村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

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保守派は性別役割分業を重視します。高市首相も同じです。
しかし、高市首相は首相になった今、ワークライフバランスの前に性別役割分業という言葉を捨てるべきでしょう。

高市首相の夫である山本拓氏は昨年2月に脳梗塞を発症し、右半身不随になり、今も車椅子生活のようです。

『高市早苗が漏らした夫の介護の苦労「帰ってきたら、食べこぼしがいっぱいあって…」』という記事から引用します。
そんな山本氏の介護について高市氏は講演で赤裸々に語ったのだ。

「帰ってきたら、食べこぼしがいっぱいあって、それを掃除してから入浴介助。これが一番身体にこたえます。私よりはるかに身長の高い家族を背中に担ぎながら、風呂場に行って頭から身体のすみずみまで洗って…」

調理師免許を持ち、料理担当だった山本氏に代わり、3食作りながら介護する日々。さらに山本氏には「こだわり」があるようで…。

「絶対に介護保険を使わないとか、訳のわからないことを言っているものですから、公的な支援が受けられない」(高市氏)

これは昨年6月の記事で、首相になる前のことです。
夫婦がどんな生活をしようと、外からとやかく言うことではありません。
しかし、首相になった今、首相の働き方について国民として意見したくなるのは当然です。


高市首相は首相に就任してすぐに「ワークライフバランスという言葉を捨てます」と言いました。
私はこの言葉は、夫を施設に入れるか介護を誰かに全面的に任せるという意味だと思いました。首相の仕事と介護は両立しないと思ったからです。

高市首相は年末に総理公邸に引っ越しました。そのときの様子について1月4日にXに長文の投稿をしました。そこから3か所を引用します。

昨年12月29日(月)の総理公邸への引っ越し後は、段ボール箱の谷間で生活しながら、外出時に必要な物(バッグやアクセサリー)が入った箱を探し出す日々でしたが、今日1月4日(日)の明け方に、ついに段ボールの開封と片付けを終了しました。

27日(土)と28日(日)に衆議院赤坂宿舎で段ボール箱の組み立てとパッキングを始めて以来、重い箱の運搬と積み上げなど、ひたすら力仕事続きでしたから、手足は切り傷とアザだらけや…。

(中略)

1月1日(木)午前は、皇居に上がり、新年祝賀の儀で、天皇皇后両陛下と皇族の皆様に、内閣を代表して新年御挨拶を申し上げるという幸せで光栄な時を過ごしました。
午後は、ようやく荷解きに着手しましたが、途中でダンナさんの食事の仕度や食器洗いなどもあり、荷解きは台所や風呂場やトイレの用品など生存に必要な数箱で断念。

(中略)

3日(土)は、米軍によるベネズエラ領内への攻撃とマドゥーロ大統領拘束事案が発生し、100名を超える邦人の安否確認や保護の指示を出しました。その後、今朝4日まで徹夜で荷解きと収納と洗濯に励みました。朝から北朝鮮の対応もありましたが、午前10時過ぎにはベネズエラ在住の邦人の方々の安全確認の報告も受け、ホッとしました。今もダンナさんが空腹に耐えている様子なので、これから遅めの朝昼兼ねた食事の仕度をします。

引っ越しの荷造りと荷ほどきを高市首相がやっています。
引っ越し業者が荷造りと荷ほどきを全部やってくれるサービスがあります。もしかしてセキュリティ面からそれが利用できないということがあるのでしょうか。もしそうなら、秘書や役人がやればいいのです。首相が自分で荷造りと荷ほどきをやるというのは信じられません。

それだけではなく、高市首相は洗濯も食事の支度もしています。
もっとも、これは年末年始のことです。普段は夫は施設に入っているかもしれないと思いましたが、そうではありませんでした。

「<1分で解説>高市首相はワーキングケアラー? 夫の介護が課題」という記事にはこう書かれています。
Q 高市氏の家族にはどんなことがあったの?

A 夫の山本拓元衆院議員は昨年2月に脳梗塞(こうそく)を発症し、車椅子が必要な生活になりました。高市氏が介護を担っています。

Q 高市氏はどんなふうに介護しているの?

