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私はロシアのウクライナ侵攻はありえないと思っていたので、いざ本格侵攻が始まったときにはびっくりしました。
世界のほとんどの人がそうだったでしょう。なにしろウクライナ国民も、国外脱出も食料の買いだめもしていなかったのですから。

アメリカだけはかなり早い段階からキエフを攻撃するような本格侵攻があると言い続けていました。
侵攻計画はプーチン大統領とロシア軍の上層部ぐらいしか知らないはずですから、CIAはそこまで食い込んでいたのです。
そして、プーチン大統領は情報がアメリカに筒抜けになっていることを知りながら、当初の計画通りに侵攻したのです。

これはひじょうに奇妙なことです。
なにがあったのか考えてみました。
おそらくロシアは早い段階でアメリカに対して「われわれはウクライナに侵攻することを考えている。そのときアメリカはどうするのか」と打診したのです。
バイデン大統領は「武力介入もありうる」と言ったでしょう。プーチン大統領は「だったら第三次世界大戦になる」と言ったかもしれません。
つまりお互いの腹のさぐりあいがあったのです。

アメリカはもちろん第三次世界大戦は避けたいし、アフガニスタンとイラクで失敗したので国民の厭戦気分が高まっているという事情もありました。
プーチン大統領はアメリカの軍事介入はないと判断して、計画通りに侵攻しました。

このように考えると、アメリカだけがロシアの侵攻を早くから正確に予想していたことが説明できます。


それにしても、プーチン大統領のウクライナ侵攻の判断は異常です。
健康状態や精神状態を懸念する声もあります。

プーチン大統領は2000年に大統領に就任してから、途中首相だった時期もありますが、22年間にわたって権力者の座に居続けています。側近はイエスマンばかりになり、不都合な情報は上がってこなくなっているのでしょう。
「権力は人を酔わせる。酒に酔った者はいつかさめるが、権力に酔った者は、さめることを知らない」という言葉もあります。

習近平氏も2012年に国家主席の座についてすでに10年です。最近は独裁ぶりに磨きがかかってきました。いずれプーチン氏みたいになるかもしれません。
トランプ前大統領も、もし2期目があったら、そうとうおかしくなっていた気がします。
軍事大国の指導者が異常になることほどおそろしいことはありません。


ともかく、軍事大国同士が第三次世界大戦を避けるために「密約」をするということはありえます。
アメリカが日本のために戦ってくれるとは限りません。

外務省のホームページには、安保条約について「第5条は、米国の対日防衛義務を定めており、安保条約の中核的な規定である」と解説されていますが、実際の第5条には「義務」という言葉はありません。
第五条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」という文言がありますが、合衆国憲法では宣戦布告の権限は議会にあります。大統領が議会に諮らずに参戦することもできますが、参戦したくないときは議会に諮って否決されるという筋書きもありえます。

アメリカは日本を助けないかもしれないので、米軍なしで日本の防衛は大丈夫かということになります。

ところが、そういう議論は行われていません。
代わりに「憲法九条で国は守れるのか」というような議論が行われています。
これは憲法論であって防衛論ではありません。

また、安倍晋三元首相は、米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運用する「核共有(ニュークリア・シェアリング)」について議論すべきだと語りました。
これも防衛論というよりも核論議です。


今議論するべきは「日本はウクライナみたいなことにならないのか」ということです。
具体的には、中国軍が日本海側のどこかに上陸してきて、自衛隊を撃破し、中国のかいらい政権を樹立するというようなことにならないのかということです。
もちろん米軍が助けてくれるなら、そういうことにはなりません。
米軍の助けがなかったとしたらどうかということです。

これは重要な問題です。
ところが、こういう議論は昔からほとんど行われたことがありません。

防衛省ホームページの「中国情勢(東シナ海・太平洋・日本海)」という項目を見ると、中国は国防費を年々増加させ、東シナ海での活動を活発にし、太平洋へも進出し、日本海における海上戦力と航空戦力を拡大させていると書かれていますが、日本に上陸する戦力についての言及はありません。
なぜなら中国軍にそんな戦力はないからです。

