村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

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AP通信写真家のエヴァン・ヴッチの写真――Elizabeth May (on semi-hiatus)のツイートより

アメリカ大統領選挙はバイデン候補の当選で決着しました。
もっとも、トランプ大統領は「選挙は私が大差で勝った!」とツイートし、さらに「月曜日から選挙に関わる法律がきちんと執行され本当の勝者が決まるように裁判を通じて求めていく」との声明を出したので、裁判闘争が続くのかもしれません。
しかし、選挙不正の証拠も示されないので、裁判の帰趨は明らかです。


この4年間、世界はトランプ大統領の毒気にあてられてきました。
これから毒気を抜いて健康を回復しなければなりません。
それにはトランプ大統領をよく理解することです。

頭を冷やして振り返ると、トランプ大統領にもいいところはありました。
なによりも新しい戦争をしませんでした。
継続中の戦争も縮小の方向でした。
トランプ政権は軍事費を増大させたので、私はトランプ大統領は好戦的な人間で、どこかで戦争を始めるだろうと思っていましたが、それは私の見込み違いでした。

それから、よくも悪くも実行力があったのは事実です。
たとえば、金正恩委員長との会談は、ホワイトハウスで賛成するのは誰もいないような状況でしたが、実現させました。
もっとも、会談は実現しましたが、そのあとはとくに進展がありません。トランプ大統領は戦争を防いだと自慢していますが。


私が考えるに、トランプ大統領はアメリカファースト以前に自分ファーストの人間で、つねに自分が中心にいて注目されたいのです。
戦争が始まってしまうと、戦況や司令官に注目が集まります。そういう事態は避けたのでしょう。

軍事費を増大させたのも、強大な軍事力を持つ大統領として世界から仰ぎ見られたかったからでしょう。

金正恩委員長と会談したのも、その会談が世界でもっとも注目される会談だったからです。
同盟国の首脳といくら会談しても大して注目されません。
会談で注目されれば満足なので、会談が終わればそれきりです。

なお、トランプ大統領はASEAN首脳会議に一度も出席したことがありません。サミットには出席しますが、あまり楽しそうではありません。ワンオブゼムの立場がいやなのでしょう。


トランプ大統領は実際にブロレスのリングにのぼったことがありますし、バラエティ番組の司会で「お前はクビだ!」の決め台詞で人気を博しました。
そのままの感覚で大統領になって、同じことをやっているのです。

ですから、私たちもプロレスを見物する感覚でトランプ大統領を見ることができれば楽しいのですが、このプロレスラーは核のボタンを持っているので、この見物は精神衛生によくありません。

“トランプレスラー”の得意技は言葉を使っての攻撃です。
トランプ大統領は特殊な言語能力を持っています。
言葉の攻撃力を持っていることも戦争しなかった原因かもしれません。

たとえばバイデン候補とのテレビ討論会で、暴力的極右団体プラウド・ボーイズに対してなにか言わないのかと司会者に問われると、トランプ大統領は「プラウド・ボーイズ、下がって待機せよ」と言いました。
これは行動への準備を命じたようなものだと批判されましたが、「行動するな」という意味でもあり、実に巧妙な言い方です。とっさにこういう言葉の出てくるところにトランプ大統領の優れた言語能力があります。

トランプ大統領はツイッターに毎日のように多数の投稿をしていますが、世界最高の権力者が思いつくままに発言して通用しているのも驚くべきことです。


トランプ大統領は今回の選挙について「彼らは選挙を盗もうとしている」とツイートして、ツイッター社に警告をつけられました。

「選挙を盗む(steal the election)」とは不思議な言葉です。ファンタジー小説に出てきそうな言葉で、巨大な悪を想像させます。
「投票用紙を盗む」とか「投票箱を盗む」ならわかりますし、「そんな事実はない」と反論もできますが、「選挙を盗む」と言われると、どう反論していいのか困ります。

トランプ大統領はほかにも「郵便投票は腐敗した制度だ」とか「合法的な集計をすれば、我々は楽勝だ」とか「不正はやめろ」とかいろいろ言っていますが、「選挙を盗む」という言葉の威力で、証拠もなしに不正選挙のイメージづくりにある程度成功しました。


