村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

タグ:セクハラ


domestic-violence-7669890_1280

ジャニー喜多川氏の性加害問題に関する「外部専門家による再発防止特別チーム」が8月29日、調査報告書を公表し、ジャニー氏の性加害について「長期間にわたって広範に未成年者に対して性加害を繰り返していた事実が認められた」としてかなり具体的に記述し、さらに藤島ジュリー社長の辞任を求めました。
この「特別チーム」はジャニーズ事務所が設置したものなので、ジャニーズ事務所に対して甘い内容の報告書になるのではないかと見られていましたが、意外なきびしさでした。

ジャニー氏の性加害問題は、1999年に「週刊文春」が本格的に追及し、ジャニーズ事務所が「週刊文春」を名誉棄損で訴えますが、「その重要な部分について真実」とする判決が2004年に確定しました。
ところが、新聞もテレビ局もこの問題をほとんど報じず、ジャニーズファンや国民も関心を示さないので、まるで問題がないようなことになっていました。
ジャニーズ事務所の力が圧倒的に強いのでテレビ局は批判などできず、ファンもアイドルのイメージを傷つけたくなかったのでしょう。

ところが今回、イギリスのBBCの報道をきっかけに少しずつ日本のメディアも報道するようになり、さらに国連人権理事会の調査チームが来日して国際問題化し、世論も関心を高めていました。
そうした流れがあったので、「特別チーム」の報告書もきびしいものになったのでしょう。

こうした流れを形成するのに力があったのは、ジャニー氏による性加害の被害者が次々と顔出しして被害を訴えたことです。
こうなるとニュース番組も報道しないではいられません。
ジャニーズ事務所としては「性加害はなかった」あるいは「性加害のことはわからない」としたいところでしたが、被害者が出てきたのではそうもいきません。


セクハラ被害者が顔出しして被害を訴えたということでは、自衛隊員の五ノ井里奈さんがそうでした。
五ノ井さんは訓練中に男性隊員からセクハラ被害にあったことを自衛隊に訴えますが、黙殺されたので、やむなく顔と実名を出してマスコミに訴えました。たった一人で自衛隊を相手に戦ったのですが、昨年12月に加害者の隊員5人が懲戒免職になるなどの処分が発表され、戦った成果がありました。

こうしたことの元祖は、ジャーナリストの山口敬之氏にレイプされたと訴えた伊藤詩織さんです。
伊藤さんは就活中の学生時代に山口氏にレイプされましたが、山口氏は安倍首相のお友だちであったため警察が逮捕状を執行せず、顔出しして被害を訴えました。警察と検察を動かすことはできませんでしたが、民事訴訟では最高裁まで行ってほぼ完勝に近い結果でした。


今の時代、「被害者の感情」というものがひじょうに重視されます。

もともと悪を罰するのは「正義」の論理によっていました。
ところが、今は「正義」の価値がはなはだしく下落しています。なにかを主張するとき「正義」を名目にすると、絶対反論されるはずです。
法務省が死刑制度を正当化するときも、アンケートで死刑賛成が多数であるという「国民感情」を理由にします。
なにか凶悪な殺人事件が起こったときも、決まって被害者遺族がテレビのインタビューで「死刑を望みます」と語る場面が流されます。
テレビのコメンテーターなども、事件や迷惑行為や不倫などについてなにか主張するときは最終的に「被害者の感情」に結びつけます。

今や「被害者(遺族)の感情」が「正義」に代わって社会を動かす原理になっています。

「被害者の感情」を世の中に訴える場合、被害者の顔が見えるのと見えないのとでは大違いです。
それに、被害者本人がいると、間違った主張にすぐに反論できます。

韓国の人気女性DJであるDJ SODAさんが8月13日、大阪の音楽フェスティバルで複数の人間から胸を触られるという痴漢被害にあい、X(旧ツイッター)で公表しました。
その中に「公演中にこんなことをされたことは人生で初めてです」とあり、これは日本人批判だということで反発が強まりました。
そして、海外の公演で体に触られている動画とともに「海外でも痴漢にあっている。DJ SODAは嘘つきだ」という主張が拡散しました。しかし、これにはDJ SODAさんがすぐに「その触っている人物は私のボディガードです」と反論して、収まりました。
また、「露出の多い服装をしているから痴漢にあうのだ」という批判も山ほど発生しましたが、DJ SODAさんは「服装と性犯罪の被害は絶対に関係がない」「原因はセクシーな服装ではなく、加害者」と反論しました。


伊藤詩織さん、五ノ井里奈さん、ジャニー氏の性加害の被害者たちが勇気ある告発をしたことで、世の中の空気も変わってきましたが、これらの人たちは猛烈な誹謗中傷にさらされました。
伊藤さんは日本にいられずイギリスに移住しましたし、五ノ井さんはあまりの誹謗中傷に昨年10月、ツイッターに「人を中傷する人生なんて何が楽しいのか分からない。誰かの悪い所10個探すより人の良いところを10個探した方が楽しい。早く笑って過ごしたい。もう耐えるのも疲れてきた」と心情を吐露したことがあります。
ジャニー氏の性加害の被害者たちも「売名行為だ」「カネ目的だ」と批判され、「『死ね』っていうメールが毎日来た」(橋田康氏)というぐあいです。


顔を出してセクハラなどを告発する人間がなぜこれほどに誹謗中傷にさらされるのでしょうか。
それはセクハラなどの被害者が顔を出して告発することがきわめて効果的だからです。
しかも、これまでの告発は性的な問題にとどまらず、安倍政権、自衛隊、大手芸能事務所という権力構造を標的にするものでした(実は権力構造がセクハラの温床だったわけです)。
ですから、保守的な人たちは「小娘や若僧が権力の根幹を揺るがしている」といういら立ち覚えて、誹謗中傷を浴びせているのでしょう。

