村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

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菅官房長官
首相官邸HPより

内政で行き詰まると国民の目を外にそらせるというのは、どこの国の政府もよくやることです。

感染の第二波の到来に対してまったく無策で、逆に「Go Toトラベル」キャンペーンを推進するという政府に対して、国民の批判が高まっています。
こうした状況で菅義偉官房長官は国民の目を韓国に向けさせようとしたのでしょうか。


そもそもの発端は、韓国平昌の韓国自生植物園という民間植物園の中に「永遠の贖罪」と題した造形物が設置され、8月10日に除幕式を行うと発表されたことです。
韓国の新聞は「この造形物は、座っている1・5mの慰安婦少女像の前で、1・8mの安倍首相の銅像がひざまずいて謝罪をしている姿だ」と報じました。
これを私費でつくった金昌烈園長は「罪滅ぼしの対象をはっきり形作る必要があり、少女像が向き合うものは安倍に象徴させて造成した」と述べました。
ただ、造形物に「安倍」の文字はないようです。

スクリーンショット (27)
FNNプライムオンラインより

こうした報道に対して、菅官房長官は7月28日の記者会見で次のように述べました。

事実かどうかは確認しておりませんけど、そのようなことは国際儀礼上許されないと思います。かりに報道が事実であるとすれば、日韓関係に決定的な影響を与えることになる。いずれにせよ、慰安婦問題については、韓国側に対し、慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認した日韓合意の着実な実施を引き続き強く求めていく、そうした考え方に変わりはありません。

「日韓関係に決定的な影響を与えることになる」とは強い言葉です。
しかし、そもそも官房長官が言及するようなことでしょうか。

韓国の一民間人が自分の施設の中にどんなものをつくろうと自由です。誰も止められません。
あの像が安倍首相だとすれば、「国際儀礼上許されない」ということは言えるでしょうが、安倍首相だとは特定されていませんし、やはり民間人の設置したものについて、日本の政府高官が言及するものではありません。

なお、そもそも慰安婦像が問題になったのは、ソウルの日本大使館前の歩道に行政の許可なく像が設置されたからです。
ウィーン条約に「公館の安寧の妨害又は公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責務を有する」とあるのに違反しているとして、日本政府は撤去を求めました。

そのときと今回はぜんぜん事情が違います。
「国際儀礼上許されない」とか「日韓関係に決定的な影響を与える」とかは、まるで韓国政府に対して言っているようですが、言う根拠がありません。
民間人に対して言っているとしても、おかしなことです。

菅長官が言及する前にも、韓国内でこの像について賛否両論があって、「なんの利益になるのか」とか「幼稚すぎる」といった批判がありました。
放っておけば、落ち着くところに落ち着いたでしょう。


菅長官は定例記者会見において、TBS記者の質問に対して答えたのですが、菅長官は「慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認した日韓合意」という言葉を手元の資料を見ながら言いました。ということは、この質問があることがあらかじめわかっていて、答えも用意されていたのです(質疑応答自体がなれ合いです)。

菅長官は「日韓関係に決定的な影響を与える」という強い言葉を使って、この問題を炎上させようとしたのでしょう。

しかし、金園長は騒ぎが大きくなって8月10日の除幕式は中止するつもりのようですが、「造形物を撤去するつもりはまったくない」「造形物の代わりに私を撤去しろ」と強気です。
こう言われると、それ以上どうにもなりません。
菅長官の“炎上商法”は不発に終わりました。

いや、不発どころではありません。
「リテラ」は『“首相謝罪”像が意外な展開! 嫌韓より「安倍が日本国民に謝ったんじゃないのか」のツッコミが続出、「謝罪像ほしい」の声も!』という記事で日本国内の反応を伝えています。

