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戦争に“大本営発表”はつきものです。

ウクライナのゼレンスキー大統領は3月3日の動画において、ロシア兵9000人近くを殺害したと主張しました。
一方、ロシア国防省は2日、ロシア軍で498人の死者が出ていると発表しました。
極端な数字の違いがあるのは、双方が“大本営発表”をしているからです。
中立的な情報を探してみましたが、見当たりません。
ただ、次の記事が参考になるかもしれません。

429対156…侵攻7日目「ロシアの被害がウクライナより多い」
開戦7日目を迎えるウクライナ・ロシア戦争でロシアの被害がはるかに多いという集計結果が出てきた。

民間軍事専門サイトのオリックスによると、2日現在の武器・車両・装備などロシア軍の物的被害は429台と集計された。一方、ウクライナ軍は156台だった。

オリックスはソーシャルメディアなどに出てきた写真を集計してこのような数値を出した。破壊の程度で破壊と損傷に分け、装備を遺棄したか敵が奪い取ったかも区別した。
(後略)
https://news.yahoo.co.jp/articles/87d367a0af587e5c61473e028baf254d68e4c7e7

ロシア軍の損害が多いといってもウクライナ軍の3倍ぐらいです。
ゼレンスキー大統領の言うロシア兵9000人殺害は、どう見ても過大です。


ウクライナ非常事態庁は、ロシアの攻撃により民間人2000人以上が死亡したと発表しています。
日本のテレビも、市街地や政府庁舎にミサイルが着弾するシーンや破壊された建物を繰り返し映して、民間の被害を強調しています。
ブリンケン米国務長官も6日、CNNの番組において、ロシア軍がウクライナの民間人を意図的に攻撃しているとの「極めて信頼できる報告」を米国が確認していると述べました。

ところが、国連人権高等弁務官事務所が3月2日に発表したところによると、情報収集が遅れているので実数はこれより多いという但し書きつきですが、ロシアがウクライナに侵攻を開始した2月24日から今月1日までに子ども15人を含む民間人227人が死亡、525人が負傷したということです。
その2日前の国連のグリフィス人道問題担当事務次長・緊急援助調整官の発表では、民間人の死傷者406人、うち死者は106人だったということです。

国連の発表が実態に近いのではないでしょうか。

ウクライナもロシアも“大本営発表”をしていますが、日本のメディアは中立ではなく、ウクライナ側に立って報道しています。
ゼレンスキー大統領を「英雄」のように持ち上げる報道も目立ちます。
戦争が始まるまでウクライナの世論調査で彼の支持率は20%程度だったのですが。


この戦争はロシアのウクライナに対する一方的な侵攻で始まったので、ロシアが悪いことは明らかです。
「ロシア=悪玉」となると、そこから自動的に「ウクライナ=善玉」というふうに考える人がいます。
さらに、冷戦時代の思考を引きずって、最初からアメリカやNATO側に立って考える人もいます。日本のメディアは完全にそうです。

そういうことから、「ウクライナ=善玉、ロシア=悪玉」の報道一色になっています。

これは愚かなやり方です。
戦争当事者の一方に肩入れすると、戦争の火に油を注ぐことになりかねません。



「善悪ではなく戦争反対の立場からロシアを非難しているのだ」という人もいるでしょう。
「戦争反対」の声を上げるのは正しいことです。
しかし、「戦争反対」の声を上げるべきはウクライナ問題だけではありません。

テレビがウクライナの都市にミサイルが着弾して爆発するシーンを映しているのを見ると、私はイラク戦争のときのバクダッドの光景を思い出します。
当時、CNNなどの取材陣がバクダッドのホテルにいて、アメリカの巡航ミサイルや空爆によるすさまじい爆発シーンをテレビは映し出していました。
当時のラムズフェルド国防長官はこれを「衝撃と恐怖作戦」と得意げに名づけていました。

アメリカはイラクにかいらい政権を樹立し、サダム・フセイン大統領をとらえて死刑にしました。
当時の小泉純一郎首相はいち早く「アメリカ支持」を表明しました。そして、のちにイラクのサマワに自衛隊を派遣しました。
日本人にはアメリカに反対する人もいましたが、日本全体としてはアメリカ支持と見なされてもしかたありませんでした。
世界の多くの国もそういう感じでした。

イラク戦争は、国連による根拠なしにアメリカが単独で始めた戦争です。今回のロシアによるウクライナ侵攻と基本的に同じです。
アメリカはイラクが大量破壊兵器を隠し持っているということを理由に戦争を始めましたが、結局大量破壊兵器はありませんでした。アメリカは開戦の理由にするために情報を捏造していたことが明らかになりました。

トランプ前大統領は、中国は新型コロナウイルスで世界に損害を与えたとして巨額の損害賠償を要求すると息巻いていましたが、ウイルスは自然界のものです。
アメリカがイラクに損害を与えたのは人為で、しかも故意ですから、こちらは巨額の損害賠償を要求されて当然です。
しかし、アメリカは損害賠償はもちろん、とくに謝罪もしていません。

アフガニスタン戦争もアメリカが単独で始めて、かいらい政権を樹立したということではイラク戦争と同じです。
NATO諸国の多くはイラクとアフガニスタンに軍を派遣して、アメリカの占領に協力しました。


プーチン大統領はイラク戦争とアフガニスタン戦争と同じことをしただけです。
アメリカが許されているなら自分も許されると考えたのでしょう。
ロシアのメディアはウクライナがひそかに核兵器開発をしているとか、放射性物質を拡散するいわゆる「汚い爆弾」を製造していると主張していますが、開戦理由を捏造するのも真似しているのかもしれません。

それから、プーチン大統領はNATOがどんどん東方に拡大してくるのを見て、自分もサダム・フセインと同じ運命をたどるのではないかという恐怖を感じて、それもウクライナ侵攻の動機になったかもしれません。

今、ロシアを非難している人たちが、アフガン戦争とイラク戦争のときも同じくらいの熱量でアメリカ非難をしていれば、今回のロシアによるウクライナ侵攻はなかったかもしれません。

「ロシアの戦争には反対し、アメリカの戦争には賛成か容認をする」というダブルスタンダードが世界を不安定にし、戦争の原因をつくっているのです。



今後のベストシナリオを想定すると、ウクライナの抵抗で戦争が長引き、ロシアは人的、経済的な痛手をこうむり、国民の反戦、反プーチンの声が高まり、プーチンの側近が離反し、ロシア軍兵士が第一次世界大戦のときのように反乱を起こし、ロシア軍が撤退して戦争が終わるというものです。
こうなれば世界の人たちは戦争が不利益しか生まないということを理解して、今後戦争をしなくなるに違いありません(ほんとうはアメリカがアフガンとイラクで失敗したのを見てそうなるはずでしたが、プーチンだけは理解していなかったのです)。

しかし、今は間違った動きもあります。国際パラリンピック委員会や国際スケート連盟がロシア人選手の出場禁止を決めました。これに対してロシアのパラリンピック選手が「ロシア敵視だ」と反発し、フィギュアスケート金メダリストであるエフゲニー・プルシェンコ氏は「人種差別をやめろ」と主張しました。
悪いのはプーチン氏であってロシア国民ではありません。
こんなやり方ではロシア国民がプーチン氏のもとで結束してしまいます。

ロシア国民に対しては、ともに戦争反対に立ち上がるように呼びかけるのが正しいやり方です。