イギリスが始めたロシアの外交官追放は、報復の連鎖を呼んで、米欧側とロシアがそれぞれ150人以上の外交官を追放する見通しとなりました。これは冷戦終結後最悪の事態だということです。
外交官追放になんの意味があるのかよくわかりません。国際政治の古典芸能を見ている気分です。
そもそもの始まりは、イギリスのスパイであったロシア人のセルゲイ・スクリパリ氏がロシアで逮捕され、アメリカとのスパイ交換でアメリカに渡り、さらにイギリスに亡命したのですが、3月4日、娘さんとともに意識不明の重体となって倒れているのが発見されたことです。
重体となった原因がロシアで開発されたノヴィチョクという神経剤であったとしてイギリス政府はロシアの犯行と断定し、ロシアの外交官追放に踏み切ったわけです。
イギリスはアメリカやEUの国にも同調を呼びかけ、大ごとになりました。
ノヴィチョクが検出されたからといってロシア政府の犯行と決められるかという問題があります。ノヴィチョクは冷戦崩壊後外国に流出したともいわれますし、アメリカやイギリスはその化学組成がわかっているので、自分でつくることもできるはずです。
それに、被害にあったのはロシア人でイギリス人ではありません。
イギリス政府もスパイ活動においては暗殺もしているはずです(フィクションとはいえ007は殺しのライセンスを持っています)。
また、被害にあった2人は今でも意識不明の重体です。ですから、暗殺事件ではなく暗殺未遂事件です。
どう考えても、この事件はそんな大ごとになることではありません。
では、なぜイギリス政府はこの事件を大ごとにしているかというと、やはり冷戦構造を維持するためでしょう。
ロシアは今では資本主義国で、国際共産主義運動をしているわけではないので、放っておくと冷戦構造はなくなって、NATOの存在理由もなくなってしまいます。
そうならないようにNATO諸国はいろいろな理由をつけてロシアを敵視するように努めてきました。
平昌五輪のときは、国ぐるみのドーピングを理由にロシアに国としての参加を認めませんでした。
鳩山由紀夫元首相は、6月にロシアでサッカーのワールドカップが開催されるので、それに合わせてやったのだという説をツイッターで述べています。
私自身は、トランプ大統領とプーチン大統領の会談を阻止するためだと思っています。
トランプ大統領は3月9日に突然米朝首脳会談を行うと発表し、世界を驚かせました。
トランプ大統領は前からプーチン大統領と会談したがっていましたから、米ロ首脳会談もやりかねません。
現に20日にはトランプ大統領はプーチン大統領に大統領選勝利の祝辞を送り、その際に会談の可能性についても協議したと発表しています。
アメリカとロシアが手を組めば、冷戦構造は崩壊してしまいます。これにはアメリカの共和党も民主党も反対で、そのために大統領選へのロシアの干渉を大ごとにしてきました。
イギリスも、冷戦構造があるからこそアメリカといちばん親しい国としてヨーロッパ諸国に対して優位に立てるので、米ロ首脳会談はなんとしても阻止したいはずです。
イギリスの要請に応えてロシア外交官の追放を表明した国は25か国になったそうです。
トランプ大統領は史上最低の米大統領ですが、プーチン大統領と仲良くやれそうなのは唯一いいところです。しかし、そのよさも封じられています。
日本もイギリスから外交官追放合戦に参加するように要請されているはずですが、そんな茶番劇に乗る必要はまったくありません。