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安倍首相が8年間で成し遂げた最大の功績は、憲法九条改正を完全に不可能にしたことでしょう。
菅政権は安倍政治の継承をうたい、改憲についても言及していますが、安倍政権にできなかったことができるとは思えません。

9月19日、安倍前首相は靖国神社を参拝しました。
首相を辞めてから参拝したということは、首相在任中に参拝することはできなかったということです。それはこれらからも同じでしょう。

これから日本の政治は、改憲論議や靖国参拝問題などにむだな時間を費やさなくてよさそうです。
安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を掲げていましたが、別な形でそれが実現しました。


では、今後なにが政治の争点になっていくかというと、やはり格差問題でしょう。
格差問題は、トマ・ピケティが『21世紀の資本』で指摘したように、世界的に拡大し続けていて、日本も例外ではありません。

自民党は金持ち優遇、格差容認の政党です。
自民党は2010年に新綱領を制定したときから、「格差や貧困は本人が努力しないせいである」という理屈を用意していました。

平成22年(2010年) 綱領

新綱領はそんな長い文章ではありませんが、その中に「努力」という言葉が6回も出てきます。
その部分を抜き出してみます。

我々は、全国民の努力により生み出された国民総生産を、与党のみの独善的判断で国民生活に再配分し、結果として国民の自立心を損なう社会主義的政策は採らない。
   *
我が党は過去、現在、未来の真面目に努力した、また努力する自立した納税者の立場に立ち、「新しい日本」を目指して、新しい自民党として、国民とともに安心感のある政治を通じ、現在と未来を安心できるものとしたい。
   *
日本の主権は自らの努力により護る。
   *
努力するものが報われ、努力する機会と能力に恵まれぬものを皆で支える社会。その条件整備に力を注ぐ政府

「努力する者が報われる社会」を自民党は目指しています。
その社会は「努力しない者は報われない社会」でもあります。
そのような社会をつくるには、「努力する者」と「努力しない者」を識別しなければなりませんが、それは不可能です。
なぜなら、「努力」には客観的な基準がないからです。

福祉の窓口で「努力する者」と「努力しない者」、「働き者」と「怠け者」を識別しようとすると、担当者の恣意的な判断になり、現場が混乱するだけです。

「努力する者」と「努力しない者」、「働き者」と「怠け者」という考え方は一般社会には存在しますが、学問の世界や行政など公の世界ではありえません。

ちなみに経済学は「経済人」ないし「合理的経済人」という人間観をもとにしていて、「働き者」と「怠け者」がいるというような人間観は採用していません。

「よい人」と「悪い人」にも客観的な基準がないので、「悪い人」だからといって逮捕・投獄されるようになったらたいへんです。
そうならないように膨大な刑法の体系をつくって、それを客観的な基準にしています。
自民党も「努力」を重視したいなら、「努力」の客観的な基準をつくるべきです。


もちろん自民党にそういう考えはありません。
自民党は「努力」を経済学や法学の問題ではなく、道徳の問題としてとらえているのです。
自民党は昔から道徳教育を推進し、今では道徳の教科化に成功しました。
子どもだけでなくおとなに対しても「人間は努力するべきだ」という道徳を教えているつもりなのでしょう。

もっとも、全国民に対して教えようということではありません。
「真面目に努力した、また努力する自立した納税者の立場に立ち」とあるように、自民党は富裕層の側に立っているのです。

これは前回書いた「『共助の衰退』という現実を前にして」いう記事で引用した自民党ホームページにも同じ意味のことが書かれています。
自民党は、タックス・ペイヤー(納税者)重視の政党です。
わが党は、汗を流して懸命に働き納税義務を果たしている人々が納得できる政治を行います。『自助・共助・公助』の考えを基本に、“がんばる人が報われる政治”を実現します。
https://www.jimin.jp/news/policy/130412.html
高額納税者(富裕層)が納得できる政治をすると宣言しています。
自民党は国民政党ではなく階級政党になったのです。
富裕層が納得できるように、「努力しない者」への公助をできる限り削減するというわけです。


菅義偉首相は自分の政治理念として「自助・共助・公助、そして絆」を掲げていますが、これは、新綱領制定に寄せて書かれた谷垣貞一総裁(当時)の次の一文からパクったのかもしれません。
この綱領の精神は、時代の流れの中でも普遍的な価値を持つものであるとともに、自助・自立を基本としながら、困っている人がいればお互いに助け合う共助の精神を大切にし、さらには国が力強く支える公助があるという、私の考える「絆」の政治、「おおらかな保守主義」と通ずるものでもあります。
https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/aboutus/kouryou.pdf

抽象的な発想が苦手の菅首相は、自民党の綱領を読み込んで自分の政治理念としたのでしょう。


なお、先ほど経済学は「経済人」ないし「合理的経済人」という人間観をもとにしていると言いましたが、そうではない経済学者もいます。それは竹中平蔵氏です。
竹中氏はかつて若い人に対して、「みなさんには貧しくなる自由がある」「何もしたくないなら、何もしなくて大いに結構。その代わりに貧しくなるので、貧しさをエンジョイしたらいい。ただ1つだけ、そのときに頑張って成功した人の足を引っ張るな」と語ったことがあります。
竹中氏が富裕層の立場から貧困層を切り捨てていることがよくわかります(このことは「竹中平蔵教授のトンデモ発言」という記事に書きました)。

自民党の綱領に竹中氏の思想が反映されているということは十分に考えられます。


菅新政権が誕生し、野党が合同して新しい立憲民主党も生まれました。
自民党が富裕層を代表する政党なら、対立軸もおのずと見えてきます。