しかし、トランプ大統領の言葉の攻撃力もウイルスには通用しませんでした。
新型コロナウイルスの蔓延を防げなかったことでトランプ大統領の支持率は低下ししました。
もし新型コロナがなかったら、トランプ大統領は楽勝していたでしょう。



トランプ信者は日本にも多くいます。
ヤフーニュースのコメント欄には、選挙の不正を主張する意見がいっぱいあります。
こういう人たちは菅首相にまで文句をつけています。

菅首相「バイデン祝福」にかみつく人たち 「まだ決まってない」「裁判を見極めて」などと主張が
菅義偉首相が2020年11月8日、米大統領選で「勝利宣言」したジョー・バイデン氏への祝意をツイートしたところ、リプライ欄に反発の声が少なからず書き込まれる事態となった。

「まだ決まってない」「まだトランプ大統領は争っています」「1月に正式に決まった時点で祝辞を送った方が賢明」「不正による当選した方に祝辞を送るな」「裁判を見極めて!! 」

■各国のリーダーも同様に声明

 こうしたリプライが相次いで寄せられているのは、菅氏が8日早朝、ツイッターに書き込んだ下記の投稿だ。

「ジョー・バイデン氏及びカマラ・ハリス氏に心よりお祝い申し上げます。日米同盟をさらに強固なものとするために、また、インド太平洋地域及び世界の平和,自由及び繁栄を確保するために、ともに取り組んでいくことを楽しみにしております」

(中略)

日本でも拡散した「不正選挙」言説
 投稿から約7時間、13時過ぎの時点で、ツイートには1700件を超えるリプライ(返信)が寄せられている。しかし、目立つのは上記のように、祝意に反発する投稿だ。

 あるアカウントは、「菅さん、社交辞令はわかりますが、時期そうそうですよ!」(原文ママ)と主張。この投稿には700件を超える「いいね」が寄せられている。ほかの「まだ、決まってませんよ」とするリプライにも1000件以上のいいねが。

 もちろん、「他の国が祝辞出してるから」と理解を示すツイートもあるが、リプライ欄の上位に掲載された投稿の中では少数派だ。

 現職のドナルド・トランプ氏は、選挙で不正が行われた可能性を繰り返し示唆し、法廷闘争に持ち込む姿勢を崩していない。支持者の間では不正の「証拠」とされる画像や動画などが、日々拡散され続けている。こうした情報は日本にも広まり、注目を集めているが、これらの言説はすでにメディアなどの調査で否定、あるいは疑義が示されているものが少なくない。
https://news.yahoo.co.jp/articles/cfa04a5895e0a7070e33efe359919354b18d219c

外国の大統領の主張を信じて、日本の首相の判断に文句をつけるとは、まさに「売国」というしかありません。
まあ、菅首相のカリスマ性がトランプ大統領のそれに遠く及ばないだけのことかもしれませんが。

トランプ信者はトランプ大統領の毒気にあてられているのですから、早く解毒しなければなりません。

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10月26日、菅義偉首相の初めての所信表明演説が行われましたが、演説の途中で拍手が起こったのは2度だけでした。
1度目は、コロナ禍でがんばる医療関係者に対して「心からの感謝の意を表します」と言ったところで、2度目は、「2050年、カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことをここに宣言いたします」と言ったところでした。
このことから脱炭素社会の実現がこの演説の最大の目玉だったことがわかります。

拍手が起こらないのは、強く言い切ったあとに間を空けて拍手を催促するというテクニックを使わなかったからでもあります。けれん味がなくてよいとも言えます。

内容にこれというところがないので、野党も「学術会議任命拒否の説明はなしか」ということ以外に批判のしようがないようです。

従来は争点だった改憲問題については、このように言及しています。
 国の礎である憲法について、そのあるべき姿を最終的に決めるのは、主権者である国民の皆様です。憲法審査会において、各政党がそれぞれの考え方を示した上で、与野党の枠を超えて建設的な議論を行い、国民的な議論につなげていくことを期待いたします。
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/1026shoshinhyomei.html
とくに改憲の意欲はなさそうです。

