村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

タグ:吉本興業

2133697_m

松本人志氏の性加害に関する文春砲の第二弾は、「三人の女性が新証言」「恐怖のスイートルームは大阪、福岡でも」という見出しで、C子さん、D子さん、E子さんの3人がそれぞれに体験したことを語りました。
3人とも松本氏の後輩芸人に誘われ、飲み会に行ったりしたあと、最終的に高級ホテルの一室に誘われました。すると、そこに松本氏がいます。
C子さんは自分が松本氏とセックスをします。
D子さんは松本氏と二人きりになるのを拒み、D子さんの友人が部屋に残りました。
E子さんも松本氏と二人になるのを拒み、結局友人が松本氏に“献上”され、エッチをしたとあとで友人から聞きました。

3人の女性が松本氏とセックスをしたと見られますが、どれも「合意」の上のことですから、文春砲第二弾は拍子抜けです。

ですから、今のところ松本氏にとって問題なのは、文春砲第一弾のA子さんとB子さんのケースだけです。これは性行為の「強要」があったとされるので、深刻です。
とはいえ、刑事事件にはなりそうにないので、松本氏がすぐに反省の態度を示して謝罪すれば、大きな問題にはならなかったでしょう。
ところが、松本氏は「事実無根」と言ったために、A子さんは怒って「今後、裁判になったとしたら証言台で自分の身に起きたことをきちんと説明したいと考えています」と今回の文春の記事の中で言っています。
今後の裁判というのは、性行為の「強要」があったか、それとも「合意」があったかということが争点になると思われるので、A子さんが毅然とした態度で証言すると松本氏は苦しくなります。


ただ、謝罪会見というのはむずかしいものです。
これまで企業や個人が数々の謝罪会見を行ってきましたが、謝罪のしかたによってはかえって炎上します。
松本氏の場合、性格的に「真摯に謝罪する」ということができません。これまでそんな場面を一度も見たことがありませんし、真摯になるべき場面でも必ず笑いを入れてごまかしてきました。

しかも、この場合は女性に対して謝罪するわけです。
松本氏は女性を見下してきた人ですから(とくに性的な場面で)、「女性に対して真摯に謝罪する」というのは、松本氏においては不可能の上に不可能を積み重ねた行為です。

本来なら吉本興業が松本氏に謝罪会見をさせるところですが、吉本興業と謝罪会見というと、闇営業問題で宮迫博之氏と田村亮氏が真摯な会見をしたことが思い出されます。
そして、吉本の岡本明彦社長はなんと5時間半にも及ぶグダグダの会見をして、世の中をあきれさせました。
ただ、そのときに岡本社長は宮迫氏と田村氏の処分を撤回すると発表しましたが、宮迫氏はいまだにテレビに出られず、田村氏もほとんど“干された”状態になっています。
真摯な謝罪会見をした宮迫氏と田村氏が日陰に追いやられ、グダグダの会見をした岡本社長は今も芸能界の支配的立場にあります。

吉本興業がテレビ局に対して圧倒的な力を持っているのは旧ジャニーズ事務所と同じです。
これを機会に吉本興業のあり方も正常化してほしいものです。


今後行われる裁判で松本氏が勝訴しても、松本氏が今まで通り活躍できるようになるかというと、そうはいかないでしょう。
文春のふたつの記事は新たな問題をあぶり出しました。

文春の記事によると、松本氏はしょっちゅう女性との飲み会をして、その中から一人の女性を選んでセックスをしていることになります。
既婚者の身でそういうことをしているのを不愉快に思う人が多いでしょう。
そして、毎回違う女性を選んでいるのも不愉快に思う人が多いでしょう。
浮気や不倫は多少なりとも恋愛の要素がありますが、松本氏の場合は女性を性の対象としてしか見ていません。

それから、飲み会に女性を集めるのを後輩芸人にやらせ、セックスの対象に選んだ女性を口説くのも後輩芸人にやらせています。
文春が「SEX上納システム」と書いたのはそういうことです。
女性を集め、口説くといういちばんむずかしいところを後輩にやらせ、自分はおいしいところだけいただくというやり方です。
まるで大奥で女性を選んだ将軍です。


