村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

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ウクライナ戦争が始まって2月24日で丸2年になりましたが、着地点がまったく見えません。
そもそも現在の戦況すらよくわからないので、問題を整理してみました。

ロシア軍は2月17日、激戦地のドネツク州アウディイフカを完全制圧したと発表し、ゼレンスキー大統領も戦略的判断による撤退を認めました。
また、各地でロシア軍は前進しているということです。
どう考えてもロシア軍有利の戦況になっていますが、報道は「ウクライナ軍有利」を思わせるようなものがほとんどです。

「ウクライナ空軍はここ数日でロシアのSu-34戦闘爆撃機など7機を撃墜した」
「早期警戒管制機A50を先月と今月と立て続けに2機撃墜した」
「ウクライナ軍はロシア軍のミサイル艇を撃沈、大型揚陸艦を撃沈、黒海艦隊の3分の1を無力化した」
「ウクライナ軍は2月15日、ロシア軍の最新鋭戦車T-90Mを4両破壊した」
「ウクライナ軍はアウディイフカから撤退を強いられたにもかかわらず消耗戦では勝ちつつある」

これらのニュースを見ていると、「ロシア軍が前進している」というニュースがかき消されてしまいます。
ウクライナ国内で国民と兵士の士気を高めるためにこうした“大本営発表”が行われるのはわかりますが、日本で行われるのは不可解です。誰がメディアを操作しているのでしょうか。


こうしたことは開戦当初から行われていました。
開戦直後、アメリカを中心とした国はロシアにきびしい経済制裁をしました。

・石油ガスなどの輸入禁止
・高度技術製品などの輸出禁止
・自動車メーカーやマクドナルドなど外国企業の撤退
・国際的決済ネットワークシステムであるSWIFTからの排除

これらの制裁によってロシア経済は大打撃を受け、財政赤字が拡大し、ハイテク兵器がつくれなくなるなどと喧伝されました。
しかし、ロシアのGDP成長率は、2022年こそ-1.2%でしたが、2023年は3.6%のプラス成長でした。兵器もかなり製造しているようです。
全然話が違います。

経済制裁は、北朝鮮やイランやキューバに対してずっと行われていますが、それによって情勢が変わったということはありません。
ロシアへの経済制裁の効果も大げさに宣伝していたのでしょう。


ロシアからドイツへ天然ガスを送る海底パイプライン「ノルドストリーム」が2022年9月に爆破されるという事件がありました。
西側はロシアの犯行だとしてロシアを非難し、ロシアは西側の犯行だと反論し、激しい応酬がありました。
1か月ほどしたころ、ニューヨーク・タイムズが米情報当局者らによる情報として、親ウクライナのグループによる犯行だということを報じました。
独紙ディ・ツァイトは、爆発物を仕掛けるのに使われた小型船はポーランドの会社が貸したヨットだとわかったとして、ヨットの所有者は2人のウクライナ人だと報じました。
さらに独誌シュピーゲルは、ウクライナ軍特殊部隊に所属していた大佐が破壊計画の調整役として中心的役割を担ったと報じ、ワシントン・ポストは米当局の機密文書に基づき、ウクライナ軍のダイバーらによる破壊計画を米政府が事前に把握していたと報じました。
流れは完全にウクライナの犯行のほうに傾きました。
ところが、このころからぱたっとノルドストリーム爆破に関する報道はなくなりました。当然、ウクライナはけしからんという声も上がりません。
ウクライナにとって不都合なことは隠されます。


しかし、戦況がウクライナ不利になっていることは隠せなくなってきました。
なぜウクライナ不利になっているかというと、主な原因は砲弾の補給がうまくいっていないことです。

東京で行われたウクライナ復興会議に出席するため来日したウクライナのシュミハリ首相はNHKとのインタビューで「ウクライナも自国での無人機の製造を100倍に拡大したほか、弾薬の生産にも取り組んでいますが、必要な量には達していません。ロシアは大きな兵器工場を持ち、イランや北朝鮮からも弾薬を調達していて、ウクライナの10倍もの砲撃を行っているのです」と語りました。
この「10倍」というのは話を盛っているかもしれません。ほかの報道では、ロシアはウクライナの5倍の砲弾を補給しているとされます。

現代の戦争では、銃撃で死ぬ兵士は少なく、ほとんどの兵士は砲撃と爆撃で死にます。
ウクライナ軍の砲弾不足は致命的です。

なぜこんなことになっているのでしょうか。
EUは昨年3月、1年以内に砲弾100万発を供給する計画を立てましたが、約半分しか達成できていないということです。
EUの各国に砲弾製造を割り当てればできるはずです。
できないのは、よほど無能かやる気がないかです。
ゼレンスキー大統領は激怒してもいいはずですが、さすがに支援される立場ではそうもいかないでしょう。
代わって西側のメディアが砲弾供給遅れの責任を追及するべきですが、そういう報道もありません。“支援疲れ”などという言葉でごまかしています。


