村田基の逆転日記

進化倫理学の威力を試すブログ

カテゴリ: トランプ大統領

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アメリカ大統領選挙はトランプ大統領対ジョー・バイデン元副大統領の対決となりました。

バイデン候補は、無難ですが、これという魅力がありません。
一方、トランプ大統領は、よくも悪くも人を引きつけます。

トランプ大統領の強みは、なんといっても人を攻撃する言語能力がずば抜けていることです。この点で対抗できる人は誰もいません。

そして、自分自身が人から攻撃されても平気です。カエルの面にションベン状態です。
2月、3月ごろ、トランプ大統領は「暖かくなればウイルスは奇跡のように消えてなくなる」とか「4月になればウイルスはなくなると思う」などと言っていました。そのことは当然批判されましたが、トランプ大統領は平気です。7月になっても「ウイルスは消える。最後に正しいのは私だ」と言っています。

人を攻撃する力は強くて、人から攻撃されても平気――これは戦う上では最強です。
トランプ大統領はこの能力でライバル候補を全部なぎ倒して大統領になったのです。

ですから、現時点の世論調査ではバイデン候補がトランプ大統領をリードしていますが、これから選挙運動が本格化していくと、トランプ大統領が巻き返すということが十分にありえます。


トランプ大統領を一言でいえば、「ウルトラ利己主義者」です。
ひたすら自分の利益を追求し、(不正な手段も含めて)それを実現してきました。
普通の人は利己主義者とはつきあいませんが、トランプ大統領が利益を得ると、その周辺にいる人間も利益を得ることができるので、寄ってくる人間もいます。


トランプ大統領のスローガンは「アメリカ・ファースト」です。
これは「アメリカ利己主義宣言」みたいなものです。

トランプ大統領は「公正」とか「公平」とか「対等」とか「平等」とかいう言葉を言ったことがありません(どこかで言っているのでしょうが、私は聞いたことがない)。

トランプ大統領がいつも言うのは、中国や日本やメキシコに「アメリカは食い物にされてきた」ということです。
「今度はアメリカが食い物にする番だ」とは言いませんが、心の中ではそう思っているに違いありません。
ウルトラ利己主義者の辞書に「平等互恵」とか「共存共栄」という言葉はなく、あるのは食うか食われるかだけです。


日本とアメリカの関係でいうと、アメリカはTPPを離脱し、日米で二国間の貿易協定を昨年末に改定し、今年1月1日から発効しました。
これによって日本はアメリカ産の牛肉や乳製品の関税を引き下げる一方、日本が要求していたアメリカにおける自動車関税の引き下げは先送りとなりました。
日本側も合意した以上、「不平等だ」とは言いませんが、二国間協議では力のあるほうが有利なので、実質は不平等に違いありません。

アメリカはカナダ、メキシコとの自由貿易協定NAFTAを再交渉してUSMCAを締結し、今年7月1日に発効しました。
アメリカはまた、韓国との自由貿易協定(米韓FTA)を改定し、2019年1月に発効しました。

トランプ政権が「アメリカ・ファースト」を掲げている以上、これらはすべてアメリカの利益になるように改定されたに違いありません。
ということは、これらはトランプ政権の実績です。

大統領選の最大の争点は、トランプ大統領があおってきた人種差別的な分断の評価であるかのような報道がされていますが、有権者の最大の関心は経済です。
トランプ政権によりアメリカ国民も利益を得ています。トランプ政権がある程度の支持を得ているのもそのためです。


「アメリカ・ファースト」というスローガンは、1940年にアメリカが対ドイツ戦に参戦するのを阻止するために唱えられたのが最初だということです。
 1992年の大統領選挙の予備選挙では、共和党右派のパトリック・ブキャナンが主張しました。

自国第一とか国益優先というのは、どこの国の政治でも言われることですが、基本的には国内向けに言うことです。
しかし、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」は、「アメリカを再び偉大に」とともに基本戦略ですから、対外的にも主張されていると見るべきです。
ですから、2016年の大統領選の段階で、世界各国は「アメリカといえども法の支配に従うべきで、われわれは『アメリカ・ファースト』など認めない」と言うべきでした。
トランプ大統領が当選してからは、安倍首相みたいにトランプ大統領にすり寄る国家指導者もいて、国際社会はまとまることができませんでした。


結局、ウルトラ利己主義者がアメリカ大統領になったので、アメリカはウルトラ利己主義国家になり、世界が迷惑をしています。
以前からアメリカは利己主義国家だったとはいえますが、表向きは「法の支配」とか「自由と民主主義」ということを押し立てていたので、そうひどいことはしませんでした。
トランプ大統領にそうした理念はなく、露骨な利己主義があるだけです。


これまでは経済のことばかり言ってきましたが、トランプ大統領はパリ協定離脱、イラン核合意離脱、中距離核戦力(INF)全廃条約離脱などを行ってきました。
これも「アメリカ・ファースト」の一環のようですが、果してアメリカの利益になっているのかはわかりません。
ただ、世界の不利益であるのは間違いありません。


バイデン候補は「アメリカ・ファースト」の否定を選挙の争点に持っていくということはしていないようですが、実質的には大きな争点でしょう。
バイデン候補が当選すれば、アメリカは「アメリカ・ファースト」を捨てて、まっとうな国として国際社会に復帰するはずです。

日本のメディアがアメリカの分断に比重を置いて報道しているのはおかしなことです。アメリカの分断はあくまでアメリカの国内問題です。
アメリカが「アメリカ・ファースト」を捨てるか否かは、世界にとっても日本にとっても重大事です。

それにしても、日本で「アメリカ・ファースト」を批判する人をほとんど見かけないのは、なんとも不思議なことです。

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新型コロナウイルスの感染者が急増し、「第二波」が到来したと言うしかない状況です。

そんな中、7月21日発売の月刊「WiLL」9月号(ワック出版)が「新型コロナ第二波はこない」と断言した記事を目玉にして、「壮大に予想を外した」と評判になっています。


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月刊誌なので書店に並んだときには状況が変わっていたということではなくて、編集部はこの内容に自信を持っているようです。
発売に合わせてYouTubeで配信された「WILL増刊号インターネット版」では、山根真デスクはこの記事が文芸春秋最新号の特集「第二波に備えよ」にケンカを売る内容であるとして、「自信あるんで、もうかかってこいって感じですよね」と語っています。

「新型コロナ第二波はこない」の執筆者として2人の名前があがっていますが、上久保靖彦京都大学大学院特定教授は、日本で新型コロナ感染症の死者が少ないのは日本人がすでに新型コロナに対する集団免疫を獲得しているからだという仮説を発表した人で、もう1人の小川榮太郎氏は、自称文芸評論家で、『約束の日 安倍晋三試論』という著書もある、安倍応援団の筆頭格の人です。

