村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

2023年02月

23571920_m
(タイの昆虫スナックの屋台)

このところコオロギ食が話題です。
もともと栄養価が高く環境への負荷も少ないことから国連食糧農業機関(FAO)も推奨していましたが、河野太郎デジタル大臣がコオロギを食べるパフォーマンスの映像が拡散したことで急に注目されました。

無印良品が徳島大学と連携して「コオロギチョコ」や「コオロギせんべい」を開発して販売しています。
無印良品の「コオロギが地球を救う」というサイトには、「香ばしいエビのような味がする」「野生のコオロギでなく衛生的な環境で飼育したコオロギを使っている」などと説明されています。

世界では昆虫食はそれほど珍しいものではありませんし、日本でもイナゴやハチの子が食べられていました。
とはいえ、「コオロギを食べるなんて気持ち悪い」と思う人も多いでしょう。
「自分は食べたくない」と思うのは自由です。

しかし、「コオロギ食に反対」という人がかなりいます。
コオロギ食反対は、コオロギを食べたいという人の権利を侵害しています。いったいどういう理屈でしょうか。

ツイッター上でコオロギ食反対を主張する人は、ネトウヨとかなりの程度重なり合っています。
つまりほとんどのネトウヨはコオロギ食反対です。
典型的なのは、ネトウヨジャーナリストの有本香氏が「コオロギ食べない連合」を立ち上げたことです。この話題はツイッターでトレンド入りしました。

なぜネトウヨはコオロギ食に反対するのでしょうか。
一応もっともらしい理由は挙げられています。
たとえば「たんぱく源確保なら昆虫食より日本の畜産業再生が先だ」というものです。
しかし、昆虫食を推進することで畜産業再生が遅れるわけではなく、昆虫食に反対する理由にはなりません。
「昆虫食よりフードロス解決が先だ」というのもありますが、やはり昆虫食推進とフードロス解決を同時進行させればいいだけのことです。それに、廃棄食品を飼料にしてコオロギを育てることができるので、コオロギ食はフードロス解決に貢献するという説があります。


コオロギ食に反対するまともな理由はありません。
実は陰謀論による反対がほとんどです。
反コロナワクチンの陰謀論の代表的なものは、「この世界を陰で支配しているディープステートは人口削減のために有害なワクチンを打たせている」というものですが、それと同じ陰謀論が昆虫食にもあります。
「昆虫食には発がん性、病原菌、寄生虫、アレルゲンがあり、人口削減の陰謀が行われている」というものです。

希望の党から選挙に出たことがあり、さまざまな問題発言を連発している橋本琴絵氏は『聖書にはイナゴ以外の虫は食べては駄目だと書いてあったのですが、2017年から聖書の記載内容が変更されて「イナゴとコオロギ以外は食べてはならない」に書き換えられたので闇が深い。これ冗談ではないですよ』とツイートし、これが拡散しました。
聖書の書き換えができるとなると、そうとう力のある闇組織ということになり、典型的な陰謀論ですが、もちろんそんなことはありません(こちらにファクトチェックあり)。

「支配層は日本人に昆虫を食わせて、自分たちは高級な牛肉を食べ、高級なワインを飲んでいる」とか、さらには「世界の支配層は爬虫類人間で、虫を食糧にするのは爬虫類の発想だ」などというものまであります。

アメリカでも日本でも、右翼や保守派は陰謀論にはまる傾向があります。
とはいえ、右翼や保守派が昆虫食に反対しなければならない理由はないはずです。なぜ反対するのでしょうか。

こう考えたとき、あることを思い出しました。
それは、「グロ画像を見た時の脳の反応で政治的傾向が右なのか左なのかがわかる?(米研究)」という記事です。
私はこの記事にはひじょうに重要なことが書かれていると思い、全文を引用して「右翼思考の謎が解けた!」という記事を書きました。

