村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

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4月13日、米英仏はアサド政権の化学兵器使用を理由にシリアに対する攻撃を行いました。
トランプ大統領はホワイトハウスの演説で、「3カ国は残忍な蛮行に対する正義の力を行使した」と述べ、イギリスのメイ首相は首相官邸の記者会見で、「攻撃は、化学兵器が繰り返し使用される事態を食い止めるためで、法にも正義にもかなっていることだ」と述べました。
「正義の戦争」だというわけです。
 
もともと戦争は、領土、財宝、奴隷、植民地などを獲得する「利益」のために行われていましたが、二次大戦後は共産主義対反共主義という「イデオロギー」のために行われるようになり、冷戦後は「正義」のために行われるようになっています。
 
「正義」というのは悪と戦うことですから、相手を「悪」と規定すれば、それと戦う者は自動的に「正義」ということになります。
「テロ」や「人道への罪」などの悪がこれまで利用されてきましたが、今回は「化学兵器使用」でした。
しかし、これがひじょうにあやしくて、謀略のにおいがふんぷんです。
 
毒ガスの被害にあった人たちの映像がいくつも流されましたが、特派員などが入り込めない地域からの映像ですから、信用できません。
オランダのハーグに本部があるOPCW(化学兵器禁止機関)は調査チームの派遣を表明し、シリア政府も歓迎を表明していましたが、調査チームが派遣される前に英米仏は攻撃に踏み切りました。
 
それに、アメリカは最初塩素ガスが使われたと主張していましたが、14日になってサリンも使われたと主張するようになりました。
塩素ガスは、化学物質としてありふれたもので、致死性もそれほど高くありません。塩素ガスの使用だけで攻撃するのはバランスが取れないということで、サリンを持ち出したのではないでしょうか。
いずれにしても化学兵器使用の証拠が示されないのに攻撃が行われました。
 
攻撃といっても化学兵器関連施設などに限定されたもので、戦局を転換させるようなものではありません。
では、なんのための攻撃かということになります。
 
 
トランプ大統領は3月30日、オハイオ州の工場労働者を前にした演説で、「シリアから米軍を早急に撤退させる」と表明しました。
4月3日には国家安全保障会議(NSC)において米軍幹部にシリアからの米軍撤退を準備するよう指示し、単なる思いつきでないことが明らかになりました。
しかし、側近は撤退にこぞって反対し、当惑が広がっていると報道されました。
 
また、トランプ大統領は前からプーチン大統領に会いたがっていましたが、3月20日に周囲の反対を押し切ってプーチン大統領に再選を祝う電話をかけ、そのときの電話会談について「きわめて有意義だった。近く会談が実現するだろう」と述べました。
トランプ大統領は米朝会談も唐突に決断しましたから、プーチン大統領との会談もいつ決めてもおかしくありません。
 
そして4月7日の空爆で塩素ガスが使われたという報道があり、トランプ大統領は9日、シリアを「残忍で凶悪」と非難し、「48時間以内に重大な決断をする」と言いました。
そして、実際にシリア攻撃が行われ、当然シリア撤退は吹き飛んでしまいましたし、ロシアとの関係も悪化しました。
 
こうした流れを見れば、「アサド政権の化学兵器使用」はトランプ大統領を翻意させるための謀略だったとしか考えられません。
いや、化学兵器使用は実際にあったかもしれませんが、それを利用してトランプ大統領にシリア攻撃を決断させ、シリア撤退も米ロ首脳会談もつぶすという策略はあったでしょう。
ちなみに昨年4月にも、トランプ大統領は化学兵器使用を理由にシリアに59発のトマホークを撃ち込みました。トランプ大統領の反応は読めています。
 
トランプ大統領とプーチン大統領が会談してにこやかに握手したら、アメリカの戦略のもっとも根底的な部分が崩壊してしまいますから、アメリカのエスタブリッシュメントもここだけは譲れません。
 
いずれにしても、アメリカやイギリスが「正義」のために行動することはないので、その真の目的を考察すれば、こういう結論しかないと思われます。
 

トランプ大統領はイスラム圏の7カ国からの入国禁止を指示する大統領令に署名し、禁止措置が実行されたことから混乱が起きています。
 
入国禁止対象の7カ国というのはイラク、シリア、イラン、スーダン、リビア、ソマリア、イエメンです。どうしてこの国が選ばれ、ほかの国が選ばれないのか、よくわかりません。また、こんなことでテロが防げるとも思えません。
要するにトランプ大統領が神のように裁定し、イスラム教徒が従うという構図がトランプ大統領の満足になるのでしょう。
 
トランプ大統領は日本や韓国、NATOに対して米軍駐留経費の負担増を求めると選挙中に主張してきました。「守ってやっているんだから金を出せ」という論理です。
しかし、イスラエルに対しては、アメリカは今後10年間で380億ドル(約4兆円)の軍事援助をする約束をしていますが、なにも文句は言いません。逆に「イスラエルはアメリカのもっとも信頼できる友」「われわれは100%イスラエルのために戦う。永遠に戦う」と言っています。
 
また、トランプ大統領は、イラクから米軍を引き上げアフガニスタンの米軍を削減するというオバマ大統領の方針を批判していましたから、イラクとアフガニスタンへの関与は強めるのでしょう。
 
さらに、トランプ大統領はIS殲滅作戦を30日以内に提出するよう統合作戦本部に命令しました。どういう作戦が出てくるのかわかりませんが、ますます中東に軍事的に関与することになるでしょう。
 
