村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

タグ:保守派

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岸田内閣の支持率が急落しています。
「増税」「減税」「還元」「給付」などの言葉をもてあそび、さらにさまざまな不祥事が連続したことが理由とされていますが、それよりももっと大きな理由があります。
それは、安倍晋三元首相が亡くなったことです。

安倍氏が亡くなったのは昨年7月のことなので、今の支持率急落とは関係ないと思われるかもしれませんが、人の死というのは受け入れるのに時間がかかるものです。
「死せる孔明生ける仲達を走らす」という言葉もあります。
偉大な軍師である諸葛孔明は死んでからも敵を恐れさせたという中国の故事成句です。
安倍氏も政界における存在感がひじょうに大きかったので、「死せる安倍」がしばらく政治家を走らせていました。
しかし、1年もたつとさすがに誰もがその死を受け入れ、安倍氏の呪縛から解き放たれました。
その結果が内閣支持率に表れてきたというわけです。


安倍氏が首相を辞めてから、私がなによりも恐れていたのは安倍氏の再々登板です。.自分で政権を投げ出して復活するというのを一度やっていますから、二度目があってもおかしくありません。
私はこのブログで岸田政権批判もしましたが、岸田政権批判は安倍氏復活につながるかもしれないと思うと、つい筆が鈍りました。
野党やマスコミも同じだったのではないでしょうか。

しかし、安倍氏が亡くなると、安倍氏の復活がないのはもちろん、安倍氏の後ろ盾がない菅義偉氏の復活もないでしょうし、一部で安倍氏の後継と目されている高市早苗氏も力を失いました。
つまり安倍的なものの復活はなくなったのです。
そうすると、遠慮会釈なく岸田政権批判ができます。
このところのマスコミの論調を見ていると、岸田政権が崩壊してもかまわないというところまで振り切っているように思えます。


一方、これまでは分厚い安倍支持層が岸田政権をささえてきました。
しかし、安倍氏が亡くなってから、安倍支持層は解体しつつあります。
中心人物を失っただけではありません。中心になる保守思想がありません。

昔は憲法改正が保守派の悲願でした。しかし、解釈改憲で新安保法制を成立させ、空母も保有し、敵基地攻撃能力も持つことになると、憲法改正の意味がありません。
靖国神社参拝も、安倍氏は第二次政権の最初の年に一度参拝しましたが、アメリカから「失望」を表明されると、二度と行っていません。
慰安婦問題についても、2015年の日韓合意で安倍氏は「おわびと反省」を表明して、問題を終わらせました(今あるのは「慰安婦像」問題です)。

考えてみれば、保守派の重要な思想はみな安倍氏がつぶしてしまいました。
安倍氏のカリスマ性がそのことを覆い隠していましたが、安倍氏が亡くなって1年もたつと隠しようがなく、保守派の思想が空っぽであることがあらわになりました。

それを象徴するのがいわゆる百田新党、日本保守党の結成です。
百田尚樹氏は自民党がLGBT法案を成立させたのを見てブチ切れ、新党結成を宣言しました。
新党結成のきっかけがLGBT法案成立だったというのが意外です。日本の保守派はもともとLGBTに寛容なものです。LGBTを排除するのはキリスト教右派の思想です。
これまで保守派は統一教会の「韓国はアダム国、日本はエバ国」などというとんでもない思想に侵食されていたわけですが、今後はキリスト教右派の思想を取り込んで生き延びようとしているのでしょうか。

もし百田新党が力を持てば、自民党の力をそぐことになります。つまり保守分裂です。
目標をなくした組織が仲間割れして衰退していくのはよくあることです。


ともかく、今は岸田政権は保守派とともに急速に沈没しているところです。
支持率回復には保守路線からリベラル路線への転換が考えられますが、手遅れかもしれません。

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なにかとお騒がせの百田尚樹氏が、またもやらかしました。
正確には、やらかしたのは新潮社ですが、百田氏でなければ新潮社もこんなことはしないので、同じことです。

「リテラ」の記事から引用します。

始まりは10月4日夕方、新潮社のPR用ツイッターアカウントがこんな投稿をしたことだった。

〈百田尚樹の最新小説『夏の騎士』を
ほめちぎる読書感想文を募集!
このアカウントをフォローの上
#夏の騎士ヨイショ感想文 をつけて
感想をツイートして下さい。
※ネタバレは禁止
百田先生を気持ちよくさせた
20名の方に、ネットで使える
1万円分の図書カードを贈呈!
期間:10月25日23:59まで〉

 同時に、金色に塗られたドヤ顔の百田氏が上半身裸で図書カードと『夏の騎士』を持つキャンペーン画像もアップ。そこにも、「読書がすんだらヨイショせよ」「ヨイショ感想文求む」「百田尚樹の最新小説『夏の騎士』をほめちぎる読書感想文をツイートすると、図書カードが当たるビッグチャンス!」といった文言が並んでいた。