リンク先を読むのがめんどうな人もいるでしょうから、研究内容を簡単に紹介しておきます。

米バージニア工科大学の研究チームは、83人の男性と女性を対象に、不快な画像、心地よい画像、そのどちらでもないニュートラルな画像を取り混ぜて見せて、MRI脳スキャンを行いました。心地よい画像というのは赤ちゃんや美しい風景などで、不快な画像というのはいわゆるグロ画像のことで、ウジ虫やバラバラ死体、キッチンの流しのヌメっとした汚れやツブツブが密集したものなどです。
次に「銃規制」「同性結婚」「移民問題」などを含む政治理念に関するアンケートに答えてもらうと、右寄り(保守)と左寄り(革新)では、嫌悪の認知、感情の制御、注意力、そして記憶力に関する脳活動が大きく異なっていました。
総じて右寄りの人の脳の方がグロ画像に対して強く反応し、特に保守的な傾向にある人は嫌な画像に強い拒絶反応を示しました。右寄りの人と左寄りの人の脳スキャンは、あまりにも違っていたため、基本的にわずか1枚のグロ画像に対する脳の反応を見るだけで、95%の確率でその人の政治的傾向を当てることができたそうです。

例に挙がっているグロ画像は、要するに生理的な不快感を催すものです。生理的不快感というのは誰でも同じようなものと思えますが、実は個人差が大きかったというわけです。

この研究は「グロ画像」を対象にしたものですが、おそらくは「グロい現実」についても同じことがいえるでしょう。つまり右寄りの人は「グロい現実」に強い不快感を覚えるので、拒否し、抹殺しようとするのです。
こう考えれば、右翼、保守派、ネトウヨの思考法がわかります。

たとえばマンガ「はだしのゲン」について、左翼はこのマンガを強く支持し、右翼は強く拒否します。もちろん内容が左翼的だということもありますが、絵と内容のグロさが決定的要因ではないでしょうか。
アウシュビッツなど強制収容所の悲惨さによく言及するのも左翼です。
カンボジアのポル・ポト政権の大量虐殺はきわめて悲惨で、骸骨の山などの写真もあるので、右翼は反共プロパガンダにこれらの写真を利用すればいいはずですが、ほとんど行われていません。自分もグロい写真は見たくないからでしょう。

右翼、保守派がグロいものに拒否反応を示すとすれば、コオロギ食に拒否反応を示すのも当然です。
その拒否反応がきわめて強いので、自分が拒否しているだけではすまず、世の中からコオロギ食を抹殺したくなるものと思われます。

コロナワクチンについても、注射針が体に刺さるのは不快ですし、薬液が体内で抗体を生成するのを想像するのも不快です。かといって、ワクチンを拒否する合理的、科学的な理由がありません。そこで不合理な陰謀論に飛びつくというわけです。

反コオロギ食の人や反ワクチンの人が陰謀論にはまるのは、そういうことで説明できます。


さらにいうと、同性愛傾向のまったくない人は、同性同士がセックスする場面を想像すると不快になるでしょう。
しかし、自分が不快だからといって人の幸せをじゃまするわけにいきません。普通の人はそう考えて、同性婚に賛成します。
ところが、不快感がきわめて強い人は、同性婚が公認されて、身近に同性婚カップルが存在すると思うだけで自分の幸せが脅かされると感じます。
右翼、保守派が同性婚に反対するのはそういう理由があるからでしょう。


グロい現実に強い不快を感じるという性質は、おそらく生まれつきのものでしょう。
そういう性質の人は多様性を嫌います。多様性にはグロいものも含まれるからです。そうしておのずと外国人排斥思想やLGBTQ排斥思想を身につけて、右翼になっていくのかと思われます。

右翼、保守派、ネトウヨは心のキャパシティの小さい人だと思えば、その思考や行動の原理が見えてきます。
心の狭さは生まれ持った性質なので、批判しても直りません。心のケアをして社会に取り込んでいくというインクルーシブ社会を目指すのが正しい方向です。
しかし、自分を正当化して、陰謀論を信じたり非科学的、非合理的な主張をしたりするのは認知のゆがみですから、そこは批判していかなければなりません。

globe-3984876_1920

人間は誰でも自分中心にものごとを考え、自国中心に国際情勢を考えます。
自分中心の考えは周りから利己的だとして戒められますが、自国中心の考えは周りから愛国的だとして称賛されます。
こうして普通に市民生活をしている人がどんどん戦争に突き進んでいきます。