トランプ大統領の政策を「内向き」と評する意見がありますが、まったく的外れです。
 
トランプ大統領は、日本、韓国、NATOに米軍駐留経費の負担増を求め、プーチンのロシアとは仲良くすることで軍事力を中東に集中しようという戦略のようです。
いや、トランプ大統領にそんな戦略思考はなく、半ば無意識に十字軍的行動をとっているのでしょう。
 
かりにIS殲滅に成功したところで、アルカイダはそのままですし、素人が単独でやる「DYI(日曜大工)テロ」と呼ばれるものもふえているので、かえってテロは深刻化するでしょう。
トランプ大統領を放置していると、核戦争にまで行ってしまいかねません。
安倍首相は中国包囲網なんかやっている場合ではなく、トランプ包囲網を各国首脳と連携してつくるべきです。

空爆の実態も知らないで、一方的にテロリストを残忍だ、卑劣だと批判する人は困ったものですが、では、私は空爆の実態を知っているのかというと、そんなことはありません。
私はこのブログでアメリカなど有志連合の空爆についていろいろ書きましたが、映画「ドローン・オブ・ウォー」を根拠にしたり、テロリストと非テロリストの区別はつけられないに違いないという推測を述べたりしただけです。
 
空爆がどのようにして行われているかについては、ちゃんとしたマスメディアやジャーナリストが報道するべきですが、そういう報道がまったくといっていいほどありません。アメリカの報道統制が完全に機能しているようです。
アルジャジーラなどならある程度報道していそうですが、私はそこまでカバーしていられません。
 
そうしたところ、空爆の実態についての記事を見かけました。
ロシアの空爆は誤爆だらけだということを“西側”のメディアは盛んに主張していますが、それに乗っかった形で、まずロシアの空爆を批判し、その次にアメリカなどの空爆を批判しています。
この記事は「epreader」というスペイン語サイトの記事の翻訳のようです。そのサイトにどれだけ権威があるのかよくわかりませんが、記事には「シリア人権ネットワーク」の調査とか「インターセプト」の内部資料とか、一応根拠が示されています。空爆の実態についての貴重な記事なので、少々長いですが、ここに引用しておきます。
 
