村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

2018年11月

安倍政権は外国人労働者を増やす入管法改正をゴリ押ししています。
安倍政権がなにかの法案をゴリ押しするときは、たいてい背後にアメリカの要請があるものですが、今回その可能性はなさそうです。
もっぱら財界の要請に応えているのでしょう。
経団連は2016年に23億円余りの献金を自民党にしているので、自民党としてはその要請を無視するわけにいきません。
 
新聞各社が入管法改正についてどのような論調であるかということを次の記事が書いていました。
 
【論調比較・入管法】 外国人の人権案ずる朝毎・東京 治安悪化懸念の産経
 
日経と読売は入管法改正に基本的に賛成です。日経は企業側に立って、読売は自民党側に立っているので、当然でしょう。
 
朝日、毎日、東京は入管法案に反対です。その主な理由は、外国人労働者の受け入れ環境整備が不十分だということです。
 
産経も反対ですが、その理由は「日本社会の変質」への懸念です。外国人が増えると地方参政権を求める声が強まり、社会の混乱や治安の悪化が生じるということです。

朝日、毎日、東京は外国人労働者を思いやり、産経は外国人労働者をヘイトしています。
しかし、日本人単純労働者のことを無視しているのはどちらも同じです。
 
外国人労働者がふえると、それと競合する日本人単純労働者の賃金が上がりません。
これからやってくる外国人労働者の待遇を心配するより、今いる日本人労働者の待遇を心配するほうが先でしょう。
 
安倍政権は「アベノミクスにより最低賃金・失業率・株価は軒並み改善しており、これからアベノミクスの果実が全国津々浦々に届けられ、実質賃金も上昇し、デフレから脱却できる」と繰り返してきました。しかし、外国人労働者を大量に入れれば、日本人労働者の賃金は上がりませんし、デフレからの脱却もできません。
入管法改正は、アベノミクスの恩恵がしたたり落ちてくるのを待っていた日本人労働者への裏切りです。
 
日本の新聞がこの問題を無視する理由はわかります。日本人の低所得層はほとんど新聞を読まないからです。
低所得層は自民党に献金もしないし、新聞も購読しないので、誰も味方がいないというわけです。
 
低所得層の中心をなすのは、バブル崩壊後の就職氷河期世代、いわゆるロストジェネレーションです。正社員になれないまま、今では「中年フリーター」と呼ばれています。
彼らが貧困なのは自分のせいではありません。しかし、ちょうど社会主義思想が力を失った時代で、彼らの味方をする思想がありませんでした。
そのため彼らは新自由主義思想を頼り、在日特権批判、生活保護受給者批判、自己責任論が横行しました。“弱者がより弱者をたたく”というパターンです。
 
低所得層や単純労働者はみんな入管法改正に反対しているはずですが、その声はまったく聞こえてきません。「弱者が団結して世の中を変える」という発想がなくて、自己責任論ばかり言ってきたので、今さら声を上げられないのでしょう。
 
では、彼らの不満はどこに向かうかというと、外国人労働者への憎悪でしょう。
産経がもうその道筋をつけています。
産経は入管法改正に反対する主な理由に治安悪化を挙げています。
 
実際は外国人犯罪はへっていて、このブログの「日本人を分断する移民政策」という記事でも「来日外国人の検挙件数は2005年が4万7865件とピークで、2015年には1万4267件と三分の一以下にへっています」と書いたことがあります。
 
ところが、産経系列の「FNNプライムニュース」の「来日ベトナム人による事件急増! 技能実習生が犯罪者へ転落する日本」という記事では、2017年のベトナム人の検挙件数が5140件になって中国人の検挙件数の4701件を抜いたということを取り上げて、こう主張しています。
 
外国人が増えると、犯罪も増える。
残念ながら、それは事実だ。
不安払しょくのため、国会では、しっかりとした議論を求めたい。
 
外国人犯罪の総検挙件数は大幅にへっているのに、ベトナム人の検挙件数が中国人の検挙件数よりもふえたということだけをとり上げて、あたかも外国人犯罪がふえたかのように思わせているのです。
 
とはいえ、産経は低所得層の不満を認識して、不満のはけ口をつくっているということもいえます。
朝日、毎日、東京は低所得層への配慮がありません。
こうしたことも世の中の右傾化やヘイトスピーチの増大を生んでいると思えます。