北朝鮮は2月18日夕方、ICBM級と見られる弾道ミサイルを発射し、北海道渡島大島の西方およそ200キロの日本のEEZ(排他的経済水域)内の日本海に落下しました。
マスコミは大きく取り上げ、岸田首相は「今回の発射は、国際社会全体に対する挑発をエスカレートさせる暴挙だ」と語り、浜田防衛相は「飛翔軌道に基づいて計算すると、弾頭重量等によっては1万4000キロを超える射程になり、米国全土が射程に含まれる」と語りました。また、日本のEEZ内に落下させたのは挑発だという声もありました。

その少し前の2月9日、アメリカは核弾頭の搭載が可能なICBM「ミニットマン3」の発射実験を行いました。カリフォルニア州で発射され、太平洋のマーシャル諸島クェゼリン環礁までおよそ6760キロを飛行したということです。アメリカ空軍は「定期的な実験であり、現在の世界情勢に起因するものではない」と発表しました。
日本政府はなにも反応せず、日本のマスコミも冷静な扱いでした。そのため、このニュースに気づかなかった人も多いかもしれません。

同じICBMでも、北朝鮮が発射したのとアメリカが発射したのとでは、日本の反応がまったく違います。
「日本はアメリカの同盟国だから当然だ」と思うかもしれませんが、偏った見方をしているのは事実です。
「よいICBM」も「悪いICBM」もありません。


北朝鮮の保有する核弾頭は20個から30個程度と見られ、ICBMの性能もアメリカ西海岸に届く程度でした。今回の発射実験でアメリカ全土が射程に入ったかもしれないというところです。
アメリカの保有する核弾頭は5000個以上で、ICBMの数は450基から500基程度ですが、ほかに長距離爆撃機と潜水艦発射ミサイルでも核攻撃ができます。
北朝鮮とアメリカの核戦力を比較したら、アメリカが北朝鮮の数百倍です。

日本のマスコミは「北朝鮮の脅威」をいいますが、北朝鮮にすれば圧倒的な「アメリカの脅威」を感じているわけです。


「中国の軍拡の脅威」もいわれますが、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の2022年版によると、『中国は軍事力を急速に強化しているイメージがあるものの、軍事費はGDP比1.7-1.8%前後で安定的に推移しており、公表値ベースでは「経済成長並みの増加」を継続していると言える』ということです。
スクリーンショット 2023-02-19 025943


つまり中国は経済成長に合わせて軍拡しているだけです。
一方、日本はほとんど経済成長しない国なのに、防衛費をGDP比1%から2%にすることにしました。
軍拡のために経済成長を犠牲にせざるをえず、自滅的な戦略です。

そもそもアメリカの軍事費は中国の軍事費の3倍ぐらいあり、しかもアメリカ軍はハイテク化していますが、中国軍は人件費の割合が多いので、数字以上の実力差があります。
いや、アメリカ一国の軍事費を取り出すのもおかしなものです。アメリカにはNATOや日本や韓国などの同盟国があるからです。

SIPRIは世界の国を「自由主義国」「部分的自由主義国」「非自由主義国(専制主義国)」の三つに分類して、それぞれの軍事費の割合を算出しています。「自由主義国」はほぼアメリカとその同盟国と見て間違いありません。
それによると「自由主義国」の軍事費は世界の軍事費の66.4%を占めています。
それに対して中国は14.1%、ロシアは3.2%です。

スクリーンショット 2023-02-20 010732

つまりアメリカ陣営は圧倒的な軍事力を持っていて、中国、ロシアは束になってもかないません。

アメリカはアジアでは韓国、日本、フィリピンに基地を持って、中国を圧迫しており、ヨーロッパではドイツ、イタリア、スペイン、ベルギーなどに基地を持ち、さらにかつてのワルシャワ条約機構の国をNATOに引き込んで、ロシアを圧迫しています。