 
ロシア空爆、犠牲者の98%が民間人。アメリカは90%が誤爆 シリアの真実
 
人権団体や調査団体によると、ロシアの空爆の98%が誤爆で、米軍無人機の90%が誤爆だった。
 
両軍とも歩兵部隊を展開しておらず、どうやって敵と市民を区別しているのか謎だった。
 
ロシアによる戦争犯罪
 
ロシアによるシリア空爆で誤爆が相次いでいるという報告が、現地で活動する団体などからなされています。
 
正確に言えば誤爆などというレベルではなく、98%の標的がイスラム国と無関係な市民だったという指摘がされています。
 
シリア人権ネットワーク(SNHR)がロシアが空爆した111ヶ所を調査したところ、犠牲者は538人だった。
 
98%に当たる570人が民間人で、戦闘員は13人、学校16、医療機関10、モスク10、市場5が含まれていました。
 
57の空爆現場は住宅地など民間人地域で、爆撃地点の殆どはIS(イスラム国)支配地域では無かった。
 
ロシアがイスラム国への攻撃を開始した初日から、米国などは無関係な地域を攻撃していると指摘していました。
 
 
米国は親米の立場を取る武装勢力と手を組んで掃討作戦を展開していたが、ロシアは親米武装勢力を攻撃していました。
 
イスラム国を攻撃していると言いながら、実際にはイスラム国と対立する親米の武装勢力を攻撃していた。
 
さらにロシア軍の攻撃対象の多くが民間地域や民間人で、軍事拠点や兵士を対象としたものでは無かった。
 
 
ロシア軍の攻撃方法も当初から問題とされていて、レーザー照準で目標だけを破壊する米軍機に対し、町ごと破壊していた。
 
ロシア空軍機は大量の爆弾を空中散布し、第二次大戦やベトナム戦争風に、町ぐるみ丸ごと破壊しています。
 
英国諜報機関によるとロシア空軍の攻撃のうち、ISを狙ったものは5%で、95%が無関係な対象への攻撃だった。
 
最初から目標に命中させる気すら無く、稀に見る凶悪な戦争犯罪と言える。
 
 
アメリカは正義なのか
 
 
では対する欧米軍はもっと『紳士的』なのかといえば、米軍機の攻撃も殆どが誤爆だと指摘されました。
 
アメリカのネットメディア「インターセプト」は201510月「米無人攻撃機の活動の9割は誤爆だった」という内部資料を暴露しました。
 
米国防省とアメリカ政府は資料へのコメントを拒否していて、否定しなかったという事は真実なのでしょう。
 
 
資料は20125月からの5ヶ月間を調査したものですが、他の期間もあまり変わらないと考えられます。
 
無人機ではない有人機でも誤爆が相次いでいて、10月には国境無き医師団の診療所が誤爆されています。
 
アメリカの観察によるとロシアが攻撃しているのは、イスラム国が存在しない地域ばかりで、無関係な人を対象にしているという。
 
 
そう言っているアメリカ軍の方も、これから攻撃しようとしている人間が、一体どこの何者なのか確認していません。
 
無人攻撃機の操縦画面を見て「怪しい人間だ」とか「何かを持っている。武器に違いない」という理由で攻撃します。
 
ベトナム戦争の時、ベトナムの農民は、アメリカ軍が攻撃してきたらそのまま農作業を続けたそうです。
 
 
農作業を止めたら怪しいと攻撃され、逃げれば攻撃され、地面に伏せても攻撃されたからです。
 
アメリカの無人攻撃機の操縦はアメリカ西海岸の基地内で行っていて、ゲームセンターのような装置で操作しています。
 
ゲーム機そっくりの操縦装置に腰掛けて、パイロットはコーラを飲みながら、適当に判断して攻撃しています。
 
ロシアもアメリカも、フランスやイギリスも同じ事をしていますが、こうなる理由は敵の識別が出来ていない事が上げられます。
 
現在シリア周辺には空軍の護衛やミサイル部隊を除けば、地上部隊は展開されていません。
 
数十年前には航空攻撃には事前に地上部隊を派遣し、敵の情報を調査する必要がありましたが、今は必要有りません。
 
 
人工衛星や偵察機、あるいは無人飛行機でかなりの情報が得られるので、空軍だけで作戦行動が可能です。
 
だが一つ問題が生じ、衛星画像や航空写真をいくら眺めても、「敵か味方か市民か」どこにも書いていません。
 
テレビやネットで流れる戦闘機や偵察機の写真あるいは動画を見て、イスラム国兵士か民間人か分かる人は居ません。
 
 
アメリカ空軍もロシア空軍も、フランス空軍も、一体どうやって民間人とイスラム国兵士を区別しているのか説明しません。
 
説明できる筈が無く、上から写真を眺めても分かる筈が無いからです。
 
敵と見方を区別するには地上部隊を派遣するしかなく、攻撃してきたら敵で、攻撃してこないのが民間人です。
 
 
ゲリラ兵やテロリストは正体を隠す為に、必ず民間人に成りすますので、実際それしか識別方法はありません。
 
無線や携帯電話をキャッチして攻撃するのは良く聞きますが、そんな分かり易い敵はごく一部でしょう。
 
98%誤爆のロシアより、90%誤爆のアメリカはマシなのだろうか。
 

12月2日にカリフォルニア州サンバーナディーノで起きた14人死亡の銃乱射事件はテロ事件と認定されました。IS(イスラム国)への空爆を強化する足元でテロが起きたわけです。空爆ではテロが防げないというより、むしろ空爆がテロの原因になっているというべきでしょう。
 
こんなときでも日本で「テロは許せない」と言う人がいるのは不思議です。ガンジー的な非暴力主義の人が言うのならわかりますが、「テロは許せない」と言うだけなら空爆は許しているのかということになります。「テロも空爆も許せない」というべきです。
 
 
空爆ではよく誤爆が問題になりますが、誤爆は意図したものではないので、意図して罪もない人を狙うテロとは違うという意見があります。
しかし、そもそも誤爆でないところの“正爆”というのがあるのでしょうか。
 
たとえばテロリストと非テロリストの線引きはどうなっているのでしょう。
イスラム国はその名の通り国としての行政組織を持っています。そこがほかの原始的な武装勢力と違うところです。
ですから、空爆の対象にせずに育てていけば、テロ組織にならずに国際社会の一員になった可能性があります(アメリカはむしろそれを恐れたのかもしれません)
 
ともかく、イスラム国は行政組織を持っているので、たとえば税務署員もいるわけです(たいていはフセイン政権時代の役人です)。銃を持たずもっぱら税務署員として仕事をしている人間もテロリストとして空爆の対象なのでしょうか。
これについてはなんの報道もないのでわかりませんが、こういう基本的なこともわからずに空爆を支持している人がいるのは不思議です。
 
それに、テロリストはいつも仲間で固まっているわけではなく、一般の人といっしょにいることもあれば、家族といっしょにいることもあります。テロリストだけ殺害して、絶対ほかの人を巻き込まないということがあるはずありません。
このへんのことについては、フィクションであるとはいえ「ドローン・オブ・ウォー」という映画に描かれています。
 
「ドローン・オブ・ウォー」映画評
 
それに、テロリストという認定が正しいのかという問題もあります。
テロリストという認定は、上空からの監視のほかに、特殊部隊やCIAが内通者や盗聴などの手段を使って決定します。そして、その決定通りに空爆します。これは検察が死刑を求刑したら裁判なしにそのまま死刑執行がされるのと同じです。被告には弁明する機会すらなく、“誤審”がいっぱいあるに違いありません(ただでさえアメリカは誤審が多く、DNA検査でそれがどんどん明らかになっています)
 
つまりもともと空爆には誤爆も“正爆”もないのです。
たとえばアメリカの田舎町にテロリストが逃げ込んだという情報があっただけで、そこにミサイルを撃ち込んで周囲の住民といっしょに殺しているみたいなものです。
もし実際にそれをやったら、アメリカ国民は憤激するでしょう。
 
今、アメリカ人やヨーロッパ人が空爆に対して憤激していないのは、アラブ人や黒人やイスラム教徒への差別意識があるからです。
 
 
なお、パリ同時多発テロのとき、「民間人を狙うのは卑怯だ」と言われました。
しかし、アメリカ軍を直接攻撃することは実質的に不可能です。
「民間人を狙うのは卑怯だ」と言う人は、「お前たちはやられっ放しでいろ」と言っているのと同じです。
 
また、パリ同時多発テロは「無差別テロ」とも呼ばれました。
しかし、フランス国民を狙ったテロですから、決して「無差別」ではありません。
フランス政府は空爆に参加していましたし、フランスは民主主義国ですから、その決定に対してフランス国民は責任があります。
空爆で多数の人間を殺しながら自分たちは平和で豊かな生活をいつまでも享受していられると思っていたとすれば、あまりに甘いと言わねばなりません。
 