A 高市氏は、朝は夫の介護をし、夜は国会答弁の準備や政策の勉強をしています。どの程度の介護かは明らかではありませんが、家事も普通にこなしているそうです。

Q 「ワーキングケアラー」ってなんだっけ。

A ワーキングケアラーとは、仕事をしながら家族の介護もしている人のことです。高市氏のような立場の人には、状況に応じた支援策が必要だと専門家は指摘しています。

専門家の指摘を待つまでもなく、首相の仕事をしながら夫の介護をして、家事もしているというのはあってはいけないことです。
高市首相が「働いて働いて働いて働いて、働いてまいります」と言ったのは、介護も家事もするという意味だったようです。

夫を施設に入れないのは、「こだわり」のある夫がそれを望まないからでしょう。
しかし、ここは高市首相は“鉄の女”になって、「わがままを言わないで」と言って押し切るべきです。

家事はもっぱら妻がやっているという家庭はいっぱいありますが、今では「男だから、女だから」ではなくて、「おれが稼いでいるんだから、お前が家事をするのは当然だ」という論理でしょう。
つまり性別分業でなくて仕事と収入による分業だという理屈です。
ところが、高市家ではいまだに性別役割分業なので、妻が首相になっても変わらないわけです。
古典的な保守派というしかありません。


問題は、周りの人間はどうしているのかです。
山本拓氏には前妻との子どもが3人います。長男の山本建氏は福井県議で、次期衆院選に立候補する意向を固めたというニュースがありました。
山本健氏はほかの子どもといっしょになって、父親に「早苗さんに迷惑をかけてはいけないから施設に入るべきだ」と説得するか、自分たちで父親の介護をするべきです。高市首相に介護を任せているのは信じられません。

官房長官や自民党幹事長など政界関係者も、首相がワーキングケアラーであることを放置しています。
「家事・介護は(首相であっても)妻がやるべき」という古典的保守派ばかりなのでしょうか。

「Hanada」や「WiLL」に寄稿しているような保守派論客も、この問題についてとくに言及していないようです。
首相に家事や介護をさせて平気なのが日本の保守派です。

高市首相は夜の飲み会にまったく出ていないと報道されています。飲み会が嫌いだというだけでなく、早く帰って夫の介護をしなければならないということもあるのでしょう。

最近高市首相がやせてきているという報道もあります。

妻が首相になっても妻に介護を求める夫(たぶんそうでしょう)。
それを断れない妻。
首相がワーキングケアラーであることを容認している周りの人。
首相がワーキングケアラーであることをまったく気にせず首相を支持している国民。
この国は根本のところから正さなければなりません。


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トランプ政権はベネズエラのマドゥロ大統領を拉致し、その後、トランプ大統領はコロンビアへの軍事行動を示唆し、さらにグリーンランド領有への意欲を見せています。
ロシアはウクライナの占領を目指していますし、中国は台湾周辺や東シナ海での軍事活動を活発化させています。
こうしたことから「世界は再び帝国主義の時代になった」「大国が世界を分割する」といった声が上がっています。
しかし、こうした見方は途上国や小国をあまりにも軽視しています。どんな国であれ、大国の思惑通りに植民地化されたり属国化されたりすることはありません。


1941年にアメリカとイギリスが共同で発表した「大西洋憲章」には「民族自決権」がうたわれました。
第二次大戦が終わると、世界中の植民地が次々と独立していきました。宗主国も、独立を求める民衆を力で抑え込んでも得にならないと判断しました。
インドネシアの場合は、オランダが力で抑え込もうとしたために1945年から1949年まで独立戦争が行われました。
ベトナムの場合は、1945年9月に独立宣言がなされましたが、フランスが植民地支配を再開しようとしたために1946年から1954年までインドシナ戦争が行われ、その後アメリカが南部にベトナム共和国を樹立したために1975年にサイゴンが陥落するまで戦争が続きました。
こういうことを考えると、今から植民地化はありえないことがわかるでしょう。

アメリカは2001年にアフガニスタンに侵攻し、タリバン政権を倒し、親米政権を樹立しました。選挙のある民主主義政権でしたが、タリバンは選挙に参加しませんでした。アメリカ軍と多国籍軍は20年間にわたって駐留しましたが、アメリカ軍と多国籍軍が撤退すると、あっという間にタリバンが首都カブールに入り、親米政権は崩壊し、タリバン政権が復活しました。軍事力によって統治してもなんの意味もなかったのです。

