村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

カテゴリ: 対米従属ニッポン

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衆議院の東京15区、島根1区、長崎3区の三つの補欠選挙が4月16日に公示されましたが、東京15区には9人が立候補し、自民党が独自候補の擁立を見送ったために、野党同士のにぎやかな戦いになりました。
やはり候補者(政党)が多いという多様性はたいせつです。それだけで盛り上がります。

自民党は裏金問題などで支持率が下がっていますが、かといって野党にも期待できないという声があります。
では、野党はどうすればいいのかということを、この選挙を通して考えました。

東京15区補選の候補者は以下の通りです(届け出順)。
・諸派「NHKから国民を守る党」新人の弁護士福永活也氏(43)
・無所属新人でファーストの会副代表の乙武洋匡氏(48)=国民民主、ファーストの会推薦
・参政党新人の看護師吉川里奈氏(36)
・無所属元職の元環境副大臣秋元司氏(52)
・日本維新の会新人の元江崎グリコ社員金沢結衣氏(33)=教育無償化を実現する会推薦
・諸派「つばさの党」新人でIT会社経営の根本良輔氏(29)
・立憲民主党新人で共産、社民党の支援を受ける元江東区議の酒井菜摘氏(37)
・諸派「日本保守党」新人で麗沢大客員教授の飯山陽氏(48)
・無所属新人の元総合格闘家須藤元気氏(46)

序盤の世論調査では、立憲民主党の酒井菜摘候補がリードしているようです。
立民党は野党第一党のために反自民票の受け皿になりやすく、酒井候補は昨年12月の江東区長選に立候補して惜敗したので、地元有権者への知名度もあります。
しかし、16日に行われた候補者のネット討論会には、酒井候補だけ出席しませんでした。リードしている立場としての選挙戦術なのでしょうが、政策面などで訴えることがあれば出席してもよかったはずです。
野党第一党というポジションにあぐらをかいている感じがします。


都民ファーストの会は乙武洋匡氏を擁立しました。著名人だけに有利ではないかと思われましたが、いろいろと逆風が吹いています。
自民党が推薦するという話がありましたが、結局自民党の推薦はなくなり、都民ファーストの会と国民民主党の推薦となりました。
小池百合子都知事の学歴詐称問題が蒸し返されたのもマイナスです。
そして、なによりも乙武候補の過去の女性問題が蒸し返されています。

2016年、自民党が参院選に乙武氏を擁立しようとしましたが、週刊新潮が乙武氏は過去に5人の女性と不倫していたと報じて、結局選挙出馬はなくなりました。このときは、奥さんに介助してもらいながら不倫するとはけしからんというのが世論の大勢でした。
2022年7月の参院選に乙武氏は無所属で立候補し、落選しましたが、このときは不倫はほとんど問題にされませんでした。
そして今回の立候補では、また昔の不倫が蒸し返されています。2022年には問題にならなかったのに、どうして今回は問題になるのでしょうか。

2022年の参院選は無所属での立候補でしたから、あまり当選の可能性はないと見られていました。しかし、今回は都民ファーストの会の推薦で、ほかに有力候補もいないことから当選の可能性は高そうでした。
多くの人は身体障害者に同情的ですが、それは自分より下の人間と見ているからです。身体障害者が自分と対等の人間として自己主張してくるのは許せません。私はこのことを、車椅子の人が映画館の一般席で鑑賞しようとしたためにトラブルになったことを「車椅子ユーザーはなぜ炎上するのか」という記事に書いたときに感じました。
乙武候補の女性問題が取り上げられる背景には障害者への差別意識があるのではないでしょうか。

日本維新の会は金沢結衣候補を立てました。
維新の馬場伸幸代表は応援演説において「立憲の国会議員を何人増やしても一緒、立憲には投票しないで」と語りました。また、国会での記者会見では「立憲民主党は、叩き潰す必要がやっぱりある」と語りました。
馬場代表は昨年7月のネット番組で、自民党と維新の関係について「第一自民党と第二自民党でいい」
と語っています。
今回の選挙に自民党の候補がいないから立憲民主党を攻撃しているわけではなくて、もともと自民党よりも立憲民主党を主要な敵と見ているわけです。

馬場代表はまた、「共産党はなくなったらいい」とも言っていて、反共主義です。
国民民主党もまた反共主義です。玉木雄一郎代表は「立民が共産と組むなら候補者調整や選挙協力はできない」と言っています。
与野党対決よりも野党同士の対決のほうが優先されています。これでは自民党を追い詰めることはできません。

日本保守党は飯山陽候補を擁立しました。
日本保守党は、自分では第二自民党とは言っていませんが、実態は第二自民党です。安倍首相を支持していた保守層が自民党に愛想を尽かしてつくった政党です。
ですから、野党共闘などは最初から考えていないでしょう。
世論調査によると急速に支持を伸ばしているそうです。
代表の百田尚樹氏は68歳で、つい最近も腎臓ガンの手術をしたばかりです。今のところ個人政党みたいなものですから、全国的な政党に育てていく気力と体力があるかが問題です。
もし飯山候補が当選はむりでも、次点ぐらいになったら、次の総選挙で自民党から立候補しようと考えていた人たちが保守党の看板のもとに集まってきて、自民党票を食って、自民党が大幅に議席をへらすという展開も考えられます。
案外これが政権交代の近道かもしれません。


野党がまったくまとまらないのは、政権を獲ってやろうという気概がないからです。野党の立場に安住しています。55年体制の社会党みたいなものです。
立民の泉健太代表は昨年11月に「5年で政権交代を考えている」と言ったことがあります(批判されて、のちに「次の衆院選で政権交代」と言いましたが)。
野党は野党の立場に安住し、与党は与党の立場に安住する中で、日本は長く停滞し、挙句には裏金問題などが起こってきました。

野党の中ではれいわ新選組だけが、小党ではありますが、政権をねらう迫力を感じさせますが、この補選には関わっていません。


今回の選挙では政策論議も低調です。
各政党の政策を比較する「Japan・choice」というサイトを参考にすると、各政党にそれほどの対立点がありません。
各党が力を入れて主張しているのは、国民への保障や給付を増やし、負担は少なくという当たり前のことです。あえて対立点を探すと、一律給付か所得制限付き給付かということぐらです。
消費税についても、与党は現状維持ですが、野党はすべて引き下げないし廃止です。
改憲問題については各党で意見が違います。しかし、選挙ではほとんど議論になっていません。有権者の関心がないのでしょう。敵基地攻撃能力を保有することになったので、改憲してもしなくてもいっしょということもあります。
外交問題についての議論も低調です。日本の国力が低下して、国民も各政党も外交力に自信を失っているからでしょうか。


与野党対決の選挙においては、野党は与党の政策の間違いを攻撃し、正しい政策を提示することです。それしかありません。
ところが、今はそういう対立点がない状況です。
与党が理想的な政治を行っていれば別ですが、対立点がないはずがありません。
対立点がないのは、野党の腰が引けているからです。

たとえば普天間基地の辺野古移設については、与党は移設続行ですが、野党はすべて再交渉ないし移設中止です。
日米地位協定についても、与党は現状維持ですが、野党はすべて見直しないし改定です。
つまり与野党の対立点が明白です。
ところが、野党はこの対立点をアピールすることはしません。
日米地位協定について与党が現状維持なのは、アメリカが改定に応じないことがわかっているからです。
立民党も鳩山政権のときに経験して、ある程度わかっています。つまり立民党が公約に「日米地位協定の改定」を掲げているのは見せかけで、本気ではないのです。

「ドイツやイタリアはアメリカとの地位協定を改定して不利な点を改善しているのに、日本はなぜできないのか」と言われますが、別に日本政府が怠慢なわけではなくて、それがアメリカ政府の方針なのでしょう。
おそらくアメリカ政府はドイツ人やイタリア人よりも日本人を差別しているのでしょう(リメンバー・パールハーバーという感情もあるでしょう)。
ですから、政権交代しても同じことです。

もっとも、地位協定改定がまったく不可能なわけではありません。
日本政府が日米同盟離脱カードを用意して交渉すればいいのです。
それには中国やロシアとの外交も関係しますし、なによりも日本国民の心理的な対米依存を克服しなければなりません。
野党は国民意識を変えると考えただけで腰が引けるのでしょう。
しかし、それをやらないと日本再生はありません。
日米関係は経済の問題でもあります。これまで日本は日米自動車摩擦や日米半導体戦争などで負け続けて経済大国の地位を失ってきたのです。
国民も日本外交があまりにも対米従属的であることは感じているはずです。
対米依存を続けてもなにもいいことはないと国民を説得することは不可能ではありません。


それから、野党は教育改革を争点にするべきでしょう。
日本の学校教育は悪化の一途をたどっています。
小中高校と特別支援学校における2022年度のいじめの認知件数は、前年度から1割増の68万1948件に上り、過去最多となりました。
小中学校における2022年度の不登校児童生徒数は29万9048人となり、前年度から22.1%増加しました。
文部科学省の調査によると、小中高校における2022年度の自殺者は計411人で、21年度の368人から43人増加しました(過去最多は20年度の415人)。
ほかにブラック校則の問題もあります。ブラック校則はほとんど改善されないか、むしろ悪化している感じすらあります。

誰がどう見ても、日本の学校教育は大失敗です。
野党がここを追及しないのは不思議です。
子どもには選挙権がないですし、おとなには体罰賛成、管理教育賛成という人も多いので、追及しても得はないと思っているのでしょうか。
しかし、「日本をよくする」ということを考えれば、教育をよくすることは欠かせません。


あと、家族の問題もあります。
自民党は夫婦別姓に反対する理由に「家族の絆が壊れる」ということを挙げています。
ですから、家族の問題も政治の争点になりえます。
もっとも、「政治が家庭に介入する」ということを嫌う人もいるので、それなりの理論構築をしなければなりません。
野党はもっと自民党の家族観を追及するべきです。

対米関係、学校教育、家族関係を与野党の争点にすると、政治は盛り上がるはずです。


なお、つばさの党の根本良輔候補は、自分の選挙活動そっちのけでほかの候補の選挙活動を妨害して、数々のトラブルを起こしています。立候補者に警察は手を出しにくいということを利用した悪質な行為です。こうした行為には対策が講じられるべきです。

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トランプ前大統領が共和党の大統領候補になるのは確実な情勢です。
「もしトラ」――もしトランプ氏が大統領になったら――ということを真剣に考えなければいけません。

しかし、トランプ氏の行動を予測するのは困難です。
2020年の大統領選でトランプ氏の負けがはっきりしたとき、トランプ氏は「選挙は盗まれた」と言って負けを認めず、支持者を扇動してホワイトハウス襲撃をさせました。
民主主義も国の制度も平気で壊します。

もしトランプ氏が次の大統領選に出たらたいへんです。負けた場合、負けを認めるはずがないからです。またしても大混乱になります。
それを防ぐには、トランプ支持者による特別な選挙監視団をつくって、選挙を監視させるという方法が考えられますが、それをすると、その選挙監視団がまた問題を起こしそうです。
かりにトランプ氏が正当に当選しても、果たして4年で辞任するかという問題もあります。大統領の免責特権がなくなるので、むりやり憲法を改正してもう1期続けることを画策するに違いありません。


マッドマン・セオリーという言葉があります。狂人のようにふるまうことで、相手に「この人間はなにをするかわからない」と恐れさせるというやり方です。
しかし、トランプ氏は戦略としてマッドマン・セオリーを採用しているとは思えません。やりたいようにやっている感じです。
そして、そこにトランプ氏なりのセオリーがあります。