「SEX上納システム」は後輩芸人の働きによって成り立っています。
今回の記事には、福岡ではパンクブーブーの黒瀬純氏とその後輩芸人、大阪ではクロスバー直撃の渡邊センス氏とたむらけんじ氏がその役割をしていたと書かれています。前回の記事では小沢一敬氏でした。
ほかにもいっぱいいそうです。というのは、「人志松本のすべらない話」に出演した博多大吉氏も、女性を集めて松本氏を接待したという話をしているのです。
YouTubeからその話を要約して紹介します。

「ぼくら福岡で先輩芸人がこられたときにおいしいお店に連れていったり、女性をセッティングしたりというのを15年ぐらいやってたんです。十何年前、松本さんが初めて福岡にこられたとき、今田さんらと5人ぐらいでくると。で、わかってるかと、ちゃんと女の子を用意するようにと。正直言って、人気のない先輩だと女の子はあんまり集まらないんですけど、松本さんなら余裕で集まると思ってたんです。しかし、女の子に声をかけると、松本軍団が全国を飲み歩いているというのがへんな感じで伝わっていて、みんな飲み会は行きたくないと。なぜならなにされるかわからないと。いただける笑いよりも、のちに与えられる暴力のほうが上回るだろうと。前日か前々日に、飲み会に行ってもいいよという女の子は一人だったんです」

このあと、多方面に声をかけまくったら50人の女の子が集まって、飲み会の費用が33万6000円になり、松本氏の顔が青くなったというオチになります。
この話には「SEX上納」は出てきませんが、「いただける笑いよりも、のちに与えられる暴力のほうが上回る」という言葉は重いものがあります。

たむらけんじ氏は飲み会のあったことは認めていますし、LINEが流出したことで小沢氏の飲み会があったことも確かです。「SEX上納」の部分については女性の証言だけですが、松本氏の過去の行状などからもあったことは間違いないでしょう。

後輩芸人は、松本氏のために女性を集め、松本氏とセックスするかどうかまで確かめているわけで、こんなことはしたくないに決まっています。
松本氏が権力を持っているから、後輩はしかたなくしているのです。後輩にすればパワハラです。
いずれ後輩からパワハラを告発する声が上がっても不思議ではありません。


私は性加害の問題が発覚する以前から、松本氏の人間性を嫌っていました。

松本氏は体罰賛成論者で、テレビで何度も体罰賛成論を述べていました。
橋下徹氏も昔は体罰賛成論を盛んに主張していましたが、時代の流れを読んで、あるときから体罰否定論に転換しました。
しかし、松本氏は2017年にトランペット奏者の日野皓正氏が男子中学生にビンタするという事件があったときも体罰賛成論を言っていたので、おそらくテレビで最後まで体罰賛成論を言った人間です。

また、松本氏は赤ん坊や母親にもきびしいことを言ってきました。
かつてツイッターに「新幹線で子供がうるさい。。。子供に罪はなし。親のおろおろ感なしに罪あり。。。」と投稿したことがあります。つまり泣いた赤ん坊の親を責めたのです。
また、やはり新幹線の車中で、母親が1歳未満の赤ん坊に話しかけているのがよほど気にさわったらしく、「2時間半もずーっとしゃべってんねん、まだしゃべれん子に」と言い、それで赤ん坊が言葉を覚えると指摘されると、「家でやったらええやん。新幹線はそういう場所じゃないやん」と主張を曲げませんでした。

子どもや赤ん坊や母親にきびしいということは、要するに弱い者にきびしいということです。
松本氏の笑いは弱者をバカにしていて、学校でのいじめにつながっているという批判が前からありましたが、もっともなことです。

女性をとっかえひっかえして性欲のはけ口にし、後輩芸人を女性調達係として使い倒すというのは、人として許されません。
松本氏がそんな人間だとわかったら、裁判がどうなろうと、もう笑えないのではないでしょうか。

GDXoiR_aQAAoes8
(「週刊文春」1月18日号より)

1月8日、吉本興業は松本人志氏の芸能活動休止を発表しました。
あくまで「活動休止」であって、「活動自粛」でも「謹慎」でもありません。つまり悪いことはしていないというスタンスです。

