村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

タグ:陰謀論

banner-234610_1920

米中間選挙の開票結果は、上院で民主党が過半数確保となりました。
しかし、トランプ氏は共和党候補が僅差で敗れたアリゾナ州について「不正があり、選挙をやり直すべきだ」とSNSに投稿し、共和党全国委員会もアリゾナ州でもっとも有権者が多いマリコパ郡で「選挙に深刻な欠陥が露呈した」とする声明を発表しました。
今後、このような不正選挙の訴えがどうなっていくのかよくわかりませんが、2年前の大統領選挙でもトランプ氏は「選挙は盗まれた」として、ほんとうの大統領は自分だと主張していますし、共和党支持者の3分の2が真の当選者はトランプ氏だと信じているそうです。

民主主義の危機は意外なところからやってきます。
選挙制度が機能しないと民主主義は成り立ちません。

独裁国や民主主義の未熟な国ではよく不正選挙が行われますが、こういう場合は、たとえば国連の選挙監視団を派遣するというような対策があります。
ところが、今アメリカで不正選挙が行われているわけではありません。小さな不正はあるかもしれませんが、大統領選の結果をくつがえすような大規模な不正はありえません。
つまり不正選挙があるのではなく、「不正選挙がある」と信じる妄想集団がいるのです。
こうした妄想に確実な対策はありません。ファクトチェックもほとんど無意味です。

「陰謀論」というのも、実態は集団的妄想です。
Qアノンが広めたとされる「ディープステート」という陰謀論は、悪魔崇拝主義者と幼児性欲者の秘密組織が陰で国家を支配しているというもので、トランプ氏はディープステートと戦う英雄だとされます。
アメリカでは悪魔崇拝主義者が秘密の儀式などをしているという事実はありますし、幼児性欲者の秘密組織が過去に摘発されたこともありますが、そうした連中が国家を支配しているというのは妄想というしかありません。

文明が進めば人間は理性的になるものと信じられていましたが、実際はまったく違って、もっとも文明の発達したアメリカにおいて妄想集団が大量発生しているわけです。

なぜこうなったかというと、インターネットの普及がひとつの原因です。
集団で討議して意思決定をする場合、もともとあった偏りがさらに強くなる傾向があるとされ、これを「集団極性化(集団分極化)」といいます。
たとえば軍拡賛成派の人が集まって議論すると、それまで平均10%の軍拡を求めていた人たちが議論のあとは平均20%の軍拡を求めるようになるといったことです。
インターネット空間では、保守とリベラルが分離し、それぞれが集まって議論しているので、保守はますます保守的になり、リベラルはますますリベラルになるわけです。
そうしてネットの議論がどんどん過激化し、その中で陰謀論が広まったと考えられます。

それから、なんといってもトランプ氏のキャラクターの特異性があります。
トランプ氏は体が大きく、パワフルで、つねに自信満々で、いかにも「強いリーダー」という雰囲気を持っています。
大統領に就任して権限を手にすると実際に「強いリーダー」になりました。
強い人間に従いたくなるのは人間の本能です。
トランプ氏が「選挙は盗まれた」と言えば、信じる人間が出てきても不思議ではありません。


強いリーダーは、最初は民主的に選ばれたとしても、長期政権になると次第に独裁化します。プーチン大統領や習近平国家主席を見てもわかりますし、ヒトラーもそうでした。

もしトランプ氏が大統領に再選されていたら、独裁化していたかもしれません。
アメリカ大統領はたいてい再選されるとしたものですが、トランプ氏が再選されなかったのは、ひとえにコロナ対策を失敗したせいです。
「強いリーダー」というのは、人間の目にそう映るだけで、ウイルスのような自然界には無力でした。


トランプ氏の命運が今後どうなるかはわかりませんが、集団極性化(分断)が進んだアメリカでは、第二、第三のトランプ氏が出てきて、独裁国家になっても不思議ではありません。
日本はそういう事態を警戒しなければなりませんが、岸田文雄首相はプノンペンにおける11月13日の日米首脳会談でも「日米同盟のいっそうの強化をはかる」と言うばかりです。



安倍晋三元首相はミニ・トランプみたいなものでした。第二次政権を9年近くやって、かなり独裁化しました。
安倍氏が首相を辞任したのも、表向きは健康理由でしたが、実態はコロナ対策の失敗でした(後継の菅義偉首相の辞任理由も同じです)。
考えてみれば、コロナウイルスは偉大です。日米で独裁政権の芽をつんだのですから。

安倍氏は辞任後も存在感を示していました。これもトランプ氏と同じです。
しかし、山上徹也容疑者の銃弾がすべてを断ちました。
その後の政治の動きを見ていると、安倍氏の存在がいかに大きかったかがわかります。