中国軍は台湾に上陸して占領する戦力もありません。ただ、このまま軍拡を続けていくと、2025年ごろにはそれが可能になるという説があります。
そのことから最近「台湾有事」ということが言われるようになりました。しかし、侵攻する能力があることと、実際に侵攻することとは別です。「台湾有事」というのはなにかのプロパガンダでしょう。

グローバル・ファイヤーパワーによる世界の軍事力ランキングで、日本は5位、台湾は22位です。
日本の面積は台湾の約10倍で、人口は約5倍です。
日本が中国軍に占領されて中国の支配下になるということはまったく考えられません。

ただ、日本が中国のミサイル攻撃を受けたり空爆されたりということはありえます。
航空戦力の比較はむずかしいので、空爆の可能性はどの程度かよくわかりませんが、ミサイル攻撃を防ぐことは困難です。通常弾頭ならたいしたことはありませんが、核弾頭なら悲惨なことになります。
しかし、冷静に考えれば、中国が日本をミサイル攻撃してもなにも利益はなく、国際的非難を浴びるという不利益があるだけです(日本が敵基地攻撃能力などを持つと話は違ってきます)。
北朝鮮によるミサイル攻撃にしても同じです。

このように具体的に考えると、米軍の助けがなくても、日本がウクライナのようになるということはまったくありえないことがわかります。
これは島国であることのありがたさです。
かりに尖閣諸島を巡って日中の武力衝突が起きても、それだけで終わるでしょう。


そうすると、日米安保条約は必要ないのではないかということになります。
自衛隊の戦力で十分に国は守れます。
むしろ世界5位の軍事力は過剰ではないかと思われます。
しかし、日本の適正な防衛力はどの程度かという議論はありません。

なぜ日本にはまともな防衛論議が存在しないのでしょうか。
それは自衛隊の歴史を見ればわかります。


自衛隊の前身の警察予備隊は1950年、マッカーサーの要請により創設されました。朝鮮戦争で在日米軍が手薄になったのを補うためで、共産革命を防ぐ治安維持が目的でした。
自衛隊になってからは国防も目的となりました。
しかし、安保条約があり、駐留米軍がいるので、自衛隊がなくても国は守れます。
では、なんのための自衛隊かというと、たとえば朝鮮半島で戦争があったときに米軍を助けるためです。
つまり自衛隊創設の最大の目的は米軍を助けることでした。

自衛隊はソ連の侵略を想定して北海道で演習していましたが、「国防」らしいことはそれぐらいです(ソ連が北海道に攻めてくることもあまり考えられません)。
自衛隊を巡る論議はつねに「国防」ではなく「海外派兵」に関することでした。

ホルムズ海峡防衛とかマラッカ海峡防衛とかシーレーン防衛とかもよく議論されましたが、これもいわば海外派兵です。
湾岸戦争のときはアメリカから「ショー・ザ・フラッグ」と言われ、イラク戦争のときは「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」と言われ、結局、湾岸戦争では金だけ出し、イラク戦争のときはサマワに自衛隊を派遣しました。
アフガン戦争のときは、自衛隊はインド洋で米軍などへの給油活動をしました。
2011年にはジブチ共和国に初の海外基地を設け、現在、自衛隊員約400人が駐留しています。
2015年に新安保法制が成立したとき、当時の安倍晋三首相は朝鮮半島有事のときに日本の民間人が乗った米艦を自衛隊が護衛するというケースを例に挙げて、新安保法制の必要性を訴えました。
近ごろ議論されている敵基地攻撃能力も国防とは違います。


自衛隊の目的は、第一が米軍を助けることで、第二が国防です。
第一と第二は逆かもしれませんが、いずれにしても、米軍を助けるという目的をごまかしているので、日本ではまともな防衛論議が存在しないのです。
国防に限定すれば、安保条約は必要ないばかりか、自衛隊はすでに過剰な戦力を持っています。

ところが、日本人はあまりにもアメリカへの依存心が強いので、自衛隊だけで国を守ろうという気持ちになれないようです。
世界を見渡せば、ほとんどの国は日本よりも低い軍事力しかなく、核の傘にも入っていませんが、それでもちゃんとやっています。

ロシア・ウクライナ戦争をきっかけに、まともな防衛論議が起きてほしいものです。