アメリカは「安全保障」という言葉を使いますが、アメリカの国土の安全が脅かされる心配はないので、不適切な言葉づかいです。中国の空母がアメリカ西海岸沖を航行するようになったら、その言葉を使ってもいいかもしれませんが。
「安全保障」を真剣に考えなければならないのはロシア、中国のほうです。北朝鮮などは「安全保障」のことで頭がいっぱいです。
日本はもっぱらアメリカ陣営の側から世界を見ているので、全体像が見えていません。

以上のことは、誰もが知るべき基本的な情報ですが、日本では「中国の軍拡の脅威」や「北朝鮮のミサイルの脅威」ばかりがいわれます。アメリカ陣営の側に立って世界を見ているからです。安全保障の専門家もみずからの利益のために危機感をあおるので、こうした戦力比較という基本的な情報がおろそかになっています。


このところ「台湾有事」ということがよくいわれます。
もし中国軍が台湾に侵攻して台湾有事が起こり、アメリカが介入すれば、米軍は日本の基地から出撃するので、日本が中国から攻撃される可能性があります。そのとき日本政府は「存立危機事態」と認定して、自衛隊を出動させ、中国軍を攻撃します。その際必要になる攻撃能力を今準備しているところです。
日本には台湾を守る義務もなければ、米軍を守る義務もないので、中国軍の攻撃で米軍基地周辺の市街地に被害が出ても、断固として傍観するという選択肢もあります。「台湾のために自衛隊員を死なせるわけにいかない」というのは立派な理由です。
しかし、日本政府はアメリカ従属一筋なので、参戦しないということはまったく考えられません。

バイデン政権は2022年10月に「国家安全保障戦略」を発表し、中国を「国際秩序を変える意思と能力を兼ね備えた唯一の競合国」と認定し、中国と対抗するために「同盟国や友好国との連携を一段と深める」としました。
アメリカが中国と戦うとき、自衛隊の戦力も利用しようとするのは当然です。
自衛隊が米軍と共同行動をするには、専守防衛を捨てて敵基地攻撃能力を持たなければなりません。
岸田首相はアメリカの戦略に忠実に従っています。

自民党の細野豪志元環境相は1月2日に「中国や北朝鮮の脅威増大で亀のような国では国民を守れない。これは日本の外部要因だ。ヤマアラシのように外敵が攻撃を躊躇する国になることで国民を守る以外にない」とツイートしましたが、各国の軍事力についての基本知識もなく、アメリカにあやつられているだけの政治家だということがよくわかります。


自国中心の発想を抜け出て、すべての国に対して中立の立場から世界を見れば、正しい世界が見えてきます。
ところが、人間は最初から国を色分けして見ています。
たとえば北朝鮮は「極悪非道な独裁国」と多くの人は見ています。
ウクライナ侵攻をしたロシアも「悪いプーチンの国」です。
アメリカは日本を守ってくれる「よい国」ないし「正義の国」です。
バイデン大統領は世界を「民主主義国対権威主義国」と色分けしました。日本は民主主義国で、中国は一党独裁、習近平独裁の国なので、相容れません。
あるいは、多くの日本人は欧米を崇拝し、アジアを見下すという傾向がありますし、イスラム教の国はつきあいにくいと思っています。

今挙げたことはすべて事実ではなく価値観の問題です。
民主主義国と独裁国は事実ですが、「民主主義国はよい、独裁国は悪い」というのは価値観です。
「やつらは悪い国だ。我々は悪と戦う正義の国だ」と思うと戦争になってしまうので、こうした価値観はすべて頭の中から消去しなければなりません。

すべての価値観を頭の中から消去することはそんなにむずかしくありません。
「すべての思想を解体する究極の思想」に入口があります。

people-2944065_1920

回転寿司のスシローで少年が食べ物や湯飲みなどに唾をつける動画に批判が集中すると、似たような動画が次々と“発掘”されました。
はま寿司や吉野家では、共用のガリを客が自分の箸で食べる動画が、「いきなり!ステーキ」ではソースの容器を直接口にくわえて吸う動画が、東京のもんじゃ店「おかめひょっとこ」では、口に含んだ水を鉄板の上に吐き出すという動画がそれぞれ拡散しました。