菅首相も「強いリーダー」でした。日本学術会議任命拒否問題でかたくなに説明を拒否したところにそれが表れています。


岸田首相は「聞く力」をモットーにしているだけあって、安倍首相や菅首相とはまったく違います。
岸田内閣の支持率が高く始まったのも、多くの国民が安倍首相や菅首相の強権的な政治手法にうんざりしていたからでしょう。

ところが、内閣支持率はどんどん低下しています。
その理由は明白で、方針がころころ変わるからです。

山際大志郎経済再生担当大臣は、統一教会とのずぶずぶの関係が次々と明るみになり、「記憶にない」などとあやしい弁明を続けて、国民の批判が高まっていました。岸田首相はずっと「山際氏は説明責任を果たすべき」と擁護していましたが、突然更迭を決定しました。
「法務大臣は死刑のハンコを押す地味な仕事」などの発言で批判された葉梨康弘法務大臣についても、岸田首相は最初は擁護していましたが、突然更迭しました。
宗教法人法に基づく解散命令請求の要件についても、岸田首相は最初は刑法違反などが該当すると答弁していましたが、野党などから批判されると一転して、民法の不法行為も含まれると答弁を変更しました。
統一教会問題についても、最初は自民党は組織的な関係はないとして調査すらしない方針でした。それが不十分ながらも調査することになり、宗教法人法に基づく質問権を行使することになり、被害者救済法案の成立を目指すことになりました。

絵に描いたような朝令暮改ぶりです。
岸田首相がかたくなな姿勢を貫いたのは、国葬問題ぐらいです。

途中で方針が変わるのはよいことではありません。
しかし、間違った方針をかたくなに変えないよりははるかにましです。
もちろん最初から正しい方針を決定していればいいわけですが、いつもそうとはいきません。
今のところ、岸田首相の「修正する力」はたいしたものです。

しかし、かたくなに方針を変えないと「強いリーダー」と見なされ、世論に合わせて方針を変えると「弱いリーダー」と見なされます。
「弱いリーダー」は、野党はもちろん国民からも攻撃されます。
しかし、弱くても最終的に正しい方針にたどりつくなら、かたくなに間違った方針を貫くよりもよいのは明らかです。


国民は「強いリーダー」が正しく国を導いてくれることを期待しますが、そういうことはめったにありません。
「強いリーダー」は利己的にふるまい、最終的に独裁者になり、国民を不幸にします。それは歴史を見れば明らかです。

cross-31889_1280

嘘にまみれた安倍政権とトランプ政権が終わっても、トランプ大統領の嘘はこれからも生き続けるかもしれません。

トランプ大統領が「選挙は盗まれた」と主張するのに合わせて、さまざまな嘘が飛び交いました。
トランプ票が大量に燃やされたとか、投票機にソフトウェアを提供した企業の社長はバイデン氏の政権移行チームの一員であるといったものから、ドイツで投票機のサーバー押収をめぐって米軍特殊部隊とCIAが銃撃戦を演じて5人死亡したとか、オバマ前大統領が逮捕されたといったものまでありました。
しかも、日本にこうした嘘を拡散させる人が少なからずいました。

2017年のトランプ大統領就任式における観客はオバマ大統領のときより大幅に少なかったとメディアが報じると、トランプ大統領は「フェイクニュース」と言って猛反発し、報道官は過去最多だったと主張して、「オルタナティブファクト」と称しました。
それからトランプ大統領は嘘をつき続け、ワシントン・ポストは最初の1年間に2410回も嘘をついたと報じました。
「コロナウイルスはもうすぐ魔法のように消える」という罪の深い嘘もありましたが、トランプ大統領はこうした嘘について嘘と認めたり謝罪したりすることはありませんでした。


安倍前首相も任期中、モリカケ桜で嘘をつき続けて、桜を見る会問題では国会で118回の虚偽答弁をしたとされました。

しかし、トランプ大統領の嘘と安倍前首相の嘘は明らかに異質です。
安倍前首相の嘘は、自分が関わった不正をごまかすための嘘、要するに自己保身のための嘘です。
自己保身の嘘は誰でもつきますから、われわれの常識で理解できます。安倍前首相の場合は、公の場で異常に多くの嘘をついただけです。
しかし、トランプ大統領の嘘は常識では理解できません。


トランプ大統領の嘘を知る手がかりは、Qアノンです。
Qアノンはトランプ大統領の嘘に呼応して生まれました。

ウィキペディアによると、
「Qアノンの正確な始まりは、2017年10月に「Q」というハンドルネームの人物によって、匿名画像掲示板の4chanに投稿された一連の書き込みである」
「この陰謀論では、アメリカ合衆国連邦政府を裏で牛耳っており、世界規模の児童売春組織を運営している悪魔崇拝者・小児性愛者の秘密結社が存在し、ドナルド・トランプはその秘密結社と戦っている英雄であるとされている」
ということです。
政府を裏で支配する秘密結社はディープステートと呼ばれます。

