村田基の逆転日記

進化倫理学の威力を試すブログ

タグ:菅義偉首相

2021-09-03
TBS NEWSより

菅義偉首相が総裁選不出馬、つまり首相辞任を表明してから、けっこう菅首相に同情する声があるそうです。それはわからないでもありません。

それにしても、菅首相の言う辞任理由はひどすぎます。
9月3日午後1時すぎ、菅首相は記者の前で「コロナ対策と総裁選の選挙活動は両立できない。コロナ対策に専任をしたい」と辞任の理由を語りました(マスコミは「専念」と報じていますが、菅首相は「専任」と3回も言っています)。

実際は、不人気になったから辞任するのです。
なぜ不人気になったのかについて率直な反省の言葉が必要です。

本人が反省の言葉を述べないので、代わりに私が書きます。
このブログで菅首相をいろいろ批判してきたまとめでもあります。


菅首相がもっとも反省するべきは、コロナ対策の失敗です。
菅首相はつねに感染拡大の深刻さを軽視し、同じ失敗を繰り返しました。
最初はGoToキャンペーンに固執して感染拡大を招きました。
緊急事態宣言を発出するときは「短期集中」とか「今回が最後となるような覚悟で」などと楽観的な見通しを示し、結果的には宣言期間の延長、再延長となるのが常で、国民はうんざりしました。
「決め手はワクチン」という言葉を繰り返しましたが、ワクチンの確保は先進国ではどこよりも遅れました。
最初に「コロナ対策と経済の両立」を目指したのも間違いです。コロナ対策を優先するべきでした。コロナの抑え込みに成功すれば、そのあとは労せずして経済は回っていきます。

実は、政策について批判できるのは、大きなことではこれぐらいです。
ほかはデジタル庁の創設とか、2050年温室効果ガスゼロ宣言とか、広島のいわゆる黒い雨訴訟で上告しないことを決めるとか、評価するべきこともあります。

では、コロナ対策以外に菅首相に大きな問題はないのかというと、そんなことはありません。
政治手法と人格に問題がありました。


「菅首相は原稿の棒読みはやめて、自分の言葉で国民に語りかけるべきだ」とよく言われますが、菅首相が答弁のときにカンペを読むのは官房長官時代からやっていたことです。
官房長官の定例記者会見で、記者は質問を事前通告し、官僚が答えを用意し、菅官房長官はそれを読むだけでした。
たとえば昨年、韓国の民間植物園に、慰安婦像の前で安倍首相らしき人物がひざまずいて頭を下げている「永遠の贖罪」と題された造形物が設置され、7月28日の定例記者会見でTBS記者がこのことについて質問すると、菅官房長官は「国際儀礼上許されない」「日韓関係に決定的な影響を与える」と強い調子で韓国を批判しましたが、このとき手元の原稿を見ながら「慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認した日韓合意」と正式名称を言いました。つまりこの質問があることはわかっていて、答えも用意されていたのです(このやり方に従わなかったのが東京新聞の望月衣塑子記者です)。

昨年9月の総裁選のとき、自民党の青年局・女性局主催の公開討論会が行われ、菅義偉氏、石破茂氏、岸田文雄氏の三候補が出席しました。
これは「討論会」と銘打っていますが、互いに討論することはなく、会場からの質問に三人がそれぞれ一分以内で答えるという「三人そろっての質疑応答」というものでした。
そして、菅氏は質問に対して、ほとんど下を見ながら答えていました。
つまり質問は事前に知らされ、菅氏は答えの原稿を読んでいたのです。このときからすでに棒読みでした。
石破氏、岸田氏も同じ条件だったはずですが、両氏は前を向いて力強い言葉で語っていました。
石破氏、岸田氏は、国民に力強く語りかける能力をアピールしていたわけですが、菅氏にはそんな気持ちがまったくなかったのです。

菅首相としては、官房長官のときも総裁選のときも棒読みでやってきて、それで通用してきたので、改める気持ちもないのでしょう。
今回の辞任発表という重要な場面でも、「専念」を「専任」と平気で言い間違えています。

菅首相に対して「原稿の棒読みはやめて、自分の言葉で国民に語りかけるべきだ」と言うのは、ずっと飛ばないできたニワトリに対して「飛べ」と言うみたいなものです。


菅首相は名官房長官と言われ、それなりの能力はありました。どういう能力かというと、人事権で脅して官僚を思い通りに動かすなど、権力行使が巧みだったことです。
その能力が生かされたのがワクチン接種の加速化です。
菅首相は5月初め、1日100万回の接種を目標に掲げ、「私自身が先頭に立って加速化を実行に移す」と言明しましたが、ほとんどの人は不可能と思っていました。しかし、菅首相は総務省の地方交付税担当課長に自治体に電話をかけさせるなどの手を使って、目標を達成しました。
しかし、こうしたことは“裏工作”であって、首相本来の仕事ではありません。

菅首相の目玉政策は、携帯料金の値下げですが、これも本来は水面下で携帯会社に働きかけて実現することです。公然と政治公約のようにして語られるのは、自由経済の原則にも法令にも反します。

日本学術会議の新会員6人を任命拒否したことも、人事権で脅して従わせるという菅首相得意の手法ですが、首相が表立ってやったために大ごとになりました。


つまり菅首相は、表に立つ人間ではなく、裏で仕事をするのが向いたタイプです。
もともと首相になるべき人間ではなかったのです。


菅氏が「首相の器」でないことは誰もがわかっていたはずです。
それがどうして首相になったかというと、安倍内閣で官房長官だった菅氏が首相になれば安倍体制がそのまま継続して、安倍前首相を初めとする派閥のボスたちに都合がよかったからです。
そのため総裁選で各派閥が菅支持に回りました。

で、「派閥の締めつけ」なるものが行われたとマスコミは言うのですが、これが私には理解できません。
自民党総裁選の投票は無記名です。
各議員は、派閥のボスの言うことなど無視して、自分の思う通りに投票すればいいはずです。
もしかすると、投票用紙にひそかに印がつけられているか、その可能性があって、自由に投票できないのだろうかと考えたりしました。
実際のところは、国会議員にとっては「派閥の利益は自分の利益」ということなのかもしれません。

もっと不可解なのは、党員による地方票も菅氏が有利だったことです(菅氏89票、石破氏42票、岸田氏10票)。
三候補の公開討論会などを見れば、菅氏が首相に不適格であることは明らかです。
自民党員の見識が疑われます。


なお、菅氏が首相になったのには、国民にも責任があります。
陰険な感じの菅氏はずっと国民に不人気でしたが、改元のときに「令和おじさん」として人気になり、その後、「パンケーキおじさん」「スイーツおじさん」とも呼ばれて、若い女性から「かわいい」と言われているという報道がよくありました。
そのため菅氏も首相への色気を出したに違いありません。
そうした勘違いの挙句に、「こんにちは、ガースーです」という発言もあったのかと思います。


ともかく、首相の器でない人間が首相になったので、国民はたいへんでした。
私も菅首相を批判するときに困りました。
コロナ対策を批判するのは政策的なことなのでいいのですが、菅首相の政治手法は、菅首相の長年の政治家人生の中でつちかわれたもので、人格と結びついています。71歳(首相就任時)にもなって急に変えられません。
先ほど「ニワトリを飛べないといって批判する」という例を使いましたが、本人にできないことを求めるのは、求めるほうが間違っています。
ですから、菅首相を批判していると、どうしても批判の筆が鈍ってくるのです。
菅首相に同情の声があることも理解できます。

自民党の国会議員、地方党員には、今度は少なくともこちらが遠慮なく批判できる人間を選んでほしいものです。

1623996511
西村やすとしオフィシャルサイトより

東京五輪開催目前にして菅政権の迷走ぶりがきわだっています。
東京都はまん延防止等重点措置の継続かと思ったら緊急事態宣言になり、五輪は有観客になるのかと思ったら無観客になり、その挙句に出てきたのが、酒類提供をやめない飲食店に対して「金融機関からも働きかけてもらう」という西村康稔経済再生担当相の発言です。
この発言は大批判されましたが、決して西村大臣の思いつきではありません。むしろ菅政権の重要政策です。