吉本興業としては、松本氏へのスポンサーや国民の風当たりが強いので、松本氏に謝罪の言葉を述べさせてしばらく謹慎させたかったでしょう。そうすれば半年ぐらいで復帰できるかもしれません。
しかし、松本氏は「謝罪しない人」です(杉田水脈議員もそうです)。これまで謝罪するべき場面でも笑いを混ぜてごまかしてきました。
今回は「自分は悪くない」という態度を貫いていて、活動休止発表と同じ日にXへ「事実無根なので闘いまーす。それも含めてワイドナショー出まーす」と投稿しました。

吉本興業は松本氏の意向を尊重して、「裁判に注力するため」という理由をつけて「活動休止」としました。
裁判といっても実務は全部弁護士がやるので、松本氏は裁判しながら芸能活動をすることは十分に可能です。「裁判に注力するため」というのはあくまで口実です。

週刊文春編集部もその日のうちに「一連の報道には十分に自信を持っており、現在も小誌には情報提供が多数寄せられています。今後も報じるべき事柄があれば、慎重に取材を尽くしたうえで報じてまいります」というコメントを発表しています。
そして、次号に掲載される記事の見出しが明らかになりました。それがこの冒頭に掲げたものです。
それによると、新たに3人の被害女性が証言しています。

これから起きる裁判は、松本氏が名誉棄損で週刊文春を訴えるものになると思われますが、被害女性の証言の信憑性が問題になります。写真や録音の証拠がないのが弱みでしたが、何人もの証言がだいたい一致していれば、それが信憑性を保証することになります。
裁判はどう考えても松本氏が不利です。


松本氏は世の中の変化がまるで見えていなくて、ドン・キホーテのように世の中に向かって突進しています。
Xへの「事実無根なので闘いまーす。それも含めてワイドナショー出まーす」という投稿にも、世間の風は完全に逆風です。「ワイドナショーで後輩芸人相手にしゃべっても意味はない。記者会見をしろ」「フジテレビは公共の電波を一人の男の弁解のために使わせるつもりか」などの声が上がっています。
「事実無根なら記者会見で説明しろ」という声はもっともなもので、松本氏の欺瞞を浮き彫りにしています。

なお、松本氏はXを更新して、「ワイドナショー出演は休業前のファンの皆さん(いないかもしれんが💦)へのご挨拶のため。顔見せ程度ですよ」とトーンダウンしました。
「事実無根」であることをテレビで説明できないのであれば、裁判闘争もまともにできるとは思えません。


松本氏はまた、1月5日にXに「とうとう出たね。。。」というコメントとともにあるLINEの画像を貼り付けました。
その画像は「週刊女性PRIM」が報じたもので、被害女性A子さんが小沢一敬氏に宛てたものとされます。文面は「小沢さん、今日は幻みたいに稀少な会をありがとうございました。会えて嬉しかったです。松本さんも本当に本当に素敵で、●●さんも最後までとても優しくて小沢さんから頂けたご縁に感謝します。もう皆それぞれ帰宅しました ありがとうございました」というものです。
性加害にあった女性がこんなLINEをするはずがないと松本氏は主張したいのでしょう。
しかし、レイプされた被害者が加害者に迎合するのはよくあることです。

伊藤詩織さんが山口敬之氏にレイプされた事件において、伊藤さんはレイプされた日の3日後に山口氏にあてて「山口さん、お疲れ様です。無事ワシントンへ戻られましたでしょうか?VISAのことについてどのような対応を検討していただいているのか案を教えていただけると幸いです」というメールを送っていました。
山口氏はこれを性行為に合意があった証拠だとし、山口氏の応援団もこぞって、「レイプされた人間がこんなメールを送るはずがない。伊藤詩織はうそつきだ」と言い立てました。
しかし、人間の心理として、あまりにも衝撃的な出来事があって、心がそれを受け止められないとき、あたかもそれがなかったかのようにふるまうということがあるものです。これがひどくなると、解離性障害といって、記憶が飛んだり、人格が変わったりします。
東京地裁は2019年12月の判決で、このメールに関して「同意のない性交渉をされた者が、その事実をにわかに受け入れられず、それ以前の日常生活と変わらない振る舞いをすることは十分にあり得る」「メールも、被告と性交渉を行ったという事実を受け入れられず、従前の就職活動に係るやり取りの延長として送られたものとみて不自然ではない」と明快に判断しました。
私はこの判決を見て、ほっとしたのを覚えています。当時の常識からは、このメールがレイプのなかった証拠とされることもありそうだったからです。