アメリカはイラク戦争によってフセイン政権を倒し、親米政権を樹立しました。その後もアメリカ軍は武装勢力の抵抗に悩まされ、一時はIS(イスラム国)が勢力を拡大しました。今の政権は一応親米路線であるようです。ただ、イラクに侵攻した当初は、アメリカはイラクの石油を売った利益で戦費はまかなえるというような話がありましたが、現実には石油を売った利益をアメリカが手にすることはありませんでした。ただ、石油開発関係でアメリカ企業が利益を得て、石油がドル建てで取引されていることによる利益もあるようです。

アフガンでもイラクでも、戦争に勝つことは比較的容易でも、そのあとの統治が容易ではありません。
アメリカ国民もそのことは身に染みてわかっているので、今回のマドゥロ大統領拉致についても賛否は拮抗しています。

ベネズエラはハイパーインフレで経済はガタガタで、長年の独裁で政府組織は腐敗しています。アメリカがこれを統治して立て直すのはたいへんです。おそらくトランプ政権もそこまでは考えていないでしょう。そうすると、ベネズエラの石油利権を手にするのもむずかしそうです。

グリーンランドの人口は5万人余りなので、アメリカが統治するのは容易でしょうが、今のデンマーク自治領のままで問題はなく、アメリカが領有する大義名分がありません。トランプ氏はおそらく不動産屋の感覚で、安く買える土地だと思っているのでしょう。


前回の「世界は東西ではなく南北に分かれている」という記事で、日本人はグローバルサウスのことをあまりにも軽視しているということを書きました。今回はその補足みたいなものです。

途上国の人にも感情があり、意志があります。大国によって植民地化され、自国の資源などが奪われることに抵抗するのは当然です。
マドゥロ大統領拉致作戦があまりにも鮮やかに決まったために、アメリカがその気になればなんでもできると錯覚した人が多いようですが、この拉致作戦はきわめて限定された場面での成功にすぎません。
アメリカがベネズエラを支配できることにはなりません。

ロシアがウクライナ戦争に勝利すれば、これからほかの国にも手を出すだろうという声もありますが、ロシアがウクライナに侵攻してもう4年です。現時点でプーチン大統領もロシア国民もこんな戦争はやるべきでなかったと思っているでしょう。それに、ロシア系住民の多い地域は統治できるかもしれませんが、ウクライナ全土の統治はうまくいくかどうかわかりません。


時代が変わり、人々の意識が変わったので、帝国主義も植民地化もありえません。
帝国主義が復活するなどという人は、途上国や中小国の人々を見下して、それらの人々の意志や主体性を無視しています。
外国人排斥を主張する人も、排斥される外国人の気持ちを無視していますし、排斥される外国人の母国であるベトナムやタイやトルコなどの国民の気持ちも無視しています。

つけ加えると、子どもにピアノや水泳などの習い事をさせ、一流校への進学を勧める教育熱心な親が子どもの気持ちをまったく考えていないということがありますし、夫が毎日顔を合わせている妻の気持ちをまったく考えていないということもあります。
これらも子どもや妻を見下しているからそうなるのです。
家族関係も国際関係も同じようなものです。

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アメリカはベネズエラを武力攻撃し、マドゥロ大統領を拉致し、アメリカの法廷に引き出しました。
トランプ大統領は「今後はベネズエラをアメリカが運営する」と言っています。

明白な国際法違反ですが、各国の対応はさまざまです。
高市首相は「G7や地域諸国を含む関係国と緊密に連携しながら、引き続き情勢の安定化に向けた外交努力を進めてまいります」などと語り、批判はしませんでした。
これに対する国内の評価は、「日本はアメリカに守ってもらっているのでしかたがない」というものが多いようです。
しかし、高市首相の言う「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」からは程遠いといわねばなりません。


日本がアメリカにものを言えないのはいつものことですが、中国に対してはどうでしょうか。

中国は高市首相の「台湾有事は存立危機事態」発言以来、高市政権批判を強め、最近は「高市政権は軍国主義復活を目指している」という主張を国際的に展開しています。
これは日本の名誉に関することですから、日本としては「高市政権が軍国主義復活を目指していることはない。とんでもない言いがかりだ」などと反論する必要があります。
しかし、政府や自民党からそうした具体的な反論はありません。

