村田基の逆転日記

進化倫理学の威力を試すブログ

タグ:覇権主義

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ウクライナ危機についてなにか書こうと思いましたが、事態が流動的なのでやめました。
代わりに政治家やコメンテーターの発言について書くことにします。

ウクライナ危機は日本にとっては“対岸の火事”なので、政治家やコメンテーターは適当なことが言えます。
とりわけウクライナ危機と日本の安全保障政策を関連させるときにでたらめな発言が出るようです。


自民党安保調査会長でもある小野寺五典元防衛相は2月20日、フジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」に出演し、そのときの発言が『「日本もウクライナと同じことになる」と小野寺元防衛相』という記事に載っていましたが、その記事の最後の部分を引用します。

松山キャスター:
G7外相会合では「ロシアへの制裁を含む甚大なコストを招く」とのメッセージを発信した。実際に効果のある制裁は発信できるか。

小野寺元防衛相:
経済制裁といっても、クリミア侵攻の時には何もできなかった。簡単な選択肢はない。ウクライナはNATOに入れば守ってもらえる、だからNATOに入りたい。でも、それに対してNATOはいやいやと。ウクライナとしてはどうしようもない。本来、ゼレンスキー大統領は、自国は自分たちで守ると。それがあって初めて周りの応援がくる。日本も同じだ。この問題は必ず日本に影響する。基本的に自国は自国で守るというスタンスがなければ、(ウクライナと)同じようなことになってしまう。私は大変心配している。


日本とウクライナはまったく違います。
小野寺元防衛相は「日本には安保条約があり、日米には深い信頼の絆があるので、ウクライナみたいなことにはなりません。安心してください」と言うところです。

それから、「自国は自国で守るというスタンスがなければ、(ウクライナと)同じようなことになってしまう。私は大変心配している」と言っていますが、これは国民に対して言っているのでしょうか。
日本国民は鉄砲の撃ち方も知らないので、国民に言っても無意味です。
もし自衛隊に対して言っているのだとすれば、自衛隊員には国を守る気がないかもしれないということになり、自衛隊の存在価値が疑われます。
「国民の覚悟のことを言っているのだ」という意見があるかもしれませんが、そんな精神論で国は守れません。だから高い防衛費を払って自衛隊を保持しているのです。

安全保障の専門家が日米安保も自衛隊も信用できないと言っているのですから、ひどいものです。


橋下徹氏は矛盾したことを平気で言っているので驚きます。
「ウクライナ危機、日本として考えておきたいこと」という記事から引用します。

橋下徹氏(元大阪市長、弁護士):ウクライナ危機は遠い国のことのように感じるが、日本の問題に直結している。ロシアの武力行使を容認してロシアに利益を与えるようなことがあれば、そのことを中国はじっと見ている。自国の安全保障を他国に委ねることの愚かさ、危険性を痛切に感じる。ウクライナには旧ソ連の核兵器が集積されていた。旧ソ連から独立する際に各国から核兵器の放棄を迫られ、それと引き換えに米英露がウクライナに安全保障を提供する「ブタペスト合意」が1994年に結ばれた。その後、どうなっているか。大国はいい加減だ。ウクライナの安全は守られていない。やはり自国の安全、防衛は自分たちの力でやらないとならない。ウクライナに憲法9条があれば平和になるのか、そんなことはない。日本もいつの間にかウクライナと同じような状況になる。

木原誠二氏(内閣官房副長官):主権と領土の一体性はしっかり守らなければならない。我々の周辺の安全保障環境は非常に厳しい。ウクライナ問題は遠い国の話ではない。我が国の、我がこととして考えなければいけない。そのことは全く同感だ。日米同盟をさらに強固にして抑止力、対応力を上げていくことが非常に重要だ。年末に向けて安全保障の三つの文書を書き換えていく。自衛隊の予算も伸ばしている。自らの対応能力を上げていくことが非常に重要だと改めて感じている。 

橋下氏:集団的自衛権がどれだけ大切かを、集団的自衛権に反対する人たちもわかったと思う。ウクライナはNATO(北大西洋条約機構)の加盟国ではない。集団的自衛権は絶対に必要だ。

橋下氏は「やはり自国の安全、防衛は自分たちの力でやらないとならない」と言った舌の根も乾かないうちに、「集団的自衛権がどれだけ大切かを、集団的自衛権に反対する人たちもわかったと思う」「集団的自衛権は絶対に必要だ」と言いました。どう見ても矛盾しています。

それから、「ウクライナに憲法9条があれば平和になるのか、そんなことはない。日本もいつの間にかウクライナと同じような状況になる」というのもおかしな理屈です。
ウクライナは憲法9条がないのに危機を防げませんでした。ということは、論理的には、日本が憲法9条をなくすと同様の危機に見舞われる可能性があるということです。