トランプ氏は保守派で白人至上主義者です。その点に関してはぶれません。
ですから、保守派で白人至上主義者のアメリカ国民も、ぶれずにトランプ氏を支持し続けるわけです。
支持者にとっては、トランプ氏が大統領職にとどまってくれるのが望ましく、正当な選挙で選ばれたかどうかは二の次です。


アメリカの白人至上主義者はアメリカを「白人の国」と思っています。
アメリカ独立宣言にはこう書かれています。

「われわれは、以下の事実を自明のことと信じる。すなわち、すべての人間は生まれながらにして平等で あり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているという こと」

「すべての人間は生まれながらにして平等」とありますが、先住民や黒人奴隷にはなんの権利もなかったので、先住民や黒人奴隷は「人間」ではなかったわけです。
また、白人女性に参政権がなかったことから、白人女性も「人間」とされていなかったかもしれません(「すべての人間」は英文では「all men」です)。
「創造主(Creator)」という言葉も出てきます。これは当然キリスト教由来の言葉です。異教徒にもこの宣言は適用されるのかという疑問もあります。

ともかく、独立宣言には「すべての人間」に人権があるとしていますが、実際には「白人成年男性」にしか人権はなかったのです。
このときうわべの理念と中身のまったく違う国ができたのです。そのことがのちのちさまざまな問題を生みます。


「白人成年男性の人権」を「普遍的人権」にする戦いはずっと行われてきました。

女性参政権は1910年から一部の州で始まりましたが、憲法で「投票権における性差別禁止」が定められたのは1920年のことです。

アメリカは世界でもっとも遅く奴隷制を廃止した国です。
リンカーン大統領は黒人奴隷を解放した偉大な大統領とされていますが、実際はやっとアメリカを“普通の国”にしただけです。

黒人参政権は、奴隷制の廃止にともなって1870年に憲法で認められ、実際に黒人が投票権を行使して、州議会だけでなく14人の黒人下院議員、2人の黒人上院議員が誕生しました。
しかし、そこから白人の巻き返しが始まり、さまざまな理由をつけて黒人の選挙権は奪われます。
黒人の投票権が復活したのは1964年の公民権法の成立以降のことです。

現在、共和党の支配する州では、非白人の有権者登録を妨害するような制度がつくられています。たとえば、有権者登録には写真つきの身分証が必要だとするのです。貧困層は写真つきの身分証を持っていないことが多いからです。また、車がないと行けないような場所に投票所や登録所を設けるとか、黒人の多い地域では何時間も並ばないと投票できないようにするといったことが行われています。

白人至上主義者にとっては、黒人やヒスパニックが選挙権を得たときにすでに「選挙は盗まれた」のです。
ですから、トランプ氏が「選挙は盗まれた」と言ったときに簡単に同調できたわけです。

アメリカの人口構成で白人はいずれ少数派になりそうです。そこに黒人のオバマ大統領が出現して、白人至上主義者はますます危機感を強めました。その危機感がトランプ氏を大統領に押し上げました。

「ラストベルト」における“しいたげられた白人”の不満がトランプ当選につながったと日本のマスコミはしきりに報道していました。しかし、テレビに出てくる白人を見ていると、失業者はいなくて、大きな家に住み、広い土地を持っています。ぜんぜん“しいたげられた白人”ではありません。そもそも黒人世帯の所得は白人世帯の所得の60%ですし、白人世帯の資産は黒人世帯の資産の8倍です。
日本のマスコミは白人側に立っているので、アメリカの人種差別の実態がわかりません。

アメリカの先住民は、先住民居留地に住むという人種隔離政策のもとにおかれています。先住民女性の性的暴行にあう確率はほかの人種の2倍です。「町山智浩のアメリカの今を知るTV」によると、ナバホ族は居留地に独自の“国”をつくっていますが、連邦政府と交渉しても水道や電気がろくに整備されないということです。
日本のマスコミは先住民差別についてはまったくといっていいほど報道しません。


アメリカは今でも人種差別大国で、白人至上主義はいわばアメリカの建国の理念です。
アメリカの外交方針も基本は白人至上主義です。
「ファイブアイズ」と呼ばれる、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドによって成り立つ情報共有組織があります。この5か国はアングロサクソンの国です。1950年ごろに結成され、長く秘密にされていましたが、2010年の文書公開で明らかになりました。
人種によって国が結びつくというのには驚かされます。ここにアメリカの本質が現れています。

第二次大戦後、アメリカが白人の国と戦争をしたのはコソボ紛争ぐらいです。あとベトナム、イラク、アフガニスタンのほか、数えきれないくらい軍事力を行使していますが、すべて非白人国が対象です。

同じ白人国でも、西ヨーロッパの国は文化が進んでいますが、東ヨーロッパの国は遅れているので、東ヨーロッパは差別されています。
東西冷戦が終わって、ロシアが市場経済と民主主義の国になったのに、NATOがロシア敵視を続けて冷戦に逆戻りしたのも、東ヨーロッパに対する差別があったからというしかありません(あと東方教会という宗教の問題もあります)。

パレスチナ問題も、イスラエルは白人の国とはいえませんがヨーロッパ文化の国であるのに対し、パレスチナはアラブ人とイスラム教の地域です。そのためアメリカは公平な判断ができません。


アメリカ国内は保守派とリベラルの「分断」が深刻化しています。
単純化していうと、保守派は人種差別と性差別を主張し、リベラルは反人種差別とフェミニズムを主張しています。
もっとも、保守派は表立って人種差別と性差別を主張するわけではありません。本人たちの主観では「道徳」を主張しています。
つまり保守思想というのは「古い道徳」のことです。

自民党の杉田水脈衆院議員が国会で「男女平等は絶対に実現し得ない反道徳の妄想です」と発言したことがあります。この発言は保守思想の本質をみごとに表現しています。「良妻賢母」や「夫唱婦随」といった古い道徳を信奉する人間は必然的に男女平等に反対することになります。

公民権法が成立する以前のアメリカでは、バスの座席も待合室も白人と黒人で区別されていました。黒人は黒人として扱うのが道徳的なことでした。もし白人が黒人を連れてレストランに入ってきたら、その行為はひどく不道徳なこととして非難されました。公民権法が成立したからといって、人間は急に変われません。黒人を黒人として扱うのが道徳的なことだと思っている人がいまだに多くいて、そういう人が差別主義者です。
ですから、差別主義者というのは要するに「古い人間」です。
自分の親も祖父母も黒人を黒人として扱っていた。自分も幼児期からそれを見て学んで、同じようにしている。自分は家族と伝統をたいせつにする道徳的な人間だ――そのような自己認識なので、差別主義者の信念はなかなか揺るぎません。

ですから、差別主義を克服するということは、自分の親や祖父母のふるまいを批判するということであり、自分が幼児期から身につけたふるまいを否定するということです。
もちろんこれはむずかしいことです。
リベラルはこのむずかしいことから逃げて、安易な“言葉狩り”に走ったので、人種差別も性差別もそのまま温存されています。
そのため、保守とリベラルの分断は深まるばかりです。


トランプ氏は過激なことばかり主張しているようですが、実はアメリカがもともと隠し持っていたものを表面化しているだけです。
ですから、バイデン政権とそれほど異なるわけではありません。日本はすでにバイデン政権の要求で防衛費GDP比2%を約束しました。もしかするとトランプ政権が成立すると3%を要求してくるかもしれませんが、その程度の違いです。

とはいえ、トランプ政権になると要求が露骨になり、これまで隠してきた屈辱的な日米関係が露呈するかもしれません。
そのときに日本政府は、国民世論をバックに、中国やグローバルサウスと連携することでトランプ政権とタフに交渉できればいいのですが、これまでの日本外交を考えると、残念ながらとうていできそうにありません。

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ウクライナ戦争が始まって2月24日で丸2年になりましたが、着地点がまったく見えません。
そもそも現在の戦況すらよくわからないので、問題を整理してみました。

ロシア軍は2月17日、激戦地のドネツク州アウディイフカを完全制圧したと発表し、ゼレンスキー大統領も戦略的判断による撤退を認めました。
また、各地でロシア軍は前進しているということです。
どう考えてもロシア軍有利の戦況になっていますが、報道は「ウクライナ軍有利」を思わせるようなものがほとんどです。

「ウクライナ空軍はここ数日でロシアのSu-34戦闘爆撃機など7機を撃墜した」
「早期警戒管制機A50を先月と今月と立て続けに2機撃墜した」
「ウクライナ軍はロシア軍のミサイル艇を撃沈、大型揚陸艦を撃沈、黒海艦隊の3分の1を無力化した」
「ウクライナ軍は2月15日、ロシア軍の最新鋭戦車T-90Mを4両破壊した」
「ウクライナ軍はアウディイフカから撤退を強いられたにもかかわらず消耗戦では勝ちつつある」

これらのニュースを見ていると、「ロシア軍が前進している」というニュースがかき消されてしまいます。
ウクライナ国内で国民と兵士の士気を高めるためにこうした“大本営発表”が行われるのはわかりますが、日本で行われるのは不可解です。誰がメディアを操作しているのでしょうか。


こうしたことは開戦当初から行われていました。
開戦直後、アメリカを中心とした国はロシアにきびしい経済制裁をしました。

・石油ガスなどの輸入禁止
・高度技術製品などの輸出禁止
・自動車メーカーやマクドナルドなど外国企業の撤退
・国際的決済ネットワークシステムであるSWIFTからの排除

これらの制裁によってロシア経済は大打撃を受け、財政赤字が拡大し、ハイテク兵器がつくれなくなるなどと喧伝されました。
しかし、ロシアのGDP成長率は、2022年こそ-1.2%でしたが、2023年は3.6%のプラス成長でした。兵器もかなり製造しているようです。
全然話が違います。

経済制裁は、北朝鮮やイランやキューバに対してずっと行われていますが、それによって情勢が変わったということはありません。
ロシアへの経済制裁の効果も大げさに宣伝していたのでしょう。


ロシアからドイツへ天然ガスを送る海底パイプライン「ノルドストリーム」が2022年9月に爆破されるという事件がありました。
西側はロシアの犯行だとしてロシアを非難し、ロシアは西側の犯行だと反論し、激しい応酬がありました。
1か月ほどしたころ、ニューヨーク・タイムズが米情報当局者らによる情報として、親ウクライナのグループによる犯行だということを報じました。
独紙ディ・ツァイトは、爆発物を仕掛けるのに使われた小型船はポーランドの会社が貸したヨットだとわかったとして、ヨットの所有者は2人のウクライナ人だと報じました。
さらに独誌シュピーゲルは、ウクライナ軍特殊部隊に所属していた大佐が破壊計画の調整役として中心的役割を担ったと報じ、ワシントン・ポストは米当局の機密文書に基づき、ウクライナ軍のダイバーらによる破壊計画を米政府が事前に把握していたと報じました。
流れは完全にウクライナの犯行のほうに傾きました。
ところが、このころからぱたっとノルドストリーム爆破に関する報道はなくなりました。当然、ウクライナはけしからんという声も上がりません。
ウクライナにとって不都合なことは隠されます。


しかし、戦況がウクライナ不利になっていることは隠せなくなってきました。
なぜウクライナ不利になっているかというと、主な原因は砲弾の補給がうまくいっていないことです。