人間は30歳ごろまでに音楽の好みが固まって、新しい音楽を探すのをやめるそうです。また、60%の人は普段聴いている同じ曲を何度も聴いているだけだそうです。フランス発のストリーミング・サービス「ディーザー」がイギリスのリスナー1000人を対象にした調査から明らかになりました。
https://shugix.hatenablog.com/entry/人は30歳で新しい音楽の探求をやめる…音楽的無気力
 
このことは自分自身を振り返っても納得がいきます。好奇心は年をとってもあまり変わりませんが、新しい音楽を聴いてもそれほど感動することはなくなります。ただ、懐かしい音楽を聴くと昔と変わらない感動が甦ってきます。
そして、イベントの感動も音楽の感動と似ているのかもしれません。
 
2025年の万博の開催地が大阪に決まりました。55年ぶりの大阪万博です。
2020年には56年ぶりの東京オリンピックが開催されます。
 
1回の東京オリンピックのとき、私は中学2年生でした。当時の日本人は、これを成功させれば日本は一流国の仲間入りができるのだということで大いに盛り上がりました。それは感動的な体験だったと思います。
大阪万博については、私自身は東京オリンピックの二番煎じだと思いましたが、ほとんどの日本人は盛り上がっていました。
「万博世代」という言葉があって、当時中学生ぐらいだった世代を指す言葉です。中学生のころにああした大きなイベントがあると、とりわけ鮮烈な体験になるようです。
東京オリンピックと大阪万博は、青年期であった戦後日本にとって、とりわけ感動的な成功体験でした。
 
現在の日本は明らかに老年期です。新聞には介護や認知症や安楽死などの記事が目立ち、若い世代は片隅に追いやられています。
そして、社会の中心にいる老人たちがかつての感動を再現しようとして企画したのが、2度目の東京オリンピックと大阪万博です。
これは年寄りにとっての“懐メロ”です。
 
問題は、若い世代が東京オリンピックと大阪万博に感動できるかということです。
今のオリンピックは完全に商業主義のイベントになっています。万博はなんのためにやるのかわからない時代遅れのイベントです。
 
いや、年寄り世代にとっても、思惑通りの“懐メロ”になるとは限りません。東京オリンピックも大阪万博も、成功するかどうかわからない初めてのことに挑戦したから感動があったのです。
2度目の東京オリンピックと大阪万博については、挑戦の要素はまったくありません。もはやルーティンワークの範疇です。
 
東京オリンピックも大阪万博も、企画する側のタテマエとしては、日本を盛り上げようということでしょう。
そのとき、新しいことに挑戦するのではなく、“懐メロ”のほうに行ってしまったわけです。
感動よりも利権が目的なので、それでいいのでしょう。
これが今の日本の限界です。

韓国政府が1121日に慰安婦財団を解散すると発表すると、すかさず安倍首相は「国際約束が守られないのであれば、国と国との関係が成り立たなくなってしまう。韓国には国際社会の一員として責任ある対応を望みたい」と語りました。
安倍首相に限らずマスコミや有識者も同じように韓国を批判しています。
 
しかし、国際約束をいうなら、トランプ政権は合意も協定も条約も破りまくっています。トランプ政権にはなにも言わずに韓国にだけ言う日本の姿は、「強い者にはこびへつらい、弱い者には威丈高になる」という卑劣な人間と同じです。
 
慰安婦財団解散や慰安婦像問題について、日本では韓国は日韓合意を守れという声が圧倒的です。しかし、日韓合意はそれほど価値あるものでしょうか。
 
そもそも日韓合意は文書化されていません。20151228日に岸田文雄外務大臣と尹炳世(ユン・ビョンセ)韓国外交部長官が共同記者会見で語った言葉があるだけです。
岸田外相はそのとき「安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する」と語りましたが、安倍首相の口から語られなかったことがのちのち問題になります。
 
日韓合意について国連からは「元慰安婦らを中心としたアプローチを完全には取っていない」とか、人権侵害行為調査や加害者の刑事責任追及などに「努力がみられない」とかの指摘を受けていましたが、2017年5月には国連拷問禁止委員会から合意を見直すべきとの勧告を受けています。
ですから、日韓合意を金科玉条のようにして韓国を批判する日本は、国際社会からあまり共感を得られないでしょう。
 