「WiLL」自体が安倍応援雑誌みたいなものですが、9月号の表紙を見ると、壮大に外しているのは「新型コロナ第二波はこない」だけではなくて、「日本のメディアが伝えない米大統領選はトランプ圧勝」も同じです。

このふたつの記事はつながっています。
トランプ大統領は、「ウイルスはすぐに消え去る」などと言って感染拡大を軽視してきました。「第二波はこない」と同じです。もしそれが正しければ「トランプ圧勝」も正しかったでしょう。
現実にはウイルスは猛威をふるい、トランプ大統領はバイデン候補に大きく水をあけられています。


「第二波はこない」はトランプ大統領の言いそうなことです。
「バイデンはボケてるョ!」という記事もありますが、これもトランプ大統領の言いそうなことです。

「WiLL」のバックナンバーを見てみると、安倍応援記事ばかりでなく、トランプ応援記事と、トランプ大統領の言い分と同じような記事が多く目につきます。

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「新型コロナウイルスは中国の陰謀だ」と「人種差別反対運動は反トランプの陰謀だ」という記事がやたら目につきます。「ディープステート」という言葉も出てきます。まるでアメリカ保守派の雑誌みたいです。

トランプ大統領は「中国ウイルス」という言葉を使って中国に責任転嫁する一方で、「ウイルスはすぐに消え去る」とも言ってきて、7月4日の独立記念日の演説では、新型コロナウイルスの症例の「99%は無害」と言いました。
ですから、「WiLL」にウイルス中国陰謀説とともに「第二波はこない」という記事が載るのも不思議ではありません。



「第二波はこない」という記事は、おかしな雑誌が予想を外したというだけのことではすまないかもしれません。
というのは、執筆者の一人の小川榮太郎氏は安倍首相にきわめて近い人物で、それなりの影響力があるかもしれないからです。

小川氏はFacebookにこんなことを書いています。

小川栄太郎


上久保靖彦教授の日本人集団免疫仮説に基づく「第二波はこない」説を自民党や担当大臣にレクチャーしているのです(担当大臣というのは常識的には西村康稔新型コロナ担当大臣のことでしょう)。

安倍政権は唐突に「Go Toトラベル」を前倒しして実施すると発表し、明らかに第二波が襲来していると思われる中でも強行して世の中を混乱させていますが、その判断にはこのことも影響していたのかもしれません。


トランプ大統領の妄想が日本の保守派に浸透し、それが安倍政権を動かしているかもしれないということです。
“中国ウイルス”ならぬ“トランプウイルス”の脅威です。

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日本では新型コロナウイルスの新規感染者数が7月3日、4日と200人を越え、第2波の到来が懸念されていますが、アメリカではこのところ連日、新規感染者数が5万人を越えています。
アメリカと日本の人口の違いを考慮しても、アメリカは日本の100倍も感染者が出ていることになります。
ヨーロッパではある程度抑え込みに成功していますが、アメリカではむしろ増加ペースが高まっています。

国別感染者グラフ
https://www.anzen.mofa.go.jp/covid19/country_count.html

ブラジルは、ボルソナロ大統領が新型コロナウイルス感染症を「ちょっとした風邪」と呼び、経済活動を止めないという方針なので(州政府は独自に対応)、感染拡大もやむをえないのかなと思いますが、アメリカは一応対策をとっていながらこの数字です。

新型コロナウイルスの感染については地域差がひじょうに大きくて、その理由はまだよくわかっていませんが、私はとりあえず文化的社会的な側面について、なぜアメリカで感染がこれほど拡大するのかについて考えてみたいと思います。


手掛かりはマスクです。

日本から見て不思議に思うのは、欧米人はマスクを着けることに妙な心理的抵抗があるらしいことです。
私は最初、マスクを着けるのはアジア人というイメージがあるので、欧米人はアジア人への差別意識からマスクを着けないのかと思いました(欧米では握手をしなくなっているので、代わりにおじぎをすればいいと思うのですが、やっていません。これも差別意識かもしれません)。

しかし、ヨーロッパではマスクを着けるのが今では普通に行われるようになっています。
問題はアメリカです。アメリカではトランプ大統領を初め今でもマスクを着けない人が多くいます。


なぜアメリカ人はマスクを嫌うのでしょうか。
西部劇などの銀行ギャングはスカーフで顔を隠すので、顔を隠すのは悪人のイメージだからだという説があります。しかし、悪いことをするときに顔を隠すのはアメリカ人に限りません。
テレビである心理学者が、アジア人は相手の目を見て心理を読むが、欧米人は口元を見て心理を読むのだと言っていました。だから、サングラスは欧米で普及しても日本ではあまり普及しないのだということです。
テレビ朝日系「大下容子ワイド!スクランブル」では、アメリカでは正義のヒーローは目を隠しても口は隠さないのだと言って、例としてキャプテンアメリカやバットマンやロボコップを挙げていました。
これらは話としてはおもしろいのですが、理由としては弱い気がします。

もっと単純に、マスクをするのは弱いイメージだからだという説が有力だと思います。

ウイルスから自分を守るためにマスクをするのだとすると、マスクをつける人間はウイルスを恐れる弱い人間だということになります。
トランプ大統領は、ディールを得意としていますが、つねに強さを誇示して相手を圧倒するというやり方です。少しでも弱みを見せるとディールは不利になるので、自分のマスク姿は見せたくないでしょう。

強さを誇示するやり方は、男性性と結びつけて、マチズモとか男性優位主義と言うのが一般的です。
しかし、最近は強さを誇示することは男性に限るものではないので、マチズモという言葉は当てはまらない気がします。
とりあえず「強さを誇示する文化」とでも呼んでおきます。

アメリカは独立戦争以来、強さを誇示しながら発展してきました。先住民の土地を奪うときも、黒人奴隷を使役するときも、強さを誇示すると有利に運びます。西部では男は腰に銃をぶら下げるのが普通でした。
ですから、強さを誇示するのはアメリカの伝統文化です。
アメリカの保守派はこうした伝統文化を重んじ、銃規制に反対しますし、マスク着用にも反対です。

トランプ大統領の演説会に集まる人たちはほとんどマスクをしていません。
一方、「Black Lives Matter」を掲げてデモをする人たちはほとんどマスクをしています。
保守派とリベラルの違いがマスクに表れています。

マスクをしないような人は、手洗いやソシアルディスタンスもきちんとしないでしょう。
トランプ支持の保守派は人口の4割程度います。イタリアやスペインで爆発的に感染が広がったころの生活習慣を持った人が今もアメリカに4割程度いるため、アメリカで感染が広がり続けているのだと思われます。


