新聞や雑誌の人生相談を読むと、この回答者のいっていることは違うなあ、私のほうがもっとうまく答えられるのに、と感じることがよくあります。そこで、相談されてもいないのに、勝手に自分なりの回答を書いてみることにしました。回答者に対しては失礼になるかもしれませんが、相談者がもし読んでくれればプラスになるかもしれないということで、ご容赦ください(相談者が読んでくれる可能性はまずないでしょうが)
題して「横やり人生相談」ということで、シリーズにしていくつもりです。
 
 
読売新聞「人生案内」
小2息子 私にだけ反抗
 
 30代主婦。息子は昨年、小学校に入学しましたが、反抗期なのか、母親の私の言うことを聞きません。
 朝学校に行く時はだらだらと支度し、学校から帰っても宿題もせず、ずっとだらだら過ごしています。それを注意すると、荒っぽい言葉で言い返してきます。学校で忘れ物をしたのを私のせいにして、暴言を吐いたこともあります。
 こうした態度は私にだけで、父である夫に対しては反抗もせず、1度注意されれば素直に聞きます。荒っぽい言葉も出ません。夫からは「お前が息子にガミガミ言いすぎるから、余計言うことを聞かなくなるんだ」と注意されました。
 といって、夫の言う通りあまり怒らずに放っておくと、息子の態度はますます横暴になります。どういう接し方をすれば、素直に母親の言うことを聞き、暴言を吐かなくなるでしょうか。(東京・N子)
 「小1プロブレム」という言葉をご存じでしょうか。授業中に動き回ったり、友達や先生に乱暴な態度を取ったりする子どもが近年増えています。
 息子さんの反抗は母親のあなたに向けられているようですが、行動パターンとしては同じでしょう。慣れない小学校生活からのストレスなどが背後にあると考えられます。従来は入学後、1か月ほどで収まっていましたが、最近は1年くらい続く子どもも少なくない点も似ています。
 対策はただ怒るだけではダメです。授業に興味が持てたり先生に優しく抱きしめられたりすると、落ち着きを取り戻すことがあります。家庭と学校の連携が大切ですから、担任の先生に相談し協力を求めてください。
 もう一つ大事なことは家庭内での親の振る舞い、特に父親の態度です。ある家庭での例ですが、子どもが母親に反抗的な態度を取った時、「ママを侮辱することはパパが許さない」という夫の一言で子どもが立ち直ったと言います。息子さんを叱りすぎないようにという夫の助言にあなたが耳を傾けることも必要でしょうが、夫にも自分が批評家・傍観者的になっていないか、反省してもらう必要があるように思います。
 (大日向 雅美・大学教授)
201152  読売新聞)
 
 
このお母さんに問題がありそうなのは誰にもわかるでしょうが、どう問題なのかを指摘できる人はあまりいないのではないでしょうか。
このお母さんは、息子の行動を表現するのに、「朝学校に行く時はだらだらと支度し、学校から帰っても宿題もせず、ずっとだらだら過ごしています」と二度も「だらだら」という言葉を使っています。よほど息子の行動が腹にすえかねているのでしょう。
「だらだら」という言葉には、お母さんの感情や価値判断が入っています。この言葉を基準にものごとを考えては、この問題の解決は見えてきません。
この息子は朝学校の支度をするとき、「元気がなく、行動がゆっくり」という状態にあるのです。これが客観的な表現です。
では、なぜ「元気がなく、行動がゆっくり」なのかというと、おそらく学校に行くのがいやなのでしょう。そして、学校から帰ってきても「元気がなく、行動がゆっくり」なのは、疲れているからだし、宿題などいやなことがあるからでしょう。
 
回答者は「慣れない小学校生活からのストレスなど」と元気のない原因を指摘しています。おそらくその通りでしょう。それ以外の原因が考えられないからです。
ところが、このお母さんは、息子が「だらだら」するのは息子自身に原因があると考えています。
このお母さんはまた、「荒っぽい言葉」「暴言」「横暴」という言葉で息子の行動を表現しています。そして、それも息子自身に原因があると考えています。
 
ところが、この息子はお父さんにはまったくそういう態度をとらないというのです。
これによって、息子の問題ある態度はむしろお母さんに原因があるのではないかと誰でも推測できるでしょう。
つまり、息子の態度が「だらだら」しているとしか見えないお母さんは、息子にいら立ちをぶつけるので、息子は「荒っぽい言葉」「暴言」「横暴」で応えているというふうに推測できるのです。
 
このケースは、息子がお母さんとお父さんに対する態度がまったく違うので、問題は息子ではなくお母さんにあると誰にでも推測できましたが、もしお父さんがお母さんと同じように息子に接していたら、多くの人は息子に問題があると推測したかもしれません。そうしてなにも悪くない子が「悪い子」にされてしまう悲劇が世の中にはいっぱいあります。
 
このケースの問題の始まりは、お母さんの態度にあります。この相談の冒頭でお母さんは「反抗期なのか、母親の私の言うことを聞きません」といい、最後に「どういう接し方をすれば、素直に母親の言うことを聞き、暴言を吐かなくなるでしょうか」といっています。つまり、このお母さんの最大の望みは、息子が自分の言うことを素直に聞いてくれることなのです。
これはきわめて自己中心的な態度です。少しでも思いやりがあれば、息子が慣れない学校でつらい思いをしているのではないかという当然の推測ができたでしょう。
 
このお母さんは息子の態度を「だらだら」「荒っぽい言葉」「暴言」「横暴」と道徳的に問題のある態度ととらえています。つまり「道徳の目」で息子を見ています。
「愛情の目」がないとき代わりに出てくるのが「道徳の目」です。
自分の子どもが道徳的に問題のある態度をとっていると思えたとき、自分は「愛情の目」をなくしているのではないかと疑ってみてください。
 
 
ところで、回答者は夫にも反省してもらう必要があるといっていますが、これは問題を正しくとらえていません。母親が反省するのが先決ですし、それで問題は解決するはずです。