
岸田政権は12月16日、安保関連三文書を閣議決定し、新聞各紙は「安保政策の歴史的転換」などと大々的に報じました。
この大転換を決めたのは岸田首相でしょうか、安倍元首相でしょうか。それとも防衛省と外務省の官僚でしょうか。
いずれにせよほとんど議論もなしに決まりました。敵基地攻撃能力に関しては多少議論がありましたが、今後5年間の防衛費を総額43兆円にすることについてはまったく反対の声がありません。
一方、防衛費増額の財源をどうするかについては、増税か国債か建設国債か、外為特別会計の資金活用か復興特別所得税の転用かなど議論百出でした。
どうしてこうなるのでしょうか。
それは、防衛費増額はアメリカと日本が合意してすでに決まっているので、今さら議論しても意味がないからです。
財源についてはこれから日本が決めることなので議論百出になります。
防衛費増額の経緯についてはこれまでも書いてきましたが、改めて整理しておきたいと思います。
そもそもの発端は、昨年10月の衆院選向けの自民党選挙公約に、防衛費について「GDP比2%以上も念頭に増額を目指す」という文言が入ったことです。
これまでずっと日本は防衛費GDP比1%でやってきたのですから、GDP比2%は倍増になります。1割増とか2割増ならともかく倍増というのは冗談としか思えない数字です。
私はタカ派の高市早苗政調会長が自分の趣味を全開にして数字をもてあそんだのかと思いました。
発表当時はマスコミもほとんど注目しませんでした。
しかし、高市政調会長が選挙公約を発表したのが10月12日で、10月20日には米上院外交委員会の公聴会に次期駐日大使のラーム・エマニュエル氏が出席し、「日本が防衛費を(GDP比)1%から2%に向けて増やそうとしているのは、日本がより大きな役割を果たす必要性を認識している表れで、日米の安全保障協力にとっても非常に重要だ」と述べました。
政党の選挙公約というのはあまり当てにならないとしたものですが、自民党の「防衛費GDP比2%」はすぐに米議会で取り上げられ、対米公約みたいなことになったのです。
さらに11月22日には朝日新聞に掲載されたインタビュー記事で、前駐日米大使のウィリアム・ハガティ上院議員は「米国はGDP比で3・5%以上を国防費にあて、日本や欧州に米軍を駐留させている。同盟国が防衛予算のGDP比2%増額さえ困難だとすれば、子どもたちの世代に説明がつかない」と言って、日本の防衛予算のGDP比2%への引き上げを早期に実現するように求めました。
次期駐日大使と前駐日大使がともに自民党の選挙公約の「防衛費GDP比2%」を高く評価しているところを見ると、自民党はアメリカと話し合った上で選挙公約を決めたのでしょう。
ちなみに「防衛費GDP比2%」はアメリカがNATO諸国に要求している数字です。
アメリカは同じ数字を日本にも要求したのでしょう。
岸田政権はその要求を受け入れて、自民党の選挙公約に「防衛費GDP比2%」と書いたことになります。
5月23日、岸田首相はバイデン大統領と都内で会談し、その後の共同記者会見で「防衛費の相当な増額を確保する決意を表明し、これに対する強い支持をいただいた」と述べました。
その後、参院予算委員会で「防衛費増額は対米公約か」と質問された岸田首相は「約束というと、米国から嫌々求められた感じがする」「防衛費はわが国として主体的に決めるもの」などと答弁しました。
そして今回、安保関連三文書が閣議決定されると、バイデン大統領はツイッターに「日本の貢献を歓迎する」と投稿し、サリバン大統領補佐官は「日本は歴史的な第一歩を踏み出した」との声明を出し、オースティン国防長官は声明で「防衛費が2027年度にはGDPの2%に達する決定をしたことを支持する」と表明しました。
こうした流れを見ても、今回の防衛費増額はアメリカの要求によるものだということがわかります。
予算の総額が先に決まり、なにに使うかが決まっていないという、通常と逆の展開になっているのもそのためです。
バイデン政権は「中国を唯一の競争相手」とした国家安全保障戦略を発表しています。
中国は経済成長とともに軍事力をつけてきているので、アメリカの優位が揺るぎかねません。
そこで、日本の自衛隊を利用する戦略です。
もし自衛隊が国土防衛のための兵器だけを保有しているなら、アメリカ軍は自衛隊を利用できませんが、すでに自衛隊は空母やイージス艦や早期警戒管制機(AWACS)を保有しています。これらバカ高い兵器を購入したりつくったりしてきたのは、アメリカ軍が利用可能だからです。
さらに自衛隊が「敵基地攻撃能力」のための長距離ミサイルなどを保有すれば、それもアメリカ軍の戦力にカウントすることができます。
安保三文書にも「日米が協力して反撃能力を使用する」と明記されています。
それに、日本がアメリカから兵器を購入することでもアメリカは利益を得られます(すでにトマホーク購入が計画されています)。
アメリカが日本に「防衛費GDP比2%」を要求するのはアメリカの国益ですが、日本にとってはどうでしょうか。
NATO基準を島国の日本に当てはめるのはおかしなことですし、NATO未加入のウクライナと違って日本には日米安保条約があり、駐留アメリカ軍もいます。
アメリカが長距離ミサイルを必要とするなら、自前で用意してもらいたいものです。
「防衛費GDP比2%」の選挙公約を発表したのは高市政調会長ですが、高市氏が一人で決めるはずもなく、岸田首相も了承していたはずです。
高市氏の背後には安倍元首相がいました。おそらく安倍元首相が中心になって決めたのではないでしょうか。
安倍元首相は2015年に新安保法制を成立させ、自衛隊とアメリカ軍の一体化を進めました。安保三文書はその延長線上にあります。
岸田首相はハト派のイメージがありますが、安倍政権時代に長く外務大臣を務めていたので、外交防衛政策で安倍元首相に合わせるのは得意です。
もっとも、日米でどのような交渉が行われたのかについてはまったく報道がありません。
高市氏に「どうして選挙公約に防衛費GDP比2%という数字を入れたのですか」と問いただしているのでしょうか。
次期駐日大使のエマニュエル氏が昨年10月20日に米上院外交委員会の公聴会に出席したときの毎日新聞の記事の見出しは「日本の防衛費大幅増に期待感 米駐日大使候補、上院公聴会で証言」でしたし、朝日新聞が昨年11月22日に掲載した前駐日大使のハガティ上院議員のインタビュー記事の見出しは「日本の防衛予算のGDP比、早期倍増を ハガティ前駐日米大使が主張」でした。
つまりマスコミはアメリカが強く防衛費倍増を求めていることを知りながら、日米交渉の内実はまったく報道しなかったのです。
アメリカの要求には逆らわないというのがマスコミの習性であるようです。
その結果、岸田政権は自主的に防衛費倍増を決定したようにふるまっています。
これを“自発的隷従”といいます。
「防衛費増額は対米公約か」と国会で質問されたとき、岸田首相が「約束というと、米国から嫌々求められた感じがする」「防衛費はわが国として主体的に決めるもの」と答弁したところに“自発的隷従”の心理が表れています。
日米交渉の内幕が報道されると、アメリカに「要求を飲まないと日米安保条約を廃棄する」という脅しを受けていたといったことが出てくるかもしれません。
こうした報道があれば、日本人も対米自立を考えるようになるでしょう。
自民党は統一教会という韓国系の教団に“売国”行為をしていたことが明らかになりましたが、もともと自民党の売国先の本命はアメリカです。「反共」を名目にアメリカと手を組み、統一教会とも手を組んだわけです。
自民党が“売国政党”であるために、日本国民は重税にあえぐことになります。
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