私は前回の「“客テロ”騒動を分析する」という記事で、迷惑行為をする客よりも、その動画を拡散させて批判する人間のほうがもっと悪いということを書きました。
迷惑行為自体の影響はごく小さいものですが、動画が拡散することで飲食店は大損害をこうむっているので、どちらが悪いかは明白でしょう。
迷惑行為をしているのはただの一般人です。政治家や大企業を非難するなら世の中がよくなるかもしれませんが、ほんの数人の一般人を非難しても世の中はよくなりません。

プロレスラーの木村花さんがネット上の誹謗中傷で自殺するという事件がありましたが、一般人への“ネットリンチ”はそれに近いものがあります。
今後、「個人の小さな行為を大勢で激しく非難する」ということを規制したほうがいいかもしれません。


それにしても、飲食店での迷惑行為への非難があまりにもひどいので、非難する人の心理はどうなっているのかを考えてみました。

ひとつ思ったのは、これは日本社会の子ども嫌い、若者嫌いの表れだということです。
最近の日本人が子ども嫌いなのは否定しようのない事実です。
公共の場で赤ん坊が泣いていると、その母親は周囲から冷たい視線にさらされますし、ベビーカーで電車に乗っても迷惑がられます。
幼稚園や保育園が子どもの声がうるさいということで迷惑施設扱いをされますし、公園が閉鎖されるということもありました。
それから、成人式で若者が奇抜な服装をして暴れると必ずニュースになり(マスコミも狙っています)、当然のように非難されます。
渋谷でハロウィンやワールドカップのときに若者が騒ぐのも非難され、最近はかなり行動が規制されるようになりました。
コンビニの前で若者数人がたむろしているだけで非難されることもあります。

昔はそんなことはありませんでした。
赤ん坊が泣くのは当たり前ですし、若者がバカなことをしてもある程度は大目に見るものでした。
しかし、酒鬼薔薇事件をきっかけにして2000年に少年法が改正され、少年にも成人と同様の罰を与えるべきだという考えがほとんど国民的合意になりました。

飲食店で迷惑行為をするのはほとんどが若い男です(“バイトテロ”もほとんどが若い男でした)。
ですから、迷惑行為をする者を非難すると結果的に若者を非難することになり、世代間の溝を深めます。
“おやじ狩り”という言葉がありますが、これはネット上の“若者狩り”です。


それから、不潔に対する嫌悪感が異常であると感じます。

少年が湯飲みや醤油容器をなめたスシローの店舗では、すべての湯飲みを洗浄し、すべての醤油容器を入れ替えたそうです。動画に映っている場面では、少年は一個の湯飲みと一個の醤油容器をなめただけなのですが。

共用のガリを直箸で食べる動画が拡散した吉野家では、ネット記事によると「2月5日に該当店舗を一時閉店。紅しょうがの廃棄・交換、カウンターに常設している什器・調味料入れを含む備品の消毒・洗浄を実施した」ということです。
一個のガリ容器だけの問題なのですから、一時閉店もすべての備品の消毒・洗浄も過剰反応です。

口に含んだ水を鉄板の上に吐き出す動画が拡散したもんじゃ店「おかめひょっとこ」では、ネット記事によると、店のオーナーが「今回の騒動を受けて、店舗の鉄板をすべて取り替えることに決めました。(中略)これから来店されるお客様に気持ちよく利用して頂くためにも必要な対応だと思っています」と語りました。なお、鉄板は特注品のため数百万円かかるそうです。
鉄板は洗えばすむことですし、加熱すれば消毒もできます。まったく非合理的な対応です。
店のオーナーもそのことはわかっているはずですが、国民感情を考えての判断なのでしょう。

つまり国民感情は極端に清潔を求める方向に行っています。
清潔を求めるのは感染症を防ぐためにも必要なことですが、手をきれいにしようとして何時間も手を洗い続けるとなると、これは潔癖症です。潔癖症は心ないし脳の病気です。
日本人全体が潔癖症になってきているようです。