なぜEUは砲弾の供給を計画通りにやらないのかと考えると、本気で勝つ気がないからと思わざるをえません。
これはアメリカやNATOも同じです。
ロシアは勝つために必死で砲弾やその他の兵器を増産しているので、その差が出ていると考えられます。

アメリカ、ドイツ、フランス、イギリスなどが新鋭戦車をウクライナに提供したのは、開戦からかなり時間がたってからで、しかも数量が限定的でしたから、ゲームチェンジャーにはなりませんでした。
F-16の提供も遅れたために、今はまだパイロットの訓練中です。
多連装ロケット砲のハイマースや155ミリ榴弾砲も供与されていますが、肝心の弾が不足です。
ロシア領土に届くような長距離ミサイルは供与されていません。
つまり「戦力の逐次投入」をして、しかもその戦力が不足です。
アメリカなどの支援国が本気で勝つ気なら、勝つためにはどれだけの兵器が必要かを計算して、最初から全面援助しているのではないでしょうか。

なぜアメリカなどに勝つ気がないかというと、理由は単純で、ロシアを追い詰めると核戦争になるかもしれないからです。
このところ通常兵器の戦闘が続いているので、核兵器の存在を忘れがちですが、核兵器抜きに戦争は論じられません。

プーチン大統領は開戦初期に何度も核兵器の使用の可能性に言及しました。
この発言は「核による脅し」だとして各国から批判されましたが、その発言の効果が十分にあったようです。
アメリカなどがウクライナ支援を限定的にしていることがわかってからは、プーチン大統領は核について発言することはなくなりました。

ウクライナにとっての理想は、開戦時点の位置までロシア軍を押し戻すことでしょう。
しかし、そんなことになればロシアは多数の戦死者をむだ死にさせたことになるので、プーチン大統領としては絶対認められません。
そのときは核兵器を使うかもしれません。
戦術核を一発使えば、ウクライナ軍に対抗手段はないので、総崩れになるでしょう。

そのとき、アメリカは弱腰と言われたくなければ、「もう一発核を使えばアメリカは核で報復するぞ」と言わねばなりませんが、これは最終戦争につながるチキンレースです。

このチキンレースでアメリカとロシアは対等ではありません。
ロシアはウクライナと国境を接して、NATOの圧力にさらされているので、日本でいうところの「存立危機事態」にありますが、アメリカにとってはウクライナがどうなろうと自国の安全にはなんの関係もありません。
ですから、トランプ元大統領のウクライナ支援なんかやめてしまえという主張がアメリカ国民にもかなり支持されます。

ともかく、アメリカとしては「ロシアに核兵器を使わせない」という絶対的な縛りがあるので、ロシアを敗北させるわけにいかず、したがってウクライナはどこまでいっても「勝利」には到達できないのです。
このことを前提に停戦交渉をするしかありません。
最終的に朝鮮半島のように休戦ラインをつくることになるでしょうか。


アメリカは東アジア、中東、ヨーロッパと軍隊を駐留させて、支配地域を広げてきました。
まさに「アメリカ帝国主義」です。
しかし、戦争においては、進撃するとともに補給や占領地の維持が困難になり、防御側も必死になるので、いずれ進撃の止まるときがきます。それを「攻勢限界点」といいます。
アメリカ帝国主義もヨーロッパ方面では「攻勢限界点」に達したようです。
核大国のロシアにはこれ以上手出しできません。


もっとも、アメリカ人は自国を帝国主義国だとは思っていないでしょう。
「自由と民主主義を広める使命を持った国」ぐらいに思っています。
現実と自己認識が違っているので、ウクライナ支援をするか否かということでも国論が二分してしまいます。

トランプ氏再登板に備えて、日本人もアメリカは帝国主義か否かという問題に向き合わなければなりません。

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アメリカ国旗である星条旗は、建国のときは星の数が13個しかありませんでした。
州の数がふえるたびに星の数も増え、現在はハワイ州が加わったときの50個となっています。
これまでに26回デザインが変更されたそうです。

デザインの変更が前提とされている国旗はほかにないでしょう。
まるで撃墜王が敵機を撃墜するたびに機体にマークを書き込んでいくみたいです。

こうしたアメリカの膨張主義は、北米大陸に関してはフロンティア・スピリット、開拓者魂などと言われていました。
北米大陸から外に出るようになるとアメリカ帝国主義と言われました。

帝国主義というと、レーニンの『帝国主義論』に書かれているように、国家独占資本主義が経済的利益を求めて植民地獲得をしていくというイメージです。
イギリス帝国主義は確かにそのようなものでした。ですから、イギリスは第二次大戦後、植民地獲得が不可能になると帝国主義国でなくなりました。
ところが、アメリカは戦後も朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争など数々の戦争をしてきたので、帝国主義国と呼ばれ続けています。ただ、その目的は植民地獲得のためとは思えません。
そこで、軍産複合体の利益のためだなどといわれました。

