村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

2024年04月

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衆議院の東京15区、島根1区、長崎3区の三つの補欠選挙が4月16日に公示されましたが、東京15区には9人が立候補し、自民党が独自候補の擁立を見送ったために、野党同士のにぎやかな戦いになりました。
やはり候補者(政党)が多いという多様性はたいせつです。それだけで盛り上がります。

自民党は裏金問題などで支持率が下がっていますが、かといって野党にも期待できないという声があります。
では、野党はどうすればいいのかということを、この選挙を通して考えました。

東京15区補選の候補者は以下の通りです(届け出順)。
・諸派「NHKから国民を守る党」新人の弁護士福永活也氏(43)
・無所属新人でファーストの会副代表の乙武洋匡氏(48)=国民民主、ファーストの会推薦
・参政党新人の看護師吉川里奈氏(36)
・無所属元職の元環境副大臣秋元司氏(52)
・日本維新の会新人の元江崎グリコ社員金沢結衣氏(33)=教育無償化を実現する会推薦
・諸派「つばさの党」新人でIT会社経営の根本良輔氏(29)
・立憲民主党新人で共産、社民党の支援を受ける元江東区議の酒井菜摘氏(37)
・諸派「日本保守党」新人で麗沢大客員教授の飯山陽氏(48)
・無所属新人の元総合格闘家須藤元気氏(46)

序盤の世論調査では、立憲民主党の酒井菜摘候補がリードしているようです。
立民党は野党第一党のために反自民票の受け皿になりやすく、酒井候補は昨年12月の江東区長選に立候補して惜敗したので、地元有権者への知名度もあります。
しかし、16日に行われた候補者のネット討論会には、酒井候補だけ出席しませんでした。リードしている立場としての選挙戦術なのでしょうが、政策面などで訴えることがあれば出席してもよかったはずです。
野党第一党というポジションにあぐらをかいている感じがします。


都民ファーストの会は乙武洋匡氏を擁立しました。著名人だけに有利ではないかと思われましたが、いろいろと逆風が吹いています。
自民党が推薦するという話がありましたが、結局自民党の推薦はなくなり、都民ファーストの会と国民民主党の推薦となりました。
小池百合子都知事の学歴詐称問題が蒸し返されたのもマイナスです。
そして、なによりも乙武候補の過去の女性問題が蒸し返されています。

2016年、自民党が参院選に乙武氏を擁立しようとしましたが、週刊新潮が乙武氏は過去に5人の女性と不倫していたと報じて、結局選挙出馬はなくなりました。このときは、奥さんに介助してもらいながら不倫するとはけしからんというのが世論の大勢でした。
2022年7月の参院選に乙武氏は無所属で立候補し、落選しましたが、このときは不倫はほとんど問題にされませんでした。
そして今回の立候補では、また昔の不倫が蒸し返されています。2022年には問題にならなかったのに、どうして今回は問題になるのでしょうか。

2022年の参院選は無所属での立候補でしたから、あまり当選の可能性はないと見られていました。しかし、今回は都民ファーストの会の推薦で、ほかに有力候補もいないことから当選の可能性は高そうでした。
多くの人は身体障害者に同情的ですが、それは自分より下の人間と見ているからです。身体障害者が自分と対等の人間として自己主張してくるのは許せません。私はこのことを、車椅子の人が映画館の一般席で鑑賞しようとしたためにトラブルになったことを「車椅子ユーザーはなぜ炎上するのか」という記事に書いたときに感じました。
乙武候補の女性問題が取り上げられる背景には障害者への差別意識があるのではないでしょうか。

日本維新の会は金沢結衣候補を立てました。
維新の馬場伸幸代表は応援演説において「立憲の国会議員を何人増やしても一緒、立憲には投票しないで」と語りました。また、国会での記者会見では「立憲民主党は、叩き潰す必要がやっぱりある」と語りました。
馬場代表は昨年7月のネット番組で、自民党と維新の関係について「第一自民党と第二自民党でいい」
と語っています。
今回の選挙に自民党の候補がいないから立憲民主党を攻撃しているわけではなくて、もともと自民党よりも立憲民主党を主要な敵と見ているわけです。