西村大臣は7月8日の記者会見で、酒類提供停止の要請に応じない店舗の情報を金融機関に提供し、金融機関から働きかけてもらうと述べました。
店舗に働きかけるのは行政の仕事です。金融機関にさせる法的根拠がありませんし、金融機関を使って店舗に圧力をかけようという発想は卑劣です(独占禁止法が禁じる「優越的地位の濫用」に当るとも指摘されています)。

この発言が批判されても西村大臣は翌9日午前の記者会見で、「真面目に取り組んでいる事業者との不公平感の解消のためだ」と釈明して、発言は撤回しませんでした。
加藤勝信官房長官も9日午前の記者会見で、西村発言について「金融機関に感染防止策の徹底を呼び掛けていただきたいという趣旨だ」と説明し、発言に問題はないとしていました。

しかし、批判がやまないために、加藤官房長官は9日午後の記者会見で「金融機関などへの働きかけは行わないことにしたと西村担当相から連絡を受けた」と述べて、西村発言は事実上撤回されました。


しかし、西村大臣がやろうとしたのは、金融機関を通じての働きかけだけではありません。
西村大臣は8日の記者会見で、酒類卸業者に対して、酒類提供停止の要請に応じない店舗とは取引を停止するよう要請したと述べました。
つまり酒類提供停止の要請に応じない店舗には、酒類卸業者と金融機関の両方から圧力を加えようとしていたのです。

酒類卸業者への要請は、国税庁からの文書として8日付ですでに出されていて、「酒類販売業者におかれては、飲食店が要請に応じていないことを把握した場合には、当該飲食店との酒類の取引を停止するようお願いします」と書かれています。

2021-07-11
ANNnewsより

酒類卸業者は国税庁の免許が必要な業種ですから、国税庁からの要請は相当な圧力になります。
ただ、これは独禁法違反のような問題はなく、すでに文書化されていたためか、いまだに撤回されていません。

東京都はまん延防止等重点措置から緊急事態宣言に変わりましたが、中身はほとんど変わらず、唯一変わったのが、飲食店の酒類提供が午後7時まで許されていたのが全面禁止になったことです。
ですから、飲食店が禁止の要請に従わず従来通り酒類提供を続ければ、緊急事態宣言の効果はないことになり、感染者の増加も変わらないことになります。
そうするとオリンピック期間中、毎日新規感染者数の増加がニュースになり、オリンピックムードに水を差すことは必定です。

現在、酒類提供は午後7時までという要請を無視して営業を続ける飲食店が増えています。こういう店には緊急事態宣言もあまり効果がないでしょう。緊急事態宣言下でも要請を無視する店は増えてくるかもしれません。
どうして飲食店に酒類提供をやめさせるかということは政府内で議論されたはずです。
そうして出てきたのが、飲食店に卸業者と金融機関のふたつのルートから圧力をかけるという方法です。
裏から手を回すというヤクザみたいな手口で、しかも効果にも疑問がありますが、なんとか飲食店に言うことを聞かせたいという必死さは感じられます。

緊急事態宣言と、飲食店にふたつのルートから圧力をかけるという政策は、一体のものとして実施されました。
当然、菅首相がこの政策を知らないはずありません。
いや、むしろ菅首相の発案ではないかと思われます。
菅首相の得意のやり方だからです。


菅政権は4月ごろからワクチン接種を強力にプッシュし、7月末までに高齢者への接種を完了させるように各自治体に圧力をかけました。
このとき、普通は厚労省が動きそうなものですが、総務省からも働きかけがありました。

群馬県太田市の清水聖義市長のところには総務省の地方交付税課長から電話があり、市長は地方交付税増額の話でもあるのかと期待したら、7月末までにワクチン接種を完了させるようにという話だったということです。市長はこのことを市の広報誌に書いたので、広く知られるところとなりました。

厚労省から言われるより、地方交付税を差配する総務省から言われたほうが、自治体としては重く受け止めざるをえません。
中日新聞の『「7月完了」政権ごり押し 高齢者ワクチン接種、市区町村86%「可能」』という記事によると、これが太田市だけでないことがわかります。
「妙な電話が来ている」。四月二十八日の千葉県内の会合。ワクチン行政を担う厚生労働省ではなく総務省から、首長を指名し、接種完了の前倒しを求めてくることが話題になった。同じ時期、宮城県の自治体職員は「完了が八月以降のところが狙い撃ちされている」と取材に話した。中国地方の県関係者は電話口で「厚労省でなく、うちが動いている意味合いは分かりますね」と言われた。
 関東地方の市長の元にも、総務省の複数の職員から電話が来た。最初、体よく断ると、次には局長から「自治体はわれわれのパートナーだと思っています」と前倒しへの同調を求められた。首長は「まずワクチンを供給して」と、やり返した。

総務省を使って自治体に働きかけるというやり方が、金融機関や酒類卸業者を使って飲食店に働きかけるやり方と同じです。

人の弱みをつく巧妙なやり方ですが、言い換えれば陰湿なやり方です。
こんなことをしていれば、日本全体がモラルのない国になります。


そもそも菅政権の目玉政策であった携帯料金値下げも、総務省が携帯会社に圧力をかけて値下げさせるというものでした。
総務省にも政府にも携帯会社に値下げさせる権限はありません。
携帯料金が不当に高いのであれば、料金表示をわかりやすくするなどして公正な競争を促進する以外に方法はなく、政府が携帯会社に値下げを迫るのは違法行為か、少なくとも不当な圧力です。
こんなやり方をしたのでは、日本の携帯業界は価格決定権が会社ではなく政府にあるということになって、新規参入してくる業者がなくなり、業界の衰退を招きます。

ところが、このやり方がマスコミからも有識者からもほとんど批判されませんでした。
そのため菅首相は勘違いして、やり方をエスカレートさせて、今回の金融機関と酒類卸業者を使って飲食店に不当な圧力をかけるということにいたったのではないかと思われます。


いずれにせよ、飲食店に酒類提供をやめさせることは重要な問題であり、菅首相が関与していないはずはありません。
ところが、菅首相は9日朝、記者から「優越的地位の濫用につながらないか」と問われた際、「西村大臣というのは、そうした主旨での発言というのは絶対にしないと私は思っている」と答えましたが、今のところ菅首相のこの件に関する発言はこれだけです。

西村大臣は各方面からの猛批判にさらされ、辞任、更迭、議員辞職を求める声も上がっています。
しかし、この批判は的外れです。
政治家の失言の場合は、このように個人が批判されますが、今回は政府の政策の問題なので、批判されるのは西村大臣ではなく政府です(西村大臣は記者会見で発表する役回りだっただけです)。
もちろん政府の最終責任は首相にあります。
西村大臣の後ろに隠れている菅首相こそ批判されるべきです。

スクリーンショット 2021-07-03 210650
安倍晋三インスタグラムより

安倍晋三前首相は発売中の月刊誌「Hanada」で、東京五輪について「反日的な人たちが今回の開催に強く反対している」と述べて、物議をかもしています。

安倍前首相は、なんでも物事を反対に言う天才です。
IOCの会長や委員たちは「大会が可能になるのは日本人のユニークな粘り強さという精神、逆境に耐え抜く能力をもっているからだ」とか「かりに菅首相が大会中止を求めたとしても、それはあくまで個人的な意見にすぎない」とか「アルマゲドンにでも見舞われない限り、東京五輪は計画通りに開催される」のように、日本人を見下した暴言を吐き続けてきました。
それに反論ひとつせず、従い続けてきた開催賛成派こそ反日的です。