日韓合意は、オバマ政権の強い圧力のもとで日韓両政府ともいやいや結ばされたものです。
発表当時は、日韓ともに反対と不満の声が噴き出しました。その声は日韓とも同じくらいの強さでしたから、そういう意味ではちょうど中間地点で折り合った、ひじょうによくできた合意ではありました。
 
ところが、釜山市の日本総領事館前に民間団体により慰安婦像が設置されたことに日本政府が猛抗議したことで合意が崩れ始めます。
日本政府は、慰安婦像について韓国政府が善処するという水面下の約束があるという立場のようですが、民間団体のすることを政府がコントロールできるはずがなく、日本政府の抗議は無理筋であるだけでなく、「日本政府は、韓国政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える」という合意をみずから破っています。
その後、世界各地に慰安婦像が設置されていったのは周知の通りです。
 
 
現在、日本は韓国に日韓合意を守れと主張し、韓国では日韓合意を破棄しろという声が高まっています。
これはどういうことかというと、日韓合意当時よりも日本が韓国に押し込まれているということです。
韓国は調子に乗って、徴用工問題にも戦線を拡大してきました。
 
それに対して日本は、日韓合意を守れ、日韓請求権協定を守れと主張しています。つまり法を盾にしているのです。
対して韓国は、元慰安婦、元徴用工の人権、人道を掲げて攻めています。
この戦いはまったく勝ち目がありません。
 
日本はよく「韓国はゴールポストを動かす」と言って韓国を批判しますが、こういう主張も信用されません。間違った位置にゴールポストがあれば、動かすのは当然だからです。
 
日本の保守派は東京裁判について「日本が事後法で裁かれたのは不当だ」と主張しますが、第二次世界大戦の枢軸側はホロコーストなどの事前に想定しえない大罪を犯したということで、事後法で裁くしかないというのが戦勝国側の主張です。そのために「人道に対する罪」という概念もつくられました。「事後法で裁かれたのは不当だ」という主張は国際社会ではまったく相手にされません。「ゴールポストを動かすのは不当だ」という主張も同じです。

現在、慰安婦は「性奴隷」ということが定着し、徴用工はforced labor」つまり「強制労働者」と訳されています。こういうことを議論すればするほど日本のイメージが悪くなります。
これは軍国日本のやったこととして、現在の日本と切り離すしかありません。
ところが、安倍首相はむしろ軍国日本がほんとうの日本だという考えの持ち主なので(日本の保守派はみなそうです)、それができません。
しかも安倍首相は自分の口で謝罪するのがいやなので岸田外相の口で言わせるという姑息な手を使ったので、韓国からは「安倍首相が謝れ」と攻め込まれています。
 
この問題の解決は、ポスト安倍を待たなければなりません。

移民問題について論じるときに、「われわれは労働力を呼んだが、やってきたのは人間だった」という言葉がよく引用されます。スイスの作家マックス・フリッシュの言葉だそうです。
この言葉は問題の本質を的確についています。
「われわれ」は、労働力を人間と思っていなかったのです。
「人間でない労働力」があるのかと突っ込みたくなりますが、考えてみると「人間でない労働力」がありました。
それは「奴隷」です。
 
ヨーロッパの歴史を見ると、奴隷に大きな存在感があります。
古代ギリシャや古代ローマでは人口の半分以上が奴隷だったといわれ、奴隷が労働の主な担い手でした。マルクスが原始共産制、奴隷制、封建制と生産様式で時代区分したのもわかります。
ヨーロッパ人は殖民地にも奴隷制を持ち込み、アメリカ合衆国はもちろん、西インド諸島、ブラジル、アルゼンチンなどに黒人奴隷を連れていき、南アフリカなどでも黒人奴隷を使っていました。
フランス革命以降、フランスやイギリスで奴隷制が廃止され、アメリカ合衆国の廃止は最後でした。
 
奴隷制は世界に広く存在しましたが、ウィキペディアの「中国の奴隷制」によると、「殷代には少なくとも中国で奴隷制が確立し、この時点で人口の5%が奴隷であったと推定される」とあり、数が全然違います。
「魏志倭人伝」には倭国が「生口」(奴隷)を魏王に献上したという記述があり、王に献上するぐらいですから、“貴重品”だったのでしょう。
 