なぜ誰も「日本は軍国主義復活を目指していることはない」と反論しないのかというと、はっきり言い切れないからです。
日本の保守派には、無意識かもしれませんが、軍国主義復活を目指す傾向があるのは確かなことです。それは客観的な動きとなって現れています。

「日本には平和憲法があるので軍国主義が復活することはない」と外務省は反論したいところでしょうが、高市首相を含めた保守派はみな九条改憲派ですから、そういうわけにもいきません。
保守派がみなA級戦犯を合祀している靖国神社への参拝を重視していることも、それだけで軍国主義復活だと批判されてもしかたのないことです。
高市首相は個人的に教育勅語を信奉しているということもあります。
日本は防衛費をGDP比1%から2%へと一気に倍増させました(今後3.5%になりそうです)。経済は成長しないのに軍事力を強化するのはまさに軍国主義です。
中国から「軍国主義復活」と批判されても反論できないのでは、日本外交は世界の真ん中で咲き誇るどころではありません。


日本は中国や韓国とつねにぎくしゃくしています。
それは、日本の保守派が侵略と植民地支配について謝罪や反省をしないからです。
日本外交が咲き誇れない大きな原因はそこにあります。

もっとも、欧米列強も今に至るまで植民地支配について謝罪していません。ですから、日本だけが謝罪させられるのは不当な感じもします。
しかし、欧米もいつまでも謝罪しないではいられないでしょう。
たとえばアルジェリア議会は昨年12月24日、フランスによる植民地支配を「犯罪」と断じ、謝罪と賠償を求める法案を全会一致で可決しました。フランスの植民地支配は残虐だったので、アルジェリアの態度は強硬です。
こうした思いは旧植民地国に共通してあるはずです。

今では昔の欧米列強つまり西ヨーロッパとアメリカ合衆国はグローバルノースと呼ばれ、それ以外の東ヨーロッパとアジア、アフリカ、アメリカの国はグローバルサウスと呼ばれています。
昔は自由主義陣営対共産主義陣営の対立でしたが、今ではグローバルノース対グローバルサウスの対立で国際情勢が動いています。
ロシアがウクライナに侵攻して、西側諸国がロシアに経済制裁したとき、ロシアは苦境に陥るだろうといわれましたが、実際にはそんなことはありませんでした。中国やインドなどがロシア側についていたからです。
中国やインドは“トランプ関税”に対しても強気の対応に終始しています。
世界のGDP順位で中国は2位、インドは4位なので、強気に出られるのでしょう(日本は5位)。
欧米で移民排斥運動が起こっているのも、グローバルサウスの勃興にたいする危機感からではないかと私は見ています。

グローバルノースは植民地から収奪した富で豊かな生活をし、グローバルサウスは貧困な生活をしいられてきました。
グローバルノースの豊かな生活が生み出した温室効果ガスによる気候変動の被害はグローバルサウスにも降りかかります。
地球環境問題はグローバルノースとグローバルサウスの不公平を顕在化させました。


日本人は西側だけを見ていて、それが世界だと思っています。
マスコミはBRICSや上海機構のことをほとんど報道しないので、そうなってしまいます。
たとえば中国のGDPは日本の4倍以上ですが、そういうこともあまり知られていません。
日本経済は中国依存をへらすべきだという声がありますが、中国のマーケットや中国の工場に代わるものはなかなか見つけられません。


世界の中心がグローバルノースからグローバルサウスに移行しつつあります。
そのためアメリカの思い通りにはならなくなっています。
トランプ政権はベネズエラの大統領を拉致し、さらにコロンビアへの武力行使をちらつかせ、グリーンランドへの領土的野心もむき出しにしています。
トランプ政権は昨年11月に国家安全保障戦略(NSS)を発表し、グローバル覇権を目指さず、西半球の覇権を目指すとしました。その方針に基づいています。
トランプ大統領は西半球の帝王になるつもりのようです。
しかし、そんなことはできないでしょう。西半球と東半球に分ける前に世界はグローバルノースとグローバルサウスに分かれているからです。
グローバルサウスは互いに連携して対抗することができます。


日本はG7の中で唯一の非白人国です。
なぜ日本がG7に選ばれたかというと、経済大国であっただけでなく、自己主張しない国だからです。
今では中国やインドが経済大国になっていますが、G7には入れてもらえません。中国やインドは西側の価値観に合わないことを主張するに違いないからです。