振り返ってみれば、五輪誘致活動のときに「復興五輪」と言ったのも安倍前首相です。

「復興五輪」とはなにかというと、復興庁のサイトを見ると、
「復興しつつある被災地の姿を世界に伝える」
「被災地の魅力を国内外の方々に知っていただく」
「競技開催や聖火リレーなどを身近に感じていただいて被災地の方々を勇気づける」
と書かれていますが、どれも精神論レベルで、具体的に被災地のためになることはありません。
被災地のためを考えるなら、たとえば「五輪の入場料収入の半分を復興費用に回します」などと宣言すればいいのです。そうすれば、被災地のためにも五輪を盛り上げようという機運が高まったでしょう。

「復興五輪」の理念のために、選手村では福島県産食材が提供されることになっていますが、これを韓国や中国のメディアが批判しています。
韓国や中国の批判はともかくとして、福島県産食材を使うことが各国選手団に歓迎されるかというと、そんなことはなく、中には不快に思う人もいるはずです。
これは「おもてなし」の精神にも反します。日本人の自己満足としか思われないでしょう。
安倍前首相は五輪誘致のために被災地を利用しただけです。


安倍前首相は昨年3月、IOCのバッハ会長と電話会談して五輪の1年延期を決めたとき、「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として完全な形で東京大会を開催したい」と語りました。
感染症に打ち勝った証を東京五輪に求めるのは根本的な間違いです。証を求めたいなら、PCR検査などに頼るしかありません。広範囲にPCR検査をしてほとんど陰性であれば証となります。

安倍前首相の発想は、「病気が全快した証があれば試合に出場する」というのではなく、「試合に出場すれば病気が全快した証になる」というもので、論理が逆です。
この論理では病気の悪化を招きかねません。

安倍首相の論理は、精神を肉体の上に置く精神主義です。
精神主義でコロナと戦おうというのは間違っていて、実際、安倍前首相はコロナとの戦いに敗れて退陣しました。

安倍前首相は退陣しましたが、その論理は今も菅首相に受け継がれています。
麻生財務相は東京五輪を「呪われたオリンピック」と言いましたが、東京五輪を呪ったのは安倍前首相の精神主義で、その呪いは今も続いています。


菅首相は7月4日にラジオ番組に出演して、「世界全体がコロナ禍という困難に直面しているからこそ、人類の努力や英知を結集して乗り越えられるということを世界に発信したい」と述べました。
安倍前首相の論理と同じです。
五輪を開催して、そのために感染が大きく拡大すれば、日本人の愚かさを世界に発信することになってしまいます。

菅首相は安倍前首相の論理を乗り越えて、合理的に考えないといけません。
本来なら東京五輪を再延期して、「人類がコロナ禍を乗り越えた暁に東京五輪を開催して、人類みんなでスポーツの祭典を楽しみたい」と言いたいところです。
それができないなら、中止にするか、コロナ禍でもむりをして開催するかということになります。菅首相の考えは後者でしょう。

だったら菅首相は「日本は世界に対して五輪開催の責務を果たさなければならない。そのため感染が拡大するかもしれないが、国民には我慢をお願いしたい」と言うべきです。
そうすれば、賛同する国民もいるでしょう。
少なくとも非論理的な不快感がなくなって、すっきりするのは間違いありません。

もっとも、日本の政治はそういう論理的な世界から、はるか遠いところにきてしまったようです。

3013222_m

西村泰彦宮内庁長官は6月24日の定例記者会見で、天皇陛下が新型コロナウイルス感染状況を大変心配されているとした上で、「国民の間に不安の声がある中で、ご自身が名誉総裁を務めるオリンピック、パラリンピックの開催が感染拡大につながらないか懸念されていると拝察している」と述べ、議論を呼んでいます。

これは天皇陛下の政治への口出しではないかという意見がありますが、「天皇の意向」ではなく、「宮内庁長官の拝察」として発表されたので、「天皇が政府に意見した」とはなりません。
とはいえ、そこに天皇の意向があることは明らかです。


これに対する政府の態度が驚きです。
加藤勝信官房長官は24日、「宮内庁長官自身の考えを述べられたと承知している」と語りました。
菅義偉首相は翌日、「昨日、官房長官からも会見で申し上げているように、長官ご本人の見解を述べたと、このように理解しています」と語りました。
丸川珠代五輪相も「私どもとしては長官ご自身の考えを述べられたものと承知をしております」と口裏を合わせました。

宮内庁長官の「拝察」の背後に天皇陛下の「意向」があることは明らかなのに、3人そろってガン無視です。
天皇陛下に対してあまりにも失礼な態度です。
「長官の拝察が正しいかどうかわかりませんが」と前置きしながら、「天皇陛下が感染拡大を懸念されているのであれば、懸念を払しょくするように努めていきたい」とでも言うのが常識的な反応です。


こうした失礼な態度は、菅首相の性格からきています。
菅首相は官房長官時代、記者会見で記者の質問に対して木を鼻でくくったような答弁を繰り返していました。
首相になれば国民に対して発信しなければならないので、態度が変わるかと思ったら、ほとんど変わりません。
なにごとも説明しないというのが菅首相の態度です。

日本学術会議の6人の新会員を任命拒否した件について、理由をまったく説明しませんでしたが、これは政府に反対した人間を任命拒否したので、説明のしようがないとはいえます。
しかし、緊急事態宣言を解除する基準について質問されても、まったく答えないのはどういうことでしょうか。
感染レベルがどうなれば五輪を中止するのかという国会での質問には、「国民の命と健康を守っていく」という言葉を17回も繰り返しました。
菅首相は感染のメカニズムがよく理解できていないようですが、質問に答えないのは、それだけではなく、相手を不安にさせて、自分の権力行使を最大限に効果的にするという狙いがあると思われます(このことについては「菅首相はなぜいつも説明不足なのか」という記事に書いたことがあります)。

つまり「説明しない」というのが菅首相独特の政治手法で、これが東京五輪開催か否かを政治問題にしました。


ここで東京五輪開催問題と天皇との関係を簡単にまとめてみます。

天皇や皇族は政治的なことには関われません。
2008年、石原慎太郎都知事が皇太子(現在の天皇)に対して招致への協力を求めたものの、宮内庁が「政治的要素が強い」として難色を示し、石原氏が「木っ端役人」と同庁を批判する騒動がありました。
五輪招致活動には賛否があって、政治的でしたが、招致が成功すれば、開催の足を引っ張ろうという人はいないので、天皇陛下は東京オリパラの名誉総裁になりました。

ところが、そこにコロナ禍が襲いました。五輪開催の賛否を問うアンケートでは、「中止・延期」が80%になりました。
菅首相が世論に合わせて中止・延期に動けばなんの問題もありませんでした。
五輪を開催するのなら、中止した場合に経済的損失がいくらぐらいになって、開催した場合に感染拡大はどの程度になるかといったデータを示して国民を説得する必要がありますが、菅首相は説得も説明もしないまま開催に突き進んでいくので、国民の不満は高まりました。
野党など反菅政権の勢力はそれに乗じて菅政権を批判し、菅政権支持の勢力は五輪開催を支持したので、五輪開催は政治問題になりました。
天皇陛下は東京オリパラの名誉総裁として開会式で開会宣言をすると思われますが、政治的対立の一方に加担することになり、これは「国民統合の象徴」としてふさわしくありません(かといって総裁を辞任するのも政治的です)。
天皇陛下はそうとうな危機感を持たれたと思います。

6月22日、菅首相は天皇陛下に対して「内奏」を行いました。
内奏とは、首相が天皇に対して国内外の諸情勢について報告するものです。二人だけで行われるとされていて、内容が明かされることはありません。

