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菅義偉首相は6月10日、イギリスで開かれるG7サミットに向けて出発するに際して、「東京大会については感染対策を徹底し、安全安心の大会を実現する。こうしたことを説明をして理解を得たい」と語りました。
G7の首脳宣言に「開催への支持」を盛り込むべく調整が進められているそうです。

よく「スポーツに政治を持ち込むな」と言いますが、菅首相がやろうとしているのは「政治にスポーツを持ち込む」ことです。
東京大会が開催されるか否かは国際政治にとってどうでもいいことです。外国の支持を得て国内政治を有利にしようという菅首相のやり方は、各国にとって迷惑です(それに、菅首相は「東京五輪の開催はIOCに権限がある」「私は主催者ではない」と言いながら支持を求めるのは筋が通りません)。

菅首相がどうしても東京五輪を開催するつもりなら、G7で「日本は、コロナ禍で苦しむ世界の人々にオリンピックを楽しんでもらうために、感染拡大も覚悟の上で東京五輪を開催する」と表明するべきです。
そうすれば、その犠牲的精神が世界から称えられるでしょう。
あるいは、「クレージー」とか「カミカゼ・オリンピック」などと言われて、あきれられるかもしれませんが。


菅首相は9日の党首討論で、東洋の魔女、柔道のアントン・ヘーシンク選手、マラソンのアベベ選手などを挙げて、1964年の東京五輪の思い出を長々と語り、あきれられました。
菅首相としてはスポーツの素晴らしさを訴えたかったのでしょうが、菅首相は「運営」の立場なのですから、「スポーツ」について語っても無意味です。

東京五輪の運営は、最初は「コンパクト五輪」をうたっていたのに予算が膨張したこと、電通やパソナなどが巨額の中抜きをしているらしいこと、国立競技場建設を巡るトラブル、森喜朗前組織委会長の女性差別発言、開閉会式の演出を巡るトラブルなど、最低としか言いようがない事態が連続しています。


そして6月7日、JOCの経理部長である50代男性が東京都品川区の都営浅草線中延駅で電車に飛び込み、死亡しました。警視庁は自殺と見ています。

経理部長の自殺というと、いろいろなことを想像してしまいます。
JOCの竹田恒和前会長は、東京五輪招致を巡る贈賄容疑でフランス当局から捜査されたことで会長を辞任しました。経理部長はこの贈賄事件に関わっていたのでしょうか。あるいはほかに会計の不正があるのでしょうか。

一般のマスコミはこの自殺を小さく扱っただけですが、週刊文春は「JOC経理部長自殺“五輪裏金”と補助金不正」という2ページの記事で報じました。

JOCはこうした報道に神経をとがらせているようで、山下泰裕会長は週刊文春に抗議文を出すことを示唆しました。

実際、メディアに圧力を加えているのかもしれません。
次のような報道もありました。

「JOC幹部自殺のニュース差し替え」にネットで批判の声
6月7日午前9時20分ごろ、JOC(日本オリンピック委員会)の経理部長が東京都品川区の都営浅草線中延駅で電車にはねられた。男性がホームから1人で線路に飛び込む姿を駅員が目撃したという。男性は病院に搬送されたが、約2時間後に死亡が確認された。警視庁は飛び込み自殺と見て調べを進めている。

この件についてネット上など話題になったのが、KBC九州朝日放送「アサデス」の“ニュース差し替え報道”だ。

7日朝の同番組放送時、「東京オリンピック直前一体何があったのでしょうか。JOCの幹部が…」とアナウンサーがコメント中、なんと急遽ニュースが差し替えに。

「失礼しました。続いてのニュース、改めましてお伝えします…」と外国でゾウが車に突進するニュースに変更されたのだ。その後も、JOC経理部長自殺に関するニュースが報道されることはなかったという。

この差し替え報道に対して、「2ちゃんねる」の創設者であるひろゆき氏(44)は自身のTwitterで《JOC経理部長の自殺より、外国のゾウの衝突を優先するニュース番組。すごいね。漫画みたい。》と疑問を投げかけた。