トランプ大統領は感染が始まった初期の段階から、「ウイルスは暖かくなれば消え去る」と楽観論を述べ、感染が拡大してくると、「アメリカがほかの国より検査を多く行っているためで、名誉の印だ」と言い、5月8日には「新型コロナウイルスはワクチンがなくても消滅する」とまったく根拠のないことを言いました。

7月2日には、2日連続で感染者が5万人を越えましたが、トランプ大統領は記者会見で「我々はこの病気を理解している。すぐに収束できる」と楽観論を語り、ペンス副大統領も「個々の局所的なものだ」と言いました。
普通なら感染が拡大すると、「事態は深刻だ。国民はいっそう感染防止に努めてもらいたい」と国民の危機意識に訴えかけるところですが、まったく逆のことをやっています。

ちなみに日本では、マスコミが感染の初期の段階で危機感をあおりすぎて、今でもまだ恐れすぎの傾向があるかもしれません。アメリカの100分の1程度の感染で騒いでいます。


トランプ大統領は国民をウイルスから守らねばならないのですが、「守る」というのは弱い人間のすることだと思っているので、できません。その代わりにもっぱら「攻撃」をします。
トランプ大統領は国内で感染が拡大すると、中国とWHOに責任があると言ってひたすら「攻撃」しました。
また、感染のごく初期の段階でいち早く中国とヨーロッパからの入国を禁止しましたが、これもトランプ大統領においては「攻撃」だったからでしょう。

4月23日には、家庭用漂白剤が新型コロナウイルスの消毒にも有効だという研究発表を受けて、トランプ大統領は「(新型ウイルスを)1分でやっつける消毒剤もあるだろう。1分だ。そういうのをやる方法はあるかな? 体内への注射とか」と語り、消毒剤を注射してもいいのかという電話相談が急増するという騒ぎになりました。
5月18日には、新型コロナウイルスの感染予防のため抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」を毎日服用していると言いました。この薬は新型コロナウイルス治療薬としては未承認であり、さらに深刻な副作用のリスクが指摘されたことから、20日には服用をやめると表明しました。
まったくのでたらめをやっているようですが、トランプ大統領においては、消毒剤や治療薬はウイルスに対する「攻撃」なのでしょう。


現在、「Black Lives Matter」を掲げるデモや、アメリカの歴史上の偉人の像を撤去する運動が盛り上がっています。
日本から見ていると、なにも新型コロナの感染が拡大する真っ最中にしなくてもいいのにと思えますが、アメリカでは、感染拡大を防げないトランプ大統領ら保守派の権威が失墜し、今まで抑え込まれてきたマイノリティやリベラルが力を解き放っている状況なのでしょう。
そういう意味で、新型コロナウイルスはアメリカ社会を根底から揺り動かしているのかもしれません。


トランプ大統領は7月1日、FOXビジネスのインタビューで「マスクには大賛成だ」と述べ、公的な場で自分がマスクを着用することには「なんの問題もない」として、方針転換したようです。
しかし、7月4日の独立記念日の祝典で花火大会と大規模な集会を開催し、トランプ大統領が演説したとき、大統領はもちろん集会に参加した数千人はほとんどマスクをつけていませんでした。

現在、アメリカでは保守派対ウイルスの戦いが行われていて、その成り行き次第で、保守派対リベラルの力関係も、大統領選挙の結果も決まるのではないかと思われます。

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アメリカで歴史上の偉人とされる人物の像が引き倒されたり撤去されたりする動きが加速しています。
南軍のリー将軍の像が倒されるのはわかりますが、サンフランシスコで6月19日に北軍のグラント将軍(第18代大統領)の像も倒されました。奴隷の所有者だったというのが理由のようです。
同時に、同じ理由でアメリカ国歌「星条旗」の作詞者であるフランシス・スコット・キーの像も引き倒されました。

ニューヨーク市のアメリカ自然史博物館にある第26代大統領セオドア・ルーズベルトの像も撤去されることが決まりました。ルーズベルトが先住民族とアフリカ系男性を両脇に従えるようにして馬にまたがっている像で、人種差別と植民地主義を美化するものだとかねてから批判されていました。
オレゴン州ではワシントン大統領の像も破壊されましたし、コロンブス像の撤去も各地で進んでいます。

5月25日にミネソタ州ミネアポリス近郊で黒人男性のジョージ・フロイド氏が白人警官に首を膝で押さえられて殺害された事件をきっかけに人種差別反対運動が盛り上がったことの影響が大きいのはもちろんですが、そういう一時的なことではなく、もっと深いところでアメリカの歴史の見直しが進んでいるようです。


小田嶋隆氏の『「日本人感」って何なんだろう』というコラムは、水原希子さんがSNSで差別的な攻撃を受けていることを主に取り上げたものですが、Netflixの『13th -憲法修正第13条-』というドキュメンタリー映画も紹介していて、この映画がたいへんすばらしかったので、私もこのブログで紹介することにします。

現在、この映画はNetflixの契約者以外にもYouTubeで無料公開されていて、誰でも観ることができます(期間限定かもしれません)。




これはNetflixが2016年に制作した1時間40分のドキュメンタリー映画です。これを見ると、現在「Black Lives Matter」をスローガンにした運動が盛り上がっている背景がわかります。

私はマイケル・ムーア監督の「ボウリング・フォー・コロンバイン 」に匹敵する映画だと思いました。
「ボウリング・フォー・コロンバイン 」は銃規制を軸にしてアメリカ社会の病理を描いた映画で、「13th -憲法修正第13条-」は刑務所を軸にしてアメリカ社会の病理を描いた映画です。「ボウリング――」のほうは、マイケル・ムーア監督がエンターテインメントに仕上げていて、おもしろく観られますが、「13th -憲法修正第13条-」のほうは硬派のドキュメンタリーなので、観るのに少し骨が折れるかもしれません。しかし、観ると「そうだったのか」と、目からうろこがぼろぼろ落ちる気がします。

内容については小田嶋隆氏が要約したものを引用します。

 視聴する時間を作れない人のために、ざっと内容を紹介しておく。
 『13th』というタイトルは、「合衆国憲法修正第13条」を指している。タイトルにあえて憲法の条文を持ってきたのは、合衆国人民の隷属からの自由を謳った「合衆国憲法修正第13条」の中にある「ただし犯罪者(criminal)はその限りにあらず」という例外規定が、黒人の抑圧を正当化するキーになっているという見立てを、映画制作者たちが共有しているからだ。

 じっさい、作品の中で米国の歴史や現状について語るインタビュイーたちが、繰り返し訴えている通り、この「憲法第13条の抜け穴」は、黒人を永遠に「奴隷」の地位に縛りつけておくための、いわば「切り札」として機能している。