内奏において、おそらく天皇陛下は菅首相に対して、この感染状況で五輪を開催しても大丈夫かという質問をされたでしょう。
それに対して菅首相は、記者会見や国会答弁と同じく「国民の命と健康を守っていく」とか「安全安心の大会」という言葉を繰り返したに違いありません(それ以外のことが言えるなら、すでに言っています)。
このとき、天皇陛下はあきれたか、暗澹とした気持ちになったか、ブチギレたかして、二人の間に決定的な亀裂が入ったのでしょう。私はそう「拝察」します。

西村宮内庁長官の「拝察」発言があったのは、内奏の2日後です。
天皇陛下としては、自分は菅首相とは考えが違うということを国民に明らかにしておきたかったのでしょう。
五輪後に感染爆発が起こった場合に責任を負わされてはたまらないという思いもあったかもしれません。

菅首相が「拝察」発言を「長官個人の見解」と見なして、天皇陛下の思いを無視したのも、二人の間に亀裂が入ったからです。


安倍前首相と現在の上皇陛下との間には、憲法観の違いのようなイデオロギー上の対立がありましたが、菅首相と天皇陛下にはそうしたイデオロギー上の対立はなさそうです。
要するに天皇陛下は、菅首相が感染問題を真剣に考えていないことを目の当たりにして、あきれ果てられたのでしょう。

「安全安心」という言葉を繰り返すだけの人間を見れば、誰でもあきれ果てるのは当然です。

1831852


3度目の緊急事態宣言が4月25日に発令されましたが、その効果に関係なく、5月11日に解除すると決まっています。
IOCのバッハ会長が17日に来日するのに合わせたのだと言われています。
バッハ会長に「コロナに打ち勝った日本」を見せたいのでしょうか。

バッハ会長が「東京五輪は中止だ」と言うとすべてが終わってしまいます。
そうでなくても、バッハ会長の来日は世界に報道されるので、日本が緊急事態宣言を解除していないと、それが世界に知られて、選手団の派遣を中止する国が次々と出てくるかもしれません。
そうならないように、菅義偉首相としても必死なのでしょう。

吉本新喜劇の定番ストーリーで、偉い人が視察にきたとき、不都合な事実を隠すためにみんなで口裏合わせをしたものの、それがうまくいかずにドタバタ劇が起こるというのがありますが、それを思い出します。


東京五輪の開催か中止かの判断は、最終的に誰がするのでしょうか。
菅首相は23日の記者会見における質疑応答の中で、3度にわたってIOCに決定権があるようなことを言いました。

 オリパラに向けては、足元の感染拡大を静めることに、まずは全力で取り組みます。IOC(国際オリンピック委員会)は東京大会を開催することを、これは既に決定しています。IOCとして。そのことは各国のオリンピック委員会とも確認しております。政府としては東京都、組織委員会、IOC、しっかり連携を取って、安全安心の大会にすることができるように対策をしっかり講じてまいりたいと思います。

   *

まず、東京オリンピックですけれども、これの開催はIOCが権限を持っております。IOCが東京大会を開催することを、既に世界のそれぞれのIOCの中で決めています。そして、安全安心の大会にするために、東京都、組織委員会、そして政府の中で、感染拡大を防ぐ中でオリンピック開催という形の中で、今、様々な対応を採らせていただいています。

   *

(記者)
 今のに関連してお伺いいたします。フリーランスの江川紹子と申します。よろしくお願いします。
 今、総理は、オリンピックについてはIOCが権限を持っているとおっしゃいました。しかし、IOCは日本国民の命や健康に責任を持っているものではありません。そういう観点で、しかも、さっき総理はスピーチで事態は全く予断を許さないとおっしゃいました。尾身会長からもリバウンドは必ず来るというようなお話もありました。そういう中で、何とかやりたいというのはすごく分かるのですけれども、もしかしたら、どのような状況になったら中止もやむを得ないというような判断基準のようなものは総理の中にあるのでしょうか。あるとすれば、それは何でしょうか。(中略)
(菅総理)
 まず、IOC、オリンピックですけれども、IOCがそれぞれの国のオリンピック委員会と協議した上で決定しています。当然、日本が誘致していましたから、それは日本も当然、東京都、組織委員会、その中に入るわけですけれども、そういう中で、開催する方向で今、動いています。それで、開催する中で、IOCと東京都、組織委員会、そして日本政府、そういう中で会合をして、例えば先ほど申し上げましたけれども、外国人の、いわゆる応援される観光客の方には遠慮してもらうことをまずは決めています。それぞれ選手団の中で何人とかそうしたことも一つ一つ、日本に入国する人数も精査しながら行っているということを承知しています。(後略)
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2021/0423kaiken.html

菅首相はまったく同じことを3度も繰り返しています。
要するにIOCが決めたことだから、自分には責任がないと言いたいのです。
歴代首相を振り返っても、これほど露骨に責任逃れをする首相は見たことがありません。


5月11日に緊急事態宣言を解除すれば、宣言の期間は17日間ということになり、これでは大した効果は見込めません。
解除後は宣言前と同じ状態になるわけですから、また感染は拡大します(変異ウイルスのために拡大のスピードは上がるかもしれません)。

菅政権にこういう認識はないようです。これまでもつねに甘い見通しを持って、宣言を早めに解除したり、GoToキャンペーンをやったりして、感染拡大を招いてきました。

ともかく、宣言を解除してから7月23日の東京五輪開会に向けて、感染者が増加していくのは確実です。
世界においても、一時は減少傾向でしたが、変異ウイルスのせいか、このところまた増加傾向にあります。


現在、コロナ下においても東京五輪は開催される予定ですが、これを運動会にたとえると、「少雨決行」ということです。
せっかく運動会の準備をしてきたのですし、運動会を見るのを楽しみにしている人もたくさんいるので、国民も「少雨決行」はしかたがないと思っています。
しかし、大雨になれば話は別です。
大雨になれば、責任者が運動会の当日の朝、できれば前日に中止の決定をして、関係者全員に連絡をしなければなりません。

ただ、この判断がむずかしい。
中止にすれば、「この程度の雨ならできたじゃないか」と言われることがありますし、決行すれば、「なんで中止にしなかったんだ」と言われることもあります。

東京五輪の「コロナ下決行」を判断するのは、運動会の「雨天決行」を判断するよりもはるかにむずかしく、しかも責任が重大です。

この判断をするのは当然菅首相と思われますが、菅首相は記者会見の言葉からもわかるように、徹底的に責任逃れをしています。
中止の判断をするべき状況になってもなにもしない可能性があります。

ポジション的には橋本聖子五輪組織委会長が判断してもよさそうですが、そんな責任を負える人間とは思えません。

小池百合子都知事は、スタンドプレーの好きな人ですから、大胆に中止を言い出す可能性があります。
しかし、都知事のしがらみも大きいでしょうから、あまり期待はできません。

二階俊博自民党幹事長は、東京五輪について「これ以上とても無理だということだったらスパッとやめなきゃいけない」と発言して注目を集めましたが、なにを考えているのかわかりません。

結局、誰もなにも判断できないまま、土砂降りの中、五輪開催へ向けて突き進んでいくということも考えられます。

太平洋戦争末期、なかなかポツダム宣言受諾の判断ができず、本土決戦へ向かって突き進んでいった状況とそっくりです。


中止の決断をするのは、外国選手団が日本に到着する前でければならないでしょう。
そのときまでに誰が最終判断をすると決めておかなければなりません。

東京五輪の1年延期を決めたのは安倍首相(当時)でした。
去年の3月、安倍首相はバッハ会長に電話して、五輪開催を1年程度延期することを提案して同意をとりつけ、記者に発表し、その後、組織委とIOCが共同声明を発表するという手順でした。
五輪開催か否かという重要問題を判断するのはやはり首相です。

野党、マスコミ、国民は、五輪開催の責任は首相にあるのだということを菅首相に認識させなければなりません。

1393662_m

菅義偉首相の新型コロナ対策が後手後手になるのは、東京オリンピック開催のためだとか、観光業界利権を持つ二階俊博幹事長への忖度のためだとか言われていますが、もうひとつ納得がいきません。
内閣支持率が下がってからバタバタと動くのなら、どうしてその前から動かないのでしょうか。