こういうことを書くと、「お前はテロに賛成なのか」と言う人が出てきそうですが、私はテロにも空爆(つまり一方的な軍事力行使)にも反対しているだけです。

1124日、トルコの戦闘機がロシアの戦闘爆撃機を撃墜しましたが、日本ではトルコを非難する声はまったくといっていいほどありません。
もしロシアがトルコ軍機を撃墜していたら、ロシアを非難する声があふれたのではないでしょうか。
 
冷戦が終わって、ロシアは資本主義国になり、一応選挙の行われる民主主義国になったのですから、NATOなどいわゆる西側は思想的にロシアを敵視する理由はありません。
それでもウクライナ問題などを見ていると、いまだに東西冷戦を引きずっている気がします。
日本のマスコミもこぞって西側つまりトルコ寄りの報道をしています。
 
国際ジャーナリストの田中宇氏は西側に偏らない見方のできる人です。
そもそもロシア軍機がトルコ領空を侵犯したのか否かという問題があるのですが、これについて田中氏は「トルコの露軍機撃墜の背景」という記事を書いているので、そこから引用します。
 
 
 トルコ政府が国連に報告した情報をウィキリークスが暴露したところによると、露軍機はトルコ領内に17秒間だけ侵入した。米国政府(ホワイトハウス)も、露軍機の領空侵犯は何秒間かの長さ(seconds)にすぎないと発表している。 (Russia's turkeyairspace violation lasted 17 seconds: WikiLeaks
 
 トルコとシリアの国境線は西部において蛇行しており、トルコの領土がシリア側に細長く突起状に入り込んでいる場所がある。露軍機はシリア北部を旋回中にこのトルコ領(幅3キロ)を2回突っ切り、合計で17秒の領空侵犯をした、というのがトルコ政府の主張のようだ。(The Russian Plane Made Two Ten Second Transits of TurkishTerritory
 
 領空侵犯は1秒でも違法行為だが、侵犯機を撃墜して良いのはそれが自国の直接の脅威になる場合だ。露軍機は最近、テロ組織を退治するシリア政府の地上軍を援護するため、毎日トルコ国境の近くを旋回していた。露軍機の飛行は、シリアでのテロ退治が目的であり、トルコを攻撃する意図がなかった。そのことはトルコ政府も熟知していた。それなのに、わずか17秒の領空通過を理由に、トルコ軍は露軍機を撃墜した。11月20日には、トルコ政府がロシア大使を呼び、国境近くを飛ばないでくれと苦情を言っていた。(Turkey summons Russia envoy over Syria bombing 'very close'to border
 
(2012年にトルコ軍の戦闘機が短時間シリアを領空侵犯し、シリア軍に撃墜される事件があったが、その時トルコのエルドアン大統領は、短時間の侵犯は迎撃の理由にならないとシリア政府を非難した。当時のエルドアンは、今回とまったく逆のことを言っていた)(Erdogan in 2012: Brief Airspace Violations Can't Be Pretextfor Attack

 
田中氏の「侵犯機を撃墜して良いのはそれが自国の直接の脅威になる場合だ」という主張はごく常識的なものです。
しかし、日本のマスコミはそういう主張をまったくしません。それをするとトルコを批判することになるからでしょう。
つまりいまだに“西側”に縛られているのです。
 
戦争反対、人命尊重という当たり前の観点からもトルコの行動は批判されるべきです。
 
 
それから、ロシア軍機から脱出した2人のパイロットがパラシュートで降下中に地上から銃撃され、1人が死亡しました。
これについて在日ロシア大使館の公式ツイッターアカウントが過激なツイートをしているというので、J-CASTニュースが記事にしています。
 
 
爆撃機撃墜めぐり「アメリカの報道官は頭大丈夫?」在日ロシア大使館がまたまた「らしからぬ」ツイート
 
 「過激」なツイートでたびたび物議を醸す在日ロシア大使館の公式ツイッターアカウントが、トルコ軍がロシア軍の爆撃機を撃墜した問題をめぐり、また踏み込んだツイートを連発している。
 
   「(アメリカの報道官は)頭大丈夫?」「トルコ大統領はISの権利を守っているのか?」など、公的機関の発信らしからぬ表現で怒りを表明。一部のネットユーザーから「口が悪いと信用失いますよ」とたしなめられるリプライが相次ぎ、ネット上の騒ぎになっている。
  20151124日、シリアとトルコの国境付近を飛行していたロシア軍の爆撃機を「領空を侵犯した」としてトルコ軍が撃墜。撃墜の際にパラシュートで脱出した乗員の1人が地上から銃撃されて死亡、救出に向かったヘリコプターも攻撃を受けた。これをうけ、ロシアがトルコとの軍事的な接触を中断するなど、両国の対立が深まっている。
 
   トルコのエルドアン大統領は25日、イスタンブールで開かれた企業家との会合で「ただ、我々の安全と、同胞(トルクメン人)の権利を守っているだけだ」と主張。対するロシアも、ラブロフ外相が25日にロシア機は領空を侵犯していないと会見で強調し、「トルコ政府は事実上、過激派組織『イスラム国』(IS)の側に立った」とトルコ側を強く非難した。
 
   そんな中、在日ロシア大使館のアカウントは26日、前出のエルドアン大統領発言について、「(守っているのは)シリアで活動しているいわゆるイスラム国(IS)やその他のテロ組織の同胞の権利ですか?」と疑問を呈した。
 
