村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

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移民問題について論じるときに、「われわれは労働力を呼んだが、やってきたのは人間だった」という言葉がよく引用されます。スイスの作家マックス・フリッシュの言葉だそうです。
この言葉は問題の本質を的確についています。
「われわれ」は、労働力を人間と思っていなかったのです。
「人間でない労働力」があるのかと突っ込みたくなりますが、考えてみると「人間でない労働力」がありました。
それは「奴隷」です。
 
ヨーロッパの歴史を見ると、奴隷に大きな存在感があります。
古代ギリシャや古代ローマでは人口の半分以上が奴隷だったといわれ、奴隷が労働の主な担い手でした。マルクスが原始共産制、奴隷制、封建制と生産様式で時代区分したのもわかります。
ヨーロッパ人は殖民地にも奴隷制を持ち込み、アメリカ合衆国はもちろん、西インド諸島、ブラジル、アルゼンチンなどに黒人奴隷を連れていき、南アフリカなどでも黒人奴隷を使っていました。
フランス革命以降、フランスやイギリスで奴隷制が廃止され、アメリカ合衆国の廃止は最後でした。
 
奴隷制は世界に広く存在しましたが、ウィキペディアの「中国の奴隷制」によると、「殷代には少なくとも中国で奴隷制が確立し、この時点で人口の5%が奴隷であったと推定される」とあり、数が全然違います。
「魏志倭人伝」には倭国が「生口」(奴隷)を魏王に献上したという記述があり、王に献上するぐらいですから、“貴重品”だったのでしょう。
 
奴隷というのは基本的に、戦争に勝った側が負けた側を奴隷にするものです。古代ギリシャ・ローマは周辺民族とつねに戦争をしていましたから、奴隷が多くなったのでしょう。
 
考えようによっては、江戸時代の農民などで、領地からの移動が制限され、過酷な年貢を取り立てられていれば、実質的には奴隷と変わりません。しかし、領主と領民はどちらも同じ人間という認識だったでしょう。インドのカースト制なども同じです。
古代ギリシャ・ローマでは、奴隷は外部から連れてきた異人種や異民族なので、同じ人間という認識がなかったと思われます。
 
「外部から労働力を連れてくる」というのはヨーロッパ人の伝統的な発想なのです。
 
現在、ヨーロッパでは極右などの移民排斥を主張する声が高まって、それに対して差別的だという批判も高まっています。
しかし、移民政策を推進してきた人たちの「外部から労働力を連れてくる」という発想自体が奴隷制時代を引きずった差別的な発想だったのです。
移民推進派も移民排斥派も同じ穴のムジナです。
 
 
日本は島国で、戦争相手も異人種や異民族ではないので、「外部から労働力を連れてくる」という発想がありません。
ですから、日本は移民政策をとってきませんでした。
結果的にそれがよかったのではないでしょうか(あくまで移民のことで、難民に極度に門戸を閉ざしてきたのはよくありません)

なお、ヨーロッパで移民政策が推し進められていたころ、日本では産業用ロボットの開発と普及が世界に先駆けて進んでいました。日本人にとってはロボットが「人間でない労働力」だったのです。
 
現在、安倍政権は「外部から労働力を連れてくる」というヨーロッパ型の移民政策を実行しようとしています。
これ自体が差別的政策なので、日本に差別や分断による混乱がもたらされるのは明らかです。

八方ふさがりの安倍外交ですが、突破口を見つけたのでしょうか。
安倍首相は1114日、訪問先のシンガポールでロシアのプーチン大統領と会談したあとの記者会見で、 1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させることで合意したと述べました。
「日ソ共同宣言を基礎に」とは二島返還という意味です。日本が二島で納得するなら現実味のある話になります。
 
しかし、二島返還にせよ実現するにはハードルが高そうです。
 
まずロシア側の問題があります。
プーチン大統領はさっそく「日ソ共同宣言には日本に島を引き渡すとは書かれているが、どの国の主権になるかは書かれていない」「歯舞と色丹の二島を日本に引き渡したとしても、必ずしも日本の領土とはならない」などとおかしなことを言っています。
二島を高く日本に売りつけるつもりなのでしょう。
これからの交渉がたいへんです。
 
 
それから、アメリカ側の問題があります。
プーチン大統領は北方領土返還ができない理由として、返還するとそこに米軍基地ができる可能性があるからだと前から述べていました。今回安倍首相は、返還されても米軍基地を置くことはないとプーチン大統領に伝えたということです。
ということは、安倍首相はアメリカと交渉して内諾を得ているのかと思いましたが、その後の報道を見ていると、そういうことではなさそうです。
 
