村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

カテゴリ: トランプ大統領

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トランプ氏暗殺未遂事件は衝撃的でしたが、1人死亡、2人重傷という犠牲はあったものの、トランプ氏自身は耳を負傷しただけの軽傷ですみました。
トランプ氏は事件直後に拳を突き上げるポーズをとったように、「テロに屈しない」というお決まりの言葉とともに、ますます攻撃的な言動で分断を深めるのではないかと思われました。

ところが、共和党全国大会で大統領候補の指名受諾演説を行う際、トランプ氏は一転して抑制的な語り口となり、内容も「社会における不一致と分断は癒やされなければならない。私はアメリカの半分ではなく、アメリカ全体のための大統領になろうと立候補した」などと、分断解消を訴えるものとなりました。
報道によると、事件後演説原稿を全面的に書き替えたそうです。
バイデン大統領の名前を出して批判したのも一か所だけでした。

演説の後半は調子が上がっていつものトランプ節を取り戻したなどといわれていますが、1時間30分の動画を見ると、後半もいつものトランプ氏とはまったく違います。笑顔や得意そうな表情や余裕の表情がありませんし、例のトランプダンスもありません。聴衆の盛り上がりも今一歩です。

なぜかほとんど指摘されないことですが、暗殺未遂事件以降、トランプ氏はまるで別人になりました。
あれだけ分断や対立をあおってきた人間が「癒し」などという言葉を使うのですから、別人といっておかしくありません。
演説内容が融和的になったのは、無党派層を取り込むためだと説明されていますが、
無党派層を取り込む必要性は前からありました。今回の演説内容変更は事件が影響したとしか考えられません。


犯人の銃弾はトランプ氏の右耳に当たりました。もし2、3センチ銃弾がずれていたらトランプ氏の命はなかったでしょう。
死に直面した人間は心理的に大きな衝撃を受けます。戦場で繰り返し死の恐怖を味わった兵士は、帰還後もPTSDを患うことが少なくありません。
トランプ氏も当然大きな心理的衝撃を受けました。それは、銃撃されて1分ほどして立ち上がったときの表情にも表れています。
それを見て私はトランプ氏も“人の子”だなと思いました。

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このあとトランプ氏は拳を突き上げるポーズをします。
しかし、それはあくまでうわべのことです。
強い心理的衝撃を受けたことは変わらず、それが演説内容の変更になって現れました。
ボクサーが不意のパンチを食らってダウンし、それからはガードを固める作戦に変更したみたいなものです。
あるいは愛国心に燃えて戦場に赴いた兵士が、耳元を敵の銃弾がかすめたとたん命が惜しくなったみたいなものです。
人間として当たり前の反応です。

ところが、
メディアはやたら拳を突き上げるポーズを取り上げて、トランプ氏に「不屈の精神」があったかのように伝えます。

共和党大会ではトランプ氏を神格化するような言葉があふれました。
トランプ支持者がトランプ氏の神格化をはかるのはわかりますが、メディアまで同じようなことをしてはいけません。
「トランプ氏は銃撃された直後はこんな顔をしていた。そのあとも弱気になり、演説内容を全面的に変えた」と報道してもらいたいものです。


もっとも、トランプ氏の弱気も一時的だったかもしれません。
トランプ氏は7月20日、ミシガン州グランドラピッズの選挙集会で演説し、冒頭からジョークを言うなど「トランプ節全開」とメディアで報じられました。バイデン氏出馬でもめる民主党を「病気で、弱く、哀れなやつらで、選挙も戦えない」と罵倒しました。
早くも融和から分断へと逆戻りしたようですが、完全には戻れません。
というのは、銃撃の犯人をテロリストとして単純に批判できないからです。

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その場で射殺された容疑者はトーマス・マシュー・クルックスという20歳の白人男性です。共和党員として有権者登録を行っていましたが、民主党に15ドル寄付をしたこともあります。高校卒業後は地域の療養院で栄養補助員として働いていました。高校時代、射撃部に入ろうとしましたが、射撃の腕がないので断られました。地元の射撃クラブに少なくとも1年間在籍していました。犯行に使ったAR-15ライフル銃は父親が購入したものです。父親はリバタリアン党員、母親は民主党員であるようです。
容疑者は高校時代にいじめを受けていたという情報もありますが、きわめて平凡な白人家庭で育った
20歳の若者です。本人も父親も銃規制反対派に違いないので、トランプ支持層と見なされておかしくありません。


トランプ氏は共和党の大統領候補指名受諾演説で「不法移民は刑務所や精神科病院からやってくる。そしてテロリストたちも、これまでに見たことない数が入ってくる」と語りました。
これはいつも言っている得意のセリフです。
しかし、今回のテロリストは、外から入ってきたのではなく、ラストベルトの普通の白人家庭から出てきたホームグロウン型のテロリストです。

今のところトランプ氏は、すでに射殺されたとはいえクルックス容疑者を非難することはしていないようです。
いかにもひ弱そうな20歳の若者は非難しにくいかもしれませんが、彼がもし移民だったり黒人だったりすれば、トランプ氏は非難しているかもしれません。


クルックス容疑者がいかにしてテロリストになったかというのは重要な問題で、ぜひとも解明しなければなりません。
これは当然、家族の問題ということになるので、保守派がよりどころとする「家族の絆」にメスを入れることになります。
しかし、今のところメディアは、
クルックス容疑者の父親に電話して「今はなにも話せない」というようなコメントを引き出しただけです。
両親がなにも語らないなら、親族や近所の人から取材してクルックス家の実態を解明すればいいわけですが、アメリカのメディアは保守派に配慮しすぎるのか、家族の問題には踏み込まない傾向があるようです。
大統領候補暗殺未遂という大事件としてメディアも対応してもらいたいものです。


ここで、バイデン大統領が大統領選から撤退してハリス副大統領を候補として支持すると表明したというニュースが入ってきました。
トランプ氏が一時的に弱気になり、バイデン大統領の批判を控えたので、バイデン大統領も撤退表明がしやすくなったということがありそうです。
一発の銃弾が世界を大きく変えたかもしれません。

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トランプ前大統領の口止め料を巡る裁判で有罪評決が下りましたが、トランプ氏は控訴を表明し、「不正な裁判だ」「判事は暴君だ」などと述べました。
トランプ支持者も有罪評決でめげることはなく、逆に気勢を上げているようです。トランプ陣営は有罪評決後の24時間で約82億円の寄付が集まり、うち3割は新規の寄付者だったと発表しました。
アメリカの有権者の35%が4年前の大統領選は不正だったと思っているそうです。

「法の支配」は社会の基本ですが、トランプ氏とその支持者は「法の支配」など平然と無視しています。
これはトランプ氏のカリスマ性のゆえかと思っていました。
しかし、それだけでは説明しきれません。
私は、アメリカ人はもともと「法の支配」なんか尊重していないのだということに気づきました。

私の世代は若いころに映画とテレビドラマで西部劇をいっぱい観ました。
西部劇には保安官や騎兵隊も出てきますが、基本は無法の世界で、男が腰の拳銃を頼りに生きていく様を描いています。
今、アメリカで銃規制ができないのはその時代を引きずっているからです。

銃規制反対派は市民が権力に抵抗するために銃が必要なのだと主張しますが、アメリカの歴史で市民が銃で国家権力に抵抗したのは独立戦争のときだけです。
では、銃はなんのために使われていたかというと、ほとんどが先住民と戦うためと黒人奴隷を支配するためです。
それと、支配者としての象徴でしょう。
日本の侍が腰に刀を差しているのと同じ感覚で西部の男は腰に拳銃を吊るして、先住民、黒人奴隷、女子どもに対する支配者としてふるまっていたのです。
ですから、「刀は武士の魂」であるように「銃はアメリカ男子の魂」なので、銃規制などあってはならないことです。

西部開拓の時代は終わり、表面的には「法の支配」が確立されましたが、今もアメリカ人は「法の支配」を軽視しています。
たとえば白人至上主義者は平気で黒人をリンチしてきました。
『黒人リンチで4000人犠牲、米南部の「蛮行」 新調査で明らかに』という記事によると、米南部では1877年から1950年までの間に4000人近い黒人が私刑(リンチ)によって殺されていたということです。