13条が切り札になった経緯は、以下の通りだ。

1.南北戦争終結当時、400万人の解放奴隷をかかえた南部の経済は破綻状態にあった。
2.その南部諸州の経済を立て直すべく、囚人(主に黒人)労働が利用されたわけなのだが、その囚人を確保するために、最初の刑務所ブームが起こった。
3.奴隷解放直後には、徘徊や放浪といった微罪で大量の黒人が投獄された。この時、修正13条の例外規定が盛大に利用され、以来、この規定は黒人を投獄しその労働力を利用するための魔法の杖となる。刑務所に収監された黒人たちの労働力は、鉄道の敷設や南部のインフラ整備にあてられた。
4.そんな中、1915年に制作・公開された映画史に残る初期の“傑作”長編『國民の創生(The Birth of a Nation)』は、白人観客の潜在意識の中に黒人を「犯罪者、強姦者」のイメージで刻印する上で大きな役割を果たした。
5.1960年代に公民権法が成立すると、南部から大量の黒人が北部、西部に移動し、全米各地で犯罪率が上昇した。政治家たちは、犯罪増加の原因を「黒人に自由を与えたからだ」として、政治的に利用した。
6.以来、麻薬戦争、不法移民排除などを理由に、有色人種コミュニティーを摘発すべく、各種の法律が順次厳格化され、裁判制度の不備や量刑の長期化などの影響もあって、次なる刑務所ブームが起こる。
7.1970年代には30万人に過ぎなかった刑務所収容者の数は、2010年代には230万人に膨れ上がる。これは、世界でも最も高水準の数で、世界全体の受刑者のうちの4人に1人が米国人という計算になる。
8.1980年代以降、刑務所、移民収容施設が民営化され、それらの産業は莫大な利益を生み出すようになる。
9.さらに刑務所関連経済は、増え続ける囚人労働を搾取することで「産獄複合体(Prison Industrial Complex)」と呼ばれる怪物を形成するに至る。
10.産獄複合体は、政治的ロビー団体を組織し、議会に対しても甚大な影響力を発揮するようになる。のみならず彼らは、アメリカのシステムそのものに組み込まれている。
 ごらんの通り、なんとも壮大かつ辛辣な見立てだ。


アメリカを語るときに「軍産複合体」ということがよく言われますが、ここには「産獄複合体」がキーワードとして出てきます。
刑務所システムそのものが大きなビジネスになっていて、しかも受刑者の労働力が産業に利用されて利益を生み出します。
そのため受刑者が増えるほど儲かるわけです。

1970年に35万人ほどだった受刑者は、80年には50万人、90年には117万人、2000年には200万人という恐ろしいスピードで増え続け、14年には230万人を突破しました。
アメリカもヨーロッパ諸国も同じような文明国ですが、アメリカだけ犯罪大国である理由が、この映画を観て初めてわかりました。

受刑者をふやすためのひとつの仕掛けが“麻薬戦争”です。
アメリカが長年“麻薬戦争”をやっていて、少しも成果が上がらないのを不思議に思っていましたが、「受刑者をふやす」というほうの成果は上がっているのです。

犯罪者の97%は裁判なしに刑務所送りにされているということも初めて知りました。
私の知識では、アメリカでは裁判官の前で罪を認めるとその場で刑が言い渡され、無実を主張すると陪審員つきの裁判に回されるのですが、実際は容疑者が検察官と取引して刑を認めているのです。容疑者が裁判を要求すると、印象を悪くして刑が重くなる可能性が大きいので、97%が裁判なしになります。

犯罪者だから刑務所に入るのではなく、刑務所に入る人間をふやすために犯罪者を仕立て上げていると考えるとよくわかるでしょうか。

刑務所送りになるのは黒人が多く、それが現在の「Black Lives Matter」の運動につながっているというわけです。

Netflixがこういう根源的なアメリカ批判の映画をつくって、しかも今回無料公開していることは大いに称賛に値します。


ところで、アメリカがこういう国であることは同盟国である日本にも当然影響してきます。

日本はヨーロッパから文句を言われながらも死刑制度を維持し、特定秘密保護法、共謀罪をつくり、司法取引を導入してきましたが、これは要するに司法のアメリカナイズをしているわけです。
幸い日本は犯罪はへり続けていますが、果してアメリカを手本に司法改革をしていていいのか、考え直さないといけません。

それから、この映画には出てきませんが、“テロ戦争”も“麻薬戦争”と同じなのではないかと思いました。
“テロ戦争”は産獄複合体と軍産複合体を同時に儲けさせる仕掛けと考えられます。

日本は同盟国の正体をしっかりと見きわめて、国のかじ取りを誤らないようにしないといけません。

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人種差別反対運動で「Black Lives Matter」というスローガンが使われていますが、これをどう訳すかが問題になっています。

「 Matter」は、名詞だと「問題」とか「事柄」という意味ですが、ここでは動詞なので、「問題である」とか「重要である」という意味になります。
一般には「黒人の命はたいせつだ」とか「黒人の命もたいせつだ」と訳されていますが、これでは本来の意味が表現できていないという声があります。
そこで「黒人の命こそたいせつだ」という訳が考えられましたが、これでは黒人の命を特別扱いしているみたいです。

そうでなくても、「Black Lives Matter」は逆差別だと主張する人たちがいます。
そういう人たちは「All Lives Matter」と言います。

「Blue Lives Matter」という言葉もあります。
ブルーはアメリカでは警官を象徴する色だということで、「警官の命もたいせつだ」という意味になります。
警官が黒人を殺す事件が人種差別反対運動盛り上がりのきっかけになっているのに、それを否定するような言葉です。

日本で痴漢対策に女性専用列車があることに対して、「女性専用列車は男性差別だ」と主張する人がいるみたいなものです。

で、「Black Lives Matter」をどう訳すかという問題ですが、朝日新聞の『(後藤正文の朝からロック)黒人の命「は」「も」「こそ」』というコラムに、ピーター・バラカンさんによる「黒人の命を軽く見るな」という訳語が紹介されていて、これがいいのではないかと思いました。

「黒人の命を軽く見るな」という言葉だと、黒人の命が軽く見られている現状への抗議だということがわかります(「黒人の命を無視するな」のほうがよりいいかもしれません)。
「黒人の命はたいせつだ」とか「黒人の命もたいせつだ」では、差別的な現状が見えてきません。


ともかく、「黒人差別反対」という声を上げると、「それは白人差別だ」という声が上がり、「女性差別反対」の声を上げると、「それは男性差別だ」という声が上がり、議論が混乱するのが常です。
こうしたやり方が天才的にうまいのがトランプ大統領です。