   これで怒りが収まらなかったのか、トルコも参加する対ISの有志連合を主導するアメリカにも批判の矛先が向けられた。25日の会見でトルコ軍が脱出した乗員を銃撃したのは「正当防衛」と述べたアメリカのトナー国務省副報道官に対して、「丸腰のパイロットに対する非道な行為。頭大丈夫??」と責める言葉をつぶやいた。
   こうしたツイートには、「口が悪いと信用失いますよ」「領空侵犯した時点で何もいえません」といったリプライが寄せられている。しかし、112618時半現在、公式アカウントはこれに反応しておらず、自身のツイートも削除していない。発信しているのが誰なのかも不明だ。
(後略)
 
 
アメリカのトナー国務省副報道官に対して「頭大丈夫??」とツイートしたことが問題にされていますが、それよりも副報道官が脱出したパイロットを銃撃したことを「正当防衛」と述べたということのほうが大問題でしょう。ほんとうに述べていたら「頭大丈夫??」ぐらい言われて当然です(調べてみるとその発言は確認できなかったので、ロシア大使館の誤解の可能性もあります)
 
いずれにせよ、パラシュートで降下する戦闘機のパイロットを下から銃撃するのは「ジュネーブ条約違反の戦争犯罪」であると田中宇氏も指摘しています。ジュネーブ条約を持ち出さずとも、それが犯罪的であることは容易にわかります。敵艦が沈んだとき海上に浮かぶ乗組員を銃撃するようなものだからです。
 
ロシア軍機のパイロットを銃撃したのは、トルコの正規軍ではなく、シリアにいる武装勢力のようです。
そのときの動画がありますが、撃ちながら笑い声も上がっています。
 
YOUTUBE パラシュートで降下中のパイロットを銃撃する

 
この武装勢力はトルコの支援を受けているのではないかと推測されますが、もし同じことをISがやったら、犯罪だ、残虐だと大合唱が起きているはずです。

在日ロシア大使館の公式ツイッターは、トルコ軍機はシリア領空に侵犯してロシア軍機を攻撃したとも主張しています。パイロットがシリア領土に降下したことを考えると、その可能性は大いにありそうですが、このこともマスコミはまったく問題にしていません。
 
欧米や日本のマスコミは、もともと人種差別とイスラム教差別で中東情勢を報道していましたが、ISへの空爆が始まってからはISを悪者に仕立て上げ、ロシアが介入してからはロシアを悪者に仕立て上げるので、中東情勢はますますわけのわからないことになっています。

イギリスのブレア元首相がイラク戦争で謝罪したという報道がありましたが、よく読むと、判断にミスがあったことを謝罪しただけで、戦争そのものはむしろ正当化しているのでした。
 
 
■ブレア英元首相がイラク戦争で謝罪、イスラム国台頭の「一因」
[ロンドン 25日 ロイター] - 英国のブレア元首相は25日に放映された米CNNとのインタビューで、在任中の2003年に始まったイラク戦争が過激派組織「イスラム国」の台頭につながったと認め、戦争に踏み切る際の計画にミスがあったと謝罪した。
 
同戦争がイスラム国台頭の主な原因だと思うかとの問いに、ブレア氏は「いくらかの真実」があるとコメント。当時のフセイン政権を倒した米主導の有志国が現在の状況と無関係だとは言えないと認めた。
 
専門家らは、米国が旧イラク軍の解体を決めたことで、国内の治安に空白が生まれ、それが後にイスラム国誕生につながったとしている。
  
ブレア氏は、参戦前の計画や情報や戦後への準備において誤りがあったとして謝罪の意を示したが、フセイン政権を倒したことは正しかったと主張した。
 
 
当時、ブッシュ政権は大量破壊兵器があるという嘘の情報を意図的に採用し、戦争の理由としました。ブレア氏はだまされたのは自分のミスだとして謝罪したのでしょうが、本音では自分はだまされた被害者だという意識もありそうです(小泉元首相も同じような心境でしょう)
 
さらに、フセイン政権を倒したのは正しかったと主張しています。別の報道では、「サダム(フセイン元大統領)の排除については謝罪し難い。2015年の現代から見ても、彼がいるよりはいない方がいい」と言っています。
 
しかし、この主張は「民族自決権」をまったく無視しています。独裁政権より民主政権のほうがいいとしても、それはイラク国民がみずから選ぶことで、他国が戦争で押しつけることではありません。
 
「民族自決権」というのは個人でいえば「自己決定権」ということです。親がむりやり子どもを医者にするとか、一流大学に入れようとするとかは、子どもの「自己決定権」を侵害する行為ですが、ブレア氏はそういう親と同じようにイラクに民主主義を押しつけたことを正当化しています。
 
しかし、そういうやり方はうまくいきません。イラクは一応民主主義政権になったとはいえ、アメリカの傀儡政権みたいなもので、国民の支持はあまりありません。アメリカ軍が訓練した政府軍はイスラム国との戦争になると高性能の兵器を放り出して逃げてしまい、イラクで戦闘力があるのはシーア派民兵組織やクルド人部隊です。
アフガニスタンも一応民主主義政権ができていますが、いつまでたっても安定しません。
 
ところで、日本はアメリカから民主主義を押しつけられてうまくいっているようですが、もともとどこの植民地にもならずに自力で帝国憲法と帝国議会をつくって民主主義を取り入れた国です。この、自力で獲得したということがだいじなのだと思います。
 
今、イスラム諸国の民族自決権を尊重すると、イスラム国やタリバンみたいな過激な勢力が政権を取る可能性がありますが、アメリカやイギリスはそれを受け入れる度量を持たなければなりません。
最初は過激な政権でも、時間がたてばだんだんと穏健化・世俗化していくとしたものです。それに、フセイン政権を初め世界の独裁政権の多くは、アメリカがつくったり育てたりしたということも忘れてはいけません。
 