同記事には『私刑のうち20%は、驚くことに、選挙で選ばれた役人を含む数百人、または数千人の白人が見守る「公開行事」だった。「観衆」はピクニックをし、レモネードやウイスキーを飲みながら、犠牲者が拷問され、体の一部を切断されるのを眺め、遺体の各部が「手土産」として配られることもあった』と書かれています。ナチスの強制収容所を連想します。人種差別主義者は似ているのでしょう。

リンチの犯人がかりに裁判にかけられることがあっても、陪審員は白人ばかりなので有罪になることはありません。
最近でも似たようなものです。警官が黒人を殺す場面が動画に撮られて大きな騒ぎになった事件でも、警官は裁判にかけられても無罪か軽い罪で、恩赦になることもあります。

そういうことから、白人至上主義者にとってトランプ氏の裁判で有罪の評決が出たのは「不当判決」なので、平然と無視できるのでしょう。


「法の支配」を軽視するのはアメリカ人全体の傾向です。
それは国際政治の世界にも表れています。
国際刑事裁判所(ICC)は5月20日、ガザ地区での戦闘をめぐる戦争犯罪容疑でイスラエルのネタニヤフ首相らとハマスの指導者らの逮捕状を請求したと発表しました。
これに対してバイデン大統領は「言語道断だ。イスラエルに対する国際刑事裁判所の逮捕状請求を拒否する。これらの令状が何を意味するものであれ、イスラエルとハマスは同等ではない」などの声明を発表しました。
「法の支配」をまったく無視した態度です。

バイデン大統領はトランプ氏への有罪評決に関して「評決が気に入らないからといって『不正だ』と言うのは向こう見ずで、危険で、無責任だ」「法を超越する存在はないという米国の原則が再確認された」などと語っていました。
評決が気にいらないからといって「不正だ」と言うのはバイデン大統領も同じです。
なお、アメリカは国際刑事裁判所(ICC)に加盟していませんが、加盟していないということがすでに「法の支配」を軽視しています(ロシア、中国も加盟していませんが、アメリカの態度が影響しているともいえます)。


国際司法裁判所(ICJ)は24日、イスラエルに対しガザ地区南部ラファでの軍事攻撃を即時停止するよう命じましたが、イスラエル首相府はこれを真っ向から否定しました。
アメリカもこれを容認しています。
国際司法裁判所(ICJ)は国連の機関なので、各国は法的に拘束されますが(執行力はない)、ここでもアメリカは法を無視しています。


トランプ氏が「アメリカファースト」を言うのは、もちろんアメリカは他国よりも優先されるという意味ですが、結果的にアメリカは法の上にあることになります。
バイデン大統領もこの点ではトランプ氏と変わらないようです。


アメリカもいつも無法者のようにふるまうわけではなく、表向きは「法の支配」を尊重していますが、いつ無法者に変身するかわかりません。
そうなるとアメリカの世界最強の軍事力がものをいいます。
当然、世界のどの国もそのことを意識せざるをえません。

日本も例外ではありません。
日本はアメリカと繊維、自動車、半導体などさまざまな分野で通商摩擦を演じてきましたが、どれも最終的に日本が譲歩しています。
日本がとことん強硬に主張し続けると、アメリカはテーブルをひっくり返して腰の拳銃を抜くかもしれないからです。
軍事行動に出なくても、貿易や金融などで不当な仕打ちをしてくるということはありえます。WTOに提訴するぐらいでは防げません。
なにかの理由をつけて経済制裁をしてくるということも考えられます。イランやキューバは今ではなんの理由だかわからなくなっても制裁され続けています。

どの国もアメリカと二国間交渉で対等な交渉はできません。
アメリカがGDP比3.45%もの巨額の軍事費を支出しているのも、それによって経済的な利益が得られるからに違いありません。



世界が平和にならないのは、アメリカが「法の支配」を無視ないし軽視して「力の支配」を信奉する国だからです。
世界を平和にするには、国際社会とアメリカ国内の両面からアメリカを変えていかなければなりません。

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トランプ前大統領が共和党の大統領候補になるのは確実な情勢です。
「もしトラ」――もしトランプ氏が大統領になったら――ということを真剣に考えなければいけません。

しかし、トランプ氏の行動を予測するのは困難です。
2020年の大統領選でトランプ氏の負けがはっきりしたとき、トランプ氏は「選挙は盗まれた」と言って負けを認めず、支持者を扇動してホワイトハウス襲撃をさせました。
民主主義も国の制度も平気で壊します。

もしトランプ氏が次の大統領選に出たらたいへんです。負けた場合、負けを認めるはずがないからです。またしても大混乱になります。
それを防ぐには、トランプ支持者による特別な選挙監視団をつくって、選挙を監視させるという方法が考えられますが、それをすると、その選挙監視団がまた問題を起こしそうです。
かりにトランプ氏が正当に当選しても、果たして4年で辞任するかという問題もあります。大統領の免責特権がなくなるので、むりやり憲法を改正してもう1期続けることを画策するに違いありません。


マッドマン・セオリーという言葉があります。狂人のようにふるまうことで、相手に「この人間はなにをするかわからない」と恐れさせるというやり方です。
しかし、トランプ氏は戦略としてマッドマン・セオリーを採用しているとは思えません。やりたいようにやっている感じです。
そして、そこにトランプ氏なりのセオリーがあります。

トランプ氏は保守派で白人至上主義者です。その点に関してはぶれません。
ですから、保守派で白人至上主義者のアメリカ国民も、ぶれずにトランプ氏を支持し続けるわけです。
支持者にとっては、トランプ氏が大統領職にとどまってくれるのが望ましく、正当な選挙で選ばれたかどうかは二の次です。


アメリカの白人至上主義者はアメリカを「白人の国」と思っています。
アメリカ独立宣言にはこう書かれています。

「われわれは、以下の事実を自明のことと信じる。すなわち、すべての人間は生まれながらにして平等で あり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているという こと」

「すべての人間は生まれながらにして平等」とありますが、先住民や黒人奴隷にはなんの権利もなかったので、先住民や黒人奴隷は「人間」ではなかったわけです。
また、白人女性に参政権がなかったことから、白人女性も「人間」とされていなかったかもしれません(「すべての人間」は英文では「all men」です)。
「創造主(Creator)」という言葉も出てきます。これは当然キリスト教由来の言葉です。異教徒にもこの宣言は適用されるのかという疑問もあります。

ともかく、独立宣言には「すべての人間」に人権があるとしていますが、実際には「白人成年男性」にしか人権はなかったのです。
このときうわべの理念と中身のまったく違う国ができたのです。そのことがのちのちさまざまな問題を生みます。


「白人成年男性の人権」を「普遍的人権」にする戦いはずっと行われてきました。

女性参政権は1910年から一部の州で始まりましたが、憲法で「投票権における性差別禁止」が定められたのは1920年のことです。

アメリカは世界でもっとも遅く奴隷制を廃止した国です。
リンカーン大統領は黒人奴隷を解放した偉大な大統領とされていますが、実際はやっとアメリカを“普通の国”にしただけです。

黒人参政権は、奴隷制の廃止にともなって1870年に憲法で認められ、実際に黒人が投票権を行使して、州議会だけでなく14人の黒人下院議員、2人の黒人上院議員が誕生しました。
しかし、そこから白人の巻き返しが始まり、さまざまな理由をつけて黒人の選挙権は奪われます。
黒人の投票権が復活したのは1964年の公民権法の成立以降のことです。

現在、共和党の支配する州では、非白人の有権者登録を妨害するような制度がつくられています。たとえば、有権者登録には写真つきの身分証が必要だとするのです。貧困層は写真つきの身分証を持っていないことが多いからです。また、車がないと行けないような場所に投票所や登録所を設けるとか、黒人の多い地域では何時間も並ばないと投票できないようにするといったことが行われています。

白人至上主義者にとっては、黒人やヒスパニックが選挙権を得たときにすでに「選挙は盗まれた」のです。
ですから、トランプ氏が「選挙は盗まれた」と言ったときに簡単に同調できたわけです。

アメリカの人口構成で白人はいずれ少数派になりそうです。そこに黒人のオバマ大統領が出現して、白人至上主義者はますます危機感を強めました。その危機感がトランプ氏を大統領に押し上げました。