馬場代表はまた、「共産党はなくなったらいい」とも言っていて、反共主義です。
国民民主党もまた反共主義です。玉木雄一郎代表は「立民が共産と組むなら候補者調整や選挙協力はできない」と言っています。
与野党対決よりも野党同士の対決のほうが優先されています。これでは自民党を追い詰めることはできません。

日本保守党は飯山陽候補を擁立しました。
日本保守党は、自分では第二自民党とは言っていませんが、実態は第二自民党です。安倍首相を支持していた保守層が自民党に愛想を尽かしてつくった政党です。
ですから、野党共闘などは最初から考えていないでしょう。
世論調査によると急速に支持を伸ばしているそうです。
代表の百田尚樹氏は68歳で、つい最近も腎臓ガンの手術をしたばかりです。今のところ個人政党みたいなものですから、全国的な政党に育てていく気力と体力があるかが問題です。
もし飯山候補が当選はむりでも、次点ぐらいになったら、次の総選挙で自民党から立候補しようと考えていた人たちが保守党の看板のもとに集まってきて、自民党票を食って、自民党が大幅に議席をへらすという展開も考えられます。
案外これが政権交代の近道かもしれません。


野党がまったくまとまらないのは、政権を獲ってやろうという気概がないからです。野党の立場に安住しています。55年体制の社会党みたいなものです。
立民の泉健太代表は昨年11月に「5年で政権交代を考えている」と言ったことがあります(批判されて、のちに「次の衆院選で政権交代」と言いましたが)。
野党は野党の立場に安住し、与党は与党の立場に安住する中で、日本は長く停滞し、挙句には裏金問題などが起こってきました。

野党の中ではれいわ新選組だけが、小党ではありますが、政権をねらう迫力を感じさせますが、この補選には関わっていません。


今回の選挙では政策論議も低調です。
各政党の政策を比較する「Japan・choice」というサイトを参考にすると、各政党にそれほどの対立点がありません。
各党が力を入れて主張しているのは、国民への保障や給付を増やし、負担は少なくという当たり前のことです。あえて対立点を探すと、一律給付か所得制限付き給付かということぐらです。
消費税についても、与党は現状維持ですが、野党はすべて引き下げないし廃止です。
改憲問題については各党で意見が違います。しかし、選挙ではほとんど議論になっていません。有権者の関心がないのでしょう。敵基地攻撃能力を保有することになったので、改憲してもしなくてもいっしょということもあります。
外交問題についての議論も低調です。日本の国力が低下して、国民も各政党も外交力に自信を失っているからでしょうか。


与野党対決の選挙においては、野党は与党の政策の間違いを攻撃し、正しい政策を提示することです。それしかありません。
ところが、今はそういう対立点がない状況です。
与党が理想的な政治を行っていれば別ですが、対立点がないはずがありません。
対立点がないのは、野党の腰が引けているからです。

たとえば普天間基地の辺野古移設については、与党は移設続行ですが、野党はすべて再交渉ないし移設中止です。
日米地位協定についても、与党は現状維持ですが、野党はすべて見直しないし改定です。
つまり与野党の対立点が明白です。
ところが、野党はこの対立点をアピールすることはしません。
日米地位協定について与党が現状維持なのは、アメリカが改定に応じないことがわかっているからです。
立民党も鳩山政権のときに経験して、ある程度わかっています。つまり立民党が公約に「日米地位協定の改定」を掲げているのは見せかけで、本気ではないのです。