ツイッターで「首相謝罪」がトレンドワードになると、安倍首相が日本国民に謝罪したと誤解した人が続出したそうです。

〈首相謝罪、てっきり今までのコロナ対策の怠慢や無策を国民に詫びるとかだと思ったら違った。〉
〈コロナ対応や水害の被災者支援についての対応遅れについてかと思ったらちゃうのね〉
〈首相謝罪?って、私は首相が布マスク配布やGOTOトラベルで無策で迷惑かけているのでてっきり国民に謝罪する件なんだとおもったんだが。〉

「首相謝罪」の意味が、韓国に設置された首相の謝罪像のことだとわかっても、韓国非難の声は盛り上がらず、やはり安倍首相に対して謝罪を求める声のほうが強いということです。

〈トレンドに「首相謝罪」ってあるけど、コロナ対策もロクにしてないし、まずお前が謝罪しろ。〉
〈首相謝罪?韓国に謝罪はいらんよ。安倍は日本国民に謝罪してくれよ。〉
〈#首相謝罪 また使えないマスク8000枚配るバカはマジで国民に土下座しろ〉
〈首相謝罪像の頭を日本国民の方に向けて設置するべきなのでは〉
〈日本にも一体送ってくれんかな〉
〈「首相謝罪の像」、日本にも何個か設置したいと思いませんか? 例えば福島とか、森友小学校跡地とかに。〉

かつては嫌韓ネタを投下すると、世論が盛り上がったものですが、今回はまったく違います。
官房長官が一韓国国民に文句をつけるという愚かなことをした上に、もともと安倍首相に対する怒りが充満していたからです。

いまだにコロナ対応よりも世論操作のことを考えている安倍政権に国民があきれるのは当然です。

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7月22日、新型コロナウイルスの新規感染者数が795人になり、過去最多を記録しました。
安倍首相は官邸で記者から「Go Toトラベル」が始まったことについて聞かれ、「国民の皆様のご協力をいただきながら、慎重に経済活動再開を目指していく方針に変わりはありません」と答えました。

こういう答えを聞くと、いらっとします。
本来なら「この程度の感染者数では経済活動再開の方針を変える必要はないと思います」みたいなことを言うべきです。
もっとも、そうすると「では、どの程度なら方針を見直すんですか」と聞かれて、安倍首相に定見のないことがバレてしまいますが。

「感染防止と経済活動の両立」と言葉でいうのは簡単ですが、「感染防止」と「経済活動」という異質のものを天秤にかけて計るには、高度な判断力が必要です。

安倍首相は非常事態宣言を解除するときに「日本モデルの力を示した」と自慢げに言いました。
麻生財務相は「民度が違う」と言いました。

「日本モデル」も「民度が違う」も、つまるところ「日本スゴイ」ということです。
こういうことを言うと国民の喝采が得られると思っているのでしょうが、科学的に感染防止に取り組もうという意欲が感じられません。


安倍首相と麻生財務相に続く政権のキーマンである菅官房長官は、このところ存在感がありませんでしたが、「Go Toトラベル」の前倒しが決まってから、注目される発言をするようになりました。

7月11日、北海道で講演した菅長官は、最近の感染拡大について「この問題は圧倒的に『東京問題』と言っても過言ではない」と語り、「これは国の問題」と反論する小池都知事とやり合いました。

この「東京問題」という発言は、感染を小さく見せかけたいために言っただけかなと思いましたが、その後、「感染の根源」という言葉を使いました。

感染急増「夜の街」対策強化へ…菅氏「根源を一つ一つつぶしていく」
 政府は、新型コロナウイルスの感染者が多数出ているホストクラブなどへの対策を強化する。全国の警察が風俗営業法に基づき、各地の「夜の街」に積極的な立ち入り調査を行い、感染防止策を含む営業実態を確認する方針だ。

 菅官房長官は19日のフジテレビの番組で、接待を伴う店としてホストクラブやキャバクラを挙げ、「どこに新型コロナの根源みたいなものがあるか分かってきたから、警察が足を踏み入れ、根源を一つ一つつぶしていく」と述べた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/32b8202aa328b5f71cbaf2a487eafe8c4f66ce01