奴隷というのは基本的に、戦争に勝った側が負けた側を奴隷にするものです。古代ギリシャ・ローマは周辺民族とつねに戦争をしていましたから、奴隷が多くなったのでしょう。
 
考えようによっては、江戸時代の農民などで、領地からの移動が制限され、過酷な年貢を取り立てられていれば、実質的には奴隷と変わりません。しかし、領主と領民はどちらも同じ人間という認識だったでしょう。インドのカースト制なども同じです。
古代ギリシャ・ローマでは、奴隷は外部から連れてきた異人種や異民族なので、同じ人間という認識がなかったと思われます。
 
「外部から労働力を連れてくる」というのはヨーロッパ人の伝統的な発想なのです。
 
現在、ヨーロッパでは極右などの移民排斥を主張する声が高まって、それに対して差別的だという批判も高まっています。
しかし、移民政策を推進してきた人たちの「外部から労働力を連れてくる」という発想自体が奴隷制時代を引きずった差別的な発想だったのです。
移民推進派も移民排斥派も同じ穴のムジナです。
 
 
日本は島国で、戦争相手も異人種や異民族ではないので、「外部から労働力を連れてくる」という発想がありません。
ですから、日本は移民政策をとってきませんでした。
結果的にそれがよかったのではないでしょうか(あくまで移民のことで、難民に極度に門戸を閉ざしてきたのはよくありません)

なお、ヨーロッパで移民政策が推し進められていたころ、日本では産業用ロボットの開発と普及が世界に先駆けて進んでいました。日本人にとってはロボットが「人間でない労働力」だったのです。
 
現在、安倍政権は「外部から労働力を連れてくる」というヨーロッパ型の移民政策を実行しようとしています。
これ自体が差別的政策なので、日本に差別や分断による混乱がもたらされるのは明らかです。

八方ふさがりの安倍外交ですが、突破口を見つけたのでしょうか。
安倍首相は1114日、訪問先のシンガポールでロシアのプーチン大統領と会談したあとの記者会見で、 1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させることで合意したと述べました。
「日ソ共同宣言を基礎に」とは二島返還という意味です。日本が二島で納得するなら現実味のある話になります。
 
しかし、二島返還にせよ実現するにはハードルが高そうです。
 
まずロシア側の問題があります。
プーチン大統領はさっそく「日ソ共同宣言には日本に島を引き渡すとは書かれているが、どの国の主権になるかは書かれていない」「歯舞と色丹の二島を日本に引き渡したとしても、必ずしも日本の領土とはならない」などとおかしなことを言っています。
二島を高く日本に売りつけるつもりなのでしょう。
これからの交渉がたいへんです。
 
 
それから、アメリカ側の問題があります。
プーチン大統領は北方領土返還ができない理由として、返還するとそこに米軍基地ができる可能性があるからだと前から述べていました。今回安倍首相は、返還されても米軍基地を置くことはないとプーチン大統領に伝えたということです。
ということは、安倍首相はアメリカと交渉して内諾を得ているのかと思いましたが、その後の報道を見ていると、そういうことではなさそうです。
 
「アメリカが基地をつくりたいと言っても、日本が拒否すればいいだけの話ではないか」と思われるかもしれませんが、属国である日本に拒否権はありません。もしあったら、プーチン大統領もそんなことは言いません。
 
このへんことは次のサイトに詳しく書かれています。
 
なぜ日本はアメリカの「いいなり」なのか?知ってはいけないウラの掟
 
安倍首相はトランプ大統領との個人的なつながりで話をつけられると見たのかもしれません。
しかし、そうするとトランプ大統領は得意のディールで見返りを求めてくるでしょうから、こちらでも高くつきそうです。
 
 
それから、日本国民を二島で納得させるという問題があります。
 
これまで政府は「北方領土は国後、択捉、歯舞、色丹」と繰り返し、「北方四島」という言い方もしてきました。
安倍首相も「日ソ共同宣言を基礎に」と言いながら「二島」とは明言していません。ここにごまかしがあります。
「二島先行返還」という言葉もあります。これだと「先行」のあとがあるのかと思わされますが、これもごまかしです。
鈴木宗男氏は「二島+α」という言い方をしますが、これも同じです。
四島を二島と二島に分けて返還するなどはありえません。二島返還は二島だけで終わるに決まっています。
 
