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「菅総理は岸防衛大臣に、都内に新型コロナワクチンの大規模接種センターを設置するよう指示した」というニュースがありました。
この接種センターで自衛隊の医官や看護官が1日1万人の高齢者にワクチン接種を行うということです。

このニュースを聞いたとき、いろいろな疑問がわきました。

まず、菅首相が指示する相手は岸防衛大臣ではなくて河野ワクチン担当大臣ではないのかということです。ワクチンに関することは河野ワクチン担当大臣に一元化したはずです。

それから、ワクチン接種が遅々として進んでいないのは事実ですが、ワクチンは日本に届いているのに接種する人や場所が足りないために進んでいないという報道は目にしません。まだ日本に届く量が少ないのではないでしょうか。

ワクチン接種は自治体がやっていて、そこに国が加わることになりますが、国と自治体の連携はうまくいくのか心配です。

自衛隊の医官や看護官を集めるといっても、それぞれ仕事をしているのですから、本来の業務が手薄になるのではないかということも気になります。

大規模な会場に人が集まったら「密」になるのではないかとも思います。


こういう疑問を持っていたら、「アエラドット」の「菅総理”乱心”でワクチン1万人接種センターぶち上げ クラスター、人手不足など問題山積み」という記事を読んで、すべて腑に落ちました。

 遅々として進まない高齢者(約3600万人)のワクチン接種に業を煮やした菅義偉総理は1万人が接種できる大規模接種センターを東京都などに設置するよう指示した。期間は5月24日から3カ月間だという。28日には東京都千代田区大手町の合同庁舎に設けられた接種センターのガランとした映像がマスコミに公開された。

「菅総理は国政選挙で3連敗して以降、乱心気味です。人気挽回策として側近の官邸官僚・和泉洋人総理補佐官と北村滋国家安全保障局長のトップダウンで大規模接種センター案が唐突に決まりました。厚生労働省の田村憲久大臣は蚊帳の外。関係省庁との調整は全くなされていない状態でマスコミにリークされ、話が進んでいます。全国的なコロナ蔓延で東京五輪開催に対し、国民の風当たりが強い。ワクチン接種にしか支持率回復の望みを持てない菅政権の焦りのあらわれです」(厚生省関係者)

 大阪、兵庫、京都などにも65歳以上の高齢者を中心に1日約5000人が接種できる大規模センターを政府が設置するという。

 そもそもワクチン接種は「予防接種法」で住民票のある市区町村で受けるのが原則だ。実施主体は市町村とされており、各自治体でようやく接種予約が始まったばかり。政府が接種に乗り出すというのは極めて異例の判断だ。

「政府が直営で1日1万人規模の接種を行うとぶち上げましたが、接種する人員をどう確保するか。自衛隊の医師を活用するというが、全国で約1000人しかいません。新型コロナの患者を受け入れている病院の通常の任務もあるのに、強引な要請です。防衛省と厚労省など関係省庁の調整も進んでいません。そして1日1万人分のワクチンをどうやって確保するのか。ファイザー製は在庫がないので、国内未承認のモデルナ製を使うという話ですが、5月24日設置に間に合わせるなんて性急過ぎます」(政府関係者)

 各自治体は苦心をしつつ様々な接種会場を確保し、人流の分散にも努めているが、今回のような1万人規模の接種会場となれば、クラスター発生のリスクが高まるという懸念もある。

「一か所に集めれば接種が進むだろうというのは、机上の思い付きに過ぎません。都内の高齢者を1日1万人単位で大手町に集めるというのは、外出抑制を促す政府の方針とも矛盾し、高齢者を感染リスクに晒すことになります。5月24日から始めるとぶち上げたが、準備期間がなさすぎる。ワクチン接種体制の確保といっても、注射ができる医療スタッフだけいればよいという問題ではない。会場整理の人員はもちろん、受付方法や動線の設定、ワクチンの配送・保管などロジの詰めも不可欠です。しかし、それらを誰が担うのか、人員をどう確保するのか。政府にはワクチン接種会場整備のノウハウが全くありません」(前出の厚労省関係者)

 菅官邸トップダウンの珍プランに防衛省、厚労省、内閣官房など関係省庁は頭を抱えているという。

要するに菅首相としては、1日1万人の大規模接種センターという派手な計画をぶち上げて人気取りをしたいのでしょう。そのために振り回される閣僚や官僚はたいへんです。

ところが、このことを報じるニュースはどれも表面的なことばかりです。そういうニュースしか目にしない人は、「菅首相はがんばってるなあ」という印象を持ったかもしれません。


菅首相はバイデン大統領と会談するため4月16日から18日にかけて訪米しましたが、そのおり、米ファイザー社のアルバート・ブーラCEOとの電話会談を行い、ワクチンの追加供給の要請をしました。
菅首相は「9月末までに供給されるめどがたった」と言いましたが、具体的な合意内容が発表されないので、ほんとうなのかと議論になりました。

このことで気になったのは、アメリカに行って電話会談をしたことです。
電話会談をするなら、日本にいてもできます。
テレビのコメンテーターも「わざわざアメリカへ行って電話する必要はない」と指摘していました。
ささいなことではありますが、釈然としない思いが残ります。

そうしたところ、「リテラ」が『菅と河野が嘯く「ワクチン9月完了で合意」は本当か? 実際はファイザーCEOに相手にされず、反故になった昨年の基本合意より弱い内容』という記事で、電話会談の経緯を書いていました。

当初、官邸は菅首相がアメリカ滞在中に、ワシントンでブーラCEOとの対面会談を実現させようと動いていた。しかし、わざわざアメリカに出掛けながら、ブーラCEOとの会談は「電話会談」に終わったのである。