「アメリカが基地をつくりたいと言っても、日本が拒否すればいいだけの話ではないか」と思われるかもしれませんが、属国である日本に拒否権はありません。もしあったら、プーチン大統領もそんなことは言いません。
 
このへんことは次のサイトに詳しく書かれています。
 
なぜ日本はアメリカの「いいなり」なのか?知ってはいけないウラの掟
 
安倍首相はトランプ大統領との個人的なつながりで話をつけられると見たのかもしれません。
しかし、そうするとトランプ大統領は得意のディールで見返りを求めてくるでしょうから、こちらでも高くつきそうです。
 
 
それから、日本国民を二島で納得させるという問題があります。
 
これまで政府は「北方領土は国後、択捉、歯舞、色丹」と繰り返し、「北方四島」という言い方もしてきました。
安倍首相も「日ソ共同宣言を基礎に」と言いながら「二島」とは明言していません。ここにごまかしがあります。
「二島先行返還」という言葉もあります。これだと「先行」のあとがあるのかと思わされますが、これもごまかしです。
鈴木宗男氏は「二島+α」という言い方をしますが、これも同じです。
四島を二島と二島に分けて返還するなどはありえません。二島返還は二島だけで終わるに決まっています。
 
そもそも日ソ共同宣言では「歯舞、色丹」の二島だったのに、なぜ政府は「北方領土は国後、択捉、歯舞、色丹」というようになったのかというと、これには「ダレスの恫喝」があったからだとされています。
アメリカは日本がソ連と平和条約を締結するのを阻止したかったのです。
日本は恫喝に屈して、平和条約締結を六十年余りも棚上げにしてきました。
棚上げにする理由が領土問題です。
 
サンフランシスコ講和条約で日本は千島列島を放棄しました。このことを否定する人はいません。
グーグルマップで見るとわかりますが、千島列島はひとつの列になっていて、「国後、択捉」はその列の中にあり、南千島と呼ばれてきました。
「歯舞、色丹」は根室岬の先にあって、別の列をなしています。
ですから、「歯舞、色丹」は千島列島ではないという主張はそれなりに妥当と思われます。
しかし、「国後、択捉」が千島列島ではないという主張は、どう考えてもむりがあります。
 
ところが、日本政府は「国後、択捉」は千島列島には含まれない「固有の領土」であるとして、四島返還を主張してきたのです。
これは詭弁である上に日ソ共同宣言にも反するので、日ソ関係がうまくいかなくなるのは当然です。
 
しかし、冷戦も終わり、安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を目指しているのですから、四島返還などという不当な要求を取り下げるのは当然です。
ただ、その場合、安倍首相は「これまで日本政府が国後、択捉は千島列島に含まれないと主張してきたのは間違いでした」と言って、国民に謝罪しないといけません。
そうすると国民も二島返還で納得するはずです。
 
ところが、今のところ安倍首相は「二島先行返還」といった言葉を使ってごまかすつもりのようです。
嘘に嘘を重ねる「戦後レジーム」はまだまだ続きそうです。
 

10月2日に発足した第4次安倍改造内閣を安倍首相は「全員野球内閣」と名づけました。
思わず失笑しかけたのですが、失笑するほどおかしくもありません。
なにも目標がないから「全員野球」と言ったのでしょう。
新閣僚の顔ぶれを見ても、入閣待望組の中から安倍首相に近い考えの人間を入れただけです。やるべきことがあれば実力者を配置するはずです。
「目標喪失内閣」とか「やる気なし内閣」と名づけたいところです。
 
党役員には改憲に向けた人間を配置したと言われ、安倍首相も改憲を口にしていますが、これはポーズだけだと思います。解釈改憲をして安保法制を成立させたので、改憲する実質的な理由がなくなっています。
そもそも安倍首相は去年の憲法記念日に、憲法九条に第三項を加えて自衛隊を明記するという「加憲案」を提示し、年内にまとめると表明しました。ところが、年内どころか今になってもまとまっていません。
改憲派は改憲案が具体化しそうになると方針を転換するということを繰り返してきました。「理想の改憲案」という青い鳥を追いかけているのです。
 
安倍政権は安保法制、共謀罪、カジノ法、裁量労働制など、やるべきことをほとんどやりました。すべてアメリカと財界のためです。これ以上やることがなくなって、目標喪失になったのはわからないでもありません。
 
