
近ごろの若い人は元気がなく、人づきあいに消極的です。
もっとも、これは今に始まったことではありません。
1970年代半ば、私の実家では庭の一角にアパートを建て、アパート経営を始めました。すぐ近くに予備校があったので、予備校生(浪人生)専用のアパートにして、必ず一年で出ていってもらうことにしました。何年も居座る人がいてはアパートの雰囲気が悪くなると考えたからです。
つまり一年ごとに入居者(たいてい18,9歳)がすべて入れ替わるのです。
そのころ私は実家を出ていましたが、母親が「一年ごとに子どもたちが目に見えておとなしくなっていく」と言ったのが気になりました。
最初のころの入居者は、互いの部屋を行き来して友だちづきあいをし、ひとつの部屋に集まって話し込んだりして、騒がしかったが、年々みんなおとなしくなって、互いに交流せず、ずっと自分の部屋にこもるようになったというのです。
その変化が一年ごとにはっきり見えるというのが驚きでした。そんなにはっきりと変化していけば、十年、二十年たてば大きな変化になるはずです。
私は三十代半ば、日本ファンタジー大会(昔は日本SF大会以外にそういうのがあった)に出たのがきっかけで、SFやファンタジーのファンとつきあうようになり、あるとき食事会だか飲み会だかが行われました。私は酒を飲んだらみんな激しい文学論を戦わせるのだろうなと想像していたら、みんなあまり酒を飲みませんし、激しい議論もしないので、拍子抜けしました。
メンバーは平均的に私より十歳ぐらい若い感じでした。私は学生時代も会社員時代ももっぱら同年代とつきあっていたので、若い世代と飲み会をするのは初めてでした。“若者の酒離れ”は当時から言われていましたが、熱い議論をしないということに世代の差を痛感しました。
それから三十年余りたちました。若い世代はさらにおとなしくなり、人づきあいに消極的な傾向も強まっています。
「若い世代は元気がなく、人づきあいに消極的」というのは私個人の感想なので、客観的なデータで示したいところですが、これが意外とむずかしいことです。
暴走族の数がへり続け、今ではほとんど絶滅危惧種になっているというのが象徴的かもしれません。
博報堂生活総研が1998年から毎年実施している「生活定点」という調査があって、その中から「友人は多ければ多いほどよいと思う」と回答した人の割合の推移がグラフで見られます。
このグラフは、友人の数がへっていることを反映していそうです。

6月に発表された2022年版の「男女共同参画白書」によると、20代男性のおよそ7割、女性のおよそ5割が「配偶者・恋人はいない」と回答し、「これまでデートした人数」を聞いた回答では20代独身男性のおよそ4割が「0人」と答え、“若者の恋愛離れ”として話題になりました。
これが話題になるということは、多くの人が「今の若者は人づきあいに消極的」という印象を持っていて、先行きを案じているからでしょう。
いつの時代も、生まれてくる赤ん坊は同じです。
「若い世代は前の世代よりも元気がなく、人づきあいに消極的」ということがもしあるならば、それは環境の変化にによって説明できなければなりません。
私たちの世代は、親が戦争を経験していて粗暴で、時代も戦後の混乱を引きずっていました。
ベビーブーマー世代でもあり、同世代での競争が激しく、狭い教室に多数が押し込められるというストレスもありました。この世代は、ベトナム戦争があったこともあって、世界的に“若者の反乱”を起こしました。
つまりベビーブーマー世代が元気(乱暴?)だったのには理由があります。
世の中が落ち着いてくると、若い世代も落ち着いてくるのは当然です。
「若い世代は元気がない」というのは、前の世代が過剰に元気だったのが正常化してきただけともいえます。
ただ、最近は元気のなさが行き過ぎて、人づきあいに関しても消極的が行き過ぎて、コミュニケーション障害という言葉が使われるようになっています。
もっとも、これも時代の大きな変化がもたらしたものです。
たとえば少子化が進んで一人っ子が多くなり、子どもの遊び場も少なくなったので、若い世代のコミュニケーション能力が発達しないのは当然です。
