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首相官邸ホームページより

東京五輪が始まってから、ニュース番組のオリンピック関係は「日本人選手がメダルを獲った」というものばかりです。

日本人選手以外のことはほとんど報道されません。
競泳でいくつも世界新記録が出ているので、「世界新記録が出ました」という報道もあっていいはずですが、私の目には止まりませんでした。

種目のことやプレーの内容も、少なくともニュース番組ではほとんど報道されません。
13歳の西谷椛選手がスケートボードで金メダルを獲ったときはかなり騒がれましたが、「スケートボード女子ストリート」という種目の内容がよくわかりませんし、西谷選手のプレーのどこがすごいのかもよくわかりません。ただ「金メダルを獲った」ということだけで騒いでいます。

アーチェリーやフェンシングのようなマイナースポーツは、メダル獲得を機会にスポーツの内容が紹介されてもいいはずですが、そういうこともありません。

こういう報道を見ていると、オリンピックがほかのスポーツ大会とまったく違うことがわかります。
スポーツの内容はどうでもよくて、日本人選手のメダル獲得にだけ関心があるのです。


なぜそうなるかというと、オリンピックは「国別対抗メダル獲得合戦」だからです。
メダル獲得数のいちばん多い国がその大会の優勝国となり、以下、メダル数に応じて各国の順位が決まります。
そのため、各国の国民は自国のメダル獲得を応援して盛り上がるわけです。ここが普通のスポーツ大会と根本的に違うところです。

もっとも、オリンピックは国別対抗メダル獲得合戦であるという規定などありません。
むしろオリンピック憲章には「オリンピック競技大会は、個人種目もしくは団体種目での競技者間の競争であり、国家間の競争ではない」という規定があります。
しかし、開会式では各国選手団は国旗を先頭に入場行進をし、各種目ごとに表彰式があって、そのつど金メダルには国歌演奏、金銀銅メダルには国旗掲揚が行われ、憲章とは逆に国家間の競争をあおる演出になっています(IOCは建前と実態がまったく違います。建前ではあらゆる差別を否定していますが、実態は白人男性至上主義、ヨーロッパ至上主義です)。

東京五輪組織委員会の公式ウェブサイトには「メダル順位」というページがあって、メダル獲得数の順番に国名が並んでいます。
マスコミもメダル獲得数による各国の順位を必ずといっていいほど報道しています。私が確認した範囲だけでも、ヤフー、読売、朝日、毎日のウェブサイトに各国のメダル順位が示されています。

こうしたことで各国国民のナショナリズムや愛国心が刺激され、それによってオリンピックは世界的大イベントになったわけです。


今のところ日本は好調で、メダル順位も中国、アメリカに次いで3位です。
日本のメダルラッシュで、東京五輪開催に否定的だった国民感情が変わり、菅内閣の支持率も上がるという説があります。
もともと「東京五輪を成功させて、それで内閣支持率を上げ、総選挙に勝利する」というのが菅政権の戦略でした。

しかし、日本人選手が好成績なのは、選手ががんばったからで、菅首相ががんばったからではありません。それで支持率が上がるでしょうか。
ただ、菅首相は日本のリーダーなので、日本人選手団とイメージとして結びつきやすいということはあります。
菅首相もそれをねらっているようです。

菅首相は7月25日、日本人選手で金メダル第1号となる柔道男子60キロ級の高藤直寿選手に官邸から電話し、祝福の言葉を述べました。
しかし、これは「人気取りが見え見えだ」とか「祝福の言葉もカンペを読んでいる」などと評判が悪かったので、それからは電話はやめてツイッターに切り替えたようです。

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東スポWebの『田崎史郎氏 菅首相 “五輪偏重SNS” に「スタッフのミス」「総理がやってるわけじゃない」』という記事によると、五輪開幕以降、1日正午までの時点で、菅首相のツイートは「オリンピック関係」が22回、「感染拡大への注意喚起」が3回となっているそうです。
オリンピックの政治利用の意図が見え見えです。


そもそも「東京五輪の成功で内閣支持率アップ」という考えには根本的な間違いがあります。
というのは、菅首相は東京五輪について「私は主催者ではない」とか「開催はIOCに権限がある」と言っていて、菅首相が開催を決断したわけではなく、“時間切れ開催”だったからです。

「東京五輪の成功で内閣支持率アップ」を目指すなら、菅首相は自分の責任で開催を決定するべきでした。
具体的には「五輪開催によって感染が拡大する可能性がないとはいえないが、五輪開催の意義はそれよりも大きい」と主張して、開催に反対する野党と論戦し、国民を説得するのです。
その時点では、菅首相への批判が強まり、支持率は下がったかもしれません。
しかし、五輪を開催して、日本人選手のメダルラッシュになり、感染はそれほど拡大しなければ、国民は「開催してよかった」と思い、支持率は爆上げしたでしょう。

もちろん日本人選手の成績がふるわなくて、感染が拡大するだけなら、開催を決定した菅首相はきびしく批判されます。
そういうリスクを冒してこそ支持率アップという成果も得られるわけです。


菅首相は五輪開催の責任は負わず、それでいて開催がうまくいったときの恩恵は受けようとしたのです。
なんとも虫のいいことを考えたものです。
菅首相だけでなく、政権全体がそれで動いていたのにはあきれます。
「やってる感」を演出することばかり考えていて、誰もが「責任を取る」ということを忘れてしまったのでしょう。

すでに新型コロナの感染者数が急増して、メダルラッシュによるお祭りムードに水を差しています。
これは天罰でもなんでもなくて、菅首相が感染対策をおろそかにしたせいで、自業自得です。