日本は“名誉白人”国としてグローバルノースの椅子に座っていますが、周りの国とお互い言いたいことを言い合うような信頼関係はありません。
かといって、アジアの周りの国とも信頼関係は築けていません。
世界の真ん中で咲き誇るのとは真逆です。


実は日本は世界の中で外交的にきわめて有利な立場にあります。
アジアの一員でありながら、列強と同じ植民地支配の経験もしているからです。
つまりグローバルノースとグローバルサウスの結節点、つまり世界の真ん中にいます。
そして、村山富市首相の「村山談話」によって、日本は侵略と植民地支配について謝罪しました(その前に細川護熙首相も国会答弁で侵略と植民地支配を認めています)。
つまり日本は世界で唯一植民地支配を謝罪した国なのです。
これによって日本は、グローバルサウスの支持を得るとともに、グローバルノースに対して優位に立つことができます。
ところが、安倍政権や高市政権は村山談話をないがしろにして、むしろ日本はアジアに対して悪いことはしなかったという逆の立場をとってきました。
そのために日本は味方してくれる国がない国になっています。


トランプ政権によってグローバルノースは自壊しつつあります。
日本はグローバルサウスに立脚した外交に転換することで世界に貢献できます。

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エデンの園でアダムとイブは、神の言いつけに背いて善悪の知識の木から実を食べ、そのために楽園を追放され、その子孫までも苦難の生を強いられることになりました(エデンの園にあったのは「知恵の木」とされることが多いですが、これは意訳で、直訳は「善悪の知識の木」です)。
この寓話はきわめて示唆に富んでいます。
神が人間を善人とか悪人とか判定すれば、人間は受け入れるしかありませんが、人間が判定したのでは納得がいきません。
みんなが他人を善人とか悪人とか判定すれば、それがもとで争いが起きるのは当然です。
しかし、「善悪の知識」を得た人間は善悪の判断をやめることができません。
そうしていたるところで争いが起き、親子、夫婦、兄弟までもが争うようになり、人間は不幸になりました。


トランプ政権はベネズエラ沖で麻薬運搬船と見なした船を攻撃し、すでに100人以上殺害したとされます。
なんの法的根拠もなしにやっていますが、トランプ政権としては、奴らは「悪」だから殺害してもいいと思っているのでしょう。
イスラエルのネタニヤフ政権も、「ハマス殲滅」を掲げてガザ侵攻を始めました。ハマスを「悪」と見なしているのでしょう。
ロシアのプーチン政権もウクライナ政府をネオナチと見なして侵攻しました。
今、中国の習近平政権は高市政権を軍国主義復活を目指していると主張しています。
悪の認定は戦いの正当化につながるので注意しないといけません。

善と悪については、定義はありませんし、客観的な基準もありません。
そのため誰でも勝手に悪を認定できます。

アメリカやイスラエルはイスラム過激派をテロリストすなわち悪と見なしていますが、中東の多くのイスラム教徒はアメリカやイスラエルを悪と見なしています。
安倍元首相を暗殺して裁判中の山上徹也被告は、テロリストとして厳罰に処すべきだという意見もありますが、宗教二世としての不幸な生い立ちと、統一教会と自民党の癒着をあばいたという功績があることから、同情する意見もあります。つまり山上被告の殺人という悪と、安倍元首相と統一教会の悪を天秤にかけたとき、その評価は人さまざまだということです。

夫婦喧嘩はたいてい互いに「お前(あなた)が悪い」と言い合うことで行われますが、これはいくら言い合いをしても絶対に結論は出ません。

いちばん不幸になったのは子どもです。
「善悪の知識」を得た親は、子どものさまざまな行動の中で自分の気に入らないもの、たとえば子どもが大声を出したり、動き回ったり、行儀が悪かったり、好き嫌いを言ったり、親の言いつけに背いたりしたことを悪だとして、子どもを叱ります。一方、子どもは「善悪の知識」を使いこなすだけの言語能力がないので、子どもを叱る親に対抗することができず、幼児虐待が蔓延しました。
ちなみに動物の親は子どもを叱ったりしませんし、未開社会の親も子どもを叱りません。文明社会の親だけが子どもを叱ります。