インターネットの普及、コンビニ、スーパーマーケット、ファストフード店など会話の少ない店舗が増えたことなど、さまざまな要素も関係しているはずです。
ですから、そう簡単に改善できることではありません。
ただ、子育ての間違いに原因のあることもあります。それはすぐにでも改善できます。
近ごろは赤ん坊の泣き声がうるさいとか、幼稚園の子どもの声が近所迷惑だとか、公園で子どもの遊ぶ声がうるさいといった苦情が多いので、子どもはつねに親や保育士や教師などから「静かにしなさい」とか「おとなしくしなさい」とか「行儀よくしなさい」などと言われています。そんな育てられ方をしたら、おとなしい子、つまり元気のない子になるのは当然です。
だいたい赤ん坊が泣いたり子どもが騒いだりするのは自然なことです。
「公共の場で子どもが騒ぐのはよくない」と言う人がいますが、公共の場というのは子どもも年寄りもいられる場です。子どもが騒いだときに排除していいのは、公共の場ではなくプライベートな場です。
昔は「子どもは元気がいちばん」と言ったものですが、最近は聞きません。
子どもが元気であれば、なにも問題はありません。元気でないなら、体調が悪いか、いじめなどの悩みがあるかですから、そのときに対処すればいいのです。
なお、「おとなしい」というのは、漢字で「大人しい」と書くように、大人のようであることを意味します。子どもに「おとなしくしなさい」と言うのは、子どもの正常な発達を妨げる行為です。
コミュ障が増えるのも、子育ての間違いに原因がある場合があります。
たとえば次の記事がわかりやすい例です。
ママ友の子が”大暴れ”!?ママ友に連絡すると→「衝撃の返信」に絶句!その後現れた姿に激怒した…皆さんの周りに、ちょっと厄介なママ友さんはいませんか? ママ友付き合いは必要不可欠なので大変ですよね…。 今回は、そんな皆さんから集めたママ友エピソードをご紹介します。(中略)子どもが幼稚園児の頃、同じ幼稚園に通う、やんちゃで有名な兄弟が公園に遊びに来ていました。 兄弟げんか始まると、だんだんエスカレートして他の子の自転車やおもちゃを投げつけ合ってけんかするなど手に負えなくなってきました。 兄弟のママに電話をして状況を伝え、公園に来て欲しいと話したところ「いつものことだから放っておいて」と言われて絶句。 周囲の子も巻き込まれてしまいそうで危なかったので、その場にいたママ達で何とか収めました。 兄弟のママは、けんかが収まってしばらくしてからのんびり登場し、こちらへの謝罪やお礼も一切なく「何てことなかったじゃない」という表情ですぐ家に帰ってしまいました。 (54歳/主婦)
こんなママ友だと距離を取って接したいですよね…。 狭いコミュニティだからこそ、付き合う人は選びたいと思えるママ友体験談でした。 ※こちらは実際に募集したエピソードをもとに記事化しています。https://trilltrill.jp/articles/2733049
昔から「子どもの喧嘩に親が出る」という言葉があって、子どもの喧嘩に親が出るのは愚かな行為とされています。
しかし、最近この言葉は死語と化しているようです。この記事も、子どもの喧嘩に親が出るのを当たり前のことと見なしています。
子どもが喧嘩するのは自然なことです。というか、夫婦喧嘩や戦争があるように、おとなになっても喧嘩をします。ですから、たいせつなのは喧嘩に対処する能力を身につけることです。
親が喧嘩に介入しては、その能力が身につきません。
親は子どもの喧嘩をずっと見ていて、ケガをしそうになったときだけ介入すればいいのです。
このやんちゃな兄弟も、放っておけばいずれ喧嘩はやめます(よく喧嘩しているようなので、家庭にストレスの原因があるのかもしれません)。
何度も喧嘩をすれば、「ここまでやると相手は怒り出す」という加減がわかってきますし、どんな喧嘩でも収まるということもわかります。
しかし、今は公園の遊び場や保育園などでおとなが喧嘩を止めているので、子どもはあまり喧嘩の経験がありません。人と深くつきあうと喧嘩になる可能性も増えるので、喧嘩を回避するために表面的なつきあいをする傾向が強まったのではないでしょうか。
若者のコミュ障は、おとなや社会がつくりだしたものです。
コメント