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「ほんとうに想像を絶するだらしなさ、ルーズさによって、1日延び、1週間、1カ月延びてっていう状態で、3年たってしまったということです」

お笑い芸人徳井義実氏が脱税問題で記者会見したときの弁明の言葉です。
これを聞いて、「理解できない。悪質だ」と怒る人がいます。
しかし、私の感想は「人間にはそういう心理があるなあ」というものでした。


最初の報道によると、徳井氏は節税のために2012年に個人会社を設立しましたが、2015年までの4年間に個人的な旅行や洋服代、アクセサリー代などを会社の経費として計上していたのを東京国税局は経費として認めず、約2000万円の所得隠しを指摘しました。2016年から2018年までの3年間はまったく申告しておらず、東京国税局は約1億円の申告漏れを指摘し、重加算税等を含めた追徴税額はあわせて約3400万円にのぼると見られるということでした。

その後、10月26日付朝日新聞の『チュートリアル徳井さん、活動自粛 「見つめ直したい」』という記事でわかったことを付け加えます。
(徳井さんは)税務署に促されて申告した後も税金を納めなかった。このため、16年5月ごろに銀行預金が差し押さえられた。社会保険も未加入だった。

徳井さん自身の所得税も無申告で、12~14年分と15~17年分を税務署から指摘をされた後に申告した。

 吉本や関係者によると、加算税などを含めた追徴税額は法人税が約3700万円、消費税が約2100万円、同社が徳井さんに役員報酬を支払う際に徴収(天引き)していなかった源泉所得税が約4400万円で、計1億円超にのぼった。
https://www.asahi.com/articles/ASMBV3H8LMBVUZVL004.html?iref=pc_ss_date

脱税というのは、一般に税金をごまかして得をしようとすることですが、徳井さんの場合は単に申告しないだけで、ごまかして得をしようという意図は認められません。

「申告した後も税金を納めなかった」というのが不思議です。
申告というのはめんどうな作業ですが、申告したあとは銀行から振り込むだけです。
想像するに、通帳と印鑑、振込金額と振込先を書いたメモを持って銀行の窓口に行くのがめんどうなので、先延ばしし続けたのでしょう。
申告を手伝った税理士も、銀行振り込みまで手伝うという頭がなかったものと思われます。

同様のことは電気代、ガス代の支払いでもあったと、芸人仲間の陣内智則氏が語っています。
徳井はお金があった時でも「ガス、電気止められていた」 陣内が明かす
(前略)
徳井とは「大阪時代から仲いい」という陣内は「本当に(納税は)国民の義務なんで、全然許せないし、情けないです」と話した上で、「大阪時代から、チュートリアル売れてたんで、お金はあったんです。(お金が)ある時期でも、(料金払わずに)ガス止められたり、電気止められたりとか。そこまでのルーズな所があった、って聞いたんで…」と公共料金を支払わず、ガスや電気を止められたことがあった、と聞いたことを明かした。

 当然、「なんでお前払えへんの?」と、仲間たちも信じられないほどだったといい、陣内は「(徳井の)イメージはハンサムな感じですけど、お金に関しては、こんなにブサイクなヤツやったんや、と(思った)」と話していた。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191027-00000118-dal-ent
電気代、ガス代の請求書と現金を持って銀行などの窓口に行くことがめんどうだったのでしょう(自動振込にする手続きももちろんめんどうです)。
ほかにレンタルビデオの返却をしなかったために10万円の延滞金を払ったことがあるという情報もあります。

わずかの手間を惜しんだために電気やガスを止められ、多額の延滞金を払うのですから、完全に割りが合いません。
こういうことをする人は発達障害である疑いが濃厚です。
ネットを見ると、徳井義実氏と発達障害を結びつける意見がいっぱいあります。
発達障害の人を、その障害のゆえに非難するのは間違っています。


もっとも、徳井氏が発達障害かどうかは、今の時点ではわかりません。
しかし、徳井氏に税金をごまかそうという意図がなかったのは明らかです。
いや、旅行や洋服代を経費に計上して国税に所得隠しと指摘されたことには、ごまかそうという意図があったかもしれませんが、税金申告ではありがちなことであり、単に解釈の違いということもいえます。
結果的に、徳井氏は加算税のために本来納めるよりも多くの額を納めました。
税務署員に負担はかけましたが、それほど非難されることでしょうか。

カントは、行為を道徳的に評価するのは、結果ではなく動機によらなければならないと主張しました。これを「動機説」といいます。
しかし、世の中は「結果説」で動いています。
たとえば運転中に美人を見つけると目をやる男性ドライバーはいっぱいいます。美人に目をやったために重大事故を起こしたドライバーは、わき見運転をしたとして非難され、裁判になれば「当然するべき注意を怠った」と「不注意」や「怠慢」が責められます。しかし、いくら美人に目をやっても、事故にならなければ非難されません。
「あおり運転」は、相手を脅してやろうという「悪意」があることは明らかですが、結果、事故などが起こらなければほぼ罪には問われません。
こういうことは不当だとカントは主張しました。

しかし、動機というのは心の中のことで外からは容易にわかりませんから、世の中が結果説に傾くのはある程度やむをえないことです。

ただ、徳井氏のケースは、動機に悪意や利己心がないのは明白です。
では、どういう動機かというと、まず「めんどうくさい」というのがあります(読み書き計算が苦手などの発達障害の人はこの感情がひじょうに強いわけです)。
それから、「誰にも迷惑はかけない。自分が損するだけだからいいだろう」という意識があります。
普通の人は自分が損することに敏感ですが、こういう人は自分が損することがあまり気にならないのです。利己心が少ないともいえます。
ですから、こういう人は社会の緩衝材になるので、貴重な存在です。


悪意のない人間を非難して活動自粛に追い込むのは間違っています。
徳井氏の場合は、税理士や吉本興業のマネージャーが彼の性格を理解してフォローすればやっていけるはずです。
結婚して奥さんがフォローするようになれば問題はなくなります。

多様性が重視される時代ですから、徳井氏のような人間も生きていける社会でなければなりません。