当時は伊藤詩織さんへの誹謗中傷が激しく、伊藤さんは日本を脱出してイギリスに移住せざるをえませんでした。
しかし、伊藤さんの奮闘のあと、#MeToo運動が起こり、自衛官の五ノ井里奈さんの告発があり、ジャニー喜多川氏の性加害の被害者が声を上げて、世の中の価値観が変わってきました。
ところが、松本氏はこうした世の中の変化を理解していなかったようです。
松本氏から性加害を受けたという女性が次々と出てきたのは誤算だったでしょう。


松本氏は時代が読めないドン・キホーテであるだけではありません。

松本氏の周りの芸人たちは、この問題に関してほとんどコメントしていません。
12月29日の「ワイドナショー」で、東野幸治氏は「ちょっとびっくりしましたけど」と言い、今田耕司氏は「僕が知ってる松本さん、小沢君がとても言うとは思えないです、記事に書かれているようなコメントを。合コンとかしたこと、何度もありますけど」と言い、あと、ほんこん氏は自分のYouTubeチャンネルで「俺の子を産めとか言うかな?」「俺は相当、(松本氏は)自信があるのではないかなと思いますけどね」と言いましたが、3人とも松本氏と直接話はしていないわけです。
親しい関係なら「文春の記事、ほんまでっか?」と聞いて、その返事をみんなに伝えます。
おそらく松本氏は周りの芸人からも超越的な存在なので、おそれ多くて誰もなにも聞けないのでしょう。


吉本興業の経営陣も同じです。
活動休止を発表した前日、日本テレビ「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」の放映があり、冒頭でダークスーツ姿の藤原寛吉本興業副社長が「番組を始める前にわたくしのほうから謝罪とお知らせをさせていただきたいと思います」と切り出し、「2023年、弊社所属芸人が皆様に多大なご迷惑、ご心配をおかけしまして、本当に申し訳ございませんでした」と頭を下げましたが、なにについて謝罪しているのかは言いません。
隣の松本氏が「誰のことやねん。いっぱいいるからわからへん」などと突っ込んでいました。

松本氏の性加害問題を笑いにしてごまかすのかと驚きましたが、どうやらこの番組が収録されたのは文春が性加害を報道する以前のことだったようです。ですから、謝罪の対象は“当て逃げ”の藤本敏史氏のことだったと思われます(ほかに浜田雅功氏の“パパ活”などもありました)。
しかし、冒頭場面をカットするか撮り直しすることもできたはずです。そのまま放映したのは、吉本興業はやはり松本氏の性加害問題を笑いでごまかしたかったのでしょう。

吉本興業の岡本昭彦社長も藤原寛副社長も、今は万博催事検討会議共同座長をやっている大崎洋前会長も、みんなダウンタウンのマネージャーだった人です。つまりダウンタウンのマネージャーをやることで出世して経営の中枢に上り詰めたのです。
経営陣と松本氏は一体です。
経営陣も「事実無根」という主張は無理筋だと思っていても、松本氏にはなにも言えないのでしょう。

松本氏はお笑い芸人として圧倒的権威となり、吉本興業においても稼ぎ頭となったことから、誰も意見できない「裸の王様」になりました。


裸の王様はいずれ恥をかくことになりますが、このままでは吉本興業もいっしょに恥をかいてしまいます。
裁判のゆくえ以前に、吉本興業と松本氏の関係に注目です。

厚生労働省が制作した「人生会議」PRポスターに各方面から反発の声が上がり、自治体への発送が中止されることになりました。

日本赤十字社が「宇崎ちゃん」という巨乳おバカキャラを使って献血キャンペーンをして炎上したのに似ています。どちらも医療関係で、インパクトのあることをやろうとして、失敗しました。

問題のポスターがこれです。

人生会議

ポスターの文章の部分を書き出しておきます。

まてまてまて
俺の人生ここで終わり?
大事なこと何にも伝えてなかったわ
それとおとん、俺が意識ないと思って
隣のベッドの人にずっと喋りかけてたけど
全然笑ってないやん
声は聞こえてるねん。
はっず!
病院でおとんのすべった話聞くなら
家で嫁と子どもとゆっくりしときたかったわ
ほんまええ加減にしいや
あーあ、もっと早く言うといたら良かった!
こうなる前に、みんな
「人生会議」しとこ