アレルギーの患者が年々増え続けています。この原因としては、花粉や化学物質などアレルゲンが増えているということもあるようですが、子どものアトピー性皮膚炎についてはいくつか原因がわかっています。
イギリスで一時、幼児にピーナツバターアレルギーが発症するということがありました。調べると、皮膚に塗るベビーオイルにピーナツオイルが含まれていたのです。
国内でも石鹸に小麦のたんぱく質が含まれたものがあり、それが原因で小麦たんぱく質の食品を食べた子どもにアナフィラキシーショックが起きるということがありました。
皮膚にはバリアー機能がありますが、バリアーが破られると細胞に直接異物が侵入します。そうすると免疫システムはその異物に反応してアレルギーが起きるというわけです。
ですから、清潔にしようと体をごしごし洗っていると、アレルギーになりやすいのです。

「NHK特集」は2008年に次のような内容を放送しました。
病の起源  第6集 アレルギー ~2億年目の免疫異変~
花粉症・ぜんそくなどのアレルギー。20世紀後半、先進国で激増。花粉症だけで3800万人もの日本人が患う病となった。急増の原因は花粉・ダニの増加、大気汚染と考えられてきたが、意外な原因があることがわかってきた。
南ドイツで、農家と非農家の子供の家のホコリを集め、「エンドトキシン」と呼ばれる細菌成分の量を調べたところ、それが多い農家の子ほど花粉症とぜんそくを発症していなかった。エンドトキシンは乳幼児期に曝露が少ないと、免疫システムが成熟できず、アレルギー体質になる。農家のエンドトキシンの最大の発生源は家畜の糞。糞に触れることのない清潔な社会がアレルギーを生んだとも言える。
https://www.nhk.or.jp/special/detail/20081123.html
モンゴル人にはほとんどアレルギーがないということですから、それも証拠になるでしょう。

つまり清潔な環境は感染症を防ぐには効果がありますが、アレルギーには逆効果なのです。
無菌状態だと細菌に対する免疫もできませんから、過度に清潔な環境は感染症に対する抵抗力も弱めるかもしれません。

それから、「他人の唾」に対する嫌悪感は本能的なものですが、普通は恋愛状態になるとこの嫌悪感は消えてしまって、キスもセックスもできるようになります。親も赤ん坊の排せつ物にほとんど嫌悪は感じません。だからこそ人類は存続してきたわけです。
しかし、潔癖症の人は恋愛するのが人よりも困難です。
日本の少子化の原因のひとつに、世の中の過度な清潔志向もあるかもしれません。


なんでも清潔であればいいわけではなく、ある程度「不潔」を受け入れることがたいせつです。
それと同様、「バカなことをする若者」もある程度受け入れることがたいせつです。
社会の枠からはみ出たものをバリのように削り取ってきれいにしても、やがてまたはみ出てきますから、どんどん削り取っていくと、社会がどんどんやせ細っていきます。
それは多様性や共生社会とは逆方向です。

4834097_m

はま寿司で他人が注文した寿司を横取りして食べる動画が拡散したことがきっかけでした。
次に、スシローで少年がレーンを流れている寿司に唾をつけたり、置いてある湯呑みをなめてもとに戻したり、醤油の注ぎ口をなめたりする動画が拡散し、それから、流れている寿司にわさびをつけたり、流れているポテトチップをつまみ食いしたり、うどん店で天かすを共用のスプーンで食べたりする動画が次々と拡散しました。

かつてバイト店員の悪ふざけ動画が拡散し、“バイトテロ”と呼ばれたことがありました。
それにならっていうと、今度は客が悪ふざけをしているので“客テロ”です。


他人が食べ物に触ったり、唾をつけたりする行為を見ると不愉快になるのは、感染症を防ぐための本能的な反応なので、こうした動画を見た人が不愉快になるのは当然です。
しかし、動画に映っている行為は過去のものです。唾がついた寿司や湯飲みや醤油差しなどはすでに片付けられるか洗われるかしていますし、迷惑行為をした人と店の間で話し合いが行われて解決している場合もあります。
ところが、動画が引き起こす本能的感情がひじょうに強いので、人々は現在の問題と思ってしまうようです。
「もう回転寿司に行けない」などと言っている人もいます。