そもそも日ソ共同宣言では「歯舞、色丹」の二島だったのに、なぜ政府は「北方領土は国後、択捉、歯舞、色丹」というようになったのかというと、これには「ダレスの恫喝」があったからだとされています。
アメリカは日本がソ連と平和条約を締結するのを阻止したかったのです。
日本は恫喝に屈して、平和条約締結を六十年余りも棚上げにしてきました。
棚上げにする理由が領土問題です。
 
サンフランシスコ講和条約で日本は千島列島を放棄しました。このことを否定する人はいません。
グーグルマップで見るとわかりますが、千島列島はひとつの列になっていて、「国後、択捉」はその列の中にあり、南千島と呼ばれてきました。
「歯舞、色丹」は根室岬の先にあって、別の列をなしています。
ですから、「歯舞、色丹」は千島列島ではないという主張はそれなりに妥当と思われます。
しかし、「国後、択捉」が千島列島ではないという主張は、どう考えてもむりがあります。
 
ところが、日本政府は「国後、択捉」は千島列島には含まれない「固有の領土」であるとして、四島返還を主張してきたのです。
これは詭弁である上に日ソ共同宣言にも反するので、日ソ関係がうまくいかなくなるのは当然です。
 
しかし、冷戦も終わり、安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を目指しているのですから、四島返還などという不当な要求を取り下げるのは当然です。
ただ、その場合、安倍首相は「これまで日本政府が国後、択捉は千島列島に含まれないと主張してきたのは間違いでした」と言って、国民に謝罪しないといけません。
そうすると国民も二島返還で納得するはずです。
 
ところが、今のところ安倍首相は「二島先行返還」といった言葉を使ってごまかすつもりのようです。
嘘に嘘を重ねる「戦後レジーム」はまだまだ続きそうです。
 

倫理の基本は「人にされていやなことを人にしてはいけない」あるいは「人にしてもらいたいことを人にしなさい」ということだと言われます。
自分だけ特別はいけない、自分も他人も同じルールに従わなければいけないということです。
 
トランプ大統領の言う「アメリカファースト」は自分だけ特別ということです。
一国でもこんな国があったら、国際社会の秩序が成り立ちません。
ところが、アメリカファーストを批判する声がほとんど上がりませんでした。
 
ただ、フランスのマクロン大統領は違います。
第1次世界大戦終結から100年となった1111日、トランプ大統領、プーチン大統領、メルケル首相ら各国首脳が出席する記念式典がパリで開かれ、マクロン大統領は演説で、「ナショナリズムは愛国心に対する裏切りです。自分たちの利益が第一であり、他の国はどうでもいいと言うことは国家が大切にしているもの、国家に命を与えるもの、国家を偉大にするもの、国家にとって本質的なもの、つまり国家の倫理的価値観を消し去ることになります」と語りました。
 
名指しこそしていませんが、「私はナショナリストだ」と公言するトランプ大統領のことを言っているのは明らかです。
 
フランス人は自国の文化、とりわけ哲学に誇りを持っているので、アメリカを批判できる強さがあります。イラク戦争のときもシラク大統領は最後まで戦争に反対したため、アメリカは国連決議なしで開戦しなければなりませんでした。
 
自国第一がだめなのは子どもでもわかる理屈ですが、これをはっきり言えるのはフランスぐらいです。
世界のほとんどの国は、アメリカの力を恐れてアメリカやトランプ大統領に対する批判を控えています。
しかし、アメリカは共通のルールに従うのを嫌って、二国間協議によってルールをつくろうとしています。二国間協議になると、どの国もアメリカの力に押されて、不利なルールを飲まされてしまいます。
 
では、どうすればいいかというと、各国が団結してアメリカに対抗するしかありません。
これも子どもでもわかる理屈です。
 
アメリカ国内では、トランプ派対反トランプ派が激しく争い、トランプ大統領の弾劾の可能性も言われています。
各国が反トランプの動きをすれば、アメリカ国内の反トランプ派と呼応してトランプ大統領を追い詰めることができます。
 
各国が団結するには、呼びかけ人というかリーダーになる国が必要です。
考えられるのはフランスやドイツでしょうか。
イギリスはアメリカに近すぎます。
中国はアメリカと同じ覇権主義の国なので、ふさわしくありません。
インドは冷戦時代は第三世界のリーダーでしたが、最近そういう役割はしていません。
本来なら日本はいいポジションにいるのですが、まったくありえないことです。
 