それから、森友加計問題が影響していることも考えられます。
安倍首相は国民に嘘をつき通したため国民に顔が向けられなくなって、なにか目標を提示して国民を引っ張っていくということができなくなったのでしょう(とすると安倍首相にも多少の良心があったことになります)
 
国民に顔が向けられないということでは、外交もそうです。
安倍首相は昨年9月に国連総会で演説したときは、演説の8割を北朝鮮問題に割いて、制裁と圧力の必要性を説きました。ところが、今年の国連総会の演説では、北朝鮮問題にはわずかに触れただけで、制裁も圧力も言わず、代わりに「金正恩委員長と直接向き合う用意があります」と言いました。もちろんトランプ政権に追随したためですが、安倍首相はそのことを説明していません。
北方領土問題についても、安倍首相はプーチン大統領との個人的信頼関係でうまくいくようなイメージをふりまいていましたが、まったくうまくいっていないことが明らかになりました。
トランプ大統領との個人的信頼関係もアピールしてきましたが、日本が通商問題で二国間交渉に応じることについてトランプ大統領は、「『交渉しようとしないならあなたの国からの車にものすごい関税をかける』と言った。そうしたら日本は『すぐに交渉を始めたい』と言ってきた」と語り、恫喝されている実態がバレてしまいました。
これまで「外交の安倍」を誇ってきましたが、そういう顔もできなくなったわけです。
 
これまで経済が比較的好調だったことも安倍政権の支持率の高さにつながってきましたが、経済の好調さは異常な低金利と財政赤字拡大のたまものです。これはいつまでも続けられないので、安倍政権が終わるまでに金融政策の出口と財政再建の道筋を示すべきだというプレッシャーが強まりつつありますが、安倍首相は具体的な方針を示していないので、これについても国民に合わす顔がありません。
 
朝日新聞は今回の内閣改造について「組閣内向き」という見出しを掲げていましたが、国民に合わす顔がないために内向きになったのです。
 
考えてみれば、安倍政権はこれまで嘘とメディア操作で人気を保ってきたわけで、ここにきてさすがにそれが通用しなくなったのでしょう。
そして、安倍首相にその事態を打開する気力もアイデアもないようです。
「全員野球内閣」という言葉にそれが表れています。

杉田水脈議員の「LGBTは生産性がない」から始まった騒ぎは、「新潮45」の休刊という事態に至りました。
しかし、これで終わりとは限りません。新潮社の「休刊のお知らせ」にはっきりした謝罪がなかったからです。
 
そもそも杉田議員の「LGBTは生産性がない」が問題になったとき、杉田議員が間違いを認めて謝罪すれば、それだけのことでした。
しかし、杉田議員は「"ゲイを名乗る人物"から脅迫活動を受け」たことを理由に、いっさいの発言をやめ、自民党の二階幹事長は「人それぞれ人生観がある」「こういうことは大げさに騒がないほうがいい」と擁護し、自民党も杉田議員に対してなんの処分もしませんでした。
杉田議員は安倍首相のお気に入りです。当然そこには安倍首相の意向があったものと思われます。
 
杉田議員に今後も活躍してほしいと思う人がいれば、ここは謝罪したほうがいいよとアドバイスするはずです。
しかし、事態は逆に動きました。「新潮45」は『そんなにおかしいか「杉田水脈」論文』という特集を組みました。
 
これを炎上商法という人がいます。そういう意味もあったかもしれませんが、休刊になってしまえば、“商法”としては失敗です。
むしろこれは安倍首相への“忖度”でしょう。安倍首相は杉田議員を応援しているのが明らかだからです。
 
そういう意味では、この騒動の陰の主役は安倍首相です。
「新潮45」の特集に寄稿した7人はほとんどが安倍応援団みたいな人です。
いちばん炎上した小川榮太郎氏は、安倍首相礼賛本を書いています。特集への寄稿では「LGBTという概念については私は詳細を知らないし、馬鹿らしくて詳細など知るつもりもないが」と書いています。知らないテーマについて書くから炎上したのですが、なぜ書いたかというと、安倍首相を応援したいからでしょう。
 
小川氏は特集の文章が炎上したことについてツイッターで「私の文章をそう読める人達の頭が大丈夫でないことだけは確かだ」などと反論して、謝罪はしていません。
 
杉田議員も新潮社も小川氏も、謝罪しない人ばかりです。
 
そして、考えてみれば、安倍首相も謝罪しない人です。
 
前にこのブログで書いたことですが、昭恵夫人は産経新聞紙上で曽野綾子氏と対談したとき、「けんかをしても晋三先生の方がさっさと謝られるのでは? 性格的に」と聞かれて、「そういえば、謝らない! 『ごめんなさい』というのを聞いたことがないです」と答えています。
 