木原誠二内閣官房副長官は「日米同盟をさらに強固にして抑止力、対応力を上げていくことが非常に重要だ」と言っていますが、日本は安倍政権、菅政権、岸田政権と一貫して「日米同盟の強化」や「日米の絆の深化」に努めてきました。
しかし、まだ強固にし足りないようです。どこまで強固にすればいいのでしょうか。
政府関係者や安全保障の専門家が「日米同盟はもう十分に強固になりました」とか「このところ日米の絆は深くなりすぎたので、これから少しアメリカと距離をとることにします」と言うのを聞いてみたいものです。

これらの人は、理由はなんでもいいので国民の危機感をあおりたいのです。
新型コロナ問題では、メディアや専門家は危機感をあおりすぎではないかと批判されましたが、安全保障問題でメディアや専門家が危機感をあおりすぎると批判されるのを見たことがありません。


以上のようなおかしな発言は、結局日米関係の問題からきています。
日本とアメリカは、主権国家同士の合理的な関係ではなくて、日本のアメリカに対する心理的依存関係になっています。
これは日本人に広く見られる心理ですが、とりわけ親米右翼に強く見られます。それでいて勇ましいことを言うので、矛盾が生じるのです。

橋下氏の矛盾した主張は、実は「天は自ら助くる者を助く」と言いたかったのでしょう。「日本が国を守ることに一生懸命になればアメリカが助けてくれる」ということです。アメリカは日本にとって「天」なのです。


親米右翼の典型的な論理がジャーナリスト有本香氏が書いた『岸田首相の「適切な蛮勇」に期待 弱腰の米国、さらに増長する中国・ロシア 「ウクライナ侵攻」を止められるのは日本だけか』という記事に見られます。
ちなみに有本香氏は産経新聞などによく執筆しているネトウヨの典型のようなジャーナリストです。

最近の世論調査では、58%ものウクライナ人が、ロシアの侵攻に「自ら武器を取って戦う」と答えたという。民兵組織を合法化する法律も成立させた。強国ロシアにひるまないウクライナだが、頼みの米国と欧州にはウクライナ防衛のためロシアと戦う気がない。

ジョー・バイデン米大統領に至っては12月、「軍事力行使の選択肢はない」と発言する体たらくである。

わが日本の岸田文雄首相は、ウクライナ情勢についてこう述べている。

「重大な懸念をもって注視している。G7(先進7カ国)の枠組みなどを重視し、国際社会と連携して適切に対応していく」

ナザレンコ氏は言う。

「ロシアが国境に集めた13万もの部隊の中には、極東から移動した部隊が含まれます。日本は絶対に攻めてこないから容易に移せるのです」

仮にここで、岸田首相が「わが国は、地球上のいかなる『力による現状変更』も許さない」と宣言し、北海道での自衛隊と米軍との軍事演習にでも言及したら、ロシアはどう出るか。

ウクライナと中国、北朝鮮のつながりを懸念し、「ウクライナに騙されるな」という日本国内の親ロ派の声もあるが、所詮、他国はどこも腹黒い。日本がいま優先して警戒すべきは、弱腰の米国を見て中国とロシアがさらに増長することだ。その牽制(けんせい)のためにも、岸田首相の「適切な蛮勇」を期待する。ウクライナ危機を止めることができるのは日本だけかもしれないのだ。

「北海道での自衛隊と米軍との軍事演習にでも言及したら、ロシアはどう出るか」と言っていますが、ロシアはどうも出ないでしょう。日本が北海道でなにをしようがロシアにとって脅威でもなんでもないからです。
アメリカも欧州もウクライナのために戦う気がないときに、日本がなにかしたら、よほどのおせっかいか暇人かということになります。
なにか勇ましいことを言っただけのようです。

もっとも、その勇ましいことというのは、「軍事演習にでも言及」することです。「軍事演習」をするわけではないのです。
その軍事演習も「自衛隊と米軍との軍事演習」です。自衛隊単独ではないのです。
「弱腰の米国」と見なしながらその米国から離れられないとは、まさに心理的依存です。


「力による現状変更」という言葉も出てきます。
岸田首相も「主戦場は欧州諸国と言いながらも、力による現状変更を許せば、アジアにも影響が及ぶことを十分考えておかなければならない」と語っています。
つまりロシアの動きが許されれば、中国も真似をして台湾の武力統一をするかもしれないというわけです。
ウクライナと台湾を結びつけて論じる人はいっぱいいます。