東京で行われたウクライナ復興会議に出席するため来日したウクライナのシュミハリ首相はNHKとのインタビューで「ウクライナも自国での無人機の製造を100倍に拡大したほか、弾薬の生産にも取り組んでいますが、必要な量には達していません。ロシアは大きな兵器工場を持ち、イランや北朝鮮からも弾薬を調達していて、ウクライナの10倍もの砲撃を行っているのです」と語りました。
この「10倍」というのは話を盛っているかもしれません。ほかの報道では、ロシアはウクライナの5倍の砲弾を補給しているとされます。

現代の戦争では、銃撃で死ぬ兵士は少なく、ほとんどの兵士は砲撃と爆撃で死にます。
ウクライナ軍の砲弾不足は致命的です。

なぜこんなことになっているのでしょうか。
EUは昨年3月、1年以内に砲弾100万発を供給する計画を立てましたが、約半分しか達成できていないということです。
EUの各国に砲弾製造を割り当てればできるはずです。
できないのは、よほど無能かやる気がないかです。
ゼレンスキー大統領は激怒してもいいはずですが、さすがに支援される立場ではそうもいかないでしょう。
代わって西側のメディアが砲弾供給遅れの責任を追及するべきですが、そういう報道もありません。“支援疲れ”などという言葉でごまかしています。


なぜEUは砲弾の供給を計画通りにやらないのかと考えると、本気で勝つ気がないからと思わざるをえません。
これはアメリカやNATOも同じです。
ロシアは勝つために必死で砲弾やその他の兵器を増産しているので、その差が出ていると考えられます。

アメリカ、ドイツ、フランス、イギリスなどが新鋭戦車をウクライナに提供したのは、開戦からかなり時間がたってからで、しかも数量が限定的でしたから、ゲームチェンジャーにはなりませんでした。
F-16の提供も遅れたために、今はまだパイロットの訓練中です。
多連装ロケット砲のハイマースや155ミリ榴弾砲も供与されていますが、肝心の弾が不足です。
ロシア領土に届くような長距離ミサイルは供与されていません。
つまり「戦力の逐次投入」をして、しかもその戦力が不足です。
アメリカなどの支援国が本気で勝つ気なら、勝つためにはどれだけの兵器が必要かを計算して、最初から全面援助しているのではないでしょうか。

なぜアメリカなどに勝つ気がないかというと、理由は単純で、ロシアを追い詰めると核戦争になるかもしれないからです。
このところ通常兵器の戦闘が続いているので、核兵器の存在を忘れがちですが、核兵器抜きに戦争は論じられません。

プーチン大統領は開戦初期に何度も核兵器の使用の可能性に言及しました。
この発言は「核による脅し」だとして各国から批判されましたが、その発言の効果が十分にあったようです。
アメリカなどがウクライナ支援を限定的にしていることがわかってからは、プーチン大統領は核について発言することはなくなりました。

ウクライナにとっての理想は、開戦時点の位置までロシア軍を押し戻すことでしょう。
しかし、そんなことになればロシアは多数の戦死者をむだ死にさせたことになるので、プーチン大統領としては絶対認められません。
そのときは核兵器を使うかもしれません。
戦術核を一発使えば、ウクライナ軍に対抗手段はないので、総崩れになるでしょう。

そのとき、アメリカは弱腰と言われたくなければ、「もう一発核を使えばアメリカは核で報復するぞ」と言わねばなりませんが、これは最終戦争につながるチキンレースです。

このチキンレースでアメリカとロシアは対等ではありません。
ロシアはウクライナと国境を接して、NATOの圧力にさらされているので、日本でいうところの「存立危機事態」にありますが、アメリカにとってはウクライナがどうなろうと自国の安全にはなんの関係もありません。
ですから、トランプ元大統領のウクライナ支援なんかやめてしまえという主張がアメリカ国民にもかなり支持されます。

ともかく、アメリカとしては「ロシアに核兵器を使わせない」という絶対的な縛りがあるので、ロシアを敗北させるわけにいかず、したがってウクライナはどこまでいっても「勝利」には到達できないのです。
このことを前提に停戦交渉をするしかありません。
最終的に朝鮮半島のように休戦ラインをつくることになるでしょうか。


アメリカは東アジア、中東、ヨーロッパと軍隊を駐留させて、支配地域を広げてきました。
まさに「アメリカ帝国主義」です。
しかし、戦争においては、進撃するとともに補給や占領地の維持が困難になり、防御側も必死になるので、いずれ進撃の止まるときがきます。それを「攻勢限界点」といいます。
アメリカ帝国主義もヨーロッパ方面では「攻勢限界点」に達したようです。
核大国のロシアにはこれ以上手出しできません。


もっとも、アメリカ人は自国を帝国主義国だとは思っていないでしょう。
「自由と民主主義を広める使命を持った国」ぐらいに思っています。
現実と自己認識が違っているので、ウクライナ支援をするか否かということでも国論が二分してしまいます。

トランプ氏再登板に備えて、日本人もアメリカは帝国主義か否かという問題に向き合わなければなりません。


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アメリカの社会病理はますます進行し、銃犯罪、麻薬汚染、人種差別などが深刻化しています。リベラルと保守の分断もとどまるところを知らず、内戦の危機までささやかれています。
こうした社会病理の根底にあるのは、人間関係のゆがみです。
そして、人間関係のゆがみの根底にあるのは、おとなと子どもの関係のゆがみです。

「子どもの権利条約」の締約国・地域の数は196で、国連加盟国で締約していないのはアメリカだけです。
つまりアメリカは国家の方針として子どもの人権を尊重しない世界で唯一の国です。
こういう重要なことがほとんど知られていないのは不思議なことです。
子どもの人権を尊重しないことがさまざまな問題を生んでいます。


幼児虐待で死ぬ子どもの数は、日本では多くても年間100人を越えることはありませんが、アメリカでは毎年1700人程度になります。
もちろん死亡する子どもの数は氷山の一角で、はるかに多数の子どもが虐待されています。
西洋の伝統的な考え方として、理性のない子どもは動物と同様と見なして、きびしくしつけするということがあります。子どもの人権という概念がないために、それが改まっていないと思われます。

日本では不登校の子どもをむりやり学校に行かせるのはよくないという考えが広まってきましたが、アメリカでは義務教育期間は子どもは学校に通う義務があり(日本では親に子どもに教育を受けさせる義務がある)、不登校は許されません。しかし、むりやり子どもを学校に行かせようとしてもうまくいかないものです。
そんなときどうするかというと、子どもを矯正キャンプに入れます。これは日本の戸塚ヨットスクールや引きこもりの「引き出し屋」みたいなものです。
『問題児に「苦痛」を与え更生せよ 「地獄のキャンプ」から見る非行更生プログラム 米』という記事にはこう書かれています。
アメリカの非行少年更正業界は、軍隊式訓練や治療センター、大自然プログラム、宗教系の学校で構成される1億ドル規模の市場だ――州法と連邦法が統一されていないがゆえに、規制が緩く、監視も行き届いていない。こうした施設の目的は単純明快だ。子どもが問題を抱えている? 夜更かし? ドラッグ? よからぬ連中との付き合い? 口答え? 引きこもり? だったら更正プログラムへどうぞ。規律の下で根性を叩き直します。たいていはまず子どもたちを夜中に自宅から連れ去って、好きなものから無理矢理引き離し、ありがたみを感じさせるまで怖がらせる。だが、組織的虐待の被害者救済を目的としたNPO「全米青少年の権利協会」によると、懲罰や体罰での行動矯正にもとづく規律訓練プログラムの場合、非行を繰り返す確率が8%も高いという。一方で、認可を受けたカウンセリングでは常習性が13%減少することが分かっている。
大金持ちのお騒がせ令嬢であるハリス・ヒルトンもキャンプに入れられたことがあり、議会でこのように証言しました。
「ユタ州プロヴォキャニオン・スクールでは、番号札のついたユニフォームを渡されました。もはや私は私ではなくなり、127番という番号でしかありませんでした。太陽の光も新鮮な空気もない屋内に、11カ月連続で閉じ込められました。それでもましな方でした」とヒルトンは証言した。「首を絞められ、顔を平手打ちされ、シャワーの時には男性職員から監視されました。侮蔑的な言葉を浴びせられたり、処方箋もないのに無理やり薬を与えられたり、適切な教育も受けられず、ひっかいた痕や血痕のしみだらけの部屋に監禁されたり。まだ他にもあります」
普通の学校はどうなっているかというと、「ゼロ・トレランス方式」といわれるものが広がっています。
これはクリントン政権が全米に導入を呼びかけ、連邦議会も各州に同方式の法案化を義務づけたものです。
細かく罰則を定め、小さな違反も見逃さず必ず罰を与えます。小さな違反を見逃すと、次の大きな違反につながるという考え方です。違反が三度続くと停学、さらに違反が続くと退学というように、生徒個人の事情を考慮せず機械的に罰則を当てはめるわけで、これでは教師と生徒の人間的な交流もなくなってしまいます。

これは私個人の考えですが、昔のアメリカ映画には高校生を主人公にした楽しい青春映画がいっぱいありましたが、最近そういう映画は少ない気がします。子どもにとって学校が楽しいところではなくなってきているからではないかと思います。

学校で銃乱射事件がよく起こるのも、学校への恨みが強いからではないでしょうか。


幼児虐待は身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクトの四つに分類されますが、中でも性的虐待は「魂の殺人」といわれるぐらい子どもにダメージを与えます。
アメリカでは1980年代に父親から子どものころに性的虐待を受けたとして娘が父親を裁判に訴える事例が相次ぎました。いかにも訴訟大国アメリカらしいことですが、昔の家庭内のことですから、当事者の証言くらいしか証拠がありません。
ある心理学者が成人の被験者に、5歳のころにショッピングセンターで迷子になって親切な老婦人に助けられたという虚偽の記憶を植えつける実験をしたところ、24人の被験者のうち6人に虚偽の記憶を植えつけることに成功しました。この実験結果をもとに、セラピストが患者に性的虐待をされたという虚偽の記憶をうえつけたのだという主張が法廷で展開され、それをあと押しするための財団が組織されて、金銭面と理論面で父親を援助しました。
この法廷闘争は父親対娘だけでなく、保守派対リベラルの闘争として大規模に展開されましたが、最終的に父親と保守派が勝利し、逆に父親が娘とセラピストに対して損害賠償請求の訴えを起こして、高額の賠償金を得るという例が相次ぎました。
この顛末を「記憶の戦争(メモリー・ウォー)」といいます。
結局、家庭内の性的虐待は隠蔽されてしまったのです。

アメリカでは#MeToo運動が起こって、性加害がきびしく糾弾されているイメージがありますが、あれはみな社会的なケースであって、もっとも深刻な家庭内の性的虐待はまったくスルーされています。


ADHDの子どもは本来2~3%だとされますが、アメリカではADHDと診断される子どもが急増して、15%にも達するといわれます。親が扱いにくい子どもに医師の診断を得て向精神薬を投与しており、製薬会社もそれを後押ししているからです。


アメリカにおいては、家庭内における親と子の関係、学校や社会におけるおとなと子どもの関係がゆがんでいて、子どもは暴力的なしつけや教育を受けることでメンタルがゆがんでしまいます。それが暴力、犯罪、麻薬などアメリカ社会の病理の大きな原因になるのです(犯罪は経済格差も大きな原因ですが)。
そして、その根本には子どもの権利が認められていないということがあるのですが、そのことがあまり認識されていません。