慰安婦問題についての日韓合意は、オバマ政権から迫られていやいやしたものですが、そこには「安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する」という文章があります。しかし、これは岸田外相が読んだだけで、安倍首相の口から語られたことはありません。そのため、謝罪したのかしないのかよくわからないことになっています。
 
同様に安倍首相は、村山談話や河野談話を「継承する」と言っていますが、談話にある「心からのお詫び」という言葉を自分の口で言ったことはありません。
 
LGBT差別も問題ですが、それだけでなく、謝罪するべきことを謝罪しないという風潮が世の中に蔓延しています。
これも安倍長期政権のせいです。
 

そのとき、ほとんど死語となった“ジャパニーズスマイル”という言葉を思い出しました。
東方経済フォーラムにおいて安倍首相がプーチン大統領から「前提条件なしに年内に日露平和条約を締結しよう」と提案されて笑みを浮かべるのを見たときです。
 
ジャパニーズスマイルは、日本人が欧米人に対して浮かべる意味不明の笑いのことです。たいていは言葉がわからないためですが、言葉がわからなければ、「わけのわからんことを言うな」と不機嫌な顔をしてもいいはずです。笑みを浮かべるのは、日本人の欧米人に対するコンプレックスです。
安倍首相にも欧米コンプレックスがあるのでしょうか。
 
 
安倍首相は201612月に安倍首相の地元・山口県にプーチン大統領を招いて日露首脳会談を行いましたが、このときは北方領土返還が実現するのではないかという期待が大いに盛り上がっていました。しかし、プーチン大統領は北方領土返還についてはゼロ回答で、3000億円の経済協力だけ合意しました。日本としてはぼったくられた格好です。
 
しかし、安倍首相は会談のあと、各局のニュース番組に出まくって、日露首脳会談は成功したというイメージをふりまきました。で、安倍政権のマスコミ支配がうまくいっていることもあって、そのイメージ戦略がけっこう成功しました。
以来、北方領土返還問題はまったく進展しないのに、安倍首相は日露関係はうまくいっているというイメージ戦略を続けています。
 
そのひとつがプーチン大統領を「ウラジミール」と呼んで親密ぶりをアピールすることですが、プーチン大統領は「シンゾウ」とは呼びません。
中島みゆきの「ひとり上手」という歌が思い出されますが、安倍首相にはたくさんの安倍応援団がついているので、「ひとり大本営発表」といったほうがいいでしょうか。
 
もちろんプーチン大統領はすべて見抜いています。そして、経済協力の進展が遅いことに不満を募らせていて、「前提条件なしに日露平和条約を」という発言が飛び出すのですが、この発言には伏線がありました。
 
安倍首相はプーチン大統領を含む各国首脳の前で講演し、このように語りました。
 
「日本とロシアには、他の二国間に滅多にない可能性があるというのに、その十二分な開花を阻む障害が依然として残存しています。それこそは皆さん、繰り返します、両国がいまだに平和条約締結に至っていないという事実にほかなりません」
「プーチン大統領、もう一度ここで、たくさんの聴衆を証人として、私たちの意思を確かめ合おうではありませんか。今やらないで、いつやるのか、我々がやらないで、他の誰がやるのか、と問いながら、歩んでいきましょう」
「プーチン大統領と私は、今度で会うのが22回目となりました。これからも機会をとらえて、幾度となく会談を続けていきます。平和条約締結に向かう私たちの歩みをどうか御支援を皆さん、頂きたいと思います。力強い拍手を、聴衆の皆さんに求めたいと思います。ありがとうございました」
 
聴衆の拍手まであおって、「平和条約締結を目指す安倍首相」をアピールしています。
安倍首相は総裁選のさなかなので、国際会議の場を自身の選挙運動に利用したのです。
 
ちなみにこの講演で安倍首相は、領土問題に関することは一言もいっていません。
 
プーチン大統領がこの講演を聞いて、領土問題は後回しにして平和条約締結を先にしようと提案したのは当然です。その場の思いつきではあっても、安倍首相の発言に呼応しています。
 
すべては安倍首相の「日露関係はうまくいっている」というイメージ戦略、あるいは「ひとり大本営発表」のせいです。
なぜそんなことをするのかというと、欧米へのコンプレックスとしか考えられません。
安倍首相はトランプ大統領に関しても、個人的な親密さをアピールし、「日米関係はうまくいっている」というイメージをふりまいています。
一方、北朝鮮、韓国、中国に対しては、ぜんぜんそんなことはしません(最近、中国に対しては少し変わってきていますが)
欧米には卑屈になり、アジアには威張るという昔の日本人のままです。
 
