
岸田文雄首相はウクライナを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した際に「必勝しゃもじ」をプレゼントしました。
必勝しゃもじというのは広島の特産品で、大きな木製のしゃもじに「必勝」の文字が書かれていて、日清戦争、日露戦争当時に軍人が必勝祈願のために厳島神社に奉納したのが始まりだそうです。
これには「スポーツの試合や選挙のときならともかく、戦争のときに贈るべきではない」という批判がありました。
確かに岸田首相の戦争観が気になる出来事ではあります。
日本の首相としてウクライナに行くなら、停戦や休戦の提案を持っていくべきだと思うのですが、岸田首相にそうした外交力があるはずありません。
それにしても、「必勝」を訴えたのでは逆に戦争をあおることになります。
しかも、武器弾薬を提供しない日本の立場にも反します。
それに、必勝しゃもじは神道という宗教とつながっているので、キリスト教国のリーダーに贈るのはどうなのかなと思えます。
そうしたところ、ゼレンスキー大統領がテレグラムに岸田首相との会談について投稿して、その中に「岸田総理から、一枚の木の板を託された。日本古来の呪術の板のようなもので、そこには必ず勝つと書かれている。(中略)会談とウクライナへの強い支援に感謝します」という文章がありました。
「呪術の板」といわれれば、確かにその通りです。
極東の島国では今でも呪術を使っていると思われたかもしれません(「呪術の板」についての文章は捏造されたものでした。根拠はこちら。あえて消さずにそのままにしておきます)。
自民党は政教分離をまじめに考えてこなかったので、靖国神社や日本会議や統一教会が政治の世界に入り込んでいました。
岸田首相がゼレンスキー大統領に神道色のある物を贈ったのも、自民党の宗教に対するルーズさの表れでしょう。
なお、松野博一官房長官によると、岸田首相は必勝しゃもじとともに「折り鶴をモチーフにしたランプ」もゼレンスキー大統領に贈ったそうです。このランプは広島の焼き物「宮島御砂焼(おすなやき)」でできたものです。
折り鶴はもちろん平和の象徴ということですが、これも「呪物」と思われたかもしれません。焼き物のランプはいかにも魔法のランプみたいです。
それにしても、平和の象徴と「必勝」の文字を同時に贈るのは矛盾しています。
そもそもいったいなんのために岸田首相はウクライナに行ったのかというと、よくいわれるのは「G7の国の首脳でウクライナに行っていないのは岸田首相だけだから」というものです。
同調圧力に弱い日本人らしい発想です。
しかし、G7は日本以外は北米と西欧の国ばかりです。ウクライナともっとも縁の薄いアジアの国が行かなくても不思議ではありません。というか、ウクライナ市民も日本の首相が来たというので驚いていたようです。
行ってなにもしないわけにいかないので、岸田首相は600億円超の援助を申し出ました。
行かなければよかったのにというしかありません。
岸田首相は日本がG7の一員であることと、とくに今年5月の広島サミットで議長国を務めることを重く見ているようです。
しかし、G7というのは、米国、英国、フランス、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7か国にEUが加わったものです。
中国、インド、ブラジルなどが加わっていないので、決して世界の大国の集まりというわけではありません。
要するにアメリカと価値観を共有する国の集まりということです。
国連の外にこのような組織をつくることは世界を分断することになります。
ロシアは一時期G7に加わって、G8といわれていた時代がありました。
しかし、2014年にロシアがクリミア併合をしたことでロシアは排除されました。
もしこのときにロシアを排除していなければ、今回のウクライナ戦争はなかったかもしれません。
岸田首相は核兵器廃絶が信念だそうです。
今年5月のG7サミットの開催地を広島にしたのも、世界に非核の訴えをするためだとされます。
岸田首相は3月19日、地元後援会の会合で「ロシアによる核兵器による威嚇や使用の懸念など、危機的な状況にある中、核軍縮・不拡散の議論においても、被爆地 広島でサミットを開く意味を世界の皆さんとともにかみしめなければならない」と語りました。
確かに非核の訴えをするのに広島は最適の場所です。
なぜ非核の訴えをするかというと、核兵器があまりにも非人道的だからです。
つまり5月のサミットでは、岸田首相はロシアの核による威嚇を牽制しつつ、核兵器の非人道性を訴えるはずです。
