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愛媛県松山城

各自治体は地元のよさをアピールするキャンペーンを行っていますが、愛媛県の場合は「まじめ」をアピールしようと考え、「まじめえひめプロジェクト」なるPR戦略を始めました。
「まじめ」をアピールするというのは奇妙な発想です。果たせるかな、企画会議をドラマ仕立てで見せる4分45秒の宣伝動画が炎上しています。



愛媛の県民性は「どまじめ」であるとされ、まじめさの例がいくつも取り上げられます。
たとえば、愛媛県では条例で自転車乗車時にヘルメット着用を励行していて、ほとんどの県民は自転車に乗るときヘルメットを着用しているということです(そのため会議の出席者の一人は髪の毛がペタッとなっています)。
それから、「カジュアルデーも結局スーツ」という言葉も出てきます。
このあたりは「まじめ」を自虐的にとらえている感じもあります。

ところが、おかしな例も出てきます。
「愛媛県民の介護看護をしている時間は日本一長い」というのですが、これはなにを意味するのでしょうか。
老人の数が多いということなのか、老人ホームなどの数が少ないということなのか、いずれにせよ「まじめ」とは関係ない気がしますし、なによりも介護看護時間が日本一長い県にはあまり住みたくないでしょう。

「彼氏がいない独身女性の多さが全国一位」というデータも出てきます。
その理由は「おしとやかでまじめな県民性」のせいだというのです。
「彼氏がいない独身女性の多さが全国一位」というのは、誰がどう考えてもいいことではありません。
ですから、「愛媛の女性はまじめすぎてもてない」という自虐に持っていくしかないと思うのですが、「おしとやかでまじめ」と肯定的にとらえています。

この動画をつくった人は、「彼氏がいない独身女性」を好ましい存在と思っているのでしょう。
それから、介護看護の時間が長いというのも、女性が家の中で介護看護をしっかりやっていることだとして、好ましいと思っているのです。
完全に古くさい男の感覚です。このへんが炎上した原因です。


それから、もうひとつ炎上した原因が考えられます。
それは「まじめ」という言葉のとらえ間違いです。

「まじめ」とは、まじまじと見るの「まじ」に「目」がついた言葉で、物事に真剣に、本気で取り組む態度を意味します。
ただ、国立国語研究所の『「まじめ」の意味分析』によると、真剣、本気のほかに、「規範的」という意味があり、「良いと考えられている価値基準を知った上で、それに沿ってふるまおうとするさま」を示すということです。そして、この意味を国語辞典はあまり記述していないといいます。

ですから、「まじめな人」には、「決められたことをするだけのつまらない人」というマイナスの意味もあるのです。


愛媛県が「まじめえひめ」プロジェクトを始めたときは、「まじめ」のプラス面を打ち出していこうということだったのでしょう。県庁の役人はまじめな人ばかりなので、「まじめ」にマイナス面があるなど考えもしなかったはずです
しかし、「愛媛県まじめ会議」の動画を制作したのはたぶん広告代理店の人なので、普通の感覚で「まじめ」のマイナス面をとらえた自虐を入れたのです。
おそらく最終的に両者の感覚が入り混じったために、おかしな動画になったのかと思われます。

まじめに仕事をしてつくられた農産物や工業製品は好ましいものですが、「まじめな人」というのはあまり好ましくありません。
「愛媛県の人はまじめな人ばかりです」と言われても、あまり行きたいと思いませんし、まして住みたいとは思いません。


そもそも愛媛の県民性が「どまじめ」だというのはほんとうなのでしょうか。
夏目漱石の『坊ちゃん』は、愛媛県の旧制中学校を舞台にしていますが、そこの生徒は坊ちゃんにいたずらを仕掛け、からかってくる者ばかりで、最後まで坊ちゃんとバトルを繰り広げます。

愛媛県庁の役人は、「まじめ」の意味を考え直し、キャンペーンの方向性を転換するべきでしょう。