ブレア氏が平気で民族自決権を無視した主張をするのは、イスラム教徒やアラブ人に対する差別意識があるからです。
愚かなアラブ人やイスラム教徒は自分のこともまともに決められないので、私たち白人キリスト教徒が決めてやらなければならない、というわけです。
こうした差別意識は欧米に広く存在するので、ブレア氏の発言もとくに批判されていないようです。
 
日本人も欧米式の価値観に染まっているので、ブレア氏の発言を批判する人はほとんどいません。

フランスの風刺新聞「シャルリー・エブド」がムハンマドの風刺画を載せたことについて、いまだに賛否両論がありますが、私はこれを理解するためにわかりやすいたとえを思いつきました。
 
たとえば、シャルリーが身体障害者を風刺する絵を載せたとしたらどうでしょうか。それは差別だとして、誰もが反対するはずです。
では、身障者を風刺する絵を載せたことに対して、過激派身障者団体があって(ないと思いますが)、シャルリーの編集部内で銃を乱射するテロ事件を起こしたらどうでしょうか。シャルリーが再び身障者を風刺する絵を掲載することに賛成したり、「私はシャルリー」と言ったりするでしょうか。
 
身障者とイスラム教徒は別だといわれるかもしれませんが、フランスにおいてイスラム教徒は少数派で、差別されていますから、被差別者という点では同じです。
また、国際社会においても、アメリカとヨーロッパが支配的な立場にあって、イスラム国のほとんどは中進国か後進国で、見下されています。
 
つまり、欧米のキリスト教徒はイスラム教徒やイスラム国を差別しているのです。
 
ところが、差別というのはいつもそうですが、差別する人間は自分が差別しているという自覚がありません。
 
たとえば、公民権法が成立する以前のアメリカ南部では、黒人はレストランはもとより待合室やバスの席まで白人と区別されていましたが、ほとんどの白人はそれが当たり前と思っていて、差別という意識はありません。
そして、日本人はというと、名誉白人扱いされることに、多少は複雑な思いがあっても、満足していたわけです。
 
今の日本人も、欧米のキリスト教徒のイスラム教徒に対する差別を見ても、自分はキリスト教徒の側に立っていると思っているからか、それを差別とは認識していません。
 
イスラム過激派のテロの根本原因はイスラム差別にあるのですが、欧米も日本もイスラム差別を認めないので、テロの原因がわかりません。テロの原因がわからないでテロ対策をしているわけで、うまくいくはずがないわけです。
 
イスラム差別の具体的な現れは、イスラム教徒の命の軽視です。イスラム教徒はたくさん死んでもほとんどニュースにならず、欧米人は少数の死でも大きなニュースになります。
ですから、漫然とニュースを見ていると、どんどん差別主義に染まっていくのです。
 
それでも、たまにはマスメディアにも真実を見せてくれる記事が載ります。次は、フリージャーナリストの土井敏邦氏のインタビューの一部です。
 
(言論空間を考える)人質事件とメディア 土井敏邦さん、森達也さん
 <萎縮は自殺行為> 紛争の現場に行くと、遠い日本では見えなかった、現地の視点が見えてきます。今回の事件の最中、積極的平和主義を唱える安倍晋三首相は、イスラエルの首相と握手をして「テロとの戦い」を宣言した。しかし「テロ」とは何か。私は去年夏、イスラエルが「テロの殲滅(せんめつ)」を大義名分に猛攻撃をかけたガザ地区にいました。F16戦闘機や戦車など最先端の武器が投入され、2100人のパレスチナ人が殺されました。1460人は一般住民で子供が520人、女性が260人です。現地のパレスチナ人は私に「これは国家によるテロだ」と語りました。
 
 そのイスラエルの首相と「テロ対策」で連携する安倍首相と日本を、パレスチナ人などアラブ世界の人々はどう見るでしょうか。それは、現場の空気に触れてはじめて実感できることです。
 
イスラエル軍に殺されるパレスチナ人のことは、日本では小さいニュースにしかならず、話題にもならないということは、日本人がいかにイスラム差別に染まっているかということです。
 
欧米人はみずからの差別意識になかなか気づかないでしょう。
中国は新疆ウイグル自治区などをかかえているので、この問題には中立ではありません。
ですから、日本がいちばんいい位置にいるはずなのですが、安倍首相はもとよりマスメディア、ほとんどの知識人が欧米寄りなので、むしろイスラム差別に加担することになっています。 

2月9日、テレビ朝日の「池上彰が伝えたいこと」という番組で、イスラム国について解説していました。
池上彰氏は比較的広い視野でものごとをとらえられる人だと思っていましたが、今回はがっかりです。
 
イスラム国に焦点を当てれば、いくらでも悪いところを数え上げられます。
しかし、イスラム国の周辺はどうなのでしょうか。
シリアのアサド政権は、アラブの春に際してデモを武力鎮圧して多数の死者を出し、その後、内戦状態となりました。それ以前からアメリカ政府によってテロ支援国家として指定されていますし、核開発で北朝鮮と協力していることもアメリカ政府は公式に認定しています。
イラクでは、マリキ前首相がシーア派優遇政策をとったためにスンニ派の不満が高まるという状況があり、そこにイスラム国が進出しました。
 
また、中東の民衆の間には、イスラエルとアメリカに対する大きな不満があり、それがイスラム国に限らずイスラム過激派を生み出すもとになっています。
 
ところが、池上彰氏はシリア情勢もイラク情勢も、イスラエルとアメリカのことにも触れないので、なぜイスラム国がこんなにも力を持ったのかということがまったくわかりません。
外国からの戦闘員が2万人近くも参加していることも、インターネットを巧みに使っているからだといった説明だけです。
 