演説の内容に注目できないので、どうしても菅首相のキャラクターに注目がいきます。
アメリカ大統領選のさ中ということもあって、私はトランプ大統領と比べてしまいました。
菅首相とトランプ大統領はなにもかもが正反対です。


トランプ大統領は選挙演説が得意で、聴衆を大いにわかせます。原稿もなしに、たいてい1時間以上しゃべりますし、本人もノリノリで、声も張っています。
菅首相は活舌が悪く、声に張りもありません。
菅首相も選挙演説はよくしますが、聴衆をわかせるような演説はしていないでしょう。

体格も大いに違います。
トランプ大統領の身長は190センチだそうです。
政治家の身長は意外とだいじで、アメリカ大統領選では身長の記録が残るようになって以降、主要な2人の候補のうち、2期目のジミー・カーター大統領以外、つねに背の高いほうが勝っているという説があります。

ちなみにバイデン候補は183センチだそうです。
体格も圧倒的にトランプ大統領のほうがたくましくて、もしトランプ大統領とバイデン候補が殴り合いの喧嘩をしたら、トランプ大統領が圧勝するでしょう(トランプ大統領は口喧嘩も達者です)。
群れをつくるたいていの動物では、喧嘩の強いほうが群れで上位になり、いちばん強い個体が群れのリーダーになります。
人間も基本的な部分は同じです。アメリカの有権者が本能的に行動すればトランプ氏を選ぶことになります。
もっとも、今回のテレビ討論会では、コロナのせいで両候補は離れて立っていたので、体格の違いはそれほど意識されませんでした。その影響がどう出るでしょうか。

菅首相の身長については、公式発表はないようで、ネットでの推測によると165~167センチです。
総裁選で石破氏や岸田氏と並んでも、身長の低さが目立ちました。
討論会では、カンペを見ながらぼそぼそしゃべるという感じで、石破氏と岸田氏が力強く言い切っていたのと対照的でした。


菅氏が首相にまでなれたのは、人事権をうまく使ったからと言われていますが、人事のやり方についてもトランプ大統領とは対照的です。

トランプ大統領の人事はオープンです。
トランプ政権の最初の国務長官だったティラーソン長官の場合、だんだんトランプ大統領との対立が表面化して、ティラーソン長官がトランプ大統領のことを「間抜け」と言ったと報道され、ティラーソン長官がそれを否定しなかったということなどがあって、最後にトランプ大統領は「イランの核開発問題などをめぐる意見の不一致があった」ということを理由に解任しました。
ボルトン補佐官の場合は、アフガニスタンやイランなどの外交政策をめぐって意見が対立し、トランプ大統領はツイッターで「私は昨夜、ジョン・ボルトンに対し、彼の任務はホワイトハウスで必要なくなったと伝えた」と述べて、解任を発表しましたが、ボルトン補佐官はツイッターで「私は昨夜、自ら辞職を申し出た。トランプ大統領は『明日、それについて話し合おう』と言った」と主張し、解任か辞任かでも対立しました。

トランプ大統領の場合、人事の対立も劇場型になります。
おそらく「お前はクビだ!」というところを大衆に見せて、自分のリーダーシップをアピールしたいからでしょう。

菅首相の人事は密室型です。いきなり官僚を左遷すると、周りの人間はその理由を推測し、あのとき菅首相の意見に反対したからだろうということになり、それ以降、官僚は菅首相の気持ちを忖度するばかりで、反対意見など言えなくなるという仕組みです。

学術会議の任命拒否も同じやり方ですが、官僚の人事とは根本的に違うので、内閣支持率を下げてしまいました。
人は得意なことで失敗するという典型です。

もしトランプ大統領が学術会議の任命拒否をやったとしたら、どう言うか考えてみました。
「6人は政府の方針に反対したバカだと聞いている。バカを学術会議に入れろというのか?」
こんなところでしょうか。
むちゃくちゃですが、なにも説明しないよりおもしろいかもしれません。

