
人間は誰でも自分中心にものごとを考え、自国中心に国際情勢を考えます。
自分中心の考えは周りから利己的だとして戒められますが、自国中心の考えは周りから愛国的だとして称賛されます。
こうして普通に市民生活をしている人がどんどん戦争に突き進んでいきます。
北朝鮮は2月18日夕方、ICBM級と見られる弾道ミサイルを発射し、北海道渡島大島の西方およそ200キロの日本のEEZ(排他的経済水域)内の日本海に落下しました。
マスコミは大きく取り上げ、岸田首相は「今回の発射は、国際社会全体に対する挑発をエスカレートさせる暴挙だ」と語り、浜田防衛相は「飛翔軌道に基づいて計算すると、弾頭重量等によっては1万4000キロを超える射程になり、米国全土が射程に含まれる」と語りました。また、日本のEEZ内に落下させたのは挑発だという声もありました。
その少し前の2月9日、アメリカは核弾頭の搭載が可能なICBM「ミニットマン3」の発射実験を行いました。カリフォルニア州で発射され、太平洋のマーシャル諸島クェゼリン環礁までおよそ6760キロを飛行したということです。アメリカ空軍は「定期的な実験であり、現在の世界情勢に起因するものではない」と発表しました。
日本政府はなにも反応せず、日本のマスコミも冷静な扱いでした。そのため、このニュースに気づかなかった人も多いかもしれません。
同じICBMでも、北朝鮮が発射したのとアメリカが発射したのとでは、日本の反応がまったく違います。
「日本はアメリカの同盟国だから当然だ」と思うかもしれませんが、偏った見方をしているのは事実です。
「よいICBM」も「悪いICBM」もありません。
北朝鮮の保有する核弾頭は20個から30個程度と見られ、ICBMの性能もアメリカ西海岸に届く程度でした。今回の発射実験でアメリカ全土が射程に入ったかもしれないというところです。
アメリカの保有する核弾頭は5000個以上で、ICBMの数は450基から500基程度ですが、ほかに長距離爆撃機と潜水艦発射ミサイルでも核攻撃ができます。
北朝鮮とアメリカの核戦力を比較したら、アメリカが北朝鮮の数百倍です。
日本のマスコミは「北朝鮮の脅威」をいいますが、北朝鮮にすれば圧倒的な「アメリカの脅威」を感じているわけです。
「中国の軍拡の脅威」もいわれますが、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の2022年版によると、『中国は軍事力を急速に強化しているイメージがあるものの、軍事費はGDP比1.7-1.8%前後で安定的に推移しており、公表値ベースでは「経済成長並みの増加」を継続していると言える』ということです。

つまり中国は経済成長に合わせて軍拡しているだけです。
一方、日本はほとんど経済成長しない国なのに、防衛費をGDP比1%から2%にすることにしました。
軍拡のために経済成長を犠牲にせざるをえず、自滅的な戦略です。
そもそもアメリカの軍事費は中国の軍事費の3倍ぐらいあり、しかもアメリカ軍はハイテク化していますが、中国軍は人件費の割合が多いので、数字以上の実力差があります。
いや、アメリカ一国の軍事費を取り出すのもおかしなものです。アメリカにはNATOや日本や韓国などの同盟国があるからです。
SIPRIは世界の国を「自由主義国」「部分的自由主義国」「非自由主義国(専制主義国)」の三つに分類して、それぞれの軍事費の割合を算出しています。「自由主義国」はほぼアメリカとその同盟国と見て間違いありません。
それによると「自由主義国」の軍事費は世界の軍事費の66.4%を占めています。
それに対して中国は14.1%、ロシアは3.2%です。

