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今にして思えば、「ガースー」発言が転換点でした。

菅義偉首相は12月11日、ニコニコ生放送に出演し、冒頭で「みなさんこんにちは。ガースーです」とあいさつして大スベリし、「こんなたいへんなときにふざけるな」などの批判が殺到しました。

「ガースー」発言については、誰か側近が「ニコ生では『ガースー』と言うと受けますよ」などと助言し、菅首相はそれを真に受けたのだろうと思われています。
しかし、もし誰かが菅首相に助言していたとしたら、菅首相は恥をかかされたと激怒して、その人は地獄の底へ左遷されてしまうに違いありません。菅首相は自分に反対した人間をすぐに左遷するそうですから。
そんなリスクの大きい助言をする人がいるでしょうか。

菅首相は改元のときに官房長官として「令和」の額を掲げると、「令和おじさん」として急に人気になりました。菅氏が首相になれたのはその人気のおかげと言っても過言ではありません。
それから、パンケーキが好きだと言うと、「パンケーキおじさん」と呼ばれて、また人気が出ました。
本人はこれで人気者になろうと意図したわけではありません。
なにも考えずにバットを振ったら、まぐれでボールが当たってヒットになったようなものです。
ともかく、これが菅首相の成功体験になりました。

今回「ガースー」と言ったのも、内閣支持率が急落する中、人気を挽回しようと思ってとりあえずバットを振ってみたということでしょう。
もちろんまぐれ当たりは何度もありません。


菅首相は自分の判断でやって大スベリしたので、精神的ダメージを受け、自分の判断力に疑問を持ったのかもしれません。
そうして決定されたのがGoToトラベル一時停止です。

この決定には誰もが「ブレた」という印象を持ったでしょう。
菅首相は「一度決めたことは人になんと言われても曲げない」というイメージをつくりあげてきました。とくにGoToトラベルは菅首相の肝煎り政策なので、いくら批判されても除外地域を追加する程度の手直しでお茶を濁すだろうと見られていました。

「一度決めたことは人になんと言われても曲げない」というイメージが確立すると、周りの人間はすぐに反対するのを諦めるので、自分の言い分がなんでも通るようになります。
菅首相は体も小さく、声にも力がなく、原稿を棒読みするだけで、権力者らしいところがまるでありませんが、「ブレない」というイメージがあることでリーダーシップを発揮してきました。

しかし、GoToトラベル一時停止で「ブレない」というイメージが崩れてしまいました。
政治は戦いですから、弱みを見せると、相手はかさにかかって攻めてきます。

そこで批判されたのが、菅首相が多人数で会食していた問題です。
最初にやり玉にあがったのは、GoToトラベル一時停止を発表した14日、王貞治氏、みのもんた氏、杉良太郎氏、二階俊博幹事長ら8人程度で忘年会をしたことです。
ノーマスクだったこと、店にアクリル板はなかったことなどが次々と報じられ、批判が高まりました。

すると菅首相は16日、記者の前で「反省」を表明しました。
これも意外な感じでした。
これまでなら「情報収集と人脈づくりのために会食は総理として重要な仕事ですので、感染防止に極力配慮して行ってきましたが、今後は控えたいと思います」程度の談話ですませていたでしょう。

しかも、「反省」表明のとき原稿を読まなかったのも、これまでのやり方と違います。
それが裏目に出て、「国民の誤解を招くという意味においては真摯に反省しております」と言い、「どこが国民の誤解だ」というさらなる批判を招いてしまいました。

その後、人数を4人以下にしたものの、1日に2件会食をしたので、「ハシゴ会食はいいのか」という批判も浴びました。
一度弱みを見せると、次々と攻め込まれるというパターンです。

菅首相の「反省」表明は側近も想定していなかったようです。
西村経済再生担当相は16日午前の衆院内閣委で野党議員から「5人以上の会食はいいのか悪いのか」と追及されると、「一律に5人以上はダメだということを申し上げているわけではございません」「もしどうしてもされる場合には、アクリル板のある店を選んでくださいとか、換気に注意してくださいとか、こういったことも併せて申し上げております」と首相を擁護しました。ところが、その日の午後に首相が「反省」表明をしたわけです。


急に会食への批判が巻き起こったのは、菅首相がブレたからです。
菅首相がGoToイートの適用を「原則4人以下」での飲食に制限するよう要請したのは11月16日のことです。
そのときにマスク着用の会食を呼びかけ、「私も今日から徹底したい」と言いました。
しかし、それからも菅首相は毎日会食を続けました。5人以上の会食もあったことは新聞の「首相動静」を見ればわかります。そのときマスク会食をしていたか否かも少し取材すればわかることです。
しかし、「5人以上でノーマスク会食をしている」と批判されたことはありません。
ところが、「ブレた」と思われたとたん、批判が起こったのです。
政治は力関係で動いていることがよくわかります。


そして、力関係が変わったことで見えてきたこともあります。
自民、夜会合を続々中止 大人数会食批判を考慮か
 菅義偉首相による5人以上の会食に批判が出ていることを受け、自民党では16日、大人数での会食の中止が続々と決まった。

 二階、岸田両派は17日にそれぞれ予定していた忘年会を中止した。

 二階派は17日夜、東京都内の日本料理店で所属議員48人らに呼び掛け、忘年会を計画していた。しかし、同派の山口壮事務総長が16日、所属議員に文書で「新型コロナウイルスの感染状況」を理由に中止を伝えた。

 二階俊博幹事長と佐藤勉総務会長ら総務会メンバーによる18日夜の会食も取りやめとなった。佐藤氏は16日の記者会見で「批判があったことも踏まえ、われわれも襟を正さなければいけない」と述べた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/b10f02be569549fbce8032c01fd7c2f38e8e2b16

自民党は、国民には会食は4人以下と要請していながら、自分たちは平気で大規模な宴会を計画していたのです。
おそらくGoTo停止がなければ、マスコミはこうしたことも報じなかったでしょう。

自民党のおごりがうかがえますが、同時に自民党の「コロナ軽視」もうかがえます。
政府のコロナ対策はつねに後手後手ですが、その理由はこのへんにありそうです。


菅首相がブレたために、菅応援団も困ったでしょう。
菅応援団は、経済を回すのにGoToは必要だと主張して、野党やマスコミを批判してきたので、完全にハシゴを外されました。
安倍首相の応援団は、安倍首相が森友学園問題で数々の不正行為を働いても、教育勅語を唱和する軍国主義教育の学校をつくるというイデオロギーを共有しているので、安倍首相を応援し続けました。
しかし、菅首相にそういうイデオロギーはないので、菅応援団は一度ハシゴを外されると、応援する気を失うのではないでしょうか。


政治の世界では「ブレた」と見なされると、急に風向きが変わります。
菅首相はここから体勢を立て直せるでしょうか。