となると、広島、長崎に原爆を落としたアメリカを非難することにならざるをえません。
岸田首相がどんなに言葉を選んでも、広島の地で非核の訴えをすれば、誰もがアメリカの原爆投下を思います(サミット参加の首脳は平和祈念館を見学するという話もあります)。
日米の信頼関係を重視する岸田首相が広島で非核の訴えをするのは、明らかに矛盾しています。
必勝しゃもじに続いて「サミットまんじゅう」も話題となりました。
『岸田首相の後援会が配った「サミットまんじゅう」 ロゴ使用ルールを逸脱? 外務省は「基準に合致」強弁』という記事を要約して紹介します。
3月23日の参院予算委員会で立憲民主党の田名部匡代議員が、3月19日に広島市内で行われた岸田首相の政治資金パーティでサミットのロゴ入りのまんじゅうとロゴ入りのペンが参加者に配られたことを取り上げました。
サミットのロゴを使うには著作権を持つ外務省に使用承認申請書を提出する必要があり、承認条件のひとつに「特定の政治、思想、宗教等の活動を目的とした使用はしない」というのがあります。ペンには「岸田文雄後援会」の文字とサミットのロゴが並んで入っていますし、政治資金パーティで配るのは明らかに政治利用です。
しかし、サミット事務局長の北川克郎大臣官房審議官は「開催地広島でサミットの機運を高めることは不可欠」「機運醸成に認められるロゴの使用申請は基準に合致する」と首相をかばい、岸田首相は「さまざまな指摘を受けないように、今後とも慎重に取り扱いを行うことは大事かと思います」と答弁しました。
ウクライナ戦争やサミットという世界的な問題に、必ず岸田首相の地元広島が出てきます。
ゼレンスキー大統領に必勝しゃもじを贈ったのは、ゼレンスキー大統領のためというより、地元広島の特産品を国内にアピールするためでしょう。
つまり岸田首相においては「世界より地元」なのです。
なぜそんなことになるかというと、岸田首相は外交安保の問題を自分の頭で考えていないからです。
考えているのはアメリカです。岸田首相はそれに従っているだけです。
岸田首相は、安倍首相もできなかった防衛費GDP比2%と敵基地攻撃能力保有を簡単に決めました。アメリカに要求されたから従ったのです。
岸田首相は安倍政権時代に長く外相を務めていましたから、そのときにアメリカに従うのが無難だということを学んだのでしょう。
3月20日はイラク戦争開始から20年です。
れいわ新選組の山本太郎参議院議員は3月2日の参議院予算委員会で、岸田文雄首相にイラク戦争の是非について質問しました。「イラク戦争から20年、いまだに開戦支持の過ちを認めない日本政府」という記事から引用します。
山本議員は、米国の世界戦略や自衛隊の米軍との一体化を問う質疑の流れの中で、「アメリカが間違った方向に行った場合は、(日本は)行動を別にすることできますよね?」と岸田首相に質問した。岸田首相が「当然のことながら、日本は日本の国益を考え、憲法や、国内法、国際法、こうした法の支配にもとづいて外交安全保障を考えていく、これが当然の方策であると考えます」と答弁したのに対し、山本議員は「イラク戦争はどうだったと思われます? イラク戦争は間違いでしたか? 正しい戦争でしたか? 教えてください、総理」とたたみかけた。とたんに岸田首相は歯切れが悪くなり、こう答弁した。「あのー、我が国としてイラク戦争の、えー、評価をする立場にはないと考えています。わが国として、自らの国益を守る。もちろん大事でありますが、それとあわせて 先ほど申し上げました、法の支配、国際法や国内法、こうしたものをしっかりと守る中で、国民の命や暮らしを守っていく。これが日本政府の基本的な考え方であります」
日本政府はアメリカのイラク戦争の是非を評価する立場にはないそうです。
そうだとすれば、今後アメリカが中国と戦争するときにもその是非を評価する立場になく、アメリカの要求のままに行動するのでしょう。
岸田首相は安保政策については自分で判断しないので、お気楽なものです。
ウクライナ訪問のときもサミットのときも、国内政治と地元のことだけ考えていればいいので、そのため必勝しゃもじやサミットまんじゅうが出てきます。
これは岸田首相だけの問題ではありません。
日本はアメリカ依存をどんどん深めているので、今や日本の安全保障政策はアメリカが決めているようなものです。
それを「緊密な同盟関係」などといって正当化しています。
しかし、こうした関係では、日本国民の税金がアメリカのために使われることが否定できません。
防衛費GDP比2%と敵基地攻撃能力も、日本のためというよりほとんどアメリカのためです。
自衛隊員の命もアメリカのために使っていいか考えないといけません。