村田基の逆転日記

進化倫理学の威力を試すブログ

タグ:ソレイマニ司令官

man-and-horses-2389833_1280


米軍によるソレイマニ司令官殺害は、どう見ても無法行為です。
アメリカはソレイマニ司令官をテロリストに指定していましたが、勝手に指定して、勝手に殺しただけです。
イラン国会はこの事件を受けて、すべての米軍をテロリストに指定する法案を可決しました。
無法の世界がどんどん拡大しています。

無法の世界といえば、西部劇がそうです。
私の世代は西部劇を見て育ったようなものです。子どものころ、映画はもちろんテレビでもアメリカ製の西部劇のドラマをいっぱいやっていました。

西部劇では、保安官は登場しても重要な役割は果たさず、主人公は自分の力で悪漢(あるいはインディアン)を倒さなければなりません。
法より力――というのが西部劇の基本原理です。

現在のアメリカは法の支配が行われていますが、銃を所持する権利も絶対視されています。法の支配は表面的なもので、一皮めくれば「法より力」の原理が現れます。

トランプ政権は2017年12月、安全保障政策のもっとも基本となる「国家安全保障戦略」を発表しましたが、その「四本柱」は次のようなものです。

I. 国土と国民、米国の生活様式を守る 
II. 米国の繁栄を促進する 
III. 力による平和を維持する 
IV. 米国の影響力を向上する
https://jp.usembassy.gov/ja/national-security-strategy-factsheet-ja/

「法の支配」も「世界」もありません。「アメリカ・ファースト」があるだけです。
「力による平和」は、銃で自分の身を守るという西部劇の原理です。

今のアメリカは法の支配が行き渡り、腰に銃をぶら下げていなくても警察が守ってくれますが、アメリカ人にとってフロンティアは世界に拡大し、アメリカ国外が西部劇の世界になりました。
世界に法の支配を広げるのではなく無法状態を広げるのがアメリカのやり方です。無法の世界では力のある者が得をするからです。

よくアメリカのことを「世界の警察官」にたとえますが、警察官なら法に従います。
今のアメリカをたとえるなら「自警団のボス」か「ギャングのボス」というべきです。

しかし、長い目で見れば今の無法の国際社会は過渡期で、いずれ法の支配が行き渡るに違いありません。

今の日本は「自警団のボス」に従っていますが、いつまでもこの状況は続きませんから、自分の手を汚さないようにしないといけません。


アメリカはソレイマニ司令官を殺害し、イランは米軍基地に弾道ミサイルで報復攻撃をしましたが、今のところアメリカもイランも抑制された対応をしているようです。
これはなぜかというと、「法の支配」はなくても「経済の支配」があるからです。
ソレイマニ司令官殺害の瞬間に株価は下がり、原油価格は上がりました。本格的な戦争になれば双方に大きな経済的損失が生じるのは目に見えています。

平和は「法の支配」でなく「経済の支配」でも達成できるのかもしれません。

jordy-meow-Osd4ngHD4kM-unsplash
Photo by Jordy Meow on Unsplash

トランプ大統領の指令によりアメリカ軍はイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を空爆で殺害しました。
これはなんと言えばいいのでしょうか。暗殺でしょうか。それとも殺人でしょうか。

アメリカ国務省高官は「1942年にヤマモトを撃墜したようなものだ」と語りました(正しくは1943年)。
ウォール・ストリート・ジャーナルも「トランプの合法的な権限」という題名の社説で、山本五十六連合艦隊司令長官の搭乗機撃墜になぞらえて、ソレイマニ司令官殺害の正当性を主張しました。
アメリカのシンクタンク、ブルッキングス研究所のシニアフェロー、 マイケル・オハンロン氏も「ソレイマニ司令官殺害は、民間人指導者への攻撃より、山本五十六元帥の搭乗機撃墜により類似している」と述べました。
ソレイマニ司令官殺害を山本長官機撃墜になぞらえる発言が続々です。