ともかく、なにもしなければ二国間協議で各個撃破されるだけです。
各国は団結して対抗するしかありません。
 
「万国の国家よ、団結せよ」です。

「華氏119(マイケル・ムーア監督)を観ました。
トランプ大統領を描いた映画というよりも「トランプ時代のアメリカ」を描いた映画です。
日本のマスコミだけではわからないアメリカの姿が見えてきます。
 
たとえばミシガン州フリント市の水道水が鉛汚染され、子どもたちに重大な健康被害が及んでいるという問題。これは行政によって隠蔽され、まるで日本の水俣病みたいです。ここは黒人の多い貧困地域のため、放置されてきました。オバマ政権でも解決しなかったのです。
 
また、2016年の民主党予備選ではヒラリー・クリントン候補とバニー・サンダース候補が最後までデッド・ヒートを演じましたが、サンダース候補は民主党の不正により代議員票が獲得できず、敗北します。これによりサンダース候補支持者たちの多くは大統領選で棄権しました。
 
トランプ勝利には民主党側にも問題があったということです。
 
トランプ大統領への批判にはそれほど時間を割いていません。おらそくムーア監督が今さらする必要もないぐらいに批判されているからでしょう。
ただ、トランプ氏が娘のイバンカにキスしたり体に触ったり、性的な関心を示す目で見つめたりという近親相姦的シーンを集めたところは、いかにもムーア監督らしいところです。一般のメディアにはできないでしょう。
実の娘に性的関心を示すとは、もっとも忌み嫌われる行為ですが、トランプ氏の場合はほとんどマイナスになっていません。むしろ支持者は、美人の妻と娘に恵まれてうらやましいといった反応を示しているのではないでしょうか。
ただ、こうしたトランプ氏の人間像にはあまり切り込んでいきません。
 
ムーア監督が力を入れたのは、アメリカにとっての希望の方向を示すことです。
 
たとえば、ウエストバージニア州の教員はきわめて低い給与水準にあったということで、大規模な教員ストライキが起こりました。ストライキはSNSなどを通して拡大し、最後には勝利しました。
高校での銃乱射事件をきっかけに、高校生が先頭に立って銃規制を求める運動を展開するようになりました。
また、中間選挙では女性やマイノリティの候補が多く立って、支持を集めました。
 
これらを見ていると、アメリカの分断の構図が見えてきます。
アメリカ独立宣言では基本的人権がうたわれましたが、先住民にも黒人にも人権はなく、また選挙権は成人男性だけでしたから、女性と子どもにも人権はなかったことになります。
つまり建国のときから白人成年男性VS女性・子ども・黒人・先住民という分断があったのです。
トランプの支持者は白人男性が中心です。
今も白人成年男性VS女性・子ども・マイノリティという分断の構図が続いていることになります。
 
また、教員ストライキやサンダース旋風のもとにあるのは「社会主義」です。
最近アメリカでは若い世代を中心に社会主義の人気が高まっているということです。昔は「アメリカ=反共」と決まったものでしたが、そういう図式は成り立たなくなっています。
アメリカは冷戦に勝利し、世界に対立の構図はなくなりましたが、アメリカ国内に資本主義対社会主義という対立の構図が移し替えられたわけです。
 
日本のマスコミは、トランプ支持層であるラストベルトの白人ばかりを取り上げます。
しかし、彼らは現状への不満を移民やマイノリティにぶつけ、保護貿易に守ってもらおうとしています。今後、衰退していく一方でしょう。
トランプ政権はつねに支持率よりも不支持率のほうが上回っています。反トランプ派の動向のほうが重要です。

この映画には、いつものムーア監督の痛快な切れ味はないので、おもしろさを期待すると今一歩かもしれません。
しかし、アメリカの現在の姿がわかるという点で、やはり一見の価値があります。

アメリカ中間選挙は、予想通り下院は民主党、上院は共和党の過半数となりました。
トランプ大統領は「今夜は素晴らしい成功だ。みんな、ありがとう」とツイートし、結果に満足しているようです。
トランプ大統領について改めて考えてみました。
 