「善悪の知識」のために世の中は混乱しました。
そこで人間は善悪ではなく法律に従うことにしました。これを「法の支配」ないしは「法治主義」といいます。
法律は善悪と違って客観的な基準になります。
「法の支配」によって社会の秩序は保たれてきました。

善悪はフィクションの中で生きています。
ハリウッド映画では正義のヒーローが法律に基づかずに悪人を派手にやっつけています。法律に基づくと時間と手間がかかり、悪人をやっつける快感が得られないからです。
現実の中で悪人を派手にやっつけてもハッピーエンドにはなりませんが、フィクションの中では可能です。


しかし、最近「法の支配」が崩れてきています。
それはインターネットの普及のせいです。
掲示板やSNSでは誰かを悪と決めつけて攻撃するとインプレッションが稼げます。そのため法の支配はほとんど無視されます。

そうしたところにトランプ氏が登場しました。トランプ氏の言葉は単純でわかりやすく、大衆受けします。その中身のほとんどは、民主党やバイデン氏や移民や犯罪者やテロリスなど“悪いやつ”を攻撃する言葉です。
トランプ氏の登場で「法の支配」から「善悪の知識」へのシフトが加速しました。

「法の支配」が崩れると世界が混乱し、戦争の可能性が高まります。
ですから、「法の支配」のたいせつさを再確認する必要があります。

それに加えて「善悪の知識」がまったく役に立たず、むしろ混乱をつくりだすものだということを知らねばなりません。
「善悪の知識」だけではありません。正義や道徳も同じです。
正義が有効なのはフィクションの中だけですし、道徳教育はいくらやっても道徳的な人間をつくることはできません。

楽園に戻れるかどうかはわかりませんが、人類は「善悪の知識」を頭の中から消去する必要があります。

どうやって「善悪の知識」を頭の中から消去するかについては「道徳観のコペルニクス的転回」を読んでください。

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2025年はかつてなく混乱した年でした。
混乱の中心にいたのはトランプ大統領です。
関税で世界経済を混乱させ、イスラエルのガザ侵攻の後ろ盾になり、ウクライナ戦争を終わらせることができず、アメリカ国内では分断を深めました。
これはトランプ大統領個人の問題というよりも、トランプ氏を支持してきたアメリカ国民の問題でもあります。
アメリカ国民が変わらないと、またトランプ氏みたいな大統領が出てきます。

アメリカでは麻薬汚染と犯罪が深刻です。
麻薬汚染と犯罪のひとつの原因は格差社会です。希望を失った貧困層の人は麻薬に逃避し、犯罪のハードルが下がります。
もうひとつの原因は家庭崩壊です。家族関係で傷つき、家族のささえをなくした人間は、やはり麻薬と犯罪に走りがちです。
しかし、トランプ大統領は麻薬は外国のせい、犯罪は移民のせいにしています。
国民もそういうトランプ氏を支持してきました。
そのためにアメリカ社会の病理は深刻化する一方です。


J.D.バンス副大統領はアメリカの矛盾を一身に集約したような人物です。
バンス氏はオハイオ州の貧しい労働者階級の家庭に生まれました。幼いころに両親は離婚し、それから母親は男をとっかえひっかえし、バンス氏には何人もの義理の父親がいます。実の父親とは疎遠でした。母親はずっと麻薬依存症で、治療によって快復したこともありますが、また麻薬にはまります。バンス氏は主に祖父母の家で育ちましたが、祖父母はアルコール依存症で、祖父からは暴力をふるわれました。ただ、祖母はバンス氏をたいせつにしてくれ、姉もよく世話してくれました。
周りも貧しい労働者の家庭で、離婚、暴力、麻薬、犯罪が横行しています。そういう環境から成り上がるのはきわめて困難です。
バンス氏は高校卒業後、地元の大学に進むつもりでしたが、学費の負担がたいへんです。そこで海兵隊に入り、4年間勤務してからオハイオ州立大学に入りました。復員兵援護法によって学費のかなりの部分がカバーできました。
オハイオ州立大学は二流ないし三流大学のようです。バンス氏はそこからアイビーリーグであるイェール大学のロースクールに進みます。そして、高給取りの弁護士になって、作家として成功します。
今やアメリカは階層が固定し、貧困層の崩壊家庭から富裕層に垂直移動したバンス氏のような例はまれです。そうしたことも注目され、上院議員から副大統領にまでなりました。