さらには、宗教的な説明も行われました。アメリカは選ばれた「神の国」なので、世界を導こうとしているのだというわけです。

私はそれに加えて道徳的な説明もできると思ってきました。
つまりアメリカは「正義の国」なので、「悪の国」をやっつける“使命”を持っているというわけです。
ハリウッド映画の主流は、正義のヒーローが悪人をやっつける物語です。
アメリカ人はあれほど正義のヒーローが好きなのですから、アメリカという国が正義のヒーローとしてふるまうのは当然です。

ただ、アメリカだけが特別に正義のヒーローが好きな国になった理由が説明できませんでした。
そうしたところ、図書館でC・チェスタトン著『アメリカ史の真実』という本を見かけました(C・チェスタトンは「ブラウン神父」シリーズで有名な作家のG・K・チェスタトンの弟)。



表紙に「なぜ『情容赦のない国』が生まれたのか」という惹句があり、渡部昇一の「監修者まえがき」に「アメリカには中世がないため騎士道精神がない」という意味のことが書かれていて、興味をひかれて読んでみました。


西欧には古代ギリシャ・ローマの社会を理想とし、中世キリスト教文化を抑圧的なものと見なす考え方があって、「ギリシャ・ローマの昔に返れ」という文化運動が繰り返し行われてきました。14世紀にイタリアに始まったルネサンスはその代表的なものです。

「コロンブスの航海のような冒険は(中略)、ルネサンス精神に充ち溢れていたのである。そしてこのルネサンスこそ、アメリカ文明の起源なのだ」とチェスタトンは書いています。
「そこで再び姿を現したのが、野蛮人には人間の魂が宿らないとする、あの露骨なまでの異教的反感だった」
「ルネサンスによってヨーロッパ人に開放されたこれらの新領地では、ただちにあの制度が再び出現したのだ。(中略)つまり『奴隷制』である」

チェスタトンは書いていませんが、アメリカ人が先住民を殺戮したのも「野蛮人には人間の魂が宿らない」とする考え方のゆえでしょう。

アメリカの公共建築物の様式も古代ギリシャ・ローマ風のものになり、国章が鷲の図柄であるのもローマ帝国と同じです。
つまりアメリカは復活した古代ローマ帝国みたいなものです。

古代ギリシャ・ローマを理想とする考え方はヨーロッパの国々にもありました。しかし、ヨーロッパの国には長い「中世」の歴史があり、そこからなかなか自由になれません。
しかし、アメリカには「中世」がありません。そこがアメリカとヨーロッパの最大の違いです。

『アメリカ史の真実』にはもっといろいろなことが書かれていますが、ここではアメリカ帝国主義の起源を知るのが目的なので、省略します。

渡部昇一は、ヨーロッパには騎士道、日本には武士道があるが、アメリカにはないということに着目し、日露戦争で旅順陥落のあと、乃木大将はステッセル将軍に武士道精神で敬意を持って接したが、マッカーサーは本間雅晴大将や山下奉文大将を処刑したと書いています。これが「情容赦のない国」という表現のもとになったのでしょう。渡部昇一はほんとうは東京裁判の不当性を主張したかったに違いありません。

ヨーロッパの騎士や日本の武士は、限られた土地の中で勝ったり負けたりを繰り返していたので、「勝敗は兵家の常」とか「勝負は時の運」という考え方になります。自分もいつ敗者になるかわからないので、敗者にひどい仕打ちはしません。ハーグ陸戦条約とかジュネーブ条約もその精神から生まれたものでしょう。
しかし、ローマ帝国は野蛮人と戦い、戦うたびに領土を拡大していきました。ですから、敗者への配慮などはありません。
東京裁判とニュルンベルク裁判で敗者を裁いたのも、アメリカ帝国主義の発想です。
アメリカは日本やヨーロッパと原理が違うのですから、「日本は東京裁判で不当に裁かれた」などと泣き言をいってもアメリカにはまったく通用しません。

アメリカとしては敗者などどう扱ってもいいのですが、表向きは道徳的な理由づけをして、ナチズムや日本軍国主義は悪で、アメリカは正義ということで裁きました。
アメリカはその後も、共産主義、イスラム原理主義、テロリスト、テロ支援国家、独裁国家などを悪と見なしてきました。
もはや騎士道も武士道もなく、正義と悪の戦いがあるだけです。


現在、アメリカの軍事費は中国の2.7倍、ロシアの12倍あって、世界中に米軍基地を設けています。
スウェーデンとフィンランドがNATOへの加盟申請をして、今のところトルコが反対していますが、いずれ加盟するでしょう。
スウェーデンとフィンランドが加盟したがるのはわかりますが、NATOが加盟を認めるのはなんのためでしょうか。

東方においては、アメリカは日米豪印のクワッドなる枠組みをつくって、中国を封じ込めようとしています。
クワッドには「抑止力を高める」などという理由づけがされていますが、抑止力が必要なのはアメリカの脅威にさらされている中国や北朝鮮のほうです。


アメリカ帝国主義は、レーニンのいう帝国主義ではなくて、古代ローマ帝国と同じ帝国主義です。
しかし、古代ローマでは地球が丸いという知識はなく、どこまでも領土を拡大していけると考えていたはずです。
アメリカ帝国主義はどこまで勢力を拡大するつもりでしょうか。

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