「ドイツやイタリアはアメリカとの地位協定を改定して不利な点を改善しているのに、日本はなぜできないのか」と言われますが、別に日本政府が怠慢なわけではなくて、それがアメリカ政府の方針なのでしょう。
おそらくアメリカ政府はドイツ人やイタリア人よりも日本人を差別しているのでしょう(リメンバー・パールハーバーという感情もあるでしょう)。
ですから、政権交代しても同じことです。

もっとも、地位協定改定がまったく不可能なわけではありません。
日本政府が日米同盟離脱カードを用意して交渉すればいいのです。
それには中国やロシアとの外交も関係しますし、なによりも日本国民の心理的な対米依存を克服しなければなりません。
野党は国民意識を変えると考えただけで腰が引けるのでしょう。
しかし、それをやらないと日本再生はありません。
日米関係は経済の問題でもあります。これまで日本は日米自動車摩擦や日米半導体戦争などで負け続けて経済大国の地位を失ってきたのです。
国民も日本外交があまりにも対米従属的であることは感じているはずです。
対米依存を続けてもなにもいいことはないと国民を説得することは不可能ではありません。


それから、野党は教育改革を争点にするべきでしょう。
日本の学校教育は悪化の一途をたどっています。
小中高校と特別支援学校における2022年度のいじめの認知件数は、前年度から1割増の68万1948件に上り、過去最多となりました。
小中学校における2022年度の不登校児童生徒数は29万9048人となり、前年度から22.1%増加しました。
文部科学省の調査によると、小中高校における2022年度の自殺者は計411人で、21年度の368人から43人増加しました(過去最多は20年度の415人)。
ほかにブラック校則の問題もあります。ブラック校則はほとんど改善されないか、むしろ悪化している感じすらあります。

誰がどう見ても、日本の学校教育は大失敗です。
野党がここを追及しないのは不思議です。
子どもには選挙権がないですし、おとなには体罰賛成、管理教育賛成という人も多いので、追及しても得はないと思っているのでしょうか。
しかし、「日本をよくする」ということを考えれば、教育をよくすることは欠かせません。


あと、家族の問題もあります。
自民党は夫婦別姓に反対する理由に「家族の絆が壊れる」ということを挙げています。
ですから、家族の問題も政治の争点になりえます。
もっとも、「政治が家庭に介入する」ということを嫌う人もいるので、それなりの理論構築をしなければなりません。
野党はもっと自民党の家族観を追及するべきです。

対米関係、学校教育、家族関係を与野党の争点にすると、政治は盛り上がるはずです。


なお、つばさの党の根本良輔候補は、自分の選挙活動そっちのけでほかの候補の選挙活動を妨害して、数々のトラブルを起こしています。立候補者に警察は手を出しにくいということを利用した悪質な行為です。こうした行為には対策が講じられるべきです。

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川口駅東口駅前

「川口市クルド人問題」というのがあります。
埼玉県川口市という狭いエリアで、少数のクルド人に関する問題ですが、ヘイトスピーチをしたい人たちが騒いでいます。

きっかけは昨年7月、川口市でクルド人同士の喧嘩があり、クルド人約100人が市立医療センター周辺に集まり、機動隊が出動する騒ぎがあったことです。このときにトルコ国籍の男2人が暴行と公務執行妨害の疑いで逮捕されました。
この事件では計7人が殺人未遂の疑いで逮捕されましたが、全員が不起訴処分となりました。

これ以降、とくに産経新聞が熱心に川口市のクルド人問題を取り上げました。
産経新聞のつくった出来事のリストがあります。

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産経新聞としては、こんなにいろいろなことが起こっているのに、ほかのメディアがほとんど取り上げないのはけしからんと言いたいのでしょう。
しかし、よく見ると、事件らしい事件といえるのは次のことぐらいです。

・大型商業施設で煙幕を出す花火を投げつけた中学生を逮捕。
・ジャーナリストを「殺す」などと脅したクルド人を逮捕(のち不起訴処分)。
・デモの際、日本クルド文化協会関係者が「日本人死ね」とも聞こえかねない発言をしたと指摘され、同協会が釈明、謝罪。
・コンビニ駐車場で女子中学生に性的暴行をしたとしてクルド人を逮捕。