6月12日、ジョージア州アトランタ市で、駐車場の車の中で寝ていた黒人男性が飲酒運転で逮捕されるときに抵抗し、警官のテーザー銃を奪い、警官が黒人男性に拳銃を3発撃って射殺するという事件がありました。撃った白人警官は殺人罪で訴追されましたが、白人警官が血を流して倒れている黒人男性を蹴りつけている映像があり、白人警官への批判がいっそう高まりました。
トランプ大統領は米Foxニュースのインタビューで、この事件に言及し、「私は彼(被告の白人警官)がフェアな扱いを受けることを願う。わが国では、警察はフェアな扱いを受けてこなかったから」「あのように警察官に抵抗してはいけない。それでとても恐ろしい対立に陥ってしまい、あの終わりようだ。ひどい話だ」と語りました。

トランプ大統領にかかると、フェアな扱いを受けてこなかったのは黒人ではなく警官で、撃った白人警官より抵抗した黒人男性が悪いということになってしまいます。

トランプ大統領は外交関係でも同じやり方です。
たとえば5月29日の会見でも「中国は何十年もの間、米国を食い物にしてきた。私たちの仕事を奪い、知的財産を盗んできた」と言いました。
トランプ大統領はつねにこの調子で、「アメリカは食い物にされてきた」「アメリカは利用されてきた」「日米安保は不公平だ」と言います。
どの国も超大国のアメリカを食い物にすることなどできるわけがないのですが、ともかくトランプ大統領は、アメリカは食い物にされていると主張し、相手国と交渉するわけです。


つまりトランプ大統領は「公平」という基準が普通の人と違うのです。
いや、トランプ大統領だけでなく、白人至上主義者はみな同じです。
彼らは、今のアメリカは黒人やヒスパニックやアジア系がのさばって、白人は不当にしいたげられていると思っていますし、アメリカは中国や日本に食い物にされていると思っています。
彼らの内心の思いを政治の表舞台で言語化することで支持を集めたのがトランプ大統領です。


トランプ大統領や白人至上主義者は、議論の出発点が違うので、一般の人が議論するとどうしてもかみ合いません。
たとえばテニスの大坂なおみ選手は、差別問題に積極的な発言をしていますが、ツイッターで「日本には差別はない。引っかき回すな(There is no racism in Japan. Do not make a disturbance)」と反論されたことがありますが、これなど典型です。
もし日本に差別がないなら、差別反対の声を上げる大坂選手は愚か者ということになりますが、もちろん日本に差別はあるに決まっています。

「日本には差別はない」というのはまだかわいいほうです。
本格的な差別主義者は、「在日は特権を享受していて、日本人は差別されている」と主張します。

歴史修正主義者も同じ論法を使います。
自虐史観の人間が歴史をゆがめているので、自分たちはそれを正しているだけだというわけです。

差別主義者と戦うために土俵に上がったときは、仕切り線がちゃんと真ん中に引かれているか確かめないといけません。

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米軍によるソレイマニ司令官殺害は、どう見ても無法行為です。
アメリカはソレイマニ司令官をテロリストに指定していましたが、勝手に指定して、勝手に殺しただけです。
イラン国会はこの事件を受けて、すべての米軍をテロリストに指定する法案を可決しました。
無法の世界がどんどん拡大しています。

無法の世界といえば、西部劇がそうです。
私の世代は西部劇を見て育ったようなものです。子どものころ、映画はもちろんテレビでもアメリカ製の西部劇のドラマをいっぱいやっていました。

西部劇では、保安官は登場しても重要な役割は果たさず、主人公は自分の力で悪漢(あるいはインディアン)を倒さなければなりません。
法より力――というのが西部劇の基本原理です。

現在のアメリカは法の支配が行われていますが、銃を所持する権利も絶対視されています。法の支配は表面的なもので、一皮めくれば「法より力」の原理が現れます。

トランプ政権は2017年12月、安全保障政策のもっとも基本となる「国家安全保障戦略」を発表しましたが、その「四本柱」は次のようなものです。

I. 国土と国民、米国の生活様式を守る 
II. 米国の繁栄を促進する 
III. 力による平和を維持する 
IV. 米国の影響力を向上する
https://jp.usembassy.gov/ja/national-security-strategy-factsheet-ja/

「法の支配」も「世界」もありません。「アメリカ・ファースト」があるだけです。
「力による平和」は、銃で自分の身を守るという西部劇の原理です。

今のアメリカは法の支配が行き渡り、腰に銃をぶら下げていなくても警察が守ってくれますが、アメリカ人にとってフロンティアは世界に拡大し、アメリカ国外が西部劇の世界になりました。
世界に法の支配を広げるのではなく無法状態を広げるのがアメリカのやり方です。無法の世界では力のある者が得をするからです。

よくアメリカのことを「世界の警察官」にたとえますが、警察官なら法に従います。
今のアメリカをたとえるなら「自警団のボス」か「ギャングのボス」というべきです。

しかし、長い目で見れば今の無法の国際社会は過渡期で、いずれ法の支配が行き渡るに違いありません。

今の日本は「自警団のボス」に従っていますが、いつまでもこの状況は続きませんから、自分の手を汚さないようにしないといけません。


アメリカはソレイマニ司令官を殺害し、イランは米軍基地に弾道ミサイルで報復攻撃をしましたが、今のところアメリカもイランも抑制された対応をしているようです。
これはなぜかというと、「法の支配」はなくても「経済の支配」があるからです。
ソレイマニ司令官殺害の瞬間に株価は下がり、原油価格は上がりました。本格的な戦争になれば双方に大きな経済的損失が生じるのは目に見えています。

平和は「法の支配」でなく「経済の支配」でも達成できるのかもしれません。

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トランプ大統領の指令によりアメリカ軍はイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を空爆で殺害しました。
これはなんと言えばいいのでしょうか。暗殺でしょうか。それとも殺人でしょうか。

アメリカ国務省高官は「1942年にヤマモトを撃墜したようなものだ」と語りました(正しくは1943年)。
ウォール・ストリート・ジャーナルも「トランプの合法的な権限」という題名の社説で、山本五十六連合艦隊司令長官の搭乗機撃墜になぞらえて、ソレイマニ司令官殺害の正当性を主張しました。
アメリカのシンクタンク、ブルッキングス研究所のシニアフェロー、 マイケル・オハンロン氏も「ソレイマニ司令官殺害は、民間人指導者への攻撃より、山本五十六元帥の搭乗機撃墜により類似している」と述べました。
ソレイマニ司令官殺害を山本長官機撃墜になぞらえる発言が続々です。