こうした行為が「マナーが悪い」とか「常識に欠ける」と非難されるのは当然です。
しかし、日本には一億二千万人もいるのですから、中にはおかしな人もいます。
動画の迷惑行為をする人の中には、発達障害の人がいる可能性がありますし、ポテトチップをつまみ食いしたのは高齢の女性ですから、認知症かもしれません。
宮口幸治著『ケーキの切れない非行少年たち』に書かれたように、世の中には知的障害とはされない軽度の知的障害(境界知能)の人もいます。
もちろん知的障害の人もいます。
そうした可能性があるので、動画で迷惑行為をしている人を見て安易に非難するべきではありません。
ところが、やはり本能的感情が強烈なので、そうした判断のできない人が多いようです。

迷惑行為をしているのはたいてい若い人です。バイトテロが騒がれたのは10年近く前のことですから、そのころのことを知らない可能性があります。また、SNSやインターネットの影響力についてもまだよく理解していません。SNSを仲間内で盛り上がるためのツールととらえている可能性があります。
「こんな動画を上げれば騒ぎになるに決まっている。知らなかったではすまされない」などと言う人がいますが、自分が知っているから他人も知っているだろうと思うのは愚かです。

迷惑行為の動画が拡散して店は大きな損害をこうむりました。迷惑行為は過去のことなので、この損害は、動画を発掘して拡散させた人たちのせいです。迷惑行為をした人間は、その場にいた数人に被害を与えただけです。

私はこれを“炎上テロ”と名づけました。
つまり迷惑行為をやった人間がテロをしたのではなく、迷惑行為の動画を発掘・拡散して炎上させた人間がテロをしたのです。

“炎上テロ”は社会に損失を生みます。
回転寿司店は被害を防ぐためにAI搭載監視カメラを設置したり、回転寿司のレーンを改良したりすることを検討しています。実行することになれば、そのコストは客が負担することになります。

2月4日には、とんかつチェーンの「松のや」において少年が箸立ての箸を二十膳ほど両手でつかみ、先端を口の中に含んだあと、箸立てに戻し箸を混ぜるという動画が拡散しました。しかし、松のやによると、問題の動画が撮影されたのは2020年9月で、当時警察に被害届を提出し、すでに解決済みです。しかし、今回の拡散で、個別包装の箸に変更することを検討しているということです。
この例を見れば、迷惑行為をした人の悪は社会の片隅の小さな悪ですが、動画を発掘・拡散して炎上させた人たちの悪は社会を害する巨悪だということがわかります。


ネットで炎上させる人間は「正義の快感」に酔いしれているのでしょう。
スシローで唾をつけた少年は企業から損害賠償請求をされる可能性があり、その金額は最大100億円などといわれ、しかもそれは自己破産してもなくならない「非免責債権」であるといった報道がありました。
こうした報道を見て喜んでいる人がたくさんいました。
こうなると「正義の快感」というより「いじめの快感」です。
学校で子どもが自分より弱い子どもをいじめて喜んでいるのと同じです(いじめっ子にもそれなりの“正義”の理屈があるものです)。

学校ではいじめが増え続けています。
いじめが社会全体に広がってきたようです。

なお、損害賠償金については、唾をつけた少年の負担は少額で十分です。そして、動画を拡散させて騒いだ人も同じぐらいの額を負担するべきです。そうすれば合計して巨額の賠償金になります(現実にこのやり方は困難でしょうが、これが正しい責任の分担です)。


社会にはさまざまな人がいて、中にはおかしな人もいます。
おかしな人をなくすことはできません。
むりしてなくそうとすると、「角を矯めて牛を殺す」という言葉のように社会全体をおかしくします。


今の騒ぎは、本能的感情が暴走して引き起こされています。
本能的感情はもともと生存に必要なものでしたが、今は明らかに社会的損失を生んでいます。
ここは冷静になって、自分の感情はこれでいいのかと考えなければいけません。
これは「認知を認知する」という意味で「メタ認知」といわれます。
「メタ認知」のできる人が真に知性のある人です。

このページのトップヘ