そうしたところ、菅首相はスマホではなくガラケーを使っているということがわかりました。
「選択」1月号の『「孤立の宰相」菅の余命』という記事にこう書かれています。

十二月十三日の毎日新聞朝刊が決定打となった。内閣支持率は前月と比べて十七ポイント減の四〇%、不支持率は四九%となり、支持、不支持が逆転した。「勝負の三週間」が終わる前に状況は暗転した。慌てた菅は方針転換に動く。十四日午後、自民党幹事長二階俊博の携帯電話が鳴った。ともにガラ携を使うツートップの電話会談で菅が一方的に結論を伝えた。
「GoToを全国で一時停止させることにしました。これから官邸でそのための協議に入ります」
二階は短く返事をした。
「総理がお決めになったのならやむを得ない」
https://www.sentaku.co.jp/articles/view/20597

菅首相も二階幹事長もガラケーなのです。
二人の年齢を考えれば、ガラケーであってもおかしくありません。
ただ、菅首相はデジタル庁をつくって行政のデジタル化を推進することと携帯料金の値下げを政策の大きな柱にしていましたから、意外な感じもします。

検索すると、菅首相がガラケーを使っていることは、少なくとも読売新聞と神奈川新聞が記事にしていましたから、国家機密というわけではありません。

菅首相はパソコンも使っていないようです。「菅首相 パソコン」で検索しても、菅首相がパソコンを使っているということはまったく出てきません。

菅首相には公式ホームページがあり、公式ツイッター、公式インスタグラム、 公式ブログ、公式フェイスブックもあります。公式ツイッターはけっこう頻繁に投稿されていますが、活動報告みたいなものがほとんどです。
すべて事務所のスタッフが運営しているのでしょう。

菅首相の毎朝のルーティンに散歩や新聞のチェックなどはありますが、「パソコンで情報をチェック」というのはありません。


少し前まではパソコン、スマホが使えなくてもたいして問題視されませんでしたし、高齢者であればなおさらです。
しかし、今の時代、とくに政治家においては、ネットの情報に接していないのは致命的です。

とりわけ菅首相のような立場になると、耳に痛い情報というのは誰も上げてこなくなります。
自分でマウスを操作してネットサーフィン(古い?)をすれば、たとえばヤフコメ欄などで否応なくそうした情報が目に入ります。


ちなみに森喜朗元首相もガラケーのようで、東京五輪・パラリンピック組織委員会の職員に対する年頭あいさつを行ったという記事に、こんなことが書かれていました。
先日、森会長は「不安はまったくない。(五輪を)やることは決まっている。準備はほとんど終わっている。どうして7月のことを今議論するのか」と開催への自信を示したが、世間からの反発は強く「うちの家内がスマホばかりみているんですが、私の悪口ばかりだったそうです。『森は何を考えているのか、バカじゃないか』と。菅さん以上に悪口ばかり。こんなのは長い人生で初めて。森内閣でもこんなに酷くなかった」と苦笑いを浮かべた。
https://www.daily.co.jp/general/2021/01/12/0013999863.shtml
森元首相は奥さんのスマホを通してネットの情報に接して、多少は世の中の空気を理解しました。

もちろんネットの論調は偏っているので、うのみにしてはいけません。偏っていることを知って、頭の中で修正する必要があります。

菅政権のコロナ対応が後手後手であるのは、菅首相と二階幹事長がネット音痴であることでだいたい説明がつきます。

とくにイギリスで感染力の強いウイルスの変異種が発見されて、日本に入ってくることが懸念されているときに、政府は11の国と地域とのビジネス往来を止めませんでした。菅首相は1月8日に報道ステーションに出演したときも、「(相手国の)市中で1例でも発生したら止める」と言って、すぐに停止するとは言いませんでした。
新聞やテレビはこの問題をそれほど重視していませんでしたが、ネットではすぐに止めるべきだという声が圧倒的でした。
とくに菅政権のコアな支持層が強硬に主張していました。
しかし、ネット音痴の菅首相にはそうしたことがわからなかったのでしょう。

結局、菅首相は13日の記者会見でビジネス往来の一時停止を発表しました。
ネット音痴であるがゆえに後手に回った典型例です。


安倍前首相はネットの世論をきわめて気にして、うまく対応していました。
ただ、そのために安倍前首相自身がネトウヨ化してしまいましたが。
モリカケ桜問題で強気の対応を貫けたのも、ネットである程度支持されていたからでしょう。
しかし、アベノマスクと星野源コラボ動画では圧倒的に批判されました。
いや、批判されたというより、バカにされ、嘲笑されました。
安倍前首相が辞任したのは、その精神的ダメージが大きかったからではないでしょうか。


ともかく、今の時代にネット音痴では政治家は務まりません。
菅首相は今からでもスマホを購入して(ガラケーと併用でいいので)、ネットで自分や自分の政策がどう評価されているかを知るべきです。
もっとも、支持率の低下した今の段階では、悪口ばかり目にすることになって、安倍前首相のように辞任したくなるかもしれませんが。

菅首相一月
官邸ホームページより

菅義偉首相は1月7日、緊急事態宣言を発出することを表明しましたが、例によって後出し、小出しの対策です。

すでにいろいろ批判されていますが、根本的な問題として、菅首相は平気で会食を続けていたように、新型コロナウイルスに対する危機感がないのでしょう。

それから、首相就任時に「感染症対策と経済の両立」と言ったのも問題でした。
感染症対策は入院や隔離生活みたいなもので、元気に働くこととは両立しません。
最初に入院して十分な治療を受けて、健康体になってから働く――つまり徹底した感染症対策で台湾やニュージーランドみたいに完全に抑え込むのが、経済を回すための正しいやり方でした。
あるいは、アメリカやブラジルやスウェーデンみたいに経済を止めないというやり方もあるかもしれません。その場合は感染者が増えるので、医療崩壊しないように医療体制を徹底的に強化することが必要です。
日本は感染症の抑え込みが中途半端だったために感染の拡大を招き、医療体制の強化も中途半端だったために、医療崩壊の危機に瀕しています。
菅首相が「感染症対策と経済の両立」という間違った目標を立てたのが最大の失敗です。


私は菅首相のキャラクターや発想法に興味があって、菅首相の記者会見を改めて見てみました。

菅首相の記者会見の動画と書き起こし文は、官邸ホームページで見ることができます。

令和3年1月7日 新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見

菅首相はいつものように原稿棒読みですし、記者との質疑応答もあらかじめ決められていたのが明らかです。

緊急事態宣言とまったく関係ない質問をする記者がいました。2月にバイデン次期米大統領に会うときに核兵器禁止条約にどのような方針で臨むかという質問です。
これに対して菅首相はほとんど下を向いて紙を読みながら答えていました。
つまりこの記者が指名されて、この質問をすることは決まっていたのです。
ほかに「感染症対策をする上で“憲法の壁”みたいなものを感じることはないか」という質問をする記者もいて、菅首相はやはり紙を読みながら答えていました。

国民は緊急事態宣言について知りたいと思っているのに、官邸と記者がなれ合って、時間つぶしの応答をしているのです。

細かいことですが、菅首相は冒頭発言の最後に「今一度ご協力を賜りますことをお願いして私からの挨拶とさせていただきます」と言ったので、「記者会見は挨拶だったのか」とか「パーティと勘違いしている」などのつっこみが入っています。
ここだけ原稿から目を離して自分の言葉でしゃべったようです。

細かいことついでにもうひとつ言うと、会見の最後で秘書官が「次の日程がございますので」と言って会見を終了させたのですが、「日程」というのは「一日の予定」のことですから、ここは「次の予定」というのが正しい日本語です。
安倍首相のときに、むりやり会見を打ち切るのに秘書官が「外交日程があるので」とデタラメを言って、それが慣習となって「日程」という言葉が使われるようになったのですが、官邸のスタッフが日本語を乱してはいけません。