しかし、当時の日米は戦争をしていましたが、今のアメリカとイランは戦争をしているわけではないので、状況がまったく違います。
ソレイマニ司令官が殺害されたのはイラクのバクダッド国際空港の近くで、車に同乗していたイラクのイスラム教シーア派武装組織の司令官らも死亡したとされます。
空港の近くですから、イラクに潜入して軍事作戦の指揮をとっていたわけではなく、イラク政府と交渉するなどの途中だったのでしょう。
イラク国内では、アメリカ軍によるソレイマニ司令官殺害はイラクの主権の侵害だという声が上がっています。

ソレイマニ司令官殺害を山本五十六長官殺害になぞらえるのは不適切ですが、ソレイマニ司令官は国民的人気があって、それは山本長官に似ています。
ソレイマニ司令官の葬儀には数十万の人が集まって通りを埋め尽くしました。
スクリーンショット (11)

アメリカとイランの間に報復の連鎖が起こるかもしれません。

アメリカ政府関係者もまずいことをやったと思っているのでしょう。
そのためソレイマニ司令官殺害を正当化しようとして、いろいろ語っています。
アメリカ政府は2007年にソレイマニ司令官をテロリストと認定して経済金融制裁の対象にしてきましたが、今回アメリカ米国務省は「ガセム・ソレイマニは、イラクで米軍人少なくとも603人を殺害し、数千人に障害を負わせた責任がある」とツイートしました。
ペンス副大統領は「ソレイマニ司令官は2001年9月11日の米同時多発攻撃の実行犯を支援していた」とツイートしましたが、これについてはアメリカのメディアに「米同時多発攻撃に関する独立調査委員会の585ページにわたる報告書にソレイマニ司令官の名前はない」と反論されています。
そして、さらに山本長官の名前を持ち出したというわけです。
そうすると山本長官はテロリストだということになります。

日本人からしたら、山本長官がテロリストだとは考えもつかないことです。
しかし、山本長官は真珠湾攻撃の発案者であって、その実行責任者でもあります。
アメリカ人の感覚では真珠湾攻撃はテロと同じということかもしれません。
そして、アメリカ人にとっては当時の日本はテロ国家なので、戦後、国家の指導者を処刑したのも当然ということなのでしょう。
しかし、真珠湾攻撃はあくまで軍事行動で、しかも軍事施設を標的としたものなので、山本長官をテロリストと見るのは、やはり間違いです。



日本政府は、ソレイマニ司令官殺害に関してなんのコメントもしていません。
政府機関は正月休みですが、政治家は対応できるはずです。
安倍首相は1月4日、ゴルフをしていましたが、ゴルフ場で記者団に中東情勢について聞かれ、「今月、諸般の情勢が許せば中東を訪問する準備を進めたいと思っている」とだけ言って、ソレイマニ司令官殺害についてはなにも語りませんでした。
ありきたりですが、アメリカとイランの双方に自制を呼びかけるぐらいはするべきです。


イラクの議会は、イラク国内でソレイマニ司令官が殺害されたことに反発して5日、外国軍の撤退を求める決議を採択しました。するとトランプ大統領はイラクに対し「これまで米軍駐留に払った数十億ドルを返還しなければ、未曾有の経済制裁をする」とツイートしたということで、わけのわからない状況になっています。

こういう状況では安倍首相はますます発言することができないでしょう(安倍首相のメンタリティではできないという意味です。もちろん発言するべきです)。

そもそもは中東に米軍が存在していることが間違いです。
よく国際政治学者は「米軍が撤退すると力の空白が生じる」と言いますが、もともとその地域には各国の軍隊が存在していたのですから、「空白」にはなりません。米軍駐留によって「二重軍事力」の状態になっていたのが正常化されるだけです。

安倍首相に限らず多くの日本人はこういう根本問題について考えるのが苦手ですし、国際政治の世界で発言するのも苦手です。
とりあえずアメリカに対して「山本長官はテロリストではない」と発言することから始めるべきでしょう。
これは日本の名誉のためだけではなく、アメリカにソレイマニ司令官殺害がただの犯罪行為であることを自覚させ、世界平和に貢献することにつながります。

G7
首相官邸ホームページより

フランスのビアリッツで8月24日から26日にかけてG7サミットが行われましたが、わが国のマスコミはそのことよりも韓国のことばかりです。おかげで日本人は文在寅政権の支持率や文氏の側近のスキャンダルに詳しくなったはずです。

世界には重要な問題が山積しているのに、なぜ日本人は韓国のことばかりに目を奪われる愚か者になってしまったのかというと、やはりそれなりの仕掛けがありました。

次はフジテレビ系の「FNN.jpプライムオンライン」の記事ですが、G7サミットのことを書きながら、内容は韓国のことになっています。

「文大統領 信用できない」 トランプ大統領 G7の席で
G7サミットで、アメリカのトランプ大統領が、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領を「信用できない」などと、2日にわたって痛烈に批判していたことが、FNNの取材でわかった。

トランプ氏が文大統領を批判したのは、フランスで開かれているG7(主要7カ国)首脳会議の初日の夜で、首脳らが外交安全保障に関する議論をしている最中に、「文在寅という人は信用できない」などと切り出したという。

政府関係者によると、トランプ氏はさらに、「金正恩(キム・ジョンウン)は、『文大統領はウソをつく人だ』と俺に言ったんだ」と重ねて批判したという。

そして、トランプ氏は、2日目の夜に行われた夕食会でも、文大統領について、「なんで、あんな人が大統領になったんだろうか」と疑問を投げかけ、同席した首脳らが、驚いた表情をする場面もあったという。

一連の発言に対して、安倍首相が反応することはなかった。

政府内には、トランプ氏の発言の背景には、韓国が日韓のGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を破棄したことなどが念頭にあるとの見方がある。
https://www.fnn.jp/posts/00423006CX/201908262030_CX_CX

一読して、これはほんとうだろうかという疑問がわきます。
いくらトランプ大統領でも、その場にいない他国の首脳の悪口を言うだろうかと思いますし、誰にとっても興味のない話をするだろうかとも思います(金正恩委員長の話をして、その流れでというのはあるかもしれません)。
それに、「なんで、あんな人が大統領になったんだろうか」というのは愚痴に近く、トランプ大統領がもっとも言いそうにない言葉です。

もちろん、ほんとうのことかもしれません。
ほんとうだとして、問題はこの記事の書き方です。
これは本来は、「トランプ大統領が『文在寅という人は信用できない』と発言したので、各国首脳は驚いた(あきれた)」という記事になるはずです。
FNNは「親米・反韓」なので、逆の書き方をします。


この情報提供者は「政府関係者」だということです。
政府がオフレコの情報を提供し、メディアも政府の狙い通りの記事を書いています。
安倍政権とメディアが合作で嫌韓世論をつくっていることがわかります。

ここでのポイントは、アメリカを利用していることです。
日本人は嫌韓の人ばかりではありませんが、アメリカには弱いので、「アメリカが韓国に怒っている」とか「アメリカは韓国に失望した」とか言うことが世論の誘導には有効です。

