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子どもがよく嘘をつく。どうしつけたらよいか――というのは、子育てでよくある悩みです。
ネットで調べてみると、簡単にいくつも見つかります。
【相談内容】子供の嘘がどんどんエスカレート
『最近、小学3年生の息子がすぐに嘘をつきます。昔に比べて嘘の内容がどんどん巧妙になってきており、性格に問題があるのではないかと心配です。宿題をやったか、ゲーム時間や門限を守ったのか聞いても嘘ばかり。それを叱ると屁理屈ばかり言ってプチ逆切れの状態になり、ほとほと困ってしまいます。

ワーキングマザーのため、放課後は子供と一緒にいてあげることが出来ません。それが悪影響なのでしょうか? また、嘘をついた場合、厳しく叱ったり罰したりしたほうがいいのでしょうか?』
(相談者:神奈川県 40代 NANA)
https://allabout.co.jp/gm/gc/462867/
嘘をつく子供へのしつけ
2018/04/12 13:58
4年生の娘がいます。
嘘、隠し事が多すぎて困っています。
これまでも優しく諭してみたり、がっかりしたことを伝えてみたり、キツくしかってみたり、罰を与えてみたりといろいろ試しましたが、その場は反省したように見えても、結局治っていません。癖になってしまっているようです。
嘘の内容は家のルールを破ったことを隠す程度で、誰かを傷つけるようなものではないと思ってますが…
真顔で嘘をつき、隠し事にも後ろめたさがないような感じで、とても心配です。
バレなければルールは破ってもいいと認識してしまっているようにも見えます。
こう育てたのは親の責任でもあると重々承知なのですが…一度根本的なところを諭したい、ルールを破るより嘘をつく方がいけない事だと理解させたいです。口では何度か伝えましたが変わらず…いいアイデアはないでしょうか?また、みなさんはどうしますか?
https://okwave.jp/qa/q9487766.html


「嘘をついてはいけない」というのは、もっとも基本的な道徳だと思われているかもしれません。
しかし、それは間違いです。

ちなみに「嘘をついてはいけない」という法律はありません。
偽証罪があるではないかと思われるかもしれませんが、偽証罪というのは法廷や国会の証人喚問において宣誓した証人が嘘をついた場合にのみ適用されるものです。
詐欺罪はありますが、これは相手をだまして財物や財産上の利益を得た場合に適用され、単に相手をだましただけでは罪になりません。

逆に法律では「ほんとうのことでも言わなくていい」という規定があります。
日本国憲法第三十八条には「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」とありますし、刑事訴訟法第311条1項には「被告人は、終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる」とあります。
つまり黙秘権です。

しかし、黙秘権が認められない状況もあります。
たとえば、フランスのレジスタンスがナチスのゲシュタポに捕まって、「仲間の居場所を知っているだろう。白状しろ」と迫られ、黙秘すると拷問されるとします。
そんな場合、「知らない」と言ったり、虚偽の居場所を教えたりするのは嘘ですが、道徳的に許される嘘です。


日常生活では、「黙秘します」と言うと、それが答えになることがあります。

妻「浮気したでしょう」
夫「黙秘します」

芸能記者「彼氏はいますか」
アイドル「黙秘します」

こんな場合は、黙秘する代わりに「浮気はしていない」「彼氏はいません」と嘘をつくしかありません。
つまり日常生活では、自己に不利な供述を拒むためには、黙秘権だけではなく、嘘をつく権利も必要なのです。

基本的人権として、黙秘権がある以上、嘘をつく権利もあるということを理解しなければいけません。



子どもが嘘をつくことで悩んでいる親は、子どもには嘘をつく権利があると思えば、そんなに悩まなくなるでしょう。
そして、自分がゲシュタポ化しているのではないかという反省も生まれるはずです。

悩み相談には子どもがどんな状況で嘘をつくのかは具体的に書いてありませんが、容易に想像はつきます。

「宿題やった?」
「やってない」
「だめじゃない! 何回言ったらわかるの。ゲームばっかりやってないで、早くやりなさい」

子どもがほんとうのことを言うと叱られるということが繰り返されると、子どもは嘘をついて、叱られることを回避しようとします。
嘘はいずれバレるとしても、とりあえず叱られる苦痛から逃げることができます。
嘘をついてはいけないと叱っても同じです。子どもはより巧妙な嘘をつこうとして、逆効果になります。

子どもが嘘をつくというとき、親は自分が取調官のようになっているのではないか、叱りすぎる親になっているのではないかと反省する必要があります。


アメリカ初代大統領のジョージ・ワシントンが子どものころ、父親がたいせつにしていた桜の木を誤って切ってしまい、父親に「この木を切ったのは誰か」と聞かれたとき、正直に「僕が切りました」と答えたところ、父親は叱らずにその正直さをほめたという話があります(これは史実ではないとされています)。
この話は、子どもに正直のたいせつさを教える話としてもっぱら利用されています。正直になると将来ワシントンのような偉大な人物になるかもしれないということです。
しかし、この話はむしろ親に対して、正直な子どもに育てるにはどうすればいいかを教える話として利用するのが正しい利用法です。
世の親がみんなジョージ・ワシントンの父親のようになれば、嘘をつく子どもはほとんどいなくなります。




嘘には大別して、利他的な嘘と利己的な嘘があります。

利他的な嘘というのは、相手を傷つけないための嘘です。
たとえば、昔は医者が患者にガンを発見したとき、とりあえず嘘をつくのが一般的でした。
「いくつに見えますか」と聞かれたとき、思った年齢より若く言うとか、最近趣味で始めたという油絵を見せられたとき、「下手ですね」と言わないようにするとか、相手を傷つけないための嘘は日常的に存在して、これらは肯定される嘘です。
ですから、「嘘をついてはいけない」というのは根本的に間違っています。

ただ、利他的な嘘というのは少なくて、ほとんどの嘘は利己的な嘘です。
利己的な嘘というのは、相手をだまして利益を得るための嘘です。
悪質なものは詐欺ということになりますが、ハッタリの嘘、虚栄の嘘、自慢の嘘など、利己的な嘘はあらゆる場面にあります。
よいことと悪いことがあるとき、よいことだけを言うというのも、広い意味での嘘かもしれません。
就活や婚活のとき、誰でも嘘を駆使して自分をよく見せようとします。

人間の生活は嘘まみれです。
そのことを理解すれば、子どもに対して「嘘をついてはいけない」などと言わなくなり、寛容な親になれるはずです。