いや、菅首相は任命拒否について少し説明をしました。
26日、NHKのニュース番組に出演した菅首相は、会員の人選について「一部の大学に偏っていることも客観的に見たら事実だ」と、任命拒否を正当化するようなことを言いました。
前に突然「推薦名簿を見ていない」と言って世の中を驚かせたのと似ています。
世の中から批判されると、つい責任逃れのことを言ってしまうのです。

その点、トランプ大統領は世の中からなにを言われても、即座に反論するか無視するかで、まったく動揺を見せません。大統領就任から4年もたっているのに、いまだに納税記録の公表を拒んで、平気な顔をしています。



私がこの記事を書こうとしたそもそもの狙いは、菅首相とトランプ大統領を比較して、密室で選ばれた菅首相はあまりにもみすぼらしいという決論に持っていくことでした。
しかし、トランプ大統領はけた外れの人間で、比較の対象にするのは間違いでした。
トランプ大統領と比べると、誰でもみすぼらしくなってしまいます。

ですから、石破氏、岸田氏、安倍前首相と比べるべきでした。
誰と比べても、菅首相は体格に劣り、活力がなく、性格の暗さが出て、見映えがしません。

裏方が似合った人間が首相になって大丈夫かと前から思っていましたが、所信表明演説を見て、改めてそう思いました。


(菅首相の所信表明演説はこちらで見られます)

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菅義偉首相が日本学術会議の提出した105人の新会員推薦名簿を「見ていない」と言ったのには、誰もがびっくりしたでしょう。
菅首相が見たのは、6人が除外された99人の名簿だというのです。ということは、6人を除外する判断は菅首相以外の誰かがしたことになります。

菅首相は6人の任命拒否をしたことについて「総合的で俯瞰的な活動を確保する観点から判断した」「前例を踏襲してよいのか考えてきた」と言っていたので、どう考えても、自分で判断したという意味です。

前の発言とあからさまに矛盾しているだけではなく、学術会議は首相に対して105人の名簿を提出したので、首相に渡った名簿が99人だったら文書の改ざんになるという指摘や、学術会議の推薦に基づかず任命したのなら法律の規定に反するという指摘があります。

菅首相がなぜ混乱を招くだけの発言をしたのかというと、日本学術会議という地味な組織の人事にちょっと手を出しただけのつもりでいたら、思いもかけない批判の集中砲火を浴びたので、つい「やったのは僕じゃない」と言い訳してしまったのでしょう。

105人の名簿を見ていないというのは、嘘ではないかもしれません。部下が6人を排除する判断をして、菅首相は口頭で説明を受けて、99人の名簿にハンコをついたということは考えられます。

しかし、どんなことがあったにせよ、任命権者は首相なのですから、すべての責任は首相にあります。
責任逃れのようなことを言うのは卑怯と言うしかありません。

首相が責任逃れをすると、その責任は部下に行ってしまいます。
今後、首相に知らせずに勝手に決裁したなどということで誰かが詰め腹を切らされるかもしれません。

菅首相は「反対する官僚は異動してもらう」と公言し、実際反対意見を述べた官僚を左遷してきました。
「官僚の責任は問うのに、自分は責任逃れか」と思いましたが、菅首相としては「すべては官僚の責任」ということで一貫しているのかもしれません。


菅首相が政府に反対する学者6人の任命拒否をしたときは、反対意見を聞こうとしない狭量な人間だなと思いましたが、名簿を見ていないと発言したことで、部下に責任を押し付ける卑劣な人間だということになりました。


今の政治の世界は、右翼対左翼、改憲対護憲といったことにあまり意味はなく、ではなにに意味があるかというと、政治家の人格(パーソナリティ)です。
アメリカ大統領選のトランプ対バイデンにしても、政策の争いというより人格の争いになっています。
もちろん人格のあり方は最終的に政策に反映されます。

政権が変わって、安倍応援団はそのまま菅応援団になりました。
菅応援団は、菅首相の6人の任命拒否を正当化しようとして、デマを流したり、日本学術会議を攻撃したりしています。
菅応援団は、自分たちがどういう人間を応援しているのかよく見極めたほうがいいでしょう。