 ようするに、百田尚樹の小説をほめた人に賞品をあげるという、ツイッターを利用したプロモーション企画だ。
https://lite-ra.com/2019/10/post-5012.html
百田尚樹



新潮社はヨイショ感想文の見本も示していました。
例 1/4:王道は純粋なヨイショ
「国語の教科書にのせるべきだ」
読了後、最初に心に浮かんだ気持ちだ。
この作品は人生に必要なすべてを
おしみなく読者に与えてくれる。
知らぬ間に涙が頬をつたっていた。
「そうか。この本と出会うために、
僕は生まれてきたんだ。」〉

これが炎上して、すぐにキャンペーンは中止となりました。
嘘の読書感想文を書かせるということに、多くの人は抵抗感があるのでしょう。
それに、嘘の感想文を販売促進に利用するのではないかという疑念もあります。一応「ヨイショ感想文」とうたっても、勘違いする人も出てきます。

新潮社としては、最初から「ヨイショ感想文」といっているので、シャレの利いた企画としておもしろがってもらえると思ったのでしょう。
大喜利感覚で、ヨイショのうまさを競うというのはありそうです。
しかし、このケースでは、「夏の騎士」という本があって、リアルの世界とつながっているので、大喜利とは根本的に違います。
一般の人に嘘を書かせるのはモラルハザードにつながります。



私が気になったのは、百田氏はこの企画をどう思っていたのかということです。
もちろん百田氏はキャンペーンのすべてを理解して、金ピカ写真にも協力していました。

「お世辞とわかっていても、ほめられるとうれしい」とよく言います。
しかし、その言葉は、ほめられて喜んでいるときに、照れ隠しの意味で言うことが多いのではないでしょうか。
普通は「お世辞」といっても、そこにいくらかの真実はあります。
まるっきりのお世辞、見え透いたお世辞だと、ぜんぜんうれしくありませんし、むしろ不愉快になるものです。

この企画が実現していれば、百田氏のもとにはたくさんのヨイショ感想文か、選ばれた20のヨイショ感想文が届いたでしょう。それらはすべて1万円の図書カード目当てに書かれたものです。
普通はそんなものを読んでもうれしくありません。真実が書かれていると思うからこそ、ほめられてうれしいのです。
逆にこういう企画があると、真実のほめる感想文があっても、まぎれてわからなくなってしまいます。

しかし、百田氏はうれしいのでしょう。
少なくとも新潮社はそう判断してこの企画を始めたわけです。

嘘とわかっていてもヨイショされるとうれしいということは、嘘と真実の区分けに鈍感だということでもあります。
そう考えると、百田氏の書いたものもわかってきます。

百田氏は2014年に、やしきたかじん氏のことを描いた「殉愛」を出版しました。これは「純愛ノンフィクション」をうたっていましたが、内容に多数の虚偽があるために「ノンフィクションといえるのか」という声が上がり、たかじん氏の長女とたかじん氏の元マネージャーから訴訟を起こされ、どちらも百田氏に損害賠償金の支払いを命じる判決が下っています。
これなど百田氏がフィクションとノンフィクションの区別に鈍感である証拠でしょう。

百田氏が昨年出版した「日本国紀」は、「日本通史の決定版」「壮大なる叙事詩」とうたわれましたが、参考文献が十分に示されていないとか、ウィキペディアからのコピペがあるとかの批判があり、「歴史書といえるのか」と言われました。
この本は日本をヨイショしたもので、百田氏としては日本をヨイショするのだから嘘でもいいという感覚なのでしょう。


こうした体質は百田氏だけのものではありません。
それは「日本国紀」がベストセラーになったことを見てもわかります。
嘘でもヨイショされるとうれしいという人がかなりいるのです。

今年1月、「米国のフェイスブックユーザーについて、フェイクニュースをシェアする傾向が高いのは若年層よりも65歳以上、リベラル派よりも保守派のユーザーだとする米大の調査論文が米科学誌サイエンス・アドバンシズに掲載された」というニュースがありました。

「65歳以上と保守派はフェイクニュースをシェアしがち、米大研究」

保守派がフェイクニュースを好むということは、歴史修正主義がもっぱら保守派によって担われてきたことを見てもわかります。
嘘でも自国がヨイショされるとうれしい――ということでしょう。

こういう人は噓を好む――というと言いすぎです。
噓か真実かよりも、自分が気持ちいいか悪いかを優先し、結果的に噓を選んでしまうわけです。

新潮社と百田氏が巻き起こした今回の炎上騒動から学ぶべき教訓は、世の中には嘘でもいいから気持ちよくなりたいという人がいて、そういう人は世の中に嘘を広げるということです。

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