「人生会議」とはなにかというと、厚生労働省によると、「もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組のこと」です。
これは「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」と言ってきましたが、一般に普及させるために厚労省が「人生会議」という愛称をつけました。


厚労省がこのポスターのデザインを発表すると、たとえば全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長は、「『人生会議』は終末期だけを考えるのではなく、患者が自分らしく生きることを支える試み。このポスターは“支える”という部分が欠けていて死ぬ直前の部分しかない。これは『人生会議』というよりは、『死に方会議』のポスターです」とフェイスブックに書き込みました。
また、卵巣がん体験者の会「スマイリー」の片木美穂代表は、「これを目にする治療に苦慮する患者さんや残された時間がそう長くないと感じている患者さんの気持ちを考えましたか?  そしてもっと患者と話をすれば良かったと深い悲しみにあるご遺族のお気持ちを考えましたか?」などと書かれた抗議文を厚労省に送付しました。

一方、ポスターを擁護する声もあります。インパクトがあるとか、死はきれいごとではないといったものです。


私の考えを言えば、このポスターはまったくだめです。炎上して当然です。
このポスターが病院の待合室に張られていたら、目にした人は、患者であれ家族であれ、どんな気持ちになるかと想像すればわかるはずです。おそらく全国から抗議が殺到したでしょう。
病院でなくて市役所などに張られていても、同じようなものです。

このポスターは、制作者の意図はともかく、心電図がフラットになっていることからして死の瞬間と想像され、怨念を残して死んでいく人間の姿と見えます。
端的に言うと、この人の顔は般若の面のようになっています。
怨念を残して死ぬのは最悪の死です。これが映画なら、この人は化けて出るはずです。

なぜそんな印象になるかというと、ポスターに起用されたお笑い芸人の小藪千豊氏が、説教したり小言をいったりするキャラだからです。
ポスターの文章に「大事なこと何にも伝えてなかったわ」「もっと早く言うといたら良かった!」とあるように、ここは反省、後悔、自責の気持ちが表現されなければなりませんが、小藪氏のキャラのせいで(あるいは演出家の意図のせいで)、まったく違うものになりました。

小藪氏は「人生会議」という愛称を決めた選定委員を務めていましたから、単にポスターの写真に出ただけではありません。
そして、小藪氏の所属する吉本興業は、このポスターの制作を請け負っていました。
ポスターは約1万4千枚制作され、その費用は厚労省によると「吉本興業と4070万円の委託価格で契約した」ということです。
こうしたポスター制作は広告代理店などがするものと思っていましたが、今や吉本興業は「安倍首相のお友だち」なので、こうしたところにまで食い込んでいたわけです。

ポスターの中で小藪氏は「ほんまええ加減にしいや」とおとんに突っ込んで、お笑いの常道を演じていますが、死んでいく人間がそんなことを思うはずがありません。
しかし、コントや新喜劇の芝居なら成立します。小藪氏は新喜劇の座長であり、吉本興業はお笑いを武器にする会社です。
吉本興業は「お笑い」を優先し、結果的に「死」を軽視するこの企画を厚労省に提出したわけです。
厚労省は当然、「ここはまじめに死を扱ってください」と言って、その企画にダメ出しするところです。

しかし、安倍首相は吉本新喜劇の舞台に立ったことがあり、新喜劇の芸人が首相官邸を表敬訪問したこともあり、両者の関係は密接です。
官僚は安倍首相を忖度して、ダメ出ししなかったのでしょう。
その結果、炎上ポスターができあがってしまったのです。

この問題は、モリカケ問題や「桜を見る会」問題と同じです。
長期政権によって、どこを切っても金太郎飴のように、安倍首相、安倍首相のお友だち、忖度官僚の三者の顔が出てきます。