病院周辺で100人が集まって騒いだというのは大きな事件ですが、川口市のクルド人はグループに分かれて対立しているということが背景にあったようです。

「殺す」などと脅されたのはフリージャーナリストの石井孝明氏です。石井氏は川口市クルド問題に取り組んでいたようですが、差別的な投稿で名誉を傷つけられたとしてクルド人などから慰謝料500万円を求めて訴えられています。


もともと川口市は外国人居住者の多い街で、外国人の多さでは東京都新宿区と1位、2位を争ってきました。
川口市のホームページによると、川口市の外国人住民は約4万人で、市人口の約6.7%だということです。
中でも芝園団地という巨大団地は、住民約4500人のうち半分以上が外国人で、その大半が中国人です。
外国人とのトラブルが起こっているのではないかという懸念からか、テレビのニュース番組が何度か取材していましたが、たいしたトラブルはなかったので、そのうちマスコミから無視されるようになりました。
西川口駅周辺は中国人経営の中華料理店が多く、チャイナタウンと呼ばれているというのが少し話題になったぐらいです。

川口市の隣の蕨市にも外国人が多く、市の人口の約10%が外国人です。
川口市と蕨市にクルド人が約3000人住んでいるとされますが、数としては少ないので、メディアが注目しないのは当然です。

クルド人といっても、ほとんどはトルコ国籍で、トルコのパスポートを持っていますから、「トルコ人」と見なすのが普通です。わざわざ「クルド人」とするところになにかの意図があります。


クルド人というのはトルコ、イラク北部、イラン北西部、シリア北東部などに住む民族で、国を持たない最大の民族といわれます。
トルコにおいては、差別されたクルド人が独立運動を起こし、クルド労働者党はトルコ政府からテロ組織認定をされています。
そのため、トルコから日本にきたクルド人の多くは難民申請をしていますが、認められたのは一人だけです。

したがって、クルド人についてはふたつの見方があると思われます。
テロリストのように危険な人間という見方と、中国でいえばウイグル族のように政府から人権侵害されている気の毒な人たちという見方です。
クルド人にヘイトスピーチをしている人間は、クルド人はテロリストかテロリストに準じる人間と見ているのかもしれません。

クルド人は国を持たない民族なので、どうしても差別されがちです。
しかし、日本人はそもそもクルド人とほとんど縁がなく、クルド人に対する差別意識もありませんでした。
なぜ急にクルド人に対するヘイトスピーチが行われるようになったのでしょうか。


今、ヨーロッパでは極右政党が勢力を伸ばしています。6月初めに行われる欧州議会では、現在127議席の極右勢力が184議席になるという予測があります。
極右が支持される主な理由は、移民排斥の主張が共感を呼んでいるからです。
アメリカでも、トランプ氏の移民排斥の主張にバイデン大統領も引きずられています。

日本の右翼保守勢力も、欧米にならって移民排斥を訴えて支持を伸ばしたいところです。
ところが、なかなかうまくいきません。
国民の反移民感情が高まるのは移民による犯罪が目立つからです。
ところが、日本では外国人の数は増えているのに、外国人の犯罪は減少しています。

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つまり日本では外国人との共生がうまくいっているのです。

問題は欧米のほうにありそうです。
欧米で移民との共生がうまくいかないのは、白人至上主義者が移民を差別してるからです。外国人を労働力として入れるものの、仕事は低賃金の汚れ仕事で、住む場所も劣悪な環境に固まって住むことを余儀なくされます。差別されているので犯罪も起きます。

日本人は白人みたいな人種差別意識がないので、うまくいっているのです。

ちなみに欧米の経済の専門家に日本経済復活の処方箋を求めると、ほぼ例外なく日本は移民を入れるべきだとアドバイスします。彼らはローマ帝国が奴隷労働で発展したことが頭にしみついているのです。