この番組に限りませんが、日本の報道は(日本だけではありませんが)、あまりにも一方的です。
対立している一方の言い分だけを報道しているのです。
これは夫婦喧嘩について、一方の主張だけを聞かされているみたいなものです。
 
現在、アメリカと有志連合はイスラム国に対する空爆を続けていますが、すでに戦闘員6000人以上を殺害したということです。
すべてが戦闘員であるとは思えません。民間人の被害も出ているに違いありません。
空爆の被害、泣き叫ぶ遺族などの報道もあって然るべきです。
また、イラク政府、シリア政府への批判の声もないわけありません。
そうした報道があれば、人々の判断も変わってくるはずです(そう考えると、外務省がシリアを取材しようしていたカメラマンのパスポートを取り上げた理由もわかります)
 
夫婦喧嘩の場合、浮気した、約束を破った、家事を怠ったなどさまざまな理由があり、双方の言い分をよく聞かないと、どちらが正しいか判断できません。
いや、よく聞いても判断できないことが多いでしょう。長い過去の経緯があるからです。
 
しかし、簡単に判断できる場合があります。それは一方が暴力をふるっている場合です。その場合は、理由のいかんにかかわらず、暴力をふるっているほうが悪いのです。
 
そう考えると、イスラム国とアメリカとどちらが悪いかがはっきりするでしょう。

アメリカと有志連合がやっているのは、ろくに対空能力もない相手を攻撃して一方的に殺戮するという、人類史上かつてない“卑劣な”戦争です。とりあえずこれを止めなければなりません。
 
これは右翼とか左翼とか、イスラムとかキリスト教とかも関係ありません。人間としての当然の判断です。
そうした判断の材料を提供するのが報道の役割ですが、今の報道はあまりにも公正を欠いています。
 

イスラム国は拘束していたヨルダン軍パイロットのカサスベ中尉を焼殺するという残虐な動画を公開しました。
後藤健二氏については、首を切り落とされた画像が公開されました。
イスラム国はほかにもさまざまな残虐な刑罰を行っています。
オバマ大統領は「宗教の名の下に言語に絶する蛮行を行う残忍で卑劣なカルト集団だ」とイスラム国を非難しました。
 
人間はこうした残虐さに強く反応しますから、これによって世論が動かされるのは当然です。
しかし、だからこそ、こういうときには冷静な反応をしなければなりません。
 
そもそもイスラム国は、こうした残虐さを戦略的に利用しています。AFPニュースの「イスラム国の堅固な基盤確立、教訓は米軍の戦略」という記事の中にこんな記述があります。
 
イスラム国は、特定の教本や組織内に所属する聖職者を利用して、自らの暴力行為を宗教的に正当化している。中でも「The Management of Savagery(野蛮の作法)」と題された指南書では、残虐行為は欧米をあおって過剰反応させる有効な方法だと説いている。
 
安倍首相は「テロリストに罪をつぐなわせる」とか「日本人にはこれから先、指一本触れさせない」とか、内容空疎な言葉を吐き散らしていますが、これなどまさに「テロリストの思うツボ」になっている姿です。
 
 
一方、アメリカもまたテロリストの残虐さを戦略的に利用しています。
オバマ大統領はイスラム国の残虐さを非難しますが、こうした残虐さはイスラム国ばかりではありません。
たとえば、サウジアラビアでは死刑制度があり、ウィキペディアによると人口当たりの死刑執行人数は世界最多だということです。しかも、死刑の多くは公開処刑で、首切りという方法がとられます。残虐さにおいてはイスラム国となんら変わりません。
 
また、サウジアラビアではむち打ち刑があって、最近もハフィントンポストに「サウジアラビアでリベラルなサイトを開設したブロガー、むち打ち1000回の刑に」という記事が載っていました。
 
サウジアラビアのブロガー、ライフ・バダウィ氏が、国内でのディベートをすすめるリベラルなオンラインフォーラムを開設した罪で、刑務所に入れられている。116日には2回目のむち打ち刑が予定されているが、彼の妻の話によれば、体力的に持ちこたえられないかもしれないという。
 
ライフ・バダウィ氏は「イスラムを侮辱した」罪で2012年から収監されていたが、20145月に、法廷で禁錮10年とむち打ち1000回の判決を受け、同年9月に判決が確定した。
 
1回目の公開むち打ち刑は、19日に西部の都市ジッダで執行された。バダウィ氏は、長く硬いむちで背中を50回打たれる刑を耐え抜き、116日には、2回目となる50回のむち打ち刑を受けるという。そして、オーストラリアのニュースサイト「News.com.au」によれば、バダウィ氏は今後20週間にわたって、毎週金曜に同じ形で公開むち打ち刑を受けることになっている。
 
バダウィ氏の妻、エンサフ・ハイダルさんは、アムネスティ・インターナショナルに対して次のように語った。「夫の話では、むち打ちのあとの痛みがひどく、健康状態も悪いそうです。きっと次のむち打ち刑には耐えきれないでしょう」
(中略)
AP通信によれば、バダウィ氏はジッダにあるモスクまえの公共広場で、数百人の見物人が見守るなか1回目のむち打ち刑を受けた。50回のむち打ちは、中断することなく続けざまに執行されたと報じられ、刑を目撃した人が、アムネスティ・インターナショナルに詳細を次のように話している。
 
「バダウィ氏はバスから下ろされて、群衆の真ん中に連れて行かれました。8人か9人の警官が警備していて、バダウィ氏には手錠と足枷をかけられていましたが、顔は隠されていなかったので、その場にいた全員から彼の顔が見えました」
 