「ラストベルト」における“しいたげられた白人”の不満がトランプ当選につながったと日本のマスコミはしきりに報道していました。しかし、テレビに出てくる白人を見ていると、失業者はいなくて、大きな家に住み、広い土地を持っています。ぜんぜん“しいたげられた白人”ではありません。そもそも黒人世帯の所得は白人世帯の所得の60%ですし、白人世帯の資産は黒人世帯の資産の8倍です。
日本のマスコミは白人側に立っているので、アメリカの人種差別の実態がわかりません。

アメリカの先住民は、先住民居留地に住むという人種隔離政策のもとにおかれています。先住民女性の性的暴行にあう確率はほかの人種の2倍です。「町山智浩のアメリカの今を知るTV」によると、ナバホ族は居留地に独自の“国”をつくっていますが、連邦政府と交渉しても水道や電気がろくに整備されないということです。
日本のマスコミは先住民差別についてはまったくといっていいほど報道しません。


アメリカは今でも人種差別大国で、白人至上主義はいわばアメリカの建国の理念です。
アメリカの外交方針も基本は白人至上主義です。
「ファイブアイズ」と呼ばれる、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドによって成り立つ情報共有組織があります。この5か国はアングロサクソンの国です。1950年ごろに結成され、長く秘密にされていましたが、2010年の文書公開で明らかになりました。
人種によって国が結びつくというのには驚かされます。ここにアメリカの本質が現れています。

第二次大戦後、アメリカが白人の国と戦争をしたのはコソボ紛争ぐらいです。あとベトナム、イラク、アフガニスタンのほか、数えきれないくらい軍事力を行使していますが、すべて非白人国が対象です。

同じ白人国でも、西ヨーロッパの国は文化が進んでいますが、東ヨーロッパの国は遅れているので、東ヨーロッパは差別されています。
東西冷戦が終わって、ロシアが市場経済と民主主義の国になったのに、NATOがロシア敵視を続けて冷戦に逆戻りしたのも、東ヨーロッパに対する差別があったからというしかありません(あと東方教会という宗教の問題もあります)。

パレスチナ問題も、イスラエルは白人の国とはいえませんがヨーロッパ文化の国であるのに対し、パレスチナはアラブ人とイスラム教の地域です。そのためアメリカは公平な判断ができません。


アメリカ国内は保守派とリベラルの「分断」が深刻化しています。
単純化していうと、保守派は人種差別と性差別を主張し、リベラルは反人種差別とフェミニズムを主張しています。
もっとも、保守派は表立って人種差別と性差別を主張するわけではありません。本人たちの主観では「道徳」を主張しています。
つまり保守思想というのは「古い道徳」のことです。

自民党の杉田水脈衆院議員が国会で「男女平等は絶対に実現し得ない反道徳の妄想です」と発言したことがあります。この発言は保守思想の本質をみごとに表現しています。「良妻賢母」や「夫唱婦随」といった古い道徳を信奉する人間は必然的に男女平等に反対することになります。

公民権法が成立する以前のアメリカでは、バスの座席も待合室も白人と黒人で区別されていました。黒人は黒人として扱うのが道徳的なことでした。もし白人が黒人を連れてレストランに入ってきたら、その行為はひどく不道徳なこととして非難されました。公民権法が成立したからといって、人間は急に変われません。黒人を黒人として扱うのが道徳的なことだと思っている人がいまだに多くいて、そういう人が差別主義者です。
ですから、差別主義者というのは要するに「古い人間」です。
自分の親も祖父母も黒人を黒人として扱っていた。自分も幼児期からそれを見て学んで、同じようにしている。自分は家族と伝統をたいせつにする道徳的な人間だ――そのような自己認識なので、差別主義者の信念はなかなか揺るぎません。

ですから、差別主義を克服するということは、自分の親や祖父母のふるまいを批判するということであり、自分が幼児期から身につけたふるまいを否定するということです。
もちろんこれはむずかしいことです。
リベラルはこのむずかしいことから逃げて、安易な“言葉狩り”に走ったので、人種差別も性差別もそのまま温存されています。
そのため、保守とリベラルの分断は深まるばかりです。


トランプ氏は過激なことばかり主張しているようですが、実はアメリカがもともと隠し持っていたものを表面化しているだけです。
ですから、バイデン政権とそれほど異なるわけではありません。日本はすでにバイデン政権の要求で防衛費GDP比2%を約束しました。もしかするとトランプ政権が成立すると3%を要求してくるかもしれませんが、その程度の違いです。

とはいえ、トランプ政権になると要求が露骨になり、これまで隠してきた屈辱的な日米関係が露呈するかもしれません。
そのときに日本政府は、国民世論をバックに、中国やグローバルサウスと連携することでトランプ政権とタフに交渉できればいいのですが、これまでの日本外交を考えると、残念ながらとうていできそうにありません。

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米中間選挙の開票結果は、上院で民主党が過半数確保となりました。
しかし、トランプ氏は共和党候補が僅差で敗れたアリゾナ州について「不正があり、選挙をやり直すべきだ」とSNSに投稿し、共和党全国委員会もアリゾナ州でもっとも有権者が多いマリコパ郡で「選挙に深刻な欠陥が露呈した」とする声明を発表しました。
今後、このような不正選挙の訴えがどうなっていくのかよくわかりませんが、2年前の大統領選挙でもトランプ氏は「選挙は盗まれた」として、ほんとうの大統領は自分だと主張していますし、共和党支持者の3分の2が真の当選者はトランプ氏だと信じているそうです。

民主主義の危機は意外なところからやってきます。
選挙制度が機能しないと民主主義は成り立ちません。

独裁国や民主主義の未熟な国ではよく不正選挙が行われますが、こういう場合は、たとえば国連の選挙監視団を派遣するというような対策があります。
ところが、今アメリカで不正選挙が行われているわけではありません。小さな不正はあるかもしれませんが、大統領選の結果をくつがえすような大規模な不正はありえません。
つまり不正選挙があるのではなく、「不正選挙がある」と信じる妄想集団がいるのです。
こうした妄想に確実な対策はありません。ファクトチェックもほとんど無意味です。

「陰謀論」というのも、実態は集団的妄想です。
Qアノンが広めたとされる「ディープステート」という陰謀論は、悪魔崇拝主義者と幼児性欲者の秘密組織が陰で国家を支配しているというもので、トランプ氏はディープステートと戦う英雄だとされます。
アメリカでは悪魔崇拝主義者が秘密の儀式などをしているという事実はありますし、幼児性欲者の秘密組織が過去に摘発されたこともありますが、そうした連中が国家を支配しているというのは妄想というしかありません。

文明が進めば人間は理性的になるものと信じられていましたが、実際はまったく違って、もっとも文明の発達したアメリカにおいて妄想集団が大量発生しているわけです。

なぜこうなったかというと、インターネットの普及がひとつの原因です。
集団で討議して意思決定をする場合、もともとあった偏りがさらに強くなる傾向があるとされ、これを「集団極性化(集団分極化)」といいます。
たとえば軍拡賛成派の人が集まって議論すると、それまで平均10%の軍拡を求めていた人たちが議論のあとは平均20%の軍拡を求めるようになるといったことです。
インターネット空間では、保守とリベラルが分離し、それぞれが集まって議論しているので、保守はますます保守的になり、リベラルはますますリベラルになるわけです。
そうしてネットの議論がどんどん過激化し、その中で陰謀論が広まったと考えられます。

それから、なんといってもトランプ氏のキャラクターの特異性があります。
トランプ氏は体が大きく、パワフルで、つねに自信満々で、いかにも「強いリーダー」という雰囲気を持っています。
大統領に就任して権限を手にすると実際に「強いリーダー」になりました。
強い人間に従いたくなるのは人間の本能です。
トランプ氏が「選挙は盗まれた」と言えば、信じる人間が出てきても不思議ではありません。


強いリーダーは、最初は民主的に選ばれたとしても、長期政権になると次第に独裁化します。プーチン大統領や習近平国家主席を見てもわかりますし、ヒトラーもそうでした。

もしトランプ氏が大統領に再選されていたら、独裁化していたかもしれません。
アメリカ大統領はたいてい再選されるとしたものですが、トランプ氏が再選されなかったのは、ひとえにコロナ対策を失敗したせいです。
「強いリーダー」というのは、人間の目にそう映るだけで、ウイルスのような自然界には無力でした。


