株価の乱高下が止まりません。「週刊現代」最新号は「恐怖のアベノミクス相場/素人は退場すべし」というタイトルですし、「週刊ポスト」は「どこよりも早い!アベノミクス大反省会」です。ついこの前まで買い煽りの記事を書いていたのに、その豹変ぶりにあきれてしまいます。
もっとも、一般のメディアが株価について悲観的な記事を書くと、そこで株価は底を打つという経験則があります。今回はどうでしょうか。
 
私は2005年から8年間株式投資をしてきましたが、その経験からいうと、株式投資をするにはプラス面とマイナス面があります。
 
マイナス面は、私の場合、とにかく収支がトータルでマイナスであることです。
株式投資を始めた翌年にライブドア・ショックがあり、2008年にはリーマン・ショックがありました。右往左往してよけいに損失を拡大しました。最近、アベノミクス効果でかなり取り戻したと思ったら、また損をしてしまいました。
もちろん同じ投資環境でも利益を出している人がいます。しかし、一般論として、経験の少ない人が利益を出すのはひじょうにむずかしいと思います。というのは、経験の少ない人はどうしても感情のままに売買することになり、そういう人は経験あるプロに負けてしまうからです。
株式市場というのは、将棋でいえば、駒の動かし方を覚えたばかりの初心者と、羽生善治、渡辺明、谷川浩司らのトッププロが入り混じって戦う場です。
 
それともうひとつのマイナス面は、株価の動きが気になって、本業がおろそかになってしまうことです。
誰でも会社勤めなどの本業があって、そのかたわらで投資をすることになるはずですが、最近のように株価が乱高下し、午前中は上がっていたのに午後になると大きく下げるといったことがあると、勤務時間中にも携帯やスマホで株価のチェックをしたくなるでしょう。そうすると仕事に集中できません。
 
最初から長期ホールドするという方針を決めておけば、短期の値動きはそれほど気にならないでしょう。しかし、それでも株価が上がればうれしいし、株価が下がれば気分が落ち込みます(値動きの少ない投資信託でも基本的に同じです)。つまり感情的エネルギーがそちらに取られてしまい、やはり本業に向けるエネルギーが少なくなってしまうのです。
ほとんどの人において、投資に力を入れるよりも、本業でのスキルアップに努めたほうが収入をふやすことができるはずです。
 
株式投資をやってプラスになったことというのは、必然的に経済について勉強し、経済についての知識がふえたことでしょうか。しかし、これもほんとにプラスになったかどうかよくわかりません。
というのは、経済というのは奥が深くて、どこまで学んでもきりがありません。アベノミクスについても専門家の評価が分かれるように、学んでいけば“真理”に到達できるというものでもないのです。時間のむだとまではいわなくても、やはり本業に集中したほうがいいのではないかという疑問は残ります。
 
では、ほんとうにプラスになったことはなにかというと、自分を知ることができたということです。
株式投資をやることで、人間はいかにお金に振り回される動物かということがよくわかりましたし、自分の行動や感情がいかに不合理であるかということもわかりました。
 
私は株式投資を始めた最初、トヨタ株を買ったり、人気がなくて割安なまま放置されているいわゆるバリュー株を買ったりしていましたが、当時は新興市場のIT企業などがどんどん値上がりしていました。私の持っている株はほとんど値動きがないので、つまらなくなり、よく値上がりしている株に買い換えていきました。するとどんどん成績がよくなり、ある株などは、私が買った翌日にストップ高になり、自分は株の天才かと思いました。初心者なのでかえってそのときの相場環境にうまく適応できたのです。
200512月には、私の持ち株は月間20%値上がりしました。
月間20%が複利で続いていくと計算すると、その利益は膨大なものになります。私は人生設計を変えなければならないと思いました。
ところが、2006年1月にライブドア・ショックが襲い、私はライブドア株こそ持っていませんでしたが、私の持っていた新興企業株は軒並み急落しました。
 
冷静に考えてみれば、月間20%の利益が複利で続いていくなどということはあるわけないのですが、自分のことになると冷静に考えられなくなるのです。
 
また、たとえば持ち株が値上がりし、このあたりで利益確定したほうがいいと思うのですが、前に持ち株を売ったあと、その株がさらに上がるのを見たときの「損した」という苦痛の感情が忘れられず、売りどきを逃してしまうということがあります。それから、持ち株が値下がりし、さらに下げそうだから売ったほうがいいと思うのですが、売って損失が確定するのがいやで売ることができず、さらに値下がりして、結局“塩漬け”株にしてしまうということもあります。
これらのことは誰でもが経験することです。これで損したまま市場から退場してしまう人がいっぱいいます。
 
私は自分自身のこうした不合理な感情に直面して、自分自身について考え直す機会を得ました。その際、経済における不合理な行動について研究する行動経済学という学問が役に立ちました。
最近、行動経済学は一種のブームで、本もいっぱい出ています。
 
ともかく、株式投資をすることで、お金に振り回される経験をして、自分自身の不合理な感情に気づいたというのがいちばんのプラス面です。
 
お金に振り回される経験をしたおかげで、今ではそれほどお金に振り回されなくなりました。
また、行動経済学の考え方をほかの世界にも応用することで、考え方の幅が広がりました。
たとえば、尖閣諸島や竹島などの領土問題は国益に直結しているだけに切実な問題ですが、領土問題にこだわるためにより大きな国益を失っているということもいえるわけです。また、慰安婦問題なども、「謝罪したくない」という不合理な感情に振り回されて損失を招いているものだといえます。
 
なにごともやればそれなりに学ぶことがあります。しかし、株式投資の場合、金銭的な損失をこうむる可能性があるので、やらなければよかったということもありえます。
証券業界は「貯蓄から投資」といったことをいいますが、これはカモをふやす戦略だともいえます。
中途半端な気持ちでやると損をします。まったくやらないか、徹底してやるかのどちらかだと思います。