79a6efa3a69c4f00a0b4904bc7bb175a_s
Kuaさんによる写真ACからの写真 


吉本興業の岡本昭彦社長のぐだぐたな記者会見を見てから、こちらの頭の中もぐだぐだになってしまいました。

普通は社長があんなひどい記者会見をしたら、代表権のある大崎洋会長が出てきて、謝罪して、やり直しするものです。
あるいは、岡本社長本人が自分でやり直して、謝罪して訂正するというのもあるかもしれません。
そういうことがなにもないので、あの社長会見で示されたことが吉本の最終見解ということになります。
岡本社長は、「テープ回してないやろな」も「全員連帯責任でクビや」もパワハラと認めていませんし、謝罪会見をしたいと要求した宮迫博之氏と田村亮氏に対して「静観や」と拒否し続けたことも間違いと認めていません。

企業が不祥事を起こすと、役員がずらりと並んで頭を下げるというのがパターン化していますが、吉本は、記者が追及を諦めるまで社長一人がぐだぐだの会見を続けて、不祥事をごまかしてしまうという新しいパターンを創出したようです。


経営陣はなにもしていませんが、代わりに芸人たちがさまざまな動きをしています。
中でも松本人志氏がキーマンのようです。

松本氏は7月28日にフジテレビ系「ワイドナショー」で、加藤浩次氏や友近氏とは対立関係ではなく話し合いができていると言い、加藤氏とは「ゴールが少し2人の中で違いがあるので折衷案を探っている状態」と説明し、友近氏とは「昨日も楽屋でずっとしゃべってたんや。これ以上しゃべってたら疑われるんじゃないかっていうぐらい」と言いました。
対立点があるから話し合いをするわけで、松本氏と加藤氏、友近氏が対立しているのは間違いないでしょう。

松本氏は「ワイドナショー」でさらに、「会社が悪いことをやってるんだったら、膿は全部出してくれ」と言ったあと、「そこをちゃんとしないなら、僕が全員芸人を連れて出ますわ」と言いました。これは冗談でもなんでもなく、真剣な言い方でした。

「全員」というのは「松本派の全員」という意味でしょうが、松本氏にはそれだけの力があるということが、この発言からわかります。
また、松本氏は自分の配下の芸人の意志のことはなにも考えていないということもわかります。完全な主従関係なのでしょう(あとで「みんなを連れて出ると言ったけど、誰もついてこないかも」と言いましたが、これは笑いをとるための言葉です)。

松本氏が動かせる松本軍団が何人いるのかわかりませんが、そもそも松本氏が吉本を出るということが吉本にとって大打撃であり、それが軍団規模になると、吉本の存立にかかわります。
ということは、吉本の経営陣は松本氏にさからえないということです。
そもそも大崎会長と岡本社長は、ダウンタウンの元マネージャーです。ダウンタウンの人気を背景に出世しました。今も「人気芸人とマネージャー」の関係ではないでしょうか。

松本氏が吉本興業の実質的な支配者であるという記事はいくつもありました。



吉本の上層部責任逃れの中、おぎやはぎ・小木が「松本さんが一番裏で牛耳ってるワル」、「文春」も松本の吉本支配を批判

私は一人の芸人が吉本のような大企業を支配できるのかと疑問に思っていましたが、松本氏の「僕が全員芸人を連れて出る」という一言で、それが間違いでないとわかりました。

松本氏・大崎会長・岡本社長という支配体制があって、これは松本氏の体質からパワハラ支配です。そのため不満を持つ芸人がいっぱいいます。
この支配体制に異を唱える代表が加藤氏や友近氏などです。

「松本氏・大崎会長・岡本社長」という支配体制のトップに松本氏がいるなら、松本氏が前面に出て加藤氏と友近氏と話し合うのは当然です。
そして、大崎会長と岡本社長がそれを見守るのも当然です。

吉本は松本氏の個人事務所のようなものです。吉本のような大企業がそんなことはないだろうという思い込みがあると、そのことがわかりません。

岡本社長は松本氏に指示されて記者会見をしました。まさに「ガキの使い」だったわけで、そのためぐだぐだの会見になりました。
大崎会長が会見をしてもやはり「ガキの使い」で、同じことになるでしょう。

吉本興業は松本人志の個人事務所のようなもので、経営陣は統治能力を欠いている――と理解すれば、頭の中がすっきりします。

chains-19176_1920


吉本興業は宮迫博之氏との契約解消撤回を再検討――一読しただけでは意味がよくわかりません。
要するに吉本興業は、宮迫氏をクビにするのはやめたと発表しましたが、やっぱりクビにするかもしれないと態度を変えたのです。
吉本興業は巻き返しに動き出したようです。

