厚生労働省が制作した「人生会議」PRポスターに各方面から反発の声が上がり、自治体への発送が中止されることになりました。

日本赤十字社が「宇崎ちゃん」という巨乳おバカキャラを使って献血キャンペーンをして炎上したのに似ています。どちらも医療関係で、インパクトのあることをやろうとして、失敗しました。

問題のポスターがこれです。

人生会議

ポスターの文章の部分を書き出しておきます。

まてまてまて
俺の人生ここで終わり?
大事なこと何にも伝えてなかったわ
それとおとん、俺が意識ないと思って
隣のベッドの人にずっと喋りかけてたけど
全然笑ってないやん
声は聞こえてるねん。
はっず!
病院でおとんのすべった話聞くなら
家で嫁と子どもとゆっくりしときたかったわ
ほんまええ加減にしいや
あーあ、もっと早く言うといたら良かった!
こうなる前に、みんな
「人生会議」しとこ

「人生会議」とはなにかというと、厚生労働省によると、「もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組のこと」です。
これは「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」と言ってきましたが、一般に普及させるために厚労省が「人生会議」という愛称をつけました。


厚労省がこのポスターのデザインを発表すると、たとえば全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長は、「『人生会議』は終末期だけを考えるのではなく、患者が自分らしく生きることを支える試み。このポスターは“支える”という部分が欠けていて死ぬ直前の部分しかない。これは『人生会議』というよりは、『死に方会議』のポスターです」とフェイスブックに書き込みました。
また、卵巣がん体験者の会「スマイリー」の片木美穂代表は、「これを目にする治療に苦慮する患者さんや残された時間がそう長くないと感じている患者さんの気持ちを考えましたか?  そしてもっと患者と話をすれば良かったと深い悲しみにあるご遺族のお気持ちを考えましたか?」などと書かれた抗議文を厚労省に送付しました。

一方、ポスターを擁護する声もあります。インパクトがあるとか、死はきれいごとではないといったものです。


私の考えを言えば、このポスターはまったくだめです。炎上して当然です。
このポスターが病院の待合室に張られていたら、目にした人は、患者であれ家族であれ、どんな気持ちになるかと想像すればわかるはずです。おそらく全国から抗議が殺到したでしょう。
病院でなくて市役所などに張られていても、同じようなものです。

このポスターは、制作者の意図はともかく、心電図がフラットになっていることからして死の瞬間と想像され、怨念を残して死んでいく人間の姿と見えます。
端的に言うと、この人の顔は般若の面のようになっています。
怨念を残して死ぬのは最悪の死です。これが映画なら、この人は化けて出るはずです。

なぜそんな印象になるかというと、ポスターに起用されたお笑い芸人の小藪千豊氏が、説教したり小言をいったりするキャラだからです。
ポスターの文章に「大事なこと何にも伝えてなかったわ」「もっと早く言うといたら良かった!」とあるように、ここは反省、後悔、自責の気持ちが表現されなければなりませんが、小藪氏のキャラのせいで(あるいは演出家の意図のせいで)、まったく違うものになりました。

小藪氏は「人生会議」という愛称を決めた選定委員を務めていましたから、単にポスターの写真に出ただけではありません。
そして、小藪氏の所属する吉本興業は、このポスターの制作を請け負っていました。
ポスターは約1万4千枚制作され、その費用は厚労省によると「吉本興業と4070万円の委託価格で契約した」ということです。
こうしたポスター制作は広告代理店などがするものと思っていましたが、今や吉本興業は「安倍首相のお友だち」なので、こうしたところにまで食い込んでいたわけです。

ポスターの中で小藪氏は「ほんまええ加減にしいや」とおとんに突っ込んで、お笑いの常道を演じていますが、死んでいく人間がそんなことを思うはずがありません。
しかし、コントや新喜劇の芝居なら成立します。小藪氏は新喜劇の座長であり、吉本興業はお笑いを武器にする会社です。
吉本興業は「お笑い」を優先し、結果的に「死」を軽視するこの企画を厚労省に提出したわけです。
厚労省は当然、「ここはまじめに死を扱ってください」と言って、その企画にダメ出しするところです。

しかし、安倍首相は吉本新喜劇の舞台に立ったことがあり、新喜劇の芸人が首相官邸を表敬訪問したこともあり、両者の関係は密接です。
官僚は安倍首相を忖度して、ダメ出ししなかったのでしょう。
その結果、炎上ポスターができあがってしまったのです。

この問題は、モリカケ問題や「桜を見る会」問題と同じです。
長期政権によって、どこを切っても金太郎飴のように、安倍首相、安倍首相のお友だち、忖度官僚の三者の顔が出てきます。