しかし、こうした認識にも日米関係のゆがみが反映しています。
確かに「力による現状変更」は許されません。
アメリカはアフガニスタンとイラクにおいて「力による現状変更」をしました。
アメリカは好き勝手に「力による現状変更」をしても許されています。
ロシアはそれを見て真似したのです。
もしかすると中国も真似をするかもしれません。

アメリカが覇権主義国として好き勝手にふるまい、ロシアや中国がその真似をしようとしているのが現状です。
アメリカをそのままにしてロシアと中国だけを抑えようとしてもうまくいかないでしょう。

これについてはメディアの偏向もあります。
ウクライナ東部の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」をプーチン大統領は国家として承認しましたが、このふたつの「共和国」を「かいらい政権」と報じるメディアがあります。
しかし、アメリカがアフガニスタンでタリバン政権を倒してから打ち立てた政権を「かいらい政権」と称したメディアはありません。
メディアはまだ冷戦時代を引きずっています。

日本政府は同盟国であるアメリカの「力による現状変更」は許し、ロシアや中国の「力による現状変更」は許さないという方針かもしれませんが、そんな方針は世界の危機を深めるだけです。

ウクライナ危機は日本にとって“対岸の火事”ですが、その明かりは遠く日本の足元を照らしてくれました。

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アメリカ大統領選挙を通してわかったのは、日本に盲目的なトランプ信者がかなりいるということです。
彼らはいまだに「民主党が選挙を盗んだ」というトランプ大統領の吹聴する陰謀論を信じていたりします。
こんなにトランプ信者がいるのは、アメリカ以外では日本ぐらいではないでしょうか。

日本のトランプ信者のほとんどが保守派、右翼、ネトウヨです。
彼らは一応愛国者を自認しているので、それに合わせてトランプ支持の理由づけをしています。
それは、「トランプは中国にきびしいから」というものです(「バイデンは中国の手先だ」という陰謀論も信じていそうです)。

トランプ氏でもバイデン氏でも対中国政策にそれほど変わりはないだろうというのが一般的な見方ですが、とりあえず今は、おそらく新型コロナウイルスによる被害を中国に責任転嫁するために、トランプ政権が中国にきびしく当たっているのは事実です。


反中国の感情は、ネトウヨに限らず日本人に広く蔓延しています。
11月17日に発表されたNPO法人「言論NPO」などによる日中共同の世論調査によると、中国への印象が「良くない」「どちらかといえば良くない」とした日本人は89・7%で前年比5ポイント増だったということです。
習近平政権は独裁色を強め、香港の民主化運動を弾圧しているので、それが反映されたのでしょう。

しかし、今では日本にとって中国は最大の貿易相手国です。
日中関係をこじれさせるわけにいきません。
ほとんどの日本人はそのことがわかっていますし、自民党政権も同じです。

しかし、わかろうとしない人もいます。
かつて日本の経済力が中国を上回っていたころ、中国を見下していた人たちです。
中国経済が次第に日本に追いついてきても、「中国経済はもうすぐ大崩壊する」などという本や雑誌記事を読んで信じていました。

しかし、中国のGDPが2010年に日本を超え、その差が年々拡大してくると、「中国経済は崩壊する」という説は見なくなりました。
また、「南京虐殺はなかった」というのは、「従軍慰安婦の強制連行はなかった」というのと並んでネトウヨの主張の定番でしたが、最近「南京虐殺はなかった」という主張はとんと見なくなりました。

今では中国のGDPは日本の3倍近くになっています。
ネトウヨも反中国の旗をおろさざるをえなくなって、もっぱら慰安婦像問題や徴用工問題などで反韓国の旗を振るしかないというときに、トランプ大統領が強硬な反中国政策を取り始めたのです。
ネトウヨは大喜びしたでしょう。
アメリカが中国をやっつけてくれて、日本もアメリカの威を借りる形で中国に強く出られそうだからです。

そうしてネトウヨはトランプ信者になったというわけです。


もともと多くの日本人は、強いアメリカに媚び、弱い中国や韓国や北朝鮮に威張るという精神構造をしていました。
この精神構造は、半島と大陸を植民地化したことからきていますが、若い人の場合、学校でのいじめとも関係しているかもしれません。
クラスで強い者が弱い者をいじめるという現実の中で育ってきて、国際社会も同じようなものだと思っているのではないでしょうか。

しかし、アメリカの覇権はいつまでも続くとは限りません。将来は覇権が中国に移るということは十分に考えられます。
日本がアメリカの威を借りて中国に対処していると、そのときみっともないことになります。

アメリカであれ中国であれ、覇権主義に反対するというのが日本外交の基本でなけれはなりません。

覇権主義に代わるものは「法の支配」です。
日本は人権、平和、法の支配といった価値観で世界から信頼される国になるしかありません。

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