移民(外国人)との共生がうまくいっている日本で、移民排斥の主張は共感を呼びません。
ただ、あえて主張するならベトナム人を対象にすればいいかもしれません。
「外国人摘発、ベトナムが最多3400人…9年前の3倍・来日後の生活苦要因」という記事から一部を引用します。
 警察庁によると、昨年の来日外国人の摘発は1万4662件で、前年比1231件減少。摘発人数も同1129人減だった。国籍別ではベトナムが最多の3432人で、次いで中国が2006人だった。
 9年前の2013年は、来日外国人全体の摘発人数が9884人で、うちベトナム人は1118人だった。全体の摘発人数が減る中、ベトナム人の摘発は約3倍に増えていた。

外国人犯罪がへる中で、ベトナム人の犯罪だけが増えているのですから、ヘイトスピーチの対象としてはこれしかありません。
しかし、たとえば産経新聞がベトナム人排斥のキャンペーンをすれば、ベトナム人労働者に頼っている日本企業から反発が起きますし、なによりもベトナム政府やベトナム国民からも反発が起きます。

その点、クルド人を排斥の対象にすれば、トルコ政府は文句を言わないでしょう。
それに、せいぜい3000人と数が少ないので、あまり影響もありません。
そこで産経新聞や保守派は「クルド人差別」をあおるキャンペーンを展開しているというわけです。

ともかく、日本人は意外と外国人との共生をうまくやっているということは認識しておく必要があります。

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静岡県の川勝平太知事が「職業差別」とされる発言をしたことで批判を浴び、辞職を表明しました。
川勝知事は前から暴言、失言を繰り返していましたが、とくに注目を浴びたのはリニア中央新幹線を巡る問題です

川勝知事は大井川の水が減少するなどの理由をつけてリニア中央新幹線の工事をストップさせ、JR東海とバトルを演じてきました。
しかし、一民間企業と一人の知事がやり合っているだけですから、新聞、テレビはあまり報じず、もっぱらネットニュースになるだけです。
そのネットニュースはほとんどが川勝知事に批判的でした。ということは、おそらくJR東海が書かせているのだろうと私は勝手に想像していました。

どうやら川勝知事の言っていることは“いちゃもん”に近いことのようでしたが、そこで浮かび上がったのは、リニア中央新幹線という国家的事業をJR東海という一民間企業がやっていることの不自然さです。

もともとリニアは国鉄が開発をしていましたが、国鉄は分割民営化され、事業の主体がわかりにくくなりました。
リニアは「3時間かかる東京―大阪間を1時間で結ぶ」というのがうたい文句でしたが、そんなに速くする意味があるのかという声があり、採算性も不透明でしたし、安全性やテロの懸念もありました。
ということで、なかなか実現しなかったのですが、JR東海がしびれを切らしたのか、費用は全額負担して一社で完成させることになったのです。

費用は全額負担とはいっても、国から3兆円の融資を受けています。経営危機になれば国としても放っておけず、税金を投入して救済することになるでしょう。
最初から国家事業としてやっていれば、静岡県も妨害することはできません。
事業の基本設計が間違っているのです。

なぜそうなったかというと、安倍晋三首相とJR東海の葛西敬之名誉会長が親密な関係にあったからだといわれます。つまりこれも「安倍案件」のひとつです(安倍政権はリニア新幹線をアメリカに売り込もうとしましたが、成功していません)。

川勝知事がどういう理由でリニアの工事を妨害したのかはよくわかりません。「安倍案件」だからということでもなさそうです。
いちばん納得いく説明は、川勝知事は東海道新幹線に「静岡空港新駅」を設置することをJR東海に求めたのにJR東海はまったくとりあわず、そのため川勝知事が腹を立てたからだというものです。