もちろん嫌韓に世論を誘導するのは、安倍外交が対米も対中も対露も対北朝鮮もまったくだめだということから国民の目を反らすためです。

しかし、毎日が嫌韓騒ぎでは、国民もいい加減飽きてくるのではないでしょうか。

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韓国が日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄したことについて、アメリカのポンペオ国務長官は「失望した」と述べ、米国防総省も「懸念と失望」の声明を出しました。
「失望」というのはかなり強い言葉ですから、日本の韓国嫌いの人たちは「韓国はアメリカの怒りを買った」と大喜びでした。
しかし、トランプ大統領は「韓国でなにが起こるか見てみよう」と言っただけでした。文大統領について「ひじょうによい友人だ」とも述べました。

振り返ると、ポンペオ長官がカメラの前で「失望した」と述べたとき、そんなに強い調子ではありませんでした。なにを言ってもトランプ大統領にひっくり返される可能性があるとわかっていたからでしょう。
ポンペオ長官は対北朝鮮強硬派で知られていましたが、今はそれを封印して、トランプ大統領に合わせています。


G7サミットが8月24日からフランスで開かれ、安倍首相はトランプ大統領と会談し、朝鮮半島情勢についても話し合いました。

北朝鮮のミサイルは「違反」? 日米首脳間で見解に相違
 北朝鮮が短距離弾道ミサイルの発射を繰り返していることについて、日米首脳会談の冒頭、安倍首相は「国連安保理決議に明確に違反する」と強調した。これに対し、トランプ米大統領は「首相の心情は理解できる」としつつ、「いい気分ではないが、(米朝の)合意には違反していない。長距離ミサイルの発射や核実験はしていない。ずっと通常型に近く、彼(金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長)だけでなく、多くの人(国)が実験している」と語った。日米首脳間の見解の相違をうかがわせた。(ビアリッツ=渡辺丘)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190826-00000003-asahi-int


NHKニュースによると、このときトランプ大統領は「先週キム委員長からとてもすばらしい手紙をもらったが、その中で彼は『韓国が戦争ゲームしている』と不満を示していた。私も米韓合同軍事演習は不必要だと考えている」と述べました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190825/k10012048141000.html


トランプ大統領の考えは、従来のアメリカの方針とはまったく違っています。トランプ大統領の考え方では、在韓米軍はほとんど不要で、そのうちまったく不要になります。
そして、在日米軍も同じようなものでしょう。

アメリカの基本戦略は、軍事力で世界に君臨するという覇権主義です。
トランプ大統領は、軍事費は増大させていますが、不思議なことに軍事力で世界に君臨するという発想がありません。
軍事に関しては、「伝統的なアメリカ」と「トランプのアメリカ」はまったく別なのです。
日本人はこのことをあまり理解していないようです。
トランプ大統領と金正恩委員長の仲良しぶりも、見て見ないふりをしています。

そのため、日本人はトランプ大統領についていけません。もちろん安倍首相もです。

安倍首相はついていけないだけでなく、振り回されています。
安倍首相は5月6日にトランプ大統領と電話会談したあと、記者団に対して「条件をつけずに金正恩委員長と向き合う」と語り、これまで北朝鮮にはひたすら「制裁と圧力」を強化し、拉致問題の解決を条件にして対話を拒んできた方針から大転換しました。
もちろんトランプ大統領から指示されたからです。トランプ大統領は前から「北朝鮮の非核化の費用は韓国と日本が出す」と言って、アメリカの負担は必要ないと国民に説明してきましたから、「シンゾー、早く金正恩に会って、金を出す段取りをしろ」などと言われたのでしょう。
しかし、方針を変えた安倍首相に対して北朝鮮の報道官は「執拗に平壌の門をたたいているが、ずうずうしい。わが国への敵視政策はなにも変わっていない」と罵倒しました。
それ以降、安倍首相も北朝鮮への対話呼びかけはやめたようです。

しかし、トランプ大統領の態度は一貫していて、北朝鮮に対して友好的です。
かつてはティラーソン国務長官とかマティス国防長官がトランプ大統領を抑えていましたが、今のポンペオ国務長官とかエスパー国防長官はイエスマンであるようです。

米朝の友好が進んで朝鮮半島の緊張が緩和すれば、GSOMIAなど必要ありません。文政権の決定はそれを先取りしていることになります。
文在寅大統領は北朝鮮に対してオリンピック共同開催を提言し、経済協力の先にワンコリアを実現させようと呼びかけていますが、これも「トランプのアメリカ」と連携した動きです。

日本では韓国のGSOMIA破棄によって日米韓の同盟が壊れたなどと言っていますが、日米韓の同盟を壊しているものがあるとすれば、それはトランプ大統領です。

トランプ大統領の政策にはほとんど賛成できませんが、米朝友好を進めることだけはすばらしいものです。朝鮮半島が平和になれば、日本にも大きな利益です。今は北朝鮮のミサイルが脅威だなどと言っていますが、敵対関係にあるから脅威なのであって、友好関係になれば脅威ではありません。

トランプ政権は少なくともあと1年余りは続くので、ここは平和実現の大きなチャンスです。
日本は米朝友好の後押しをするべきです。
韓国と対立している場合ではありません。

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Foto-RabeによるPixabayからの画像 

トランプ大統領は7月14日、民主党の4人の女性議員に対してツイッターで「アメリカで暮らして幸せでないなら出ていけばよい」「どうして彼女たちは完全に崩壊し、犯罪が横行するもとの国に戻って建て直さないのか」などと発言し、さらに17日に支持者を集めた集会で、「彼女たちがアメリカを好きでないなら出て行けばよい」と繰り返しました。
4人の女性議員は、もとはソマリアの難民だったり両親がパレスチナ人だったりするので、トランプ大統領は「もとの国」と言ったようです。

こうした発言に対して、「アメリカは移民の国だ。トランプ大統領も移民の子孫なのに、出ていけというのはおかしい」という声がありますが、それはアメリカについて考え違いをしています。
アメリカは白人が先住民を追い出してつくった国ですから、白人が非白人に対して出ていけと言うのは建国の理念にかなっています。
ついでにいうと、白人は銃を使って銃を持たない先住民を追い出したので、白人が銃を持つことも建国の理念にかなっています。
アメリカ独立宣言には基本的人権がうたわれましたが、先住民にも黒人にも人権は認められませんでした。ということは人種差別がアメリカの建国の理念なのです。
リンカーン大統領は奴隷解放という偉業を成し遂げたとされますが、ヨーロッパは奴隷制を廃止していたのにアメリカは最後まで奴隷制を続けていただけのことです。