私は最初、小児性愛者の秘密組織がアメリカを支配しているというふうにネットの記事で読みました。
小児性愛者の秘密組織は過去に摘発されたことがありますし、上流階級に存在する可能性はあります。しかし、そういう人間は自分の性的嗜好が満たされればいいわけで、国家を裏であやつる必要はありません。ですから、ばかばかしい話と思いました。

しかし、そのネット記事は不正確で、正しくは小児性愛者でかつ悪魔崇拝者の秘密組織だったわけです。
それなら話として成立します。


悪魔崇拝者というのは、ホラー映画やホラー小説にはいっぱい出てきますが、現実にはほとんどいないと思われます。
敵対する宗派や一部の人を攻撃するときに悪魔崇拝者というレッテル張りをしたのが実際のところでしょう。
ただ、そこにおどろおどろしいイメージが付与され、女性や小児を生贄にして性的快楽を得る儀式(サバト)を行うといったこともありました。
ですから、ディープステートが小児性愛者でかつ悪魔崇拝者の秘密組織だというのはありそうな設定です。
メインは悪魔崇拝で、小児性愛はつけ足しです。

もちろんすべてはQアノンのデマです。
Qアノンが敵に対して悪魔崇拝者のレッテル張りをするということは、Qアノンは政治勢力というより宗教勢力だということです。
「陰謀論」という言葉も適切ではありません。「ディープステートが国を支配している」というのは、Qアノンの「教義」というべきです。

トランプ大統領のコアな支持層は福音派という宗教勢力だとされています。Qアノンはそのさらにコアな支持層で、カルト集団みたいなものです。

そうすると、トランプ大統領はQアノンにとってなにかというと、ウィキペディアには「秘密結社と戦っている英雄」と書かれていましたが、「英雄」というより「救世主」というべきでしょう。
つまりQアノンはトランプ大統領を救世主として崇拝するネット上の宗教勢力で、民主党などを悪魔崇拝者として攻撃しているということになります。


こういう宗教勢力が生まれたのは、トランプ大統領の言動にカリスマ性があったからです。
トランプ大統領が言い続けたのは「アメリカは偉大だ」と「私は偉大だ」ということです。
こういう言い方がカリスマ性を高めます。

トランプ大統領の言葉は教祖が語る宗教の言葉なので、いちいちファクトチェックをしても意味がありません。
教祖は奇跡も行えるからです。
科学に従うのも教祖らしくありません。
「コロナウイルスは魔法のように消える」というのは、いかにも教祖らしい言葉でした。

しかし、トランプ大統領に奇跡を行う力はなく、日々の感染者数は増え続け、それがためにトランプ大統領のカリスマ性は失墜し、大統領選挙で落選する結果となりました。


ただ、アメリカはきわめて宗教性の強い国家で、今でも多くの州の学校で進化論を教えることができませんし、アメリカ国歌「星条旗」には「神」という言葉がありますし、大統領は議会での演説の最後に必ず「God bless America」と言いますし、大統領就任式では必ず左手を聖書の上に置いて宣誓します。同性愛差別、人工中絶禁止などの保守派の主張も宗教的価値観からきています。クリスマスに「メリークリスマス」と言うか「ハッピーホリデーズ」と言うかは大きな政治的争点です。

日本のメディアはアメリカを宗教国家と見なすことをタブーとしているので、Qアノンの実態も見えてきません。
トランプ大統領やQアノンの主張は宗教だと考えれば、「嘘だ」とか「事実に反する」と批判するのは的外れで、むしろ「政教分離」の観点から批判するべきだということになります(あるいはキリスト教の権威による「異端審問」も)。

宗教勢力は今後もトランプ大統領を教祖として担いでいこうとするでしょう。
あるいは、司法当局の追及や民事訴訟やマスコミの報道などでカリスマ性が失われていくかもしれません。



ところで、日本におけるトランプ支持者の多くは、統一教会系「ワシントン・タイムズ」と法輪功系「大紀元(EPOC TIMES)」の情報をよりどころにしているということですし、日本でトランプ支持デモを主催しているのは統一教会や幸福の科学だということです。
新宗教やカルトの人たちはトランプ大統領のカリスマ性にひかれるのでしょう。
スクリーンショット 2021-01-19 035048
1月17日の福岡のデモに登場した“トランプみこし”(「水木しげるZZ」のツイートより)

このページのトップヘ