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菅義偉首相が日本学術会議の新会員6人の任命拒否をしてからの展開は、デジャブというのか、まるでかつての安倍政権を見ているようです。

任命拒否の理由を説明しろという声に対して菅首相は「総合的、俯瞰的な活動を確保する観点から判断した」と説明にならない説明を繰り返し、明らかに法律の解釈変更をしたと思われるのに加藤官房長官などが解釈変更はしていないと答弁したりと、モリカケ問題、桜を見る会問題のときのようなむなしい議論が行われています。
「安倍政治の継承」を掲げている以上、似てくるのは当然ではありますが、似てきたおかげで違いも見えてきました。


森友学園問題、加計学園問題、桜を見る会問題は、隠されていたものが発覚して問題になりました。
学術会議新会員の任命拒否問題は、菅首相がみずから仕掛けて問題にしたので、そこが違います。

菅首相はなぜこんなことを仕掛けたかというと、おそらく「学問の自由」ということの重要さを理解していなくて、こんな大きな問題になるとは思っていなかったのでしょう。
菅首相は10月5日のグループインタビューで「学問の自由とはまったく関係ないということです。それはどう考えてもそうじゃないでしょうか」と語りましたが、案外本心のような気がしました。
菅首相はあくまで実務家で、学問の自由みたいな抽象的な概念はあまりよく理解できないのです。


もちろん菅首相の狙いは、政府の方針に反対する学者を狙い撃ちにして、見せしめにすることで、政府に反対しにくくさせることです。
ただ、こういうやり方も安倍前首相と違うところです。

安倍前首相が森友学園を国有地不正払い下げという手を使ってまで支援したのは、教育勅語を唱和させるような軍国教育をする学校をつくりたかったからで、安倍前首相にとって森友学園の籠池泰典理事長は同志でした。加計学園の加計孝太郎理事長は安倍前首相の学生時代からの友人です。桜を見る会には安倍前首相の地元後援会の人が多く招かれました。
つまり安倍前首相においては同志、友人、身内などの「人のため」ということがありました。
もっとも、同志のために国有地不正払い下げを行い、それを隠ぺいするために公文書改ざんを行い、そのために自殺者まで出すという無茶苦茶さですが、少なくとも出発点には「人のため」ということがあったわけです。

今回の菅首相の任命拒否には「人のため」という要素がありません。
もし菅首相にどうしても学術会議の新会員に任命したい人がいて、その人を押し込むために6人を任命拒否したというのなら、良し悪しは別にして、人情として理解はできます。
あるいは日本学術会議の組織改革のためという理由でも理解できますが、そういう理由があるなら説明できるはずです。
菅首相は見せしめのために6人を狙い撃ちにし、国民は「公開処刑」を見せられているようなものです。


人を幸せにすることがポジティブ、人を不幸にすることがネガティブだとすれば、菅首相はネガティブの多い人です。

携帯料金値下げにしても、実現すれば確かに「国民のため」ですが、とりあえずは民間企業の中に手を突っ込んで価格決定権を左右するという「いやがらせ」をするわけです。こういうことは菅首相以外にはなかなかできません。

菅首相はまた、生産性の低い中小企業の統合を進めるとも表明していますが、これも、中小企業が統合したくても規制があってできないので、それを救いたいということではなくて、中小企業が望んでもいないのに統合させようという、やはり「いやがらせ」の政策です。

菅首相は地方銀行についても、数が多すぎるとして再編の方針を示していますが、これも同じことです。

要するに当事者の意志を無視して上から権力を行使してなんとかしようという発想です。
こうした発想のもとには人間不信があります。


たとえば桜を見る会問題では、安倍首相は地元後援会の人を招いて喜ばせるというポジティブな役割を演じ、菅官房長官は見えないところで官僚に名簿の廃棄や虚偽答弁を強要するというネガティブな役割を演じるという分担になっていました。
菅氏はそれが向いていたので、7年8か月も官房長官が務まったのでしょう。