たとえば、こんなニュースがありました。
「ダビデ像はポルノ」で論争 保護者が苦情、校長辞職―米
2023年03月28日20時32分配信
 【ワシントン時事】米南部フロリダ州の学校で、教師がイタリア・ルネサンス期の巨匠ミケランジェロの彫刻作品「ダビデ像」の写真を生徒に見せたところ、保護者から「子供がポルノを見せられた」と苦情が寄せられ、校長が辞職を余儀なくされる事態となった。イタリアから「芸術とポルノを混同している」と批判の声が上がるなど、国際的な論争に発展している。

 地元メディアによると、この学校はタラハシー・クラシカル・スクール。主に11~12歳の生徒を対象とした美術史の授業で、ダビデ像のほかミケランジェロの「アダムの創造」、ボッティチェリの「ビーナスの誕生」を取り上げた。

 ところが、授業後に3人の保護者から「子供がポルノを見ることを強制された」などと苦情が入った。教育委員会は事前に授業内容を保護者に知らせなかったことを問題視。ホープ・カラスキヤ校長に辞職を迫ったという。

この決定はミケランジェロを生んだイタリアで反響を呼んだ。ダビデ像を展示するフィレンツェのアカデミア美術館のセシリエ・ホルベルグ館長は、AFP通信に「美術史に対する大いなる無知だ」と批判。フィレンツェのダリオ・ナルデラ市長もツイッターで「芸術をポルノと勘違いするのは、ばかげている以外の何物でもない」と非難し、「芸術を教える人は尊敬に値する」として、この学校の教師を招待する意向を示した。

 フロリダ州では保守的な価値観を重視する共和党のデサンティス知事の主導で、一定年齢以下の生徒が性的指向を話題とすることを禁止する州法を成立させるなどの教育改革が強行されている。今回の措置には、米作家のジョディ・ピコー氏が「これがフロリダの教育の惨状だ」と指摘するなど、米国内でも波紋が広がっている。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023032800665&g=int
これは「芸術かポルノか」という問題のようですが、実は子どもの「見る権利」が侵害されているという問題です。「芸術かポルノか」ということをおとなが一方的に決めようとするからおかしなことになるのです。

アメリカではSNSが子どもにとって有害だという議論があって、1月末に米議会上院がSNS大手5社の最高経営責任者を招いて、つるし上げに近いような公聴会を行いました。
米保健福祉省は勧告書で子どものSNS利用は鬱や不安などの悪化リスクに相関性があるという研究結果を発表していて、そうしたことが根拠になっているようです。

しかし、SNS利用が「子どもに有害」だとすれば、「おとなに無害」ということはないはずです。程度は違ってもおとなにも有害であるはずです。
子どものSNS利用だけ規制する議論は不合理で、ここにも「子どもの権利」が認められていないことが影響しています。

アメリカの保守派とリベラルの分断は、おとなと子どもの分断からきていると理解することもできます。


文科省は2005年に「問題行動対策重点プログラム」にゼロ・トレランス方式を盛り込みました。
また、日本でも「子どもに有害」という観点からSNS利用規制が議論されています。
しかし、アメリカのやり方を真似るのは愚かなことです。
アメリカは唯一「子どもの人権」を認めないおかしな国だからです。

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米空軍のオスプレイが屋久島沖で搭乗員8人死亡の墜落事故を起こしたことで、全世界でオスプレイの飛行が停止されましたが、さらに米国防総省はオスプレイの新規調達を終了すると決定し、生産ラインも閉鎖されることになりました。
アメリカも欠陥品ないし失敗作であると認めたわけです。
これまで400機余りが製造されましたが、アメリカ以外で購入したのは日本だけです。
しかも日本はオスプレイ17機を2015年当時で3700億円という高値で購入しています。
「もったいない」というしかありません。

辺野古新基地建設には防衛省の試算でも9000億円以上の費用がかかります。
最初は普天間飛行場を日本に返還してもらうという話だったのですが、アメリカが代替基地を要求してきたので、自然破壊しながらバカ高い費用で日本が辺野古に新基地を建設することになりました。
大阪万博の会場建設費が2350億円にふくれ上がって批判されていますが、辺野古の建設費はそれどころではありません。
これも「もったいない」というしかありません。

しかし、究極の「もったいない」は防衛費の倍増です。
今後5年間の防衛費の総額が43兆円になると発表されていますが、それで終わるわけではありません。その先も今の2倍を払い続けるわけです。
これまでの防衛費は年間5兆円余りですから、今より毎年5兆円をよけいに支出することになります(今の経済規模が続くとして)。
かなりの「防衛増税」をしないとおっつきません。

世界の主要国で最大の財政赤字をかかえ、ほとんど経済成長しない日本が防衛費を増大させるとは、信じられない愚かさです。


私は前回の「イスラエルやウクライナを支持する人の思考法」という記事で、人類は「互恵的利他主義」によって互いに協力することで文明を発達させてきたのだから、軍事費に関しても「こちらは軍事費を削減してそちらを安全にするから、そちらも軍事費を削減してこちらを安全にしてくれ」ということが可能だと述べました。
もっとも、書いている途中で「互恵的利他主義」のことを思いついたために、中途半端な内容になってしまいました。
「互恵的利他主義」はスケールの大きな問題なので、改めて書き直すことにしました。


動物が利他行動をすることはダーウィンの時代から知られていましたが、生存競争をする動物が利他行動をすることは当時の進化論ではうまく説明できませんでした。しかし、遺伝子が発見されたことで「血縁淘汰説」が生まれ、親が子の世話をすることや、自分は子孫を残さない働きバチが群れのために働くことなどがうまく説明できるようになりました。この説は数式で表され、「2人の兄弟か、8人のいとこのためなら死ねる」という言葉がその数式の内容を表しています。
血縁関係にない個体同士においても利他行動は見られます。それはゲーム理論を用いることで説明できました。それが「互恵的利他主義(互恵的利他行動)」です。
互恵的利他主義というのは、あとの見返りを期待して行われる利他行動のことです。リチャード・ドーキンスは「ぼくの背中を掻いておくれ。ぼくは君の背中を掻いてあげる」という言葉で説明しました。
動物の場合は、はっきりとした見返りの見通しなしに利他行動をしますが、人間の場合は、約束や契約などで見返りを確かなものにすることができるので、幅広く利他行動をするようになりました。人間が文明を築けたのはそのためだという説があります。

互恵的利他主義を頭の中に入れておけば、「こちらは軍事費を削減してそちらを安全にするから、そちらも軍事費を削減してこちらを安全にしてくれ」という発想はおのずと出てきます。もちろん協定や条約で見返りを確かなものにすることができます。軍事費を削減できれば双方が得をして、まさにウィンウィンです。


前回はこういうことを書いたのですが、よく考えると、これはうまくいきません。
たとえば、日本が中国に対して、互いに軍縮しようと提案すれば、どうなるでしょうか。
中国は応じるはずがありません。というのは、中国はアメリカに対抗するために軍拡をしているからです。日本はほとんど眼中にありません。
北朝鮮にしても同じことです。米軍と韓国軍に対峙しているので、日本はどうでもいい存在です。
ロシアももっぱらアメリカの軍事力を意識しています。

アメリカの軍事費は世界の軍事費の約4割を占めていて、世界第2位の中国の約3倍です。
アメリカは軍事力のガリバーです。

アメリカがなぜこれほどの軍事力を持つかというと、ひとつには海外に米軍を駐留させているからです。
ウィキペディアの「アメリカ合衆国による軍事展開」によると、海外基地に駐留する米軍の人員がもっとも多いのは日本で約5万7000人です。2番目がドイツで約3万5000人、3番目が韓国で約2万7000人、4番目がイタリアで約1万2000人となっています。
要するにアメリカが戦って占領した国に今も駐留しているのです。

昨年9月の『「米国は日独韓をいまだに占領」とロ大統領』という記事にはこう書かれています。
 ロシアのプーチン大統領は30日の演説で「米国はいまだにドイツや日本、韓国を事実上占領している。指導者たちが監視されていることを全世界が知っている」と述べ、同盟関係が対等でないと批判した。

同盟関係が対等でないか否かは別にして、日本もドイツも韓国も強力な軍隊を持っていますから、その上に米軍が駐留しているのは、ステーキの上にハンバーグが載っているみたいにへんな格好です。
ロシアや中国や北朝鮮から見れば、この「二重軍事力」は自分たちに対する攻撃が目的としか思えません。
よく「その地域から米軍がいなくなると『力の空白』が生じる」ということを言いますが、「力の空白」が生じることはなく、「二重軍事力」が解消されるだけです。


アメリカ軍は世界のどこへでも展開できる体制をとっています(オスプレイもそのためのものです)。
昨年10月、バイデン政権は外交戦略の基本となる「国家安全保障戦略」を発表しましたが、それによると、米軍を「世界史上最強の戦闘部隊」と自慢した上で、「米国の国益を守るために必要である場合には、武力を行使することもためらわない」としています。
決して「国を守るため」ではありません。「国益を守るため」なのです。
ですから、アフガニスタンにもイラクにも攻めていきます。
「国益を守るため」という名目さえつけば、ロシアにも中国にも攻めていくでしょう。
なお、「国家安全保障戦略」には「世界平和を目指す」みたいな文言はまったくありません。


もしどこの国の軍隊も自国を守ることに徹していれば、戦争は起こらない理屈ですし、もし起これば、どちらが「侵略」でどちらが「防衛」かが明白になります。
ところが今は、アメリカの過剰な軍事力が世界各地に「二重軍事力」を生み出しているので、「侵略」と「防衛」の区別がつきません(ロシアも「防衛」を主張しています)。


「世界史上最強の戦闘部隊」を維持するには巨額の軍事費がかかります(アメリカの軍事費はGDP比3.5%です)。それで引き合うのかというと、引き合うのでしょう。
たとえば、アメリカはイラクに大量破壊兵器があると嘘をついて攻め込み、イラクを混乱させましたが、大量破壊兵器の情報が捏造であるとわかってからも、イラクに対して謝罪も賠償もしていません。こんなことが許されるのは、アメリカが強大な軍事力を持っているからです。

また、日本はアメリカと数々の貿易摩擦を演じてきましたが、結局は日本が譲ってきました。たとえば日本の自動車メーカーはアメリカに工場をつくり、アメリカで多くの部品を調達しています。人件費の高いアメリカに工場をつくるのはメーカーにとって損ですし、日本にとっても日本人の雇用がアメリカに奪われました。

アメリカはイランやキューバに対して長年経済制裁をしています。国際基準ではなく“自分基準”の制裁ですが、アメリカの経済力は大きいので、制裁された国は苦境に陥ります。
アメリカはいつどの国に経済制裁をするかわからないので、どの国もアメリカに対して貿易交渉などで譲歩せざるをえません。
アメリカが自由に経済制裁できるのも、背後に軍事力があるからです。


ともかく、アメリカは軍事力を使って国益を追求しています。
こういう国が一国でもあれば、互恵的利他主義で軍縮を成立させることはできません。

世界が平和にならない理由は明らかです。
アメリカが世界平和を目指さないからです。

中国や北朝鮮が脅威だと騒いでいる人は、自国中心でしかものごとを見られない愚かな人です。
グローバルな視点で見れば、世界にとっての脅威はアメリカです。
今後、世界は力を合わせてアメリカを「普通の国」にしていかなければなりません。