トランプ大統領のやることはめちゃくちゃですが、唯一いいところがあるとすれば、アメリカが力で世界を支配しているという現実を見せてくれたことです。
 
トランプ大統領がアメリカファーストを掲げて登場したとき、各国の指導者で「その考え方は間違っている」とか「じゃあ、私も自国ファーストでいく」と言った人はほとんどいません(私の記憶ではフィリピンのドゥテルテ大統領がフィリピンファーストを言いました)
もちろん安倍首相も言いません。もし安倍首相が「ドナルド、君がアメリカファーストなら、私はジャパンファーストでいくよ」と言ったらどうなるでしょうか。
おそらくトランプ大統領は、「やれるものならやってみろ」と言うでしょう。
トランプ大統領がアメリカファーストと言えるのは、アメリカが強大な力を持っているからです。日本が言えるわけありません。
 
もともとアメリカは力で世界を支配してきました。
いや、力というより暴力といったほうがぴったりします。
ただ、表面的には「自由と民主主義」を掲げていました。トランプ大統領はそういう看板を投げ捨てただけです。
 
アメリカは先住民を虐殺して土地を奪い、アフリカから連れてきた黒人を奴隷として使い、イギリス軍と戦って独立しました。暴力で成立した国です。
現在、銃規制に強固な反対があるのも、銃が国家成立とつながっているからです。
 
アメリカは国際法や国連などを、つごうのよいときだけ利用し、つごうの悪いときは平気で無視し、二次大戦後も数限りない戦争をしてきました。
 
こういうアメリカの姿は、妻子に暴力をふるうDV男にたとえるとよくわかるでしょう。
 
トランプ大統領はアメリカの暴力的な面を体現した人間です。
彼は世界に対してDV男としてふるまうだけでなく、国内においてもDV男のようにふるまっています。
ですから、今回の中間選挙でも女性と若者の多くは反トランプに動きました。
トランプ派も反トランプ派もきわめて感情的になるのは、心理にDV問題が投映されているからです。
 
 
今回の選挙結果を受けて、西村康稔官房副長官は11月7日の記者会見で、「日米同盟は揺るぎなく、引き続きさまざまな分野で米国との連携を進めていきたい」と語りました。
まるで壊れたレコードです。
気まぐれなトランプ大統領と揺るぎない関係を築けるわけがありません。
 
戦後の日本はずっとDV男に依存する女性みたいなものでした。
そうした女性は依存しているという自覚がありません。
しかし、トランプ大統領をよく観察すれば、その本質がDV男だとわかります。
日本はアメリカ依存から脱却するチャンスを迎えています。安倍政権には期待できませんが。

安倍政権の外国人労働者受け入れ拡大の方針が問題になっていますが、すでに日本は移民大国になっていると言われます。
厚生労働省の集計によると、201710月時点で約128万人の外国人が日本で働いていて、この10年で倍増しています。在留外国人という枠では約247万人いて、これは名古屋市民の数とほぼ同じです。また、年間増加数では世界第4位です。
 
私は東京に住んでいますが、確かにコンビニや外食チェーンには外国人がいっぱい働いています。また、明らかに観光客ではなく住んでいると思われる外国人も街でいっぱい見かけます。
しかし、外国人がふえたことによるトラブルというのはあまり聞きません。というか、マスコミはあまり報道しません。
二、三十年前、中国人留学生が急増したころ、アパートでの話し声がうるさいとか、ゴミ出しの規則を守らないとかのトラブルをよく聞きました。
案外日本人はうまく移民を受け入れているのでしょうか。
 
警察庁のホームページで犯罪の統計を調べてみると、来日外国人の検挙件数は2005年が4万7865件とピークで、2015年には1万4267件と三分の一以下にへっています。
 
外国人の総数はふえていることを考えると、たいへんなへりようです(犯罪がへっているというデータは警察もマスコミも隠そうとするので、知らない人が多いでしょう)
 
へっている理由はよくわかりません。“よい外国人”を選んで入国させているとも思えません。
 
外国で移民が問題視されるのは、移民の犯罪が多くて、治安が悪化するというのが主な理由です。
移民の犯罪が多くなる理由はわかります。ヨーロッパでは人種差別がひどくて、イスラム教への敵意も強いからです。
フランスではパリ郊外に移民街ができて、犯罪と失業とイスラム色が満ちていて、一般のフランス人の嫌悪や敵意の対象になっていますが、移民街ができるのは、フランス人が移民を差別しているからです。
 
