靴の響きがする」などという紋切り型の表現しかなく、なぜそれがだめなのかを説明してきませんでした。
「憲法9条を守れ」というのも同じです。なぜ憲法9条を守るべきなのかを説明しなければ、若い人を説得できません。
安倍内閣が時代錯誤の暴走をするのは、それを批判する側も同じように時代錯誤だからです。
そして、結局のところ、安倍内閣の時代錯誤はたいしたことにはつながらないでしょう。日本だけの“一国時代錯誤”は不可能だからです。