「感染の根源」という言葉に驚きました。
感染に「根源」などあるはずがなく、すべては感染の「通過点」です。

「感染の根源」は単なる思いつきの言葉ではなく、菅長官は20日午前の記者会見でも語っています。


記者 コロナウイルスが蔓延している場所は限られているとおっしゃいましたけども、これは意味としては、蔓延するきっかけになった店舗が夜の街全体ではなくて、少ないところに限られているという意味なのか、市中に感染してないという意味なのか、どうなんでしょうか。
菅長官 夜の街の感染がきわめて大きいことは、たとえば東京都の検査でも明らかになってきているんじゃないでしょうか。明らかにホストクラブとかキャバクラ、そうしたところが根源になっているということは、今日までの検査の中で明らかになってきているというふうに思っています。そうしたところに風営法等を初めとする各法の義務を徹底させるということはだいじじゃないでしょうか。

小池都知事は「夜の街」という言葉をよく使いますが、これはパチンコ屋とともに差別的に見られる水商売を悪者にする一方、経済活動に直結する職場と通勤電車から国民の視線をそらせようという作戦でしょう。
ところが、菅長官はそれを真に受けたのか、ホストクラブやキャバクラを「感染の根源」と見なして、これから警察の立ち入り調査などで「根源を一つ一つつぶしていく」ということです。

これだけ市中感染が広がっている中で、今さらホストクラブやキャバクラを規制したところで、大した意味はありません。
菅官房長官は感染のメカニズムがなにもわかっていないようです。

トランプ大統領はアメリカの感染拡大を中国やWHOのせいにして攻撃していますが、菅長官も同じ発想をする人かもしれません。
菅長官は2月、3月ごろのマスク不足の対策を担っていて、マスク不足は転売ヤーのせいであるとして政令改正でマスク転売を禁止しましたが、効果はありませんでした。マスク不足はマスクの絶対数が不足しているからで、転売ヤーのせいではなかったからです。

ともかく、「感染の根源」などという言葉を使う人にまともな感染対策ができるとは思えません。

西村コロナ担当相も加藤厚労相も、記者会見や国会でしゃべっているところを見ていると、感染のことがよくわかっていないのではないかという気がします。


政府の「感染防止と経済活動の両立をはかる」という方針はいいのですが、「感染防止」と「経済活動」を天秤にかけて計れる人間が誰もいないので、政府はエンジンの壊れた船のように、利権と世論の風に吹かれて漂流しているだけです。

今の政府首脳が学習して向上するということは考えられないので、国民としては、せいぜい正しい方向の風を吹かせるしかありません。

菅官房長官
首相官邸ホームページより

「表現の不自由展」が「ガソリン携行缶を持ってお邪魔する」といったテロ予告の脅迫などによって中止に追い込まれました。
こうした脅迫はもちろん犯罪です。愛知県庁は被害届を警察に提出し、警察は8月7日に50代の会社員の男を威力業務妨害容疑で逮捕しました。

この事態に直面して、とんだ馬脚を現したのが菅義偉官房長官です。
5日の記者会見で、
「一般論で言えば、暴力や脅迫はあってはならないことだ」
と言ったのです。

「一般論で言えば」という前提をつけると、「個別には暴力や脅迫はあってもいい場合がある」という意味になります。
「いかなる場合も、暴力や脅迫はあってはならないことだ」と言うのが当然です。
自分と同じ思想傾向のテロ予告犯を批判したくない気持ちが「一般論で言えば」という言葉になって表れたのでしょう。


菅官房長官の嫌韓感情は筋金入りです。
菅官房長官は2014年1月、中国黒竜江省ハルビン駅に朝鮮独立運動家・安重根(アンジュングン)の記念館が開館したことについて、中国と韓国に外交ルートを通して抗議し、「安重根は我が国の初代首相を殺害し、死刑判決を受けたテロリストだ」と非難しました。
他国がどんな記念館をつくろうが、それは内政問題であり、日本が抗議するとはまともではありませんし、韓国では英雄とされている安重根を「テロリスト」呼ばわりするのも韓国人の神経を逆なでします。