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LGBT法案が6月9日、衆院内閣委員会で可決され、今国会で成立する見通しとなりました。

この法案はもともと2016年に超党派の議員連盟がまとめたもので、自民党保守派の反対でずっと棚ざらしにされていましたが、急に成立を目指すことになりました。
自民党は保守派に配慮した修正案をまとめましたが、その中に「不当な差別はあってはならない」という言葉があると知って、あきれました。
こんな言葉を使う人間がつくった法律は信用できません。
維新の会と国民民主党も独自の修正案をまとめ、最終的に与党の修正案と一本化されました。衆院内閣委で可決されたのはこの一本化された修正案です。

この修正案は、「不当な差別はあってはならない」という言葉はそのままです。
「全ての国民が安心して生活できるよう留意する」という言葉が加えられました。
「全ての国民が安心」は「全米が泣いた」と同じくらいありえないことです。差別をなくそうとすれば差別主義者は安心していられません。

言葉を「性自認」か「性同一性」にするかという問題がありましたが、これは「ジェンダーアイデンティティー」という言葉で決着しました。
日本の法律になじみのない英語が入りました。

しかし、この法律に英語が入るのは不思議ではありません。

4月23日、LGBTQの権利擁護を訴える国内最大級のイベント「東京レインボープライド」のパレードが約1万人の参加者(主催者発表)で行われましたが、アメリカのラーム・エマニュエル駐日大使も参加し、「ジェンダーや性的指向に関係なく愛する人と共にいるという選択は、誰もが尊重すべきことです」などとスピーチしました。
アメリカの大使が日本でデモに参加したことに驚きました。

普通、アメリカの日本政府への圧力は水面下で行われるものですが、これは人権問題であるためか目に見える形で行われています。
自民党が急に法案の成立を目指すことになったのもアメリカの圧力のせいでしょう。

自公と維新国民が修正案を国会に提出し、立憲民主党、共産党、社民党は原案を国会に提出するという状況下でこんな記事がありました。

エマニュエル米駐日大使、LGBT法案巡り自公の「修正案」に「賛辞」
米国のエマニュエル駐日大使が18日、自身のツイッターを更新し、自民、公明両党が同日国会に提出したLGBTなど性的少数者への理解増進を図る法案について、「岸田文雄首相をはじめ、自民ならびに公明幹部のリーダーシップと、差別の撤廃と平等の推進に向けた行動に賛辞を贈りたい」と評価した。


両党が提出した法案は、2年前に超党派の議員連盟がまとめた法案を一部修正したものだ。これに対し、立憲民主党は自公の「修正案」を「改悪」と批判し、18日に議連の「原案」を対案として国会に提出した。


エマニュエル氏は理解増進法案を巡り、ツイッターでLGBT法制定を促す発信をしてきたことから、「内政干渉」との反発も出ていた。


立民はエマニュエル氏のこうした言動をとらえ、17日に泉健太代表と西村智奈美代表代行が東京都内の米大使館で同氏に面会。立民が議連の原案を国会に提出する方針を伝えていた。


立民は修正案への批判を強めているだけに、幹部は「エマニュエル氏が自公の修正案に対して、どういう発信をするのか注目だ」と関心を寄せていたが、エマニュエル氏は「賛辞」を表明した。
https://www.sankei.com/article/20230518-QTVQ7GVLEVKCHIMLWXAP2BF3YQ/
国会でふたつの案が対立しているとき、立憲民主党の代表と代表代行がわざわざエマニュエル大使に会いにいくということは、アメリカ大使と日本の国会の力関係を暗示しています。
泉代表は大使を説得すれば自民党の態度も変わると思ったのでしょうが、残念ながら大使は翌日に与党案支持を表明しました。

法案が衆院内閣委員会で可決された日には、大使はすかさずこうツイートしました。


ラーム・エマニュエル駐日米国大使
@USAmbJapan
今日の衆議院内閣委員会における「LGBT理解増進法案」の可決は、日本にとって新しい幕開けとなりました。岸田首相のリーダーシップに感謝いたします。LGBTの権利に関して、日本は主導的な役割を担っているのです。日本国民と政治の担い手が、平等とインクルージョンを支持し一致団結しているという、まさに特別な瞬間です。委員会のこの決議は、改革のゴールではなくスタートです。日本国民は自らの声をしっかりと届けることができました。心よりお祝い申し上げます。
午後2:59 · 2023年6月9日

大使のこのような態度は、LGBT法案に反対する保守派から「内政干渉だ」という猛反発を招いています。

なお成立見込みの修正案は、自民党保守派に配慮したものであるため、これまでLGBT法案に期待していた人たちから「後退だ」と批判されています。
一方、保守派の人たちはわずかの修正など評価せず、LGBT法案そのものに反対で、自民党やエマニュエル大使を批判しています。

ネトウヨジャーナリストの有本香氏は「自民党は、女性や子供の安全を脅かし、アイデンティティーを混乱させ、果ては皇室の皇統をゆがめ、破壊しかねない法案に前のめりで突き進んだ」と批判し、百田尚樹氏などは「LGBT法案が成立したら、私は保守政党を立ち上げます」「自民党はもはや保守政党ではありません」とまで言いっています。



日本の保守派はつねにアメリカ従属なのに、ここまでアメリカの意向に逆らうのは珍しいなと思っていたら、それは私の勘違いでした。
エマニュエル大使はバイデン大統領に任命された民主党系の人間です。
アメリカでは2021年2月、LGBTQ+の人々を差別から守るための「平等法」が下院で可決されましたが、上院では共和党の反対が強くてまだ可決されていません。
つまりLGBTQ+の「平等法」はアメリカの民主党と共和党の対立点で、次の大統領選の大きな争点になるといわれています。
エマニュエル大使は米民主党の価値観を日本に持ち込んでいるわけです。

ですから、LGBT法案に反対する日本の保守派はアメリカ共和党の価値観に立っています。
「LGBT法案を成立させても次の大統領選で共和党が勝てば無意味だ」などと主張しています。
自民党では、岸田首相ら政権の中枢はバイデン政権との関係を重視し、保守派議員は共和党との関係を重視して、自民党内で米民主党対米共和党の代理戦争が行われているわけです。
自民党執行部は党議拘束をかけてLGBT法案成立に向けて突っ走り、保守派議員は党議拘束を外すように主張しています。

島田洋一福島県立大学名誉教授は、アメリカにおける民主党対共和党の対立を紹介して日本の保守派の議論をリードしていますが、自民党の世耕弘成参院幹事長が党議拘束は外す必要がないと主張したことについてこんなツイートをしました。


島田洋一(Shimada Yoichi)

@ProfShimada

米民主党と日本の野党はほぼ同レベルだが、米共和党と自民党では大差がある。

共和党では左翼と強く闘う姿勢がないとリーダーになれない。安倍首相亡き後の自民党幹部は皆、左翼に迎合しつつ浅くブレーキを踏む程度。

ブレーキとアクセルの区別すら付かない者も多い。残念ながら世耕氏もアウト


島田氏は米共和党を理想として、それに及ばない自民党を批判しています。
コミンテルンがソ連共産党を理想として日本共産党を批判したみたいなものです。
しかし、島田氏は売国などと批判されることはなく、その主張はむしろ保守派から歓迎されています。

米共和党はキリスト教福音派などの宗教右派の思想をバックボーンとしています。
日本の保守派は天皇制や国家神道をバックボーンとしていそうですが、実は違います。
彼らは天皇制の権威を利用しているだけで、天皇陛下夫妻も上皇陛下夫妻も尊敬していません。


そもそも日本の伝統文化はLGBTに寛容です。
『日本書紀』で日本武尊は熊襲退治のときに女装して敵をあざむきます。日本最高の英雄は女装者だったのです。
平安後期の『とりかへばや物語』は、関白左大臣には二人の子どもがいましたが、男の子は女性的な性格で、女の子は男性的な性格で、関白左大臣は「とりかへばや(取り替えたいなあ)」と嘆いて、男の子を「姫君」として、女の子を「若君」として育てます。そして、二人はそれぞれ波乱万丈の人生を送り、最後に二人は人に気づかれないようにそれぞれの立場を入れ替えるという物語です。
日本ではこういう物語が愛されてきたのですから、LGBT法案にむきになって反対している人たちは日本とは別の文化に染まっているのでしょう。

LGBT法案に反対している人は同性婚にも反対して、家族制度が壊れるなどと主張しています。
しかし、キリスト教圏では同性愛は罪とされ、嫌悪されてきましたが、日本では衆道、男色は認められてきました。同性愛嫌悪がほとんどないのですから、同性婚に反対する理由もありません。
国民の意識も、今年5月のJNNの世論調査で同性婚を法的に認めることに「賛成」は63%、「反対」は24%でしたし、2月の朝日新聞の調査では「認めるべきだ」は72%、「認めるべきでない」は18%でした。
同性婚に必死で反対している人たちは日本人らしくありません。
アメリカの宗教右派の人たちに似ています。

2020年の大統領選挙でトランプ氏がバイデン氏に敗れたとき、日本でもネトウヨはこぞって「選挙は盗まれた」と騒ぎ、右翼雑誌も「選挙は盗まれた」という記事を書き立てました。
トランプ氏に踊らされる愚かな人たちと思って見ていましたが、日本の保守派はもともと米共和党右派なのだと思えば、そうした行動に出るのは当然です。

米共和党は不思議な組織です。党首も綱領も存在せず、全国委員会、州委員会、郡委員会などはありますが、地方ごとに自由に活動して、上部組織の指示に従わないと処罰されるということはありません。入党や離党もまったく自由で、党活動の義務もありません(米民主党も基本的に同じ)。

日本に「米共和党日本委員会」という名前の組織はないでしょうが、もともとあってもなくてもいいような組織です。
日本の保守派のほとんどが米共和党右派の思想に染まっているのですから、日本に「米共和党日本支部」があると見なすとわかりやすくなります。


統一教会と米共和党右派は思想的にほとんど同じです。
統一教会が日本の政界に深く食い込んでいるのに驚かされましたが、日本の政界に深く食い込んでいるのは米共和党右派も同じでした。

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連続強盗事件の指示役である「ルフィ」がフィリピンの入国管理局の収容施設に拘束されていたことがわかりました。施設内から携帯電話を使って犯罪の指示を出していたそうです。
収容所内で酒や覚醒剤、バカラなどのギャンブルをしていたという報道もあります。
メキシコやコロンビアなどでは犯罪組織のボスが刑務所内で優雅な生活をして、外に犯罪の指令を出しているという話を聞きますが、フィリピンでもそれに近いことが行われていたわけです。

アジアの国は概して犯罪が少ないものですが、フィリピンは別です。麻薬犯罪が横行して、ドゥテルテ前大統領は容疑者をその場で射殺していいという荒っぽいやり方を指示しました。今はいくらか犯罪がへったようですが、入管施設の実情を見てもわかるように、警察や司法組織が腐敗しているのでたいへんです。
ちなみにドゥテルテ前大統領は“フィリピンのトランプ”と呼ばれていました。
フィリピンはかつてアメリカの植民地でしたから、アメリカの影響を色濃く受けています。


世界で犯罪の多い国はどこでしょうか。
犯罪といっても、なにが犯罪であるかは国によって違い、警察の取り締まりも違いますが、殺人に関してはあまりごまかしができません。
「世界・人口10万人あたりの殺人件数ランキング(WHO版)」というサイトから上位17か国を切り取ってみました。