麻生太郎財務相は9月5日、盛岡市の講演で、「G7の国の中で、我々は唯一の有色人種であり、アジア人で出ているのは日本だけ」と述べました。
これはなにを言っているのかというと、日本人は有色人種あるいはアジア人の中でいちばんだということを自慢しているのです。
これは白人の有色人種に対する差別を前提としていますから、麻生財務相は白人に対してコンプレックスを持っているに違いありません。
 
安倍首相も麻生財務相も欧米コンプレックスの持ち主なので、まともな外交ができません。
 
安倍首相がプーチン大統領の提案に笑みを浮かべるだけでなにも言えなかったのは、突然のことだからしかたがないと擁護する意見もありますが、日本政府はプーチン大統領の提案に抗議などの反応はしないと決めました。
日本政府がプーチン大統領に対して“ジャパニーズスマイル”を浮かべているのです。
 
人種差別というと、差別する側がもっぱら批判されますが、卑屈に差別を受け入れる側も批判されなければなりません。

安倍首相は広島と長崎の平和祈念式、全国戦没者追悼式に出席し、式辞を述べました。
しかし、その言葉は白々しく、心が感じられません。
毎年同じ言葉だとか、核廃絶についての意志がないとか批判されますが、もっと根本的な問題があります。
それは「人の命」に対する認識です。

次が安倍首相の言葉です。
 
 
平成三十年 全国戦没者追悼式式辞
 天皇皇后両陛下のご臨席を仰ぎ、戦没者のご遺族、各界代表、多数のご列席を得て、全国戦没者追悼式を、ここに挙行いたします。
 苛烈を極めた先の大戦において、祖国を思い、家族を案じつつ、戦場に斃(たお)れた御霊(みたま)、戦禍に遭い、あるいは戦後、遠い異郷の地で亡くなった御霊、いまその御前(おんまえ)にあって、御霊安かれと、心より、お祈り申し上げます。
 今日の平和と繁栄が、戦没者の皆様の尊い犠牲の上に築かれたものであることを、私たちは片時たりとも忘れません。改めて、衷心より、敬意と感謝の念を捧(ささ)げます。
 未(いま)だ帰還を果たしていない多くのご遺骨のことも、脳裡(のうり)から離れることはありません。一日も早くふるさとに戻られるよう、全力を尽くしてまいります。
 戦後、我が国は、平和を重んじる国として、ただ、ひたすらに歩んでまいりました。世界をより良い場とするため、力を尽くしてまいりました。
 戦争の惨禍を、二度と繰り返さない。歴史と謙虚に向き合い、どのような世にあっても、この決然たる誓いを貫いてまいります。争いの温床となる様々な課題に真摯に取り組み、万人が心豊かに暮らせる世の中を実現する、そのことに、不断の努力を重ねてまいります。今を生きる世代、明日を生きる世代のために、国の未来を切り拓いてまいります。
 終わりに、いま一度、戦没者の御霊に平安を、ご遺族の皆様にはご多幸を、心よりお祈りし、式辞といたします。
平成30年8月15日
 

「御霊」という言葉を連発しています。
安倍首相としては、ほんとうは「英霊」と言いたいところでしょう。
 
人が死ぬと霊になるなら、死はそれほどいたましいものではないことになります。英霊になるならなおさらです。
そういうことから安倍首相の追悼の言葉には心がないのです。
 
なお、これは追悼式であって、慰霊式ではありません。
天皇陛下のお言葉には「霊」という言葉はまったく出てきません。
 
天皇陛下のおことば
全国戦没者追悼式 平成30815日(水)(日本武道館)
本日,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり,全国戦没者追悼式に臨み,さきの大戦において,かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い,深い悲しみを新たにいたします。
終戦以来既に73年,国民のたゆみない努力により,今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが,苦難に満ちた往時をしのぶとき,感慨は今なお尽きることがありません。
戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ,ここに過去を顧み,深い反省とともに,今後,戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い,全国民と共に,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。

 
本来なら天皇陛下は神道につながる存在ですから、霊を語ってもいいはずですが、「人の死」を直視しています。
そして、この世に生きる人間を幸せにするのが政治家の仕事なのに、安倍首相は「御霊」を語るという、おかしなねじれが生じています。
 