この匿名の目撃者は、さらにこう続けている。「大きなむちを持った執行人が背後から近づいてバダウィ氏をむちで打ち始めました。バダウィ氏は頭を空に向けて上げ、目を閉じ、背を反らせていました。声は立てていませんでしたが、その顔と体を見れば、ひどい痛みを感じているのがわかりました」
 
イスラム国の残虐な刑罰は大々的に報道されますが、サウジアラビアの残虐な刑罰は小さなニュースにしかなりませんし、オバマ大統領もなにも言いません。
 
アメリカは「自由と民主主義」を普遍的な価値として掲げていますが、サウジアラビアは民主主義からもっとも遠い国ですし、9.11テロの実行犯19人中15人はサウジアラビア国籍でした。ほとんどイスラム原理主義国といってもいいぐらいですが、アメリカはそんな国を中東におけるもっとも重要な同盟国としています。
 
アメリカがイスラム国の残虐さを非難するのは、まったくご都合主義です。
 
日本がいっしょになってイスラム国の残虐さを非難するのは、まさに「アメリカの思うツボ」です。
 
日本は「テロリストの思うツボ」になり、同時に「アメリカの思うツボ」になっているというわけです。

イスラム国の人質になっていた後藤健二さんが殺害されました。これほどつらいニュースはありません。
殺したイスラム国を非難する人も多いでしょう。しかし、私にはその気持ちはほとんどありません。
というのは、イスラム国側の人間も日々空爆により殺され続けているからです。
 
そういう殺し殺される場にみずから頭を突っ込んでいったのが安倍首相です。エジプトでのスピーチで「ISILがもたらす脅威を少しでも食い止めるため(中略)ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」とイスラム国への敵対姿勢を明確にしました。
 
安倍首相の戦争好きの性格は前からわかっていました。しかし、東アジアではアメリカが重しになって安倍首相の好きなようにはできませんし、中東に自衛隊を派遣するにしても、安保法制の整備に時間がかかるので、まだかなり先のことだと思っていました。
 
それでも、なにがなんでも戦いがしたい安倍首相は、解散総選挙をすることで野党との戦いをしました。
そして、今度はテロリストに喧嘩を売り、テロとの戦いに参入したというわけです。
 
ここまで戦いがしたいとは、偏執狂的性格というべきでしょうか。
 
 
世の中には安倍首相を擁護する人もいますが、そういう人は必ず「イスラム国は残虐で卑劣な悪」というレッテル張りをした上で主張しています。
つまり向こうが「悪」だから、それと戦うのは「正義」というわけですが、こういう単純な頭の人は、政治や外交や軍事を論じるのはやめて、ハリウッド映画や「水戸黄門」を楽しんでいるほうがいいでしょう。
 
たとえば、イスラム国を空爆して弱体化させることは、シリアのアサド政権を利することになる理屈ですが、そういうことを考えた上で「イスラム国は悪」と主張しているのでしょうか。
 
現にこういうことが起こっています。
 
イスラム国からのコバニ奪還、シリア人の多くは疑問視「アメリカの戦略が理解できない」
 
 
では、イスラム国をどうとらえればいいのでしょうか。
もちろん善悪で判断してはだめです。
ここでは「利己的な遺伝子」で有名なリチャード・ドーキンスの提唱する「ミーム」(文化の遺伝子)という概念を使って説明してみましょう。
 
シリアは2011年から内戦状態にあります。反アサド政権派は一枚岩ではなく、さまざまな勢力が入り乱れていました。そうした中から急速に台頭してきたのがイスラム国です。
 
アフガニスタンはソ連が撤退したあと軍閥が群雄割拠する状態となり、その中からタリバンが台頭しました。
 
これは日本の戦国時代に織田信長が台頭してきたのに似ています。あるいはワイマール体制下の政治的混乱から弱小政党だったナチス党が台頭してきたのにも似ています。
 
つまり、多くの勢力が互いに生存闘争をするという状況では進化のメカニズムがより強く働くのです。
 
ニューギニア高地やアマゾン奥地など、あまり互いに闘争せず、異文化も入ってこないところは、もっとも進化が起こりにくいわけです。
 
考えてみれば、中東は東西文化の交流するところで、戦争も多く、従って昔はもっとも進化した地域でした。
 
その後、ヨーロッパは小国が互いに戦う時代が長く続き、その中からナポレオンが生まれるなどして近代文明を生み出しました。
 
今では、ヨーロッパとアメリカが中東を実質的に支配し、中東のイスラム教徒は屈辱的な思いを強いられています。
 
そうした中から誕生したイスラム国は、欧米の支配を排除した真のイスラム国を目指しているようです。
そして、それを許せないのが欧米で、なんとかつぶそうと空爆をしているというわけです(有志連合にはイスラム教の国も参加していますが、欧米の分断支配の成果です)

混乱からおのずと秩序は生まれます。ですから、中東のことは中東の人に、イスラムのことはイスラムの人に任せればいいのです。
ところが、アメリカは自分に都合のよい秩序をつくろうとしているわけです。
 
つまり、ここで起こっているのは「文明の衝突」です。
イスラム文明が西欧文明に立ち向かおうとしているのです。
今の中東はきわめて混沌とした状況になっており、かりにイスラム国を崩壊させたところで、またより進化した勢力が出てくるに違いありません。
 
日本が文明の衝突の中に頭を突っ込んでいくのは愚かなことです。
関わるとすれば、欧米に加担するよりイスラム勢力に感謝される援助をしたほうが将来のリターンが大きくなるはずです。

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