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アメリカ国旗である星条旗は、建国のときは星の数が13個しかありませんでした。
州の数がふえるたびに星の数も増え、現在はハワイ州が加わったときの50個となっています。
これまでに26回デザインが変更されたそうです。

デザインの変更が前提とされている国旗はほかにないでしょう。
まるで撃墜王が敵機を撃墜するたびに機体にマークを書き込んでいくみたいです。

こうしたアメリカの膨張主義は、北米大陸に関してはフロンティア・スピリット、開拓者魂などと言われていました。
北米大陸から外に出るようになるとアメリカ帝国主義と言われました。

帝国主義というと、レーニンの『帝国主義論』に書かれているように、国家独占資本主義が経済的利益を求めて植民地獲得をしていくというイメージです。
イギリス帝国主義は確かにそのようなものでした。ですから、イギリスは第二次大戦後、植民地獲得が不可能になると帝国主義国でなくなりました。
ところが、アメリカは戦後も朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争など数々の戦争をしてきたので、帝国主義国と呼ばれ続けています。ただ、その目的は植民地獲得のためとは思えません。
そこで、軍産複合体の利益のためだなどといわれました。

さらには、宗教的な説明も行われました。アメリカは選ばれた「神の国」なので、世界を導こうとしているのだというわけです。

私はそれに加えて道徳的な説明もできると思ってきました。
つまりアメリカは「正義の国」なので、「悪の国」をやっつける“使命”を持っているというわけです。
ハリウッド映画の主流は、正義のヒーローが悪人をやっつける物語です。
アメリカ人はあれほど正義のヒーローが好きなのですから、アメリカという国が正義のヒーローとしてふるまうのは当然です。

ただ、アメリカだけが特別に正義のヒーローが好きな国になった理由が説明できませんでした。
そうしたところ、図書館でC・チェスタトン著『アメリカ史の真実』という本を見かけました(C・チェスタトンは「ブラウン神父」シリーズで有名な作家のG・K・チェスタトンの弟)。



表紙に「なぜ『情容赦のない国』が生まれたのか」という惹句があり、渡部昇一の「監修者まえがき」に「アメリカには中世がないため騎士道精神がない」という意味のことが書かれていて、興味をひかれて読んでみました。


西欧には古代ギリシャ・ローマの社会を理想とし、中世キリスト教文化を抑圧的なものと見なす考え方があって、「ギリシャ・ローマの昔に返れ」という文化運動が繰り返し行われてきました。14世紀にイタリアに始まったルネサンスはその代表的なものです。

「コロンブスの航海のような冒険は(中略)、ルネサンス精神に充ち溢れていたのである。そしてこのルネサンスこそ、アメリカ文明の起源なのだ」とチェスタトンは書いています。
「そこで再び姿を現したのが、野蛮人には人間の魂が宿らないとする、あの露骨なまでの異教的反感だった」
「ルネサンスによってヨーロッパ人に開放されたこれらの新領地では、ただちにあの制度が再び出現したのだ。(中略)つまり『奴隷制』である」

チェスタトンは書いていませんが、アメリカ人が先住民を殺戮したのも「野蛮人には人間の魂が宿らない」とする考え方のゆえでしょう。

アメリカの公共建築物の様式も古代ギリシャ・ローマ風のものになり、国章が鷲の図柄であるのもローマ帝国と同じです。
つまりアメリカは復活した古代ローマ帝国みたいなものです。

古代ギリシャ・ローマを理想とする考え方はヨーロッパの国々にもありました。しかし、ヨーロッパの国には長い「中世」の歴史があり、そこからなかなか自由になれません。
しかし、アメリカには「中世」がありません。そこがアメリカとヨーロッパの最大の違いです。

『アメリカ史の真実』にはもっといろいろなことが書かれていますが、ここではアメリカ帝国主義の起源を知るのが目的なので、省略します。

渡部昇一は、ヨーロッパには騎士道、日本には武士道があるが、アメリカにはないということに着目し、日露戦争で旅順陥落のあと、乃木大将はステッセル将軍に武士道精神で敬意を持って接したが、マッカーサーは本間雅晴大将や山下奉文大将を処刑したと書いています。これが「情容赦のない国」という表現のもとになったのでしょう。渡部昇一はほんとうは東京裁判の不当性を主張したかったに違いありません。

ヨーロッパの騎士や日本の武士は、限られた土地の中で勝ったり負けたりを繰り返していたので、「勝敗は兵家の常」とか「勝負は時の運」という考え方になります。自分もいつ敗者になるかわからないので、敗者にひどい仕打ちはしません。ハーグ陸戦条約とかジュネーブ条約もその精神から生まれたものでしょう。
しかし、ローマ帝国は野蛮人と戦い、戦うたびに領土を拡大していきました。ですから、敗者への配慮などはありません。
東京裁判とニュルンベルク裁判で敗者を裁いたのも、アメリカ帝国主義の発想です。
アメリカは日本やヨーロッパと原理が違うのですから、「日本は東京裁判で不当に裁かれた」などと泣き言をいってもアメリカにはまったく通用しません。

アメリカとしては敗者などどう扱ってもいいのですが、表向きは道徳的な理由づけをして、ナチズムや日本軍国主義は悪で、アメリカは正義ということで裁きました。
アメリカはその後も、共産主義、イスラム原理主義、テロリスト、テロ支援国家、独裁国家などを悪と見なしてきました。
もはや騎士道も武士道もなく、正義と悪の戦いがあるだけです。


現在、アメリカの軍事費は中国の2.7倍、ロシアの12倍あって、世界中に米軍基地を設けています。
スウェーデンとフィンランドがNATOへの加盟申請をして、今のところトルコが反対していますが、いずれ加盟するでしょう。
スウェーデンとフィンランドが加盟したがるのはわかりますが、NATOが加盟を認めるのはなんのためでしょうか。

東方においては、アメリカは日米豪印のクワッドなる枠組みをつくって、中国を封じ込めようとしています。
クワッドには「抑止力を高める」などという理由づけがされていますが、抑止力が必要なのはアメリカの脅威にさらされている中国や北朝鮮のほうです。


アメリカ帝国主義は、レーニンのいう帝国主義ではなくて、古代ローマ帝国と同じ帝国主義です。
しかし、古代ローマでは地球が丸いという知識はなく、どこまでも領土を拡大していけると考えていたはずです。
アメリカ帝国主義はどこまで勢力を拡大するつもりでしょうか。