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17か国中、南アフリカとレソトはアフリカですが、それ以外はすべて中南米の国です(ちなみにフィリピンは32位で、アジアでは最上位)。


中南米は「アメリカの裏庭」と言われるぐらい圧倒的なアメリカの影響下にあります。

アメリカ式犯罪対策は、ハリウッド映画と同じで、犯罪者を荒っぽくやっつけるというものです。こういうやり方は一時的に効果があるようでも、犯罪者や一般人も荒っぽいやり方を真似するので、かえって治安が悪化するものです。
アメリカ文化の影響が中南米の犯罪に及んでいるかもしれません。

犯罪のいちばんの原因は貧困です。
中南米の国はどこも経済的にうまくいっていません。アジアでは多くの国が経済的離陸を達成しているのと対照的です。
ブラジルだけは一時BRICsと呼ばれて、その成長力が期待されましたが、最近は停滞気味です。

なぜ中南米の国は経済がうまくいかないのかというと、政治が安定しないことが大きいでしょう。
多くの国では政府派と反政府派が年中衝突し、しばしばクーデターが起こり、反政府ゲリラが地方を支配しています。行政も腐敗して賄賂が横行しています。
そのため主な産業は第一次産業です。
第一次産業でもバナナ栽培の比重が大きいので、中南米の国を「バナナ共和国」と揶揄することがあります。

2021年1月、アメリカで議事堂襲撃事件が起きたとき、息子ブッシュ元大統領は「これはバナナ共和国で起こるような事件で、民主主義国家の姿ではない」と言いました。
アメリカ人が中南米の国を見下していることがよくわかります。


では、中南米の国がなぜバナナ共和国になったのかというと、これはもっぱらアメリカのせいです。
ウィキペディアの「バナナ共和国」の項目から引用します。
もともとこの言葉が生まれたのは、20世紀初頭の中米で、ユナイテッド・フルーツやドール、デルモンテなどアメリカ合衆国の農業資本企業が、広大なプランテーションを各国に建設し、その資金力で各国の政治を牛耳ったことに由来する。バナナの生産及び輸出には厳密な管理が必要だったため、各社は鉄道や港湾施設など、必要なインフラストラクチャーを自己資金で建設し、さらにバナナビジネスがうまく行くよう、各国の支配者層と結託して自らに有利な状況を維持させ続けた。 また、これらの国々の多くには他にめぼしい産業が育たなかったこともあり、外国の巨大企業に対抗できる勢力はほぼ存在せず、巨大企業、ひいてはそのバックにいるアメリカ合衆国の言いなりになる従属国化の道を歩むこととなった。

一例としてグアテマラを取り上げてみます。伊藤千尋著『反米大陸』という本を参考にしました。

十九世紀末、ユナイテッド・フルーツ社の前身は、腐敗したグアテマラ政府に食い込み、グアテマラのバナナをアメリカに輸出する権利を一手に握ります。さらに鉄道会社を設立し、鉄道沿いにバナナ園を開く権利を獲得します。そこには先住民がトウモロコシなどの畑を持っていましたが、同社は政府の力を後ろ盾に土地を安く買い、先住民を安い労働力にしてバナナを生産しました。買収に応じない先住民は軍が追い出しました。
1931年の大統領選ではユナイテッド・フルーツ社はウビコ将軍に肩入れして当選させます。ウビコ大統領は投資を誘うためにアメリカ企業に大幅な免税特権を与える一方、軍の力で先住民を動員して公共事業の強制労働をさせ、賃金を払わないという暴政をします。そして、「グアテマラ・ゲシュタポ」と呼ばれた秘密警察を組織して、反対者を逮捕、処刑しました。
暴政に怒った民衆は反政府デモを起こし、1944年、「グアテマラ革命」と呼ばれる政変が起きます。ウビコ大統領は辞任し、アメリカに亡命します。翌年の大統領選で大学教授のアレバロが当選し、民主的な政権ができ、労働者の待遇改善を進めますが、不利益を受けるユナイテッド・フルーツ社はアメリカ政府に介入を要請します。アメリカ国務省は同社に有利になるように労働法の改定を求めましたが、アレバロ大統領は拒否します。
次のアルベンス大統領はさらに民主的な政策を進め、ユナイテッド・フルーツ社に対して大企業として相応の税金を払うように求めました。それまで同社は独裁政権の高官を買収して税金をほとんど払っていなかったのです。さらにアルベンス大統領は農地改革を進めました。そのときユナイテッド・フルーツ社はグアテマラの国土の42%の土地を支配していました。政府は同社の土地を接収し、補償金を払いましたが、同社は補償金が異常に安いと怒ります。もっとも、政府としては同社がこれまで支払ってきた税金を基準に決めたというのが言い分です。
アメリカ政府はグアテマラ政府にユナイテッド・フルーツ社に対して巨額の補償金を払うように要求しますが、グアテマラ政府は拒否したため、アメリカ政府はグアテマラ政府の転覆を決意します。
このときのアメリカ国務長官はジョン・フォスター・ダレスで、その弟はCIA長官のアレン・ダレスでした。この兄弟はともにユナイテッド・フルーツ社の大株主で、兄は同社の顧問弁護士でもありました。
アメリカ政府はグアテマラ政府に対して共産主義政権だというレッテル張りをして国交断絶をし、CIAはグアテマラ人の傭兵を集め、元グアテマラ国軍のアルマス大佐の指揮下、グアテマラに侵攻させ、米軍は爆撃の支援をして、政権を転覆します。そして、アルマスは大統領になり、農地改革を中止して、農民に配られた土地を元の地主に戻したので、ユナイテッド・フルーツ社は土地を取り戻しました。
その後のグアテマラは悲惨でした。アルマス大統領は3年後に自分の護衛兵に暗殺され、以後はクーデターが続き、軍部の左派は農村部で活動するゲリラとなり、軍部の右派は政権を握り、反対派を暗殺する恐怖政治を行いました。政府と左派ゲリラの和平協定が調印された1996年までに約20万人の犠牲者が出たといわれます。


グアテマラは一例で、多くの国で似たようなことが行われてきました。
アメリカはその国の政治家や官僚を動かしてアメリカ政府やアメリカ企業に有利な政策を行わせます。当然、その反対の動きが出て、親米右派対反米左派が激しく対立するというのが中南米の政治です。
そして、アメリカはアメリカの利益になるなら、その国の民主主義を踏みにじって独裁政権を支援することも平気です。

今、バイデン政権は「民主主義国対権威主義国」ということを唱えて、民主主義国の旗頭のような顔をしていますが、これまでアメリカは多くの独裁国を支援してきたので、アメリカの言い分を真に受けるのは愚かです。

アメリカは、武力で政権を転覆させる試みはキューバでも行いましたし(失敗)、グレナダでは直接の武力侵攻も行いました。「アメリカの裏庭」ではなにをしてもいいという感覚です。
ロシアのウクライナ侵攻も「ロシアの裏庭」という感覚かもしれません。


中国は安い労働力を利用して安価な工業製品をアメリカに輸出することを主な原動力として経済発展してきました。
メキシコも安い労働力があり、地理的には中国よりも圧倒的に有利ですが、中国のように経済発展することはできませんでした。今でも貧困のために多くの不法移民がアメリカに脱出するので“トランプの壁”をつくられる始末です。
これは中国人とメキシコ人の国民性の違いでしょうか。
国民性もあるかもしれませんが、それよりもアメリカ人の人種差別意識のほうが大きいのではないかと思います。

たとえばプエルトリコは、アメリカの自治連邦区という位置づけになり、住民はアメリカ国籍を持ち、アメリカのパスポートを持てますが、アメリカ本土との経済格差はひじょうに大きく、本土に出稼ぎに出る人が多く、その仕送りが大きな収入源になっています。なぜプエルトリコはいつまでも貧しいのかと考えると、やはりアメリカ人(とくに白人)の差別意識のためではないでしょうか。

貧しい人が成功しようと思ったら自分で商売を始めることです。奴隷から解放された黒人にも商売を始める人がいました。しかし、黒人の商店は必ず白人のいやがらせ、破壊、放火にあい、つぶされました。今でも黒人経営の商店というのはごくわずかしかありません。
中国人や韓国人の商店はそのようないやがらせにはあわず、アメリカには中国人や韓国人経営の商店が多くあります(こうした店は暴動のとき黒人の略奪の対象になります)。

つまりアメリカ人の差別意識も微妙です。
日本や中国がアメリカに輸出することで経済成長できたのもその差別意識のおかげともいえます。


アメリカの外交は人種差別に大きく影響されているので、「人種差別外交」と見るべきです(国際ジャーナリストの田中宇氏は、アメリカは世界を多極化させるためにわざと自滅的な外交をやっているのだという説を唱えていますが、そうではなくて、単に人種差別外交をやっているために自滅的になるのです)。
中南米とアフリカは完全に見下されています。
カナダ、オーストラリア、ヨーロッパは対等に近い感じですが、同じヨーロッパでも東ヨーロッパは見下されています。
イスラム教の国も見下されています。というより敵意を持たれているといったほうがいいでしょう。湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争を見れば明らかです。


アメリカのアジアに対する態度は微妙です。
アメリカはずっと中国を経済的に利用してきましたが、最近はライバルと認定して、つぶしにかかっています。

そうすると、日本への態度はどうなのかということになります。
おそらく日本がバブル経済で「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などと浮かれていたころ、アメリカは態度を変えたと思われます。
以来、日本がずっと貧困化の道をたどってきたのは、“アメリカの見えざる手”にあやつられていたのではないでしょうか。
日本はずっと親米右派政権で、日本よりもアメリカの利益を優先する政策を行ってきましたが、日本人はそれがおかしいと気づきません。
今は経済再生のために投資しなければならないのに、アメリカに防衛費倍増を約束させられ、さらに転落することは確実です。

日本は犯罪がきわめて少ない国ですが、貧困化が進めば犯罪も増えます。
「ルフィ」が指示役だった連続強盗事件はまるで南米の犯罪みたいです。
これから日本はどんどん南米化の道を歩むことになるかもしれません。

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タモリさんが年末に「徹子の部屋」に出演した際、「来年はどんな年になりますかね」と聞かれ、「新しい戦前になるんじゃないですかね」と答え、「新しい戦前」がキーワードとしてSNSで話題になりました。
確かに最近の日本の動きを見ていると、また戦争に向かっている感じがして、人間の愚かさにがっかりします。

人間は戦争をして、悲惨な目にあって反省し、やがてその反省を忘れてまた戦争するということを繰り返してきました。
人間も生存闘争をする動物なので、戦争を繰り返しても不思議ではありません。
ただ、文明が進むとともに戦争の悲惨さが増してきました。
第一次世界大戦、第二次世界大戦にはその悲惨さが極限に達し、反省も深まって、戦争を克服しようという機運が高まり、国際連盟と国際連合がつくられました。

戦争のひとつの原因は、自国中心主義です。
自分の国さえ利益を得ればいい、安全であればいいという利己主義的な考え方が他国との争いを招きます。
これを防ぐには国際社会において「法の支配」を確立するしかありません。
つまり世界政府が主権国家を支配する体制をつくることです。
国際連盟や国際連合はそれを目指してつくられました。

しかし、国際連盟はアメリカが加盟しなかったことで力がなく、失敗しました。
国際連合は五大国に安全保障理事会における拒否権を与えたことで五大国を支配できず、十分に機能していません。