 
また、安倍首相は「今日の平和と繁栄が、戦没者の皆様の尊い犠牲の上に築かれた」と語っています。
「尊い犠牲」という言葉を、私は前から死を美化するものとして批判しています。
尊いのはあくまで命です。「尊い命がむごい犠牲になった」というべきです。
いや、「犠牲」という言葉も「神への捧げもの」という意味なので、少し死を美化しています。
ですから、「尊い命がむごく失われた」というべきです。
 
 
また、「祖国を思い、家族を案じつつ、戦場に斃(たお)れた御霊(みたま)」という表現も気になります。
 
人間における最大の感情は、生きたい、死にたくないというものです。
ですから、戦場にたおれた若い兵士を思うなら、もっと生きたかっただろう、恋愛して、結婚して、いろんな楽しいことをしたかっただろうということですし、妻子のいる兵士なら、もっと家族といっしょにすごしたかっただろうということです。
「祖国を思い、家族を案じつつ」という言葉には、「自分が生きたい」という肝心のものが抜けています。
安倍首相の頭にあるのは、「祖国と家族のために進んで自分の命を捧げる」という理想の兵士のイメージのようです。
 
これでは戦没者追悼の言葉に心がこもらないのは当然です。

安倍首相は自民党の改憲案を次の国会に提出する意向を表明し、それに対して石破茂氏が「スケジュール感ありきでやるものではない」と批判し、改憲問題が総裁選の争点になってきました。
しかし、安倍首相の正確な発言を見てみると、決して次の国会に改憲案を提出するとは言っていません。
 
安倍首相は8月12日、下関市での講演において、憲法改正について「いつまでも議論だけを続けるわけにはいかない。自民党としての憲法改正案を次の国会に提出できるようとりまとめを加速すべきだ」と述べました。
どの記事を見ても同じ表現です。
「次の国会に提出できるようとりまとめを加速すべきだ」ですから、次の国会に提出するとは言っていません。
安倍首相は節目ごとに「改憲への意欲」を表明してきましたが、まったく進展はありません。私はこれを「改憲やるやる詐欺」と言っています。
 
安倍首相は昨年の5月3日の憲法記念日に、九条の1項と2項はそのままに、自衛隊を明記した3項を追加するという案を提示し、年内にまとめると明言しましたが、まとまりませんでした。
そして今年の3月、自民党憲法改正推進本部の全体会合において、改正案のとりまとめを細田博之本部長に一任することになりました。
 
一任をとりつけた細田本部長はその後、改正案をとりまとめたのでしょうか。安倍首相が「とりまとめを加速すべきだ」と言ったところを見ると、なにもやっていなかったようです。
 
そもそも九条加憲案というのは、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と書かれた次の行に「自衛隊を保持する」と書くわけですから、そんなものはまとまるはずがありません(自衛隊を「実力組織」として「戦力」と区別する案が示されていますが、所詮はごまかしです)
 
安倍首相としては、総裁選に出馬するのになにも訴えることがありません。アベノミクスは惰性ですし、外交は全方位で行き詰まっています。そこで、「改憲に意欲を燃やしている」という演出をしたのでしょう。
しかし、安倍首相は2015年に解釈改憲をやって新安保法制を成立させたので、もはや改憲する意味がほとんどなくなっています。
 
このところの安倍首相は、「小人閑居して不善をなす」を地でいっていて、カジノ法案を成立させたり、サマータイム制度の検討を党に指示したりと、ろくなことをしません。
首相の椅子にしがみつくことしか考えていない人間はみっともないものです。
 
石破氏は「スケジュール感ありき」を批判しましたが、私の考えは逆です。
安倍首相は改憲のスケジュールを公約にして、改憲の発議まで持っていくべきです。
もちろん国民投票をすれば改憲案は否決されるはずです。
そうすれば、日本の政治から改憲問題がなくなり、必要な課題にエネルギーを集中できます。
 
改憲問題がなくなることも“戦後レジームからの脱却”です。

一度は退治したと思ったゴキブリが猛暑に乗じてわき出てきた感じです。
東京五輪大会組織委員会の森喜朗会長がオリンピックの暑さ対策としてサマータイム制度の導入を口にしたとたん、安倍首相が自民党に指示するなどして、実施への動きが加速しています。
 
サマータイムを導入したがるのはろくでもない人たちです。
というのは、2004年から「北海道サマータイム特区構想」として実験が行われていましたが、サマータイム実施国のほとんどが緯度の高い国です。つまり成功しやすいところで実験したのです。北海道で実験するなら同時に九州か沖縄でもするべきですし、どうしても一か所でしかしないなら、中部地方でするべきです。最初から「導入ありき」のインチキな実験でした。
 