今後も勇気ある告発をした被害者は、こうした誹謗中傷にさらされるでしょうが、セクハラ、性加害、レイプが悪いという認識の広がりを止められるはずがありません。

日本赤十字社が献血を呼びかけるポスターに巨乳のアニメキャラを使ったために、「セクハラだ」という批判が巻き起こっています。
 問題となっているのは、漫画『宇崎ちゃんは遊びたい!』と日本赤十字社がコラボしたポスタービジュアル。巨乳キャラのヒロイン・宇崎花が「センパイ! まだ献血未経験なんスか? ひょっとして……注射が怖いんスか~?」というセリフで献血を呼び掛けるもの。コラボ期間中、一都六県の献血ルームで献血協力者に特製クリアファイルをプレゼントすると告知しており、漫画家のオカヤド氏もこのクリアファイルを手に入れたことを報告している。

 しかし、これに対し外国人ツイッターユーザーが「赤十字にがっかりした。過度に性的な宇崎ちゃんを使ってキャンペーンをしている」と困惑した様子でツイートすると、弁護士の太田啓子氏がこれを取り上げ、「本当に無神経だと思います」と糾弾。「なんであえてこういうイラストなのか、もう麻痺してるんでしょうけど公共空間で環境型セクハラしてるようなものですよ」とピシャリ。その後、「とりあえず、日本赤十字社のお問い合わせ に意見を送りました、、、」と問い合わせもしたことを明かした。
https://news.nifty.com/article/entame/showbizd/12184-51397/
私はこれを読んだとき、どうせたいしたことでもないのに騒いでいるのだろうと思いましたが、問題のアニメキャラを見ると考えが変わりました。

日本赤十字の巨乳
プレゼントとしてもらえるクリアファイルのデザイン(日本赤十字社側のウェブサイトより)


巨乳といっても、これは極端です。この絵の発想には「女性の体をおもちゃにする」というものがあると思います。

それと、私が気になったのは、このキャラは、大口を開けていることや目つきからして、おバカではないかということです。
調べてみると、ウィキペディアの「宇崎ちゃんは遊びたい!」の項目では、このようにキャラクター紹介がされています。

宇崎 花(うざき はな)
声 - 大空直美
ヒロイン。年齢19歳→20歳(2巻22話)。大学2年生。桜井を「先輩」と呼ぶ。常にテンションが高く桜井とは正反対の性質。ショートカット、巨乳、八重歯、~ッス口調、アホの子というキャラクター性を持つ。ただし他の女友達と過ごす時や独白では標準語で話す。実は回が進むに連れ、胸のサイズが大きくなっている。
身長150センチ、小柄の割にかなりの巨乳でウエストも細いためバストサイズは96センチのJカップ。亜実からは「兵器」と例えられる。胸を強調するシーンが多く、マッサージチェアに座った時は喘ぎ声(のような声)を上げるほど敏感。
やはり「アホの子というキャラクター」でした。

アホの子から献血を呼びかけられて、献血する気になるでしょうか。
どんなCMでも、好感度の高い人物やキャラクターを起用するものです。
献血の呼びかけであれば、尊敬できる人物であることも必要でしょう。
それに、献血の呼びかけは男だけが対象ではありません。
アホの女の子を起用した日本赤十字社の見識が疑われます。


ですから、このキャラを使ったキャンペーンが批判されたのは当然ですが、「肌を露出していないから問題ない」とか「若い男に呼びかけるにはいい」とか「巨乳差別だ」とか「フェミのセクハラ狩りがウザい」といった反論もあります。
とりわけ、「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」が一時展示中止になるということがあったので、「表現の自由の侵害だ」という声が多数ありました。

しかし、このキャラが登場する「宇崎ちゃんは遊びたい!」というマンガは電子版が公開され、誰でも読めますし、作者は自由に創作活動をしていますから、表現の自由は侵害されていません。
日本赤十字社がそのキャラを使ってキャンペーンをしたことが批判されているのです(表現の自由は個人に属するもので、団体に表現の自由はありません)。
キャンペーンだと誰の目にも触れますし、人を不快にするキャンペーンが批判されるのは当然ですし、公的な団体がそれをやっているとなればなおさらです。

なお、このキャラは、ウザくてかわいい「ウザカワ」系というのだそうです。
主人公の男は人間関係に積極的になれないオタクで、そこに巨乳の女の子がウザいくらいに積極的にからんできます。オタクにはうれしい設定です。
「巨乳でおバカ」というキャラも、男にとって遊び相手やセックスの相手として好都合な設定です。真剣な恋愛相手にはなりません。

もちろんそういう物語を好む男がいて、そうした男のために物語が供給されることは、自由になされるべきです。
昔はエロ劇画ブームというのがあって、三流エロ劇画雑誌には過激なレイプシーンなどがいっぱい載っていました。


日本赤十字社は「今回のキャンペーンはあくまでも献血にご協力いただける方へのノベルティとし実施したもので、セクシャルハラスメントという認識は持っておりません」と回答しており、今のところキャンペーンを中止するつもりはないようです。
しかし、かつての三流エロ劇画誌と同じような狭い世界に存在しているものを、キャンペーンで広い世界に引き出したのは間違いです。
身勝手な男の願望に合わせてつくられた「巨乳でおバカ」キャラは、目にした女性を不快にさせます。

そのことが理解できない男性は、「巨根でおバカ」キャラを考えればいいのです。
ズボンの上からもそれとわかるすごい巨根の持ち主で、おバカな表情をした若い男が、巨根を誇示しながら女性に献血の呼びかけをしている図を脳裏に思い描いたらわかるはずです。

このページのトップヘ