緊急事態宣言についてわからないことがいっぱいあります。
これは、菅首相自身が感染症対策のことをよくわかっていないということもありますが、菅首相がわざとわかりにくくしているということもあります。

菅首相は1月4日の年頭記者会見で、「国として緊急事態宣言の検討に入ります」と表明しました。
「検討に入る」であって、「宣言する」とは言っていないのです。
ただ、このときの報道は宣言することを前提としたものばかりでしたし、実際に宣言はなされました。
つまり菅首相は、ほんとうは宣言することを決めているのに、「検討に入ります」という言い方をしたのです。

「宣言することを決めました。7日に具体策を発表し、8日から実施します」と言えばわかりやすく、国民も心構えができますし、企業もリモートワークの段取りなどができます。
「検討に入ります」という言い方では、国民は宣言しないかもしれないと思って不安になりますし、準備もできません。

しかし、これこそが菅首相のねらいです。
ぎりぎりまで決定を延ばすことで周囲を振り回し、自分に決定権があることを思い知らせるのです。


緊急事態宣言の期間は1か月後の2月7日までとされましたが、誰も1か月で終わるとは思わず、どこまで感染が減少すれば解除になるのかが気になるところです。
ある記者も「取り組む国民の一体感のためにも、科学的な数値目標を示すことが必要ではないか」と質問しました。
しかし、菅首相も尾身茂会長も具体的な数値は言いませんでした。
西村担当相は、緊急事態宣言解除の基準として東京都で新規感染者数が500人以下という数字を示しましたが、首相が同調しないのではあまり意味がありません。

つまり全国民が緊急事態宣言はいつどうなれば解除されるのかわからないという状態に置かれているのです。
これも菅首相の意図したものです。
宣言の解除を決めるのは菅首相なので、全国民が菅首相の意向に振り回されるのです。


緊急事態宣言は一都三県が対象で、大阪や愛知は対象外です。
一都三県の感染者数が多いといっても、それほど違うわけではなく、これもわかりにくいところです。

菅首相は4日の年頭記者会見のときから一都三県、とくに東京都が飲食店の営業時短をしなかったことが問題だと、しつこいくらいに述べています。

12月の人出は多くの場所で減少しましたが、特に東京と近県の繁華街の夜の人出はあまり減っておりませんでした。
   *
1都3県について、改めて先般、時間短縮の20時までの前倒しを要請いたしました。
   *
北海道、大阪など、時間短縮を行った県は結果が出ています。東京といわゆる首都3県においては、三が日も感染者数は減少せずに、極めて高い水準であります。1都3県で全国の新規感染者数の半分という結果が出ております。
   *
北海道、大阪など、これは時間短縮、こうしたことを行った県では効果が出て、陽性者が下降してきております。ただ、東京とその近県3県が感染者が減少せずに高い水準になっているということもこれは事実であります。
   *
まず、東京都とその近県で12月の人出があまり減らなかったということです。また、三が日も感染者数は減少しないで、極めて高い水準になっている。
   *
全国でこの2週間、1都3県だけで約半分になっています。こうした状況を見て、政府として、4人の知事の要望も判断の一つの要素でありますけれども、全体として見れば、やはり首都圏だけが抜きん出て感染者が多くなってきている。ここについて危惧する中で行っていきたい。それで判断をしたということであります。
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2021/0104kaiken.html
菅首相の狙いは“分断支配”です。
支配下を「よいグループ」と「悪いグループ」に分けて、競わせようというわけです。

実際のところは一都三県だけに問題があるわけではなく、大阪や愛知も感染者が増加しています。
菅首相がむりやり分断しているだけです。

菅首相はGoToトラベルを開始するときも東京都発着だけ除外するということをして、「わかりにくい」と批判され、混乱を招きましたが、これも得意の“分断”でした。


また、決定がつねに“唐突”です。
GoToトラベルの開始は、当初は8月中旬が予定されていましたが、7月10日に突然7月22日から実施すると発表され、準備不足から混乱が起きました。
そして、GoToトラベルを一時停止するときも、菅首相は12月11日にニコニコ動画において「まだそこは考えていません」と言ったのに、政府は14日夜に28日から全国一斉に停止すると発表しました。このときも準備不足から混乱が起きました。


菅首相の権力行使のやり方は「説明せず、分断し、唐突に」決定するというものです。
なぜそんなやり方をするかというと、自分の権力を最大化するためです。
菅首相の周りはつねに振り回されます。そうならないようにするには菅首相の意向を忖度して先回りしなければなりません。


新聞読み芸人のプチ鹿島氏は菅首相の『政治家の覚悟』という本を読んで、「話題の菅総理本『政治家の覚悟』をプチ鹿島が読んでみた…収録されている“実はヤバい部分“とは?」という記事を書いていますが、その中で菅首相のことを「権力快感おじさん」と名づけています。
菅首相は気に入らない部下や自分に逆らった部下を更迭した体験を自慢げに書いていて、そうした権力行使に快感を感じているというのです。

日本学術会議の6人の任命拒否問題も、菅首相にとっては快感なのでしょう。


宣言解除の具体的な目安が示されれば、国民もやる気が出ますが、そうすると首相の裁量の余地が狭くなります。
菅首相が権力の快感を味わうために、国民は分断され、五里霧中の歩みを強いられているというわけです。

2305640


今にして思えば、「ガースー」発言が転換点でした。

菅義偉首相は12月11日、ニコニコ生放送に出演し、冒頭で「みなさんこんにちは。ガースーです」とあいさつして大スベリし、「こんなたいへんなときにふざけるな」などの批判が殺到しました。

「ガースー」発言については、誰か側近が「ニコ生では『ガースー』と言うと受けますよ」などと助言し、菅首相はそれを真に受けたのだろうと思われています。
しかし、もし誰かが菅首相に助言していたとしたら、菅首相は恥をかかされたと激怒して、その人は地獄の底へ左遷されてしまうに違いありません。菅首相は自分に反対した人間をすぐに左遷するそうですから。
そんなリスクの大きい助言をする人がいるでしょうか。

菅首相は改元のときに官房長官として「令和」の額を掲げると、「令和おじさん」として急に人気になりました。菅氏が首相になれたのはその人気のおかげと言っても過言ではありません。
それから、パンケーキが好きだと言うと、「パンケーキおじさん」と呼ばれて、また人気が出ました。
本人はこれで人気者になろうと意図したわけではありません。
なにも考えずにバットを振ったら、まぐれでボールが当たってヒットになったようなものです。
ともかく、これが菅首相の成功体験になりました。

今回「ガースー」と言ったのも、内閣支持率が急落する中、人気を挽回しようと思ってとりあえずバットを振ってみたということでしょう。
もちろんまぐれ当たりは何度もありません。


菅首相は自分の判断でやって大スベリしたので、精神的ダメージを受け、自分の判断力に疑問を持ったのかもしれません。
そうして決定されたのがGoToトラベル一時停止です。

この決定には誰もが「ブレた」という印象を持ったでしょう。
菅首相は「一度決めたことは人になんと言われても曲げない」というイメージをつくりあげてきました。とくにGoToトラベルは菅首相の肝煎り政策なので、いくら批判されても除外地域を追加する程度の手直しでお茶を濁すだろうと見られていました。

「一度決めたことは人になんと言われても曲げない」というイメージが確立すると、周りの人間はすぐに反対するのを諦めるので、自分の言い分がなんでも通るようになります。
菅首相は体も小さく、声にも力がなく、原稿を棒読みするだけで、権力者らしいところがまるでありませんが、「ブレない」というイメージがあることでリーダーシップを発揮してきました。