しかし、そういうインチキな実験をしても反対論がどんどん強くなり、最終的に2012年に日本睡眠学会がサマータイム導入で健康障害が起こる可能性があるとの報告を出して、これでサマータイム導入の動きは息の根を止められました。
 
日本睡眠学会の一般向けの報告はこちら。
 
「サマータイム―健康に与える影響―」
 
これで終わったと思っていたら、森喜朗会長の一言からまたぶり返しました。
もともとサマータイム導入は経済界と経産省が望んでいたものですが、よほど大きな利権があるようです。
 
しかし、反対論も強力です。健康問題に加えて、IT関係で膨大なコストがかかるとも言われています。アジアで導入している国はないということや、ヨーロッパでも反対論が強まっているということなども紹介されています。
ただ、反対論は出尽くしているようでも、文化的な面については意外と誰も指摘していないので、それについて書いてみます。
 
たとえば、日本人特有の季節感の問題です。
日本人が秋の訪れを感じるのは、虫の声とか紅葉とかうろこ雲とかいろいろありますが、いちばんわかりやすいのは、「秋の日はつるべ落とし」というように、日が短くなったなあということです。ところが、サマータイム制になると、日没時刻や日の出時刻で季節の変化を感じるということができなくなってしまいます。
日本文化における季節感の重要性を思えば、季節感を狂わせるだけでもサマータイム制を否定する十分な理由になるのではないでしょうか。
 
それから、「時間を変える」あるいは「時間を支配する」ということは、本来人間にはできないことで、“神の領域”です。
こういう発想はキリスト教特有のものです。キリスト教では、神と人間の間に葛藤があり、人間はつねに“神の領域”を侵そうとして、ときに神から罰せられたりします。
サマータイム制がもっぱら欧米で行われているのもそのためです。
サマータイム制では、時間を決める権力者がまるで神のように民衆を支配している格好になります。
 
別の例をあげれば、ニワトリは日照時間の長くなる春によく卵を産んで、日照時間の短くなる秋にはあまり卵を産まないという性質があるので、養鶏場では人工的な照明で秋を感じさせないようにしています。サマータイム制はそれに似ています。労働者を家畜のように管理して、よく働かせるための制度です。
 
 
日本で政治家や官僚が執拗にサマータイム制の導入をはかるのは、そういう支配者気分を味わいたいということもあるのかもしれません。
 
ともかく、今回のサマータイムの話はあまりにも唐突だったため、たぶんうまくいかないと思いますが、自分たちの利権のことしか考えない人たちが日本にいかにたくさんいるかということを思い知らされました。
そういう利権屋は、安倍政権の今こそチャンスだと思って、ゴキブリのようにはい出てきたのでしょう。

安倍首相は8月6日の広島平和祈念式でスピーチをしましたが、その内容は去年のものとほとんど同じでした。
この一年間に、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のノーベル平和賞受賞、朝鮮半島の非核化を含む米朝合意の成立、昨年7月に採択された核兵器禁止条約の署名国の増加など、核を巡る状況は激変しています。
安倍首相は思考停止に陥っているようです。
 
安倍首相は総裁選の選挙運動も熱心にしていますが、政策や理念を訴えるということはしません。ここでも思考停止です。
 
安倍首相は内政でも外交でも、アメリカ追随が基本です。
いや、これは自民党の基本です。自民党は結党のときからCIAの資金提供を受けていました。
安倍政権は2016年に新安保法制を成立させ、アメリカ追随すなわち“売国”を完成させました。
これによって安倍首相は外交安保に関する目標を失いました。
 
九条改憲は、安倍首相にとってはライフワークのようなものでしたが、安保法制のときに解釈改憲をしたので、改憲の価値が半減してしまいました。
 
もともと右翼にとって九条改憲は、戦前回帰への象徴的な意味と、アメリカの要請に応えるという現実的な意味と、ふたつの意味がありましたが、解釈改憲をしたので、現実的な意味はなくなりました。
ですから、最近の安倍首相は九条改憲の目的を、「多くの憲法学者が自衛隊を違憲というから」とか「『お父さんの仕事は憲法違反なの?』と問う自衛隊員の子どもがかわいそうだから」とか言っています。
そんな理由で手間のかかる改憲をするのは、誰が考えても愚かなことですから、もはや改憲は不可能になったと思われます。