したがって、今するべきことは国連を強化して、アメリカ、中国、ロシアなどを制御することです。
それをしないと今後、アメリカと中国の覇権争いはどんどん激化します。
覇権争いがいつまでも続くといつか世界は破滅します。

ところが、日本の政府、マスコミ、知識人は圧倒的なアメリカの影響下にあるので、これまで国連軽視の風潮を広めてきました。
国連が無力であったのは事実ですが、だからこそ国連強化をしなければならないので、国連を軽視・蔑視するのは方向が逆です。


今の日本は、国連が頼りにならないのでアメリカに頼るしかないというのが一般的な認識です。
実際、アメリカの軍事費は世界の軍事費の約4割を占め、中国の軍事費の約3倍あるので、アメリカに頼っていれば安心なのは事実です。
ところが、アメリカは日本に防衛力の増強を求めてきます。同盟国の戦力はアメリカの戦力でもあり、アメリカの軍需産業が潤うからです。

これまでの日本政府はアメリカの要求をなんとか値切ってきましたが、第二次安倍政権になってからはどんどん受け入れるようになりました。辺野古の新基地建設など、軟弱地盤が判明して9000億円以上かかるとわかってもアメリカと再交渉せず、ひたすら建設を続けています。
防衛費倍増は安倍路線の仕上げです。


防衛費倍増に限らず日本の安全保障政策はほとんどアメリカの望み通りです。
これはアメリカの要求に屈してやっているのか、日本がみずから望んでやっているのか、うわべからはわかりません。
いずれにしても、日本政府はみずから望んでやっていることにしていますし、マスコミもそこは追及しません。

とはいえ、アメリカの強大な軍事力があるのに日本はなぜ防衛費増額をしなければならないのかという疑問が生じます。
そのため、安全保障論議をするときはアメリカの軍事力については触れないという習わしがあります。

安保論議をするときは、「きびしさを増す安全保障環境」という決まり文句があって、必ず「中国の軍拡や北朝鮮のミサイル開発など、わが国を取り巻く安全保障環境はきびしさを増し」という文から始まります。思考停止のきわみです。
そして、アメリカの軍事力には決して触れません。

最近はアメリカの軍事力だけでなくアメリカの存在そのものにも触れなくなっています。
安倍元首相は「台湾有事は日本有事」と言いました。
中国が台湾に侵攻したら(私はないと思いますが)、アメリカがどう出るかが問題で、それによって日本の出方も決まります。
中国が台湾に侵攻し、アメリカが静観しているのに、自衛隊だけが出動して中国軍を攻撃するなんていうことはありえません。
もしアメリカが軍事介入したら、沖縄や日本本土から米軍が出撃することになり、日本が中国から攻撃されるか攻撃される危機に瀕するので、日本政府は「存立危機事態」と認定して自衛隊を出動させることになります。
つまり「日本有事」になるかどうかはアメリカ次第です(日本政府の意志はないも同然です)。
ですから、安倍元首相の言葉は「台湾有事は(アメリカが介入すれば)日本有事」というふうに言葉を補えばわかりやすくなります。

また、「敵基地攻撃能力」に関して、「相手国がミサイル発射の準備をしている段階で攻撃する」といった議論が行われていますが、これについてもアメリカがなにもしないのに自衛隊だけで中国や北朝鮮の基地を攻撃するということはありえません。
もし攻撃したあとで中国や北朝鮮が攻撃の準備をしていなかったことが判明したら、日本は絶体絶命の立場になります。アメリカは大量破壊兵器があるという理由でイラクに攻め込み、大量破壊兵器がないことが明らかになりましたが(アメリカが“証拠”を捏造していた)、アメリカが知らん顔をしていられるのは超大国だからです。日本が同じことをすれば国際的非難を浴び、巨額の損害賠償請求をされて、首相がハラキリでもしないと収拾がつきません。
それに、中国は広大ですから、日本が単独で中国の基地を攻撃しても意味がありません。あくまで日本の攻撃力はアメリカの攻撃力の補助的な役割です。

自国の抑止力を同盟国の安全保障に提供することを「拡大抑止」といいます。
外務省のホームページには、日米拡大抑止協議が2022年6月21日から22日まで及び11月15日から16日まで開催されたと発表され、「日米拡大抑止協議は、日米両国間の公式な対話メカニズムの一つとして設立され、2010年以降、定期的に開催されています」という説明があります。
以前の拡大抑止はアメリカが日本に提供するものでしたが、これから日本がアメリカに提供することになったために、最近続けて協議されているのでしょう。

つまり日本の「敵基地攻撃能力」は最初からアメリカ軍と一体のものとして構想されているのです。
それなのに日本での議論はまるで日本が単独で中国や北朝鮮を攻撃するみたいになっています。

東アジアでは、日本、韓国、オーストラリアを含めたアメリカ陣営と中国が対峙しています。
ですから、アメリカ陣営と中国との戦力比較が重要ですが、そういう議論も聞いたことがありません。

要するにすべての安全保障論議からアメリカというファクターが消去されているのです。
「モーゼの十戒」に「神の名をみだりに唱えてはならない」とあるのを想起してしまいます。
日本はアメリカを絶対神として崇めているのでしょうか。


今後、安全保障論議をするときは、「わが国を取り巻く安全保障環境はきびしさを増し」という決まり文句はやめて、アメリカと中国の軍事力の比較をするところから始めてもらいたいものです。
そうすると、覇権争いの愚かさと、世界の軍事費の巨大なことに思い至るでしょう。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、21年の世界の軍事費は2兆1130億ドル(約277兆円)でした。
今の軍事費を貧困対策や環境対策や科学技術振興などに回せば世界は見違えるように変わります。

もっとも、それにはアメリカが変わらなければなりません。
ヨーロッパでロシアと対峙し、東アジアで中国と対峙し、中東でイスラム諸国と対峙するというアメリカの世界戦略こそがすべての元凶だからです。
中国の共産主義よりもアメリカの覇権主義のほうがはるかに問題です。

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ロシア・ウクライナ戦争が始まって8か月近くがたち、戦争の実態がよく見えてきて、日本の防衛と比較して考えられるようになりました。

この戦争は核保有国と非核保有国の戦いですが、ロシアはいまだに核兵器を使いません。
ロシアが劣勢になると核兵器を使うのではないかという懸念が一時的に高まりますが、そのうち懸念は薄れます。
ロシアのラブロフ外相は「国家存亡の危機のみに核兵器の使用を想定している」と述べています。

なぜロシアが核兵器を使わないのかというと、核兵器の破壊力と非人道性が広く知られているので、もし使ったら国際的に激しい非難を浴びることがわかっているからです。
生物化学兵器も使われていませんが、これも同じ理由です。

そうすると、日本人は「核の傘」がなければ生きていけないように思っていますが、これは考え違いであるようです。
中国軍が日本に上陸してきて、自衛隊が優勢に戦いを進めて中国軍を追い詰めたとしても、中国は「国家存亡の危機」になったわけではありません。
中国、ロシア、北朝鮮などがいきなり核攻撃をしてくるという可能性が絶対ないとはいえませんが、そういう非合理的な判断をする相手には「核の傘」も役に立たないはずです。


それから、ウクライナはNATOに加盟していませんが、NATO各国から潤沢な武器援助を受けています。ウクライナの善戦はひとえにこの援助のおかげと思えます。
同盟関係でなくてもこんなに援助してもらえるのなら、日本は日米同盟を離脱してもいいのではないかということになります。離脱すれば、日本は安保条約に規定される義務はなくなり、沖縄の基地問題も全部解決します。それでいて中国かロシアが攻めてきたときは、アメリカからウクライナ並みの援助をしてもらえるのなら、こんなうまい話はありません。

もっとも、そうはいかないでしょう。日本とウクライナではいろいろと違います。宗教も人種も違いますし、日本には真珠湾攻撃という“過去”もあります。
つまり日本とアメリカは心の深いところでの信頼関係はなく、そのため多くの日本人は安保条約という“契約”を頼りにするしかないと考えています。

アメリカは世界最強の軍隊を持っているので、日米安保があれば日本が他国から攻められるという可能性はまずありません。もし攻められたとしても、自衛隊がしばらく持ちこたえていれば米軍が撃退してくれるはずです。

ですから、日本の安全保障政策は実はアメリカに丸投げです。
自衛隊も米軍に頼り切っています。


ウクライナではザポリージャ原発が再三攻撃を受け、電源喪失の危機に見舞われたりして、戦時下における原発の危険性が注目されました。
3月4日の参院の議院運営委員会で原発が戦争に巻き込まれた際の対策を問われ、原子力規制委員は「武力攻撃に対する規制要求はしていない」と答え、規制委事務局の事故対策担当者も取材に対して「ミサイル攻撃などで原子炉建屋が全壊するような事態は想定していない」と答えました。
日本の防衛を本気で考えていないことがよくわかります。


現代の戦争では制空権の確保が重要なので、ロシア軍はウクライナ侵攻に際して最初に飛行場を攻撃しました。
自衛隊の飛行場の防衛体制はどうなっているのでしょうか。
飛行場に航空機が並んで駐機していると、ミサイル攻撃や空爆で一気に破壊されてしまいます。
航空機は攻撃に耐えられる掩体壕に格納するのが基本です。
しかし、自衛隊には掩体壕がわずかしかありません。

ロイターの「日本の脆弱な航空機および艦艇の地上防護態勢【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」という記事から引用します。

空自の掩体壕は、三沢基地で2個飛行隊40機分、千歳基地及び小松基地において1個飛行隊20機分が確保されているだけで、その他の7つの基地では全くの未整備である。一方、中国大陸に対峙した台湾空軍、韓国空軍及び在韓アメリカ軍戦闘機は、ほぼ完全に掩体運用を行っている。

これを見ても、自衛隊が本気で戦争をする気のないことがわかります。
自衛隊の航空基地のイベントなどに参加した一般人も掩体壕のないことを疑問に思うらしく、ヤフー知恵袋などに「基地に掩体壕を見ないが、どうなっているのだろうか」という質問をいくつも見かけます。

戦争においては弾薬を大量に消費するので、弾薬の備蓄が重要ですが、これも自衛隊には十分な用意がありません。
故安倍晋三元首相は5月20日のインターネット番組で、自衛隊の状況について「機関銃の弾からミサイル防衛の(迎撃ミサイル)『SM3』に至るまで、十分とは言えない。継戦能力がない」と述べました。
だから防衛費の増額が必要だと主張したのですが、継戦能力がない状態にしていたのは安倍元首相自身です。

自衛隊の弾薬備蓄量がどれくらいあるかというのは“軍の機密”らしく、はっきりしませんが、一説には2週間程度で撃ち尽くす量だといいます。


で、防衛費の増額ですが、今議論されているのは「反撃能力(敵基地攻撃能力)」を持つということです。
アメリカはウクライナに武器援助をしていますが、ロシア領土を攻撃できるような武器は援助していません。それをするとロシアが「国家存亡の危機」と認識して、核兵器使用に踏み切るかもしれないからです。
日本が持とうとする「反撃能力」はまさに中国やロシアや北朝鮮に「国家存亡の危機」と認識させかねません。

もっとも、自衛隊が単独で反撃能力を行使するなどということはありません。
自民党が4月27日に岸田首相に出した提言には、反撃能力について「米軍の打撃力の一部を担う」と書かれていて、あくまで米軍を自衛隊が補完するのが目的です。