しかし、GoToトラベル一時停止で「ブレない」というイメージが崩れてしまいました。
政治は戦いですから、弱みを見せると、相手はかさにかかって攻めてきます。

そこで批判されたのが、菅首相が多人数で会食していた問題です。
最初にやり玉にあがったのは、GoToトラベル一時停止を発表した14日、王貞治氏、みのもんた氏、杉良太郎氏、二階俊博幹事長ら8人程度で忘年会をしたことです。
ノーマスクだったこと、店にアクリル板はなかったことなどが次々と報じられ、批判が高まりました。

すると菅首相は16日、記者の前で「反省」を表明しました。
これも意外な感じでした。
これまでなら「情報収集と人脈づくりのために会食は総理として重要な仕事ですので、感染防止に極力配慮して行ってきましたが、今後は控えたいと思います」程度の談話ですませていたでしょう。

しかも、「反省」表明のとき原稿を読まなかったのも、これまでのやり方と違います。
それが裏目に出て、「国民の誤解を招くという意味においては真摯に反省しております」と言い、「どこが国民の誤解だ」というさらなる批判を招いてしまいました。

その後、人数を4人以下にしたものの、1日に2件会食をしたので、「ハシゴ会食はいいのか」という批判も浴びました。
一度弱みを見せると、次々と攻め込まれるというパターンです。

菅首相の「反省」表明は側近も想定していなかったようです。
西村経済再生担当相は16日午前の衆院内閣委で野党議員から「5人以上の会食はいいのか悪いのか」と追及されると、「一律に5人以上はダメだということを申し上げているわけではございません」「もしどうしてもされる場合には、アクリル板のある店を選んでくださいとか、換気に注意してくださいとか、こういったことも併せて申し上げております」と首相を擁護しました。ところが、その日の午後に首相が「反省」表明をしたわけです。


急に会食への批判が巻き起こったのは、菅首相がブレたからです。
菅首相がGoToイートの適用を「原則4人以下」での飲食に制限するよう要請したのは11月16日のことです。
そのときにマスク着用の会食を呼びかけ、「私も今日から徹底したい」と言いました。
しかし、それからも菅首相は毎日会食を続けました。5人以上の会食もあったことは新聞の「首相動静」を見ればわかります。そのときマスク会食をしていたか否かも少し取材すればわかることです。
しかし、「5人以上でノーマスク会食をしている」と批判されたことはありません。
ところが、「ブレた」と思われたとたん、批判が起こったのです。
政治は力関係で動いていることがよくわかります。


そして、力関係が変わったことで見えてきたこともあります。
自民、夜会合を続々中止 大人数会食批判を考慮か
 菅義偉首相による5人以上の会食に批判が出ていることを受け、自民党では16日、大人数での会食の中止が続々と決まった。

 二階、岸田両派は17日にそれぞれ予定していた忘年会を中止した。

 二階派は17日夜、東京都内の日本料理店で所属議員48人らに呼び掛け、忘年会を計画していた。しかし、同派の山口壮事務総長が16日、所属議員に文書で「新型コロナウイルスの感染状況」を理由に中止を伝えた。

 二階俊博幹事長と佐藤勉総務会長ら総務会メンバーによる18日夜の会食も取りやめとなった。佐藤氏は16日の記者会見で「批判があったことも踏まえ、われわれも襟を正さなければいけない」と述べた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/b10f02be569549fbce8032c01fd7c2f38e8e2b16

自民党は、国民には会食は4人以下と要請していながら、自分たちは平気で大規模な宴会を計画していたのです。
おそらくGoTo停止がなければ、マスコミはこうしたことも報じなかったでしょう。

自民党のおごりがうかがえますが、同時に自民党の「コロナ軽視」もうかがえます。
政府のコロナ対策はつねに後手後手ですが、その理由はこのへんにありそうです。


菅首相がブレたために、菅応援団も困ったでしょう。
菅応援団は、経済を回すのにGoToは必要だと主張して、野党やマスコミを批判してきたので、完全にハシゴを外されました。
安倍首相の応援団は、安倍首相が森友学園問題で数々の不正行為を働いても、教育勅語を唱和する軍国主義教育の学校をつくるというイデオロギーを共有しているので、安倍首相を応援し続けました。
しかし、菅首相にそういうイデオロギーはないので、菅応援団は一度ハシゴを外されると、応援する気を失うのではないでしょうか。


政治の世界では「ブレた」と見なされると、急に風向きが変わります。
菅首相はここから体勢を立て直せるでしょうか。

3896046_m

「アクセルとブレーキを同時に踏むようなものだ」と批判されても、菅義偉首相はGoToトラベルを停止するつもりはないようです。

菅首相は「経済が疲弊すれば自殺者が増える」と主張します。
この主張には、GoToトラベルと経済全体をすり替えるというごまかしがあります。
菅首相の論理はごまかしだらけです。それを解明してみます。


キーワードは「エビデンス」です。

菅首相は「GoToトラベルが感染拡大の主要な原因であるとのエビデンスは存在しない」と繰り返し言っています。

「エビデンス」というのは要するに「証拠」のことです。
「有罪の証拠は存在しない」と言われると、「証拠がないからといって無罪とは限らない」とすぐさま反論できますが、「有罪のエビデンスは存在しない」と言われると、「エビデンス」という言葉にごまかされて、反論しにくいということがあるかもしれません。

人を裁く裁判では「疑わしきは罰せず」ですが、命や健康を守るためには「疑わしきは罰する」であるべきです。


そうしたところ、東大などの研究チームが12月7日、「GoToトラベル利用者のほうが利用しなかった人よりも多く嗅覚・味覚の異常など新型コロナウイルス感染を疑わせる症状を経験し、統計学上2倍もの差があり、利用者ほど感染リスクが高い」との研究結果を発表しました。
これはGoToトラベルが感染拡大の原因であるという「エビデンス」ではないでしょうか。

ところが、赤羽一嘉国交相は「この論文については正式に査読前という話もありましたし、現時点ではコメントする段階でないと思っている」と語りました。
そして、加藤勝信官房長官、田村憲久厚労相もそろって「査読前」という言葉を使ってその論文を否定しました。
ということは、これは菅政権の方針なのでしょう。
新型コロナウイルス感染症については緊急性が高いので、マスコミは査読前の論文もどんどん紹介しているのですが。

確かにこの研究結果は絶対的な証拠とは言えないかもしれません。
しかし、状況証拠のひとつではあります。


逆の証拠らしいものもあります。
菅首相は11月23日に都内で講演した際、「トラベルは延べ4000万人の方が利用している。その中で現時点での感染者数は約180人だ」と語りました。
観光庁は26日の時点で202人という数字を出しています。

しかし、この数字はあまりにも少なすぎます。
東京新聞の『新型コロナ Go Toトラベルで感染、本当に202人? 全て把握とは言い切れないのに「継続」』という記事にはこう書かれています。

 観光庁などによると、事業を利用した感染者数は、宿泊施設などに対し、保健所や利用者本人から連絡があった数字を積み上げて集計している。宿泊から日数がたって感染が確認される場合などは、保健所から宿泊施設に必ず連絡があるわけではないという。
 「Go To トラベル」で人の往来を後押しし、症状のない人が旅先で知らず知らずのうちに感染を広げてしまう恐れもある。こうした感染者を正確に集計するのは難しく、事業に伴う感染者数を正確につかめているとは言い切れない。

宿泊施設から聞いた数字を集計しているのです。
宿泊者が帰ってから発症した場合、わざわざ宿泊施設に連絡するとは思えません。保健所にしても同じです。そもそも本人もどこで感染したかよくわからないでしょう。
それに、宿泊施設はGo Toトラベルの恩恵を受けているので、正直に報告するとは限りません。
旅行者が電車の中やレストランなどで人に感染させた場合はまったく把握できないわけです。