トランプ氏の命運が今後どうなるかはわかりませんが、集団極性化(分断)が進んだアメリカでは、第二、第三のトランプ氏が出てきて、独裁国家になっても不思議ではありません。
日本はそういう事態を警戒しなければなりませんが、岸田文雄首相はプノンペンにおける11月13日の日米首脳会談でも「日米同盟のいっそうの強化をはかる」と言うばかりです。



安倍晋三元首相はミニ・トランプみたいなものでした。第二次政権を9年近くやって、かなり独裁化しました。
安倍氏が首相を辞任したのも、表向きは健康理由でしたが、実態はコロナ対策の失敗でした(後継の菅義偉首相の辞任理由も同じです)。
考えてみれば、コロナウイルスは偉大です。日米で独裁政権の芽をつんだのですから。

安倍氏は辞任後も存在感を示していました。これもトランプ氏と同じです。
しかし、山上徹也容疑者の銃弾がすべてを断ちました。
その後の政治の動きを見ていると、安倍氏の存在がいかに大きかったかがわかります。

菅首相も「強いリーダー」でした。日本学術会議任命拒否問題でかたくなに説明を拒否したところにそれが表れています。


岸田首相は「聞く力」をモットーにしているだけあって、安倍首相や菅首相とはまったく違います。
岸田内閣の支持率が高く始まったのも、多くの国民が安倍首相や菅首相の強権的な政治手法にうんざりしていたからでしょう。

ところが、内閣支持率はどんどん低下しています。
その理由は明白で、方針がころころ変わるからです。

山際大志郎経済再生担当大臣は、統一教会とのずぶずぶの関係が次々と明るみになり、「記憶にない」などとあやしい弁明を続けて、国民の批判が高まっていました。岸田首相はずっと「山際氏は説明責任を果たすべき」と擁護していましたが、突然更迭を決定しました。
「法務大臣は死刑のハンコを押す地味な仕事」などの発言で批判された葉梨康弘法務大臣についても、岸田首相は最初は擁護していましたが、突然更迭しました。
宗教法人法に基づく解散命令請求の要件についても、岸田首相は最初は刑法違反などが該当すると答弁していましたが、野党などから批判されると一転して、民法の不法行為も含まれると答弁を変更しました。
統一教会問題についても、最初は自民党は組織的な関係はないとして調査すらしない方針でした。それが不十分ながらも調査することになり、宗教法人法に基づく質問権を行使することになり、被害者救済法案の成立を目指すことになりました。

絵に描いたような朝令暮改ぶりです。
岸田首相がかたくなな姿勢を貫いたのは、国葬問題ぐらいです。

途中で方針が変わるのはよいことではありません。
しかし、間違った方針をかたくなに変えないよりははるかにましです。
もちろん最初から正しい方針を決定していればいいわけですが、いつもそうとはいきません。
今のところ、岸田首相の「修正する力」はたいしたものです。

しかし、かたくなに方針を変えないと「強いリーダー」と見なされ、世論に合わせて方針を変えると「弱いリーダー」と見なされます。
「弱いリーダー」は、野党はもちろん国民からも攻撃されます。
しかし、弱くても最終的に正しい方針にたどりつくなら、かたくなに間違った方針を貫くよりもよいのは明らかです。


国民は「強いリーダー」が正しく国を導いてくれることを期待しますが、そういうことはめったにありません。
「強いリーダー」は利己的にふるまい、最終的に独裁者になり、国民を不幸にします。それは歴史を見れば明らかです。

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FBIは8月6日、トランプ前大統領の別荘をスパイ防止法違反の疑いで家宅捜索し、国家機密文書を押収しました。
普通はFBIから捜査されるだけでその人物はイメージダウンするものですが、トランプ氏は別です。トランプ信者たちは逆にFBIへの憎悪を高めているようです。

アメリカ大統領選挙では、候補者は納税記録を自発的に公表する慣例がありますが、トランプ氏は公表しませんでした(今にいたるも公表していません)。アメリカ人は税金の不正にはきびしいといわれますが、トランプ氏の場合は、このことがほとんどマイナスになりませんでした。
また、トランプ氏は明らかな嘘を数限りなくつきました。ワシントン・ポストによると、大統領在任中の4年間に3万573回の虚偽や誤解を与える主張をしていたそうです。
しかし、いくら嘘をついてもほとんど問題にされませんし、「選挙は盗まれた」という嘘は多くのトランプ支持者が信じました。

どうしてこのようなことが起こるのかというと、トランプ氏の特異なキャラクターに魅せられる人が多いからです。
特異なキャラクターというのは、一言でいえば「カリスマ性」です。
トランプ氏はカリスマ政治家です。

ところが、「トランプ氏はカリスマだ」ということはあまり言われません。
反トランプ派はトランプ氏を愚劣な人間と見なしているので、カリスマとは認めませんし、トランプ派は、自分は理性的な判断でトランプ氏を支持していると思いたいので、やはりカリスマとは認めないのです。
しかし、今やトランプ氏は共和党をほとんど支配し、次期大統領選に立候補するのが確実であり、超法規的存在となっていることを見れば、カリスマであることは明らかです。


トランプ氏のカリスマ性に魅了される人は日本にもいます。
日本で反ワクチンデモを行っている「神真都(やまと)Q」という団体は、トランプ氏を支持するアメリカの陰謀論集団「Qアノン」の日本支部を自称し、地方に土地や建物を購入して共同生活のコミューンをつくる「エデン計画」を進めていて、そこにトランプ氏の銅像を建てるプランもあったということです(『Qアノン支部を自称する「神真都Q」 ワクチン会場“襲撃”で13人逮捕後、離脱者が続出(藤倉善郎)』という記事による)。

「神真都Q」もカルトというべきでしょう。
トランプ氏というカリスマを勝手に崇拝するカルトです。

アメリカの「Qアノン」も、「アメリカは悪魔崇拝主義者と幼児性愛者の集団であるディープ・ステートに支配されており、トランプ氏はディープ・ステートと戦う英雄である」という基本認識なので、トランプ氏を崇拝するカルトといえます。

2020年末、トランプ氏が「選挙は盗まれた」と主張していたころ、日本でも同じ主張をする人たちがいて(ヤフコメに異常に多かった)、トランプ支持デモまでしていました。

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2021年1月17日の福岡のデモに登場した“トランプみこし”(「水木しげるZZ」のツイートより)

彼らは、ドイツで投票機のサーバー押収をめぐって米軍特殊部隊とCIAが銃撃戦を演じて5人死亡したとか、オバマ前大統領が逮捕されたといったデマを互いに言い合って盛り上がっていました。
彼らはどこからこうしたデマ情報を得ているのかと調べると、主に統一教会系「ワシントン・タイムズ」と法輪功系「大紀元(EPOC TIMES)」からであるようです。
法輪功は中国のカルトで、中国を追い出されてアメリカを活動拠点にしています。
また、日本のトランプ支持デモには幸福の科学の人たちも入っていたようです。

つまりトランプ氏のもとには、磁石に引きつけられるようにさまざまなカルトが集まっているのです。
また、カルトとはいいませんが、トランプ氏を支持する中心勢力はキリスト教福音派です。


安倍元首相もトランプ氏ほどではありませんが、カリスマ性がありました。長期にわたって人気を維持し、モリカケ桜のスキャンダルも嘘をつき通してごまかしました。首相辞任後にまた復活しそうなところも似ていました。
そして、安倍元首相のもとには統一教会、日本会議というカルトが集まっていました。


安倍氏の支持者はトランプ氏の支持者でもありました。
2019年5月、トランプ大統領が国賓として来日したとき、大相撲を観戦して退席する際、近くの升席にいた作家の門田隆将氏、評論家の金美齢氏、ジャーナリストの櫻井よしこ氏と握手するシーンがテレビに映し出され、安倍首相のお友だちだから優遇してもらったと批判されました。それに対して門田氏はブログで、升席は自費で確保したもので、お世話になっている金美齢氏と櫻井よしこ氏を招待しただけだ。トランプ氏が退席する際、思わず「Mr.President!」と声をかけたら、トランプ氏が近づいてきて握手してくれたのだと反論しました。
しかし、SPのついている大統領が一般人と握手するはずがなく、あらかじめ話がついていたに決まっています。
日本の保守派文化人はそこまでしてトランプ氏と握手したかったのです。まるでアイドルと握手したいファンみたいです。



