4月13日、米英仏はアサド政権の化学兵器使用を理由にシリアに対する攻撃を行いました。
トランプ大統領はホワイトハウスの演説で、「3カ国は残忍な蛮行に対する正義の力を行使した」と述べ、イギリスのメイ首相は首相官邸の記者会見で、「攻撃は、化学兵器が繰り返し使用される事態を食い止めるためで、法にも正義にもかなっていることだ」と述べました。
「正義の戦争」だというわけです。
もともと戦争は、領土、財宝、奴隷、植民地などを獲得する「利益」のために行われていましたが、二次大戦後は共産主義対反共主義という「イデオロギー」のために行われるようになり、冷戦後は「正義」のために行われるようになっています。
「正義」というのは悪と戦うことですから、相手を「悪」と規定すれば、それと戦う者は自動的に「正義」ということになります。
「テロ」や「人道への罪」などの悪がこれまで利用されてきましたが、今回は「化学兵器使用」でした。
しかし、これがひじょうにあやしくて、謀略のにおいがふんぷんです。
毒ガスの被害にあった人たちの映像がいくつも流されましたが、特派員などが入り込めない地域からの映像ですから、信用できません。
オランダのハーグに本部があるOPCW(化学兵器禁止機関)は調査チームの派遣を表明し、シリア政府も歓迎を表明していましたが、調査チームが派遣される前に英米仏は攻撃に踏み切りました。
それに、アメリカは最初塩素ガスが使われたと主張していましたが、14日になってサリンも使われたと主張するようになりました。
塩素ガスは、化学物質としてありふれたもので、致死性もそれほど高くありません。塩素ガスの使用だけで攻撃するのはバランスが取れないということで、サリンを持ち出したのではないでしょうか。
いずれにしても化学兵器使用の証拠が示されないのに攻撃が行われました。
攻撃といっても化学兵器関連施設などに限定されたもので、戦局を転換させるようなものではありません。
では、なんのための攻撃かということになります。
トランプ大統領は3月30日、オハイオ州の工場労働者を前にした演説で、「シリアから米軍を早急に撤退させる」と表明しました。
4月3日には国家安全保障会議(NSC)において米軍幹部にシリアからの米軍撤退を準備するよう指示し、単なる思いつきでないことが明らかになりました。
しかし、側近は撤退にこぞって反対し、当惑が広がっていると報道されました。
また、トランプ大統領は前からプーチン大統領に会いたがっていましたが、3月20日に周囲の反対を押し切ってプーチン大統領に再選を祝う電話をかけ、そのときの電話会談について「きわめて有意義だった。近く会談が実現するだろう」と述べました。
トランプ大統領は米朝会談も唐突に決断しましたから、プーチン大統領との会談もいつ決めてもおかしくありません。
そして4月7日の空爆で塩素ガスが使われたという報道があり、トランプ大統領は9日、シリアを「残忍で凶悪」と非難し、「48時間以内に重大な決断をする」と言いました。
そして、実際にシリア攻撃が行われ、当然シリア撤退は吹き飛んでしまいましたし、ロシアとの関係も悪化しました。
こうした流れを見れば、「アサド政権の化学兵器使用」はトランプ大統領を翻意させるための謀略だったとしか考えられません。
いや、化学兵器使用は実際にあったかもしれませんが、それを利用してトランプ大統領にシリア攻撃を決断させ、シリア撤退も米ロ首脳会談もつぶすという策略はあったでしょう。
ちなみに昨年4月にも、トランプ大統領は化学兵器使用を理由にシリアに59発のトマホークを撃ち込みました。トランプ大統領の反応は読めています。
トランプ大統領とプーチン大統領が会談してにこやかに握手したら、アメリカの戦略のもっとも根底的な部分が崩壊してしまいますから、アメリカのエスタブリッシュメントもここだけは譲れません。
いずれにしても、アメリカやイギリスが「正義」のために行動することはないので、その真の目的を考察すれば、こういう結論しかないと思われます。