日本にも外国人の多い街というのがあります。埼玉県川口市にある芝園団地という巨大団地は、住民の高齢化に伴い中国人などがふえ、今では約五千人の住民の半数余りが外国人です。
朝日新聞の記事によると、中国人住民と日本人住民は交流が少なく、“静かな分断”という状況でしたが、だんだんと交流もふえているということです。
 
半数が外国人住民の巨大団地で 共存と「静かな分断」
 
日本人はアジア人に差別意識を持っていますが、白人の非白人にたいする差別意識と比べると、うんとましです。
 
これから移民をふやしても、日本人は移民との共存をうまくやってのけ、 “移民受け入れ国の優等生”になるかもしれません。
 
 
といって、移民をふやすのがいいとは思えません。
 
外国人労働者をふやす理由として、人手不足の深刻化が言われますが、人手不足が深刻なら給料を上げればいいのです。上げられないなら、その事業は世の中にたいして必要とされていないということですから、つぶれてもしかたありません。
安い労働力を入れるのは、事業主をもうけさせるためです。
その結果、日本人労働者の給料は低いままになります。
 
移民政策は、日本人と移民の分断が心配されますが、日本人同士の分断のほうを心配するべきです。

韓国の最高裁が元徴用工問題で日本企業に賠償を命じる判決を下し、日韓ともに大騒ぎになっています。
これはやっかいな問題ですが、日米韓は軍事的に一体なので、外交関係がどんなに悪化しても日本と韓国は戦争になりませんし、日本政府も韓国政府も経済関係を悪化させる気はないはずです。
安倍首相はこの判決に対して「日本政府として毅然と対応していく」と語り、河野外相も「毅然とした対応を講ずる考えです」という談話を発表しましたが、こうした強気の発言ができるのも、日韓関係の土台が強固だからこそです。
 
危ういのは日本と中国の関係です。
安倍首相は1026日に訪中し、習近平主席と会談しましたが、会談冒頭の場面で習近平主席はまったく笑顔を見せませんでした。一方、安倍首相はわずかながらも愛想笑いを見せていました。
  


 
 このときの表情などについては次の記事が解説しています。
 
安倍首相はよく耐えた!
 
習近平主席は安倍首相を自国に迎えていながら笑顔を見せないとは失礼千万ですが、日本ではそういう声はほとんどありません。マスコミはむしろ中国は安倍首相を歓迎したという報道をしています。
 
安倍首相はプーチン大統領から領土問題抜きに平和条約を締結しようと提案されたときも愛想笑いを浮かべましたが、このときも日本ではプーチン大統領はけしからんという声はまったく上がりません。
 
今や日本人は、安倍首相が習近平主席やプーチン大統領からどういう扱いを受けてもしかたがないと思っているようです。
トランプ大統領については言うまでもありません。
 
日本人はまったく自信を失っていて、安倍首相がトランプ大統領やプーチン大統領と信頼関係があるとか、中国から歓迎されたとかいう報道があるだけで満足するようです。
 
自信のない日本人が唯一「毅然と対応する」という言葉を使えるのが韓国を相手にしたときです。
そういう意味で、韓国の徴用工判決が出たことで日本人はけっこう高揚した気分を味わっているのかもしれません。
 
 
もちろん日本はアメリカ、中国、ロシアにも「毅然と対応する」ということができなければなりません。
どうすればできるようになるかというと、徴用工判決にヒントがあります。
 
韓国は1965年の日韓請求権協定において徴用工問題などの請求権を放棄しています。しかし、盧武鉉大統領は2005年の演説で「請求権問題は協定で消滅しているが、人類普遍の倫理から日本には賠償責任がある」と述べ、こうしたことが今回の判決につながっているようです。
 
徴用工問題や慰安婦問題を日韓の二国間の問題ととらえるのではなく、「人類普遍の倫理」の問題ととらえるのは意味のあることです。
欧米はいまだに植民地主義に対する謝罪も賠償もしていません。しかし、日本は賠償をして、村山談話において「植民地支配と侵略」について「反省」と「お詫び」を述べています。
「人類普遍の倫理」においては日本のほうが欧米よりも上にあるのです。
 
ところが、安倍政権はその優位をぶち壊しにしました。
その結果、日本人は自信を失い、卑屈になっています。
 
徴用工問題を金勘定だけで見るのではなく、世界史的視野で植民地主義の問題ととらえ、欧米も巻き込んでいくと、日本人は世界をリードすることができますし、当然自信にもつながるはずです。

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