マナーは社会生活に欠かせないものとされますが、最近は「謎マナー」という言葉があって、たとえば、隣の上司のハンコにお辞儀しているように傾けてハンコを押さなければいけないとか、乾杯するときは目上の人よりもグラスを下げないといけないとか、お茶を出されても「どうぞ」と勧められるまで口をつけてはいけないとか、首をかしげるようなマナーが多々あります。
どうして謎マナーが次々と生まれるのでしょうか。
最近、「車の助手席で寝るのはマナー違反か」ということがネットで話題になりました。こうしたことから謎マナーが生まれるのかもしれません。
その議論を伝える記事を引用します。
「なんでだめなの」助手席の人が寝るのはマナー違反?論争が話題 ひろゆきも参戦「高速は寝てて頂けると、、、」レジャーシーズン真っ只中のきょうこの頃。車で遠出をする人も多いことだろうが、助手席での“乗車マナー”が話題を呼んでいる。ことの発端は、あるTwitterユーザーが引用した、なつもり氏のWEB漫画『残飯処理係』の一節。助手席で寝てしまった女性に対し、男性が「運転してもらってるんだからさ~助手席で寝るのはダメでしょ」と嫌味を言うシーンだ。“運転をしてもらっているのに助手席で寝るのはマナー違反である”とする作中の男性について、このユーザーが“やっぱ少なからず居るのか~こういう人”とコメントすると、多くの共感を呼び、7月18日現在1.4万件ものいいねが集まった。また、実際に“助手席で寝てはいけない”と教えられてきたと言う人の体験談も寄せられている。《元彼に言われた。「助手席座ってるのに。役立たず」って。》《逆に私は親から「お前が助手席に乗る時は運転手が眠くならないよう絶対に寝るな」と言われてました。なのでそれを今でも守ってます。》《うちの主人も助手席で寝るな~!っていう人でした》“助手席で寝るのはマナー違反”という考え方に対する意見の多くは、《助手席で寝るなってのはなんでなのか昔から意味わからんのだけど??なんでそうなる??》と否定的なもの。また、運転手側の目線としては《自分は逆に寝てもらった方が嬉しいですね》《寝れるほど安心してくれてるって解釈だけどなぁ 運転が上手いってことで》と、同乗者が眠れることが上手な運転の証と考える人もいるようだ。“ひろゆき”こと西村博之氏(46)もこの話題に参加。発端となったツイートを引用し、《家族がスピード出すのが苦手な人なので、寝てる間に加速しまくって遊んでたりするので、高速は寝てて頂けると、、、》と斜め上からの意見を投じていた。一方で、“助手”としての役割を果たしてほしいという意見も寄せられている。話し相手になることで、運転手の眠気をさましたり道案内をしてほしいというものだ。運転が苦手ながら運転をしなければいけなくなった人も、助手席の人には寝てほしくないという気持ちが強くなるようだ。(後略)https://news.yahoo.co.jp/articles/255a89576b5f29a5e2c410f8b14efa2b769428c6
私がまず思ったのは、これはマナーの問題なのかということです。
というのは、助手席でどうふるまうべきかということは、運転席の人間と助手席の人間のそれぞれの価値観と人間関係によって決まるので、普遍的な“助手席のマナー”というのはないと思うからです。
同じ車に乗るのは、たいてい家族、友人、恋人、同じ会社の人間といったところです。
家族同士であれば、そこにマナーがあるのはへんですし、かりにマナーがあるとしても、そのマナーは家族以外には使えないはずです。
ごく親しい友人同士なら助手席で寝ても平気です。
しかし、あまり親しくない友人で、「乗せてもらっている」という立場なら、寝るのは遠慮しようかなということはありえます。
運転しているのが会社の上司なら、もっと寝るのは遠慮したほうがよさそうです。
会社の上司に運転してもらっているという状況はめったにないはずですが、会社の上司への過剰な忖度が謎マナーを生み出しているということがあるかもしれません。
ところで、この記事のきっかけになった「なつもり氏のWEB漫画『残飯処理係』の一節」とはどういうものか、見てみました(その漫画はこちら)。
若い女性が彼氏の運転する車の助手席に乗っていて、つい居眠りしてしまいます。
「ハッ」と気づいて、「やばっ、寝てた…最近睡眠時間足りてないから…バレてないよね」と思っていると、彼氏が「寝てたよね?」と言います。
「ご、ごめん。昨日寝るのちょっと遅くなっちゃって」と言うと、彼氏は「運転してもらってるんだからさ~。助手席で寝るのはだめでしょ」と言います。
女性は反論しかけますが、雰囲気が悪くなることを恐れて、言うのをやめます。
連載の一部の、こういう短い漫画です。
この彼氏の言っていることは完全にモラハラです。
「助手席で寝るべきではない」というマナーを自分で勝手につくって、それでモラハラをしているのです。
この男には、睡眠不足の彼女に対する思いやりがまったくありません。
普通は恋人が隣で疲れて眠っていれば、暖かい気持ちで見守るものです。
ですから、こういう思いやりのない男とつきあって、モラハラに気づかない女性にも問題があります。
いや、この女性だけではありません。
引用した記事には、やはりモラハラに気づかない人の声が載っていました。
《元彼に言われた。「助手席座ってるのに。役立たず」って。》《逆に私は親から「お前が助手席に乗る時は運転手が眠くならないよう絶対に寝るな」と言われてました。なのでそれを今でも守ってます。》《うちの主人も助手席で寝るな~!っていう人でした》
「寝る」というのはもっとも基本的な生理欲求です。「寝るな」というのは「トイレに行くな」というのに近いものがあります。
親が子どもに「絶対に寝るな」と言うなど、親としての愛情がありません。
こういうモラハラがモラハラとされないので、モラハラが「謎マナー」になっているのではないでしょうか。
マナーは社会生活に必要なものとされ、マナーを守るのはたいせつなこととされます。
そのため、マナーは多いほどよいと思われて、それが謎マナーを生むひとつの理由になっているのではないでしょうか。
しかし、マナーには適正な水準というものがあります。
マナーがあまりに多すぎると、マナーによって自由が奪われ、マナーを守ることに汲々として精神が疲弊します。
これからはマナーをへらすことを考えなければなりません。
親が子どもに「絶対に寝るな」と言うなど、親としての愛情がありません。
こういうモラハラがモラハラとされないので、モラハラが「謎マナー」になっているのではないでしょうか。
マナーは社会生活に必要なものとされ、マナーを守るのはたいせつなこととされます。
そのため、マナーは多いほどよいと思われて、それが謎マナーを生むひとつの理由になっているのではないでしょうか。
しかし、マナーには適正な水準というものがあります。
マナーがあまりに多すぎると、マナーによって自由が奪われ、マナーを守ることに汲々として精神が疲弊します。
これからはマナーをへらすことを考えなければなりません。