そう考えると、ほとんど意味のない数字ですが、菅首相はその数字を繰り返し根拠として挙げています(さすがに「エビデンス」という言葉は使っていませんが)。


これはどういうことかというと、Go Toトラベルに不利な証拠は採用されず、Go Toトラベルに有利な証拠は採用されるということです。
「Go Toトラベル裁判」というものがあるとして、裁判官はすべての証拠を踏まえた上で判決を下すのではなく、最初から判決ありきで、判決に合わせて証拠を取捨選択しているのです。

しかも、その手口が全国民の目に見えています。内閣の支持率が急落するのも当然です。


Go Toトラベルが感染を拡大させていることは常識で考えてもわかります。
リモートワークをしていて、買い物に行くぐらいしか外出しない人が、Go Toトラベルで旅行にいくと、宿泊施設、観光施設、交通機関、飲食店、土産物店、街中などで人に接触するので、おそらく百倍以上、人と接触するでしょう。感染が拡大するのは当然です。
それに、会食は感染リスクが高いと言われていますが、旅行にいくと三食ほぼ会食になります。


菅首相はどうしてこのように見えすいたごまかしをするのかというと、安倍政権のときにモリカケ桜問題でごまかしをして、それが通用したという成功体験があるからでしょう。
学術会議任命拒否問題でも、政府に反対した学者の任命を拒否したことをごまかして、押し通してきました。
Go Toトラベルでも押し通せると思ったのでしょう。

モリカケ桜で騒ぐのは時間のむだだという人がいましたが、記録改ざんや虚偽答弁を許した害悪がこんな形で出てきました。


ともかく、ごまかしを押し通すというやり方は、人間相手なら通用するかもしれませんが、ウイルス相手には通用しません。
そのために安倍首相もトランプ大統領も失敗しました。
菅首相はそこは学習しなかったようです。


もともと菅首相はウイルスを軽視していたのでしょう。
普通だと、周りの人間が意見してくれて、間違った考えを修正できますが、菅首相は自分に諫言する人間を左遷するので、周りはイエスマンばかりなのでしょう。
権力者は最終的にイエスマンに取り囲まれることになりがちですが、菅首相は首相就任の最初から末期状態です。

スクリーンショット (32)
11月19日、新型コロナについてなぜか笑顔で記者会見する菅首相

新型コロナの新規感染者数が急増していますが、西村康稔新型コロナ担当相は11月19日、「感染がどうなるかっていうのは、本当に神のみぞ知る」と言いました。
信じがたい無責任な発言です。

西村大臣は13日の記者会見では、GoToトラベルを活用して旅行することを推奨するのかと問われて、「活用して旅行するかどうかは国民の判断だ」と語り、GoToキャンペーンの責任を国民に押しつけました。

東京都はコロナ警戒レベルを「最高」に引き上げましたが、飲食店の営業自粛要請などはせず、小池百合子都知事は記者会見で「5つの小」と書かれたボードを掲げ、「会食はぜひ『小人数』。できれば『小一時間』。『小声」で楽しんで、料理は『小皿』に分けて、『小まめ』に換気や消毒をしていただく。5つの小を合言葉にして、感染防止対策の徹底をお願いします」と語りました。

神奈川県の黒岩祐治知事は報道ステーションに出演した際、5人以上の会食を禁止する動きがあることについて、「4人なら大丈夫ですか? 3人なら大丈夫ですか? 私は違うと思います。それよりも、マスクをしたまま会食すれば、これは大丈夫ですね」「マスクをしながら会食するというのは、ちょっと鬱陶しいと最初思われるかもしれないけど、やってってください。これをやると安心に繋がりますから」などと語りました。

奇妙な混乱が起きているのは、感染拡大の中でも政府がGoToキャンペーンを継続しているからです。
この判断は菅義偉首相がしたものでしょう。GoToキャンペーンは菅首相の肝いりの政策です。

黒岩知事が言った「マスク会食」も、もとは菅首相が言ったことです。
菅首相は19日のぶらさがり記者会見で、「ぜひ皆さん、静かなマスク会食、これをぜひお願いしたい、このように思います。私も今日から徹底をしたいと思います」と語りました。
そして、そう言った直後、なぜか珍しく笑みを浮かべました。自嘲の笑みだったのでしょうか(その動画はこちら)。


考えてみれば、GoToトラベルキャンペーンが始まったときも似たような混乱がありました。
GoToトラベルは本来なら8月中旬に開始される予定でしたが、前倒しして7月22日から実施されることになりました。それがちょうど第二波の感染拡大期に当たっていて、「なぜ今やるのか」と批判されましたが、菅官房長官は東京発着をキャンペーンから除外するという中途半端な対応で押し切りました。

菅首相は自分の思い入れのある政策については融通がきかないようです。ふるさと納税制度も、返礼品競争が過熱化するという忠告を無視して実施し、案の定過熱化しました。


GoToキャンペーンをめぐって混乱が起きるのは、最初にキャンペーンの目的が明示されなかったからです。

GoToトラベルは、苦境にある観光業界を救済するのが目的です。
ですから、最初に安倍首相か、少なくとも菅官房長官が国民に向かって、「今、観光業界は苦境にあります。観光業界を救うため、国民のみなさんは感染予防対策を十分にした上で、積極的に旅行をしてください」と呼びかけるべきでした。
本来はここに「リスクを取って」という言葉も入れるべきですが、この程度のごまかしはしかたがないでしょう。

呼びかけだけで国民がどんどん旅行をするようになるとは思えないので、そこでGoToトラベルを実施すればいいわけです。
旅行費用の半額が税金で支払われるのですから、当然多くの人が旅行します。税金投入の効果が目に見えるので、国民も税金投入に納得がいくはずです。
最初の呼びかけによってある程度旅行者がふえれば、税金の投入を5割でなく3割にするというように、税金の節約ができるかもしれません。

GoToイートも同じです。
菅首相が国民に「飲食業界を救うために積極的に外食をしてください」と呼びかけ、その呼びかけをより効果的にするために税金を投入します。

これまで政府関係者から国民に対して「旅行をしましょう」「外食をしましょう」という呼びかけが行われたことはないのではないでしょうか。
「経済を回す」「旅行業界を救済しないと」「飲食業界は持たない」などの言葉でGoToキャンペーンの必要性を主張する声があるだけです。

国民への呼びかけをせずにGoToキャンペーンだけやるというのは、「政府はGoToキャンペーンをするだけで、参加するか否かは国民の判断だ」というスタンスで、感染の責任を追及されないようにしているのでしょう。
西村大臣が「活用して旅行するかどうかは国民の判断だ」と言ったのは、まさにそのスタンスを表現したものです。


「外食をしましょう」という呼びかけをしていれば、呼びかけた責任があるので、感染が急拡大したときには、「これまでは外食するよう呼びかけてきましたが、昨今の感染状況に鑑みて、これからは外食を控えてくださるようお願いします。GoToイートも一時中止します」と機敏に方針転換もできます。
今は無責任体制でGoToキャンペーンを始めたので、感染が拡大しても平気で続けていられます。


もちろん菅首相もなにも考えていないはずがありません。
週刊文春の最新号に『菅 放言録「GoTo継続は当然」「専門家は慎重すぎる」』という記事が載っています。
確かに新規感染者数は急増していますが、死亡者数はそれほどふえていませんし、アメリカやヨーロッパと比べるとぜんぜん大したことはありません。
マスコミや医師会は騒ぎすぎです。
菅首相がほんとうに経済を回していくべきだと考えているなら、「この程度の感染を恐れる必要はありません。旅行も外食も続けてください」と国民に訴えるべきです。
賛否両論巻き起こるでしょうが、そうした中を突き進んでいくのがリーダーシップのある政治家というものです。
しかし、菅首相にそんな覚悟はありません。

結局、経済は回したいが、責任は取りたくないという無責任政治家ばかりなので、国民は「マスク会食」などというへんなものを押しつけられる羽目になっています。

このページのトップヘ