つまりアメリカ陣営は圧倒的な軍事力を持っていて、中国、ロシアは束になってもかないません。
アメリカはアジアでは韓国、日本、フィリピンに基地を持って、中国を圧迫しており、ヨーロッパではドイツ、イタリア、スペイン、ベルギーなどに基地を持ち、さらにかつてのワルシャワ条約機構の国をNATOに引き込んで、ロシアを圧迫しています。
アメリカは「安全保障」という言葉を使いますが、アメリカの国土の安全が脅かされる心配はないので、不適切な言葉づかいです。中国の空母がアメリカ西海岸沖を航行するようになったら、その言葉を使ってもいいかもしれませんが。
「安全保障」を真剣に考えなければならないのはロシア、中国のほうです。北朝鮮などは「安全保障」のことで頭がいっぱいです。
日本はもっぱらアメリカ陣営の側から世界を見ているので、全体像が見えていません。
以上のことは、誰もが知るべき基本的な情報ですが、日本では「中国の軍拡の脅威」や「北朝鮮のミサイルの脅威」ばかりがいわれます。アメリカ陣営の側に立って世界を見ているからです。安全保障の専門家もみずからの利益のために危機感をあおるので、こうした戦力比較という基本的な情報がおろそかになっています。
このところ「台湾有事」ということがよくいわれます。
もし中国軍が台湾に侵攻して台湾有事が起こり、アメリカが介入すれば、米軍は日本の基地から出撃するので、日本が中国から攻撃される可能性があります。そのとき日本政府は「存立危機事態」と認定して、自衛隊を出動させ、中国軍を攻撃します。その際必要になる攻撃能力を今準備しているところです。
日本には台湾を守る義務もなければ、米軍を守る義務もないので、中国軍の攻撃で米軍基地周辺の市街地に被害が出ても、断固として傍観するという選択肢もあります。「台湾のために自衛隊員を死なせるわけにいかない」というのは立派な理由です。
しかし、日本政府はアメリカ従属一筋なので、参戦しないということはまったく考えられません。
バイデン政権は2022年10月に「国家安全保障戦略」を発表し、中国を「国際秩序を変える意思と能力を兼ね備えた唯一の競合国」と認定し、中国と対抗するために「同盟国や友好国との連携を一段と深める」としました。
アメリカが中国と戦うとき、自衛隊の戦力も利用しようとするのは当然です。
自衛隊が米軍と共同行動をするには、専守防衛を捨てて敵基地攻撃能力を持たなければなりません。
岸田首相はアメリカの戦略に忠実に従っています。
自民党の細野豪志元環境相は1月2日に「中国や北朝鮮の脅威増大で亀のような国では国民を守れない。これは日本の外部要因だ。ヤマアラシのように外敵が攻撃を躊躇する国になることで国民を守る以外にない」とツイートしましたが、各国の軍事力についての基本知識もなく、アメリカにあやつられているだけの政治家だということがよくわかります。
自国中心の発想を抜け出て、すべての国に対して中立の立場から世界を見れば、正しい世界が見えてきます。
ところが、人間は最初から国を色分けして見ています。
たとえば北朝鮮は「極悪非道な独裁国」と多くの人は見ています。
ウクライナ侵攻をしたロシアも「悪いプーチンの国」です。
アメリカは日本を守ってくれる「よい国」ないし「正義の国」です。
バイデン大統領は世界を「民主主義国対権威主義国」と色分けしました。日本は民主主義国で、中国は一党独裁、習近平独裁の国なので、相容れません。
あるいは、多くの日本人は欧米を崇拝し、アジアを見下すという傾向がありますし、イスラム教の国はつきあいにくいと思っています。
今挙げたことはすべて事実ではなく価値観の問題です。
民主主義国と独裁国は事実ですが、「民主主義国はよい、独裁国は悪い」というのは価値観です。
「やつらは悪い国だ。我々は悪と戦う正義の国だ」と思うと戦争になってしまうので、こうした価値観はすべて頭の中から消去しなければなりません。
すべての価値観を頭の中から消去することはそんなにむずかしくありません。
「すべての思想を解体する究極の思想」に入口があります。

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