このことは日本では小さくしか報道されませんが、韓国では大きな反発を生んで、こうしたことも日韓のずれを生みます。

菅官房長官は外交問題ではつねに慎重なもの言いをするのに、韓国に対してだけは即応してきびしい言い方をします。


日韓関係があまりに悪化し、アメリカの安保政策にも悪影響が出るほどになったので、オバマ政権の強力な介入で、2015年12月に慰安婦問題についての日韓合意が結ばれました。
この合意には「安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する」という言葉がありますが、これは岸田文雄外相が読み上げただけで、安倍首相の口から語られることはありませんでした。そのためのちのち、「安倍首相は謝っていない」と韓国から言われることになります。

日韓合意には、在韓国日本大使館前の少女像について韓国政府は「適切に解決されるよう努力する」という言葉がありますが、少女像はそのままでした。
さらに2016年12月、釜山の日本総領事館前に少女像が設置されました。区当局はすぐに像を撤去し、抵抗した市民団体のメンバー13人が逮捕されましたが、区に抗議の電話が殺到し、結局設置を認めることになりました。

これらに対して、日本では日韓合意違反だという声が上がりましたが、民間の動きを韓国政府がコントロールできるはずがなく、「努力する」ということはなされているでしょう。
しかし、菅官房長官は「韓国国家として約束したことは履行してほしい」と言い、2017年1月には在韓日本大使の召還と日韓通貨スワップ協定の取り決め協議の中断などの強硬措置を発表しました。

これはちょうどオバマ政権からトランプ政権に移行するときで、アメリカ政府が動けないのを見越した菅官房長官の機敏な対応でした。
その後、トランプ政権は日韓関係に興味がないことが明らかになり、日韓関係は以前と同じように悪くなってしまいました。


以前と根本的に違うのは、以前は「慰安婦」問題でもめていたのに、今は「慰安婦像」問題でもめているということです。問題がすっかり矮小化されました。

慰安婦像(平和の少女像)自体は、清純な少女を描いたもので、なんの悪意も込められていない立派な芸術作品です。
像を設置する人間には悪意があるかもしれませんが、悪意が像に宿ることはありません。
像に不快を感じる日本人がいるのは、内心にやましさをかかえているからでしょう。

慰安婦像を設置しているのは韓国の民間団体です。これをやめさせることは誰にもできません。現に世界各国に慰安婦像が設置される結果となりました。
慰安婦像設置をやめさせようとした日本政府の方針が根本的に間違っていたのです。

日本では、韓国が日韓合意に反したという声が多くありますが、韓国側はあくまで民間団体の動きです。
一方、日本側の大使召還などは日本政府の動きですから、どちらが日韓合意に違反したかというと、日本側です。
韓国の反日は民間主導、日本の反韓は政府主導です。
韓国人には殖民地支配などの恨みがありますが、日本人は韓国にひどい目にあわされたという体験はないので、当然です。
日本の反韓の動きは、安倍首相と菅官房長官と一部の日本人がつくりだしているだけです。


日本にいると、日本に都合のいい情報ばかりが入ってきます。
頭の中で情報を補正して、公平な判断をするようにしないといけません。

日韓の争いは、要するに兄弟喧嘩です。
オバマ政権は親として兄弟喧嘩に介入して、双方に「ごめんなさい」を言わせて、喧嘩を収めました。
ところが、親がトランプ大統領に代わったら、また兄弟喧嘩が始まったという格好です。

兄弟といっても、日本が兄で、韓国は弟です。日本が朝鮮の近代化を導き、今でもGDPは日本が韓国の4倍くらいあります。ノーベル賞でも圧倒的な差です。
兄弟喧嘩は、兄貴分の日本が先導して収めるべきでしょう。

韓国を対等な相手のように見なして喧嘩している日本人は、日本人から見ても、ちょっと情けない人です。

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