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気象行動サミットに出席した小泉進次郎環境相が「気候変動のような問題はセクシーであるべき」と発言したことが批判されています。
これは「セクシー」という言葉の問題ではなく、日本が石炭火力発電所を増設して温暖化対策に逆行しているから批判されたのです。

その前にこういうやり取りがありました。
記者から「石炭は温暖化の大きな原因だが、脱石炭火力に向けて今後どうする?」と質問された小泉氏。即座に「減らす」と答えたが、記者から「どのように?」と具体策を尋ねられると答えに詰まった。6秒間の沈黙後、出てきたのは「私は大臣に先週なったばかり。同僚、環境省スタッフと話し合っている」と苦しいコメント。
隣に座るクリスティアナ・フィゲレス国連気候変動枠組条約前事務局長から「これは日本だけの問題ではない。彼は大臣になって10日、何をすればいいのか分からなくても驚かない」と助け舟を出してもらい、その場を乗り切った。
https://news.livedoor.com/article/detail/17127982/
9月23日にはニューヨークで日本に対する抗議デモが起き、デモ参加者は「いまだに石炭火力発電所にこだわっているのは先進国で日本だけだ」と主張しました。

日本は省エネやリサイクルや太陽光発電への補助金政策などを進めて、環境問題では世界でもっとも先進的な国のひとつでしたが、いつのまにか遅れた国になっていました。
小泉環境相の言葉がだめなのではなく、日本の環境政策がだめなのです。


気象行動サミットでもっとも目立ったのは、16歳のスウェーデン人の環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんでした。
トゥーンベリさんは約5分間、世界のリーダーたちの前で、激烈な調子でスピーチしました。



その言葉は、たとえばこんな具合です。
多くの人たちが苦しんでいます。多くの人たちが死んでいます。全ての生態系が破壊されています。私たちは大量絶滅の始まりにいます。
それなのにあなたたちが話しているのは、お金のことと、経済発展がいつまでも続くというおとぎ話ばかり。恥ずかしくないんでしょうか!

あなたたちは、私たちを失望させている。しかし、若い世代はあなたたちの裏切りに気づき始めています。未来の世代の目は、あなたたちに向けられている。
もしあなたたちが裏切ることを選ぶのであれば、私たちは決して許しません。
16歳の少女がこういう場で自分の意見を述べるのは、日本では考えられません。
ネットでは例によって、「グレタ・トゥーンベリは親の操り人形だ」とか「環境活動家に利用されている」といった声が出ています。
欧米では環境問題を訴える大学生や高校生の「学校ストライキ」が行われていますが、日本ではありません。9月20日には163の国と地域で一斉デモが行われましたが、日本でのデモは大した規模ではありませんでした(これらの学校ストライキやデモは、トゥンベリさんが昨年8月、一人で学校を休んでストックホルムの議会前に座り込んだことから始まったものです)。

日本は温暖化対策でも遅れをとっていますが、若者の政治参加という点でも遅れをとっています。おそらく先進国では最低レベルでしょう。


トゥーンベリさんの主張は、特別なものではなく、環境活動家が従来から主張してきたことです。
「環境正義」という言葉があります。裕福な人はよい環境で生活できるが、貧困層やマイノリティは環境破壊の被害者になりやすいとして、環境の公正を求めることです。気候問題については「気候正義」とも言います(この正義は力の正義ではなく、公共性の正義です)。

やはり正義を掲げた主張は強力です。
さらに、おとなの活動家が「子どもたちを犠牲にするな」と訴えるよりも、子どもが「私たちを犠牲にしないで」と訴えたほうが断然効果的です。
そういう意味では、環境活動家はトゥーンベリさんを利用しているといえないこともありません。
しかし、利用できるものは利用するのが賢明です。


日本も世界になにかを訴えたいときは、少女を前面に立ててやるのが効果的です。
しかし、残念ながら、若者の政治活動を抑えてきた日本には、そんな人材はいません。
いや、そもそも日本が世界に訴える「正義」がありません。

今、日本が訴えているのは元徴用工問題です。
安倍首相は元徴用工問題について「国と国との約束を守ってもらいたい」と主張していますが、要は金を払いたくないだけです。韓国側は元徴用工の人権問題として訴えているので、正義は韓国側にあります。

本来なら、環境問題や核廃絶や自由貿易などで日本は世界に正義を訴えられるはずでしたが、安倍政権はすべてだめにしてしまいました。

その主な理由は対米従属です。アメリカの主張に合わせていては正義はありません。
そして、もうひとつの理由は、軍国主義時代へのこだわりです。慰安婦問題も元徴用工問題も軍国主義時代のことです。安倍政権はこれらを正当化しようとしていますが、もちろんこんな訴えは世界に認められません。

本来なら日本が国連憲章の敵国条項を削除するよう要求することは、不公平を改めることですから、正義の主張です。アメリカや中国が認めなくても、日本は主張することで国際社会に存在感を示すことができます。
ところが、今の日本が敵国条項削除を要求すると、「枢軸国の復権」ととらえられかねません。


気象行動サミットに出席した小泉環境相は「きょう、開会式に出席して一番響いたのはグレタさんでしたね。自分の言葉で言ってるし、目に力があるし」 と語りました。
16歳の少女が国連で存在感を示し、一方、日本は存在感がないどころか抗議の対象でした。

日本はさっさと軍国主義時代へのこだわりを捨て、環境、人権、平和という今の問題に向き合わなければなりません。