さて、現在日本の政界は、統一教会と自民党との関係が大きな問題となっています。
統一教会は文鮮明・韓鶴子夫妻をカリスマとするカルトです(文鮮明は2012年死亡)。

カリスマとカルトというジグソーパズルのピースがかなりそろいました。これでどういう絵が描けるでしょうか。

トランプ氏や安倍氏やさまざまなカルトの政治思想は共通しています。
家父長制の家族制度を維持することを根幹として、人種差別、LGBTQ差別、移民排斥、タカ派の外交軍事政策、低福祉政策、環境問題軽視などです(アメリカの中絶禁止、日本の夫婦別姓反対など国による違いも少しあります)。
それに、カリスマ性というのは人間的なものなので、国境を超えて人を引きつけます。
ですから、日本の保守派がトランプ氏を崇拝するということも普通に起こります。

そのように考えると、自民党の統一教会に対する態度が理解できます。
自民党の安倍派などの保守派は、統一教会と思想が同じです。
さらに、長年のつきあいで韓鶴子総裁にカリスマ性を感じて、「真のお母さま」「マザームーン」という認識の議員もいるようです。
そうなると、統一教会との関係を清算しますと言わないのは当然です。

保守派の論客も同じです。
統一教会を擁護する人はさすがにいませんが、統一教会への批判をそらすために、「信教の自由」とか「カルトの定義」とか「山上容疑者の思うつぼ」とかさまざまな理屈を駆使しています。

日本の保守派が韓国の教団を擁護するのはおかしな感じがしますが、統一教会は日本でもアメリカでも、さらには国連でも運動をしているので、国際共産主義運動ならぬ「国際保守主義運動」みたいになっています。

それに対して統一教会を批判するのはリベラルな人が多いはずですが、「日本人の献金を吸い上げて韓国に持っていっているのはけしからん」とナショナリスティックな主張をしています。
保守派は韓国の教団を擁護し、リベラルはナショナリスティックな主張をすると、妙なねじれ現象が起きています。

とはいえ、保守派の本質は国家主義ですし、嫌韓が最大の主張ですから、統一教会に対する態度は明らかな矛盾です。
統一教会の問題は、追及すればするほど保守派の矛盾が露呈します。


保守派は統一教会との関係を切るしかありませんが、おそらくそう簡単には切れないでしょう。
統一教会との関係を切ったところで、日本会議に連なる宗教団体もありますし、とりわけ靖国神社もあります。自民党右派はこれらと思想でつながっているので、離れられません。
アメリカの共和党が福音派などの宗教右派と離れられないのと同じです。


そういうことを考えると、これからも政治と宗教の問題は続いていくでしょう。
そして、この問題の最終的解決は政治と宗教を切り離すことしかありません。
宗教は不合理で超現実的なものですが、政治は合理的で現実的なものでなければならないからです。

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嘘にまみれた安倍政権とトランプ政権が終わっても、トランプ大統領の嘘はこれからも生き続けるかもしれません。

トランプ大統領が「選挙は盗まれた」と主張するのに合わせて、さまざまな嘘が飛び交いました。
トランプ票が大量に燃やされたとか、投票機にソフトウェアを提供した企業の社長はバイデン氏の政権移行チームの一員であるといったものから、ドイツで投票機のサーバー押収をめぐって米軍特殊部隊とCIAが銃撃戦を演じて5人死亡したとか、オバマ前大統領が逮捕されたといったものまでありました。
しかも、日本にこうした嘘を拡散させる人が少なからずいました。

2017年のトランプ大統領就任式における観客はオバマ大統領のときより大幅に少なかったとメディアが報じると、トランプ大統領は「フェイクニュース」と言って猛反発し、報道官は過去最多だったと主張して、「オルタナティブファクト」と称しました。
それからトランプ大統領は嘘をつき続け、ワシントン・ポストは最初の1年間に2410回も嘘をついたと報じました。
「コロナウイルスはもうすぐ魔法のように消える」という罪の深い嘘もありましたが、トランプ大統領はこうした嘘について嘘と認めたり謝罪したりすることはありませんでした。


安倍前首相も任期中、モリカケ桜で嘘をつき続けて、桜を見る会問題では国会で118回の虚偽答弁をしたとされました。

しかし、トランプ大統領の嘘と安倍前首相の嘘は明らかに異質です。
安倍前首相の嘘は、自分が関わった不正をごまかすための嘘、要するに自己保身のための嘘です。
自己保身の嘘は誰でもつきますから、われわれの常識で理解できます。安倍前首相の場合は、公の場で異常に多くの嘘をついただけです。
しかし、トランプ大統領の嘘は常識では理解できません。


トランプ大統領の嘘を知る手がかりは、Qアノンです。
Qアノンはトランプ大統領の嘘に呼応して生まれました。

ウィキペディアによると、
「Qアノンの正確な始まりは、2017年10月に「Q」というハンドルネームの人物によって、匿名画像掲示板の4chanに投稿された一連の書き込みである」
「この陰謀論では、アメリカ合衆国連邦政府を裏で牛耳っており、世界規模の児童売春組織を運営している悪魔崇拝者・小児性愛者の秘密結社が存在し、ドナルド・トランプはその秘密結社と戦っている英雄であるとされている」
ということです。
政府を裏で支配する秘密結社はディープステートと呼ばれます。

私は最初、小児性愛者の秘密組織がアメリカを支配しているというふうにネットの記事で読みました。
小児性愛者の秘密組織は過去に摘発されたことがありますし、上流階級に存在する可能性はあります。しかし、そういう人間は自分の性的嗜好が満たされればいいわけで、国家を裏であやつる必要はありません。ですから、ばかばかしい話と思いました。

しかし、そのネット記事は不正確で、正しくは小児性愛者でかつ悪魔崇拝者の秘密組織だったわけです。
それなら話として成立します。


悪魔崇拝者というのは、ホラー映画やホラー小説にはいっぱい出てきますが、現実にはほとんどいないと思われます。
敵対する宗派や一部の人を攻撃するときに悪魔崇拝者というレッテル張りをしたのが実際のところでしょう。
ただ、そこにおどろおどろしいイメージが付与され、女性や小児を生贄にして性的快楽を得る儀式(サバト)を行うといったこともありました。
ですから、ディープステートが小児性愛者でかつ悪魔崇拝者の秘密組織だというのはありそうな設定です。
メインは悪魔崇拝で、小児性愛はつけ足しです。

もちろんすべてはQアノンのデマです。
Qアノンが敵に対して悪魔崇拝者のレッテル張りをするということは、Qアノンは政治勢力というより宗教勢力だということです。
「陰謀論」という言葉も適切ではありません。「ディープステートが国を支配している」というのは、Qアノンの「教義」というべきです。

トランプ大統領のコアな支持層は福音派という宗教勢力だとされています。Qアノンはそのさらにコアな支持層で、カルト集団みたいなものです。

そうすると、トランプ大統領はQアノンにとってなにかというと、ウィキペディアには「秘密結社と戦っている英雄」と書かれていましたが、「英雄」というより「救世主」というべきでしょう。
つまりQアノンはトランプ大統領を救世主として崇拝するネット上の宗教勢力で、民主党などを悪魔崇拝者として攻撃しているということになります。


こういう宗教勢力が生まれたのは、トランプ大統領の言動にカリスマ性があったからです。
トランプ大統領が言い続けたのは「アメリカは偉大だ」と「私は偉大だ」ということです。
こういう言い方がカリスマ性を高めます。

トランプ大統領の言葉は教祖が語る宗教の言葉なので、いちいちファクトチェックをしても意味がありません。
教祖は奇跡も行えるからです。
科学に従うのも教祖らしくありません。
「コロナウイルスは魔法のように消える」というのは、いかにも教祖らしい言葉でした。

