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第49回総選挙の結果は、自民党の絶対安定多数確保、日本維新の会の躍進、立憲民主党と共産党の敗北という結果となりました。
これは直接には「コロナの風」のせいです。

衆院解散には「バカヤロー解散」とか「郵政解散」といった名前がつけられますが、今回の解散にはとくに名前がついていないようです。
あえて名前をつければ「コロナ解散」でしょう。
コロナに負ける形で菅義偉首相が政権を投げ出して、岸田政権が成立し、解散となったからです。


コロナの全国の新規感染者数がピークをつけたのは8月26日の約2万6000人でした。
菅首相が辞意(総裁選不出馬)を表明した9月3日には新規感染者は約1万6000人で、減少傾向が見え始めていました。
ですから、もう少し菅首相が低支持率に耐えて首相の座に留まっていれば、感染者がへるとともに支持率も上向きになり、総裁選で再選されて、今も首相の座にいられたかもしれません。

株式投資の初心者は、自分の保有株の株価が下がると、そのうち上がるだろうと思って、がまんして保有を続けます。しかし、それでも下がり続けると、ある時点でがまんの限界に達して株を売ってしまいます。すると、そのときから株価が上昇トレンドに反転するということがよくあります。
菅首相も感染者の増大と内閣支持率の下落が続くのに耐えられなくなり、政権を放り出したら、実はそこが“底値”だったというわけです。
ワクチンの効果を信じていたはずなのに、信念が足りませんでした。


それにしても、感染者数の急速な減少には驚きます。11月になってからの全国の新規感染者数は200人前後で、ピーク時から100分の1になっています。
8月から9月、10月にかけてなにがあったかというと、ワクチン接種率が60%から70%に増えたぐらいです。人流などはほとんど変わっていません。
まったく「謎の減少」というしかありません。


自公政権のコロナ対策は一貫してお粗末で、国民の怒りは高まり、安倍首相も菅首相もそれで政権を投げ出しました。
コロナ禍が政権への逆風になっていたわけです。
しかし、総選挙の投票日にはコロナ禍はほぼ収まっていました。

これは「謎の減少」ですから、政権の手柄とはいえません。
岸田首相や自公の候補者も「コロナ対策の成果」を誇るということはなかったと思います(菅前首相は自分の手柄を誇っていましたが)。
それでも、コロナ禍の収束は岸田政権への追い風になりました。

選挙情勢の序盤の世論調査では、自民党はかなり議席をへらすとされていましたが、「コロナの風」が順風となったことで、ある程度盛り返しました。

維新の会ももろに「コロナの風」に助けられました。
大阪府は一時期、感染者数も病床使用率も全国最悪となりました。その状況で選挙があれば、とても勝利はおぼつかなかったでしょう。
コロナ禍が収束したおかげで吉村洋文大阪府知事は「自分でやらないのに文句ばっかり言われる。感染者が増えたら知事のせいだって。誰とは言わないけど枝野さん」と言って立憲民主党の枝野幸男代表を攻撃しました。
「コロナの風」をもっともうまく利用したのが維新の会です。


立憲民主党と共産党は、政権のコロナ対策の失敗に国民の怒りが高まっているので、つまり「コロナの風」が追い風なので、労せずして勝てるだろうという甘い読みがあったと思います。
ところが、選挙期間になると「コロナの風」はぱったりとやみました。
そうすると、国民にアピールすることがなにもありません。

立憲民主党は「分配」重視でしたが、岸田政権も「分配」重視を打ち出したので、違いが見えなくなりました。
立憲民主党は安倍政権の新安保法制への反対や、モリカケ桜などの追及に存在感を出してきました。「まっとうな政治」というのも、安倍政権の政治がまっとうでないということでしょう。
しかし、岸田政権は安倍路線とは違いますし、岸田首相自身はリベラルな人です。
「アンチ安倍」という立憲民主党の存在意義も失われました。
それが立憲民主党敗北の理由です。


「コロナの風」以外の要因もあります。

昔の社会党や共産党は、国会で3分の1の勢力を確保して改憲を阻止することが最大の目標で、政権を取るよりも政権の横暴に抵抗することに存在価値を見いだすという“野党根性”にどっぷりとひたっていました。
それが細川政権の成立や民主党政権の成立によって変わったはずですが、強力な安倍長期政権と対峙するうちに、また昔の“野党根性”に戻ってしまったようです。
とくに昔の社会党の流れをくむ人たちにその傾向があると思います。
立憲民主党が共産党と組むことで、さらにそのイメージは強くなりました。
国民はそれも嫌ったのではないかと思います。

維新の会やれいわ新選組は、そうした“野党根性”とは無縁です(NHKなんとか党もそうです)。
「抵抗」するのではなく「闘争」するというイメージがあります。
政権を取るには「抵抗」ではなく「闘争」が必要です。

「野党は反対ばっかり」という声に対して、「賛成することも多いし、政策の提案もしている」という反論がありますが、そういうことではなく、政権を取りにいくという闘争心の欠如を指摘されていると思うべきでしょう。


立憲民主党は枝野代表が辞任表明し、次期代表選びになっていますが、れいわ新選組の山本太郎代表のように“野党根性”に染まっていない人がいいと思います――と書いて、今思いついたのですが、山本太郎代表をヘッドハンティングして、立憲民主党の代表になってもらうというのはどうでしょうか。
これはまじめに検討する価値があると思います。

今、代表候補として名前が挙がっている人は誰も魅力的ではありません。
立憲民主党の代表選に友好関係の政党からも立候補できる制度にして、そこに山本太郎氏が立候補すれば、大いに盛り上がるはずです。