対米従属が完了すれば、もはや外交安保で日本が自主的に動けることはありません。 
ということで、安倍首相は目標を失って、思考停止に陥ってしまったのです。
 
総裁選に出馬するのも、なにかやりたいことがあるからではなく、首相の椅子にしがみつきたいという権力欲だけです。
しかも、森友加計問題で嘘をつき通したために、国民に対して直接語りかけるということができません。
 
目標がないのは、総裁選における対抗馬である石破茂氏も同じです。
石破氏は外交安保について安倍首相との違いを示していません。改憲については違うと言っていますが、どちみち改憲は不可能なことなので、たいした意味はありません。
 
解釈改憲をして安保法制を成立させたことで、安倍首相は“戦後レジーム”を完成させ、売国政党である自民党も役割を終えました。
これからは「アメリカからの自立」が外交安保のテーマになると思います。

「LGBTは生産性がない」で大炎上している杉田水脈衆院議員はいまだに謝罪せず、かといって自説の正当性を主張するわけでもありません。じっとしていれば嵐が過ぎ去ると思っているのでしょうか。
 
杉田議員は批判された当初、ツイッターで次のように反論していました。
 
「自民党に入って良かったなぁと思うこと。『ネットで叩かれてるけど、大丈夫?』とか『間違ったこと言ってないんだから、胸張ってればいいよ』とか『杉田さんはそのままでいいからね』とか、大臣クラスの方を始め、先輩方が声をかけてくださること」
LGBTの理解促進を担当している先輩議員が『雑誌の記事を全部読んだら、きちんと理解しているし、党の立場も配慮して言葉も選んで書いている。言葉足らずで誤解される所はあるかもしれないけど問題ないから』と、仰ってくれました。自民党の懐の深さを感じます」
 
正確には「反論」ではありません。自分にはこんなに味方がいると言っているだけです。
これに対しては「先輩議員とは誰だ」「自民党はそんな党か」と批判が拡大し、これらのツイートは削除されました。
もっとも、削除の理由は次のようなものです。
 
『先日、自分はゲイだと名乗る人間から事務所のメールに「お前を殺してやる!絶対に殺してやる!」と殺人予告が届きました。これに対して被害届を出しました。警察と相談の上、一連のLGBTに関連する投稿は全て削除いたしました』
 
殺人予告があったから削除したわけで、自分のツイートが間違っていたことを認めて削除したわけではありません。
7月23日のこのツイートを最後に、今のところ杉田議員はなんの発信もしていません。
 
杉田議員の対応を見ていると、ほかの人も指摘していましたが、ひじょうに「幼稚」な感じがします。
 
 
杉田議員はどういう人でしょうか。ウィキペディアによると、鳥取大学農学部卒、住宅メーカー、西宮市役所勤務を経て、日本維新の会より出馬して衆院議員に当選、次の選挙で落選しましたが、落選中に右翼的な言論活動で注目され、安倍首相が「杉田さんは素晴らしい」と絶賛して自民党から出馬して当選したということです。
 
稲田朋美議員もそうですが、安倍首相は右翼的なことを言う若い女性が大好きなようです。
安倍首相だけでなく、右翼業界ではこういう女性は喜ばれます。杉田議員としては、右翼的なことを言えば言うほど喜ばれるので、舞い上がってしまったのでしょう。
それだけに、その主張はまったくいい加減です。
たとえば「旧ソ連崩壊後、弱体化したと思われていたコミンテルンが息を吹き返しつつあり、そのターゲットが日本になっている」という陰謀論を主張し、保育所不足が騒がれるのは、「子供を家庭から引き離し、保育所などの施設で洗脳教育をする。旧ソ連が共産主義体制の中で取り組み、失敗したモデルを21世紀の日本で実践しようとしている」からだということです。
 
「コミンテルンの陰謀」というのは右翼業界ではよく出てくる説で、田母神俊雄氏は問題になった論文で、日本の真珠湾攻撃もコミンテルンの陰謀だと主張していました。その時代には実際にコミンテルンがありましたが、今の時代にコミンテルンが息を吹き返しているなどということはあるはずがなく、ネトウヨの主張としてももっとも低レベルのものです。誰かに批判されたら反論できないのは当然です。
 
右翼業界でしか通用しない幼稚な人間を政治家に引き上げてしまった安倍首相の罪は重いといわねばなりません。


【追記】
杉田議員は2日、事務所を通じて「自民党性的指向・性自認に関する特命委員会の古屋圭司委員長からご指導をいただきました。真摯に受け止め、今後研鑽につとめて参りたいと存じます」とのコメントを出しましたが、謝罪はしていません。

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