しかし、トランプ大統領に奇跡を行う力はなく、日々の感染者数は増え続け、それがためにトランプ大統領のカリスマ性は失墜し、大統領選挙で落選する結果となりました。


ただ、アメリカはきわめて宗教性の強い国家で、今でも多くの州の学校で進化論を教えることができませんし、アメリカ国歌「星条旗」には「神」という言葉がありますし、大統領は議会での演説の最後に必ず「God bless America」と言いますし、大統領就任式では必ず左手を聖書の上に置いて宣誓します。同性愛差別、人工中絶禁止などの保守派の主張も宗教的価値観からきています。クリスマスに「メリークリスマス」と言うか「ハッピーホリデーズ」と言うかは大きな政治的争点です。

日本のメディアはアメリカを宗教国家と見なすことをタブーとしているので、Qアノンの実態も見えてきません。
トランプ大統領やQアノンの主張は宗教だと考えれば、「嘘だ」とか「事実に反する」と批判するのは的外れで、むしろ「政教分離」の観点から批判するべきだということになります(あるいはキリスト教の権威による「異端審問」も)。

宗教勢力は今後もトランプ大統領を教祖として担いでいこうとするでしょう。
あるいは、司法当局の追及や民事訴訟やマスコミの報道などでカリスマ性が失われていくかもしれません。



ところで、日本におけるトランプ支持者の多くは、統一教会系「ワシントン・タイムズ」と法輪功系「大紀元(EPOC TIMES)」の情報をよりどころにしているということですし、日本でトランプ支持デモを主催しているのは統一教会や幸福の科学だということです。
新宗教やカルトの人たちはトランプ大統領のカリスマ性にひかれるのでしょう。
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1月17日の福岡のデモに登場した“トランプみこし”(「水木しげるZZ」のツイートより)

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アメリカ大統領選挙を通してわかったのは、日本に盲目的なトランプ信者がかなりいるということです。
彼らはいまだに「民主党が選挙を盗んだ」というトランプ大統領の吹聴する陰謀論を信じていたりします。
こんなにトランプ信者がいるのは、アメリカ以外では日本ぐらいではないでしょうか。

日本のトランプ信者のほとんどが保守派、右翼、ネトウヨです。
彼らは一応愛国者を自認しているので、それに合わせてトランプ支持の理由づけをしています。
それは、「トランプは中国にきびしいから」というものです(「バイデンは中国の手先だ」という陰謀論も信じていそうです)。

トランプ氏でもバイデン氏でも対中国政策にそれほど変わりはないだろうというのが一般的な見方ですが、とりあえず今は、おそらく新型コロナウイルスによる被害を中国に責任転嫁するために、トランプ政権が中国にきびしく当たっているのは事実です。


反中国の感情は、ネトウヨに限らず日本人に広く蔓延しています。
11月17日に発表されたNPO法人「言論NPO」などによる日中共同の世論調査によると、中国への印象が「良くない」「どちらかといえば良くない」とした日本人は89・7%で前年比5ポイント増だったということです。
習近平政権は独裁色を強め、香港の民主化運動を弾圧しているので、それが反映されたのでしょう。

しかし、今では日本にとって中国は最大の貿易相手国です。
日中関係をこじれさせるわけにいきません。
ほとんどの日本人はそのことがわかっていますし、自民党政権も同じです。

しかし、わかろうとしない人もいます。
かつて日本の経済力が中国を上回っていたころ、中国を見下していた人たちです。
中国経済が次第に日本に追いついてきても、「中国経済はもうすぐ大崩壊する」などという本や雑誌記事を読んで信じていました。

しかし、中国のGDPが2010年に日本を超え、その差が年々拡大してくると、「中国経済は崩壊する」という説は見なくなりました。
また、「南京虐殺はなかった」というのは、「従軍慰安婦の強制連行はなかった」というのと並んでネトウヨの主張の定番でしたが、最近「南京虐殺はなかった」という主張はとんと見なくなりました。

今では中国のGDPは日本の3倍近くになっています。
ネトウヨも反中国の旗をおろさざるをえなくなって、もっぱら慰安婦像問題や徴用工問題などで反韓国の旗を振るしかないというときに、トランプ大統領が強硬な反中国政策を取り始めたのです。
ネトウヨは大喜びしたでしょう。
アメリカが中国をやっつけてくれて、日本もアメリカの威を借りる形で中国に強く出られそうだからです。

そうしてネトウヨはトランプ信者になったというわけです。


もともと多くの日本人は、強いアメリカに媚び、弱い中国や韓国や北朝鮮に威張るという精神構造をしていました。
この精神構造は、半島と大陸を植民地化したことからきていますが、若い人の場合、学校でのいじめとも関係しているかもしれません。
クラスで強い者が弱い者をいじめるという現実の中で育ってきて、国際社会も同じようなものだと思っているのではないでしょうか。

しかし、アメリカの覇権はいつまでも続くとは限りません。将来は覇権が中国に移るということは十分に考えられます。
日本がアメリカの威を借りて中国に対処していると、そのときみっともないことになります。

アメリカであれ中国であれ、覇権主義に反対するというのが日本外交の基本でなけれはなりません。

覇権主義に代わるものは「法の支配」です。
日本は人権、平和、法の支配といった価値観で世界から信頼される国になるしかありません。

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AP通信写真家のエヴァン・ヴッチの写真――Elizabeth May (on semi-hiatus)のツイートより

アメリカ大統領選挙はバイデン候補の当選で決着しました。
もっとも、トランプ大統領は「選挙は私が大差で勝った!」とツイートし、さらに「月曜日から選挙に関わる法律がきちんと執行され本当の勝者が決まるように裁判を通じて求めていく」との声明を出したので、裁判闘争が続くのかもしれません。
しかし、選挙不正の証拠も示されないので、裁判の帰趨は明らかです。


この4年間、世界はトランプ大統領の毒気にあてられてきました。
これから毒気を抜いて健康を回復しなければなりません。
それにはトランプ大統領をよく理解することです。

頭を冷やして振り返ると、トランプ大統領にもいいところはありました。
なによりも新しい戦争をしませんでした。
継続中の戦争も縮小の方向でした。
トランプ政権は軍事費を増大させたので、私はトランプ大統領は好戦的な人間で、どこかで戦争を始めるだろうと思っていましたが、それは私の見込み違いでした。

それから、よくも悪くも実行力があったのは事実です。
たとえば、金正恩委員長との会談は、ホワイトハウスで賛成するのは誰もいないような状況でしたが、実現させました。
もっとも、会談は実現しましたが、そのあとはとくに進展がありません。トランプ大統領は戦争を防いだと自慢していますが。


私が考えるに、トランプ大統領はアメリカファースト以前に自分ファーストの人間で、つねに自分が中心にいて注目されたいのです。
戦争が始まってしまうと、戦況や司令官に注目が集まります。そういう事態は避けたのでしょう。

軍事費を増大させたのも、強大な軍事力を持つ大統領として世界から仰ぎ見られたかったからでしょう。

金正恩委員長と会談したのも、その会談が世界でもっとも注目される会談だったからです。
同盟国の首脳といくら会談しても大して注目されません。
会談で注目されれば満足なので、会談が終わればそれきりです。

なお、トランプ大統領はASEAN首脳会議に一度も出席したことがありません。サミットには出席しますが、あまり楽しそうではありません。ワンオブゼムの立場がいやなのでしょう。


トランプ大統領は実際にブロレスのリングにのぼったことがありますし、バラエティ番組の司会で「お前はクビだ!」の決め台詞で人気を博しました。
そのままの感覚で大統領になって、同じことをやっているのです。

ですから、私たちもプロレスを見物する感覚でトランプ大統領を見ることができれば楽しいのですが、このプロレスラーは核のボタンを持っているので、この見物は精神衛生によくありません。

“トランプレスラー”の得意技は言葉を使っての攻撃です。
トランプ大統領は特殊な言語能力を持っています。
言葉の攻撃力を持っていることも戦争しなかった原因かもしれません。

たとえばバイデン候補とのテレビ討論会で、暴力的極右団体プラウド・ボーイズに対してなにか言わないのかと司会者に問われると、トランプ大統領は「プラウド・ボーイズ、下がって待機せよ」と言いました。
これは行動への準備を命じたようなものだと批判されましたが、「行動するな」という意味でもあり、実に巧妙な言い方です。とっさにこういう言葉の出てくるところにトランプ大統領の優れた言語能力があります。

