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6月9日のNHKニュースより

拉致問題の象徴的存在だった横田滋さんが6月5日、87歳で亡くなりました。
1977年、横田さんが45歳のときに長女めぐみさんが行方不明になり(のちに北朝鮮による拉致と判明)、それからは運命と政治に奔弄される人生でした。

横田さんはいかにもおだやかそうな人柄で、奥さんの早紀江さんも同じですから、この夫婦が娘を返してほしいと訴えると、国民の心に響きました。
拉致問題の象徴的存在に祭り上げられたのは当然ではありました。

北朝鮮は拉致を認めて謝罪したとき、13人を拉致して、めぐみさんを含む8人が死亡と発表し、5人を日本に帰国させました。
このときは、8人の死亡は多すぎるのではないか、ほかにも拉致した日本人がいるのではないかと強く疑われました。北朝鮮で恵まれた生活をしていた人は帰国させられますが、非人道的な扱いをされていた人は隠されたに違いないからです。

北朝鮮は、めぐみさんは自殺したとして、2004年にめぐみさんの遺骨と称するものを日本に送ってきましたが、DNA鑑定の結果、めぐみさんとは一致せず、別人のDNAが検出されました。
これによって、「めぐみさんは生きている」ということが確かな事実のように思われました。
脱北者などで「めぐみさんと会ったことがある」と証言する人も出てきて、“確信”はさらに強まりました。

しかし、「死んだ証拠がない」と「生きている」は違います。
かりにめぐみさんが生きていて、北朝鮮が「自殺した」という嘘の発表をしたとすると、北朝鮮はその嘘がバレないように、早晩めぐみさんを殺すに違いありません。
北朝鮮がいつまでもめぐみさんを生かし続けているということはまったく考えられないことです。

しかし、横田夫妻はめぐみさんが生きていると信じたい。国民もその心情がよくわかる。人のいい横田夫妻を傷つけたくない。そのため、「めぐみさんは死んだだろう」ということを誰も言えません。
横田夫妻の人柄が日本国民の間にタブーをつくりだしたのです。

もちろんそれだけではなく、拉致問題を大きくして、北朝鮮と日本を敵対させたいという政治勢力も背後にありました。


滋さんも、うすうすめぐみさんの死を理解していたのではないでしょうか。
2014年3月の11日から13日にかけて、横田夫妻はめぐみさんの娘のキム・ウンギョンさんとウランバートルで面会しました。そのときにめぐみさんのこともいろいろ聞いて、その生死も理解したに違いありません。

『「もう一度ウンギョンさんに会いたい…」横田滋さん“本当の願い”を封じたのは誰か』という記事によると、滋さんは「もう一度ウンギョンさんに会いたい」と語っていたということです。
この言葉には、めぐみさんと会うことを諦めた思いが感じられます。


日本政府が認定した拉致被害者は17人です。もっとほかにもいるかもしれません。
日本政府は生存者を帰国させるよう要求していますが、不可能な要求です。
非人道的な扱いを受けていた人を帰国させたら、北朝鮮に不利な証言をしますから、北朝鮮がそんなことをするわけがありません。
生かしておいて、脱北されても困ります。
残虐な処刑をいくらでもする国ですから、もうすでに消されているに違いありません。

もちろん100%死亡したと決めることはできませんが、問題としては棚上げして、外交を前に進めるべきです。

ちなみに韓国では、政府認定の北朝鮮による拉致被害者が500人いますが、外交上の障害にはなっていません。


9日の記者会見で、早紀江さんは今後のことについて、「何年たってもめぐみを必ず取り戻すため、子どもたちの力を借りながら頑張っていきたい」と語り、息子の哲也さんは「父が果たせなかった遺志を受け継いで、墓前で『帰ってきたよ』と報告することが使命だと思っています」と語りました。

「めぐみさんは生きている」というのは、全国民が横田夫妻のためについた壮大な嘘です。
いつまでこの嘘は続くのでしょうか。