さらにネット上では、《社会の闇をみた》《もはやコレが逆説的に『JOC幹部の自殺がヤバいこと』を証明したようなものだと思います》《公文書改竄を思い出す》《誰に忖度しているのか》……といった批判の声が相次いだ。
(後略)
https://news.yahoo.co.jp/articles/d270e279ed59d80e8736574702bca3a6213af800

JOCの圧力があったのではないかと、誰もが疑う状況です。

そして、山下会長が妙なことを言いました。

山下泰裕会長を直撃! 死去したJOC経理部長の“裏金”関与を完全否定「全くないです」
 謎は深まるばかりだ。日本オリンピック委員会(JOC)の経理部長男性(52)が電車にはねられて死亡した件で、遺族と面会した山下泰裕会長(64)は自殺ではなく事故死だったことを主張。警察の捜査に不信感を募らせるとともに、男性の死を五輪招致の“裏金”と結び付けた一部報道にも憤慨した。山下会長に真意を直撃した――。

 JOCを揺るがすショッキングな出来事から3日が経過しても、混乱は収まる気配がない。男性は7日午前9時20分ごろ、東京・品川区の都営浅草線中延駅で普通電車にはねられ、搬送先の病院で死亡。当初、男性がホームから線路に飛び込む姿の目撃証言もあり、警察は自殺とみて調べていた。

 しかし、遺族から詳しい話を聞いた山下会長は「ご遺族は警察が自殺と認定していることに納得していない。事故死ではないかと思われている」とした上で「(報道で)飛び込んだって書いていますけど、ちゃんと警察に確認してほしい。頭の側面にしか(車両が)当たっていない。飛び込んだっていうのと全然違う」と疑問を呈した。

 ホームに飛び込んだと証言した目撃者は先頭車両付近にいた駅員だったといい、山下会長は「(男性は)いつも後ろから2両目に乗っていた。一番前とはすごい距離がある。例えば(携帯)電話をしてフラッとして当たったことだってあり得る」と“自殺説”を完全否定した。

 警視庁は「電車事故があったことは事実。普通電車に轢過(れきか)され、原因については捜査中。ここから先の個別の対応はしていない」としているが、山下会長は「奥様も娘さん2人も自殺だと思っていない。ホームまで全部見られて、こういった理由で事故死だと思っている、と。どうしてそう(事故死と)思われているかも我々は聞いています」と話した。
(後略)
https://www.tokyo-sports.co.jp/sports/3284148/

山下会長のような社会的地位のある人が警察の見解を否定するというのは、私は初めて見ました。
しかも、山下会長の言い分はへんです。

事故は朝の9時20分ごろなので、酔っぱらってホームから転落したとは考えられません(「都営浅草線中延駅」で画像検索すると、中延駅にホームドアはありません)。
「頭の側面にしか当たっていない」と山下会長は言いますが、自殺する気なら、レールの上でひかれるのを別にすれば、頭から当たりにいくのは当然です。
飛び込む姿の目撃証言もあり、駅の防犯カメラの映像も警察は調べているはずです。
警察が自殺と判断したのなら、そうなのでしょう。疑う理由はありません。

山下会長ほどの立場の人が遺族の情にほだされてはいけません。
それとも、山下会長にはどうしても自殺説を否定したい事情があるのでしょうか。


会計の不正というと、1998年の冬季長野五輪大会で招致委員会の会計帳簿が焼却されたことが思い出されます。
帳簿焼却という露骨な証拠隠滅によって招致活動の不正が隠蔽されてしまいました。

このとき不正隠蔽が成功したために、東京五輪でも同様の不正な招致活動が行われたのではないでしょうか。


ともかく、この時期にJOCの経理部長が自殺し、山下会長が妙な理屈で自殺説を否定すると、裏になにか不正があるのではないかと疑われます。
しかし、警察や検察は五輪のような大きな問題にはどうも無力であるようです(長野県では2000年に田中康夫氏が知事に当選し、調査委員会をつくるなどして不正を追及しました)。
となると、マスコミの出番ですが、今のところ経理部長の自殺の背後を探るような報道をしたのは週刊文春くらいです。
一般のマスコミはJOCの圧力に屈しているのでしょうか。