ともかく、日米安保条約があれば日本が外国から攻撃される可能性はほとんどないので、自衛隊も国防をまじめに考える必要はありません。
では、なんのために防衛費の増額をするのかといえば、アメリカとの関係をよくするためです。

安保条約は、外務省によると「第5条は、米国の対日防衛義務を定めている」というのですが、第5条に「義務」という言葉はなく、「各締約国は……自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処する」とあるだけです。
合衆国憲法では宣戦布告の権限は議会にあります。大統領は議会に諮らずに参戦することもできますが、参戦したくないときは議会に諮って否決させるという“抜け道”があるのです。

日本政府及び自衛隊はアメリカに国防を全面依存しているのですが、アメリカが期待に応えてくれないかもしれないという不安がぬぐえません。
その不安を解消するため、防衛問題でアメリカになにか要求されるとひたすら応えてしまうのです。
辺野古基地建設もそうです。最終的にいくら費用がかかるかわからないのにつくり続けています。
防衛費も同じです。これまでGDP1%以内に抑えていたのに、アメリカに要求されると、とたんに2%に倍増させると約束しました。

防衛をアメリカに依存している国が防衛費を一生懸命増やしている姿は、どう見ても滑稽です。

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9月11日の沖縄県知事選で、米軍普天間基地の辺野古移設反対を訴えていた玉城デニー候補が当選しましたが、当選したからといって辺野古移設が止まるわけではなく、たぶん今まで通り進んでいくでしょう。

しかし、辺野古新基地建設には軟弱地盤の問題などがあり、いくら費用がかかるかわかりません。
2013年の防衛省の見積もりでは2310億円でしたが、2020年時点では9300億円かかると試算され、沖縄県は2018年の時点で総工事費2.5兆円にのぼると試算しています。
完成時期も2030年以降と見られ、米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)は2020年11月の報告書で軟弱地盤の問題から「完成する可能性は低い」と指摘しています。

米軍基地を日本の金でつくり、自然破壊をし、沖縄の基地負担軽減にはほとんどならず、最初の目的だった普天間基地の危険性除去も何年先になるかわからないというおかしなことになっています。
辺野古移設に向かって突き進む日本政府は、まるでインパール作戦に突き進む日本軍みたいです。
これは根本から考え直さなければなりません。


そもそもは普天間基地は住宅地がすぐ近くにあって、その危険性が問題になっていたところに、沖縄米兵少女暴行事件がきっかけで基地の縮小を要求する声が高まりました。
橋本龍太郎首相が基地問題の解決に乗り出し、対米交渉をしました。そして、成果を得たかに見えました。
「米軍普天間飛行場の移設問題はもう26年、なぜこんなにこじれたのか 歴代政権のキーパーソンを訪ね歩いて分かったこと」という記事にはこう書かれています。
 1996年4月12日、首相官邸で駐日米大使モンデールと共に記者会見に臨んだ首相橋本龍太郎は、満面の笑みを浮かべてこう述べた。「沖縄の皆さんの期待に可能な限り応えた」「最良の選択ができた」。日米両政府による米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)返還合意は、文字通りのサプライズ発表だった。

 しかし、あれから約26年。返還はいまだに実現せず、当時の高揚感との落差は大きい。その後の政権は同県名護市辺野古の代替施設建設を巡り、誤算と迷走を重ねた。米国の意向を優先するあまり、反対を貫く沖縄との溝は深まる一方だ。
このとき橋本首相は「満面の笑み」を浮かべていたのです。交渉を成功させたつもりだったのでしょう。
それがどうしてこじれてしまったのでしょうか。


橋本首相は通産相時代にきびしい日米通商交渉を経験して、こちらが筋の通った主張をすればある程度アメリカも理解してくれるという見通しを持っていて、それで普天間基地問題の交渉にも乗り出したのかと思われます。
しかし、通商交渉と基地問題の交渉はまったく違いました。通商交渉は通産省の管轄ですが、基地問題は外務省と防衛省(当時は防衛庁)の管轄です。
具体的なことは1995年11月に日米間で設置されたSACO(沖縄に関する特別移動行動委員会)という組織で議論されました。

モンデール大使との共同記者会見から5か月後、橋本首相は沖縄で講演した際、海上基地建設検討を表明しました。
代替基地建設は最初から決まっていたことですが、たぶん橋本首相はそれほど重大なことと思っていなくて、それで「満面の笑み」になったと思われますが、ここにきて代替基地問題の困難に直面したのかもしれません。

1996年12月にSACO最終報告がまとめられ、「海上施設の建設を追求」と明記されました。
しかし、ここからも迷走します。
海上施設は高くつくことから、埋め立てではどうかとか、陸上でいいのではないかとか、さらにはこれでは沖縄の基地負担軽減にならないので県外ではどうかとか議論されました。

もちろんこうした議論は軍事的な面を押さえておかなければなりません。しかし、軍事の専門家というのはしばしばアメリカ軍や防衛省の代弁者なので、信用できません。
私が唯一信用していたのが軍事ジャーナリストの神浦元彰氏です。神浦氏は沖縄やグアムを取材し、沖縄県民の心情に寄り添った解説はわかりやすく、新聞を読んでいるだけではわからないことがわかりました。神浦氏は、沖縄米軍の主力はグアムにシフトしているので、広大な嘉手納弾薬庫地区に弾薬はほとんどなく、ここに新基地を建設すればいいという説でした。2016年に亡くなったのは残念でなりません。


辺野古移設の議論が迷走したのは、革新の大田昌秀沖縄県知事が政府の方針に従わなかったからだというように、これを日本政府対沖縄県の問題としてとらえることが今にいたるも行われています。
しかし、これは日本政府対アメリカ政府の問題でもあります。

アメリカ政府が、広い、使い勝手のいい基地を日本につくらせようとするのは当然です。
では、日本側が、狭い、安価な基地をつくろうとして交渉したかというと、必ずしもそうではありません。広い、高価な基地をつくってもうけようという建設業者や利権政治家がいたからです。

さらに外務省や防衛省もアメリカの要求に応えようとしました。これが通産省などとまったく違うところです。
外務省や防衛省は米軍にできるだけ沖縄にいてほしいのです。
モンデール大使ものちにこのように語りました。

海兵隊の沖縄駐留「日本が要望」元駐日米大使
【平安名純代・米国特約記者】米元副大統領で、クリントン政権下で駐日米大使を務めたウォルター・モンデール氏が1995年当時、米軍普天間飛行場の返還交渉で、日本側が在沖縄米海兵隊の駐留継続を望んでいたと述べていたことが12日までに分かった。同年に発生した少女暴行事件の重大性を米側が認識し、海兵隊の撤退も視野に検討していたが、日本側が拒否し、県内移設を前提に交渉を進めていたことになる。

 モンデール氏の発言は米国務省付属機関が2004年4月27日にインタビューした口述記録に記載。1995年の少女暴行事件について「県民の怒りは当然で私も共有していた」と述べ、「数日のうちに、問題は事件だけではなく、米兵は沖縄から撤退すべきかどうか、少なくともプレゼンスを大幅削減すべきかどうか、米兵の起訴に関するガイドラインを変更すべきかどうかといったものにまで及んでいった」と回顧している。

 その上で「彼ら(日本政府)はわれわれ(在沖海兵隊)を沖縄から追い出したくなかった」と指摘し、沖縄の海兵隊を維持することを前提に協議し、「日本政府の希望通りの結果となった」と交渉過程を振り返った。交渉相手として橋本龍太郎首相(当時)と河野洋平外相(同)の名前を挙げているが、両氏の具体的な発言は入っていない。
(後略)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/44046

海兵隊員は荒くれ者ぞろいでよく事件を起こすので、沖縄では「海兵隊は出ていけ」という声が高まっていましたが、日本政府は沖縄の要望と真逆のことをしていたのです。

日本人は、安保条約があるとはいえ、「アメリカはほんとうに日本を守ってくれるのか」という不安を持っています。これは日本政府も同じです。
日本に駐留米軍がいる限り、日本が外国から攻められたときアメリカも応戦せざるをえません。しかし、駐留米軍が少なくなると、短期間に撤収することが可能になりますし、場合によっては駐留米軍を見捨てる判断もあるかもしれません。
そうならないように日本政府はできるだけ多くの米軍に駐留してもらいたいので、普天間の代替基地もむしろ大きいものにしたいわけです。
沖縄は中国に近すぎるので、アメリカは沖縄米軍の主力をグアムに移転する戦略でしたが、日本は駐留米軍の経費負担を増額して、移転を最小限のものにしてもらっています。

日本の米軍駐留経費負担は、金額でも比率でも他国と比べて突出しています。

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日本政府は駐留米軍が縮小されるのを望んでいないということを理解していなかった鳩山由紀夫首相は「代替基地は国外、最低でも県外」と言って、官僚に背後から撃たれて倒れました。


辺野古に新基地建設をするのはあまりにもばかばかしいということで、日本政府が「普天間基地を返還してもらうが、代替基地はつくらない」とアメリカに表明すればどうなるでしょうか。
アメリカ軍としてはそれほど困らないはずですが、アメリカ政府は「飼い犬に手をかまれた」と思って怒り、同盟関係は破綻するかもしれません。
少なくともアメリカ政府は日本の国土に自由に基地を設置する権利を失いたくないので、なかなか日本の言い分を認めないでしょう。
ですから、日本は「同盟離脱」カード、あるいは「安保廃棄」カードを切る用意がなければ交渉できません。
もちろんブラフではだめで、実際に日米同盟を離脱する覚悟が必要です。

野党が主張する「日米地位協定の見直し」も同じことです。「同盟離脱」カードを持って交渉することです(立憲民主党の公約は「日米地位協定の改定を提起します」という後退した表現になっていました)。



ここで考えなければならないのは、日本は日米同盟なしでは生きていけないのかということです。
もちろんそんなことはありません。
日本は世界第5位の軍事力を有し、島国ですから、自衛隊の力だけで十分に国は守れます(自衛隊の意識改革と装備改革は必要です)。日本が中国軍やロシア軍に占領されるなどありえないことです。

ただ、ここでひとつの問題があります。
日本が日米同盟を離脱して、すべての国と等距離になると、どの国がいちばん脅威かというと、アメリカです。アメリカは世界最強の軍隊を持ち、世界のどの国にも侵攻する力があり、戦後になってからも数えきれないくらい他国に侵攻してきました。
もし日本がアメリカと戦争すれば、第二次大戦で回避した「本土決戦」をやることになります。
いや、その前にアメリカの核攻撃を受けるでしょう。
アメリカは日本に原爆を2発落としているので、3発目を落とすハードルはかなり低いはずです。

敗戦がトラウマになっている日本人は、アメリカをなにより恐れています。ですから、日本は「窮鳥懐に入れば猟師も殺さず」を期待してアメリカの懐に飛び込む作戦をとってきました。
それが長期化して、今ではアメリカの懐から出ることが考えられなくなったのです。

しかし、アメリカもそんなにひどいことはしません。これまでの戦争も、内戦に介入したとか、よほどひどい独裁体制の国に侵攻したとかです。
日本が平和、人権、民主主義をたいせつにする国として国際社会から評価されていれば、アメリカを恐れることはありません。

世界を見回しても、日本のようにアメリカに依存している国はありません。
一人一人の日本人が心理的アメリカ依存を脱することが、沖縄の基地問題解決の第一歩です。

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