トランプ大統領はツイッターに毎日のように多数の投稿をしていますが、世界最高の権力者が思いつくままに発言して通用しているのも驚くべきことです。


トランプ大統領は今回の選挙について「彼らは選挙を盗もうとしている」とツイートして、ツイッター社に警告をつけられました。

「選挙を盗む(steal the election)」とは不思議な言葉です。ファンタジー小説に出てきそうな言葉で、巨大な悪を想像させます。
「投票用紙を盗む」とか「投票箱を盗む」ならわかりますし、「そんな事実はない」と反論もできますが、「選挙を盗む」と言われると、どう反論していいのか困ります。

トランプ大統領はほかにも「郵便投票は腐敗した制度だ」とか「合法的な集計をすれば、我々は楽勝だ」とか「不正はやめろ」とかいろいろ言っていますが、「選挙を盗む」という言葉の威力で、証拠もなしに不正選挙のイメージづくりにある程度成功しました。


しかし、トランプ大統領の言葉の攻撃力もウイルスには通用しませんでした。
新型コロナウイルスの蔓延を防げなかったことでトランプ大統領の支持率は低下ししました。
もし新型コロナがなかったら、トランプ大統領は楽勝していたでしょう。



トランプ信者は日本にも多くいます。
ヤフーニュースのコメント欄には、選挙の不正を主張する意見がいっぱいあります。
こういう人たちは菅首相にまで文句をつけています。

菅首相「バイデン祝福」にかみつく人たち 「まだ決まってない」「裁判を見極めて」などと主張が
菅義偉首相が2020年11月8日、米大統領選で「勝利宣言」したジョー・バイデン氏への祝意をツイートしたところ、リプライ欄に反発の声が少なからず書き込まれる事態となった。

「まだ決まってない」「まだトランプ大統領は争っています」「1月に正式に決まった時点で祝辞を送った方が賢明」「不正による当選した方に祝辞を送るな」「裁判を見極めて!! 」

■各国のリーダーも同様に声明

 こうしたリプライが相次いで寄せられているのは、菅氏が8日早朝、ツイッターに書き込んだ下記の投稿だ。

「ジョー・バイデン氏及びカマラ・ハリス氏に心よりお祝い申し上げます。日米同盟をさらに強固なものとするために、また、インド太平洋地域及び世界の平和,自由及び繁栄を確保するために、ともに取り組んでいくことを楽しみにしております」

(中略)

日本でも拡散した「不正選挙」言説
 投稿から約7時間、13時過ぎの時点で、ツイートには1700件を超えるリプライ(返信)が寄せられている。しかし、目立つのは上記のように、祝意に反発する投稿だ。

 あるアカウントは、「菅さん、社交辞令はわかりますが、時期そうそうですよ!」(原文ママ)と主張。この投稿には700件を超える「いいね」が寄せられている。ほかの「まだ、決まってませんよ」とするリプライにも1000件以上のいいねが。

 もちろん、「他の国が祝辞出してるから」と理解を示すツイートもあるが、リプライ欄の上位に掲載された投稿の中では少数派だ。

 現職のドナルド・トランプ氏は、選挙で不正が行われた可能性を繰り返し示唆し、法廷闘争に持ち込む姿勢を崩していない。支持者の間では不正の「証拠」とされる画像や動画などが、日々拡散され続けている。こうした情報は日本にも広まり、注目を集めているが、これらの言説はすでにメディアなどの調査で否定、あるいは疑義が示されているものが少なくない。
https://news.yahoo.co.jp/articles/cfa04a5895e0a7070e33efe359919354b18d219c

外国の大統領の主張を信じて、日本の首相の判断に文句をつけるとは、まさに「売国」というしかありません。
まあ、菅首相のカリスマ性がトランプ大統領のそれに遠く及ばないだけのことかもしれませんが。

トランプ信者はトランプ大統領の毒気にあてられているのですから、早く解毒しなければなりません。

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10月26日、菅義偉首相の初めての所信表明演説が行われましたが、演説の途中で拍手が起こったのは2度だけでした。
1度目は、コロナ禍でがんばる医療関係者に対して「心からの感謝の意を表します」と言ったところで、2度目は、「2050年、カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことをここに宣言いたします」と言ったところでした。
このことから脱炭素社会の実現がこの演説の最大の目玉だったことがわかります。

拍手が起こらないのは、強く言い切ったあとに間を空けて拍手を催促するというテクニックを使わなかったからでもあります。けれん味がなくてよいとも言えます。

内容にこれというところがないので、野党も「学術会議任命拒否の説明はなしか」ということ以外に批判のしようがないようです。

従来は争点だった改憲問題については、このように言及しています。
 国の礎である憲法について、そのあるべき姿を最終的に決めるのは、主権者である国民の皆様です。憲法審査会において、各政党がそれぞれの考え方を示した上で、与野党の枠を超えて建設的な議論を行い、国民的な議論につなげていくことを期待いたします。
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/1026shoshinhyomei.html
とくに改憲の意欲はなさそうです。

演説の内容に注目できないので、どうしても菅首相のキャラクターに注目がいきます。
アメリカ大統領選のさ中ということもあって、私はトランプ大統領と比べてしまいました。
菅首相とトランプ大統領はなにもかもが正反対です。


トランプ大統領は選挙演説が得意で、聴衆を大いにわかせます。原稿もなしに、たいてい1時間以上しゃべりますし、本人もノリノリで、声も張っています。
菅首相は活舌が悪く、声に張りもありません。
菅首相も選挙演説はよくしますが、聴衆をわかせるような演説はしていないでしょう。

体格も大いに違います。
トランプ大統領の身長は190センチだそうです。
政治家の身長は意外とだいじで、アメリカ大統領選では身長の記録が残るようになって以降、主要な2人の候補のうち、2期目のジミー・カーター大統領以外、つねに背の高いほうが勝っているという説があります。

ちなみにバイデン候補は183センチだそうです。
体格も圧倒的にトランプ大統領のほうがたくましくて、もしトランプ大統領とバイデン候補が殴り合いの喧嘩をしたら、トランプ大統領が圧勝するでしょう(トランプ大統領は口喧嘩も達者です)。
群れをつくるたいていの動物では、喧嘩の強いほうが群れで上位になり、いちばん強い個体が群れのリーダーになります。
人間も基本的な部分は同じです。アメリカの有権者が本能的に行動すればトランプ氏を選ぶことになります。
もっとも、今回のテレビ討論会では、コロナのせいで両候補は離れて立っていたので、体格の違いはそれほど意識されませんでした。その影響がどう出るでしょうか。

菅首相の身長については、公式発表はないようで、ネットでの推測によると165~167センチです。
総裁選で石破氏や岸田氏と並んでも、身長の低さが目立ちました。
討論会では、カンペを見ながらぼそぼそしゃべるという感じで、石破氏と岸田氏が力強く言い切っていたのと対照的でした。


菅氏が首相にまでなれたのは、人事権をうまく使ったからと言われていますが、人事のやり方についてもトランプ大統領とは対照的です。

トランプ大統領の人事はオープンです。
トランプ政権の最初の国務長官だったティラーソン長官の場合、だんだんトランプ大統領との対立が表面化して、ティラーソン長官がトランプ大統領のことを「間抜け」と言ったと報道され、ティラーソン長官がそれを否定しなかったということなどがあって、最後にトランプ大統領は「イランの核開発問題などをめぐる意見の不一致があった」ということを理由に解任しました。
ボルトン補佐官の場合は、アフガニスタンやイランなどの外交政策をめぐって意見が対立し、トランプ大統領はツイッターで「私は昨夜、ジョン・ボルトンに対し、彼の任務はホワイトハウスで必要なくなったと伝えた」と述べて、解任を発表しましたが、ボルトン補佐官はツイッターで「私は昨夜、自ら辞職を申し出た。トランプ大統領は『明日、それについて話し合おう』と言った」と主張し、解任か辞任かでも対立しました。

トランプ大統領の場合、人事の対立も劇場型になります。
おそらく「お前はクビだ!」というところを大衆に見せて、自分のリーダーシップをアピールしたいからでしょう。

菅首相の人事は密室型です。いきなり官僚を左遷すると、周りの人間はその理由を推測し、あのとき菅首相の意見に反対したからだろうということになり、それ以降、官僚は菅首相の気持ちを忖度するばかりで、反対意見など言えなくなるという仕組みです。