菅氏はそういうネガティブなキャラゆえに「陰険」と評されます。
今風に言えば「陰キャ」でしょうか。

菅政権は、安倍政権からポジティブな面を消去した政権です。
菅首相が学術会議新会員任命拒否みたいなことを繰り返せば、日本全体が暗くなってしまいます。

菅義偉とお菓子
すが義偉Instagramより

菅義偉首相は、日本学術会議が新会員として推薦した105人のうちの6人の任命を拒否しました。
菅首相は10月2日、「法に基づいて適切に対応した結果です」と語りましたが、そうではないでしょう。

日本学術会議法にはこう書かれています。
第七条 日本学術会議は、二百十人の日本学術会議会員(以下「会員」という。)をもつて、これを組織する。
2 会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。

「推薦に基づいて任命する」のですから、「任命しない」選択肢はないはずです(「推薦の中から任命する」なら「任命しない」選択肢はあります)。

ちなみに日本国憲法にはこうあります。
〔天皇の任命行為〕
第六条 天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
2 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。

天皇が総理大臣の任命を拒否するなんていうことができるはずがありません。
「指名に基いて」は拒否できないが、「推薦に基づいて」は拒否できるという理屈があるのかもしれませんが、いずれにしても理由の説明が必要です(日本学術会議の推薦には理由が付されています)。


「ハフポスト」の『「日本学術会議」 任命されなかった6人の学者はどんな人?』という記事によると、6人はこのような人です。

■芦名定道(京都大教授 ・キリスト教学)
 「安全保障関連法に反対する学者の会」や、安保法制に反対する「自由と平和のための京大有志の会」の賛同者。

■宇野重規(東京大社会科学研究所教授・政治思想史)
 憲法学者らで作る「立憲デモクラシーの会」の呼びかけ人。 2013年12月に成立した特定秘密保護法について「民主主義の基盤そのものを危うくしかねない」と批判していた。

■岡田正則(早稲田大大学院法務研究科教授・行政法)
 「安全保障関連法案の廃止を求める早稲田大学有志の会」の呼び掛け人。沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設問題を巡って2018年、政府対応に抗議する声明を発表。

■小沢隆一(東京慈恵会医科大教授・憲法学)
 「安全保障関連法に反対する学者の会」の賛同者。安保関連法案について、2015年7月、衆院特別委員会の中央公聴会で、野党推薦の公述人として出席、廃案を求めた。

■加藤陽子(東京大大学院人文社会系研究科教授・日本近現代史)
 「立憲デモクラシーの会」の呼び掛け人。改憲や特定秘密保護法などに反対。「内閣府公文書管理委員会」委員。現在は「国立公文書館の機能・施設の在り方等に関する調査検討会議」の委員。

■松宮孝明(立命館大大学院法務研究科教授・刑事法)
 犯罪を計画段階から処罰する「共謀罪」法案について、2017年6月、参院法務委員会の参考人質疑で「戦後最悪の治安立法となる」などと批判。京都新聞に対し「とんでもないところに手を出してきたなこの政権は」と思ったとインタビューに答えている。

要するに政府提出の法案に反対してなんらかのアクションをした学者が拒否されたようです。

菅首相は総裁選の最中に「反対する官僚は異動してもらう」と発言して、物議をかもしたことがあります。
ただ、「決定したことに従わない官僚を異動させるのは当たり前だ」という擁護の声もありました。
改めてどういう発言だったか確かめてみました。

 自民党総裁選で優位に立つ菅義偉官房長官はフジテレビの番組で、官僚が政権の決めた方向性に反対した場合、異動させる考えを示した。

 番組では、橋下徹・元大阪市長が菅氏、石破茂元幹事長、岸田文雄政調会長の総裁選3候補に対し「政治的に決定した後、官僚が反対してきた場合」の対応を質問。「反対した場合には、断固異動させていくのか。異動させないのであれば、どういう形で官僚を説得していくのか」と尋ねた。