テレビを見ていると、吉本興業を巡る問題がどんどんわけがわからなくなっていきます。
吉本は2009年に上場廃止をし、そのときに市中の株を買い取って、その株をテレビ局などが持ちました。今は株主の上位にずらりとテレビ局が並びます。

吉本興業の株主
https://maonline.jp/articles/yoshimotokogyo_20190726?page=2


吉本興業とテレビ局は利益共同体ですから、テレビ局は吉本の不利益になるようなことはしません。ニュース番組やワイドショーなどのコメントはみな吉本寄りです。

たとえば、宮迫氏らが詐欺グループの忘年会に出たときにギャラをもらっていないと嘘をついたことが問題の発端で、吉本はむしろだまされた被害者だというのが、今のテレビの論調です。
その論調に乗って、吉本も宮迫氏をクビにする方向に動いたようです。

しかし、ノーギャラで宮迫氏らが忘年会に出て、あんなに歌を熱唱したりするとは、芸能界にうとい一般人でも信じられません。吉本の人間がだまされるわけがなく、嘘とわかって発表したはずです。
ところが、「宮迫さんの嘘を吉本はほんとに信じたんでしょうか」と問う人をテレビで見たことがありません。


吉本の岡本昭彦社長は記者会見で、「吉本はファミリーだ」ということを繰り返しました。
それに対して「ファミリーと思ったことはない」という芸人の声が上がれば、「ファミリーと思っている」という声も上がりました。
また、岡本社長は「ギャラの配分は5対5か4対6ぐらい」と言い、それに対して「そんなわけがない」という芸人の声も多数上がりました。
ほかにもいろいろな意見を言う芸人がいます。

「バイキング」で坂上忍氏はこうした動きを「派閥争い」と表現しました。
また、あるニュース番組では女性コメンテーターが「男気あらそい」と表現しました。加藤浩次氏のことを念頭に置いているのかと思いますが、男たちが男気のあるところを見せ合っているのだというわけです。
芸人たちが愚かな争いをしていると印象づけることで、吉本を相対的に持ち上げています。

しかし、芸人たち同士で争っているわけではなく、立場によって意見が違うだけです。
立場というのは、吉本で上のほうにいる芸人は“吉本ファミリー”の恩恵を受けて、下のほうにいる芸人は恩恵がなく、ギャラが安いという不満があります。
要するに格差問題が意見の違いとなっているのです。
こうした格差をつくりだしているのも吉本の問題です。


とはいえ、芸人の格差は実力の問題ということもできます。
真の問題は、芸人が吉本をクビになると食べていけないということです。
吉本とテレビ局は一体ですから、吉本の意に反して辞めた芸人は、ほかの芸能事務所に移っても、テレビの仕事はできなくなります。
サラリーマンを「社畜」と言ったりしますが、社畜でも会社をクビになれば、ほかの会社に移って生きていくことはできます。しかし、吉本所属の芸人は吉本をクビになると生きていけないので、社畜以下です。

明石家さんま氏はそうしたことを踏まえて、宮迫氏を“明石家興業”で預かるということを表明しています。さんま氏は吉本興業所属ですが、その実力からそうしたことが可能なのでしょう。

ただ、ここで疑問なのは、加藤浩次氏は「今の会長、社長の体制が続くなら、僕は吉本を辞めます」と言っていますが、加藤氏は吉本を辞めてもテレビに出続けることができるのかということです。
さんま氏は加藤氏について一言、「俺、わからへん」とだけ言いました。
芸能界に詳しい人がこのへんを解説してくれるといいのですが、誰もなにも言いません。
そもそも「吉本を辞めた芸人はテレビに出ることができない」ということすらテレビでは誰も言いません。

吉本の芸人が会社に隷属しているかと思うと、それだけでテレビが楽しくなくなります。

ea9f22649b4e4acea55243fbe5415caa_s


アドリブのきかない芸人がノープランでステージに上がって醜態をさらした――吉本興業の岡本昭彦社長の記者会見は、まさにそういうものでした。

宮迫博之氏と田村亮氏が7月20日に記者会見を行い、その反響が大きかったために、急きょ2日後に岡本社長が会見することになったようです。準備不足は否めませんが、それにしても「お前らテープ回してないやろうな」と言ったのは「冗談のつもりで言った」とか、「全員連帯責任でクビにするからな」と言ったのは「父親が息子に言う『勘当や』という意味合いだった」など、弁解がお粗末すぎます。
会見の前に弁護士などと相談して、謝るべきところは謝り、主張するべきところは主張するという作戦を立てそうなものですが、こういうパワハラ体質の人は人の意見を聞かないのでしょうか。