いずれにしても、リニアの建設は今後も不透明です。
安倍元首相も葛西名誉会長も亡くなった今、リニアも負の遺産になるかもしれません。


この機会に川勝知事の暴言、失言を振り返ってみました。そうすると、それほど目くじら立てるほどのものとも思えません。

2021年10月、川勝知事は参院静岡選挙区補欠選挙の応援演説で「あちら(御殿場市)はコシヒカリしかない。ただメシだけ食って、それで農業だと思っている。こちら(浜松市)にはウナギがある。何でもある」などと発言しました。
浜松市内での演説で、対立候補が御殿場市長経験者だったことからくる発言です。
静岡知事という立場でふたつの土地に上下をつけるのはよくないので、批判されるのは当然ですが、差別意識に基づいた発言とは思えず、ただ愚かなだけの発言です。

今年の3月、磐田市の女子サッカーチームの関係者と面会した際、「磐田は文化が高い。あそこは浜松より元々高かった」と言いました。
さらに、サッカー強豪校の県立藤枝東高に言及し、「藤枝東はサッカーするためにやってきている。ボールを蹴るのが一番重要なこと。勉強よりも何よりも」とも言いました。

どれも愚かな発言ですが、言われたほうは、傷つくというよりもあきれるというところではないでしょうか。
たとえば磐田市と比べて浜松市は文化が低いといっていますが、これは川勝知事個人の価値観でしょう。
たとえば大阪などで在日朝鮮人の多い地域をバカにすると、それは差別だということになりますが、磐田市になにか差別される所以はないはずです。
とすると、この発言は「愚かな発言」ではありますが、「差別発言」とはいえないと思われます。


川勝知事はどういう人かと調べると、早稲田大学政経学部卒業、オックスフォード大学に留学して博士号を取得、早稲田大学教授などをやっていました。ですから、決して頭の悪い人ではないはずです。ただ、75歳という年齢なので、配慮ができなくなっているのかもしれません。


問題の「職業差別」とされる発言ですが、県庁の新入職員に対する訓示におけるものです。
川勝知事は前から「切り取られた」と抗議するので、FNNプライムが『【全文】物議醸す静岡・川勝知事の訓示 新入職員を前に職業差別? 繰り返される失言「みなさんは頭脳・知性高い」』という切り取らない記事を配信しました。そこから引用します。
そしてですね、そのためにはですね、やっぱり勉強しなくちゃいけません。実は静岡県、県庁というのは別の言葉でいうとシンクタンクです。毎日、毎日、野菜を売ったり、あるいは牛の世話をしたりとか、あるいはモノを作ったりとかということと違って、基本的に皆様方は頭脳・知性の高い方たちです。ですから、それを磨く必要がありますね。で、それは磨き方はいろいろあります。知性を磨くということ。それからですね、やっぱり感性を豊かにしなくちゃいけない、それから体がしっかりしてないといけませんね、ですから文武芸、三道鼎立と。文武両道というのは良く聞くでしょう。しかしですね、美しい絵を見たり、良い音楽を聞いたり、映画を見たり、演劇を見たりした時にですね、感動する心というものがあると望ましい。

ですから、自分の知性がこの人に及ばないなと思ってもですね、知性というものを大切にするということが大事ですね。そのためにはやっぱり勉強しなちゃいけません。それから体を鍛えると。しかし、スポーツが苦手な人もいらっしゃるでしょう。でも、スポーツを楽しむことはできますね。見たり、楽しむこともできます。まぁ無芸大食の人もいるでしょう。しかし、芸術を愛することはできますから、文武芸、三道鼎立ということでですね、豊かな人間になっていただきたいと思います。
問題部分は「毎日、毎日、野菜を売ったり、あるいは牛の世話をしたりとか、あるいはモノを作ったりとかということと違って、基本的に皆様方は頭脳・知性の高い方たちです」というところだけです。
果たしてこれは「職業差別」でしょうか。