トランプ大統領は富裕層の生まれです。父親は手広く不動産業を営んでいましたが、黒人嫌いで、KKKに所属して活動していたことがあるといわれています。
トランプ氏は子どものころ度重なる不良行為が原因で13歳で陸軍幼年学校に転入させられます。ペンシルベニア大学を卒業後、父親の会社に入ります。
長男である兄のフレッド・トランプ・ジュニア氏はパイロットを志して家業を継がなかったために父親とトランプ氏から軽蔑されました。トランプ家では「勝者か敗者か」という価値観が強く、家業を継がない者は敗者と見なされたのです。フレッド・ジュニア氏はアルコール依存症になり、アルコール依存症が原因の心臓病で42歳で死亡しました。
トランプ氏は20代のときに辣腕弁護士のロイ・コーン氏に出会い、薫陶を受けます。映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』によると、ロイ・コーン氏はトランプ氏に「勝つための3つのルール」を教えます。それは「攻撃、攻撃、攻撃」「非を絶対に認めるな!」「勝利を主張し続けろ!」というものです。大統領選でバイデン氏に負けたとき「選挙は盗まれた」と主張し続けた理由がわかります。

富裕層に生まれたからといって楽な生き方ができるわけではありません。「勝者か敗者か」というプレッシャーにさらされ続けます。バンス副大統領もイェール大学のロースクールから一流弁護士事務所に就職するときはきびしい評価にさらされました。
トランプ大統領もバンス副大統領もろくな家庭で育っていませんが、これがアメリカの現実です。息子ブッシュ大統領も一時期アルコール依存症でした。


トランプ氏の今の家庭はどうなのでしょうか。
トランプ氏は3回結婚しています。女性関係は派手で、元ポルノ映画スターのストーミー・ダニエルズ氏に不倫の口止め料を支払い、裁判沙汰になったこともあります。
少女への性的虐待罪で起訴されたあとに死亡したジェフリー・エプスタイン氏とも交友があり、トランプ氏も性的虐待を行ったのではないかという疑惑は今や大問題になっています。

こんな女好きの男が家族を重視する保守派に支持されるのは不思議です。
女好きの男には支持されるかもしれませんが、女性はどうなのでしょうか。

メラニア夫人がトランプ氏を嫌っていてもおかしくありません。現にメラニア夫人がトランプ氏と手つなぎを拒否する動画があります。



人間は誰でも家族の人間関係の中で人格の基礎的な部分を形成をします。
トランプ氏は父親の差別主義と「勝者か敗者か」という価値観を身につけました。
トランプ氏にとっては、USAIDやオバマケアなどは敗者を救済する間違ったものなのでしょう。

バンス氏は祖母を心のささえにしていますが、祖母は激しい気性で、バンス氏は祖母が銃で人を殺すのではないかと本気で恐れたことが何度もあります。祖母は家の各所に銃を常備していて、家の中に19丁の装填済みの銃があったということです。
ということは、バンス氏の中にも暴力的なものがあるでしょう。バンス氏が大統領になれば軍事力行使のハードルが低いかもしれません。


保守派が理想とする家父長制の家庭は、父親が妻と子どもを力で支配する家庭です。
それが離婚、暴力、虐待という崩壊家庭を生みます。
崩壊家庭でない家庭は力で支配された家庭です。
バンス氏は崩壊家庭で育ち、トランプ氏は力で支配された家庭で育ちましたが、どちらも根は家父長制です。
家父長制の家庭で育った人間がアメリカの指導者になり、また家父長制の家庭を再生産します。
これではアメリカは少しも変わりません。


しかし、変わる可能性はあります。
キーマンはバンス氏です。


バンス氏の著書『ヒルビリー・エレジー』によると、バンス氏にはロースクールでウシャというクラスメートの恋人ができます。ウシャはバンス氏の“精神的指導者”になります。

バンス氏が受けた有名法律事務所の二次面接が街の最高級レストランで開かれました。テーブルの上にバカげた数のナイフとフォークが置かれていて、スプーンだけで3本もあります。バンス氏はトイレに行くふりをしてウシャに電話をします。ウシャは「外側から順番に使っていけばいいのよ。お皿が替わったら、同じナイフやフォークを使っちゃだめ。いちばん大きなスプーンはスープ用よ」と教えてくれ、おかげで恥をかかずにすみました。
このエピソードは、貧困層から上に行くことの困難さをよく示しています。