問題は、岡本社長個人よりも吉本興業という会社にあります。
宮迫・田村会見で、岡本社長が「在京5社、在阪5社のテレビ局は吉本が株主やから大丈夫や」と言ったことがばらされましたが、吉本はテレビ業界を完全に抑えているという自信があるわけです。宮迫氏は最初、詐欺集団の闇営業のギャラをもらっていないと弁明していて、誰もがそんなわけないだろうと思ったはずですが、ワイドショーなどはほとんど追及しませんでした。

それに、吉本は行政との結びつきを強め、大阪万博の民間企業体連合のトップになっていますし、NTTグループと組んで教育関連のコンテンツを配信する事業を始め、これには官民ファンドの出資も決まっています。
「wezzy」の「吉本興業に行政案件を担う資格はあるか 大阪万博、国連、教育事業との関わり」という記事にはこう書かれています。


こういった行政案件への食い込みを可能にしている背景には、吉本興業と安倍政権の密接なつながりがあることは疑いようもない。

 NMB48の吉田朱里は大阪G20におけるロゴマークを決める選考会のメンバーに選ばれていたし、大崎会長はいま現在も、沖縄の米軍施設・区域が返還された後の跡地利用を協議する有識者懇談会の委員に選任されている。
 安倍政権と吉本興業のつながりはどんどん露骨になっている。統一地方選直前の4月に安倍首相が吉本新喜劇の舞台に上がり、その後、6月に吉本所属のタレントたちが首相官邸を表敬訪問したことは記憶に新しい。

 安倍政権は吉本芸人のタレントパワーを人気取りに利用し、吉本興業は安倍政権との密接な関係で行政案件に食い込んでいく──吉本興業のブラック体質とともに、この関係性についても見直しが求められてしかるべきなのではないだろうか。
https://wezz-y.com/archives/67889

吉本興業はアベ友企業だったのです。
安倍政権とつながっているということが岡本社長の自信になり、記者会見への対応をおろそかにしてしまったのでしょう。

アベ友の不祥事といえば、もちろん森友加計があります。
最近では幻冬舎の見城徹社長もそうです。作家の津原泰水氏が百田尚樹氏の「日本国紀」を批判したため、見城社長が津原氏の本の実売部数をツイッターで公表して炎上しました。

「権力は腐敗する。絶対権力は絶対的に腐敗する」という言葉があるように、安倍長期政権は腐敗の極みです。
安倍政権に関わった人が腐敗にまみれて不祥事を起こすのは不思議ではありません。


なお、今回のことでは、「クビ」や「解雇」や「契約解除」や「引退」という言葉が飛び交いましたが、これらの言葉はみな同じ意味です。
吉本興業をクビになると、芸能界を干されて、引退に追い込まれるのです。
かつてサブローシローという漫才コンビが吉本興業の意に反して独立し、徹底的に干されて、つぶされるということがありました。
ですから、宮迫・田村の両氏は芸能界引退をかけての記者会見だったわけで、必死さが伝わったのは当然です。
本来なら、この二人のような実力のある芸人なら、吉本をクビになれば、ほかの芸能事務所が喜んで迎えてくれて、今まで以上に活躍できても不思議ではありませんが、吉本に限ってはそういうことがありません。
いや、ジャニーズ事務所も同じです。元SMAPの三人は今もテレビ番組にほぼ出られません。公取委はそうしたことでジャニーズ事務所に「注意」をしています。
レプロエンタテインメントから独立したのん(能年玲奈)さんも、ほとんど芸能活動ができない状態です。
吉本の芸人のギャラが安いということが話題になっていますが、もし芸人が自由に移籍や独立ができるようになれば、そうした問題はなくなります。

今回の事件をきっかけに、芸能界のダーティな体質も徹底的に改善されるべきです。

このページのトップヘ