学術会議の任命拒否も同じやり方ですが、官僚の人事とは根本的に違うので、内閣支持率を下げてしまいました。
人は得意なことで失敗するという典型です。

もしトランプ大統領が学術会議の任命拒否をやったとしたら、どう言うか考えてみました。
「6人は政府の方針に反対したバカだと聞いている。バカを学術会議に入れろというのか?」
こんなところでしょうか。
むちゃくちゃですが、なにも説明しないよりおもしろいかもしれません。

いや、菅首相は任命拒否について少し説明をしました。
26日、NHKのニュース番組に出演した菅首相は、会員の人選について「一部の大学に偏っていることも客観的に見たら事実だ」と、任命拒否を正当化するようなことを言いました。
前に突然「推薦名簿を見ていない」と言って世の中を驚かせたのと似ています。
世の中から批判されると、つい責任逃れのことを言ってしまうのです。

その点、トランプ大統領は世の中からなにを言われても、即座に反論するか無視するかで、まったく動揺を見せません。大統領就任から4年もたっているのに、いまだに納税記録の公表を拒んで、平気な顔をしています。



私がこの記事を書こうとしたそもそもの狙いは、菅首相とトランプ大統領を比較して、密室で選ばれた菅首相はあまりにもみすぼらしいという決論に持っていくことでした。
しかし、トランプ大統領はけた外れの人間で、比較の対象にするのは間違いでした。
トランプ大統領と比べると、誰でもみすぼらしくなってしまいます。

ですから、石破氏、岸田氏、安倍前首相と比べるべきでした。
誰と比べても、菅首相は体格に劣り、活力がなく、性格の暗さが出て、見映えがしません。

裏方が似合った人間が首相になって大丈夫かと前から思っていましたが、所信表明演説を見て、改めてそう思いました。


(菅首相の所信表明演説はこちらで見られます)

スクリーンショット (30)

朝日新聞が9月3日、4日に実施した世論調査によれば、安倍政権の7年8か月間の評価を聞くと、「大いに」17%、「ある程度」54%を合わせて71%が「評価する」と答え、「評価しない」は、「あまり」19%、「全く」9%を合わせて28%でした。
71%が評価するというのは驚きの高評価です。

どんな政策を評価するかというと、「外交・安全保障」の30%が最も多く、「経済」24%、「社会保障」14%、「憲法改正」は5%でした。
「外交・安全保障」にこれといった成果はなく、これも意外な高い数字です。

こうした数字に反安倍の人はとまどったでしょう。
「安倍を評価するなんて国民はバカだ」と思ったかもしれません。

私も反安倍ですが、そんなふうには思いません。
逆に「国民が正しくて、自分がバカなのかもしれない」と思います。
こういうふうに自分を絶対化せず、地動説的発想のできるのが私の偉いところだと、自画自賛しておきます。


安倍首相を評価する声に、「がんばっている」「一生懸命やっている」というのがあります。
こうした声に「政治は結果だ」と反論するのは容易ですが、ここが考えどころです。

確かに安倍首相はずいぶんとがんばってきました。
私が安倍首相のがんばりで思い出すのは、昨年5月、令和初の国賓としてトランプ大統領を招いて、茂原カントリー俱楽部で二人でゴルフをしたときのことです。
安倍首相はバンカーで手間取り、ようやくボールを出して、先に歩き出したトランプ大統領を追いかけようとして斜面ですっ転んだのです。その瞬間をテレビ東京のカメラがとらえていました。



転んだことをバカにするのではありません。トランプ大統領のご機嫌をとるために必死になって追いつこうとするから転んだので、そのご機嫌とりの姿がみっともないと思いました。

この日の夕方は二人で大相撲の観戦をしました。国技館にトランプ大統領のためにわざわざ特別席を設置しました。私は枡席に椅子を置けばいいではないかと思いましたが、安倍首相はそれではだめだと思ったのでしょう。
トランプ大統領は格闘技好きだということで組まれたスケジュールですが、トランプ大統領はまったくつまらなさそうな顔で大相撲観戦をしていました。人種差別主義者のトランプ大統領には日本の伝統文化など興味がなかったようです。

結局、いくらおもてなしをしても、トランプ大統領がそれによって対日要求を緩和するということはなかったのではないかと思います。

私はトランプ大統領のご機嫌とりをする安倍首相をみっともないと思いましたが、安倍首相が一生懸命やっていたのは事実です。


プーチン大統領に対しても同じようなことがあります。
安倍首相はプーチン大統領のことを何度も「ウラジミール」と呼んで親密さをアピールし、二人そろっての記者会見で「ウラジミール、ゴールまで二人の力で駆けて、駆けて、駆け抜けようではありませんか」と熱く語ったこともありますが、プーチン大統領のほうは安倍首相のことを「シンゾー」とは呼びません。
親密でないのに親密なふりをする安倍首相を、私はみっともないと思いましたが、安倍首相が一生懸命やっていたのも事実です。
親密でないのに親密なふりをするというのは、そうとうな精神力(演技力?)がないとできません。


では、安倍首相が一生懸命やっているのを見て、私は低く評価し、国民の一部は高く評価したのはなぜでしょうか。

いろいろ考えるに、かつて日本は世界第二の経済大国になり、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とか「日米は対等のパートナーシップ」と言われたころのイメージがまだ私の頭の中に残っているのです。
一方、若い人たちは、もの心ついたころにはバブル崩壊後の不況で、就職氷河期があり、経済は長期停滞で、見下していた中国にあれよあれよという間に抜き去られ、最初から“経済小国”の現実が身に染みついているのです。

ですから、私は安倍首相を見て、大国の首相なのにみっともないと思い、若い人は小国の首相なのによくやっていると思うのです。
こう考えると、若い世代に安倍内閣の支持率が高いことが理解できます。


安倍首相がこれまでやってきたのは、分相応の小国外交です。それが国民から支持されました。

安倍首相が習近平主席を国賓として招待することを決めたのは、安倍応援団には評判が悪かったですが、国民はおおむね受け入れていました。小国の日本が大国のアメリカと大国の中国のご機嫌とりをするのは当然のことです。

北方領土返還がほとんど不可能になっても、小国外交なんだからしかたがないという受け止めが多いためか、まったく問題にされません。

ただ、そういう小国外交だけでは国民の不満がたまります。
そこで、安倍政権は慰安婦像や自衛隊哨戒機へのレーザー照射や徴用工などの問題を大きくして、韓国を不満のはけ口にしました。
これは安倍政権の実にうまいやり方です(前は北朝鮮も不満のはけ口にしていましたが、トランプ大統領に言われて日本から無条件の話し合いを求めるようになって、そうはいかなくなりました)。


若い世代に限らず「日本は小国である」という認識はかなり広まっています。
しかし、そのことははっきりとは認めたくないという心理もあります。
そのため、逆に「ニッポンすごいですね」という番組がやたらにつくられます。
また、国力の国際比較もタブー化しています。
安倍政権は、前と比べて雇用者数や有効求人倍率や株価が改善したなどと成果をアピールしましたが、経済成長率の国際比較などはしません。
国際比較をするのは、蓮舫議員の「二位じゃだめなんですか」発言のあったスパコンが世界一になったときぐらいです。
野党も日本の経済成長率の低さをやり玉にあげたりはしません。それをすると「対案を出せ」と言われて、対案がないからです。

最近、財政健全化のこともすっかり言われなくなりました。
借金を返すには稼ぐ力が必要で、日本にそういう力はないと思われているのでしょう。
日米地位協定の改定などは、夢のまた夢です。

大国幻想を振り払ってみれば、安倍首相が小国の首相としてよくやったということがわかりますし、71%の評価も納得がいきます。

なお、安倍首相の辞任表明はいち早く中国でも報道され、SNSでは「お疲れさまでした」「いい首相だった」「尊敬できる政治家だ」など好意的な意見が多かったということです。
小日本にふさわしい首相と見られていたからでしょう。



ただ、小国というのはあくまで経済小国という意味です。
文化大国、平和大国、環境大国、人権大国など、日本が元気になる道はいくらでもあります。
再び経済大国になることも不可能と決まったわけではありません。

安倍政権の小国外交がさらに日本の小国化を推し進めたということもあるのではないでしょうか。

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