しかし、当時の日米は戦争をしていましたが、今のアメリカとイランは戦争をしているわけではないので、状況がまったく違います。
ソレイマニ司令官が殺害されたのはイラクのバクダッド国際空港の近くで、車に同乗していたイラクのイスラム教シーア派武装組織の司令官らも死亡したとされます。
空港の近くですから、イラクに潜入して軍事作戦の指揮をとっていたわけではなく、イラク政府と交渉するなどの途中だったのでしょう。
イラク国内では、アメリカ軍によるソレイマニ司令官殺害はイラクの主権の侵害だという声が上がっています。

ソレイマニ司令官殺害を山本五十六長官殺害になぞらえるのは不適切ですが、ソレイマニ司令官は国民的人気があって、それは山本長官に似ています。
ソレイマニ司令官の葬儀には数十万の人が集まって通りを埋め尽くしました。
スクリーンショット (11)

アメリカとイランの間に報復の連鎖が起こるかもしれません。

アメリカ政府関係者もまずいことをやったと思っているのでしょう。
そのためソレイマニ司令官殺害を正当化しようとして、いろいろ語っています。
アメリカ政府は2007年にソレイマニ司令官をテロリストと認定して経済金融制裁の対象にしてきましたが、今回アメリカ米国務省は「ガセム・ソレイマニは、イラクで米軍人少なくとも603人を殺害し、数千人に障害を負わせた責任がある」とツイートしました。
ペンス副大統領は「ソレイマニ司令官は2001年9月11日の米同時多発攻撃の実行犯を支援していた」とツイートしましたが、これについてはアメリカのメディアに「米同時多発攻撃に関する独立調査委員会の585ページにわたる報告書にソレイマニ司令官の名前はない」と反論されています。
そして、さらに山本長官の名前を持ち出したというわけです。
そうすると山本長官はテロリストだということになります。

日本人からしたら、山本長官がテロリストだとは考えもつかないことです。
しかし、山本長官は真珠湾攻撃の発案者であって、その実行責任者でもあります。
アメリカ人の感覚では真珠湾攻撃はテロと同じということかもしれません。
そして、アメリカ人にとっては当時の日本はテロ国家なので、戦後、国家の指導者を処刑したのも当然ということなのでしょう。
しかし、真珠湾攻撃はあくまで軍事行動で、しかも軍事施設を標的としたものなので、山本長官をテロリストと見るのは、やはり間違いです。



日本政府は、ソレイマニ司令官殺害に関してなんのコメントもしていません。
政府機関は正月休みですが、政治家は対応できるはずです。
安倍首相は1月4日、ゴルフをしていましたが、ゴルフ場で記者団に中東情勢について聞かれ、「今月、諸般の情勢が許せば中東を訪問する準備を進めたいと思っている」とだけ言って、ソレイマニ司令官殺害についてはなにも語りませんでした。
ありきたりですが、アメリカとイランの双方に自制を呼びかけるぐらいはするべきです。


イラクの議会は、イラク国内でソレイマニ司令官が殺害されたことに反発して5日、外国軍の撤退を求める決議を採択しました。するとトランプ大統領はイラクに対し「これまで米軍駐留に払った数十億ドルを返還しなければ、未曾有の経済制裁をする」とツイートしたということで、わけのわからない状況になっています。

こういう状況では安倍首相はますます発言することができないでしょう(安倍首相のメンタリティではできないという意味です。もちろん発言するべきです)。

そもそもは中東に米軍が存在していることが間違いです。
よく国際政治学者は「米軍が撤退すると力の空白が生じる」と言いますが、もともとその地域には各国の軍隊が存在していたのですから、「空白」にはなりません。米軍駐留によって「二重軍事力」の状態になっていたのが正常化されるだけです。

安倍首相に限らず多くの日本人はこういう根本問題について考えるのが苦手ですし、国際政治の世界で発言するのも苦手です。
とりあえずアメリカに対して「山本長官はテロリストではない」と発言することから始めるべきでしょう。
これは日本の名誉のためだけではなく、アメリカにソレイマニ司令官殺害がただの犯罪行為であることを自覚させ、世界平和に貢献することにつながります。

このページのトップヘ