世の中には頭脳労働と肉体労働という区分があって、それを指摘することは差別でもなんでもありません。
「あなたたちは頭脳・知性の高さで選ばれました」とか「あなたたちには頭脳・知性の高さが求められます」とか言っていれば問題はなかったでしょう。
「皆様方は頭脳・知性の高い方たちです」と言うと、転じて「野菜を売ったり、牛の世話をしたり、モノをつくったりする方たちは頭脳・知性の低い方たちです」という意味になりかねません。
とはいえ、決して「野菜を売ったり、牛の世話をしたり、モノをつくったりする方たちは頭脳・知性の低い方たちです」とは言っていないわけで、勝手に発言を捏造して「職業差別」だと主張してはいけません。

JR東海は多額の宣伝広告費を使うので、メディアに影響力を持っています。
川勝知事とJR東海がバトルをしているとき、メディアは圧倒的にJR東海寄りでした。そのため川勝知事の「愚かな発言」を取り上げて、大げさに騒いでいたということがありました。
今回の「職業差別」発言もその流れにあります。
冷静に判断したいものです。

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松本人志氏は文藝春秋と週刊文春編集長を訴えた裁判を前にして、みずからの心境を文書にして発表しましたが、これがなんとも情けないものでした。
このところ松本氏を擁護する声が盛り上がっていましたが、擁護派の人たちもこの文章を読んでがっかりしたのではないでしょうか。
短い文章なので、全文を引用します。

人を笑わせることを志してきました。

たくさんの人が自分の事で笑えなくなり、

何ひとつ罪の無い後輩達が巻き込まれ、自分の主張はかき消され受け入れられない不条理に、ただただ困惑し、悔しく悲しいです。

世間に真実が伝わり、一日も早く、お笑いがしたいです。

 ダウンタウン松本人志
「自分の主張はかき消され」といいますが、松本氏が主張したのは「事実無根なので闘いまーす」ぐらいです。
「何ひとつ罪のない後輩達」のことを思うなら、自分が沈黙せずにどんどん発言するべきです。
「一日も早く、お笑いがしたいです」といいますが、そもそも芸能活動休止を決めたのは自分です。法律の専門家はみな、芸能活動をしながら裁判をすることは十分可能だと言っていました。

この文章でただひとつ評価するところがあるとすれば、「家族」を持ち出さなかったところです。「家族がつらい思いをしている」ということで同情を誘うのがありがちな手法です。

文章の全体が「泣き言」か「繰り言」です。
裁判が始まる直前の文章ですから、本来なら裁判闘争に向けての決意表明をするところです。

この文章を「負け犬の遠吠え」とたとえようと思いましたが、「負け犬の遠吠え」は表面的に強がっているときの表現です。
松本氏の文章には強がっているところがまったくなく、悲観一色です。

松本氏はおそらく裁判で訴えるべきことがないのでしょう。
訴えるべきことがあるなら、最初から記者会見などをしているはずです。
裁判を始めたのも、記者会見をしない口実にするためでしょう。
お笑いをしたいなら裁判などするべきではありませんでした。

それに加えて、Xで「とうとう出たね。。。」と「事実無根なので闘いまーす。それも含めワイドナショー出まーす」と発信したところ、世の中から圧倒的に否定されてしまいました。
そのため松本氏は自分が世の中からずれていることを認識し、発信する自信を失ったのでしょう。

松本氏は裁判に備えて弁護士と何度も打ち合わせをしたでしょう。
それによってどの程度勝ち目があるかもわかったはずです。
その結果がこの文章です。


松本氏がこれほど弱気になっているということを世間はまだ理解していないかもしれません。
松本氏は圧倒的な力を持っている人というイメージだからです。
実際、お笑い界に第一人者として君臨し、吉本興業の力もあって、テレビ界にも圧倒的な存在感を示してきました。
体を鍛えてマッチョでもあり、写真ではいつも人をにらみつけるような顔をしています。
長者番付(高額納税者名簿)が発表されていたころ、松本氏と浜田氏はつねに芸能界の一位、二位を争っていましたから、松本氏はお笑い界だけではなく芸能界でもトップの存在です。
安倍首相も松本氏の番組であるワイドナショーを選んで出演していましたから、松本氏は最高権力者にも近いところにいました。