 菅氏は「私どもは選挙で選ばれているから、何をやるという方向を決定したのに、反対するのであれば、異動してもらう」と語った。

 石破氏は「異動させることはある」とした上で、「でも、その人が反対したことも自分の信念に基づくものであれば、その後不利な取り扱いをしてはいけない。組織全体が萎縮してしまう」と述べた。

最終的に決定したのにまだ反対するというのは、組織の人間としてありえないことですから、そういう話ではありません。
ここで問題になっているのは、方向性を決めてから最終的に決定するまでの過程のことです。
その過程でさまざまな議論があって、方向性が修正されたり、場合によっては有力な反対論が出て根本的に見直されたりするのは、あって当然です。

「反対する官僚は異動してもらう」という菅首相は、そういう議論をすべて封殺していいと思っているのでしょう。

人事権を持つ人間は、能力と意欲のある人間を登用しなければなりません。イエスマンばかりを登用すると、その組織はだめになります。

菅首相はふるさと納税の制度をつくるとき、制度の不備を指摘した官僚を左遷して自分の案を押し通しました。しかし、そうしてできた制度は、返礼品の過当競争を招き、国の税収はへって、うまく立ち回った高額納税者が得をするということになり、泉佐野市と国の訴訟では最高裁まで行って国が敗訴するというおまけまでつきました。
上司は耳の痛いことも聞き入れる度量がないといけませんが、菅首相は明らかに失格です。

最近、特別定額給付金など新しい制度をつくるとたいてい不備が生じるのは、官僚が言うべきことを言えなくなっているからではないでしょうか。


日本学術会議の新会員の任命拒否も、「反対する官僚は異動してもらう」と同じ論理だと思われます。
人事権を利用して、公聴会などで反対意見を述べる学者を黙らせようということでしょう。

これをもって「赤狩りといっしょだ」ということを言う人がいます。
しかし、赤狩りには反共主義という思想がありますが、菅首相はなにかの思想に基づいてやっているわけではありません。政府に反対、自分に反対の人間を排除しようということですから、“反対者狩り”と言うべきでしょう。

自分の周りをすべてイエスマンにしようという、とんでもない考えです。
さまざまな意見があって、活発な議論が行われてこそ世の中は進歩するのですから、まさに亡国の論理というしかありません。

日本学術会議新会員任命拒否問題の本質は、菅首相に人事能力が欠如しているということに尽きます。




今、日本の学術の世界は危機的状況にあります。
世界の科学論文数、中国が米国抜いて首位に:日本は4位に後退
文部科学省科学技術・学術政策研究所が世界各国の科学技術活動の実態を調べた「科学技術指標2020」によると、国の研究開発力を示す指標の一つである自然科学分野の論文数で、中国が米国を抜いて初の首位となった。日本は前回調査(2010年)から1つ順位を下げ、3位のドイツに次ぐ4位となった。
(中略)
10年前の日本の論文数は6万6460本で、数だけ見るとほぼ横ばい。だが、他国・地域の論文数が相対的に増加しており、順位を下げた。注目度の高い論文を見ると、トップ10%補正論文数、トップ1%補正論文数とも、日本は9位という結果に終わった。
(後略)

日本の大学もランキングを下げています。これは欧米基準で判断するからよくないのだという説もありますが、アジアの中でも下げています。
THEアジア大学ランキング―1位・2位は中国、日本の最高位は東大の7位
 イギリスの高等教育専門誌「Times Higher Education(THE)」は6月3日、8回目となる「THEアジア大学ランキング2020」を発表。489の大学がランキング対象になりました。トップは前年に続き清華大学で、北京大学が前年5位から2位に上昇、中国の大学がトップ2の座を占めました。
 東京大学は前年から1つ順位を上げて7位、京都大学は1つ下げて12位にランクイン。
(中略)
 日本からは、14校がトップ100にランクイン。また、日本の大学で前年から順位を上げたのは6校で、81校は順位を下げました。
(後略)

こういう事態をどうするかという議論をしなければいけないときに、人事能力に欠ける菅首相が人事権を乱用ししたために(この場合は人事権があるかもあやしいのですが)、まったく無意味なことに議論の時間とエエネルギがー費やされています。

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