 田崎氏は先の『ひるおび!』で、「菅首相は(コロナ対策もあり)ワシントンD.C.から動けず、ブーラCEOはニューヨークにいてワシントンに来てくれとは言えないので電話会談になった」などと説明していたが、実態はまるで違う。「対面で面会したい」と官邸サイドが要請するも、ファイザーには冷たくあしらわれ、対面での面会を拒否されただけだ。

 そして、菅首相がこの電話会談で、最低でも「9月末までに対象者全員の接種分供給の基本合意」を引き出そうとしたにも関わらず、ブーラCEOは結局、「協議を迅速に進める」としか言わなかったのである。

わざわざ会いに行ったのに面会を拒否されるとは、みっともない話です。
ファイザーのCEOと直接会って交渉すれば、「ワクチン獲得に奮闘する菅首相」の“絵”がニュース番組で流れて、人気取りになるという狙いだったのでしょうが、狙いすぎて空回りしました。

この記事が事実であるという根拠は示されていませんが、この記事によって「アメリカへ行って電話会談」という謎が解けたので、事実ではないかと思います。


菅首相は、有効なコロナ対策をするよりも「やってる感」を出すことを優先させたために、行政を混乱させたり、みっともない失敗をしたりしています。
しかし、そのことを指摘するメディアはごく一部です。

たとえば、ワクチン接種の優先順位は、最初に医療従事者、次に高齢者となっていましたが、医療従事者のワクチン接種が終わらないのに高齢者への接種を始めています。
これも、医療従事者と高齢者と両方接種したほうが「やってる感」が出るからでしょう。
しかし、ワクチンの供給量が同じなら、高齢者に接種した分、医療従事者への接種がへることになります。
救急隊員のワクチン接種を早く 「不安拭いきれない」
発熱した患者を救急車で運ぶなど、新型コロナウイルスへの感染リスクを抱える救急隊員へのワクチン接種が進んでいない。「第4波」に見舞われる中で、現場からは「早急な接種を」との声も上がる。
(中略)
すべての救急隊員と現場で救急活動をする一部の消防隊員は、医師や看護師、薬剤師、自衛隊員、検疫所職員などとともに、先行して接種を受ける「医療従事者等」として厚生労働省から位置づけられている。

 総務省消防庁によると、対象は全国で約15万3千人にのぼる。

 ただ、接種が順調に進んでいるとはいえない。

 約3千人が接種対象の横浜市消防局では、まだ開始時期が決まっていない。

 担当者は「早い接種を求める声もあるが、接種してくれる病院側の準備に時間がかかっているようだ」と話す。

 東京消防庁では4月下旬から接種が始まったが、まだ一部の消防署に限られる。
(後略)
https://news.yahoo.co.jp/articles/b77952dad660a9ef8f5b6392205e0848ef46398b

医療従事者は否応なく人と接触しますし、感染して現場を離脱すれば医療体制に響きます。
医療従事者に優先接種すると決めたのには理由があるのです。
しかし、高齢者と並行接種することを批判するマスコミはほとんどありません。

つまり「やってる感」の政治というのは、それを批判しないマスコミと表裏一体なのです。


「やってる感」の政治といえば、吉村洋文大阪府知事の右に出る人はいません。
吉村知事が「やってる感」を出したことは数々ありますが、ワクチンの話に絞ると、吉村知事は創薬ベンチャーのアンジェスや大阪大などオール大阪の力を結集して“大阪ワクチン”を開発すると宣言し、昨年6月には「僕が治験者の第一号になります」などと発言し、年内に10万、20万の供給が可能と言いました。
専門家は、そんな早くできるわけがないと言っていましたが、マスコミは吉村知事の話ばかりを垂れ流しました。
そして現在、実用化は2022年以降だとされています。
つまり吉村知事の言ったことはまったくでたらめだったのですが、吉村知事はほとんど批判されていません。

口先だけでバラ色の話をして人気を集め、その話が嘘になってもほとんど批判されないとなると、人間、味を占めるのは当然です。
吉村知事の「やってる感」の政治は、半分マスコミがつくったようなものです。


「やってる感」の政治を始めたのは、安倍前首相だと思います。
安倍前首相は、経済については、アベノミクスが2年ほどで限界に達してからは、新卒内定率、有効求人倍率、株価などよい数字だけを強調して、見せかけに走るようになりました。
外交についても、「外交の安倍」などと言われましたが、成果と言えるものはなにもありません。
とくに対ロシア外交は、北方領土は2島返還すらむずかしくなり、経済協力も進まず、最悪でしたが、安倍前首相はプーチン大統領と26回も首脳会談を重ねて、「やってる感」を演出しました。

マスコミはこうしたやり方をほとんど批判しませんでした。
安倍前首相のパフォーマンスが巧みだったこともあり、支持率の高い首相を批判するのはリスクが高いと判断したのでしょう。
その流れが今も続いているのだと思います。

菅首相が「やってる感」を出すのは、そこに政権の延命がかかっているので、必死のところです。
マスコミが「菅首相は見せかけばかりに走っている」などと批判すると、それは政権つぶしも同然なので、政権からの反撃も覚悟しなければなりません。

現在、それだけの覚悟を持ったメディアは「文春砲」しかないようです。


「やってる感」の政治は、うわべに力を入れる分、中身がおろそかになります。
大阪府の新規感染者数が東京を上回ったのはそのためでしょう(小池百合子都知事も「やってる感」を出すことではかなりのものですが)。

マスコミの覚悟が問われています。