つまりアメリカは世界最悪の人種差別国家です。
トランプ大統領が言ったことはアメリカの建国の理念であり、白人至上主義者の本音です。


とはいえ、差別主義の発言に世界から批判が集まるのは当然です。
イギリスのメイ首相は「まったく受け入れられない」、ドイツのメルケル首相は「強いアメリカと矛盾する」、ニュージーランドのアーダーン首相は「ニュージーランドでは人々が正反対の考え方を持っていることを誇りに思う」、カナダのトルドー首相は「カナダで私たちがとる対応ではない」といった具合です。

わか安倍首相はというと、もちろんなにも言いません。
トランプ大統領に従うことしか考えていませんし、それに、もともと人権感覚がほとんどないからです。

トランプ大統領の差別発言を批判しないのは日本のメディアも同じです。
そもそも日本のメディアは、トランプ大統領の差別発言を差別発言でないようにごまかして報道しています。
たとえば、次の日経新聞の記事がその典型です。

トランプ氏「国へ帰れ」発言が波紋、与野党が批判
【ワシントン=中村亮】トランプ米大統領の人種差別と受け取られかねない発言が米政界で波紋を広げている。祖先の出身地が中東やアフリカの野党・民主党の女性下院議員に「国に帰ったらどうか」と促した。不法移民対策の停滞に不満を示し保守層にアピールする狙いがあるとみられるが、非白人議員を狙い撃ちした批判に民主党は猛反発し、与党・共和党内からも「限度を超えている」と非難する声が出ている。
「彼女らは(過激派組織の)アルカイダに近い」。トランプ氏は15日、ツイッターでソマリア出身のオマル、パレスチナ系のタリーブ両下院議員らを念頭に断じた。両議員らがトランプ政権の批判を繰り返す姿勢に不満をにじませ「この国を愛せないのであれば、国を去った方がよい!」と訴えた。
オマル、タリーブ両氏は2018年秋の中間選挙でイスラム教徒女性として連邦下院議員に初当選した。同時に当選したプエルトリコ系の母親を持つオカシオコルテス氏、アフリカ系のプレスリー氏と合わせた新人女性議員4人は民主党の急進リベラル派の中核的存在だ。トランプ氏の不法移民政策を厳しく批判してきたことでも知られる。
オマル氏は15日、他の3議員とともに緊急記者会見を開いて「トランプ氏は白人至上主義者の主張をしている」と痛烈に非難した。タリーブ氏はトランプ氏の言動が弾劾に値するとの考えも示し、対決姿勢を鮮明にした。
トランプ氏の発言は不法移民対策の進捗への不満を反映したとの受け止めが多い。米税関・国境取締局(CBP)によると、メキシコ国境での拘束数は18年10月~19年6月の9カ月間で約69万人と、すでに18会計年度(17年10月~18年9月)の通年実績の1.7倍に上った。
(中略)
だが人種差別とも受け取られるトランプ氏の言動は米社会の分断を広げかねない。トランプ氏はこれまでも白人至上主義者と反対派が衝突し死者を出した事件を巡り、白人至上主義を非難せず激しい批判を浴びた。ユダヤ教の礼拝堂で銃乱射事件が相次いだのも、トランプ氏の人種間の分断をあおる言動が一因だとの指摘は根強い。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47408260W9A710C1EA1000/

「人種差別と受け取られかねない発言」とか「人種差別とも受け取られるトランプ氏の言動」というように、人種差別と断定しない書き方になっています。

では、トランプ大統領はなぜそんな発言をしたかというと、選挙対策のために「保守層にアピールする狙い」であり「不法移民対策の進捗への不満を反映」したものであるので、差別主義からではないということになります。
しかし、それはあくまで記者の推測です。そうしたことは解説や論説で書くべきで、こうした短い記事は事実だけでいいはずです。

差別主義の発言ではなく再選戦略のための発言だ――という論理でトランプ大統領の差別発言を擁護することは、日本のあらゆるメディアが行っています。
今回の差別発言に限ってもそうした記事がいくつも目につきます。

たとえば毎日新聞の『「国に帰れ」 裏に再選戦略 岩盤支持層にアピール、野党左傾化を印象付け』という記事はこう書いています。

発言からは、保守派の「岩盤支持層」にアピールすると共に、野党・民主党の「左傾化」を強く印象付けて批判材料にしようとするトランプ氏の再選戦略が透けて見える。 
https://mainichi.jp/articles/20190718/ddm/007/030/134000c

日刊スポーツの『トランプ大統領、非白人議員に「国に帰れ」撤回せず』という記事はこうです。

トランプ氏には来年の大統領選に向け、保守派支持層にアピールする狙いがある。女性議員らがペロシ下院議長ら民主党指導部ともあつれきを生んでいる点を突き、同党内の亀裂を深めさせる思惑もありそうだ。
https://www.nikkansports.com/general/news/201907160000109.html

FNNPRIMに木村太郎氏が執筆した記事は、民主党の4人の女性議員を過激な「独立愚連隊」と見なすNBCニュースの記事を紹介する形でこう書いています。

反トランプの立場を貫いているNBCニュースのサイトに「トランプは民主党が急進左派に縛られるよう期待し、その通りになった」という分析記事が16日掲載された。

それによると、トランプ大統領は来年の大統領選で対立候補が誰であれ急進過激派に近ければ「国を率いるには過激すぎる」と攻撃して有利な立場になると計算してシナリオを作り、まず「独立愚連隊」に攻撃を仕掛けた。案の定民主党内では反発が広がり、もともとは「独立愚連隊」と党内で対立していたペロシ下院議長も大統領の主張は「米国を白人第一に」とするものだと非難する声明を発表した。

大統領の狙い通り、民主党を「独立愚連隊」の周囲に結束させることになったわけだが、これについてNBCニュースの分析記事はこう評している。

「トランプが喋ったりツイートする誹謗中傷の全てが彼の天才的な駆け引きの賜物であると考えるのは間違いだが、彼のメッセージが何の思惑もなく発せられていると考えるのも間違っている」

民主党は、トランプ大統領の「罠」にハマったのだろうか?
https://www.fnn.jp/posts/00047257HDK/201907161730_tarokimura_HDK

こうした分析に当たっているところがあるかもしれませんが、過激な差別発言はコアな白人支持層にしかアピールしません。再選されるには中間層に支持を広げる必要があり、もしこれが再選戦略であるなら、間違った再選戦略です。

ともかく、日本のメディアはトランプ大統領の差別発言を、あの手この手で差別発言でないように報道しています。
トランプ大統領は今でも40%ぐらいの支持率があります。トランプ大統領の差別主義はアメリカの根幹とつながっています。
トランプ氏個人を批判することはできても、アメリカの根幹を批判することはできないということでしょう。
首相もメディアも属国根性です。

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