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週刊文春に「緊急事態宣言下の“三密”賭け麻雀」を報じられた黒川弘務検事長が辞職しました。
“文春砲”の威力を見せつけられましたが、黒川氏の麻雀好きは今に始まったことではなく、ほかのマスコミはなにをしていたのかということになります。
もっとも、産経新聞記者と朝日新聞社員は黒川氏といっしょに麻雀をやっていたので、書ける立場ではありませんが。

親しい仲間内の「賭け麻雀」は、違法であるとはいえ、半ば社会的に容認されたグレーゾーンの存在です。
ですから、わざわざ報道する必要はないという考え方もあります。

しかし、今回のことについては、緊急事態宣言下であり、自粛要請に反する行為です。
それに、検察官は取り締まる側で、一般人とは違います。
しかも黒川氏は、安倍政権が検察庁法の解釈をねじ曲げてまで定年を延長し、さらには検察庁法改正案提出まで招く原因になったキーマンです。
報道するのは当然です。


今回の麻雀には、産経新聞と朝日新聞が関わっていましたが、両社の関わり方はかなり違います。

週刊文春は5月1日と5月13日の2度の麻雀について書いていますが、どちらも産経新聞記者の自宅マンションで行われ、卓を囲んだのは産経新聞記者2人、朝日新聞社員、黒川氏で、黒川氏は深夜にハイヤーで帰宅しました。
検事長という“上級国民”を接待するとなると、タクシーではなくハイヤーを使うのだなあと感心しました。
このハイヤーはもちろん産経記者が個人で手配したわけではなく、産経新聞が手配したものです。
つまりこれは産経新聞社公認の接待麻雀です。

文春の報道があった直後、朝日新聞は社員が麻雀に同席していたことを認め、不適切な行為であったと謝罪しましたが、産経新聞は「取材に関することはお答えしない」「記事化された内容以外は取材源秘匿の原則に基づき、一切公表しておりません」としていました。
つまり産経新聞は麻雀を「取材」と見なしていたのです。

朝日新聞社員は、もとは検察担当記者でしたが、2017年に編集部門を離れたということです。黒川氏と旧知の間柄であることから麻雀に参加しました。黒川氏から情報を取ろうという気持ちもあったかもしれませんが、形の上では個人的なつきあいです。朝日新聞は「社員のプライベートの行為で、当社は関知しません」と言うことも可能です。
しかし、産経新聞は記者が賭け麻雀をしていたことを会社として認め、ハイヤーも手配していたわけで、これは罪が重いと言えます。


ともかく、この麻雀は、産経新聞が会社として検事長を供応接待し、そこに朝日新聞社員が個人として加わっていたというものです。
黒川氏がハイヤーを複数回利用したことは、国家公務員倫理規程5条の「職員は、利害関係者に該当しない事業者等であっても、その者から供応接待を繰り返し受ける等社会通念上相当と認められる程度を超えて供応接待又は財産上の利益の供与を受けてはならない」に違反する可能性があります。

ところが、法務省は週刊文春の記事について調査した結果を公表しましたが、それにはこう書かれています。

黒川検事長の賭けマージャン問題 法務省調査結果の全文
 黒川弘務・東京高検検事長=辞職=の賭けマージャン問題を報じた「週刊文春」(5月28日号)の記事について、法務省が22日に発表した調査結果の全文は次の通り。(肩書は調査時)
(中略)
イ 記事②「黒川検事長は、5月1日ごろの賭けマージャン終了後、記者の手配したハイヤーに同乗して、記者A方から帰宅する便宜を図ってもらっていた」について

 (調査結果)

 黒川検事長が、5月1日ごろに、記者A方でマージャンを行った後、記者Bの手配したハイヤーに同乗して帰宅した事実及び当該ハイヤーの料金を支払っていない事実が認められた。

 なお、この点については、検事長の立場にある者として軽率な行為であるとのそしりを免れないものの、黒川検事長個人のために手配されたハイヤーを利用したものではなく、記者Bが帰宅するハイヤーに同乗したものであったと認められる。

 ウ 記事③「黒川検事長は、5月13日ごろにも、記者A方において、同人及び記者Bと賭けマージャンを行い、記者Bの手配したハイヤーで帰宅した」について

 (調査結果)

 黒川検事長が、緊急事態宣言下の5月13日ごろの勤務時間外に、記者A方において、同人、記者Bらと金銭を賭けてマージャンを行っていた事実が認められた。

 この日もいわゆる点ピンと呼ばれるレートで行われており、参加した者の間で、1万円から2万円程度の現金のやり取りがなされていた。

 また、記者A方でマージャンを行った後、記者Bの手配したハイヤーに同乗して帰宅した事実及び当該ハイヤーの料金を支払っていない事実が認められたが、黒川検事長個人のために手配されたハイヤーを利用したものではなく、記者Bが帰宅するハイヤーに同乗したものであったと認められる。
(後略)
https://www.asahi.com/articles/ASN5Q7JFBN5QUTIL05S.html?iref=pc_ss_date

「黒川検事長個人のために手配されたハイヤーを利用したものではなく、記者Bが帰宅するハイヤーに同乗したものであった」とは信じられない説明です。
産経新聞記者は黒川検事長がいなくてもハイヤーを使ったというのでしょうか。
普通の会社でも社員が接待目的なしにハイヤーを使うのはありえないことですし、経営の苦しい産経新聞社ではなおさらです。


結局、黒川氏は訓告という甘い処分を受けただけで辞職が認められました。
甘い処分の理由のひとつに、いわゆる「テンピン」のレートが高額でないからだという説明があり、世間から「テンピンのレートは合法なのか」という突っ込みが入っています。
もうひとつの理由に、「産経新聞記者は黒川氏のためではなく自分のためにハイヤーを使った」ということもあるわけで、こちらにも突っ込みが必要です。

なお、産経新聞社もハイヤーを誰のために手配したのかを説明する責任があります。