感謝祭の日にバンス氏がウシャの実家を初めて訪れたとき、家の中の雰囲気が穏やかなことに驚きます。ウシャの母親は夫の陰口を一言も口にしませんし、会話の中で親類や友人の誰それが嘘つきだとか裏切者だとかいった話はまったく出ません。ウシャの両親はそれぞれの親をほんとうに愛しているようで、兄弟とも仲良く会話していました。

バンス氏はつき合っている中で、しばしばウシャに怒りを爆発させて、暴言を吐いてしまいます。それでもウシャはバンス氏を捨てませんでした。やがてバンス氏は、数世代にもわたって家族を苦しめてきた、愛する人を傷つけてしまう気質を自分も受け継いでいることに気づきます。
カウンセリングを受けることも考えましたが、それよりも図書館へ行って調べることにしました。そうすると、自分の問題は重要なテーマとして研究されていることがわかりました。心理学者はそれを「逆境的児童期体験(ACE)」と呼んでいました。
ACEは被虐待経験だけでなく、幼児期における家族の精神疾患、家族の自殺、養護施設での生活なども含まれます。崩壊家庭における苦しい体験といっていいでしょう。
ACEは依存症の原因になるだけでなく、うつ病、糖尿病、心筋梗塞、脳卒中、肺炎、腰痛・頭痛、がんなどになる可能性を高めます。

ACEの概念は最近日本に入ってきましたが、アメリカでは10年以上前からいわれていたわけです。
アメリカでは薬物依存症やアルコール依存症の治療法も普及しています。バンス氏の母親も何度も薬物依存症の治療を受けて、一時的には立ち直っています。有名人が薬物依存症であることを告白することもよくありますが、批判されることはなく、むしろ治療に立ち向かうことを応援されます。日本ではまだ本人の意志の弱さが責められるでしょう。

このような心理学的アプローチは、麻薬や犯罪を外国や移民のせいにするのと違って、王道です。
この道が家族を再生させます。
バンス氏はそうした心理学を学び、自分の家族とウシャの家族の違いを考え、生き方を変えていきました。

あるとき運転中に割り込んできた車にクラクションを鳴らすと、運転席の男はこちらに向かって中指を立てました。赤信号で停車したので、バンス氏はドアを開けようとしました。相手の男に謝らせるつもりで、向こうがその気なら喧嘩もいとわない気持ちでした。名誉が傷つけられたとき男はそうするものだと思っていたのです。しかし、バンス氏は車から降りるのをやめてドアを閉めました。前に同じようなことがあったときはウシャが「バカなことはやめて!」と叫んで止めたのですが、今回はその前に思いとどまったのです。彼女は「自分を抑えられるあなたを誇りに思う」とほめてくれました。

バンス氏はウシャと結婚し、『ヒルビリー・エレジー』を書いたときも彼女は原稿を何十回も読み、アドバイスをしてくれたそうです。バンス氏の夫婦仲はトランプ氏の夫婦仲とはまったく違うものと見えます。


上院議員となったバンス氏は、最初は反トランプの立場でしたが、あるときから態度を変えてトランプ支持になりました。それが奏功して副大統領になりました。
最近は祖母の生き方を肯定するようなことも言っていて、家父長制の側に戻ったようです。
しかし、一度はアメリカの病理の根本は家族にあると気づいたのですし、今も妻のウシャはそばにいます。
バンス氏は祖母の生き方かウシャの生き方か、ふたつの道で迷っているのかもしれません。

トランプ氏のやっていることは支離滅裂なので、今後どんどん支持率は下がっていくでしょう。
バンス氏も副大統領としていっしょに沈んでしまってはだめですが、どこかで路線変更すれば、次の大統領選で有力候補になることができます。

今のアメリカの問題の根本は家族のあり方にあると気づいているのは、民主党の人間にもほとんどいなくて、今のところバンス氏ぐらいではないかと思われます。
アメリカの問題を移民と外国のせいにする今のやり方が見捨てられたとき、バンス氏の出番になるでしょう。
大統領にならなくても、『ヒルビリー・エレジー』に書かれたことはアメリカ再生の道を示しています。


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