松本氏はあまりにも力を持ったのが間違いのもとでした。
自分の力を過信したため、女性から性加害を告発されたとき、簡単にはね返せると思って、「事実無根なので闘いまーす」と言ってしまったのです。
吉本興業も「当該事実は一切なく、本件記事は本件タレントの社会的評価を著しく低下させ、その名誉を毀損するものです」と松本氏と同一歩調をとって、松本氏の勘違いを助長しました。

現状を見ると、松本氏の応援団は声を上げていますが、松本氏本人が闘志を失っている状況です。
被害女性が声を上げる#MeToo運動の力は偉大です。
アメリカでは大物映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインも#MeToo運動で告発されたことがきっかけで失脚しました。
日本で芸能界トップの松本氏が失脚しても不思議ではありません。


ところが、ここにきて急に週刊文春に対する批判が強まりました。
最初のきっかけは、松本氏の性加害告発の最初の記事が載った週刊文春45万部が完売したとして竹田聖編集長がコメントを発表したことです。
ここから週刊文春はもうけ主義だという批判が強まり、週刊誌は嘘を書いて訴訟で負けてももうかるのだといったことが言われました。
たとえば堀江貴文氏は自身のYouTubeチャンネルで「週刊文春はいろんな偉そうなことを言ってますけど、金のためにしかやってません。正義感とか1ミリもないと思います。記事になって自殺した人がいてもしょうがねえって言ってるんですよ。それぐらいのほんとうにクズみたいな組織なんで」と語りました。

それから、文芸春秋の新谷学総局長がYouTubeのある企画で「これを刑事事件として立件するのははっきり言って不可能だと思うんですよ」と述べ、その理由を「彼女の証言だけで、客観的なそれを裏付ける証拠もないわけですよね。それで被害届を出して警察で事件にできるかと言うと、不可能」と語りました。
そうすると、刑事事件にならないものを週刊文春が裁くなら、それは「私刑」ではないかという批判が上がりました。
幻冬舎編集者の箕輪厚介氏は週刊文春のインタビューで「SNSでは毎日のように“ネット生贄ショー”が繰り広げられています。今、文春はこのゲームの旗振り役と化している。文春が『この人だ!』と指差せば、世間は生贄を社会的に抹殺すべく暴走してしまう」と語りました。
古市憲寿氏はワイドナショーで「世の中の受け止め方が今すごい真面目になりすぎてる。週刊誌がなんかもう警察兼、検察兼、裁判所みたいな」と語りました。


メディアの現状を見ると、新聞、テレビが当たりさわりのない報道しかしない中で、週刊文春だけが気を吐いています。
こんな週刊文春批判によって週刊文春の力がそがれてしまったらたいへんです。日本はほんとうにだめな国になってしまいます。
なぜ週刊文春批判が高まったのでしょうか。


松本氏は「男らしさ」を一身に背負ったような人です。その松本氏が#MeToo運動とその背後のフェミニズムに負けるというのは多くの男にとって耐えがたいことです。
かといって、声を上げた被害女性を批判するとセカンドレイプと言われます。
そこで、代わりに週刊文春を批判しているのでしょう。

したがって、ここで週刊文春を批判するのはセカンドレイプも同然の行為です。
しかも、週刊文春は巨悪を撃ってきた唯一ともいえるメディアですから、週刊文春批判は亡国の道です。


松本氏が追い詰められているのは、週刊文春のせいではなく、#MeToo運動のせいであり、声を上げた被害女性のせいです。
松本氏が一日も早くお笑いをしたいなら、一日も早くみずからの罪に向き合い、被害女性に謝罪することです。

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